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Perosna 0 第十話
戦いは死闘の様を呈した。
タバサを核にして立ち現れた巨大なシャドウ、ヨトゥンは恐るべき氷の力の使い手だった。
見た目は氷で出来た巨人の彫像であるが、その体にはタバサを始めとしていろいろな人間が氷漬けとなって閉じ込められていた。
勿論タバサ以外はタバサの心が作り出した幻想にすぎない、だがそれにしてもその姿があまりにも生々しすぎるのは、その閉じ込められた者たちにタバサが死の影を見ているのかもしれない。
執事のペルスランやジョゼフ、イザベラやシャルルの姿も見える。
だが一番象徴的なのはタバサとその影の姿であろう。
タバサは巨人の心臓の位置で、シャルロットは巨人の顔にしなだれかかる様にして、ともに厚い氷の棺に封じられていた。
目を瞑り、胸の前で腕を組んだその姿は、まるで救いを待つおとぎ話の中の御姫様。
もっともサイトにその可憐な姿に見惚れる余裕はない。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
サイトは剣を構えて突進する、ペルソナの魔法で身体能力を強化しているとは言えかつての七万との戦いからは見る影もない無様な突進。
転がるようにして剣を振るい、巨人の右の二の腕をシャリンと言う音とともに切り裂いた。
だがその結果を皆まで見ることなくサイトはその場から飛びのいた。
僅かな間を置いてサイトが立っていた場所に霜が降り、一瞬にして巨大な氷柱となって天井まで伸びる。
「いっけぇぇぇぇ、ペルソナ!」
転がるように連続で立ち上がる氷柱を回避しながら、拳銃で頭を打ち抜きペルソナを発現させる。
現れたのは地獄の番犬、この世とあの世の境界を守る炎の猛犬。
ガルム。
真っ黒い影の炎を体に纏わせたその犬は思いっきり息を吸い込むとその口から炎の息を吐きだした。
――ファイアブレス!
地獄の炎に体を焙られ巨人がわずかにたじろぐ、その隙に拳銃に弾を込めその顔面に向かって発砲する。
「食らいやがれ!」
ダンダンダンと三連打してからシリンダーを叩き自分の頭へ、残り二発弾が残っている状態で恐怖に顔を歪めながらサイトは引き金を引く。
――イノセントタック!
ガルムがその爪を振りまわし氷の体を削り取る、三分の一の確率で自分の頭を吹き飛ばしてしまうと言う恐怖の代償か、本来持つ力よりも幾分か威力が高い。
足を削り取られ、ヨトゥンはその場に膝を着いた。
「これで……」
甘かったとサイトは歯噛みする、ヨトゥンは膝をついたままサイトを睨みつけると魔法を叩きつけてきた。
――ブフダイン!
氷の魔法の最上位、あらゆるものを凍らせる冷却の魔法。
それを広範囲に向かってめくら打ちにしてきている、狙いが甘く本来なら簡単に回避できるそれが今は出来ない。
「くそっ」
部屋中に降りた霜。
それがサイトの足にまで絡みつき、スニーカーごとその足を地面に縫い付けていた。
「こうなりゃ根比べだ!」
――アギダイン!
ガルムを発現させて炎を燃え上がらせヨトゥンの氷にぶつける。
炎と氷が燃え上がり激しい蒸気が吹きあがり、部屋中を白く染めていく。
だが際限なく冷気をまき散らすヨトゥンと違って、次第にサイトの背負ったガルムの火が薄くなっていく。
「駄目か……!」
ぎりりと唇を噛みながらサイトは俯いた。
こんなところで死ぬわけにはいかないのに、まだやらなければならないことが残っているのに。
あいつを殺さなければならないのに。
自分の尻ぬぐいを終えることなく、どうやら此処でゲームオーバーだ。
サイトは叫んだ、そのうちに秘めた思いのままに。
「ルイズゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
その魂の叫びに何故か返事が返ってきた。
「こんの、ばか犬ぅぅぅぅ!」
ルイズはなぜそんなことを口走ったのか分からない。
だが朦朧とする意識のなかで口走ったその言葉が、サイトに向けて言う言葉としては何故か相応しいと思えたのだ。
「ルイズ!? 馬鹿、なんで来たんだ」
此処まで走ってきたこともあるが頭がガンガンする、眩暈もするし、息切れだって厳しい。
だって言うのになぜこいつはこうも自分が危ない状態で人のことを馬鹿馬鹿言うのか?
「傷だらけじゃねぇか!? 此処は俺に任せて早く逃げろ、時間を稼ぐ、早く!」
そう言って自分のことを庇うように立ちふさがるぼろぼろの姿を見ていると、こいつの方が馬鹿なんじゃないかと思えてきた。
そもそも人のことを馬鹿と言うなと親から習わなかったのか?
「うるさい……」
「あ?」
「うるさいうるさいうるさい! なによあんた、なんなのよ。いきなり私の前に現われて思わせぶりに『忘れろ!』とか『全部幻なんだ』とか馬鹿じゃないの!」
ものすごい剣幕で怒鳴りつけるのは、そうしないとこのまま気を失ってしまいそうだから。
言いたいことはすごくいっぱいあるのに、聞きたいことは山積みなのに、このまま気絶してまた何も聞けないのは我慢できない。
この異様な既視感はなんなのか? あの巨大なシャドウは? そもそもあんた一体なんなんだ?
いくつもの言葉が脳裏に浮かんだが、結局出てきたのは自分らしい言葉だけ。
「帰ったら一切合切話して貰うんだからね、このばか犬!」
そう言って腰に両手を当てる、その誇らしげな姿があまりにも懐かしすぎて、サイトは思わず「ああ」と言いそうになった。
だがそれは出来ない、わずかに漏れた笑顔をかみ殺すとサイトはヨトゥンへと向きなおった。
すべての責は自分にある、ならばその始末は自分でつけなければいけない。
こちら側の“自分”はともかく、ルイズ達までは絶対にこれ以上深入りさせてはいけない。
サイトは再び“ピースメーカー”を構えると、氷の巨人に向き直る。
ヨトゥンはその周囲にいくつもの氷の槍を作り出し、今にも二人に向かって打ち放とうとしていた。
助けは来ない、たった今扉を開けて慌てて部屋入ってきたキュルケとギーシュでは間に合わない。
サイトは状況を理解すると、口の中の血を飲み下し、一言その言葉を唱える。
自分のなかを恐怖を打ち抜き、ガンダールヴの力を失ったただの高校生でしかない自分に力を与えてくれる。
魔法の言葉を。
「――ペルソナ!」
だが地獄の番犬が向かったのは霧の巨人ではなく、キュルケとギーシュの背後から部屋へと飛び込んできた存在。
獣じみた動きの、巨大なシャドウだ。
「がぁぁぁ!?」
その体をすべてルイズを庇うために差し出した為か、ガルムは一撃で叩き伏せられた。
見た目に反して可愛らしい鳴き声をあげるガルム、それを目で追っている最中氷の巨人が槍を打ち放つを見えた。
避けようにも背後には黒い獣、もはや逃げ場はないと断じたルイズはその場できつく目を閉じる。
それを理解するのにルイズはずいぶんと時間がかかった。
「あんた……」
何度もルイズたちの前に現れた巨大なシャドウ。
そいつが自分を庇ったのだ、身を挺して。
――オオオオオオ、ィィィィィズウウ!
そして気づいた、こいつは私を呼んでいる?
降り注ぐ氷の槍衾、それが一発たりともルイズに当たらないようにシャドウは大きく体を広げる。
一発ごとにその黒い体の表面が削られ、出来た穴から黄金の光が漏れる。
だが少しも怯むことなくシャドウはタバサを取り込んで強大なシャドウとなった雪の巨人へと向かっていく。
一歩踏みしめる度に地面が揺れ、一度吠えるごとに周囲のシャドウたちが身を竦ませる。
蒼の巨人と黒の巨人の一騎打ち、蒼の巨人が纏うオーロラの残像と黒の巨人の獣じみた動きから、見ようによってはその戦いは北欧神話の世界の終末に巻き起こる大神と狼の死闘にようだ。
――ルゥゥゥゥイズゥゥゥゥゥ!
そしてやはり勝ったのは今回も獣の方であった。
氷の槍に傷つけられながらも一切躊躇することなく黒の巨人は突き進み、爪とも鉄球とも分からない歪な手のひらで蒼の巨人の顔を木端微塵に粉砕した。
さらに一撃、もう一撃。
両手足を完膚なきまでに打ち砕き、最後にその心臓――タバサ……を抉りだす。
巨人は、ゆっくりとその華奢な体を両手で握りしめた。
ゆっくりと力を込めて行く、みしり、と骨が軋む音がする。
このままではタバサはまるで膨らませすぎた風船のように破裂するだろう、その光景を想像して思わずルイズは悲鳴を漏らす。
「やめて!!!」
やめた。
祈りはあっけなく凶暴なる破壊の化身に通じた。
巨人はまるで母親にしかられた子供のようにゆっくりとその両手の力を緩める、零れ落ちたタバサが地面に向かって頭から落ちて行く。
「タバサ!?」
はじき出されたタバサをヴァナディースが優しく抱きとめた、意識は失っているものの命に別状はないようだ。
胸を撫で下ろしたキュルケはそれに一瞬気づくのが遅れた。
傷だらけになった影の獣がこちらを振り返っている。
穴だらけになったその中身を見て、ルイズが驚愕に顔を歪ませている。
どうしたのよルイズ? そんな顔して……
一体何があったのか? とキュルケはルイズの見ている方向を見た。
黒い巨大なシャドウ。
シャドウと言う黒い殻が破れたそのなか、そこには一人の少年が蹲っている。
「ルイズ……」
黒い瞳に黒い髪、けして美形と言う訳ではないが不細工と言う訳でもない、けれど不思議な愛嬌のある童顔ぎみの顔。
その体を包むのはナイロンと綿で織られた青いパーカーだったモノ、もっともズタズタに引き裂かれて血で汚れきったそれを見てもとがなんであったのか分かるのはこの世でただ二人だけだろう。
傷だらけのその体に纏わりつくように影の糸が絡まり、まるで心臓のように脈打っている。
心臓と言えば、ヨトゥンと同じように巨大なシャドウのちょうど心臓の位置にその少年の体が位置しているのははたして偶然なのか?
「サイ……ト……?」
ルイズはその少年の名を、虚ろな目でただ「ルイズ」の名を呼び続ける少年の名を呟く。
絶望すら生ぬるい深い深い闇をその顔に刻んだ少年と同じ、まるで自分の一部のように慣れ親しんだ名前を。
「サイト!」
その瞬間、猛烈な頭痛に襲われルイズはその場にしゃがみこんだ。
――ふははは、滅びろ、滅びろ、ハルケギニアよ、ブリミルの残した遺産によって!
脳裏にフラッシュバックするのは幾多の光景、引き裂かれたガリアの王、始祖の焼印、第四の使い魔、悪魔の門、もう一つの月、大いなる封印、平賀才人、天へ至る道。
――さよなら、サイト。私の愛しい人
腕のなかで息絶える自分、サイトの慟哭、消える使い魔のしるし、四つの四の本当の意味。
――神様お願いします、もう一度、もう一度だけでいいからルイズに会わせてください! あの日に時間を戻して!
運命を嘲笑うものの助力と、虚無の呪文上級の上“時間門” そしてその身が砕け散るほどの後悔。
知るはずのない光景・知識がいくつもいくつも流れ込み、ルイズの脳は悲鳴をあげる。
それでもルイズは立ち上がって、まっすぐに前を見た。
虚ろな目をして、幼子のように自分の名を呼び続ける少年の姿を見た。
その胸で黄金に輝くルーン、記すことさえ憚られる虚無の使い魔最後の一人。
契約したはずがない、自分の使い魔はあのテレビだと言うのに。不思議な何かで繋がっているのを感じる。
私の使い魔、私の――サイト?
「サイトなの? 私の……」
「やめてくれ!」
夢見るように呟かれたルイズの声を遮ったのは、サイトの断末魔じみた悲鳴だった。
「見ないで、見ないでくれ……俺を、見ないでくれ……」
サイトの体から白い靄が立ち上る、その靄は瞬く間に部屋中を覆い尽くし、何もかも不確かな影へと沈める。
それは霧、あらゆるものを優しく覆い隠し、真実を遠ざけるもの。
「見るな、見るなぁぁぁぁ!」
その叫びと共にすべては霧に覆われ、サイトのものですらない言葉だけがこの場に残った。
「愚かな、何故“真実”などと言うものと暴きたてようとするのか」
まったく見知らぬ声が聞こえてきたことにキュルケとギーシュは驚き、声の主に問いかける。
「いきなり誰、あなたはなんなの!?」
声は答えた。
重厚なのに不確かで、穏やかなのに捉えどころがないそんな奇妙な声。
「私はアメノサギリ」
それは遠い世界に君臨する霧を司る神の名。
「霧を統べし者、人の意に呼び起されし者」
「そんな存在がなんでこんなところで出てくるんだ?」
その問いにキリノサギリは答えた。
「私はただ、何よりも真実を覆い隠すことを望むものの“願い”を手助けしていたに過ぎぬ」
霧の向こうで巨大ななにかが震える気配がする。
「我は覆い隠すもの、人が望みし偽りの現実、苛烈なる真実をまつろわせ、甘やかな欺瞞を与えしもの」
「“願い”って、それは一体……」
「愚かな、その“望み”を汝らが知ることすら彼の者に、そして汝らに耐えがたき痛みをもたらすと言うのに……」
僅かに視界を別の方向へ向けたような気配、アメノサギリは続けた。
「それほどまでに彼の者の痛みは深い、故にこそ誰よりも真実を隠す霧を望み、故にこそ我は人すべての大望よりも個の切望を優先させたのか」
さらにさらに深く深く、何もかもを隠す霧は広がっていく。
「すべては混迷たる霧の奥へ、去れ人の子よ」
その声の示すとおりすべては霧のなか。
ルイズの姿もサイトの姿も見えはしない、白い白い闇のなか。
せめてものつながりを求めるように、キュルケは腕のなかの小さなぬくもりを抱きしめた。
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