「蒼い使い魔-10」(2020/04/26 (日) 16:11:23) の最新版変更点
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#navi(蒼い使い魔)
「街に買い物に行くわよ」
「そうか、勝手にしろ」
決闘騒ぎから数日後、ルイズは休日である虚無の曜日であることを利用し
街へ買い物へ行こうとしていた。
バージルに対し主人らしいことをひとっつもしていないことを気がついたたルイズ、
ここはひとつバージルの気に入る物をプレゼントしご主人様としての株を上げる作戦に出ようとしたのだが…
「勝手にしろって!あんたも行くの!ついてきなさい!」
「なぜついていかねばならない、俺には関係ないだろう」
ご主人様らしい所を見せてやろうとしているのにこの男は…ッ!
そう思いながら拳を握り締めルイズは続ける。
「あ、あんたに剣の一本でもなんでも買ってやろうって思ってるのよ!」
「必要ない、俺には閻魔刀がある、これ以上あっても邪魔なだけだ」
とりつく島もない、だがご主人様としての株が賭かっているのだ、引き下がれない
「その剣怖いのよ!あんたもだけど、それ自体もなんか威圧感放ってるっていうか…、だから普通の剣の一本くらい」
「いらん」
「せ、せっかくご主人様があんたにプレゼントしようとしてるんだからありがたく受け取りなさいよっ!」
ルイズは軽く目尻に涙まで浮かべ始め、心なしか涙声にもなっている
「(この世界の武器のレベルを見るいい機会かもしれん、
魔法という概念がある以上そういった類の武器が存在する可能性もある)」
そう頭の中で打算したバージルが口を開いた。
「フン、気が変わった」
「えっ…?」
「貴様がどうしてもというなら行ってやらんこともない」
「なっ…!なんか役柄をとられたような気がしないでもないけど…。まぁ、いいわ、
い、いくなら早く準備しなさい!」
それから間もなくし、ルイズとバージルは学院の外へ出る
バージルにとっては初めての学院の外だが、当の本人はあまり興味がなさそうにしている
学院から街までは、馬で向かった。
バージルは馬に乗ったことがないらしく、扱いに四苦八苦していた、ルイズはそれを見て
使い魔に勝っている部分ができたと「はやくきなさいよ~」等、少しの優越感に浸っていた、
が、バージルもだんだん慣れて来たのか
数十分後には乗馬が得意なルイズに並ぶほどの乗馬技術を身につけていた
「あ、あんたやるわね…こんな短時間で…」
「フン…」
ルイズとバージルがそんなやり取りをしている頃、学院の学生寮では…
バージルから唯一ダウンを取ることができた人物、タバサは自室で本を読んでいた
彼女は休日の読書をなによりの楽しみにしていた、が、その楽しみはドアを突き破りそうな勢いで
部屋へと乱入して来た人物によって破られることになる。
「タバサ!今から出掛けるわよ!早く支度して頂戴!」 」
その声と共に部屋へ飛び込んで来たのはキュルケであった、相手がキュルケでは魔法でご退場というわけにはいかない
「虚無の曜日」
そう短く言うとタバサは視界を本に戻した
「あなたの邪魔をして悪いと思ってはいるわ!でもこれは恋なの!それも生きるか死ぬかの!」
キュルケは朝起きた後、昨日殺されかけていたのにも関わらずバージルにアプローチしようと
ルイズの部屋に行ったがもぬけのからだった。
偶然窓からバージルとルイズが馬で出て行くところを見たキュルケはすぐさまタバサ部屋に行き
今に至るというわけである。
「あぁもう!恋したのあたし!ほら使い魔のバージル!それであの人がにっくきヴァリエールと出掛けたの!
だからあたしはそれを追って突き止めなきゃいけないの!わかった?」
バージル、その単語を聞きタバサは僅かに反応する
「わかった」
そう短く言うと読んでいた本を仕舞い、準備をする
そんなに簡単に折れると思っていなかったキュルケはすこし驚きながらタバサに感謝をする
「あら、貴方にしてはずいぶん物分りがいいのね、とにかく馬に乗って出かけたのよ。
貴方の使い魔じゃなきゃ追いつかないのよ!助けて!」
タバサは何もいわずに準備をしている。
「ありがとう!じゃ、追いかけてくれるのね!」
タバサが了承したのはキュルケの頼みだから、というよりは純粋にバージルに興味を持ったからだ
その後2人は、タバサの使い魔、風竜、シルフィードでルイズ達を追った。
「ねぇ、バージル」
「…なんだ」
「あんた、元の世界に帰りたい、って思ってる?」
不意にルイズがバージルに元の世界のことを尋ねる
「それは契約を解除したい、そういうことか?」
「そっそうじゃないわよ!ただあまりにもあんたが元の世界のこと気にしないから…気になって…」
「ふん、そうだったらこっちも助かったんだがな」
詰まらなそうにバージルは言う、その冗談とも本気ともつかない表情を見てルイズはあわてる。
「なっ、なによ!私だって迷惑してるわよっ!でも―「俺は」」
ルイズは憎まれ口を叩こうとしたがバージルによって中断される。
「ここに来る前に元の世界で弟と殺し合いをした、今になって戻ろうと言う理由はない」
実際、ここに来るのがテメンニグル起動前なら、ルーンが刻まれていようがいまいが
ルイズ達学院の者を皆殺しにしてでも元の世界に帰ろうとしていただろう
だが、それもすべてダンテに阻まれた今、戻る理由がない。
ある意味ベストな時期にバージルを呼び出したのだ。
「そう…双子の弟と殺し合いって、どんな兄弟ゲンカよ…」
この男の双子の弟だ、性格は正反対と聞いていたが相当イカレた奴にちがいない、
こいつが二人いると思うだけで頭痛がする
そう思いバージルを見る、
ここ数日この男と生活を共にしてわかったことがある、
この男、一見優雅で知的だが中身は結構ブッ飛んでいる、
目的の為なら手段を選ばず、敵対する者にはまるで容赦がない、
しかもやたら強いから手に負えない、直接戦ったのがギーシュだけとはいえ
どう控え目に見てもトライアングルクラスが束になってかかっても相手にすらならないだろう
冷徹非情、傲岸不遜、傍若無人、そんな言葉がよく似合う、
だが自分の言うことはそこそこ聞いてくれるのが救いである
でなければ学院の生徒のうちは確実に何人かは死んでいる。
そう考えていると、ふとバージルが後方を睨んでいるのに気がついた
「どうしたの?」
「…どうやら蠅がとんでいるようだ」
「きゅいきゅい!?」
タバサ達が乗っているシルフィードが突如鳴き出す
「ど、どうしたのタバサ?その子の様子が…」
「シルフィードが怖がってる、彼がこっちを睨んでる」
「まさか!?この距離よ?」
実際タバサ達の視点からではルイズ達は豆粒ほどの大きさでしか認識できない
「多分、気付かれてる」
「あぁんダーリンったら素敵、私に気がついてくれたのね!」
と、クネクネしている友人を見てタバサはやれやれといった感じに首を振った。
「狭いな…」
街の大通り歩きながらバージルは吐き捨てるように言った
「これで狭いって、あんたのいた所はどうだったのよ?ここはトリステインでも有数の大きな街なのよ?」
そういって大通りをまっすぐ指差す
「この先にはトリステインの宮殿があるのよ、だから街として発展もしてるわけ」
そういいながら軽く街について説明をしていた。
「とりあえず、武器屋ね、こっちよ」
そう言いバージルを路地裏へ案内する、
路地裏は表通りにくらべ日も当たらなく不衛生だった。
歩きながら顔をしかめ「まるで掃き溜めだな…」と吐き捨てるようにバージルは言った、
「ここら辺は治安が良くないから、あまりここへは立ち寄りたくないのよね…」
そうルイズが呟く、そんな中事件は起こった。
二人が裏路地を進んでいると4人の男が道をふさいだ
「へっへっへ、貴族のお二人がた、ここを通るには通行りょ―『―シピィーン…!』」
男の一人がお決まりのセリフを言い終わる前に四人の首が同時に落ちる
男たちの体は首から上を失いながらもしばらく立ち続け、切り口から大量の血を噴出しながらバラバラになって崩れ落ちた。
「あぁ…あぁぁ…」
その様子をみたルイズは目の前でいきなり四人の男が斬殺されたショックで失神してしまった、
年頃の女の子にはいささかショックが大きすぎたのだろう、
バージルはルイズの襟首を倒れない様に掴むと、引きずるようにその場を後にした。
路地裏の殺害現場から離れた場所でバージルはルイズを起こす、
「あの程度で気を失うとは、情けない奴だ…」
「あぁ…うぅ…」そう呟きながらルイズは膝を抱え丸くなってしまった
そうだ、こいつが悪魔だということを完全に忘れていた。
まさか「邪魔だ」の一言もなしに全員斬り殺すとは…。
「さっさと行くぞ、時間の無駄だ」
「あんた…なんてことを…」
「ここは治安が悪いんだろう?ゴミ掃除をしたまでだ」
人を殺してもまるで何も感じていない、そんな冷徹な表情でバージルは言った。
一方そのころ、空の上では、その現場をばっちり目撃してしまったタバサとキュルケ
タバサはあいかわらずの無表情だったがキュルケは口元を押さえ軽く涙目になっていた
「タバサ…なんであんたあんなのみて平然としていられるの…」
「慣れてる」
「慣れてるって…、あんなの至近距離でみるなんて…絶対トラウマだわ…かわいそうにルイズ
ごめんタバサ…吐きそう…」
タバサは急ぎシルフィードを旋回させ街の外へと降りて行った。
今ので完全に憔悴しきったルイズに連れられバージルは武器屋へと入る
武器や入ると店主がパイプを吸っていたがルイズを見ると
あわてて猫なで声で対応した。
「旦那、貴族の旦那、うちは全うな商売してまさぁ、お上に目をつけられることなんか、
これっぽっちもありません…あの…顔色が悪いみたいですが大丈夫ですかい?」
「聞かないで、聞いたら吐くわよ、この場で、とにかくコイツに武器を見繕ってやって頂戴…。」
店内で嘔吐されちゃたまらない、と話を中断し、店主の親父はバージルを見ると
「これなんかどうですか?」と1.5メイルほどある豪奢な装飾がされた立派な剣を持って来た。
「これいいわね」とルイズも気に入ったようである。
「ねぇ、バージル、これにするわよ、いいわよね?」
「いらん、話にならん」
「そりゃあんたのそのヤマトとくらべるのは酷ってものよ、でもこれがいいの!ヤマトよりかっこいいじゃない!」
「ヤマト…ってなんですそりゃ?そちらの旦那が腰にさしてる剣ですかい?」
その会話内容に疑問をもったのか店主が聞いてくる、
「貴様には関け―「そうよ」」
ルイズに中断させられ、バージルはフンと鼻をならす
「しかし、旦那の持っている剣がどれほどすばらしいものであろうと、こちらの剣も負けちゃいません、
なんせ、かの有名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿が自ら鍛えた剣ですぜ!」
と必死に剣の売り込みをする店主を尻目にバージルは適当な剣を手に取って選んでいた。
「どれもこれも話にならん…」
そう呟きながら樽の中に適当に突っ込まれた剣を見ていく、そのうちの一本に手をかけた時
ふと声が響いて来た。
「なっなんだおめぇ!何モンだ!」
その声に怪訝な表情であたりを見回すバージル、
その様子に気がついたのかルイズも近寄ってくる
「…?」
「どこみてんだ!こっちだこっち!」
その声はバージルが掴んでいた錆びの浮いたボロボロの片刃の剣から聞こえて来た。
「(こいつみたいなのもテメンニグルにいた気がする)」
そう考えながら、ひとりでにカチャカチャと音を鳴らす剣を取り出す。
「それってインテリジェンス・ソード?」
ルイズが横から覗き込む
「へ、へぇ。誰が作ったか知りませんが、魔法で剣に意思を込めた魔剣、インテリジェンス・ソードでございまさ。
あいつは特に口が悪くて客と口げんかばかりして参ってるんですよ。」
そんな話を聞きながらバージルはインテリジェンス・ソードと呼ばれた剣を見る
錆が浮いているが造りはしっかりしてよく鍛えられている、バージルが振り回しても問題ないだろう、
だが片刃の剣なら閻魔刀で間に合っている、剣に話かける趣味もない。ガチャンッ!と無雑作に元の場所に放り投げる。
「帰るぞ」
「えっ、ちょっ!剣買わないの!?」
店の外へとさっさと行ってしまうバージルに向け投げ捨てた剣から懇願するような声が聞こえて来た
「まてまてまてまて!頼む待ってくれ!おめぇ『使い手』だろ!?だったら俺を買え!
いや買ってくれ!買ってください!このまま出番終わるなんていやだぁぁぁぁ!!!!」
と最後の方には意味が分からない発言まで飛び出す始末、
『使い手』という言葉に反応したのかバージルは踵を返し、剣を樽の中から引き出す
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ、お前さんの左手のルーンさ、なんだったかは忘れちまったが…そのうち思いだすだろ、
それに、俺はお前さんのことはよーくわかるぜ、なんせ『使い手』の剣だからな!」
そう思わせぶりに剣が話すと急に小声になる
「お前さん、人間じゃないだろ?」
その言葉を聞きバージルの眉がピクッと動く
「なぜそう思う」
「おっ、興味もってくれたね?握られただけでわかったぜ、おめぇさんに流れてるおっそろしい力がよ。
な?な?買ってみようぜ?損はさせないからさゼッタイ!」
そう言ってバージルを説得する、
ルーンのことを知っている口ぶり、こいつなら解除する方法を知っているかもしれない、
「わかった、貴様にしてやる」
「あぁ!よろしくな相棒!おれはデルフリンガーっていうんだ!デルフって呼んでくれ!」
説得に成功した剣―デルフリンガーはうれしそうに声を上げる。
「ちょ、ちょっと!ほんとうにそんなボロ剣でいいの?あっちのは?」
とルイズは少々不満そうだったが、バージルがこれでいい、と突っぱねたので渋々買うことにした。
「なんであんなボロ剣なのよ…ぜったいあっちのがいいじゃない…」
とブツブツ言っているルイズだったが、安く済んだので良しとする。
二人は大通りへ出ると、学院へ戻るために外へと向かう。
その途中「路地裏で男4人が惨殺される事件があった」という噂が聞こえ
ルイズはバージルの手を引っ張り足早に街を後にした。
二人が学院に戻ることにはすでに日も暮れ夜になっていた
ルイズは路地裏のことがトラウマになっているのかフラフラと学生寮の自室へと向かう
途中キュルケとばったり会い、口論になる…とおもわれたが、
キュルケもなぜか元気がなく逆に「今日はよく休んだ方がいいわ…」
と意味不明な気遣いをされた。
さて、二人の乙女の心に多大なトラウマを残した張本人、バージルは
広場へと出て静かにデルフを抜き放ち、地面へと突き立てる
「さて、貴様に聞きたいことがある」
「おお、相棒、忘れられてるとおもったぜ。いいぜ、なんでも聞いてくれ」
「このルーンはなんだ、どうやったら解除できる。この閻魔刀で斬ろうとすると体が動かなくなる」
「忘れた」
―チキッ!
「まったまったまったまった!思い出す!思い出すから!」
閻魔刀の音を聞いてデルフが震え上がる、この刀に斬られたらヤバイ
魔を宿す剣としての本能がそう告げていた。
「ええと、確か、そのルーンが刻まれるとすげー力が刻まれた者に与えられるんだ、確かな」
「"力"だと?」
バージルがその言葉に反応する
「あぁ、具体的には忘れちまったがな、なんせ6000年も生きてるんだ、しかたないだろう?
まぁ、そこは俺っちを実戦で使ってくれると思いだすかもな!」
「…」
その話を聞きバージルは静かに自分の左手のルーンを見る
「(このルーンが刻まれた者には力が授かる…)」
もちろんこのボロ剣の言うことを鵜呑みにするわけではない、
だがなにより純粋な力を求める者としてその話には興味がわいた。
「いやしかし、今回の相棒はまさか悪魔たぁね」
「わかるのか?」
そう言いながらバージルは背中にデルフを背負う
「あぁ、店でも言ったろう?相棒に流れるおっそろしい"力"、俺っちは剣だからな、
握られた相手のことは何となくわかるのさ」
「…悪魔?」
物陰から声がする
「……」
バージルはゆっくりと声がした方へ向き直る
そこには自分の背丈よりも長い杖を携えた
青い髪と瞳を持つ小柄な少女がいた
「貴様は…」
バージルの脳裏に初日に受けた魔法がフラッシュバックする
「タバサ」
「フン、盗み聞きとは、いい趣味だな」 ―チャキッ!と閻魔刀の音が広場へと響く
「そんなつもりじゃなかった、気に障ったのなら謝る」
どうみても穏やかじゃない雰囲気のなかタバサが静かに口を開く
「あなたは…悪魔?」
「だからなんだ、貴様には関係がない、ところで…なんの用だ」
「あなたと手合せをしてみたい」
「なんだと?」
少女の口から出て来たとんでもない一言にバージルは少し驚く
ただでさえ険悪な雰囲気がさらに悪化する
「あなたと戦えば、得られるものは多い」
そう言いながら杖を構える
数多くの危険な任務に携わり、今まで生き抜いて来たし、これからもそうしなければならない
この目の前の男と戦えば自身を強くする近道にもなる、しかもこの男は信じがたい事に悪魔だと言う、これ以上ない相手だ
そう考えタバサはバージルに手合せを挑んだのだ。
そんなタバサをみてバージルは口元を歪める、
「相手との力量の差も測れんとは…愚かな女だ…いいだろう、貴様には借りがある、少し遊んでやる」
そう言うと閻魔刀の柄に手をかけた。
#navi(蒼い使い魔)
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#navi(蒼い使い魔)
「街に買い物に行くわよ」
「そうか、勝手にしろ」
決闘騒ぎから数日後、ルイズは休日である虚無の曜日であることを利用し
街へ買い物へ行こうとしていた。
バージルに対し主人らしいことをひとっつもしていないことを気がついたたルイズ、
ここはひとつバージルの気に入る物をプレゼントしご主人様としての株を上げる作戦に出ようとしたのだが…
「勝手にしろって!あんたも行くの!ついてきなさい!」
「なぜついていかねばならない、俺には関係ないだろう」
ご主人様らしい所を見せてやろうとしているのにこの男は…ッ!
そう思いながら拳を握り締めルイズは続ける。
「あ、あんたに剣の一本でもなんでも買ってやろうって思ってるのよ!」
「必要ない、俺には閻魔刀がある、これ以上あっても邪魔なだけだ」
とりつく島もない、だがご主人様としての株が賭かっているのだ、引き下がれない
「その剣怖いのよ!あんたもだけど、それ自体もなんか威圧感放ってるっていうか…、だから普通の剣の一本くらい」
「いらん」
「せ、せっかくご主人様があんたにプレゼントしようとしてるんだからありがたく受け取りなさいよっ!」
ルイズは軽く目尻に涙を浮かべ始め、訳のわからない事をいいだした。心なしか涙声にもなっている。
「(この世界の武器のレベルを見るいい機会かもしれん、
魔法という概念がある以上そういった類の武器が存在する可能性もある)」
そう頭の中で打算したバージルが口を開いた。
「フン、気が変わった」
「えっ…?」
「貴様がどうしてもというなら行ってやらんこともない」
「なっ…!なんか役柄をとられたような気がしないでもないけど…。まぁ、いいわ、
い、いくなら早く準備しなさい!」
それから間もなくし、ルイズとバージルは学院の外へ出る
バージルにとっては初めての学院の外だが、当の本人はあまり興味がなさそうにしている
学院から街までは、馬で向かった。
バージルは馬に乗ったことがないらしく、扱いに四苦八苦していた、ルイズはそれを見て
使い魔に勝っている部分ができたと「はやくきなさいよ~」等、少しの優越感に浸っていた、
が、バージルもだんだん慣れて来たのか
数十分後には乗馬が得意なルイズに並ぶほどの乗馬技術を身につけていた
「あ、あんたやるわね…こんな短時間で…」
「フン…」
ルイズとバージルがそんなやり取りをしている頃、学院の学生寮では…
バージルから唯一ダウンを取ることができた人物、タバサは自室で本を読んでいた
彼女は休日の読書をなによりの楽しみにしていた、が、その楽しみはドアを突き破りそうな勢いで
部屋へと乱入して来た人物によって破られることになる。
「タバサ!今から出掛けるわよ!早く支度して頂戴!」 」
その声と共に部屋へ飛び込んで来たのはキュルケであった、相手がキュルケでは魔法でご退場というわけにはいかない
「虚無の曜日」
そう短く言うとタバサは視界を本に戻した
「あなたの邪魔をして悪いと思ってはいるわ!でもこれは恋なの!それも生きるか死ぬかの!」
キュルケは朝起きた後、昨日殺されかけていたのにも関わらずバージルにアプローチしようと
ルイズの部屋に行ったがもぬけのからだった。
偶然窓からバージルとルイズが馬で出て行くところを見たキュルケはすぐさまタバサ部屋に行き
今に至るというわけである。
「あぁもう!恋したのあたし!ほら使い魔のバージル!それであの人がにっくきヴァリエールと出掛けたの!
だからあたしはそれを追って突き止めなきゃいけないの!わかった?」
バージル、その単語を聞きタバサは僅かに反応する
「わかった」
そう短く言うと読んでいた本を仕舞い、準備をする
そんなに簡単に折れると思っていなかったキュルケはすこし驚きながらタバサに感謝をする
「あら、貴方にしてはずいぶん物分りがいいのね、とにかく馬に乗って出かけたのよ。
貴方の使い魔じゃなきゃ追いつかないのよ!助けて!」
タバサは何もいわずに準備をしている。
「ありがとう!じゃ、追いかけてくれるのね!」
タバサが了承したのはキュルケの頼みだから、というよりは純粋にバージルに興味を持ったからだ
その後2人は、タバサの使い魔、風竜、シルフィードでルイズ達を追った。
「ねぇ、バージル」
「…なんだ」
「あんた、元の世界に帰りたい、って思ってる?」
不意にルイズがバージルに元の世界のことを尋ねる
「それは契約を解除したい、そういうことか?」
「そっそうじゃないわよ!ただあまりにもあんたが元の世界のこと気にしないから…気になって…」
「ふん、そうだったらこっちも助かったんだがな」
詰まらなそうにバージルは言う、その冗談とも本気ともつかない表情を見てルイズはあわてる。
「なっ、なによ!私だって迷惑してるわよっ!でも―「俺は」」
ルイズは憎まれ口を叩こうとしたがバージルによって中断される。
「ここに来る前に元の世界で弟と殺し合いをした、今になって戻ろうと言う理由はない」
実際、ここに来るのがテメンニグル起動前なら、ルーンが刻まれていようがいまいが
ルイズ達学院の者を皆殺しにしてでも元の世界に帰ろうとしていただろう
だが、それもすべてダンテに阻まれた今、戻る理由がない。
ある意味ベストな時期にバージルを呼び出したのだ。
「そう…双子の弟と殺し合いって、どんな兄弟ゲンカよ…」
この男の双子の弟だ、性格は正反対と聞いていたが相当イカレた奴にちがいない、
こいつが二人いると思うだけで頭痛がする
そう思いバージルを見る、
ここ数日この男と生活を共にしてわかったことがある、
この男、一見優雅で知的だが中身は結構ブッ飛んでいる、
目的の為なら手段を選ばず、敵対する者にはまるで容赦がない、
しかもやたら強いから手に負えない、直接戦ったのがギーシュだけとはいえ
どう控え目に見てもトライアングルクラスが束になってかかっても相手にすらならないだろう
冷徹非情、傲岸不遜、傍若無人、そんな言葉がよく似合う、
だが自分の言うことはそこそこ聞いてくれるのが救いである
でなければ学院の生徒のうちは確実に何人かは死んでいる。
そう考えていると、ふとバージルが後方を睨んでいるのに気がついた
「どうしたの?」
「…どうやら蠅がとんでいるようだ」
「きゅいきゅい!?」
タバサ達が乗っているシルフィードが突如鳴き出す
「ど、どうしたのタバサ?その子の様子が…」
「シルフィードが怖がってる、彼がこっちを睨んでる」
「まさか!?この距離よ?」
実際タバサ達の視点からではルイズ達は豆粒ほどの大きさでしか認識できない
「多分、気付かれてる」
「あぁんダーリンったら素敵、私に気がついてくれたのね!」
と、クネクネしている友人を見てタバサはやれやれといった感じに首を振った。
「狭いな…」
街の大通り歩きながらバージルは吐き捨てるように言った
「これで狭いって、あんたのいた所はどうだったのよ?ここはトリステインでも有数の大きな街なのよ?」
そういって大通りをまっすぐ指差す
「この先にはトリステインの宮殿があるのよ、だから街として発展もしてるわけ」
そういいながら軽く街について説明をしていた。
「とりあえず、武器屋ね、こっちよ」
そう言いバージルを路地裏へ案内する、
路地裏は表通りにくらべ日も当たらなく不衛生だった。
歩きながら顔をしかめ「まるで掃き溜めだな…」と吐き捨てるようにバージルは言った、
「ここら辺は治安が良くないから、あまりここへは立ち寄りたくないのよね…」
そうルイズが呟く、そんな中事件は起こった。
二人が裏路地を進んでいると4人の男が道をふさいだ
「へっへっへ、貴族のお二人がた、ここを通るには通行りょ―『―シピィーン…!』」
男の一人がお決まりのセリフを言い終わる前に四人の首が同時に落ちる
男たちの体は首から上を失いながらもしばらく立ち続け、切り口から大量の血を噴出しながらバラバラになって崩れ落ちた。
「あぁ…あぁぁ…」
その様子をみたルイズは目の前でいきなり四人の男が斬殺されたショックで失神してしまった、
年頃の女の子にはいささかショックが大きすぎたのだろう、
バージルはルイズの襟首を倒れない様に掴むと、引きずるようにその場を後にした。
路地裏の殺害現場から離れた場所でバージルはルイズを起こす、
「あの程度で気を失うとは、情けない奴だ…」
「あぁ…うぅ…」そう呟きながらルイズは膝を抱え丸くなってしまった
そうだ、こいつが悪魔だということを完全に忘れていた。
まさか「邪魔だ」の一言もなしに全員斬り殺すとは…。
「さっさと行くぞ、時間の無駄だ」
「あんた…なんてことを…」
「ここは治安が悪いんだろう?ゴミ掃除をしたまでだ」
人を殺してもまるで何も感じていない、そんな冷徹な表情でバージルは言った。
一方そのころ、空の上では、その現場をばっちり目撃してしまったタバサとキュルケ
タバサはあいかわらずの無表情だったがキュルケは口元を押さえ軽く涙目になっていた
「タバサ…なんであんたあんなのみて平然としていられるの…」
「慣れてる」
「慣れてるって…、あんなの至近距離でみるなんて…絶対トラウマだわ…かわいそうにルイズ
ごめんタバサ…吐きそう…」
タバサは急ぎシルフィードを旋回させ街の外へと降りて行った。
今ので完全に憔悴しきったルイズに連れられバージルは武器屋へと入る
武器や入ると店主がパイプを吸っていたがルイズを見ると
あわてて猫なで声で対応した。
「旦那、貴族の旦那、うちは全うな商売してまさぁ、お上に目をつけられることなんか、
これっぽっちもありません…あの…顔色が悪いみたいですが大丈夫ですかい?」
「聞かないで、聞いたら吐くわよ、この場で、とにかくコイツに武器を見繕ってやって頂戴…。」
店内で嘔吐されちゃたまらない、と話を中断し、店主の親父はバージルを見ると
「これなんかどうですか?」と1.5メイルほどある豪奢な装飾がされた立派な剣を持って来た。
「これいいわね」とルイズも気に入ったようである。
「ねぇ、バージル、これにするわよ、いいわよね?」
「いらん、話にならん」
「そりゃあんたのそのヤマトとくらべるのは酷ってものよ、でもこれがいいの!ヤマトよりかっこいいじゃない!」
「ヤマト…ってなんですそりゃ?そちらの旦那が腰にさしてる剣ですかい?」
その会話内容に疑問をもったのか店主が聞いてくる、
「貴様には関け―「そうよ」」
ルイズに中断させられ、バージルはフンと鼻をならす
「しかし、旦那の持っている剣がどれほどすばらしいものであろうと、こちらの剣も負けちゃいません、
なんせ、かの有名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿が自ら鍛えた剣ですぜ!」
と必死に剣の売り込みをする店主を尻目にバージルは適当な剣を手に取って選んでいた。
「どれもこれも話にならん…」
そう呟きながら樽の中に適当に突っ込まれた剣を見ていく、そのうちの一本に手をかけた時
ふと声が響いて来た。
「なっなんだおめぇ!何モンだ!」
その声に怪訝な表情であたりを見回すバージル、
その様子に気がついたのかルイズも近寄ってくる
「…?」
「どこみてんだ!こっちだこっち!」
その声はバージルが掴んでいた錆びの浮いたボロボロの片刃の剣から聞こえて来た。
「(こいつみたいなのもテメンニグルにいた気がする)」
そう考えながら、ひとりでにカチャカチャと音を鳴らす剣を取り出す。
「それってインテリジェンス・ソード?」
ルイズが横から覗き込む
「へ、へぇ。誰が作ったか知りませんが、魔法で剣に意思を込めた魔剣、インテリジェンス・ソードでございまさ。
あいつは特に口が悪くて客と口げんかばかりして参ってるんですよ。」
そんな話を聞きながらバージルはインテリジェンス・ソードと呼ばれた剣を見る
錆が浮いているが造りはしっかりしてよく鍛えられている、バージルが振り回しても問題ないだろう、
だが片刃の剣なら閻魔刀で間に合っている、剣に話かける趣味もない。ガチャンッ!と無雑作に元の場所に放り投げる。
「帰るぞ」
「えっ、ちょっ!剣買わないの!?」
店の外へとさっさと行ってしまうバージルに向け投げ捨てた剣から懇願するような声が聞こえて来た
「まてまてまてまて!頼む待ってくれ!おめぇ『使い手』だろ!?だったら俺を買え!
いや買ってくれ!買ってください!このまま出番終わるなんていやだぁぁぁぁ!!!!」
と最後の方には意味が分からない発言まで飛び出す始末、
『使い手』という言葉に反応したのかバージルは踵を返し、剣を樽の中から引き出す
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ、お前さんの左手のルーンさ、なんだったかは忘れちまったが…そのうち思いだすだろ、
それに、俺はお前さんのことはよーくわかるぜ、なんせ『使い手』の剣だからな!」
そう思わせぶりに剣が話すと急に小声になる
「お前さん、人間じゃないだろ?」
その言葉を聞きバージルの眉がピクッと動く
「なぜそう思う」
「おっ、興味もってくれたね?握られただけでわかったぜ、おめぇさんに流れてるおっそろしい力がよ。
な?な?買ってみようぜ?損はさせないからさゼッタイ!」
そう言ってバージルを説得する、
ルーンのことを知っている口ぶり、こいつなら解除する方法を知っているかもしれない、
「わかった、貴様にしてやる」
「あぁ!よろしくな相棒!おれはデルフリンガーっていうんだ!デルフって呼んでくれ!」
説得に成功した剣―デルフリンガーはうれしそうに声を上げる。
「ちょ、ちょっと!ほんとうにそんなボロ剣でいいの?あっちのは?」
とルイズは少々不満そうだったが、バージルがこれでいい、と突っぱねたので渋々買うことにした。
「なんであんなボロ剣なのよ…ぜったいあっちのがいいじゃない…」
とブツブツ言っているルイズだったが、安く済んだので良しとする。
二人は大通りへ出ると、学院へ戻るために外へと向かう。
その途中「路地裏で男4人が惨殺される事件があった」という噂が聞こえ
ルイズはバージルの手を引っ張り足早に街を後にした。
二人が学院に戻ることにはすでに日も暮れ夜になっていた
ルイズは路地裏のことがトラウマになっているのかフラフラと学生寮の自室へと向かう
途中キュルケとばったり会い、口論になる…とおもわれたが、
キュルケもなぜか元気がなく逆に「今日はよく休んだ方がいいわ…」
と意味不明な気遣いをされた。
さて、二人の乙女の心に多大なトラウマを残した張本人、バージルは
広場へと出て静かにデルフを抜き放ち、地面へと突き立てる
「さて、貴様に聞きたいことがある」
「おお、相棒、忘れられてるとおもったぜ。いいぜ、なんでも聞いてくれ」
「このルーンはなんだ、どうやったら解除できる。この閻魔刀で斬ろうとすると体が動かなくなる」
「忘れた」
―チキッ!
「まったまったまったまった!思い出す!思い出すから!」
閻魔刀の音を聞いてデルフが震え上がる、この刀に斬られたらヤバイ
魔を宿す剣としての本能がそう告げていた。
「ええと、確か、そのルーンが刻まれるとすげー力が刻まれた者に与えられるんだ、確かな」
「"力"だと?」
バージルがその言葉に反応する
「あぁ、具体的には忘れちまったがな、なんせ6000年も生きてるんだ、しかたないだろう?
まぁ、そこは俺っちを実戦で使ってくれると思いだすかもな!」
「…」
その話を聞きバージルは静かに自分の左手のルーンを見る
「(このルーンが刻まれた者には力が授かる…)」
もちろんこのボロ剣の言うことを鵜呑みにするわけではない、
だがなにより純粋な力を求める者としてその話には興味がわいた。
「いやしかし、今回の相棒はまさか悪魔たぁね」
「わかるのか?」
そう言いながらバージルは背中にデルフを背負う
「あぁ、店でも言ったろう?相棒に流れるおっそろしい"力"、俺っちは剣だからな、
握られた相手のことは何となくわかるのさ」
「…悪魔?」
物陰から声がする
「……」
バージルはゆっくりと声がした方へ向き直る
そこには自分の背丈よりも長い杖を携えた
青い髪と瞳を持つ小柄な少女がいた
「貴様は…」
バージルの脳裏に初日に受けた魔法がフラッシュバックする
「タバサ」
「フン、盗み聞きとは、いい趣味だな」 ―チャキッ!と閻魔刀の音が広場へと響く
「そんなつもりじゃなかった、気に障ったのなら謝る」
どうみても穏やかじゃない雰囲気のなかタバサが静かに口を開く
「あなたは…悪魔?」
「だからなんだ、貴様には関係がない、ところで…なんの用だ」
「あなたと手合せをしてみたい」
「なんだと?」
少女の口から出て来たとんでもない一言にバージルは少し驚く
ただでさえ険悪な雰囲気がさらに悪化する
「あなたと戦えば、得られるものは多い」
そう言いながら杖を構える
数多くの危険な任務に携わり、今まで生き抜いて来たし、これからもそうしなければならない
この目の前の男と戦えば自身を強くする近道にもなる、しかもこの男は信じがたい事に悪魔だと言う、これ以上ない相手だ
そう考えタバサはバージルに手合せを挑んだのだ。
そんなタバサをみてバージルは口元を歪める、
「相手との力量の差も測れんとは…愚かな女だ…いいだろう、貴様には借りがある、少し遊んでやる」
そう言うと閻魔刀の柄に手をかけた。
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