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#navi(ゼロの工作員)
夢を見ていた。
海賊と政府が戦ったレジャイナと呼ばれる国。
彼女が眼鏡を外したスコープの照準画面に顔に冷笑を貼り付けた人物が入ってくる。
彼はスピーチを始め、彼女は皮肉げに嘲笑う。
「ミスタ・マーカス。あなたの脳味噌を黒コゲにするだけで、メジュナの子供なら300万人救われるのよ」
きっと彼女は報酬を祖国の銀行口座に寄付し、そのカネでゲリラは銃を買い、内戦で同朋は無意味に死に続けるのだろう。
それでも彼女は、それが彼女に与えられた役割だから引き金を引いた。
ピンクの髪の少女がスコープの視界へ入ってきた
彼女はそれがただの標的に見えたので撃った。
肩と胸に伝わる反動。
人間がただの標的に見える自分に気づき、居心地が悪くなる。
ケースから大切に眼鏡を取り出し、大切に、そっと、かける。
工作員ではない生身の自分を取り戻して、少し落ち着く。
視力を強制しないただの透明体だから、見える景色は変わらないのに。
それでもレンズ一枚はさんだから、人間はもう破壊対象ではなくなった。
自分が自分であるためにフリーダは眼鏡をかける。
窓の外は光に満ちている。
カーテンを開けると青空の下、朝日が昇ってきている。
部屋は塔の高い場所にあるため、学園の壁の向こう、平野の緑の絨毯までよく見える。
朝の冷たい風が吹いて眼が覚める。
周囲はビルや工場、自動車がないから空気が澄んでいる。
学園の中央には大きな尖塔が立ち、影が壁の外まで伸びて日時計みたいだ。
学園中央を取り囲む4つの塔の一つ、円の中心を学園の中心とし、学園正面玄関を12時とした10時方向にある塔。
ここがフリーダたちの住む2年生の学園寮だ。
立てかけてある大鏡の前で眼鏡を鼻に引っ掛けほとんど銀色に見える長いプラチナブロンドをブラシで梳いている。
細く白く長い指先。切れ長で涼しげな瞳は可愛さよりも冷たさを感じる。
名匠が感性より理性を頼りに、造形の限界に挑戦したかのような精緻な人型の影。
怪我をしたとき服が破れていたので学園から貰った制服に袖を通す。
白いワイシャツを着て紐のリボンを付ける、古風な黒のスカートをつまむと、
かすかに艶のある細すぎない足が、太股の半ばまで肌をさらす。
「………短すぎるわね、見えるんじゃないかしら」
「おはよう。ルイズ」
外から冷たい空気を入れ、まだ寝ぼけて眠そうなルイズを起こす。
低血圧なのかフリーダは朝機嫌が悪い。
ふわふわのウェーブの掛かったブロンドよりの赤毛が光の加減で桃色に見える。
目鼻のととのった意思の強そうな顔、鳶色の瞳は瞑られている。
細くて折れてしまいそうな中学生に見える体は150cmほどでかなり小さい。
ヨーロッパ系に見える顔立ちで、すべすべお肌にやわらかそうなほっぺ。
枕の皺が付いたのだろう顔に赤い線が走っている。
毛布をずらしてもまだ起きないのでルイズの柔らかそうな白いほっぺを思い切りつねる。
見た目のわりにごつくて力強い手で引き伸ばす。
「ひゃうっ!ふああっ!ふわ~!ふわああ!」
触り心地のいいふにふにほっぺを引き伸ばすのが楽しくて伸ばしたりもとに戻したりを繰り返す。
それにしてもよく伸びる顔だ。
眼を瞑ったままのルイズを横に伸ばした顔が間抜けで面白かった。
「なななな、あなた誰よ!」
「あなたが呼び出したんじゃない。忘れたの?」
ピタリと動きが止まる。
昨日を思い出しているらしいルイズの顔は一気に赤くなり、一瞬後には青くなった。
頭を抱え布団に潜り込む。
「頭が痛い。休む」
「寝ても私は消えないわよ」
ルイズは目覚まし時計を見た。
「まだ6時じゃない。7時まで寝かせて」
昨日は相当なショックだったようだ。
全寮制の学校だけあって投稿時間が掛からない分、朝は余裕がある。
「そこの籠に下着あるから洗って。下の平民達の宿舎の隣にあるから洗い場があるから」
これからの共同生活のために覚えておくのもいいかもしれない。
「ああ、いいわ。やっておくから」
朝日が昇ったばかりの宿舎の外を犬や猫が走り回っている。
庭では空に浮かぶ大きな目玉の化け物や青い竜が目覚め、土竜が道の真ん中に穴を掘っている。
石のゴーレムが歩き回り蛇が蛙に追い掛け回され、尻尾に火をつけたトカゲがのっそりと歩き回っている。
学園の使用人達が忙しそうに洗濯物を運び、馬車の荷台からは林檎や牛乳の缶が下ろされている。
ペット用の皿を並べ、給食バケツから次々にスープを掬い上げ使い魔達の餌として盛り付けていた。
「まさに動物園………百鬼夜行かしら」
羽もないのに空に浮かぶ犬、嘴と羽の付いた四足歩行の動物、意思をもった石の塊、
生態学的にありえない動物達を見てとんでもないところに来てしまったと感じた。
動物学者がこの光景を見たら卒倒するか狂喜するだろう。
どちらにしても冷静ではいられまい。
杖を使う魔法使い達、モンスター、石造りの家々。
喋る竜やエルフが揃えば完全なファンタジーだなと冗談交じりに考える。
階段を下りて使用人達の宿舎へ向かうとメイドがやってきた。
ホワイトブリムを頭につけてエプロンと紺の地味な姿。
汚れが判りにくいように紺を主体とした服を着ている。
「新しく入ってきたんだけど。下着の洗い場判らないかしら」
こちらですよと手を引いて連れて行かれて洗い場を見て苦笑いした。
置いてあるのは洗剤、洗面器、スポンジ、洗濯板。
洗濯機もなしに洗うようだ。
いくらインフラや生産設備が発達していない星でも洗濯機や乾燥機すらないのはありえない。
魔法とモンスターに加えて機械までないとは。
オスマンの話しは本当で、私は魔法で召還されて違う世界からやってきたのか。
それとも私の頭が弄られているのか。
もし、この星が我々人類が知らない惑星だとしたら、未開拓惑星と呼ばれるものなのか。
それとも平行世界と呼ばれるものなのか
どちらにしても救援は期待できない、むしろファンタジーよりSF寄りだ。
好奇心を抑えきれずに小説好きな頭で考えていると、メイドから声が掛かった。
「あなたが平民なのにミス・ヴァリエールに使い魔にされたフリーダさんですね」
働き者の厚い皮の手が差し出された。異世界に浮かれていた彼女は現実へと返る。
「フリーダ・ゲーベルよ。ベックの具合はどう?」
今回も少女がきょとんとする。
「気にしないで」
フリーダは心の底からルイズを呪った。<<ベック>>は「次の指示を待つ」を意味する、組織の符丁だ。
もしかして私は本当に違う世界に来てしまったのかも知れない。
この反応は何も知らない民間人である可能性が高かった。
「わたし、この学園の使用人をやっているシエスタです。よろしくお願いしますね」」
黒い大きな瞳、やや長めのボブカットにした黒い髪と、少し低い鼻とそばかすがある高校生ほどの少女。
身長は160cmほどでたわわな胸が目を惹く。
周囲のヨーロッパ系の生徒達とは違い、アジア系の顔立ちをしていた。
フリーダが訓練して得た不自然でない笑みを返すとシエスタが右手を差し出してきた。
左手を差し出すと彼女は屈託ない笑みで利き手を引っ込め、左手での握手を応じる、
「………どうして私の顔を知ってるの?」
「学園の中では有名ですよ。ミス・ヴァリエールが人間の使い魔を召還したって」
「更に使い魔は魔力を持ってない、ゼロのルイズに相応しいって」
「銀髪の綺麗な人だって聞いていたから直ぐに判りましたよ」
暖かい両手でフリーダの手を包み込む。
その姿にアリスとのデジャヴを感じる。
「私がゼロのルイズって言ってたこと秘密ですよ。貴族は怖いですから」
秘密ですよと人差し指を上げて快活に笑う。
「平民同士仲良くしましょう」
「………………そう」
何か気の聞いたことを言うはずが、こんななさけない返事しか出てこなかった。
目の前の少女が組織の監視員の可能性を考える。
疑うだけ無駄だ。此処は未開拓惑星だ。他の人類との接触どころか知られていない。
「あなたがフリーダさんでよかったです」
シエスタが微笑む。彼女まで温かくなるようだ。
出会いを歓迎する理由などない。けれど、前にもしたように彼女は嘘をついた。
「私も、あなたみたいなひとでよかったわ」
疲れているのか、周囲の怪物達が煩くて、妙にいらいらした。
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