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「プレデター・ハルケギニア-14」(2008/04/03 (木) 07:05:38) の最新版変更点
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#navi(プレデター・ハルケギニア)
すでに陽も高く登ったころ貴族派、『レコン・キスタ』の軍隊は王城へと到着していた。
到着したレコン・キスタの兵士たちが見たものは既に何者かに殲滅させられた
王軍の姿であった。彼らからすれば文字通り、闘わずしての勝利だ。
見るも無残な姿に虐殺された王軍の骸の中を歩く人影があった。
ワルドとフーケだ。
「あの後、王軍と一発やらかしたみたいね。あの化け物」
フーケが王軍の残骸を見回しながら言う。ワルドはそれには答えずに歩いていたが
不意に足を止めた。
「あら、麗しのウェールズ様じゃないの。なつかしいわね」
二人の目の前にはウェールズが目を虚ろに開いて事切れていた。
「何だか、あんたが殺した王子さまが一番原形留めてるわね」
フーケが笑いを含んだ声で言う。このウェールズだけがこの惨状の中唯一、亜人に手をかけられなかった骸であった。
ワルドに背後から一瞬で胸を貫かれた死体はほとんど損傷は無い。
ワルドがウェールズから目を離すと再び歩き出す。
「ちょっと、少しは反応ぐらいしてくれてもいいんじゃないの?」
先ほどから無言で骸の中を歩くワルドにフーケが不満そうに言う。
ワルドの足が再び止まる。腰から杖を抜き、小さく呪文を詠唱すると
地面から何かが浮かび上がった。
血に塗れた黒い布のような物が宙に浮いている。
「何よそれ?」
「彼女のマントだ」
「彼女?……ああ、あんたの婚約者のあの娘ね」
ルイズがあの時、瀕死の兵士を助けようと脱ぎ捨てたマントはそのまま現場に残されていた。
「でも、あんたのグリフォンで本部に送ったんじゃなかったの?」
「本部には俺のグリフォンしか戻ってきていない」
あの時、ワルドはラ・ロシェールで待っていてくれ、と言ったが現実にはあのグリフォンはレコン・キスタ本部へと飛んで行くこととなっていたのだ。
「じゃあ、グリフォンから飛び降りてここに戻ってきたっていうの?」
「そうなるだろうな」
「しかし肝心の本人が……まぁどこかにいるかもしれないわね。探してみる?」
フーケが原形を留めない死体の山を見回し、肩をすくめて言う。
「彼女の力、手に入れたかったがな」
フーケの言葉には答えずにワルドが言った。
「力ねぇ。でもあの娘、コモンマジックさえまともに出来ないはずよ」
フーケはロングビルという偽名で魔法学院に秘書として勤めていた。学院の名物的な『ゼロのルイズ』のことも当然知っている。
「目覚めていないだけだ。目覚めたのなら大きな力となる」
「何か探し物かな?子爵」
不意に二人の背後から声がかかる。
そこには司教の着る聖衣を身に纏った痩せ型の男と黒い長髪の美女が立っていた。
「いえ、何でもありません。クロムウェル様」
このクロムウェルと呼ばれた男こそがレコン・キスタの総司令官である。
元々は司教の職についていた男だ。
「はは。しかし、凄い暴れぶりだな。君の言う亜人族は」
周りの死体の山を見回しながらクロムウェルが言う。
「本当にご存知無いのですか?」
「知っていれば本当に雇いたいぐらいだよ。武器だけで数百のメイジを圧倒、まるで伝説の『ガンダールヴ』ではないか!」
「ガンダールヴ……」
ワルドもその伝説は耳にしたことがある。ガンダールヴとは始祖プリミルの引き連れた伝説の使い魔の一人である。
その卓越した武器術は並みのメイジでは到底太刀打ちできない物だったと言う。
千の軍隊を一人で打ち倒した等、様々な伝説が残っている。
「クロムウェル様」
クロムウェルの傍らの女性が声をかける。
ぴったりとした黒のコートを纏っている。ハルケギニアではかなり奇妙な服だ。年のころは二十代半ば程だろうか。
眼の覚めるような美人であったがどこはかとなく冷たい雰囲気を漂わせている。
「ん?ああ、そういえばちゃんとした紹介はまだだったな。
こちらは私の友人、ミス・シェフィールドだ」
クロムウェルの紹介に黒髪の女性、シェフィールドは小さく頭を下げた。
「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドです。先程は助かりました」
ワルドが恭しくシェフィールドに頭を下げる。
「彼女は様々なことに博識でな。我等にとって大きな力になってくれている。
彼女は東方の、『ロバ・アル・カリイエ』から来たのだ」
「あの『聖地』のさらに東にあるという……」
『聖地』とは六千年前に始祖プリミルが降臨したと言われる伝説の地である。
現在は聖地への通り道、『サハラ』にエルフたちが住み着き道は閉ざされている。
そして『ロバ・アル・カリイエ』とは聖地のさらに東に存在するという人間の居住する領域だ。
クロムウェルの紹介にシェフィールドは小さく笑みを浮かべた。
「しかし子爵、君の手でウェールズ皇太子を葬ってくれていて本当に良かった。
あんな風にバラバラでは面倒だからな」
クロムウェルがウェールズの死体を眺めながら言う。
まるでこのウェールズの死体に利用価値があるような言い方だ。
「この死体が何か役に?」
クロムウェルがワルドの方を見るとにやりと笑った。
杖を抜き手を前方に、つまりはウェールズの死体に向けて突き出すと
呪文を詠唱し始める。
「これは!?」
ワルド、そしてフーケは驚愕の表情を浮かべた。
何と地面に突っ伏して倒れていたウェールズの死体が少しずつ動き出したのだ。
土気色に生気が無くなっていた肌にも見る見ると赤みが差して行く。
「これが『虚無』の力だ」
この力――伝説の『虚無』の力こそがこの一介の司教に過ぎなかったこの男が
総司令官に選ばれた理由である。
「気分はどうかな?皇太子」
既に立ち上がったウェールズにクロムウェルが呼びかける。
ウェールズの口元が小さくつり上がった。
木造の小さな部屋の粗末なベッドの中でルイズは寝息を立てていた。
安らかな寝顔だ。森の中でティファニアと名乗る少女に連れられ、
体に付いた血と泥を洗い流しベッドに横になるとすぐに眠りについてしまった。
この数日間、あまりにも色々なことが起きすぎた。相当疲れが溜まっていたのだろう。
ルイズの寝顔を眺めている者がいた。ティファニアだ。安らかに眠る姿に安堵したような表情を浮かべると静かに
部屋の外に出て行った。
決して広いとは言えないリビングの椅子に腰掛け窓の外を見る。
もう陽も暮れ辺り一体は夕焼け色に染まっていた。
「テファ姉ちゃん。あの人ここで面倒を見るの?」
小さい、年の頃10程と思われる男の子がティファニアに話かける。
どうやら愛称では『テファ』と呼ばれているらしい。
「元気になって落ち着くまでね。仲良くしてあげて」
ティファニアが優しく笑みを浮かべながら男の子に言う。
「さてと、そろそろお夕飯の準備をしなくちゃね。干し肉を持ってきてくれる?」
男の子は元気に返事をすると外に飛び出して行った。
「あの子……ルイズがいるから一人分多く……」
頭の中でいつもより一人分多い献立を組み立てていると先程の男の子が戻ってきた。
「お姉ちゃん、干し肉全然無いよ」
「え?だってこの間買ったばかりよ。まだそんなに使ってないはずだわ」
ティファニアが部屋を出て食料を仕舞ってある小さな倉庫に向かう。
男の子の言うとおりそこにあるはずの干し肉は綺麗さっぱり無くなっていた。
「変ね……確かにあったと思うけど……」
ティファニアは倉庫の前で首を傾げた。
テファニアたちの住む小屋から少し離れた山中、そしてそこにぽっかりと空いた洞穴に蠢く者がいた。
巨大な爬虫類のような手に持たれた鋼色のマスクがゆっくりとその者の顔面へと近づいていく。
洞窟の暗がりでその顔を確認することはできない。その者の足元には細かい、干し肉の断片のような物が散らばっている。
そして完全に顔面へとマスクがフィットするとプシュ、と空気の抜けるような音が響いた。
マスクを身に着けたその者がゆっくりと洞穴の入り口へと歩いて行き、やがて月明かりでその姿が露となった。
あの亜人だ。鋼色のマスクの細長い眼が空を見上げる。夜空には双月が浮かんでいる。
ワルドとの戦いで負った傷は流血こそ止まっているものの、やはりまだ傷口は生々しい。
何かしらの治療が必要に思えた。
亜人の手が腰に伸びると何やら奇妙な物を取り出した。金属製の小さな円柱の様な形状をしている。
そして円柱の真ん中あたりからは鋭い金属の針が伸びていた。長さは10セントほどだろうか。
亜人がその針の先端部分を腹部にあてがい、力を込めて一気に自身の腹に突き刺した。
あまりの痛みにか、亜人は全身を震わせながら今までに無い巨大な咆哮を上げた。
亜人の咆哮は遥か先の港町にまで届いた。
そしてその咆哮に立ち止まる人影があった。
つり上がった眼鏡の下の鋭い眼光が夜空を見上げる。
追う者と追われし者。エレオノールと亜人の距離は――近い。
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