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#navi(ルイズの魔龍伝)
5.ルイズとクックベリーパイ
「さて、ここへ呼んだ理由は分かるかの?ミス・ヴァリエール」
「…私の代わりに使い魔が戦ったとはいえ決闘に応じてしまった事と、それで壊した中庭の事でしょうか」
本塔の最上階に位置する学院長室、ルイズとゼロの目の前には杖を手にしたオスマンと
その横にコルベールが真剣な眼差しで立っていた。
決闘後、直ちに使い魔ともども学院長室に呼び出されたルイズは一体どんな処分が下されるのか不安になっていた。
修理費用の請求に関しては次の仕送りまで多少、金額的余裕があるので大丈夫だ。
しかし「あのゼロのルイズがとうとう決闘問題を起こした」となれば実家の方にも話が伝わって
あとはもう実家の両親とアカデミー勤めの長姉による不祥事説教祭りが始まるに違いない。
「あー…決闘に関しては事情を聞けばグラモンの馬鹿息子が原因のようじゃからお主は不問じゃ。
中庭も教師達が完全に修復したわい、かかる費用も請求せん。」
と、不安で青い顔をしているルイズに言い切ったオスマンが手にした杖をゼロに向けた。
「この使い魔殿について知っておる事を正直に話せば、の話じゃが」
「俺だと?」
「私達も騒ぎの一部始終を見…他の者から聞いたのだがゼロ…ガンダム殿で良かったかな?
君が放ったあの雷、あれはトライアングル…いや、純粋に威力だけで見るならスクウェアクラスに匹敵する」
「トライアングル…スクウェア…?」
「何?ミス・ヴァリエールからは何も聞いてないのか?」
「もっ、申し訳ありませんミスタ・コルベール!あのね、“トライアングル”“スクウェア”っていうのは
一回の詠唱でメイジが組み合わせられる属性の数を表すの、これはそのままメイジとしての技量を表すわ。
一つでドット、二つでライン、三つでトライアングル、四つでスクウェア、スクウェアは最高位のランクよ。」
「模範的な回答で何より。その最高位のレベルと同じ威力の雷が出せる使い魔で、しかもこの世界には
存在しない種族ときている。我々としてもミス・ヴァリエールを信じたい所だが……」
「俺の存在がこの世界の脅威になるのではないか、この娘が俺を上手く扱えるか、という事か」
「すまないがそう受け取ってもらって構わない」
「ミスタ・コルベール!私が召喚した使い魔なんですから私がしっかりとこの使い魔の手綱をとってみせます!」
コルベールの言葉に自信満々と答えたルイズだが、あの雷がルイズに不安を与えていた。
どんな使い魔にも負けない威力のあの雷を持つ使い魔を…私は扱えるのだろうか?
「…この娘の手足となって色々とこき使われる気はないが、別にこの世界にとって
脅威になるような事はしない。俺の剣は悪に轟く雷鳴だ」
そう言ってゼロは、昨夜にルイズと話したのと同じ事をオスマンとコルベールに話した。
「成る程、スダ・ドアカというこことは別の世界で騎士をしていたと…」
「あぁ」
「にわかには信じがたいが異世界という存在とユニオン族…君のような姿をした種族がいるとはまた興味深いね。
その世界の騎士はみんな君のような事が出来るのかい?」
「いや、そういうのは俺の剣の流派だけだ。騎士は剣で戦ったり機兵という巨大な機械の操手を勤めるのが一般的だな」
「剣術!雷を繰り出す剣術とは実に興味深い!しかも今の“キヘイ”とは何かね!?
ゴーレムの類?うぅむこれは興味深い、後で私の研究室に来てみないかね!悪いようにはしない!」
「なっ!?」
「ミスタ・コルベール、そこまでにしときなさい」
「あ、えぇ申し訳ありませんオールド・オスマン」
ゼロに迫るコルベールをオスマンが制し、その様子を見てルイズは唖然としていた。
「ミスタ・コルベールって前々から変わってるって言われてたけど…これは…」
「ともかく、話を聞いた限りではこの世界の脅威となり得る存在ではない事は分かった。
今までの非礼、どうか許してはくれまいか」
「いいさ、しかし事情は分かったからといって俺も死ぬまでこの世界にいるつもりはない。
元の世界に返れる手段ぐらいあるだろう?」
「それがじゃのぅ…本来はこの地におる幻獣を召喚する魔法ゆえに送り返すという方法は
今まで取られた事もなく、そういった手段も存在しないんじゃ」
「存在しないだと?それじゃあ俺は一生をこの世界で終えろというのか!?」
「我々の方でもその手段は極力探してはみるが…どうか、それまではどうか
ミス・ヴァリエールの使い魔を勤めてはくれないか、ゼロガンダム殿」
「…それならば止むを得まい」
「そう言ってくれると、助かるのう」
オスマンとの話が終わり学院長室から退室しようとするゼロに、オスマンが何か思い出した様子で
ゼロに一言問いかけた。
「時にゼロ殿、「ムーア界」という名前に聞き覚えは?」
「…すまないが無い」
ムーア界という言葉は何となく聞いた覚えはあるが、明確には覚えておらずこう返すしかなった。
「近い内にゼロ殿だけご足労願えるかの?そのゼロ殿が来た世界の事で話がしたいんじゃ。
ヴァリエールのお嬢ちゃんには悪いが二人きりで、の」
「情報になりそうな事ならいつでもいい、どうせここの生徒でもないし時間はある」
そうして部屋を退室したゼロとルイズ。
二人の間のちょっと微妙な空気の中、ルイズがゼロに話しかけた。
「ねぇ、ガンダム」
「何だ?」
「…やっぱり元の場所に帰りたい?使い魔って、そんなに嫌なの?」
いつも高飛車な調子ではなく相手の様子を伺うように話しかけるルイズ。
「見知らぬ世界に来ていきなり下着を洗えと言われたらそりゃあ嫌だろう」
「まだ昨日の事根に持ってるの?まったく…」
「だが、元の世界に帰りたいといえば…どうだろうな」
「え?」
「…あの世界での俺の戦いは終わった。それからは、後に続く者達のやる事さ」
ゼロは考えていた。雷龍剣と自分の宿命が終わった今、あの世界に自分は不要だと。
そんなゼロをよそに何とも要領を得ないルイズだった。
ごぎゅうぅ
その時、どこからか気の抜けた音が聞こえてきた。
「何?今の音…」
「あぁ、そういえば昼食を食べ損ねていたな…」
この音はゼロの腹の音だった、クスリとしながらルイズが話す。
「じゃあガンダムは私の授業に付き合わなくていいわ、厨房に行って来て何かもらってきなさい」
「いいのか?」
「派手に勝った使い魔が腹の音をさせてたら主人の私が恥ずかしいわ」
という事で、空腹のゼロはルイズと別れ厨房の方へと向かった。
「あ、ゴーレムさん」
「おぉっ、こいつが“ヴァリエールの小さなゴーレム”か!確かに変わった形してんなぁ!
こいつがあの貴族の坊っちゃんをひーこら言わせてたとはねぇ」
厨房に入ったゼロを出迎えたのはシエスタと、コック服を身に纏った太っちょながら精悍な顔つきの顔の男だった。
「こちらはコック長のマルトーさん、厨房で一番偉い人ですよ」
「おぅ!俺がこの魔法学院の味の番人、マルトーだ!」
ぐっと付き立てた親指を自分にびしっと向けながらノリ良く答える。
「俺はゼロガンダムだ、ゼロでいい。そういえばメイドの君にも名乗ってなかったな」
「そういえば私も名乗ってませんでしたね、私はシエスタと申します」
シエスタがゼロに向かって丁寧にお辞儀をする。
「本当に喋ってらぁ、お前さんゴーレムにしちゃあ変わってるねぇ」
その先入観を打ち破るように再びゼロの腹の音が鳴った。
「今の音…なんでしょうか?」
「…実はな」
「はぁっはっはっは!おめぇさんゴーレムじゃなかったのか!」
「ゼロさん…そういう種族だったんですか?」
「ここじゃそうらしいな、まったくこの世界のゴーレムというのを一度お目にかかりたいもんだ」
コック達の賄いシチューを食べながらマルトーやシエスタと談笑するゼロ。
物珍しさに他のメイド達やコックも集まっていた。
「あの決闘見てたぜ!すげぇ雷だったな!」
「アンタのおかげでシエスタが無事だったようなもんさね!」
どうやらあの決闘を見ていた者がこの中にも何人かいたようでゼロに話しかけてきた者もいた。
「おい昼間の忙しいって時におめーら何やってんだ!」
「す、すいやせんマルトーさん!」
厨房が笑いに包まれる中、空になった皿を見たシエスタがゼロにお代わりを持ちかける。
朝食を抜かれ決闘で技まで使ってしまったゼロにとって二皿目のシチューもあっという間に
腹の足しになってしまった。
「すまなかったな、皆の大切な賄いを2杯も馳走になって。
後で俺にも何か手伝わせてくれ。施しを受けた以上恩は返さねばならん」
「いいって事よ、貴族の野郎どもあれこれ文句つけて残すからな。
それにあんた貴族の使い魔だけど貴族よかよっぽど良い奴だ!
これから飯はしみったれたパンとスープじゃなくて賄いのシチューにするよ!
まったくあの量のパンとスープってご主人様って奴は使い魔を何だと思ってるのかねぇ」
マルトーに背中を叩かれているゼロにシエスタが話しかけた
「あの…実はあの後、あの貴族様がちゃんと謝りに来て下さって…。それで…私からもゼロさんに何かお礼を…」
「いや、礼なら俺よりルイズにしてくれ」
「え?でも決闘で勝ったのは…」
「そうだぜ、何も主人の肩持つこたぁねぇよ」
厨房でのやりとりや決闘騒ぎでで分かった事だが、ここではメイドやコックといった
魔法を使わない者は貴族に対してあまりいい印象を持っていないようだとゼロは感じた。
ギーシュのあの態度やルイズの無駄に高いプライドを思い返せば即座に納得する話ではあるのだが。
とはいえゼロも食堂でのルイズのやり取りにちょっと感心しており、。
「だが、俺はあくまでルイズが決闘を受けると言ったから受けて勝ったまでだ。
シエスタに対する横暴だって一番最初に止めたのはルイズであって俺は途中から割り入っただけだしな」
「そういえば…そう…でしたね」
「そんなもんかねぇ全く、貴族様ってのは分からんよ」
「あのギーシュという小僧よりは多少貴族らしいさ。ま、それを差し引いても色々と子供だが」
「お礼…どうしましょう…私に出来る事なんて炊事洗濯家事お菓子ぐらいしか……」
「ふむ」
その時、ゼロの脳裏に一つの単語が浮かび上がった。
夕食も終わりいわゆる自由時間である寮内、机に向かっているルイズの横では
ゼロが自身の剣を抜いて眺めていた。
「勉強か?」
「魔法が出来ても出来なくても、勉強ってのは大事よ」
本を読んでいたルイズが顔をゼロの方に向ける。
「うわぁ、その剣ボロボロじゃない」
ゼロが手にしていた鉄剣は刃の部分が所々こぼれ落ちており、刀身も高熱に晒されたかのように
あちこち変色していた。
「…あの技を使うのは久しぶりだったからな、つい力の加減を間違えた」
「それ、魔法なの?」
「魔法じゃない、俺の一族…“雷の一族”だけが使える雷龍剣の技だ。」
「でも魔法みたいじゃないのよ」
本を閉じたルイズが顔をゼロの方に向けたまま顔を机に伏せる。
昼間のあの技は確かに凄かったものの、魔法の使えない自分より遥かに凄いとなんだか自分が情けない。
そんなルイズの気持ちがちょっとふて腐れた声になっていた。
「使い魔が魔法を使えて……主人は魔法を使えない……おかしな話ね」
その時、部屋のドアを誰かがノックした。
「? 誰よこんな時間に」
ルイズがドアを開けるとそこには籠と下着を持ったシエスタが立っていた。
「あの…ゼロさんに頼まれていた洗濯物を…」
その瞬間、いつものルイズの顔に戻り剣を鞘に戻していたゼロをキッと睨む。
「ガ~ン~ダ~ムゥ~!!自分の仕事をメイドに押しつけてぇ~!!」
「す、すみませんすみません!洗い場を探しているのを見つけて私から引き受けたんです!」
「……まぁそうならいいけど、アンタ昼から謝りすぎよ」
「はいすみま…いえ何でもありません!大丈夫です!」
この娘、何だか放っておけない気がする。
まるで犬か猫でも見るような、そんな感情を抱きつつルイズは温かい目でシエスタを見ていた。
「フフッ、まぁいいわ。用はこれだけ?」
「あのですね、これを…」
シエスタの洗濯物をルイズが受け取りながらシエスタが手にした籠から何かを取り出す。
「これって…クックベリーパイ?」
「はい、お昼の時のお礼です。お口に合うかどうか…」
そこにはルイズの好物であるクックベリーパイがまるまる一ホール乗ったお皿が合った。
焼きたてのようでベリーの甘酸っぱい匂いとパイ生地の香ばしい香りがふんわりと鼻をくすぐる。
「あら、中々おいしそうじゃない。お茶淹れてくれる?」
「はい!只今」
シエスタが部屋を出た後、ルイズがテーブルにクックベリーパイを置いた。
このクックベリーパイ、自身の大好物であるためちょっと顔がにやついている。
「好きなのか?それ」
「あげないわよ~ガンダム」
「…俺は別に食べたいとは言ってないぞ」
ルイズのほくほくした顔を見てとりあえず自分の提案が正しかったと感じるゼロ。
しばらくするとカップとティーポット、皿にフォークやナイフなどが乗った盆を持ったシエスタがやって来た。
手早くパイを切り分けルイズにパイの乗った皿を置く。
「あの…ゼロさんもいかがですか?」
「いいのよ食べたくないって言ってたし~」
ルイズが嬉しそうな顔でパイを口に運ぶ。
「マルトーさんが忙しかったので、私が代わりに作ったのですが…お味のほうは…」
神妙な顔で味わっているルイズにシエスタは恐る恐る味を聞いてみた。
「……」
「…おいしい、おいしいわシエスタ!」
「あぁ…っ、ありがとうございます!」
シエスタの顔が瞬間的にパァッと明るくなった。
にやけた顔でパイを口に運ぶルイズと幸せそうな顔でルイズを見つめるシエスタ。
「クックベリーパイ、お好きなんですよね。ゼロさんから聞きました」
「あれ?そんな事は別に言ってないような……」
「何、今朝方お前が寝言で言っていたのを聞いただけだ」
「……こンの使い魔ぁ~!」
「黙って食え、折角シエスタがお前の為に焼いたんだ」
「し、仕方ないわねぇ。今回はこれで勘弁してやるんだから」
パイの美味しさに頬を緩めたりゼロの言葉に怒ったりころころと表情を変えるルイズと
ルイズから美味しいという言葉を貰い微笑みながらやれお茶のおかわりだの彼女に世話を焼くシエスタ。
授業の爆発騒ぎにギーシュとの決闘と、今日は騒ぎが多かったなと思い返しながら二人を見守っているゼロ。
その時、また部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「今度は誰?」
ルイズがドアを開けるとギーシュが立っていた、流石にいつもの調子ではなくちょっとバツが悪そうだ。
よく見ると頬が掌の形に赤くなっている
「や、やぁ…ルイズ…」
ルイズの幸せそうな顔が一気に「何しに来たのよ」というしかめっ面になる。
シエスタはやっぱりオロオロしており、ゼロは二人を一瞥して視線を窓の外に向けた。
「決闘に負けたから約束は果たすよ…その、君が最後になってしまったけど……」
「昼間のやり取りは僕が間違っていた、心から謝ろう。あの時はつい調子に乗ってしまったり
正論にカッとして禁止されている決闘を申し込んだり男として情けなかったよ。
決闘に負けた今じゃ……痛いほどよく分かる。」
「ま、反省してるようだし許してやろうかしら。
どうせそのほっぺ、モンモランシーか二股かけた一年の子に引っ叩かれたんでしょ」
「勘がいいね…モンモランシーに昼間の事を全部話した上で謝ったらまた一撃もらったよ…
でも“これに懲りたら他の娘に手を出すのはやめてね”って許してくれたんだよ!?
モンモランシーは僕を見捨てていなかったんだ!死中に活を見出したよ僕ァ!!」
「うっさいバカップルの片割れ」
「おごっ!!」
「さっきから一体なにやってるのルイ…あらいい匂いね」
「あ、もし良かったらいただきますか?」
「クックベリーパイね、じゃあちょっと頂こうかしら」
「キュ、キュルケェ!あんた私ののクックベリーパイを勝手に食べるんじゃないわよ!」
「あーら、このベリーの赤色はまさに私の髪のような灼熱のような赤だと思わなくて?」
「ギーシュ…遅いと思ったら今度はゼロのルイズに…っ!」
「どう見ても違うよモンモランシー!!僕は謝りに行って…」
「そうよこんなヘタレのキザ、あんたからあげるって言われてもそのままゴミに出す位いらないわ!」
「ギーシュがヘタレのキザだからいらないってぇ!?確かにヘタレでキザだけど聞き捨てならないわ!」
「かばってるようで抉ってるよモンモランシー……」
ルイズがギーシュをローキックでダウンさせている時に、騒ぎを聞きつけたキュルケがやって来て
さっきまでルイズが座っていた席でクックベリーパイを味わっている。
そしてギーシュの様子を見に来たモンモランシーが勘違いをしてルイズと口論しており、
蹴飛ばされたギーシュがなだめているが時折二人からどつかれていた。
「やかましいな……だがルイズがいつもの調子に戻ったようだし、良しとするか」
飽きれながらゼロが眺めていたルイズの部屋の様子は、昨夜より少し騒がしく賑やかだった。
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