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「ゼロのアトリエ-13」(2010/11/24 (水) 18:08:30) の最新版変更点
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ルイズは夢を見ていた。
(ルイズお嬢様は難儀だねえ)
(まったくだ。上のお二人はあんなにおできになるというのに。)
できのいい姉達と成績を比べられ、母のお説教から逃げ回る毎日。
「泣いているのかい?ルイズ。」
「子爵様、いらしてたの?」
生まれ故郷、ラ・ヴァリエールの屋敷の中で、忘れ去られた中庭の池。
それに浮かぶ小船が、現実に打ちひしがれたルイズの指定席であった。
「ルイズ、僕の小さなルイズ。君は僕のことが嫌いかい?」
「いえ、そんなことはありませんわ。でも、私まだ小さいし…」
私を迎えに来た子爵。こんな私と婚約しようという子爵。ゼロの私の憧れの人。
「安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう。」
ルイズは頷いて、その手を取ろうとした。
その時、いるはずのない使い魔の呼ぶ声が池に響く。
「ルイズちゃーん、お父さんは怒ってないってー!もう、大丈夫だよー!」
なぜか、子爵にはヴィオラートの声が聞こえていないようだ。
「さあ。おいでルイズ。ぼくだけのミ・レイディ。」
聞こえないのか、それともわざと無視しているのか。
もしかすると彼は、ヴィオラートが嫌いなんだろうか。
自分が好きなヴィオラートを、彼も好きだと言ってくれないのはなぜだろう?
ヴィオラートが嫌いな子爵は、なぜか自分の知らない人のような気がしたので。
ルイズは子爵とヴィオラートを見比べて、立ち上がり、――――に向かって――――。
何かを選ぼうとしたその時、夢は終わりを告げた。
月の光差すルイズの部屋。
ランプの光で、黙々と何かの作業に打ち込むヴィオラートの姿があった。
ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師13~
ヴィオラートは二冊の本を見比べながら、ノートにびっしりとなにかを書き付けている。
ごくわずかに、ミョズニトニルンのルーンが光を放っているようだ。
「どうしたの、ルイズちゃん。」
そう言いつつも、ヴィオラートの手と目は機械的な作業を続ける。
「なにをしてるの?」
ルイズが問うと、
「うん、この世界の文字を解読してるんだ。」
なんだか途方もないことをあっさりと言い放った。
「マジックアイテム関連の本と錬金術書の比較なら、ルーンの力もちょっとは使えるみたいだから…」
「どうして。」
「え?」
「どうして?」
ルイズの問いかけに、答える言葉を探すヴィオラート。
「この世界に、錬金術書を残しておこうと思って…」
ようやく答えたその言葉に、ルイズは何かを悟る。
「帰るんだ。やっぱりいつか、元の世界に帰っちゃうんだ。」
「…」
「そう。そうよね。あなたには元の世界に、大切なものがいっぱいあるものね。」
静かに、しかし気持ちをいっぱいに込めて言葉を発するルイズ。
しかし、これ以上言えば、ヴィオラートを困らせるのではないか…
そんな思いがルイズに言葉を失わせて、
「な、なに?きゃ、ちょっと、ルイズちゃん!」
ヴィオラートに、やつあたり気味のぽかぽかぱんちをお見舞いする事になる。
二つの月が、二人を見守っていた。
月の光が、あまねく大地を照らす頃。
遠く離れたトリステインの城下町、チェルノボーグの監獄で、
土くれのフーケはベッドに寝転び、ぼんやりと壁を見つめていた。
「まったく、かよわい女一人閉じ込めるのにこの物々しさはどうよ?」
苦々しく呟き、自分を捕まえた女のことを頭に浮かべる。
「大したもんじゃないの。あいつは。」
ルイズを抑えようとするのではなく誘導した状況判断、
落雷地点をフーケの近く、結果的には自分からも相当近い距離に定めた勇気、
そして最後の先住魔法、それをあの瞬間まで隠していた用心深さ。
いったい、あの女は何者なのだろう。まあ、今となっては関係のないことだが…
とりあえず寝ようと目をつぶるが、すぐにぱちりと開いた。
「おや、こんな夜更けにお客さんなんて珍しいね。」
黒いマントの人物が、鉄格子の向こうに立ったまま、フーケを値踏みするかのように黙り込んでいる。
「あいにく、ここに客人をお迎えするようなものはありませんが。」
フーケは身構える。おそらく、貴重な品々を盗まれて恨み骨髄の貴族が送りつけた刺客か何かだろう。
「茶飲み話をしにきた、というわけでもないのでしょう?」
鉄格子越しに魔法を使われたら手のうちようがない。
何とか油断させて、中に引き込もうとフーケは考えた。
マントの男が口を開く。若く、力強い声だった。
「土くれ…だな?話をしにきた。」
「話?」
男は両手を広げて、敵意のないことを示した。
「…何なら、弁護でもしてやろうか?マチルダ・オブ・サウスゴータ。」
フーケの顔色が変わる。それはかつて捨てた、いや、捨てさせられた貴族の名だった。
その名を知る者は、もうこの世にいないはずなのだが。
「あんた、何者?」
男はその問いには答えず、語り始める。
「アルビオンに…いや、新しきアルビオンに仕える気はないかね?マチルダ。」
「新しきアルビオン?どういうこと?」
「革命さ。無能な王家は潰れ、我々有能な貴族が政治を行うのだ。」
「でも、あんたはトリステインの貴族じゃないの。アルビオンと何の関係があるの?」
「我々は国境などに縛られない、ハルケギニア全ての将来を憂う貴族の連盟さ。」
男は間を置き、自らの本気を証明するかのように重々しく呟いた。
「ハルケギニアを統一し、『聖地』をエルフどもの手から取り返す。」
フーケは手を振った。なんという夢想家だ。
「私に協力しろって?その、夢物語に?」
「我々は優秀なメイジが一人でも多く欲しい。協力してくれないかね?『土くれ』よ。」
「協力…しないと言ったら?」
「まさか、その答えはないだろうが…そうだな。知ったからにはどうなるか、わかると思うが?」
フーケは笑った。
「ほんとに、あんたら貴族って奴は困ったモンね。最初から私の都合なんて関係ないんでしょ?」
「そうだ。」
男も笑った。
「だったらはっきり、味方になれって言いなさいな。命令もできない男は嫌いだわ。」
「我々と一緒に来い。」
フーケは腕を組んで、尋ねた。
「まあ、いいわ。それで、その素晴らしい貴族様の連盟とやらは、何ていうのかしら。」
「味方になるのか?ならないのか?どっちなんだ」
「これから旗を振る組織の名は、先に聞いておきたいのよ。」
男はポケットから鍵を出し、鉄格子を開けながら言った。
「レコン・キスタ。」
月が、地平線に沈もうとしていた。
#navi(ゼロのアトリエ)
ルイズは夢を見ていた。
(ルイズお嬢様は難儀だねえ)
(まったくだ。上のお二人はあんなにおできになるというのに。)
できのいい姉達と成績を比べられ、母のお説教から逃げ回る毎日。
「泣いているのかい?ルイズ。」
「子爵様、いらしてたの?」
生まれ故郷、ラ・ヴァリエールの屋敷の中で、忘れ去られた中庭の池。
それに浮かぶ小船が、現実に打ちひしがれたルイズの指定席であった。
「ルイズ、僕の小さなルイズ。君は僕のことが嫌いかい?」
「いえ、そんなことはありませんわ。でも、私まだ小さいし…」
私を迎えに来た子爵。こんな私と婚約しようという子爵。ゼロの私の憧れの人。
「安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう。」
ルイズは頷いて、その手を取ろうとした。
その時、いるはずのない使い魔の呼ぶ声が池に響く。
「ルイズちゃーん、お父さんは怒ってないってー!もう、大丈夫だよー!」
なぜか、子爵にはヴィオラートの声が聞こえていないようだ。
「さあ。おいでルイズ。ぼくだけのミ・レイディ。」
聞こえないのか、それともわざと無視しているのか。
もしかすると彼は、ヴィオラートが嫌いなんだろうか。
自分が好きなヴィオラートを、彼も好きだと言ってくれないのはなぜだろう?
ヴィオラートが嫌いな子爵は、なぜか自分の知らない人のような気がしたので。
ルイズは子爵とヴィオラートを見比べて、立ち上がり、――――に向かって――――。
何かを選ぼうとしたその時、夢は終わりを告げた。
月の光差すルイズの部屋。
ランプの光で、黙々と何かの作業に打ち込むヴィオラートの姿があった。
ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師13~
ヴィオラートは二冊の本を見比べながら、ノートにびっしりとなにかを書き付けている。
ごくわずかに、ミョズニトニルンのルーンが光を放っているようだ。
「どうしたの、ルイズちゃん。」
そう言いつつも、ヴィオラートの手と目は機械的な作業を続ける。
「なにをしてるの?」
ルイズが問うと、
「うん、この世界の文字を解読してるんだ。」
なんだか途方もないことをあっさりと言い放った。
「マジックアイテム関連の本と錬金術書の比較なら、ルーンの力もちょっとは使えるみたいだから…」
「どうして。」
「え?」
「どうして?」
ルイズの問いかけに、答える言葉を探すヴィオラート。
「この世界に、錬金術書を残しておこうと思って…」
ようやく答えたその言葉に、ルイズは何かを悟る。
「帰るんだ。やっぱりいつか、元の世界に帰っちゃうんだ。」
「…」
「そう。そうよね。あなたには元の世界に、大切なものがいっぱいあるものね。」
静かに、しかし気持ちをいっぱいに込めて言葉を発するルイズ。
しかし、これ以上言えば、ヴィオラートを困らせるのではないか…
そんな思いがルイズに言葉を失わせて、
「な、なに?きゃ、ちょっと、ルイズちゃん!」
ヴィオラートに、やつあたり気味のぽかぽかぱんちをお見舞いする事になる。
二つの月が、二人を見守っていた。
月の光が、あまねく大地を照らす頃。
遠く離れたトリステインの城下町、チェルノボーグの監獄で、
土くれのフーケはベッドに寝転び、ぼんやりと壁を見つめていた。
「まったく、かよわい女一人閉じ込めるのにこの物々しさはどうよ?」
苦々しく呟き、自分を捕まえた女のことを頭に浮かべる。
「大したもんじゃないの。あいつは。」
ルイズを抑えようとするのではなく誘導した状況判断、
落雷地点をフーケの近く、結果的には自分からも相当近い距離に定めた勇気、
そして最後の先住魔法、それをあの瞬間まで隠していた用心深さ。
いったい、あの女は何者なのだろう。まあ、今となっては関係のないことだが…
とりあえず寝ようと目をつぶるが、すぐにぱちりと開いた。
「おや、こんな夜更けにお客さんなんて珍しいね。」
黒いマントの人物が、鉄格子の向こうに立ったまま、フーケを値踏みするかのように黙り込んでいる。
「あいにく、ここに客人をお迎えするようなものはありませんが。」
フーケは身構える。おそらく、貴重な品々を盗まれて恨み骨髄の貴族が送りつけた刺客か何かだろう。
「茶飲み話をしにきた、というわけでもないのでしょう?」
鉄格子越しに魔法を使われたら手のうちようがない。
何とか油断させて、中に引き込もうとフーケは考えた。
マントの男が口を開く。若く、力強い声だった。
「土くれ…だな?話をしにきた。」
「話?」
男は両手を広げて、敵意のないことを示した。
「…何なら、弁護でもしてやろうか?マチルダ・オブ・サウスゴータ。」
フーケの顔色が変わる。それはかつて捨てた、いや、捨てさせられた貴族の名だった。
その名を知る者は、もうこの世にいないはずなのだが。
「あんた、何者?」
男はその問いには答えず、語り始める。
「アルビオンに…いや、新しきアルビオンに仕える気はないかね?マチルダ。」
「新しきアルビオン?どういうこと?」
「革命さ。無能な王家は潰れ、我々有能な貴族が政治を行うのだ。」
「でも、あんたはトリステインの貴族じゃないの。アルビオンと何の関係があるの?」
「我々は国境などに縛られない、ハルケギニア全ての将来を憂う貴族の連盟さ。」
男は間を置き、自らの本気を証明するかのように重々しく呟いた。
「ハルケギニアを統一し、『聖地』をエルフどもの手から取り返す。」
フーケは手を振った。なんという夢想家だ。
「私に協力しろって?その、夢物語に?」
「我々は優秀なメイジが一人でも多く欲しい。協力してくれないかね?『土くれ』よ。」
「協力…しないと言ったら?」
「まさか、その答えはないだろうが…そうだな。知ったからにはどうなるか、わかると思うが?」
フーケは笑った。
「ほんとに、あんたら貴族って奴は困ったモンね。最初から私の都合なんて関係ないんでしょ?」
「そうだ。」
男も笑った。
「だったらはっきり、味方になれって言いなさいな。命令もできない男は嫌いだわ。」
「我々と一緒に来い。」
フーケは腕を組んで、尋ねた。
「まあ、いいわ。それで、その素晴らしい貴族様の連盟とやらは、何ていうのかしら。」
「味方になるのか?ならないのか?どっちなんだ」
「これから旗を振る組織の名は、先に聞いておきたいのよ。」
男はポケットから鍵を出し、鉄格子を開けながら言った。
「レコン・キスタ。」
月が、地平線に沈もうとしていた。
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