「ゼロの使い魔はメイド-02」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「ゼロの使い魔はメイド-02」(2008/04/02 (水) 06:03:14) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
#navi(ゼロの使い魔はメイド)
キュルケとの軽い悶着後。
ルイズはシャーリーを伴い、いざ朝餉におもむかんと食堂に行ったのだが。
(しまった……)
と、ルイズは無駄に豪華な朝食を前にしばし考えていた。
(この子の食事、どうしよう?)
普通使い魔の食事は学院が用意してくれるが、シャーリーは平民とはいえ、れっきとした人間である。
まさか他の使い魔連中と同じように扱うわけにいかぬ。
かといって、同じ席で同じものを食べさせるというわけにいかない。
貴族と平民は違うのだ。
ルイズはちらりと後ろに立っているシャーリーを見る。
ちょこんと横にひかえたシャーリー、ごく普通にしていた。
空腹でないわけではないだろうが、自分がルイズと同じ席で同じものを食べるなどという発想は最初からないようだ。
それがここハルケギニアでは普通なのだが。
もしもこれが、もっと別の時代の、別の時代の国の少年なんかであれば、自分もご相伴に預かれると思い込み、はしゃぎまわっていたかもしれぬが。
(後で、メイドにでも頼んでおけばいいかな?)
そう考えてから、始祖ブリミルへの感謝をささげた後、ルイズは朝食をとる。
朝食後、シャーリーの入れてくれたお茶を飲んで、ほっと息を吐いてから、
「ちょっと、あなた」
近くを通る黒髪のメイドに声をかけた。
「はい、なんでしょうか?」
メイドはルイズを振り返った後、シャーリーを見て、あらという顔をする。
もう顔を知っているのだろうか?
シャーリーを見ると、
「お洗濯の時に……」
なら、話は早い。
ルイズはふむとうなずき、
「ちょっと頼みたいんだけど――」
ルイズはシャーリーの食事をシエスタに頼むと、席を立ち上がった。
「シャーリー、あなた朝ごはんまだでしょ? 今のうちに食べてきなさい。終わったら教室にくるのよ。場所はそのメイドにでも聞いて。それから……」
と、ルイズはシャーリーの服装を見て、
「ついでにメイド服に着替えてきなさい」
「――はい」
メイド服、という言葉にシャーリーはかすかに反応したようだった。
(? まあいいわ)
「それじゃ、後よろしく」
そうシエスタに言って、ルイズはすたすたと食堂を出て行った。
「なんだ、シエスタその娘っこは?」
厨房に連れて行かれたシャーリーを出迎えたのは、コック長の怪訝そうな声だった。
「あの、この子はミス・ヴァリエールの……」
「おおう、平民の使い魔ってのは、この子か?」
コック長のマルトーはシャーリーを見ながら、
「まだ子供じゃねえか、こんな子を……。ったく、これだからメイジってやつらは……」
不機嫌そうに鼻を鳴らすマルトーに、シャーリーは脅えたように表情を暗くする。
それに気づいたマルトーはあわてたように振って、
「おっと、別にお前さんに怒ってるわけじゃあねえんだ。気にしねえでくれ。朝飯がまだ? そうか、簡単な賄いしかねえが、食ってきな」
「ありがとうございます」
シャーリーが礼を言うと、
「なぁに、いいってことよ」
マルトーは照れたように笑ってみせた。
「何か困ったことがあったら、俺でもいい、シエスタでもいい。いつでも相談しな」
「はい」
シャーリーは安心したように、かすかに微笑んだ。
簡素な食事をすませた後、シャーリーはシエスタにある部屋に案内される。
シエスタが他のメイドと一緒に使っている寝室。
「あらあら、かわいらしいこと」
シエスタは楽しそうに笑った。
部屋に設置された大きな鏡の中、メイド服に着替えたシャーリーが映っている。
「ちょうどサイズが合うのがあってよかったわ。ここではあなたくらいの年のメイドっていなかったから、服あるかなって思ってたんだけど」
シエスタはシャーリーの肩に手を置いて、鏡の中の小さなメイドを見る。
「……」
シャーリーは鏡をじっと見ている。
緊張したように表情は少ないが、嬉しそうな様子だった。
「それじゃ、ちょっと替えの服持ってくるわね」
「……」
シエスタが出て行った後も、シャーリーはしばしぼうっとしていたが、
「……」
おもむろに、くるりと体を回転させた。
スカートが、ふわりと舞う。
「………」
シャーリーはスカートを見下ろして、表情を一変させた。
花のような笑顔とは、このことであろうか。
さらに、もう一度。
じーん。
そんな擬音が聞こえてきそうな表情だった。
かすかに紅潮した頬が、少女の感動の強烈さを物語っているようだった。
シャーリーは何度もくるりと舞ったり、スカートの裾をつまんだりしていた。
すっかり夢中になっているところに、
「シャーリー、お待たせ……」
シエスタが予備のメイド服を手に戻ってきた。
「……」
鏡の前、裾をつまんでポーズをとっていたシャーリー。
立ち尽くすシエスタ。
THE WORLD
数秒経過。
そして、時は動き出す。
「……すみません。その、スカートがぶわっと……。こういうのに憧れてたので……」
「そ、そうなの」
シエスタは内心、
(そんなことが、あそこまで嬉しいなんて……)
暗い過去を背負っていそうだなあ。
照れまくるシャーリーを見て思った。
と、
ドンと、どこかで何かが爆発したような音が響いた。
「今の……」
驚くシャーリーに、
「多分ミス・ヴァリエールね……」
シエスタは苦笑した。
シャーリーが教えられた教室へと向かってみると、中はもうメッチャクチャだった。
教室の中で爆弾でも使用したかのような惨状。
ルイズはその中に一人で立ち、黙然としていた。
「あ、あの……」
何か近寄りがたい雰囲気ながら、シャーリーは思い切って声をかける。
「シャーリー」
ルイズは振り返らずに言った。
声が、ひどく硬い。
「はい」
「教室の中を片づけるの、手伝って」
「はい」
シャーリーはそれ以上何も言わず、掃除をはじめる。
器用な手つきで、ゴミを片づけ、床をはいていく。
広い教室なのでそうそうすぐには終わらないが、それでもシャーリーは手早く掃除を行っていく。
「何も聞かないの?」
のろのろと机をふいたりしていたルイズは、やはりシャーリーの顔を見ずに言った。
「……」
「私、どんな魔法を使っても爆発させちゃうの……。今日もそれで、この有様」
と、ルイズは教室を見る。
「おかしいわよね。魔法の使えない貴族なんて。召喚魔法は、サモン・サーヴァントやコントラクト・サーヴァントが成功したのに…………」
「……」
「……そっか。あんたは、魔法のないとこからきたんだっけ?」
「はい」
「シャーリー」
かすかに震える声で、ルイズは言った。
「はい」
「しばらく、私のほう見ないでね」
小さな声でルイズは懇願した。
背中を向けたその表情はシャーリーには見えない。
ただ、その肩はかすかに震えていた。
「はい」
シャーリーは、静かにうなずいた。
「シャーリー」
またしばらくして、ルイズはシャーリーを呼んだ。
「はい」
「ありがとね……」
「……いいえ」
ようやく片づけが終わった頃、時刻はもう昼にさしかかっていた。
少しばかり目を赤くしたルイズは、シャーリーと一緒に食堂へやってきた。
そして、朝と同じく何事もなかったような顔で食事を取り始める。
シャーリーは朝と違ってメイド服なのでひかえている姿はまったく違和感がない。
食事も終盤に差し掛かる頃、デザートが配られ始める。
色々と種類があって好きなものを選べるようになっているらしく、メイドたちがそれぞれ学生たちに言われるものを配っていく。
「何をお取りしましょう?」
お茶を入れてから、シャーリーはルイズに尋ねる。
「クックベリーパイ持ってきて」
「はい。ただ今」
シャーリーはデザートを配っているメイドたちのほうへ歩いていく。
と、その途中で談笑している少年が、ポケットから小壜が落ちるのが見えた。
「あの、落とされましたよ?」
シャーリーは拾って少年に渡そうとする。
「あ、ああ。ありがとう」
少年は一瞬ぎくりとした顔になるが、すぐに何食わぬ顔で受け取った小壜を素早くポケットにしまいこむ。
が、まわりの仲間は目ざとくそれを見とがめて、
「おい、今のはモンモランシーの香水じゃないか?」
「ああ、そうだが――。しかし、誤解のないように言っておくけれど……」
少年は何やら弁解しようとするが仲間は怒涛の勢いで、
「あの鮮やかな紫は、モンモランシーが自分のためだけに特別に調合する香水だ。間違いない」
ちょっと小太りの男子が大声で言った。
鈍重そうな容姿のわりに、変なところに目がきくらしい。
「そうだ! ということはだ。お前は今モンモランシーと付き合っている、とこういうわけだな?」
他の連中も面白そうに囃し立てる。
「違う。だから、彼女の名誉のためにも言っておくが……」
少年はなおも言い募ろうとするが、もはや周囲は聞く耳持たない。
と、そこに一人の少女が青い顔で近づいてくる。
「ギーシュさま、やっぱり……ミス・モンモランシーと」
「いや、これは。その、誤解だ」
「その香水が何よりも証拠です」
「違うよ、ケティ僕の心の中にいるのは君だけ……」
ぱぁん。
小気味のいい音が響く。
少女の手のひらが、少年の頬を張ったのだ。
「さようなら!」
少女は泣き顔で叫び、走り出してしまった。
「邪魔よ!!」
八つ当たり気味に、シャーリーを突き飛ばして。
よろけるシャーリーだが、どうにか踏ん張って持ちこたえる。
だが、そこに金の巻き毛が特徴的な少女がずかずかと近づいてきた。
「邪魔よ、どきなさい!」
巻き毛はシャーリーを押しのけてギーシュの前に立ちはだかる。
「やっぱり、あの一年生に手を出してたのね……?」
「待ってくれ、モンモランシー……これはだね」
少年はきざだが必死な様子で花の浮くような台詞を並べるが、巻き毛は何も言わずにテーブルのワインをひっつかみ、少年の頭に洗礼を与えるがごとくふりかける。
「この、うそつき!」
一声叫んで巻き毛の少女は行ってしまった。
去り際に、浮気な交際相手に張り手の贈りものをして。
見事なまでの醜態をさらした後も、少年はハンカチで顔を拭きながら、
「彼女らは、薔薇の存在意義を理解していないようだ」
などと、ほざいていた。
シャーリーは動揺しながらも、そそくさとその場を離れようとする。
あまりお近づきにはならないほうがよさそうだと判断して。
「待ちたまえ」
「は、はい」
少年に呼び止められ、シャーリーはぎくりとして足を止める。
「君、君が軽率に壜を拾っておかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね」
「え……」
まさか、こんな風に言われるとは思わなかった。
「……も、申し訳ありません」
理不尽である。
だが、シャーリーのような少女に学生とはいえ魔法使いで貴族という相手に反抗できる術などあるわけもない。
謝るしかなかった。
がたん。
その様子を見ていたルイズは、顔をしかめて椅子から立ち上がった。
(しまった……)
しばらくは傲然とシャーリーを見ていた少年だが、いくらか冷静になると我がことが省みられるようになってきたのか、ばつの悪そうな顔になってくる。
そこに。
「ちょっとギーシュ、何言いがかりつけてるのよ!!」
ルイズが大声で怒鳴り、シャーリーをかばい少年――ギーシュの前に立ちふさがる。
「さっきから聞いてれば、二股かけたあんたが悪いんじゃないの! か弱いメイドに八つ当たりするなんて最低よ!!」
「う……!」
その言い様にムカッとくるギーシュだが、ルイズの後ろで青くなっているシャーリーを見ると、事実を素直に認めるしかない。
女好きで軽薄ともいえる性格ではあるものの、理不尽に暴力を振るうこと好む気性ではない。
相手が少女なら、なおさらだ。
「うっ。そ、その通りだ」
ギーシュは頭をさげた。
負けるが勝ち。
そんな言葉が彼の脳裏を走ったかどうかは定かではないが。
「さっきの暴言は海に流してくれたまえ」
ギーシュはシャーリーに向かって謝罪する。
「完璧に僕が悪かった。どうか、びっくりするぐらい許してくれ」
しかし、いつもの調子は出ずに、何ともおかしな言い回しをしてしまった。
「い、いいえ……」
シャーリーはそう答えるのが、精一杯だった。
横でそれをハラハラと見ていたメイドたちもほっとした様子だった。
#navi(ゼロの使い魔はメイド)
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: