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「ルイズと無重力巫女さん-10」(2012/10/07 (日) 08:15:09) の最新版変更点
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#navi(ルイズと無重力巫女さん)
「……良いですかな皆さん?この様に炎は色が薄くなればなるほど高温になっていくのです。」
ミスタ・コルベールは手にした炎で鉄の棒をあぶりながらそう言った。
そして十秒くらいあぶると鉄の棒から炎を離し、棒の両端を手で掴むと一気にそれを折り曲げた。
あぶられていた鉄の棒は抵抗することなくあっさりとくの字形になってしまった。
「と、この様に火の魔法は魔力の調節によって温度が変わります。その温度をうまく操ることが出来れば様々な金属を加工するときに役立ちます。」
生徒達は彼の言葉を聞きながらも机に置いているノートにメモしていく。
今日の二限目は「火」の魔法の授業である。担当教師はコルベールだ。
火属性の便利さや加工技術などを学ぶ。
しかし本来この属性は攻撃などが主体であり普通ならそれを学ぶための授業だ。
でもコルベールが担任をしているときはいつも加工といったものになってしまう。何故なのかは誰も知らない。
まぁだが他の教師の時は攻撃魔法を学ぶためバランス的に考えれば丁度良いのである。
それ故「火」属性の魔法が得意な生徒達からは時折不満が出ることもある。
「では…もうしている生徒達もいるが黒板に書かれている事をノートにまとめてください。」
コルベールが黒板を杖で指しながら言うと、メモをしていない生徒達もノートに書き始めた。
そんなのんびりとした授業の最中、教室のドアからノックの音が聞こえた。
「はいはい、どなたですか?」とコルベールが言いながらドアの方に近寄り、音を立てて開けるとそこにいたのはミセス・シュヴルーズであった。
それからすぐにシュヴルーズがコルベールの耳元で何か言うと彼の顔色がサッと青くなっていくのが遠くに座っている生徒達からも一目瞭然であった。
話を聞いたコルベールはシュヴルーズに軽く頷くと急いで教壇の方に戻った。
「えーすまない諸君、今日予定されていた授業は全て中止。指示があるまで自室か同級生の部屋で待機しておくように!」
そう言うとコルベールはササッ!と教室から出て行った。
いきなりの事にポカーンと口を開けていた生徒達だが段々と理解し始める者達が現れる。
「つまり…一日自由って事かな?」
ギーシュは不安げにそう言うとノートを閉じて席を立った。
それに続き何人かの生徒達もメモをし終えると席を立ち教室を出て行く。
普通こういう事があれば誰もが喜ぶことだが先ほどのコルベールの様子を見ていると何かあったのだろう。よくは知らないが。
「一体何が起こったのかしら?」
ルイズが席に座ったまま不安そうに呟いた。
まぁいつまでも教室にいたって授業が再開するはずもないのだから彼女も席を立ち他の生徒達と一緒に教室を出た。
教室の出入り口に来たとき、突然誰かに肩を掴まれた。
驚いて後ろを振り返ってみるとそこにいたのは学院でも実家でもお隣同士のキュルケがルイズの肩を掴んでいた。それもやけにうれしそうな顔つきで。
「なによツェルプストー、何か私に用があるの?」
「あるわよ、今大いにね。」
キュルケはそう言うと肩を掴んだままグイグイとルイズを近くにいるタバサの方にまで連れて行った。
詳しいことを聞いていないルイズは嫌そうなめ目でキュルケに質問した。
「キュルケ、私まだ何も聞いてないのよ。説明くらいしなさいよ。」
「まぁまぁ、これからお茶会をするんだしそんなにツンツンしない。」
キュルケの言葉にルイズはポカーンとした。
「なに阿呆みたいな顔してるのよ?」
それからキュルケは話し始めた。
どうせ今日の授業は全て中止になったのだから何かしようとキュルケは考えていたらしい。
それでお茶会をしようと思いつき、隣にいたタバサをまず最初に誘った。
「…で、2番目に私を見かけて誘った、ねぇ…。」
「そうよ。何か文句あるわけ?」
「いや、別に文句ないわよ。丁度何をしようかと悩んでいたところだし。」
「なら問題ないわね。」
そう言ってキュルケは次のことを話し始めた。
お茶会は部屋でしたいとの事。そのためにジャンケンで決めるとの事であった。
負けた者後の二人を部屋に招待するのである。
ルイズは最初それにとまどったが…
「もしかして…私に負けるのが怖いのかしら?」
と、キュルケの安い挑発で絶対勝ってアンタの部屋でお茶を飲むわよ!と豪語したルイズはジャンケンすることにした。
その時に限って、どうやら始祖は何処かの誰かを相手にチェスに興じていたのだろう。
ルイズの部屋。
「ふぅっ…これくらいで充分ね。」
部屋の掃除をしていた霊夢はバケツと箒を部屋の隅に置くと満足げに言った。
掃除というのはやっぱりきつい物だが追わせると確かな満足感を得られる物である。
それに本音を言えばルイズの部屋は小さい分神社の境内の掃除よりかは楽である。
さて掃除も終わり次は何をしようかと考えている時、突然ドアが大きな音を立てて開いた。
「だからなんであたしの所に来るのよ!!タバサの部屋もあるでしょうに!」
もの凄い剣幕でルイズが部屋に入ってきた。その次にキュルケが入ってくる。
「あら?ジャンケンで負けた奴の部屋に行くって最初に言ったじゃないの。」
キュルケはそう言って入り口で立ち止まり本を読んでいたタバサを部屋に入れる。
あっという間に物静かだった部屋は喧噪に包まれてしまった。
「ちょっとルイズ、なんなのよこの二人は。」
いきなりの客に少し目を丸くさせ、霊夢はルイズに話しかけた。
どうやら授業中、何かトラブルでも起こったのか全生徒が自室での待機になったらしい。
当然授業は中止となり、今日予定されていたものも全て取り消し。
そのため暇をもてあますこととなったキュルケはタバサとルイズを誘いこんな事を言った。
「…ジャンケンして負けた奴が他の二人を部屋に招待してお茶会をする。ねぇ…」
霊夢はそこまで聞くと手に持っているカップに入った緑茶を口に運んだ。
一回目はタバサがチョキで勝ち、後の二人は同じパーだったらしい。
その後も何回かおあいこ合戦が続いたのだが、遂にキュルケの方に軍配が上がったという。
ルイズは負けたことを悔しがり色々と言ったそうだがキュルケは気にしなかったらしい。
「まぁ私も別にこういうのは嫌いじゃないし、丁度暇をもてあましていた所よ。」
「話がわかるじゃない。やっぱりお茶会をするときは皆こんな気分じゃないとね~。」
霊夢の言葉を聞きうれしそうにキュルケがそう言うと皿に盛られたクッキーを一個つまみ口の中に放り込んだ。
それを見ていたルイズが嫌そうな目でキュルケを一瞥して紅茶を啜る。
多分この場にいる三人の中では最年少のタバサは一人静かに霊夢と同じ緑茶を飲んでいる。
飲み終えたタバサはカップを口から離してテーブルに置くと霊夢の肩を チョンチョン と叩いた。
「ねぇ。」
「ん?何かしら。」
「これ、何処で売ってたの?」
「あんた、もしかして気に入った?」
タバサはそれに対しただコクリ、と頷いただけであった。
一方場所は変わって学院長の部屋。
そこでは会議用の大きなソファが二つ向かい合うように置かれ、教師達が何人か座り口論となっていた。
今回の問題は今年の給料だとか授業料の滞納だとか…そういうものではない。
『泥棒』が忍び入り、宝物庫の財宝を盗んだのである。それも平民出や元貴族で構成されている組織の仕業ではない。
最近トリステイン中の貴族達が夜、枕を高くして眠れる事が出来ないほどの腕を持つ泥棒の仕業である。
その名も『土くれのフーケ』である。
二つなの通り土属性を得意とする元貴族と思われる泥棒。
時に大胆、時に静かに獲物を掠め取り、気づいたときには無くなっている。
トリステインで名高い王宮の貴族達でさえ欺く業は正にプロである。
そして今回この魔法学院が不幸にもフーケの毒牙に刺さってしまったのだ。
最初の報告は朝一の巡回をしていた教師であった。
ふと本塔の方を見てみると宝物庫がある階層の外壁に丁度大人一人分の穴が空いているのを発見した。
急いで学院長にこの事を報告し、オスマンや数人の教師達は慌てて宝物庫の中へと入った。
しかし時既に遅く、恐らく夜中に実行したのであろう…そこにはフーケからのメッセージもとい、領収書が書かれていた。
『破壊の杖、確かに領収いたしました。 土くれのフーケより。』
学院側にしてみれば正に巫山戯ているの一言に尽きる。
その場でにいた者達だけで一度話し合ったが全員の意見が無いとどうすればいいかわからなくなり。やむを得ず授業を中止して緊急会議となった。
急いできてくれたコルベールもコレには顔を真っ青にし会議に参加している。
いつもは冷静を装っているミスター・ギトーも顔を真っ赤にして叫んでいる。
今このことを王宮に報告するか否かで論議していた。
王宮に報告をすれば魔法衛士隊から選抜された捜索隊をよこしてくれるだろうがそうすると別の問題が出てくる。
要はここ魔法学院の名折れになるということ。つまりはトリステインで随一のセキュリティを誇るここをあっさりと忍び入られたと言うことになる。
そうすれば警備の怠慢や教師達の注意不足が指摘され、最悪人事異動というものが待ちかまえている。
だから一部の教師達はそれを怖れ自分たちでなんとかしようと言っている。
そんな泥沼会議にオスマンはただ一人自分の椅子にもたれ掛かりため息を吐く。
(やれやれ…今日は本当についていないのぅ。)
いつも朝一に行うミス・ロングビルの下着確認を自分の使い魔に探らせたものの彼女は外出していた。
挙げ句の果てに泥棒騒ぎで生徒達の学びの時間を一日分つぶしてしまったのだ。
全く、人生何が起こるかわからないものである。特に長生きしてると本当に。
(現に盗まれたあの破壊の杖も思い出深い品じゃったが…。)
このままだと自分が生きている内にはもう拝めないかも知れないと。心の中で呟いた。
そうこう議論している内にドアからノックの音が聞こえ、ミス・ロングビルがドアを開けて入室した。
会議に没頭していた教師達も一斉に彼女に視線を注いだせいかロングビルの顔が少し引きつる。
「おお!ミス・ロングビル。今まで何処におったのじゃ?」
そんな中オスマンは椅子から立ち上がり老人とは思えぬしっかりとして歩みでロングビルの傍に寄った。
「すいません、オールド・オスマン。少し調べ物をしていました。」
オスマンの言葉にハッとなりまたいつものエリートの顔つきに戻った。
「調べ物とは?」
その言葉に殆どの者達が首を傾げた。
「はい、あの土くれのフーケについてです。」
この場にいた教師達が予想もしていなかった言葉に驚愕した。
ロングビルは懐から一枚のメモ用紙を取り出し説明し始めた。
「今日の未明、散歩をしていたときに大きな箱を抱えたフードを被った不審者をヴェストリの広場で見かけました。
怪しいと感じた私はそれを追跡、不審者は数日前の決闘騒ぎから放置されたままの壁の穴から森の中に入りました。
ますます怪しいと感じた私は悟られないように尾行しました。犯人はここから三時間ほどの所にある廃屋にその箱を置いて姿をくらましました。」
その報告を聞き終えたオスマンはあることを思いつく。
恐らくその廃屋というのもフーケの隠れ家であろう。そして一時的に姿をくらまし時が経てばまた戻ってくる。
それよりも先に教師達を何人か送り込み破壊の杖を取り戻し、フーケが戻ってきたところを一斉に攻撃する。
捕まえるか、あるいは仕留めるか…答えは二つあるのだ。
多少引っかかるところもあるが今の雰囲気でそれを言うと無駄に時間を喰ってしまう恐れがある。
オスマンは改めて表情をきつくすると教師達の方に向き直った。
「さて、奴の居所がミス・ロングビルのお陰でわかった。」
そう言うとオスマンは再び自分の机の方に戻り椅子に座った。
「それじゃあ、次は誰が代表としてミス・ロングビルの案内の元フーケの隠れ家へ行くという事じゃ。
我こそは…と思う者は杖を掲げその決意を示してくれい。」
オスマンがそう言ったものの……誰も杖を上げようとはしなかった。
いかに強い教師達でさえも王宮の貴族を退かせる程の実力を持つフーケとは闘いを交えたくないのだろう。
オスマンもその事がわかっているためかそれを見て神妙な面持ちで頭をポリポリと掻いた。
「まぁそりゃぁ…怖いのはわかる。誰でも命は惜しいもの、けど0人ってのはないじゃろうが…。」
「ならオールド・オスマン。なんであなたが先に杖を掲げないのですか?」
思わず言ってしまった事をロングビルに突っ込まれオスマンはハッとした顔になり慌てて言い訳をした。
「え?いやぁだってワシは学院長。この学院を守る立場なのじゃ。」
「それはこの場にいる全ての教師達にも言えることなのですが。」
たかが秘書に更に痛いところを突かれ、追いつめられたオスマンは両手で机を思いっきり叩いてこう叫んだ。
「いいじゃん、いいじゃん!だって学院長なんだもん!!」
(((本当この人、偶に考えてることがわからなくなる…。)))
この日から大半の教師達がオスマンにカリスマ性を疑うこととなった。
さて場所は戻り女子寮塔ルイズの部屋。
キュルケが紅茶を飲み干し一息つくとカップをテーブルに置き口を開いた。
「ねぇねぇ。少し聞いて良いかしら?」
「何?」
その言葉にルイズが顔を向ける。
「今更だけど、なんで急に部屋に待機って事になったのかしらね?」
キュルケは不思議そうに言いながら皿に盛られたクッキーを手に取る。
ルイズはしばらく唸った後口を開いた。
「う~ん…何かしら?」
「わからなければいいわよ。どうせ私もあまり考えてないから。」
「なら最初からそんなこと言わないでよ。」
キュルケはあっけらかんにそう言うとクッキーをヒョイッと口の中に入れた。
そんな二人のやり取りをよそに霊夢は視線だけを二人に向けながら静かに茶を飲んでいて、タバサは持ってきた本を読んでいる。
「……ねぇ。」
ふと霊夢がルイズに声を掛ける。
「ん、何よ?」
「アンタ等って仲が良いの?それとも悪いの?」
その質問にキュルケとルイズが二人同時に人差し指をお互いの顔に向けた。
「失礼ね、ヴァリエールとは代々敵同士なの。」
「ツェルプストーと一緒にしないでよ!」
言い終えてから二人とも指の動きがほぼ同時だったことに気づき顔を見合わせる。
その様子を見て霊夢は思わず苦笑する。
「言ってることは違うけどそれだけ動きが同じだとどうなのかしらねぇ。」
霊夢の言葉を聞いてルイズが少しだけ顔を赤くし立ち上がる。
「偶々よ!偶々!」
必死に反論するルイズではあるが隣に座っているキュルケは怪しい笑みを顔に浮かべている。
「そういえば…喧嘩する程仲が良いって言うじゃないの?」
彼女の言葉にルイズは多少動揺しながらもキュルケに返事をする。
「だ、だれがアンタみたいな…!」
沸々と込み上がる小さな怒りのせいで勢い余って机を叩いてしまう。
それを察知したのか素早い反射神経でキュルケがティーポットを二つ、霊夢がタバサの持ってきていた本2冊を手に取った。
木を叩く音と共にカップとクッキーが皿と一緒に空中に乱舞し、天井あたりまで来ると一気に床めがけて落ちていく。
天井から降ってくる菓子と皿にあたふたするルイズだが皿が顔に当たる直前で霊夢が皿をキャッチした。
地面やタバサの頭に落ちたクッキーは空しい音を立て、内何個かが破片をまき散らして粉砕した。
カップの方も鋭い音を立てて砕けてしまった。カップ1個につきエキュー金貨で3、新金貨で5のお値段である。
キュルケは何もなくなったテーブルの上に持っていたティーポットをテーブルに置いた。
「全く、癇癪起こすなら余所でしなさいよ。」
霊夢がため息交じりにそう言った後キュルケがよけいなことを言った。
「まったくだわ…。あなた、それのせいで男にもてないのよ。」
「っ…!?あ、アンタたちねぇ…!!」
そこでルイズの脳内の何かが切れてしまい、近くにあった本棚から2冊の分厚い辞典を取り出すと勢いよくそれを二人に投げつけた。
「おっと。」
「よっと!」
霊夢は迫ってきた本に対し顔を横にそらしてかわし、本はそのままベッドに着地した。
キュルケの方はというと上手いこと白刃取りのように受け止めた。
それを見たルイズが悔しそうな顔をしながらもう2冊取り出そうとしたがキュルケがタバサに目配せをすると杖をルイズの方に向け呪文を唱えた。
すると風の力でルイズの体に空気が絡み付くと、まるで操るかのようにタバサが杖をヒョイッと動かすとルイズは椅子にピョコンと座った。
怒り心頭のルイズは何とか立ち上がろうとするが人が自然の力に勝てるはずが無くただ風の中で藻掻くだけであった。
椅子に座るのを見届けたキュルケはフッと小さなため息を漏らすとタバサの方に向き直りお礼を言った。
「ありがとねタバサ。」
「ここは室内。」
そう言って丁度読み終えた本をパタンと閉じ、頭の上に乗ったクッキーを1個手に取って口の中に入れた。
霊夢はようやく抵抗するのをやめ、ゼェゼェと肩で呼吸しているルイズを少々呆れた目で見る。
「…アンタが暴れたせいでお茶会が台無しね。全く…。」
ルイズはハッとした顔になり自分の部屋を見回した。
床にはバラバラに散らばったクッキーやカップの破片がある。
爆発したときよりかはひどくはないがこれはこれで十分な有様である。
ルイズは冷や汗を浮かべながらも霊夢の方に顔向くと顔を少しゆがませ怒鳴った。
「う…うっさいわね!大体レイム、アンタが余計なこと言うからよ!?仲が良いとか悪いとか…。」
霊夢はというとそんなルイズに呆れながらも返事をした。
「…それって責任転嫁なんじゃないの?」
「あなたも悪いと思う。」
霊夢とルイズのやり取りにタバサが静かに呟いた。
二人は同時にタバサの顔を見、何事もなくクッキーをほおばるタバサを見て霊夢とルイズは苦笑した。
そんな中、キュルケが二人の間に割って入ってきた。
「でもどうする?クッキーは駄目になっちゃったしポットの中身もホラ、スッカラカンよ。」
そう言ってテーブルの上にあったポットを手に取り軽く振った。中からは何の音も聞こえない。
「丁度良いじゃない、これでお開きにしたら。」
すかさず霊夢がキュルケにそう言ったが彼女は納得していない様子である。
「う~ん、まだ昼食の時間じゃないから暇なのよね。」
「そもそも先生が自室で待機って言ってるのにお茶会を企画したアンタってどうなのよ。」
何を今更、ルイズがそんな事を言った。
一方のキュルケはウンウン唸りながら何かを考えている。
「キュルケ…?」
タバサが席を立ち上がり心配そうに声を掛けると…
「そうだ、外に行きましょう!!」
突然キュルケが大声でそう言い、ルイスが目を白黒させた。
「外よ外!部屋でのんびりするより遙かに有意義じゃない!」
「う~ん…とりあえず落ち着きなさい。」
捲し立てるキュルケにルイズは冷静に彼女の額を杖でペチッと叩いた。
まともに喰らったキュルケはそのままベッドへと倒れたが何事もなかったかのように起きあがった。
「…とりあえず一度聞くわツェルプストー。外へ行くってどういう意味?」
ルイズはキュルケの顔を指さしたながらそう言った。
どうしてあんなに考え込んでたあげくその結論に至ったのだろうか。
「そのままの意味よルイズ、散歩に行きましょ?」
その言葉を聞きルイズはため息を吐くと、口を開いた。
「あのねキュルケ?今は休み時間じゃないのよ。自室か同級生の部屋で待機する時間なの。」
「それはわかってるわよ、けど私としてはこのままお開きにして部屋で篭もるのは嫌なの。3人ともわかる?」
キュルケがそういったものの帰ってくる返事は案外冷たいのであった。
「残念だけど私は部屋でゆっくりくつろぐ方が好きなの。」
ルイズがそう言うとタバサも続いていった
「私も同じ。」
「まぁ私は…どっちでもいいわね。」
続いて霊夢が曖昧な返事をした。
どうやらトリステイン人とガリア人、そして日本人にはゲルマニア人の気持ちは理解されないようである
「意外と冷たいのねあなた達。…でもあれを見たらきっと考えも変わるわね。」
そう言うとキュルケはマントを翻し部屋を出て行った。
彼女の突然の行動にルイズはただただ頭を捻るが、隣りにあるキュルケの自室から物音が聞こえてきた。
しばらく戸棚を開ける音と、物をひっ掴んでは投げるような音が聞こえ、それが止むと右手に紙を握りしめたキュルケが部屋に戻ってきた。
キュルケは自信たっぷりの笑みで紙を広げ、そこに描かれている地図を3人に見せた。
それを見てルイズが胡散臭そうな目でその地図を見ながらそれを持ってきたキュルケに質問する。
「何よそれ。」
「うふふふ…これは宝の地図よ。宝の地図。」
それを聞いてルイズが呆れたような顔をする。
「キュルケ…あなたまさかこんな趣味があったなんて…!」
この様な宝の地図は街に行けばいくらでも売っているが大抵はまがい物で構成されている。
手を出したら十人の内九人が破産したり死んだりとロクな目にあわないのだ。
ルイズはキュルケを嫌な奴だと心から思っているが同時に実家のこともあってかライバルでもあるのだ。
しかし自分の好敵手がこんな物が趣味だったのは少しショックであった。
「へぇ~?宝の地図ねぇ…。」
そんなルイズとは反面に霊夢はキュルケが持っている地図に目をやる。
隅っこなどに書かれている文字はあまりわからないが多分宝のことについて書いているのだろう。
「うふふふふふ…興味あるの?場所はこの学院から馬で三時間くらい離れた所よ。」
そんな二人を見て不安になってきたルイズが霊夢の服を掴んだ。
「ちょ…ちょっとレイム!あんたまさか着いていく気じゃないでしょうね!?」
「まだ行くって決まったわけじゃないわよ。後服がのびるから掴むのやめてよね。」
そう言いながらルイズの手を掴んで離すとキュルケの方に顔を向ける。
ルイズはそんな霊夢の態度に少々頬を膨らましてう~、う~唸るが今になって始まったことではないため怒鳴るようなことはしなかった。
しかしそんなルイズにお構いなく微笑みキュルケが口を開く。
「まぁまぁ落ち着きなさいよ。そこに眠っている宝の名前は…名前は…っと。」
地図をひとさし指で辿りながら宝の名を探す。
そして見つけたのか、指でスッと文字を撫でながらその名前を口にする。
「『境界繋ぎの縄』。」
そう言った後、ルイズの方に顔を向けていた霊夢が驚いた表情でキュルケの方を向く。
「境界?」
「そうよ、なんでもこれを決まった方法で使うと自分が願う場所へ行けるらしいわ。」
ま、本当かどうか判らないけど。 とキュルケが言うと霊夢は彼女が手に持っていた地図をもの凄い勢いでひったくった。
「ちょっと!貸して欲しいならちゃんと言ってからにしてよ。」
そんなキュルケの言葉が耳に入っていないのか霊夢は目をあちこちに走らせ地図の内容を把握していく。
しばらくすると霊夢は地図をテーブルに置き、笑みを浮かべた顔をキュルケに向けた。
「いいわ、行きましょう。」
その思わぬ言葉にキュルケは少し驚いたがすぐに笑顔になり、ポンと両手を叩いた。
「やっと乗り気になってくれたのね、嬉しいわ。」
一方霊夢がこの話に乗るとは思わなかったルイズは慌てた様子で霊夢に話しかけた。
「ちょっと!いきなりどうしたのよ!?」
「帰れる方法が見つかるかも知れないから探しに行くだけよ。」
「は?…………えぇ!?」
随分とあっさり言ったため一瞬何のことだかわからず反応するのに遅れたルイズであった。
まさかこんなに早く帰る方法が見つかるとは彼女は夢にも思わなかったのである。
「え?なんなのルイズ、一体どういう事?」
「う~ん、とりあえず行きながら話すからとりあえず早く行きましょう。」
霊夢の事をあまり知らないキュルケはルイズの驚きようにキョトンとする。
状況を理解していないキュルケを促している霊夢を尻目にルイズは混乱しつつも再度話しかけた。
「つ、つまり何…もう帰るって事?」
霊夢はその言葉にええ、と頷く。
「まさかアンタ…今更になって私に帰るな。とか言う気?」
それに対し、ルイズはムッとしながらも答える。
「別にそんなんじゃないわよ!帰るならさっさと帰りなさいよ。」
ルイズの態度に霊夢は肩をすくめた。
ルイズは霊夢と出会った最初の日にした、約束事を思い出していた。
一緒に元の世界に帰る方法を探すこと
ちゃんとお茶と食事は摂らせて欲しいこと、後ちゃんとした寝床
いや、二つめまでは今はどうでもいいとして今直面している事は三つ目だ。
―――――――私の迎えが来るか元の世界に帰る方法を見つけたらすぐに帰らせて欲しいこと
霊夢がここから元の世界に帰れば自分は最召喚が可能となる。
そのときに使い魔は何処に行った聞かれるはずだが……まぁそのときはその時だ。
もしキュルケが持ってる鷹の地図が本当ならば霊夢はその宝を使って無事ゲンソウキョーに帰る
自分は問題を色々処理してから最召喚して、このまま大円団。
…ならば自分がすべき事はなんだろうか、とルイズは考えた。
このまま部屋で待っているだけなのか、それとも…。
『貴族という者はどんな者であれ、助けて貰ったら礼をしろ。』
ふと、頭の中で父がかつて小さい頃の自分に言っていた言葉を思い出した。
助けて貰った…とは言わないがちゃんと部屋の掃除や洗濯もしてくれたレイムには礼をするべきだ。
このまえ買ったお茶はまぁ…レイムの事だと持って帰りそうな…。
後はまぁ…何もない。
一応宝石という手もあるが残念ながら今は手元にない。
さて、どうしようか…とルイズは一人心の中で考え込み、決めた。
「…でもアンタには色々助けて貰ったこともあるし、別れの挨拶くらいには付き合ってあげる。」
そうポツリと、霊夢に向かって彼女は呟いた。
今のルイズにはこれぐらいしか思い浮かばなかったのだ。
このとき、宝の地図は「十人中九人がハズレ」だという事を霊夢は知らなかった。
#navi(ルイズと無重力巫女さん)
#navi(ルイズと無重力巫女さん)
「……良いですかな皆さん?この様に炎は色が薄くなればなるほど高温になっていくのです。」
ミスタ・コルベールは手にした炎で鉄の棒をあぶりながらそう言った。
そして十秒くらいあぶると鉄の棒から炎を離し、棒の両端を手で掴むと一気にそれを折り曲げた。
あぶられていた鉄の棒は抵抗することなくあっさりとくの字形になってしまった。
「と、この様に火の魔法は魔力の調節によって温度が変わります。その温度をうまく操ることが出来れば様々な金属を加工するときに役立ちます。」
生徒達は彼の言葉を聞きながらも机に置いているノートにメモしていく。
今日の二限目は「火」の魔法の授業である。担当教師はコルベールだ。
火属性の便利さや加工技術などを学ぶ。
しかし本来この属性は攻撃などが主体であり普通ならそれを学ぶための授業だ。
でもコルベールが担任をしているときはいつも加工といったものになってしまう。何故なのかは誰も知らない。
まぁだが他の教師の時は攻撃魔法を学ぶためバランス的に考えれば丁度良いのである。
それ故「火」属性の魔法が得意な生徒達からは時折不満が出ることもある。
「では…もうしている生徒達もいるが黒板に書かれている事をノートにまとめてください。」
コルベールが黒板を杖で指しながら言うと、メモをしていない生徒達もノートに書き始めた。
そんなのんびりとした授業の最中、教室のドアからノックの音が聞こえた。
「はいはい、どなたですか?」とコルベールが言いながらドアの方に近寄り、音を立てて開けるとそこにいたのはミセス・シュヴルーズであった。
それからすぐにシュヴルーズがコルベールの耳元で何か言うと彼の顔色がサッと青くなっていくのが遠くに座っている生徒達からも一目瞭然であった。
話を聞いたコルベールはシュヴルーズに軽く頷くと急いで教壇の方に戻った。
「えーすまない諸君、今日予定されていた授業は全て中止。指示があるまで自室か同級生の部屋で待機しておくように!」
そう言うとコルベールはササッ!と教室から出て行った。
いきなりの事にポカーンと口を開けていた生徒達だが段々と理解し始める者達が現れる。
「つまり…一日自由って事かな?」
ギーシュは不安げにそう言うとノートを閉じて席を立った。
それに続き何人かの生徒達もメモをし終えると席を立ち教室を出て行く。
普通こういう事があれば誰もが喜ぶことだが先ほどのコルベールの様子を見ていると何かあったのだろう。よくは知らないが。
「一体何が起こったのかしら?」
ルイズが席に座ったまま不安そうに呟いた。
まぁいつまでも教室にいたって授業が再開するはずもないのだから彼女も席を立ち他の生徒達と一緒に教室を出た。
教室の出入り口に来たとき、突然誰かに肩を掴まれた。
驚いて後ろを振り返ってみるとそこにいたのは学院でも実家でもお隣同士のキュルケがルイズの肩を掴んでいた。それもやけにうれしそうな顔つきで。
「なによツェルプストー、何か私に用があるの?」
「あるわよ、今大いにね。」
キュルケはそう言うと肩を掴んだままグイグイとルイズを近くにいるタバサの方にまで連れて行った。
詳しいことを聞いていないルイズは嫌そうなめ目でキュルケに質問した。
「キュルケ、私まだ何も聞いてないのよ。説明くらいしなさいよ。」
「まぁまぁ、これからお茶会をするんだしそんなにツンツンしない。」
キュルケの言葉にルイズはポカーンとした。
「なに阿呆みたいな顔してるのよ?」
それからキュルケは話し始めた。
どうせ今日の授業は全て中止になったのだから何かしようとキュルケは考えていたらしい。
それでお茶会をしようと思いつき、隣にいたタバサをまず最初に誘った。
「…で、2番目に私を見かけて誘った、ねぇ…。」
「そうよ。何か文句あるわけ?」
「いや、別に文句ないわよ。丁度何をしようかと悩んでいたところだし。」
「なら問題ないわね。」
そう言ってキュルケは次のことを話し始めた。
お茶会は部屋でしたいとの事。そのためにジャンケンで決めるとの事であった。
負けた者後の二人を部屋に招待するのである。
ルイズは最初それにとまどったが…
「もしかして…私に負けるのが怖いのかしら?」
と、キュルケの安い挑発で絶対勝ってアンタの部屋でお茶を飲むわよ!と豪語したルイズはジャンケンすることにした。
その時に限って、どうやら始祖は何処かの誰かを相手にチェスに興じていたのだろう。
ルイズの部屋。
「ふぅっ…これくらいで充分ね。」
部屋の掃除をしていた霊夢はバケツと箒を部屋の隅に置くと満足げに言った。
掃除というのはやっぱりきつい物だが追わせると確かな満足感を得られる物である。
それに本音を言えばルイズの部屋は小さい分神社の境内の掃除よりかは楽である。
さて掃除も終わり次は何をしようかと考えている時、突然ドアが大きな音を立てて開いた。
「だからなんであたしの所に来るのよ!!タバサの部屋もあるでしょうに!」
もの凄い剣幕でルイズが部屋に入ってきた。その次にキュルケが入ってくる。
「あら?ジャンケンで負けた奴の部屋に行くって最初に言ったじゃないの。」
キュルケはそう言って入り口で立ち止まり本を読んでいたタバサを部屋に入れる。
あっという間に物静かだった部屋は喧噪に包まれてしまった。
「ちょっとルイズ、なんなのよこの二人は。」
いきなりの客に少し目を丸くさせ、霊夢はルイズに話しかけた。
どうやら授業中、何かトラブルでも起こったのか全生徒が自室での待機になったらしい。
当然授業は中止となり、今日予定されていたものも全て取り消し。
そのため暇をもてあますこととなったキュルケはタバサとルイズを誘いこんな事を言った。
「…ジャンケンして負けた奴が他の二人を部屋に招待してお茶会をする。ねぇ…」
霊夢はそこまで聞くと手に持っているカップに入った緑茶を口に運んだ。
一回目はタバサがチョキで勝ち、後の二人は同じパーだったらしい。
その後も何回かおあいこ合戦が続いたのだが、遂にキュルケの方に軍配が上がったという。
ルイズは負けたことを悔しがり色々と言ったそうだがキュルケは気にしなかったらしい。
「まぁ私も別にこういうのは嫌いじゃないし、丁度暇をもてあましていた所よ。」
「話がわかるじゃない。やっぱりお茶会をするときは皆こんな気分じゃないとね~。」
霊夢の言葉を聞きうれしそうにキュルケがそう言うと皿に盛られたクッキーを一個つまみ口の中に放り込んだ。
それを見ていたルイズが嫌そうな目でキュルケを一瞥して紅茶を啜る。
多分この場にいる三人の中では最年少のタバサは一人静かに霊夢と同じ緑茶を飲んでいる。
飲み終えたタバサはカップを口から離してテーブルに置くと霊夢の肩を チョンチョン と叩いた。
「ねぇ。」
「ん?何かしら。」
「これ、何処で売ってたの?」
「あんた、もしかして気に入った?」
タバサはそれに対しただコクリ、と頷いただけであった。
一方場所は変わって学院長の部屋。
そこでは会議用の大きなソファが二つ向かい合うように置かれ、教師達が何人か座り口論となっていた。
今回の問題は今年の給料だとか授業料の滞納だとか…そういうものではない。
『泥棒』が忍び入り、宝物庫の財宝を盗んだのである。それも平民出や元貴族で構成されている組織の仕業ではない。
最近トリステイン中の貴族達が夜、枕を高くして眠れる事が出来ないほどの腕を持つ泥棒の仕業である。
その名も『土くれのフーケ』である。
二つなの通り土属性を得意とする元貴族と思われる泥棒。
時に大胆、時に静かに獲物を掠め取り、気づいたときには無くなっている。
トリステインで名高い王宮の貴族達でさえ欺く業は正にプロである。
そして今回この魔法学院が不幸にもフーケの毒牙に刺さってしまったのだ。
最初の報告は朝一の巡回をしていた教師であった。
ふと本塔の方を見てみると宝物庫がある階層の外壁に丁度大人一人分の穴が空いているのを発見した。
急いで学院長にこの事を報告し、オスマンや数人の教師達は慌てて宝物庫の中へと入った。
しかし時既に遅く、恐らく夜中に実行したのであろう…そこにはフーケからのメッセージもとい、領収書が書かれていた。
『破壊の杖、確かに領収いたしました。 土くれのフーケより。』
学院側にしてみれば正に巫山戯ているの一言に尽きる。
その場でにいた者達だけで一度話し合ったが全員の意見が無いとどうすればいいかわからなくなり。やむを得ず授業を中止して緊急会議となった。
急いできてくれたコルベールもコレには顔を真っ青にし会議に参加している。
いつもは冷静を装っているミスター・ギトーも顔を真っ赤にして叫んでいる。
今このことを王宮に報告するか否かで論議していた。
王宮に報告をすれば魔法衛士隊から選抜された捜索隊をよこしてくれるだろうがそうすると別の問題が出てくる。
要はここ魔法学院の名折れになるということ。つまりはトリステインで随一のセキュリティを誇るここをあっさりと忍び入られたと言うことになる。
そうすれば警備の怠慢や教師達の注意不足が指摘され、最悪人事異動というものが待ちかまえている。
だから一部の教師達はそれを怖れ自分たちでなんとかしようと言っている。
そんな泥沼会議にオスマンはただ一人自分の椅子にもたれ掛かりため息を吐く。
(やれやれ…今日は本当についていないのぅ。)
いつも朝一に行うミス・ロングビルの下着確認を自分の使い魔に探らせたものの彼女は外出していた。
挙げ句の果てに泥棒騒ぎで生徒達の学びの時間を一日分つぶしてしまったのだ。
全く、人生何が起こるかわからないものである。特に長生きしてると本当に。
(現に盗まれたあの破壊の杖も思い出深い品じゃったが…。)
このままだと自分が生きている内にはもう拝めないかも知れないと。心の中で呟いた。
そうこう議論している内にドアからノックの音が聞こえ、ミス・ロングビルがドアを開けて入室した。
会議に没頭していた教師達も一斉に彼女に視線を注いだせいかロングビルの顔が少し引きつる。
「おお!ミス・ロングビル。今まで何処におったのじゃ?」
そんな中オスマンは椅子から立ち上がり老人とは思えぬしっかりとして歩みでロングビルの傍に寄った。
「すいません、オールド・オスマン。少し調べ物をしていました。」
オスマンの言葉にハッとなりまたいつものエリートの顔つきに戻った。
「調べ物とは?」
その言葉に殆どの者達が首を傾げた。
「はい、あの土くれのフーケについてです。」
この場にいた教師達が予想もしていなかった言葉に驚愕した。
ロングビルは懐から一枚のメモ用紙を取り出し説明し始めた。
「今日の未明、散歩をしていたときに大きな箱を抱えたフードを被った不審者をヴェストリの広場で見かけました。
怪しいと感じた私はそれを追跡、不審者は数日前の決闘騒ぎから放置されたままの壁の穴から森の中に入りました。
ますます怪しいと感じた私は悟られないように尾行しました。犯人はここから三時間ほどの所にある廃屋にその箱を置いて姿をくらましました。」
その報告を聞き終えたオスマンはあることを思いつく。
恐らくその廃屋というのもフーケの隠れ家であろう。そして一時的に姿をくらまし時が経てばまた戻ってくる。
それよりも先に教師達を何人か送り込み破壊の杖を取り戻し、フーケが戻ってきたところを一斉に攻撃する。
捕まえるか、あるいは仕留めるか…答えは二つあるのだ。
多少引っかかるところもあるが今の雰囲気でそれを言うと無駄に時間を喰ってしまう恐れがある。
オスマンは改めて表情をきつくすると教師達の方に向き直った。
「さて、奴の居所がミス・ロングビルのお陰でわかった。」
そう言うとオスマンは再び自分の机の方に戻り椅子に座った。
「それじゃあ、次は誰が代表としてミス・ロングビルの案内の元フーケの隠れ家へ行くという事じゃ。
我こそは…と思う者は杖を掲げその決意を示してくれい。」
オスマンがそう言ったものの……誰も杖を上げようとはしなかった。
いかに強い教師達でさえも王宮の貴族を退かせる程の実力を持つフーケとは闘いを交えたくないのだろう。
オスマンもその事がわかっているためかそれを見て神妙な面持ちで頭をポリポリと掻いた。
「まぁそりゃぁ…怖いのはわかる。誰でも命は惜しいもの、けど0人ってのはないじゃろうが…。」
「ならオールド・オスマン。なんであなたが先に杖を掲げないのですか?」
思わず言ってしまった事をロングビルに突っ込まれオスマンはハッとした顔になり慌てて言い訳をした。
「え?いやぁだってワシは学院長。この学院を守る立場なのじゃ。」
「それはこの場にいる全ての教師達にも言えることなのですが。」
たかが秘書に更に痛いところを突かれ、追いつめられたオスマンは両手で机を思いっきり叩いてこう叫んだ。
「いいじゃん、いいじゃん!だって学院長なんだもん!!」
――――――――本当この人、偶に考えてることがわからなくなるなぁ…。
この日から大半の教師達がオスマンにカリスマ性を疑うこととなった。
さて場所は戻り女子寮塔ルイズの部屋。
キュルケが紅茶を飲み干し一息つくとカップをテーブルに置き口を開いた。
「ねぇねぇ。少し聞いて良いかしら?」
「何?」
その言葉にルイズが顔を向ける。
「今更だけど、なんで急に部屋に待機って事になったのかしらね?」
キュルケは不思議そうに言いながら皿に盛られたクッキーを手に取る。
ルイズはしばらく唸った後口を開いた。
「う~ん…何かしら?」
「わからなければいいわよ。どうせ私もあまり考えてないから。」
「なら最初からそんなこと言わないでよ。」
キュルケはあっけらかんにそう言うとクッキーをヒョイッと口の中に入れた。
そんな二人のやり取りをよそに霊夢は視線だけを二人に向けながら静かに茶を飲んでいて、タバサは持ってきた本を読んでいる。
「……ねぇ。」
ふと霊夢がルイズに声を掛ける。
「ん、何よ?」
「アンタ等って仲が良いの?それとも悪いの?」
その質問にキュルケとルイズが二人同時に人差し指をお互いの顔に向けた。
「失礼ね、ヴァリエールとは代々敵同士なの。」
「ツェルプストーと一緒にしないでよ!」
言い終えてから二人とも指の動きがほぼ同時だったことに気づき顔を見合わせる。
その様子を見て霊夢は思わず苦笑する。
「言ってることは違うけどそれだけ動きが同じだとどうなのかしらねぇ。」
霊夢の言葉を聞いてルイズが少しだけ顔を赤くし立ち上がる。
「偶々よ!偶々!」
必死に反論するルイズではあるが隣に座っているキュルケは怪しい笑みを顔に浮かべている。
「そういえば…喧嘩する程仲が良いって言うじゃないの?」
彼女の言葉にルイズは多少動揺しながらもキュルケに返事をする。
「だ、だれがアンタみたいな…!」
沸々と込み上がる小さな怒りのせいで勢い余って机を叩いてしまう。
それを察知したのか素早い反射神経でキュルケがティーポットを二つ、霊夢がタバサの持ってきていた本2冊を手に取った。
木を叩く音と共にカップとクッキーが皿と一緒に空中に乱舞し、天井あたりまで来ると一気に床めがけて落ちていく。
天井から降ってくる菓子と皿にあたふたするルイズだが皿が顔に当たる直前で霊夢が皿をキャッチした。
地面やタバサの頭に落ちたクッキーは空しい音を立て、内何個かが破片をまき散らして粉砕した。
カップの方も鋭い音を立てて砕けてしまった。カップ1個につきエキュー金貨で3、新金貨で5のお値段である。
キュルケは何もなくなったテーブルの上に持っていたティーポットをテーブルに置いた。
「全く、癇癪起こすなら余所でしなさいよ。」
霊夢がため息交じりにそう言った後キュルケがよけいなことを言った。
「まったくだわ…。あなた、それのせいで男にもてないのよ。」
「っ…!?あ、アンタたちねぇ…!!」
そこでルイズの脳内の何かが切れてしまい、近くにあった本棚から2冊の分厚い辞典を取り出すと勢いよくそれを二人に投げつけた。
「おっと。」
「よっと!」
霊夢は迫ってきた本に対し顔を横にそらしてかわし、本はそのままベッドに着地した。
キュルケの方はというと上手いこと白刃取りのように受け止めた。
それを見たルイズが悔しそうな顔をしながらもう2冊取り出そうとしたがキュルケがタバサに目配せをすると杖をルイズの方に向け呪文を唱えた。
すると風の力でルイズの体に空気が絡み付くと、まるで操るかのようにタバサが杖をヒョイッと動かすとルイズは椅子にピョコンと座った。
怒り心頭のルイズは何とか立ち上がろうとするが人が自然の力に勝てるはずが無くただ風の中で藻掻くだけであった。
椅子に座るのを見届けたキュルケはフッと小さなため息を漏らすとタバサの方に向き直りお礼を言った。
「ありがとねタバサ。」
「ここは室内。」
そう言って丁度読み終えた本をパタンと閉じ、頭の上に乗ったクッキーを1個手に取って口の中に入れた。
霊夢はようやく抵抗するのをやめ、ゼェゼェと肩で呼吸しているルイズを少々呆れた目で見る。
「…アンタが暴れたせいでお茶会が台無しね。全く…。」
ルイズはハッとした顔になり自分の部屋を見回した。
床にはバラバラに散らばったクッキーやカップの破片がある。
爆発したときよりかはひどくはないがこれはこれで十分な有様である。
ルイズは冷や汗を浮かべながらも霊夢の方に顔向くと顔を少しゆがませ怒鳴った。
「う…うっさいわね!大体レイム、アンタが余計なこと言うからよ!?仲が良いとか悪いとか…。」
霊夢はというとそんなルイズに呆れながらも返事をした。
「…それって責任転嫁なんじゃないの?」
「あなたも悪いと思う。」
霊夢とルイズのやり取りにタバサが静かに呟いた。
二人は同時にタバサの顔を見、何事もなくクッキーをほおばるタバサを見て霊夢とルイズは苦笑した。
そんな中、キュルケが二人の間に割って入ってきた。
「でもどうする?クッキーは駄目になっちゃったしポットの中身もホラ、スッカラカンよ。」
そう言ってテーブルの上にあったポットを手に取り軽く振った。中からは何の音も聞こえない。
「丁度良いじゃない、これでお開きにしたら。」
すかさず霊夢がキュルケにそう言ったが彼女は納得していない様子である。
「う~ん、まだ昼食の時間じゃないから暇なのよね。」
「そもそも先生が自室で待機って言ってるのにお茶会を企画したアンタってどうなのよ。」
何を今更、ルイズがそんな事を言った。
一方のキュルケはウンウン唸りながら何かを考えている。
「キュルケ…?」
タバサが席を立ち上がり心配そうに声を掛けると…
「そうだ、外に行きましょう!!」
突然キュルケが大声でそう言い、ルイスが目を白黒させた。
「外よ外!部屋でのんびりするより遙かに有意義じゃない!」
「う~ん…とりあえず落ち着きなさい。」
捲し立てるキュルケにルイズは冷静に彼女の額を杖でペチッと叩いた。
まともに喰らったキュルケはそのままベッドへと倒れたが何事もなかったかのように起きあがった。
「…とりあえず一度聞くわツェルプストー。外へ行くってどういう意味?」
ルイズはキュルケの顔を指さしたながらそう言った。
どうしてあんなに考え込んでたあげくその結論に至ったのだろうか。
「そのままの意味よルイズ、散歩に行きましょ?」
その言葉を聞きルイズはため息を吐くと、口を開いた。
「あのねキュルケ?今は休み時間じゃないのよ。自室か同級生の部屋で待機する時間なの。」
「それはわかってるわよ、けど私としてはこのままお開きにして部屋で篭もるのは嫌なの。3人ともわかる?」
キュルケがそういったものの帰ってくる返事は案外冷たいのであった。
「残念だけど私は部屋でゆっくりくつろぐ方が好きなの。」
ルイズがそう言うとタバサも続いていった
「私も同じ。」
「まぁ私は…どっちでもいいわね。」
続いて霊夢が曖昧な返事をした。
どうやらトリステイン人とガリア人、そして日本人にはゲルマニア人の気持ちは理解されないようである
「意外と冷たいのねあなた達。…でもあれを見たらきっと考えも変わるわね。」
そう言うとキュルケはマントを翻し部屋を出て行った。
彼女の突然の行動にルイズはただただ頭を捻るが、隣りにあるキュルケの自室から物音が聞こえてきた。
しばらく戸棚を開ける音と、物をひっ掴んでは投げるような音が聞こえ、それが止むと右手に紙を握りしめたキュルケが部屋に戻ってきた。
キュルケは自信たっぷりの笑みで紙を広げ、そこに描かれている地図を3人に見せた。
それを見てルイズが胡散臭そうな目でその地図を見ながらそれを持ってきたキュルケに質問する。
「何よそれ。」
「うふふふ…これは宝の地図よ。宝の地図。」
それを聞いてルイズが呆れたような顔をする。
「キュルケ…あなたまさかこんな趣味があったなんて…!」
この様な宝の地図は街に行けばいくらでも売っているが大抵はまがい物で構成されている。
手を出したら十人の内九人が破産したり死んだりとロクな目にあわないのだ。
ルイズはキュルケを嫌な奴だと心から思っているが同時に実家のこともあってかライバルでもあるのだ。
しかし自分の好敵手がこんな物が趣味だったのは少しショックであった。
「へぇ~?宝の地図ねぇ…。」
そんなルイズとは反面に霊夢はキュルケが持っている地図に目をやる。
隅っこなどに書かれている文字はあまりわからないが多分宝のことについて書いているのだろう。
「うふふふふふ…興味あるの?場所はこの学院から馬で三時間くらい離れた所よ。」
そんな二人を見て不安になってきたルイズが霊夢の服を掴んだ。
「ちょ…ちょっとレイム!あんたまさか着いていく気じゃないでしょうね!?」
「まだ行くって決まったわけじゃないわよ。後服がのびるから掴むのやめてよね。」
そう言いながらルイズの手を掴んで離すとキュルケの方に顔を向ける。
ルイズはそんな霊夢の態度に少々頬を膨らましてう~、う~唸るが今になって始まったことではないため怒鳴るようなことはしなかった。
しかしそんなルイズにお構いなく微笑みキュルケが口を開く。
「まぁまぁ落ち着きなさいよ。そこに眠っている宝の名前は…名前は…っと。」
地図をひとさし指で辿りながら宝の名を探す。
そして見つけたのか、指でスッと文字を撫でながらその名前を口にする。
「『境界繋ぎの縄』。」
そう言った後、ルイズの方に顔を向けていた霊夢が驚いた表情でキュルケの方を向く。
「境界?」
「そうよ、なんでもこれを決まった方法で使うと自分が願う場所へ行けるらしいわ。」
ま、本当かどうか判らないけど。 とキュルケが言うと霊夢は彼女が手に持っていた地図をもの凄い勢いでひったくった。
「ちょっと!貸して欲しいならちゃんと言ってからにしてよ。」
そんなキュルケの言葉が耳に入っていないのか霊夢は目をあちこちに走らせ地図の内容を把握していく。
しばらくすると霊夢は地図をテーブルに置き、笑みを浮かべた顔をキュルケに向けた。
「いいわ、行きましょう。」
その思わぬ言葉にキュルケは少し驚いたがすぐに笑顔になり、ポンと両手を叩いた。
「やっと乗り気になってくれたのね、嬉しいわ。」
一方霊夢がこの話に乗るとは思わなかったルイズは慌てた様子で霊夢に話しかけた。
「ちょっと!いきなりどうしたのよ!?」
「帰れる方法が見つかるかも知れないから探しに行くだけよ。」
「は?…………えぇ!?」
随分とあっさり言ったため一瞬何のことだかわからず反応するのに遅れたルイズであった。
まさかこんなに早く帰る方法が見つかるとは彼女は夢にも思わなかったのである。
「え?なんなのルイズ、一体どういう事?」
「う~ん、とりあえず行きながら話すからとりあえず早く行きましょう。」
霊夢の事をあまり知らないキュルケはルイズの驚きようにキョトンとする。
状況を理解していないキュルケを促している霊夢を尻目にルイズは混乱しつつも再度話しかけた。
「つ、つまり何…もう帰るって事?」
霊夢はその言葉にええ、と頷く。
「まさかアンタ…今更になって私に帰るな。とか言う気?」
それに対し、ルイズはムッとしながらも答える。
「別にそんなんじゃないわよ!帰るならさっさと帰りなさいよ。」
ルイズの態度に霊夢は肩をすくめた。
ルイズは霊夢と出会った最初の日にした、約束事を思い出していた。
一緒に元の世界に帰る方法を探すこと
ちゃんとお茶と食事は摂らせて欲しいこと、後ちゃんとした寝床
いや、二つめまでは今はどうでもいいとして今直面している事は三つ目だ。
―――――――私の迎えが来るか元の世界に帰る方法を見つけたらすぐに帰らせて欲しいこと
霊夢がここから元の世界に帰れば自分は最召喚が可能となる。
そのときに使い魔は何処に行った聞かれるはずだが……まぁそのときはその時だ。
もしキュルケが持ってる鷹の地図が本当ならば霊夢はその宝を使って無事ゲンソウキョーに帰る
自分は問題を色々処理してから最召喚して、このまま大円団。
…ならば自分がすべき事はなんだろうか、とルイズは考えた。
このまま部屋で待っているだけなのか、それとも…。
『貴族という者はどんな者であれ、助けて貰ったら礼をしろ。』
ふと、頭の中で父がかつて小さい頃の自分に言っていた言葉を思い出した。
助けて貰った…とは言わないがちゃんと部屋の掃除や洗濯もしてくれたレイムには礼をするべきだ。
このまえ買ったお茶はまぁ…レイムの事だと持って帰りそうな…。
後はまぁ…何もない。
一応宝石という手もあるが残念ながら今は手元にない。
さて、どうしようか…とルイズは一人心の中で考え込み、決めた。
「…でもアンタには色々助けて貰ったこともあるし、別れの挨拶くらいには付き合ってあげる。」
そうポツリと、霊夢に向かって彼女は呟いた。
今のルイズにはこれぐらいしか思い浮かばなかったのだ。
このとき、宝の地図は「十人中九人がハズレ」だという事を霊夢は知らなかった。
#navi(ルイズと無重力巫女さん)
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