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「UM☆アルティメットメイジ 第3話 前編」(2008/08/11 (月) 20:01:10) の最新版変更点
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UM☆アルティメットメイジ 第3話 【無能王の国大爆発5秒前!】
~ イーヴァルディは竜の住む洞窟までやってきました。
従者や仲間たちは、入り口で怯え始めました。
猟師の一人が、イーヴァルディに言いました。
「引き返そう。竜を起こしたら、おれたちみんな死んでしまうぞ。お前は竜の怖さを知らないのだ。」
イーヴァルディは言いました。
「ぼくだって怖いさ」
「だったら正直になればいい」
「でも、怖さに負けたら、ぼくはぼくじゃなくなる。そのほうが、竜に噛み殺される何倍も怖いのさ。」 ~
アーハンブラ城の一室に、少女の透き通るような声が響き渡る。
青髪の少女・タバサが読み上げている本のタイトルは【イーヴァルディの勇者】
幼い頃、母の膝の上で聞いた冒険譚。
そして今や、自分と、心の均衡を崩した母とを繋ぐ、唯一の架け橋であった。
タバサが回想する。幼い頃の自分。
物語の中の囚われの姫を演じ、自分を救い出してくれる勇者の存在を夢想した日々。
今、囚われの身となって、再びこの本を手にする時、
当時とはまた違った感慨が湧き上がるのを、意識せずにはいられなかった。
なぜなら彼女は、つい数週間前まで【イーヴァルディ】の名を持つ二人の少女と旅をしていたのだから・・・。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール ―。
名門の重責と自己のコンプレックスに悩みながらも、内にある凛とした精神を磨き続ける、本物の貴族。
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー ―。
自由で奔放な気質の中に、誰よりも深い母性を秘めた、タバサの憧れ。
春の日のアクシデントより、様々な事件に巻き込まれる事となった3人。
怪盗フーケ退治。そして、アルビオンでの冒険―。
現実は、必ずしも物語のようにうまくは行かなかったが、
二人は持ち前の誇り高い魂で、自分自身の運命を切り開いていった。
抑圧された人生を歩み続けたタバサにとって、彼女たちは数少ない、そして、最高の友人であった。
しかし―。
タバサの思考が翳る。
果たして自分は、彼らにふさわしい友人足りえただろうか?
こんな問いを口にすれば、彼女達はあきれ返るでろう。あるいは真剣に怒り出すかも知れない。
だが、タバサは彼女達との間に存在する、一線を乗り越えるための『禊』を、結局果たすことは出来なかった。
しかも、自らを襲った人生最大の危機に際し、二人に相談することなく学院を後にしたのだ。
その結果待ち受けていたのが、今回の虜囚である。
仮に、同じ事をキュルケがしたならば、自分の心はひどく傷ついていただろう。
自らの命を賭けてでも友の力になりたいと思うのは、当然の感情である。
そういう意味で、やはりタバサには、彼女達の友人を名乗る資格がないように思えた。
・
・
・
「その本がいたく気に入ったようだな」
男の声が、タバサの思考を現実へと引き戻す。
室内に入ってきたのは、エルフの実力者、ビダーシャル。
人類全ての仇敵にして、タバサの宿敵、現ガリア王・ジョゼフ一世の協力者。
エルフの言に答えることも振り向くこともせず、タバサは淡々と朗読を続ける。
「薬が明日 完成する」
タバサは答えない。
薬・・・かつて母の心を壊した、エルフの秘薬。
「お前がお前でいられるのは 明日まで・・・ と言いたいところだが
あるいは 延期になるかもしれんな」
「・・・?」
意味を汲み取ることの出来ないエルフの言葉に、初めてタバサが顔を上げる。
「客人だ」
それだけ言うと、ビダーシャルはただ、じっと窓の方を見つめる。
タバサが視線を向けたその先にいたのは、彼女の『友人』。
腕組み仁王立ちで立ちはだかる、桃色髪の巨人であった。
「聞きなさい! 卑劣なる無能王と その走狗ども!
暴虐の牙に掛かったシャルロット母子を救い出すため!
そして 彼女達の名誉のため!
このアルティメットメイジが アンタ達外道を一人残らず成敗してくれるわ!!」
・
・
・
普段、何の娯楽もない廃城の事である。
巨大な訪問者を前に、城中の兵士達が、任務半分、怖いもの見たさ半分で集まりだす。
「・・・あなたは 行かなくていいの?」
「陽動だ」
タバサの質問に対し、淡々とビダーシャルが答える。
「あの巨人は 地上に居られる時間が限られていると聞いている
ならば 人質の居場所も分からないうちに 姿を見せるハズがない
他に協力者がいない限りは だがな」
タバサが内心で舌を巻く。
ジョゼフからの情報なのか、敵は自分たちの事を、かなりの所まで調べ上げていた。
やがて、ビダーシャルの推理を裏付けるかのように、奇妙な点滅音が周囲に響きだす。
『イカン! ルイズ! もう時間がない!!』
「んなッ!? バ バカじゃないの!! 戦いはまだ始まってもいないのよ!!」
『そう思うなら 2分45秒も前口上を述べるな!!』
突然始まったストリップショーに、兵士達のテンションが跳ね上がる。
より間近で観戦しようと、全軍が城門に集結し、暴徒の如くルイズに迫る。
『安心しろ! ルイズ 作戦は今の所 順調に進行しているぞ!』
「こんな作戦ッ!! い や あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! !」
ボオオォォオオォォン!! ―と、
興奮のるつぼと化したアーハンブラ城の入口で、巨大な閃光が炸裂した。
「・・・これで巨人と引き換えに アーハンブラ城は無力化した
今頃は 彼女の協力者が 無人の城内を駆け回っている頃か」
「・・・・・・」
窓の外で起こった惨劇(あるいは喜劇)に対しても、ビダーシャルは眉ひとつ動かさない。
その冷静な分析は、タバサの予測とも合致する所であった。
眼前のエルフの恐ろしさを知るタバサにとって、外れてほしい予測ではあったが・・・。
やがて、階段を駆け上る軽快な足音が室内に響きだし、直後、入口の扉が乱暴に蹴破られた。
「タバサ!!」
室内に飛び込んできたのは、彼女のもう一人の友人、キュルケ。
「予想通りとはいえ随分早い 見事な手管だな」
「・・・ッ! エルフ!!」
室内に強敵を認めたキュルケは、彼女らしい即断で詠唱を始める。
「ダメッ!? キュルケ!!」
「!?」
タバサの叫びを聞いたキュルケは、反射的に身をよじらせながら火球を放つ。
エルフを捉えたかに見えた炎は、目標の眼前で大きくターンし、直前まで彼女がいた空間を通過して燃え尽きた。
「炎を・・・ 跳ね返した・・・?」
「先住魔法・・・ 威力の大小に関わらず ソイツは魔法を・・・ 攻撃を跳ね返すことが出来る」
驚きの声を上げるキュルケに、押さえの利いた声でタバサが答える。
メイジの中でも屈指の力量を持つ彼女が返り討ちに遭ったのも、この力を知らなかったためだった。
「私にも約束があるのでな 彼女達を渡すことは出来ん
争いは好まぬ 去れ 蛮人よ」
力を誇るでもなく、淡々と自分の要求をするビダーシャル
フン、とキュルケが鼻を鳴らす。
「こっちもガキの使いじゃあないのよ
囚われの姫様を目前にして すごすごと引き返せやしないわよ!」
「・・・ならば どうすると言うのだ?」
キュルケの軽口に答えつつも、ビダーシャルの意識は入口の方へと向けられていた。
エルフの繊細な耳は、階段を駆け上がってくるもうひとつの足音を拾っていた。
彼女の協力者、おそらくはメイジが一人、あと数秒のうちに室内に飛び込んで来るであろう。
眼前の少女も、それに合わせて仕掛けてくるに違いない。
老練なエルフは、油断無く次の動きに備えていた。
― が、
「お姉さまあぁ~!」
飛び込んできた少女はメイジでは無く、そもそも人間ですら無かった。
囚われの少女・タバサの使い魔、韻竜のシルフィード。
エルフの慧眼は、少女の姿がかりそめの物である事を即座に見抜き・・・ゆえに意表を突かれる形となった。
一方のシルフィードは、エルフの姿など目に入らないかのように、一直線に主の下へと駆けていく。
敵の心が乱れた一瞬を突き、室内の二人の少女も動き出していた。
驚くべきことに、キュルケは唯一の武器である杖をビダーシャルの真上に放り、自らは部屋の隅へと跳んだ。
だが、ビダーシャルをさらに驚愕かせたのは、背後にいたタバサの行動である。
彼女は、大切な母親をキュルケ目掛けて思い切り突き飛ばすと、宙を舞う杖に向かって跳ねたのだ。
丁度ふたりの間で、得物と人質を交換した形である。
ビダーシャルが積極的に動いていれば、丸腰のキュルケを討つ事も、頭上を通過する杖を受け止める事も可能な状況だった。
だが、理性に従うエルフは、3人の少女の“暴挙”の意図を、ただ慎重に分析するしかなかった。
「・・・なるほど」
即座に状況を確認したビダーシャルが、ゆっくりと振り返る。
背後の赤毛の少女は、隙をみて逃走を計るであろうが、やむを得ない判断である。
どの道、丸腰のメイジが、足手まといとなる人質を連れて逃げおおせるものではない。
まずは、眼前の少女の魔法を封ずる事に、全神経を注がねばならなかった。
青髪の少女は、既に詠唱を始めていた。
「で これからどうするのだ? 私にお前の力が通じぬ事は・・・」
「お前は狙わない!」
エルフの言葉を遮りながら、タバサが杖を振るう。
超局所的な竜巻が少女の周囲に展開し、
生じた真空の刃が、前方の床を、背後の壁を、正確に分断していく。
タバサとシルフィードのいる空間だけが、部屋からばっくりと切り取られ、やがて、緩やかに落下を始める。
「な・・・」
ビダーシャルは今度こそ驚きの声を漏らした。
少女の恐るべき力量を高く評価し、十分に警戒していた彼だったが、その力を逃走に使う事は想定外であった。
崩れ落ちる室内から、使い魔を抱えたタバサが飛び出す。
キュルケが即座に自分の意図を理解してくれた事に、胸が熱くなる彼女であったが、いつまでも感激してはいられない。
母と友人を救うため、タバサは最後の切り札を切る必要があった。
『そこかぁーッ!』
降り注ぐ瓦礫を縫うようにして、彼方から、タバサの【切り札】が飛んでくる。
『掴まれ!! タバサ!』
【切り札】が如意棒を伸ばす。
いつかの日とは異なり、タバサは迷う事なく、ソレに右手を伸ばした。
やがて、真っ白なエナジーのほどばしりと共に、落下が緩やかになっていく。
何か、暖かい物に包まれながら、3人の細胞が、感情が、魂が溶け合い、混ざり合う。
『うおおおおおッ!! 燃え上がれ! 俺の小宇宙!!』
「きゅ!? きゅいぃぃ~ん!? お おねぇさまぁ~!」
「すごい・・・ スゴすぎる・・・ これが・・・ こ れ が 合 体 ・・・!」
#navi(UM☆アルティメットメイジ)
#navi(UM☆アルティメットメイジ)
UM☆アルティメットメイジ 第3話 【無能王の国大爆発5秒前!】
~ イーヴァルディは竜の住む洞窟までやってきました。
従者や仲間たちは、入り口で怯え始めました。
猟師の一人が、イーヴァルディに言いました。
「引き返そう。竜を起こしたら、おれたちみんな死んでしまうぞ。お前は竜の怖さを知らないのだ。」
イーヴァルディは言いました。
「ぼくだって怖いさ」
「だったら正直になればいい」
「でも、怖さに負けたら、ぼくはぼくじゃなくなる。そのほうが、竜に噛み殺される何倍も怖いのさ。」 ~
アーハンブラ城の一室に、少女の透き通るような声が響き渡る。
青髪の少女・タバサが読み上げている本のタイトルは【イーヴァルディの勇者】
幼い頃、母の膝の上で聞いた冒険譚。
そして今や、自分と、心の均衡を崩した母とを繋ぐ、唯一の架け橋であった。
タバサが回想する。幼い頃の自分。
物語の中の囚われの姫を演じ、自分を救い出してくれる勇者の存在を夢想した日々。
今、囚われの身となって、再びこの本を手にする時、
当時とはまた違った感慨が湧き上がるのを、意識せずにはいられなかった。
なぜなら彼女は、つい数週間前まで【イーヴァルディ】の名を持つ二人の少女と旅をしていたのだから・・・。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール ―。
名門の重責と自己のコンプレックスに悩みながらも、内にある凛とした精神を磨き続ける、本物の貴族。
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー ―。
自由で奔放な気質の中に、誰よりも深い母性を秘めた、タバサの憧れ。
春の日のアクシデントより、様々な事件に巻き込まれる事となった3人。
怪盗フーケ退治。そして、アルビオンでの冒険―。
現実は、必ずしも物語のようにうまくは行かなかったが、
二人は持ち前の誇り高い魂で、自分自身の運命を切り開いていった。
抑圧された人生を歩み続けたタバサにとって、彼女たちは数少ない、そして、最高の友人であった。
しかし―。
タバサの思考が翳る。
果たして自分は、彼らにふさわしい友人足りえただろうか?
こんな問いを口にすれば、彼女達はあきれ返るでろう。あるいは真剣に怒り出すかも知れない。
だが、タバサは彼女達との間に存在する、一線を乗り越えるための『禊』を、結局果たすことは出来なかった。
しかも、自らを襲った人生最大の危機に際し、二人に相談することなく学院を後にしたのだ。
その結果待ち受けていたのが、今回の虜囚である。
仮に、同じ事をキュルケがしたならば、自分の心はひどく傷ついていただろう。
自らの命を賭けてでも友の力になりたいと思うのは、当然の感情である。
そういう意味で、やはりタバサには、彼女達の友人を名乗る資格がないように思えた。
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「その本がいたく気に入ったようだな」
男の声が、タバサの思考を現実へと引き戻す。
室内に入ってきたのは、エルフの実力者、ビダーシャル。
人類全ての仇敵にして、タバサの宿敵、現ガリア王・ジョゼフ一世の協力者。
エルフの言に答えることも振り向くこともせず、タバサは淡々と朗読を続ける。
「薬が明日 完成する」
タバサは答えない。
薬・・・かつて母の心を壊した、エルフの秘薬。
「お前がお前でいられるのは 明日まで・・・ と言いたいところだが
あるいは 延期になるかもしれんな」
「・・・?」
意味を汲み取ることの出来ないエルフの言葉に、初めてタバサが顔を上げる。
「客人だ」
それだけ言うと、ビダーシャルはただ、じっと窓の方を見つめる。
タバサが視線を向けたその先にいたのは、彼女の『友人』。
腕組み仁王立ちで立ちはだかる、桃色髪の巨人であった。
「聞きなさい! 卑劣なる無能王と その走狗ども!
暴虐の牙に掛かったシャルロット母子を救い出すため!
そして 彼女達の名誉のため!
このアルティメットメイジが アンタ達外道を一人残らず成敗してくれるわ!!」
・
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普段、何の娯楽もない廃城の事である。
巨大な訪問者を前に、城中の兵士達が、任務半分、怖いもの見たさ半分で集まりだす。
「・・・あなたは 行かなくていいの?」
「陽動だ」
タバサの質問に対し、淡々とビダーシャルが答える。
「あの巨人は 地上に居られる時間が限られていると聞いている
ならば 人質の居場所も分からないうちに 姿を見せるハズがない
他に協力者がいない限りは だがな」
タバサが内心で舌を巻く。
ジョゼフからの情報なのか、敵は自分たちの事を、かなりの所まで調べ上げていた。
やがて、ビダーシャルの推理を裏付けるかのように、奇妙な点滅音が周囲に響きだす。
『イカン! ルイズ! もう時間がない!!』
「んなッ!? バ バカじゃないの!! 戦いはまだ始まってもいないのよ!!」
『そう思うなら 2分45秒も前口上を述べるな!!』
突然始まったストリップショーに、兵士達のテンションが跳ね上がる。
より間近で観戦しようと、全軍が城門に集結し、暴徒の如くルイズに迫る。
『安心しろ! ルイズ 作戦は今の所 順調に進行しているぞ!』
「こんな作戦ッ!! い や あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! !」
ボオオォォオオォォン!! ―と、
興奮のるつぼと化したアーハンブラ城の入口で、巨大な閃光が炸裂した。
「・・・これで巨人と引き換えに アーハンブラ城は無力化した
今頃は 彼女の協力者が 無人の城内を駆け回っている頃か」
「・・・・・・」
窓の外で起こった惨劇(あるいは喜劇)に対しても、ビダーシャルは眉ひとつ動かさない。
その冷静な分析は、タバサの予測とも合致する所であった。
眼前のエルフの恐ろしさを知るタバサにとって、外れてほしい予測ではあったが・・・。
やがて、階段を駆け上る軽快な足音が室内に響きだし、直後、入口の扉が乱暴に蹴破られた。
「タバサ!!」
室内に飛び込んできたのは、彼女のもう一人の友人、キュルケ。
「予想通りとはいえ随分早い 見事な手管だな」
「・・・ッ! エルフ!!」
室内に強敵を認めたキュルケは、彼女らしい即断で詠唱を始める。
「ダメッ!? キュルケ!!」
「!?」
タバサの叫びを聞いたキュルケは、反射的に身をよじらせながら火球を放つ。
エルフを捉えたかに見えた炎は、目標の眼前で大きくターンし、直前まで彼女がいた空間を通過して燃え尽きた。
「炎を・・・ 跳ね返した・・・?」
「先住魔法・・・ 威力の大小に関わらず ソイツは魔法を・・・ 攻撃を跳ね返すことが出来る」
驚きの声を上げるキュルケに、押さえの利いた声でタバサが答える。
メイジの中でも屈指の力量を持つ彼女が返り討ちに遭ったのも、この力を知らなかったためだった。
「私にも約束があるのでな 彼女達を渡すことは出来ん
争いは好まぬ 去れ 蛮人よ」
力を誇るでもなく、淡々と自分の要求をするビダーシャル
フン、とキュルケが鼻を鳴らす。
「こっちもガキの使いじゃあないのよ
囚われの姫様を目前にして すごすごと引き返せやしないわよ!」
「・・・ならば どうすると言うのだ?」
キュルケの軽口に答えつつも、ビダーシャルの意識は入口の方へと向けられていた。
エルフの繊細な耳は、階段を駆け上がってくるもうひとつの足音を拾っていた。
彼女の協力者、おそらくはメイジが一人、あと数秒のうちに室内に飛び込んで来るであろう。
眼前の少女も、それに合わせて仕掛けてくるに違いない。
老練なエルフは、油断無く次の動きに備えていた。
― が、
「お姉さまあぁ~!」
飛び込んできた少女はメイジでは無く、そもそも人間ですら無かった。
囚われの少女・タバサの使い魔、韻竜のシルフィード。
エルフの慧眼は、少女の姿がかりそめの物である事を即座に見抜き・・・ゆえに意表を突かれる形となった。
一方のシルフィードは、エルフの姿など目に入らないかのように、一直線に主の下へと駆けていく。
敵の心が乱れた一瞬を突き、室内の二人の少女も動き出していた。
驚くべきことに、キュルケは唯一の武器である杖をビダーシャルの真上に放り、自らは部屋の隅へと跳んだ。
だが、ビダーシャルをさらに驚愕かせたのは、背後にいたタバサの行動である。
彼女は、大切な母親をキュルケ目掛けて思い切り突き飛ばすと、宙を舞う杖に向かって跳ねたのだ。
丁度ふたりの間で、得物と人質を交換した形である。
ビダーシャルが積極的に動いていれば、丸腰のキュルケを討つ事も、頭上を通過する杖を受け止める事も可能な状況だった。
だが、理性に従うエルフは、3人の少女の“暴挙”の意図を、ただ慎重に分析するしかなかった。
「・・・なるほど」
即座に状況を確認したビダーシャルが、ゆっくりと振り返る。
背後の赤毛の少女は、隙をみて逃走を計るであろうが、やむを得ない判断である。
どの道、丸腰のメイジが、足手まといとなる人質を連れて逃げおおせるものではない。
まずは、眼前の少女の魔法を封ずる事に、全神経を注がねばならなかった。
青髪の少女は、既に詠唱を始めていた。
「で これからどうするのだ? 私にお前の力が通じぬ事は・・・」
「お前は狙わない!」
エルフの言葉を遮りながら、タバサが杖を振るう。
超局所的な竜巻が少女の周囲に展開し、
生じた真空の刃が、前方の床を、背後の壁を、正確に分断していく。
タバサとシルフィードのいる空間だけが、部屋からばっくりと切り取られ、やがて、緩やかに落下を始める。
「な・・・」
ビダーシャルは今度こそ驚きの声を漏らした。
少女の恐るべき力量を高く評価し、十分に警戒していた彼だったが、その力を逃走に使う事は想定外であった。
崩れ落ちる室内から、使い魔を抱えたタバサが飛び出す。
キュルケが即座に自分の意図を理解してくれた事に、胸が熱くなる彼女であったが、いつまでも感激してはいられない。
母と友人を救うため、タバサは最後の切り札を切る必要があった。
『そこかぁーッ!』
降り注ぐ瓦礫を縫うようにして、彼方から、タバサの【切り札】が飛んでくる。
『掴まれ!! タバサ!』
【切り札】が如意棒を伸ばす。
いつかの日とは異なり、タバサは迷う事なく、ソレに右手を伸ばした。
やがて、真っ白なエナジーのほどばしりと共に、落下が緩やかになっていく。
何か、暖かい物に包まれながら、3人の細胞が、感情が、魂が溶け合い、混ざり合う。
『うおおおおおッ!! 燃え上がれ! 俺の小宇宙!!』
「きゅ!? きゅいぃぃ~ん!? お おねぇさまぁ~!」
「すごい・・・ スゴすぎる・・・ これが・・・ こ れ が 合 体 ・・・!」
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