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第一話 伝説の出会い
「――――」
世界のどこか、どこでもない淡い光の中で、男は誰かの名を叫んだ。その名が何者か、男自身もすでに忘れた。
記憶がなくとも、男は、本能から、本能でしか表せようのない誰かを求めた。
男の根源に眠るのは、流れる血だからこその欲望。自身の強大な力ゆえの狂気。それを上回れた故の、かつて、隣であった故の、劣等感を味わった故の憎しみ。
「――――」
男は叫ぶ。光の彼方に向かって。
男はその意味を喪失し始めていた。男の頭が霞のような霧に覆われ、何もかもが忘却されてゆく。
不意に男は額を押さえる。何かに支配される不快感を感じたからだ。
男は額を掻き毟る。そうでなくては頭が割れる。記憶の彼方に感じた、痛く、僅かに暖かみのある拘束。
男のすべてが光に包まれる。男はもう何も考えられなくなっていた。
「――――――――――――」
男は支配に抵抗するように、叫びにならない金切り声を響かせた。それでスイッチが切れたように、男の意識は深い闇の中に堕ちていった。
清々しいほど青々とした空。気持ちいいほどに地上に潤いを与える太陽。上空だけ見ればのどかな一日に見える。
視線を下に移すと、地上を彩る草花がなぎ倒されていた。おまけに、その無残な姿は、吹き上げられた粉塵で覆われている。なんとも場違いな光景である。
のどかな風景に、爆発の発生。平和な生活は終わりを告げ、戦いの渦中に人々が巻き込まれようとしているのか。
ここに過去最高の出来のぶどう畑でもあれば、職人たちの魂を垣間見ることができる。
しかし、ここは見渡す限り草原と学院へ通じる道しか見えない。旨そうな物は道の先にある学院の中に収められている。
ついでに言うなら、一人で戦争はできない。一人で人に迷惑をかけることはその限りではない。
昼間から地面を抉るなどいい趣味ではない。彼女にはちゃんとした原因があるので、そんなことはないが。
爆発を起こした張本人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールは、自分に眠る力である魔法を発現させる杖を振り下ろしたまま、目の前に横たわる男を見つめていた。
話を始める前に、今日は何の日か、という問いに答えよう。
ここはハルケギニアに君臨する四つの国家の中で魔法使い、つまり貴族の権威が大きいトリステインの国。
詳細に記すなら、王都トリスタニアから、馬で二、三時間ほどの距離で南に位置するトリステイン魔法学院近郊の草原だ。
今日はこの場で学院の伝統行事、二年生に進級した春に、魔法の教鞭を受けている生徒たちが自らのパートナーとなる使い魔を召喚する日である。
儀式は最後の一人を除いてスムーズに進み、現在はその一人が必死になって使い魔を召喚した直後だ。
「ゼロ」のルイズが召喚した使い魔。それは、まったくもって、驚くべきものだった。
ルイズの目の前で穏やかに眠る暫定使い魔は、身長にして二メートルを超える。丹精で幼さを感じる長髪の青年だ。
服装は腰にターバンのようなものを巻きつけ、どこかの民族衣装と思わせる白地の服が下半身を覆っている。
腕の手甲のようなものや首に掛かる装飾具、そして、履いているブーツは皆同じ金属で作られているようだ。
辺境に住む少数民族の戦士なのだろうか。肌を露出した上半身から見える肉体は自らが屈強な戦士であると示さんばかりに盛り上がっている。
戦いの痕なのだろうか、男の胸から腹部にかけて赤く腫れている。左胸にも生々しい傷痕が残されている
正体が推測できない謎の男。これが異教徒だった場合、面倒なことにはなりかねない。
この場にそこまで意識する狡猾な大人がいないことはある意味幸運なのだろう。
今その男を囲んでいるのは、目先のことで一喜一憂する、少年少女達だ。
「平民だ!ルイズが平民を召喚したぞ!」
この一言を皮切りに、周囲で様子を窺っていた生徒たちが一斉に笑い出した。
これをただの平民と見るのは、本来ならば、難しい。
しかし、まだ外の世界を見る経験も少なく、魔法を使う者以外は平民だと考えが固定されている生徒たちに、それをわかれというのが無理なことだ。
ルイズはこの不名誉な扱いに必死に反論するものの、からかいの火が付いた集団を止めることはほぼ不可能だ。
ルイズは、口喧嘩をしてもにっちもさっちもいかないので、引率のコルベール先生に召喚のやり直しを要求してみることにした。
長々と伝統に反するとご高説を教授され、反論の余地なく撃沈を食らった。
ルイズは、落胆して肩を落としながら、草原をベッドに気持ち良さそうに寝ている男の脇に腰を下ろした。
男がうめき声を上げ、目を覚ましたのはその時だ。ルイズは、不意の出来事に、体を強張らせる。
男は上体だけを起こし、不思議そうに辺りを見渡している。その顔はどこか陰が含まれ、哀しくもあり、感情の露出がほとんどない。
「起きたの?あんた誰よ」
ルイズはあきれた様に問いかける。ここは気遣いの言葉を掛けるのが模範的対応と言われている。
しかし、ハズレを引いた失望感と使い魔がいきなり動き出したことによる気の動転により、ルイズがそれをできる心の余裕はない。
男はルイズの言葉に反応してルイズの方を向く。その表情からは男の内心を予見することはできない。
「どうしたの?言葉はわかるでしょ?あんたの名前、早く教えなさいよ」
イライラを吐き捨てるようにルイズが言うと、男の口が開いた。
「ナ……マエ。僕の名前……」
全く、要領を得ない答え。頭に筋が浮かびそうなるルイズを逆撫でするには十分だった。
「あんたの名前よ!わからないわけないでしょ!」
再び失笑の的になるのもお構いなしに、ルイズは猛然と食って掛かる。
相当強い口調で捲くし立てられたにもかかわらず、男は無表情のまま虚空を眺めている。
自分の苦労など知らん振りな男の態度に、ルイズはとうとう切れた。
「何よ!自分の名前もわからないわけ。あんた人間の顔してるけど、ブタか何か!?何とか言いなさいよ、このロクデナシ!」
そこまでルイズが言ったら、男がゆっくりルイズの方を見た。
「何よ。悪い事言ったなんて認めないわよ」
そう言ってるルイズだが、僅かばかり尻込みしている。言い過ぎによる、後ろめたさを抱いている証拠だ。
起こるかと思われた男は、額に手を当て苦しそうに呻きだした。
「ブ……タ……ロクデ…………、ブ……ロ……、ブロ、ブロリー?」
囁くような声。ルイズは聞き取るために男の顔を覗き込んだ。
「何それ。あんたの名前?」
男は何かを思い出したように額から手を離した。
「僕の名前……ブロリー……」
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