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使い魔はじめました―第15話―
ルイズは、自分のベッドの上で夢を見ていた。
生まれ故郷のラ・ヴァリエールの屋敷が舞台だ。
その夢の中で、ルイズは今よりもずっと幼い姿をしている。
「ルイズ、ルイズ、どこへ行ったの? まだお説教は終わっていませんよ!」
母が騒ぐのが聞こえる。魔法の成績のいい姉達と比べられ、
物覚えが悪い、と叱られている途中に逃げてきたのだ。
召使達が姉と自分を比べ、哀れむ発言をするのが聞こえた。
たまらずに、ルイズは『秘密の場所』へと逃げ出した。
ルイズ以外には、誰からも忘れられた中庭の池。
そこに浮かぶ小船に乗ると、あらかじめ用意していた毛布にもぐりこむ。
こうやって、ほとぼりが冷めるまで隠れているのだ。
そんな風にしていると、誰かが近づいてくるのが分かった。
大きな羽帽子を被った、十ばかり年上の貴族だ。
彼女は彼を知っている。最近、近くの領地を相続した子爵様だ。
憧れの子爵様。彼女の父と彼との間で交わされた約束を思うと、
ルイズの胸は高鳴り、頬が火照る。
「泣いているのかい、小さなルイズ?」
「し、子爵さま……」
憧れの人にみっともない顔を見られたくなくて、ルイズは俯く。
だが、彼はおどけたように笑うと、彼女に手を差し伸べた。
「ミ・レイディ、お手を。早くしないと晩餐会が始まってしまうよ。
お父様に怒られたのなら、ぼくがとりなしてあげるから」
ルイズはその言葉にますます顔を火照らせながら、手を伸ばす。
瞬間、強い風が吹いて、彼の帽子が吹き飛ばされた。
「ひ!」
ルイズは現れた顔を見て、恐怖で言葉を失った。
夢の中のルイズは、いつの間にか十六歳に戻っている。
「ゲコゲコ? どうしたんだい、ルイズ? ゲコゲコ」
彼の顔は、緑色の巨大な蛙になっていた。
「いやあああああああああああああああ!」
「わー! な、なんだなんだ?」
ルイズの悲鳴に、サララとチョコが驚いて目を覚ます。
「ルイズ、ど、どうしたんだよ?」
彼女も、自身の悲鳴で目を覚ましたらしく、上半身を起こした。
「……悪夢を見たわ。眠れなくなりそう……」
ルイズは夢の内容を思い出してげんなりとする。
憧れの子爵様が蛙になってしまうなど、悪夢以外の何物でもない。
じゃあいいものがありますよ、とサララはベッドから起き上がった。
鍋まで行くと、ごそごそと、中から古ぼけた糸車を取り出す。
「なあにそれ、何に使うの?」
頭の上に疑問符を浮かべたルイズに向けて、からからと糸を繰る。
「はれ? 何だか、眠、く……」
その音を聞いたルイズは、そのままぱったりとベッドに倒れこんだ。
同じく音を聞いていたチョコと共に、すやすやと眠り出した。
副作用なく眠れる、という触れ込みは本当みたいだなーと、
サララは考えながら、効果をなくして壊れた糸車ををゴミ箱に捨てる。
さてもう一度寝なおすか、と思ったところで、
ふと、机の上に置いた魔女の占いカードが目に留まった。
ごくたまに、このように、カードに呼ばれる瞬間というのがある。
それは、カードがサララのような魔女に未来を提示する、
あるいは、カードによって未来が定められようとしている時だとされている。
サララは机に向かうと、そのカードを手に取った。
十三枚のカードをシャッフルし、三つの束にする。
その山の中から一つを選び、その一番上のカードを表にした。
手に取ったカードは『ⅩⅠ:ほうき』のカードだ。
『自由、束縛、飛翔』の三つの意味を持つ。
果たして、このカードは自分たちにどんな物語を見せてくれるんだろう。
サララはワクワクしながら、カードを戻すとベッドに潜り込んだ。
「……ゲルマニアへの訪問が中止?」
翌朝、トリスタニアの王宮で、一人の少女が驚きの声をあげた。
すらりとした気品ある顔立ちに、薄いブルーの瞳と高い鼻が目をひく美少女だ。
彼女こそ、トリステインの王女アンリエッタその人である。
「説明を求めますわ、マザリーニ枢機卿」
僧侶がかぶるような丸い帽子を被ったやせぎすの男性は、
口ひげのある顔を上げ、後ろに控えた男性に声をかけた。
「それは、こちらのワルド子爵にお願いしましょう。
彼は、魔法衛士隊のグリフォン隊の隊長です」
王族の御前であるため、羽帽子を胸元に抱えた若い貴族の男だった。
黒いマントの胸には、グリフォンの刺繍がされている。
「私からご報告させていただきます。実は先日から、
ゲルマニア国内でたちの悪い病が流行っている、との噂がありました。
私が出向いて調査したところ、それはまことであり、
ゲルマニアの王宮でもすでに感染者が出ているとのこと」
「まあ……」
アンリエッタはその報告に言葉を失う。
伝染病とは、それはそれは凄惨なものだと聞いている。
「それで、被害のほどは?」
「……今のところ、死人は出ておりません。というよりは、
あれで死ぬものが出るとは到底……。いえ、こちらの話。
とにかく、あの病の治療法などが見つかるまでは、
こちらとの交渉も到底できまい、と判断いたしました」
「……と、いうことです」
「そうですか……」
その言葉に、アンリエッタは少しほっとした。
今進んでいる同盟の話は、アンリエッタにとってあまり好ましいものではない。
それが先延ばしになるのは、喜ばしかった。
もっとも、病にかかった民には申し訳ないことではあるが。
「分かりました。下がりなさい、ワルド子爵」
「はっ。失礼いたします」
王女に告げられ、ワルドは謁見の間を出て行く。
その口元が、ほんのわずかに歪んでいた。
「それにしても……一体、どんな病なのでしょうか……」
首を傾げるアンリエッタを見て、マザリーニは思う。
まさか、『人間が蛙になる』病だなんて言えないな、と。
アンリエッタは、今日から数日の間、暇になったことを考える。
王宮の外へ出る機会が失われてしまって、ちょっとつまらない。
そういえば、とアンリエッタは考える。
アルビオンに存在する例の手紙。あれをどうにかせねばなるまい、と。
アルビオンの王家は、聖地回復を謳う愚かな軍勢に襲われ、今にも滅んでしまいそうなのだ。
もし、愚かな軍勢――レコン・キスタ――に、あの手紙が渡れば、
進められようとしている同盟も破棄されてしまうだろう。
どうにかしてとりかえさなければならない。
そんな時、アンリエッタの脳にある考えが浮かんだ。
それは、退屈な王宮から抜け出し、なおかつ手紙も回収できる、
とびっきりのアイデアのように思えた。
「マザリーニ。今すぐ伝達を出してください」
「は?」
アンリエッタの笑顔に、マザリーニは嫌な予感がした。
「どうせ暇なのですから、出かけましょう」
「で、出かけるとは、いずこへ……でございましょうか?」
「トリステイン魔法学院へ。視察とでもいばいいでしょう?」
若いものであればたちまち虜になってしまいそうな笑顔を見せるアンリエッタ。
マザリーニは、ただでさえ老けて見えると言われて気にしているのに、
また老け込んでしまいそうだ、とため息をつきたくなった。
それにしても、とマザリーニは思う。
ゲルマニアから帰って以降、ワルドの様子がいささかおかしい。
何か事件が起こらなければいいが……、と心配性な彼は思うのだった。
「分かりました。それで、日付はいつにしましょう」
「あら、決まっているじゃありませんか」
アンリエッタはにっこりと微笑んだ。
「今日です。思い立ったが吉日、というでしょう?」
「……承知しました。では、目処が付きましたら連絡いたします」
マザリーニは立ち上がると、謁見の間を出て行く。
その右手は胃の辺りにあてられている。
連絡をする前に、胃薬を飲むのを先にした方がよさそうだ。
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