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「ゼロのロリカード-16」(2008/07/12 (土) 20:40:34) の最新版変更点
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#navi(ゼロのロリカード)
「ねぇ・・・、強くなるにはどうしたらいいの?」
カスール改造銃といくつかの弾装を棺桶に並べ、床に座りながらそれらを点検してるアーカードにルイズは尋ねた。
「なんだ?いきなり」
銀色下縁眼鏡をかけたアーカードは、銃を弄くり回しながらルイズに理由を聞き返す。
「ワルドの時も、この前の宝探しの一件でも、自分の力不足を切に痛感したわ。あなたに頼りっきりじゃなくて、せめて自分自身を守れるくらいには強くなりたいの」
「・・・ふむ」
「近い内にアルビオンが戦争を仕掛けてくるかもしれないし。贅沢を言うつもりはないけど、できることなら・・・姫さまのお役に立てるくらいに強くなりたい」
ルイズは拳を握り締める、それは努力しても一向に魔法もまともに使えない彼女の悔しさの表れ。
そしてアンリエッタを支えたいという気持ちの表れであった。
「強さとは積み上げるものだ。そして大いなる勝利はたった一度で、蚊トンボすら獅子に変化る。そうやって繰り返し自己を練り上げる、一朝一夕で身につくものではない」
「・・・今から積み上げるわ、たった今から自己を練り上げる。だから戦い方を教えて」
一通り点検が終わったのか、アーカードは銃と弾倉をしまう。眼鏡をはずし棺に足を広げ大股に座った。
「そうだな、一つだけ簡単な方法がある」
「な・・・なに?」
アーカードのその言葉にルイズはデジャヴュを感じた、思い出されるは消し去りたい記憶。
安易にそれを聞いてしまったばっかりにとんでもない目に遭った、しかし恐る恐る聞いた。
「私の眷属になればいい、つまり同種になるということだな。鍛練など必要ない、その日から強靭な肉体が手に入る」
同種、つまりアーカードと同じ吸血鬼になるということ。
「主がどうしてもと望むなら私もそれに応じよう。それに・・・・・・処女なのは既に確認済みだしな」
アーカードはニヤニヤと笑いながらルイズを見つめる。
忘れ去りたい記憶。自己嫌悪に陥ってしまいそうなその過去を思い出し、ルイズは耳まで真っ赤になる。
「あ・・・アレは忘れさせてって言ったでしょ!バカ!!」
アーカードは肩を竦め嘆息をつく。そして改めてルイズを見つめた。
「まあ処女だからグールになることはない。が、一度朝日に背を向け夜を歩き始めれば、日の光は二度と振り向きはしない。
夜を選んだなら、もうどれだけ日の光を渇望しようとも最早その体をむしばむ光でしかなくなる。他にも色々弱点増えるしな」
「いや・・・さすがに吸血鬼になろうとは・・思わないわ、人間をやめるのはちょっと・・・」
アーカードはその言葉にうんうんと頷く。
「んむ、それがいい。主従関係も滅茶苦茶になってしまうしな」
「でも・・・じゃあどうしよう・・・」
アーカードは少し考え口を開いた。
「主が使える魔法は爆破だな、どの系統にも属さないがそれも使い方次第だろう。メイジ相手ならば詠唱で補助魔法を使うと見せかけて攻撃できる、なにせ全てが爆発なんだから。
後は・・・杖だな。携帯性に優れるのもいいが、やはりこと戦闘に於いてはタバサが使うような杖を持った方がいい。棒術を覚えればそれだけで戦闘の幅が広がる。
リーチの長さはそれだけで武器だ。たとえ敵に囲まれても攻撃を受け流しつつ、魔法を唱えるだけの隙を作れるだろう。魔法衛士隊のようなレイピア型も悪くないな」
ルイズはふむふむと頷きながら聞いている。
「私は銃と体術を好むが、主にはどっちも無理だ。私の体術は吸血鬼としての肉体あってのものだし、この世界の銃はまだまだ発展途上で戦闘で有効に使えるものではない」
アーカードは棺から立ち上がる。
「だが体捌きくらいは覚える価値があるかもな。相手との間合いの取り方、すぐに行動に移す為の重心の置き方とその移動、それに必要な瞬発力と持久力。
殺害を可能にするのは、すべて距離にかかっている。実際にその距離を体験したという経験、すべての距離を自分のものに出来れば殺害は思いのままとなる」
「さ・・・殺害・・!?」
―――それも当然か、戦闘は相手を倒すこと。結果として死んでしまうことだって当然ある、魔法とは簡単に人の命を奪えてしまうモノだ。
殺す殺されの中でも、自分が手加減できる程に相手より強ければ問題はない。しかし往々にしてそんな機会は少ない、未熟ならば尚更である。
喋りながら構えを取り、簡単に動きながらアーカードは説明する。
「重圧に耐えながら動き回り詠唱する為のスタミナ、後は冷静な判断力と魔法を使う集中力があれば最低限サマになるだろうさ」
「むう・・・」
「手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に」
一連の動作を終え、アーカードはまた棺に腰掛ける。
「そして敵の力量をきちんと推し量れること、勝てないようなら逃げる。戦略的撤退だ、負けて死ぬよりはいい」
ルイズはアーカードの言葉一つ一つに感心し、それを反芻しているようだった。
「・・・・・・それでは、私から一つプレゼントだ」
アーカードはニコっと笑う。
「へっ?」
突然の贈与発言にルイズは疑問符を浮かべた。
その直後アーカードから強烈な殺気を叩き付けられた。
ルイズは腰が抜けぺたんと地面に尻餅をつく。全身の穴という穴から水分を垂れ流しそうになるが、それすら止まるほどの殺意。
短い半生を高速で振り返りながらルイズは死を悟る。そんな中頭は意外と冷静だななどと静観している自分がいた。
「はいっ、おしまい☆」
時間にしてみれば刹那の出来事、しかし無意識下ですら忘れていた呼吸をルイズは本能的におこなった。
怒る気力などなく、頭も回らずただ必死に深呼吸を繰り返す。落ち着いたところを見計らってアーカードが話し出す。
「見えたろう?ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールが生きた16年・・・」
口を開くことが出来ず、ルイズは頷いて意思表示をした。
「人は死に直面した時、その生涯の全てを一瞬にして垣間見る。『死』という非日常が生み出す一瞬の奇跡。主は私の殺気でコンマ1秒を16年もの時をかけて見ていたのだ、一瞬を16年に。
この非日常の、死に際の集中力をモノにすることが出来れば、相手の動きなど欠伸が出るほどノロマなものに見える。
そしてたった今、主はその集中力を体感し自覚した。故にこれから先、自分自身で限界を決め付けて蓋をすることもなくなる」
「そ・・・それをわからせる為に・・いきなり・・・・」
ロレツが回るようになってきてルイズはようやく言葉を紡ぐ。
「ついでに言えばこれも経験だ。もし誰かと戦うことになった時、大半はなんだアーカードに比べれば~って思えるようになるさ」
「せ・・・せめて一言断ってからやってよ・・・・・・」
ルイズは切実に言った、だって本当に怖かったし死んだと思ったのだから。
「・・・・・・何をしている?」
座り込んだままのルイズに向かって、腕組みしたアーカードは言う。
「なにが?」
「強くなりたいのだろう、スタミナをつける為にさっさと走り込みに行ってくるんだ。瞬発力も養う為にダッシュも織り交ぜて交互にな。
今までそんなこともなかったろう?『ゼロ』から鍛えるのだ、相応な努力が必要だぞ。終わったら体捌きや簡単な体術も教えよう、無論毎日な」
ぇえ~!?と叫びそうになるがルイズは堪える。そうだ、自分から強くなりたいと言ったんだ。その為の努力を惜しんでどうする。
折角アーカードもやる気になって教えてくれると言っている。――――拒む理由はない!
「・・・わかったわ、やってやろうじゃないのッ!」
そう言うとルイズは部屋から飛び出して行った。次の日ルイズは筋肉痛で動けず授業を休むことになったのはまた別の話。
◇
「ふむ・・・結局それらしいのは見つからなかったか」
神聖アルビオン共和国皇帝、『レコン・キスタ』総司令官オリヴァー・クロムウェルは、報告をしにきた部下を下がらせた。
「申し訳ありません、閣下」
ワルドは必死に頭を下げた。アーカードに追い詰められ、ルイズから手紙を奪い取れなかった。
さらにルイズとアーカードはニューカッスルから忽然とその姿を消し、攻城に参加した兵士達も目撃していない。
その上殺した筈のウェールズの死体まで見つからない始末であった。
「子爵!ワルド君!頭をあげてくれ、君は確かにウェールズを討ったのだろう?」
「はい・・・、確かに我が風の刃はウェールズ皇太子の胸を貫きました。それは確かです、しかし肝心の死体がない」
クロムウェルは嫌味なく笑い、両手を広げた。
「私は君の言葉を信じるよ、亡命したという情報も今のところ入っていない。それに将のいないニューカッスルは存外に早く落ちた、それは確かだ」
ワルドは苦い顔をする、それが皮肉ではないことはわかる。しかしそれでも如何ともし難い感情が渦巻いていた。
「彼らは大量の硫黄を手に入れていた、ウェールズの指揮の下戦ってれば被害は甚大であったろう。君のおかげで同胞の命が無駄に失われずに済んだのだよ子爵。
ゆっくりと、一歩ずつ、確実に、進むことが大事なのだ。それが我々の大いなる理想、選ばれた貴族達が結束しエルフどもから聖地を奪還するという目的成就に繋がるのだ」
クロムウェルは緩慢にワルドに背を向けて窓から外を見つめる。
「・・・トリステインとゲルマニアの同盟。当然それはないに越したことはないが、大した問題でもない」
クロムウェルは窓から見える外の景色を一望しながら続ける。
「我がアルビオン艦隊は、トリステインとゲルマニアのそれを凌駕する。それについ先日、従来のカノン砲の1.5倍という射程を誇る新型大砲を搭載した『レキシントン』号が完成した。
極々近い内、そうだな・・・トリステイン王女とゲルマニア皇帝が式がおこなわれる前に宣戦布告をしよう。そして浮き足立っているトリステインに先遣艦隊旗艦として『レキシントン』号を侵攻させ、これを蹴散らすのだよ」
クロムウェルはワルドの方へと振り向く。窓からさす陽の光はまるで後光のようであった。
「『レキシントン』号は敵艦隊全滅の後、移動して示威行動に入る。これはゲルマニアへの牽制も兼ねていて、同時に国民の不安を煽ることにもなる。
間断なくアルビオン本艦隊を進ませれば、トリステインはそう時間も掛からず降伏することだろう。そこでどうかね子爵、この先駆けたる『レキシントン』号に乗ってみるというのは」
ワルドの目が見開かれる、願ってもない申し出だった。
「はっ!是非お願いします!我が一命を賭してでも必ず遂行してみせましょう」
恭しくワルドはその頭を下げた。
「そう気負わないでくれ子爵、君の元魔法衛士隊隊長としての実力を存分に発揮してくれたまえ。改めて『レキシントン』の竜騎兵隊隊長に命ずる」
そこまで言ってクロムウェルは、何かに気付いてワルドに問い掛ける。
「そういえば子爵は竜に乗ったことはあるのかね?」
ワルドは頭を上げ、自信たっぷりに答えた。
「私に乗りこなせぬ幻獣など存在しませぬ」
◇
宝探しから三週間ほど、アーカードは学院内のコルベールの研究小屋にいた。
全長33m弱に及ぶ金属の塊はさすがに大きすぎるということで、SR-71は学院の外に仮設されたテントに置かれている。
重量が重量だったので運搬には相当な金がかかった。請求された時、覚悟していたものの苦い顔をしたコルベールであった。
アーカードは椅子に座りながら研究室の本を適当に読み漁り、コルベールは必死に錬金を繰り返していた。
「いい加減飽きないのか?」
「私にとって研究は趣味です、まあ今やってることは作業でしかありませんが・・・。それに休暇中の二週間は研究に没頭できましたからね、出先ではこうはいきません。
なにせ器具もないし、慣れない場所では疲労も溜まりますからね。それもこれもミス・アーカード、あなたのおかげです。異世界の興味深い話も色々してもらったり、本当に感謝してます」
それから暫しの間沈黙が続く。斜め読みで内容を大方理解し終えたアーカードは、本を閉じて口を開いた。
「そういえば・・・」
「はい?」
コルベールは錬金続けながらアーカードの言葉を聞く。
「お前の二つ名は『炎蛇』だったな」
「え・・・えぇ、そうですが」
コルベールの手が止まる、改めて自分の二つ名を呼ばれ過去を思い出してしまう。自分が犯した清算しきれない過去を。
アーカードは机を人差し指でトントンと叩きながら続ける。
「『ゼロ』『青銅』『微熱』『雪風』『香水』『風上』『土くれ』『赤土』、様々な二つ名があるが・・・・・・『炎蛇』」
コルベールはアーカードの方へと顔を向ける。
「それが・・・どうかしましたか?」
「いやなに、随分物騒な二つ名だと思ってな。炎の蛇、他のメイジの二つ名とはどこか毛色が違う」
知らず知らずの内にコルベールの喉が鳴る。
「少し前、『閃光』という二つ名を持つメイジと戦った。そやつは軍人だった・・・そしてコルベール、お前の二つ名は『それ』よりも攻撃的な感じがする」
コルベールは言葉に詰まる、その様子を無視してアーカードはさらに続ける。
「二つ名は主にそのメイジの特徴を表しているのだろう、温和なお前にはどこか不釣合いな感じがして少し気になってな」
「・・・・・・昔の、話です」
「ふむ、昔はブイブイいわせてたわけか」
コルベールは押し黙ったまま、また錬金の作業に戻る。
「言いたくないのか」
「・・・軽々しく人に話すことでは、ありませんから」
アーカードはコルベールのその言葉を踏まえた上でさらに続ける。
「咎か、誰かに話すだけでも楽になるのではないか?」
「尚の事です、私が一人で受け止め背負わなければならない業です」
そうか、と呟きアーカードはそれ以上何も言わなかった。また本を物色し読み始め、コルベールは錬金を続けた。
アーカードが二冊目の本を読み終えた丁度その時、コルベールは通算するともう何度目かわからないほどの錬金を終えた。
「ふぅ・・・、これだけあればどうでしょう」
コルベールに問いかけられアーカードは錬金し終えたモノへと目を向けた。
密閉された樽が研究室の一角に積み上げられている。それはSR-71の燃料であるJP-7であった。
SR-71が学院へ運ばれコルベールが研究を始めてから数日、是非とも飛行するところが見たいと言い出したコルベールにアーカードは答えたのだ。
シエスタの曾祖父が残した、劣化しているものの固定化のかけられた燃料を元に、新しく錬金で作ればどうにかなるかもしれないと。
そもそもJP-7は成分の組成からして相当面倒な燃料であり、たとえ錬金を用いたとしてもこの世界では到底作りうるものではないと踏んでいた。
さらに飛行の際に大量に必要だと告げれば諦めるだろうと思っていたのだが、コルベールの情熱は凄まじかった。
ひたすら研究室に閉じこもり、残された燃料を元に、遂にはそれを完成させ、そして量産体制にまでこぎつけた。
二週間の研究休暇を費やし、授業を再開した後も寝る間も惜しんで錬金し続けた結果である。
そして今、とりあえずおおよそ軽い飛行に必要な分の量が溜まったのだ。
「あぁ・・・、イケるやもしれんな」
「ぉお!!本当ですか!?」
アーカードは頷く、ただ言い忘れた一言を言うのが憚られた。
離陸はいいけど着陸に失敗してぶっ壊れるかもしれない、と。
「で・・・ではっ!いつにしますか?いつ飛びますか!?」
大の大人が見てて痛々しいほど嬉しそうにしている。
まぁおおよそ研究は終わってるようだし壊れたらそれまでか、とアーカードは自己完結する。
「そうだな、今度の虚無の曜日にでも――」
その時、ノックもされずドアがバタンッと大きく開かれる。肩で息をしながら入ってきたのはルイズであった。
「ミス・ヴァリエール?どうしました?」
「もう走り込みに行ってきたのか、感心感心」
しかしすぐにアーカードとコルベールは、ルイズの尋常じゃない雰囲気を感じ取った。
「違うわよ!」
ルイズは息を整えながら叫ぶ。
「戦争よ!アルビオンと戦争が始まったって!」
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