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「ゼロの独立愚連隊-08」(2008/04/06 (日) 22:22:40) の最新版変更点
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#navi(ゼロの独立愚連隊)
コルベールとの食事が突然の―――男性にとっての―――惨劇によって中断してしまった後、サモンジは予定通り学院のあちこちを回りっていたのだが………
「やれやれ、やっぱり困ったことになってるなぁ」
そうぼきながら日の落ちかけた中庭へとぼとぼと歩いて行く。とりあえず食事や休憩時間に生徒達の間をうろうろして噂話に耳を傾けていたのだが………ルイズの名前が会話に全く上がらなかったのだ。
大半の生徒達はルイズに家柄―――実家の、そしていずれ手にする権力―――という点では大きく劣っている。しかしルイズは全く魔法が使えない『ゼロ』だった、それが家柄への嫉妬や劣等感を解消して余りある物となっていた………それが、今までのルイズの周りの環境。
しかし、それが破壊の杖奪還とフーケ討伐によってルイズがメイジとしての実績を上げ、さらに教室での暴行の際に起こした巨大な爆発によってたとえ一般の系統魔法が使えなくとも、ヴァリエール家の力とあの爆発があれば軍人として出世する可能性は十分にある。
そうなれば、今までルイズをゼロとあざ笑ってきた自分達が一体どんな目に遭うのか。しかし、彼女が相変わらず系統魔法どころかコモンマジックすら使えないのは変わらない。
学院の生徒も、教師達ですらルイズにどの様に向き合えばいいのか分からなくなってしまった。
入学直後の、魔法が使えない公爵家の娘とどう付き合えばいいのか分からなかったあの時と似た状況。違うのは、入学直後は「本当に無能なのではないのか」、そして今回は「本当は有能なのではないか」という悩みであるということ。
そして、やはりルイズが無能のままだった場合は彼女に媚を売った者は後々まで馬鹿にされるだろうということと、ルイズが有能だった場合は、将来ルイズを嘲笑った彼らは公爵家の権力によって閑職に追いやられる恐れがあるという十分在り得る末路が彼らを悩ませていた。
選択肢を間違えば貴族としての将来に大きな傷を負うことになる。しかし現状ではどちらの選択肢を選ぶべきか、それを判断するための材料があまりにも少ない。
結果、生徒や教師達が選んだのは………沈黙と無視だった。
日が沈みかけ、空が赤い色を帯び始めてくる中をサモンジは疲れた顔でぶらぶらと歩いていた。
昨日のルイズに対する他の生徒達の嘘吐き扱い、そしてルイズの教室ごと爆発魔法で吹き飛ばすという暴行………それが生み出したルイズと周囲との溝は、以前の「無能メイジ」と呼ばれ馬鹿にされていた時よりも深いものとなっていた。
自分がメイジとして認められることを―――夢見ていた、と言っていいほど望んでいたルイズにとって今の状況は以前と同じどころか、その夢を踏みにじられたと言って良いだろう。
昨日はギトーと生徒達の振る舞いへの怒りを吐き出すことが出来たが、これからは毎日あの空気に耐えなければならない。
「………まあ放っておけないよね。私としても気分悪いし………」
大きくため息を吐き出す。せめて彼女を理解する友人でも居てくれれば、そう思う。
やはりサモンジという近しい人間が居たとしても、サモンジは大人なのだ。ルイズと子供としての気持ちを交わせるような歳の近い友人が子供の生活には、子供の成長には必要なのだと実感する。
最初に思いついたのはキュルケだ。一見仲が悪いように見えるが、あのぶつかり方が二人のコミュニケーションのように思える。とはいえ、喧嘩するほど仲が良いとは言っても本当に喧嘩ばっかりでは意味がない。せめて競い合うような、できれば手を取り合って歩めるような子がよい。
他に近しい人間としてはメイドのシエスタが思い浮かぶが、彼女は平民だ。サモンジもこの星の人間の価値観はある程度理解している。貴族と平民で友情を結び理解しあうというのは果てしない道のりだろう。
しかも、フーケ討伐の件でルイズは学院の平民達からは少々評判が悪いようだ。昼に賄いを食べに食堂に寄った際にマルトーらの噂話を聞く限りは、フーケは平民にとっては義賊というかロビンフットのように見られていたようだ。当然、それを捕らえたルイズ達への少なからぬ悪態も聞こえた。
となると………誰も居ない。ルイズの交友関係は公爵家という家柄からは信じられないほど狭いのだ。
朝からずっと部屋に戻っていないが、食事を届けるように頼んだメイドが足を運んでいるだろうし問題は無いだろう………そう思い、人気の無いところで少し休んでから戻ろうと中庭に出ると先客がいた。
「おっとギーシュ君か、お疲れさん………ところで何やってんのさ?」
中庭の片隅、そこには大きな穴があった。
深さは人間の腰程度まで。そこにギーシュが大きなモグラ―――ギーシュの使い魔のヴェルダンテ――
の毛皮に埋もれていた。
「サモンジ君か?………僕は土のメイジだからね………土に埋まっていると落ち着くんだ、はははは」
「いや嘘でしょそれ」
サモンジの突っ込みにギーシュはアハハ、と乾いた笑いを返しながら顔を上げる。
「ハ、ハ、ハ…………ヴァリエールの気持ちが良く解ったというか………聞いてくれるかいサモンジ君?」
「ああ、いいけど………」
朝。鏡の前で身だしなみを整えたギーシュは、時計を確認して硬い表情で部屋のドアを開けた。
昨日、ギーシュがフーケのゴーレムを倒したという学院の発表を信じようとしなかったばかりか、
ギーシュの事を嘘吐きだとあざ笑った彼の友人達。
そして彼らには反論できても上級生から馬鹿にされた時は怯えて何も言えなかった自分。
思い出すのは「ゼロ」と笑われても卑屈にならず高慢な態度を取り続けたルイズの姿。いや、あれは高慢と呼ぶべきではなかったのだろう、と今のギーシュは思った。立場や力の差に尻込みして意思を曲げたギーシュには、過去のルイズが「ゼロ」という嘲りに怒鳴り返す姿がもう滑稽とは思えない。
昨日からは自分も彼女のように周りの生徒達から馬鹿にされ、あざ笑われる立場になってしまった。
それでも自分の意志は曲げられない、もう誇りは捨てられない。昨日、上級生を前にして誇りを捨てたあの時の感情は一生忘れられないだろう。
今日から僕は本当の貴族になるんだ、そう決意を込めて廊下へ足を踏み出した。
「(大丈夫だ。このくらいどうって事はない………こんな貴族に相応しくない真似に付き合えない)」
食事を終えたギーシュが席を立つ。それに合わせるように、隣の席に座っていたマリコヌルがゲフウと音を立ててアルコール臭のするゲップをしてにやりと笑い、それを見た周囲の生徒がクスクスと笑いを漏らす。
食堂に向かうまでの陰口はまだ平気だった。しかし、家の格がルイズと比べて劣るギーシュにはやや直接的な嫌がらせをしてその様を見て笑おうとする者もいた。しかもその一人は一昨日までは友人だと思っていたマリコヌルだった。先にテーブルに着いてフォークを隠す、ギーシュが目を離した隙に彼のグラスのワインを飲み干すなど、そういった行動をして周囲の笑いを誘っている。
裏切られた、というよりは悲しみがギーシュの中では勝っていた。友人だと思っていた人間がこんな下品な神経をしていたということ、そして、自分も以前は同じようなことをルイズにして笑っていたということが悲しかった。
こうして周囲の嘲笑を浴びる立場になってようやくギーシュはどれだけ酷い仕打ちをルイズにしていたのか理解した。今日会ったら改めて謝ろう、ルイズが謹慎処分を受けていることを知らないギーシュはそう考えながら食堂を出ようとして…………思わず声が出た。
「………モンモランシー………」
食堂の出口、そこにモンモランシーがいた。ギーシュも知っている同じ学年の女子生徒、そして彼も知らない、上級生らしい長身の男子生徒。
「っ、あ…あら何か用かしらギーシュ?」
モンモランシーは一瞬気まずそうな顔をして顔を伏せるが、すぐに表情を戻して顔を上げる。それにギーシュが何か言う前に、一緒にいる女子生徒が侮蔑も顕わに割り込んでくる。
「あら架空冒険譚で噂のミスタ・グラモンではありませんか。今は冒険譚の気分じゃありませんの」
「ふふっ、私たち虚無の曜日の予定の相談で忙しいんですの。どこかに行って下さらない?」
そう言って口元を隠しながらクスクスと笑う。さらにギーシュから庇うように上級生がモンモランシー達とギーシュの間に割って入るようにギーシュの前に立ち見下ろし、馬鹿にしたように言う。
「なんだい、君がミス・モンモランシに言い寄っていたっていう噂の嘘吐きギーシュか。私は今度彼女達と休日を楽しみたいと思っているだけさ。邪魔しないでくれるかな」
その言葉に後ろの女子生徒達は再び笑い声を漏らす。モンモランシーの顔は見えない………軽く口元を隠しながら俯く彼女の表情が解らない。
ギーシュは短く息を吸うと表情を引き締め視線をモンモランシーから目の前の上級生に戻す。今度は退かない、その意思を視線に込めてまっすぐに見つめ返す。
「その言葉取り消して頂きたい。ギーシュ・ド・グラモン。そのような蔑称を受ける覚えはありません」
しかし、その上級生は一瞬意表を突かれたような顔をしただけですぐに馬鹿にしたような表情に戻る。
「あれ?なんだい君………女の子の前では見栄を張りたいのかい?はは、余計に格好悪いよ」
そう言ってポーズを決めるように―――というか実際そうなのだろうが―――髪をかき上げる。その仕種に女子生徒達は悲鳴のような歓声を上げる。
「あっはは、言い過ぎですよ先輩。彼、錬金しか取り得の無いドットですから。先輩とは格が違うって
分かってても見栄を捨てられないんですよぉ」
そして、笑いながらのその言葉に、思い出したようにもう一人が致命的に余計なことを口走った。
「あらそういえばモンモランシー、あなたの首飾り………前にグラモンが作ったって言ってなかった?」
その言葉に今まで彼女らのさらに後ろで俯いていたモンモランシーに視線が集まる。女子生徒と前に立つ上級生、そしてギーシュと目が合う。モンモランシーはすぐに視線を外して泳がせるように廊下の先を見ながら「そういえばそうだったわね」と小さく漏らす。
しかし、その言葉に今まで余裕の態度を取っていた上級生が気に食わないといった表情に変わる。ふーん、と彼が不機嫌そうに漏らす声にモンモランシーと女子生徒が思わず振り返る。上級生は彼女達が自分の態度におろおろしているのを見て少し気が晴れたが、相変わらずこちらをまっすぐに見つめ返してくる、いや睨み返してくるギーシュは別だった。
彼は最初からギーシュのことは眼中に無かった。所詮下級生のドットメイジ、しかも元帥家とはいえ落ち目の家柄。聞く限りでは単なる女たらしの放蕩貴族、そう思っていた。現に先程まで彼が声をかけていた女の子との会話に割り込まれても笑顔であしらっていたくらいだ。しかし、今このドットメイジ風情は彼の嘲笑に家名を上げて訂正を求めてきた………気に入らない。
しかし上級生の自分が彼を直接ヘコませるというのも面白くない、そう考えた彼は笑みを浮かべながら振り返る。そして膝を曲げモンモランシーと視線を合わせて彼女の首飾りを指差しながら言う。
「やれやれ、僕と休日の予定を話す時に他の男からの贈り物を見につけていたのかい?酷いなあ」
「あ、いや………その、すみません………私そんなつもりじゃなくて彼女達に付き―――
友達に付き合って、そう言いかけたモンモランシーに彼は首飾りを指差したまま言った。
「それ、捨ててよ」
その言葉にモンモランシーの表情が凍りついた。彼女を見つめる上級生の目………口元が笑みの形に歪んでいるだけの表情。その表情が意味するところは言うまでも無い、この場で、食堂という周囲の目がある場所でギーシュと決別しろということ。
あう、と声にならない声を漏らしながら視線を泳がせたモンモランシーの目に入ってきたのは、真剣な目で上級生を睨みつけるギーシュ、そして好奇心一杯の生徒達の視線だった。
食堂の入り口でこんなことをしていれば目を引かないはずが無い。モンモランシーは泣きそうになりながらも必死でどうすればいいのか考えていた。そもそも、モンモランシーにはこの上級生と一緒に虚無の曜日を過ごすつもりなどなかったのだ。友人と話しているところに上級生が話しかけて来て、いつの間にか自分と友人が一緒に遊びに行くという話しになってしまっていただけでしかない。しかし、ここで首飾りを捨てられないと言ってしまえば、彼女は下級生の目がある場所でこの上級生に恥をかかせることになってしまうだけでなく「嘘吐きギーシュ」と笑われるギーシュの仲間と思われてしまう。
正直、モンモランシーもギーシュがフーケのゴーレムを倒すという手柄を立てたなどとは思ってもいない。しかしギーシュが自分のことを誇張して話すのは今に始まったことではないし、それはそれで楽しんでいた、とモンモランシーは思っている。それが今回のように嘘吐きギーシュと過剰に馬鹿にするようになったのは「ゼロのルイズ」の手柄を学院が認めたのが気に入らない、ということが飛び火しただけだとモンモランシーは判断していた。
そうなのだ、モンモランシーにギーシュを嫌う理由は無い。いや、この首飾りを捨てろと言われた今、こんなにもショックを受けていることを考えれば…………
しかしここで首飾りを捨てないということは………でも捨てるなんて、私はギーシュを………
そんな思考のループにはまり込んだモンモランシーに、唐突に名案が思い浮かんだ。いや、普段ならこんな選択肢は論外だろう。しかし、上級生の面子と友人との付き合い、周囲の生徒の視線とギーシュへの感情、それら全てをクリアする選択肢としてその案に飛びついてしまった。
するり、とモンモランシーは上級生の横をすり抜けてギーシュの方へ向かう。一瞬あっけに取られた上級生は怒りも顕わにモンモランシーとギーシュを睨みつける。戸惑う女子生徒と面白そうに見つめる生徒達の視線の中で、モンモランシーはギーシュの目の前に立った。
「ああ愛しいモンモランシー………僕は、君を」
モンモランシーが自分の方に来たことに微笑を浮かべて手を広げるギーシュ。しかし、その言葉には応えずモンモランシーは無言で両手を首飾りにかける。
そしてギーシュの、周囲の目の前で首飾りを外した。
「これ、お返ししますわ。ミスタ・グラモン」
どっ、と周囲が沸いた。広げた両手をそのままに何を言われたのか理解できず呆然とするギーシュの手が取られ、モンモランシーの手で首飾りを握らされる。
「モ、モンモランシー………?」
呆然と、しかしまだ理解していないという顔で名前を呟くギーシュに目を合わせることなく、顔を伏せたまま食堂から走り去るモンモランシー。そして口元を隠すことさえせずに大声で笑い声を上げる先程の上級生と女子生徒。
捨てることは絶対に出来ない、しかしこの状況で手放さない訳にはいかない。その背反する選択にモンモランシーは首飾りを返すという選択をしたのだ。いつかギーシュと誤解を解き、改めて首飾りを贈ってもらえる、そんな希望を持って。しかし、周囲の生徒とギーシュにそんなモンモランシーの苦悩と行動の真意は分からない。今目の前で起こったことは、贈り物を相手から突き返されたという屈辱的な行動をギーシュが受けたということ。それだけだ。
「 」「 !」「 っ」「 」「 」
ぐらぐらする。周囲の騒がしさが遠い。何かとても屈辱的なことを言われているような気がする。
ぐらぐらする。
ぐらぐらする。
ぐるりぐるりと思考が空転する。
ぐるりぐるりと思考が空転する。
何か、何かがギーシュの中から欠けた。ギーシュの中の大部分を占めていた何かが無くなった。
彼にとって毎日の生活の軸だった物が無くなった。
ぐるりぐるりと思考が空転する。
ぐるりぐるりと思考が空転する。
「はは………そうさ………僕は、振られたんだ」
昨日、そして今日の朝の決意と覚悟は………もうかけらも残っていない。
最後にそう呟いてギーシュは抱きついているモグラに頬擦りを始める。ああ僕の可愛いヴェルダンデ、そんなことをいいながらぐりぐりと穴の中でモグラにじゃれ付いている………何かもう痛々しい。
その様子を呆れたように見守りながら、サモンジは頭の隅でふと思いついたことがあった。友人たちに裏切られ、恋人も離れた上に他の男がアプローチをかけていた。今なら、ギーシュもルイズと同様にひとりぼっち………他に相手もいないのだから、ルイズと仲良くしてくれるかもしれない。
そこまで考えたところで頭を振ってそれ以上の思考を止める。さすがに今まさに意中の子から振られたばかりのギーシュに、別な女の子と友達になってくれと頼むというのはデリカシーが無いにも程があるというものだ。サモンジは軽く息を吐くとベンチから腰を上げる。
「そうかい………そっちも大変そうだね、私は君に用事があったんだけど明日にしようかな」
穴の中のギーシュを見るが、モグラ―――ヴェルダンデといったか―――に抱きついたままで顔だけをサモンジの方に向けている。その様子にサモンジは軽く肩をすくめる。
「いや、明日でいいよ。ちょっと君にしか頼めそうに無いことだったんだけど、まあよろしく頼むよ」
そう言って女子寮に向かいながら背中越しに手を振る。ギーシュを必要としている、ということをさりげなく言葉にしたおかげで多少の興味は引けたようだ。後は多少気持ちが落ち着いたところで、サモンジからの頼みごとついでにルイズと引き合わせよう………ほんのりと熱を持つ左手のルーンを何とはなしに撫でながらこれからのことを考えていた。
「さて………今日のこと、ルイズちゃんには何て言おうかな………」
周囲の生徒達の態度の変化、ルイズと共にフーケのゴーレムを倒したギーシュへの周囲のいじめ、そしてコルベールが口走った虚無の系統という言葉。何よりも、教室でルイズが自分の意思で生徒と教師を爆発魔法で攻撃した昨日の夜………ルイズに芽生えた「私は私のことをを哂う他の生徒より強い」という暗い自信。
別にサモンジはルイズが軍人を目指そうとするなら反対するつもりは無い。この星の貴族社会ではメイジは領民を守るという側面を持っているし、サモンジの部下には女性兵士が二人いた上に最年少のレベッカは17歳だ。ガーディアンエンジェル小隊にいたっては全員16歳、ルイズと同い年の女の子というトンデモ部隊である。戦争が現在進行する中心領域で傭兵をしていたサモンジに反対する理由は特に無いのだ。心配しているのは、その魔法という暴力を軍人として管理するのではなく自分の感情のままに行使する、ただの理不尽な貴族になるのではないかということだ。
ルイズが周囲に抱いていたコンプレックスの深さはサモンジも知っている。そして、心を許せる友人がいないルイズがその感情を処理しきれなくなるのではないかということをサモンジは心配していた。
自分とルイズを繋いでいるという魔法………左手のルーンを見た後で、女子寮の窓―――ルイズの部屋のあたりを見上げる。
せめて、あの孤独な少女を大人としてできるだけ助けてやりたい。そう思ったあとで、我ながらお節介な事してるよなぁと胸の内で突っ込みを入れていた。
#navi(ゼロの独立愚連隊)
#navi(ゼロの独立愚連隊)
コルベールとの食事が突然の―――男性にとっての―――惨劇によって中断してしまった後、サモンジは予定通り学院のあちこちを回りっていたのだが………
「やれやれ、やっぱり困ったことになってるなぁ」
そうぼきながら日の落ちかけた中庭へとぼとぼと歩いて行く。とりあえず食事や休憩時間に生徒達の間をうろうろして噂話に耳を傾けていたのだが………ルイズの名前が会話に全く上がらなかったのだ。
大半の生徒達はルイズに家柄―――実家の、そしていずれ手にする権力―――という点では大きく劣っている。しかしルイズは全く魔法が使えない『ゼロ』だった、それが家柄への嫉妬や劣等感を解消して余りある物となっていた………それが、今までのルイズの周りの環境。
しかし、それが破壊の杖奪還とフーケ討伐によってルイズがメイジとしての実績を上げ、さらに教室での暴行の際に起こした巨大な爆発によってたとえ一般の系統魔法が使えなくとも、ヴァリエール家の力とあの爆発があれば軍人として出世する可能性は十分にある。
そうなれば、今までルイズをゼロとあざ笑ってきた自分達が一体どんな目に遭うのか。しかし、彼女が相変わらず系統魔法どころかコモンマジックすら使えないのは変わらない。
学院の生徒も、教師達ですらルイズにどの様に向き合えばいいのか分からなくなってしまった。
入学直後の、魔法が使えない公爵家の娘とどう付き合えばいいのか分からなかったあの時と似た状況。違うのは、入学直後は「本当に無能なのではないのか」、そして今回は「本当は有能なのではないか」という悩みであるということ。
そして、やはりルイズが無能のままだった場合は彼女に媚を売った者は後々まで馬鹿にされるだろうということと、ルイズが有能だった場合は、将来ルイズを嘲笑った彼らは公爵家の権力によって閑職に追いやられる恐れがあるという十分在り得る末路が彼らを悩ませていた。
選択肢を間違えば貴族としての将来に大きな傷を負うことになる。しかし現状ではどちらの選択肢を選ぶべきか、それを判断するための材料があまりにも少ない。
結果、生徒や教師達が選んだのは………沈黙と無視だった。
日が沈みかけ、空が赤い色を帯び始めてくる中をサモンジは疲れた顔でぶらぶらと歩いていた。
昨日のルイズに対する他の生徒達の嘘吐き扱い、そしてルイズの教室ごと爆発魔法で吹き飛ばすという暴行………それが生み出したルイズと周囲との溝は、以前の「無能メイジ」と呼ばれ馬鹿にされていた時よりも深いものとなっていた。
自分がメイジとして認められることを―――夢見ていた、と言っていいほど望んでいたルイズにとって今の状況は以前と同じどころか、その夢を踏みにじられたと言って良いだろう。
昨日はギトーと生徒達の振る舞いへの怒りを吐き出すことが出来たが、これからは毎日あの空気に耐えなければならない。
「………まあ放っておけないよね。私としても気分悪いし………」
大きくため息を吐き出す。せめて彼女を理解する友人でも居てくれれば、そう思う。
やはりサモンジという近しい人間が居たとしても、サモンジは大人なのだ。ルイズと子供としての気持ちを交わせるような歳の近い友人が子供の生活には、子供の成長には必要なのだと実感する。
最初に思いついたのはキュルケだ。一見仲が悪いように見えるが、あのぶつかり方が二人のコミュニケーションのように思える。とはいえ、喧嘩するほど仲が良いとは言っても本当に喧嘩ばっかりでは意味がない。せめて競い合うような、できれば手を取り合って歩めるような子がよい。
他に近しい人間としてはメイドのシエスタが思い浮かぶが、彼女は平民だ。サモンジもこの星の人間の価値観はある程度理解している。貴族と平民で友情を結び理解しあうというのは果てしない道のりだろう。
しかも、フーケ討伐の件でルイズは学院の平民達からは少々評判が悪いようだ。昼に賄いを食べに食堂に寄った際にマルトーらの噂話を聞く限りは、フーケは平民にとっては義賊というかロビンフットのように見られていたようだ。当然、それを捕らえたルイズ達への少なからぬ悪態も聞こえた。
となると………誰も居ない。ルイズの交友関係は公爵家という家柄からは信じられないほど狭いのだ。
朝からずっと部屋に戻っていないが、食事を届けるように頼んだメイドが足を運んでいるだろうし問題は無いだろう………そう思い、人気の無いところで少し休んでから戻ろうと中庭に出ると先客がいた。
「おっとギーシュ君か、お疲れさん………ところで何やってんのさ?」
中庭の片隅、そこには大きな穴があった。
深さは人間の腰程度まで。そこにギーシュが大きなモグラ―――ギーシュの使い魔のヴェルダンテ――
の毛皮に埋もれていた。
「サモンジ君か?………僕は土のメイジだからね………土に埋まっていると落ち着くんだ、はははは」
「いや嘘でしょそれ」
サモンジの突っ込みにギーシュはアハハ、と乾いた笑いを返しながら顔を上げる。
「ハ、ハ、ハ…………ヴァリエールの気持ちが良く解ったというか………聞いてくれるかいサモンジ君?」
「ああ、いいけど………」
朝。鏡の前で身だしなみを整えたギーシュは、時計を確認して硬い表情で部屋のドアを開けた。
昨日、ギーシュがフーケのゴーレムを倒したという学院の発表を信じようとしなかったばかりか、
ギーシュの事を嘘吐きだとあざ笑った彼の友人達。
そして彼らには反論できても上級生から馬鹿にされた時は怯えて何も言えなかった自分。
思い出すのは「ゼロ」と笑われても卑屈にならず高慢な態度を取り続けたルイズの姿。いや、あれは高慢と呼ぶべきではなかったのだろう、と今のギーシュは思った。立場や力の差に尻込みして意思を曲げたギーシュには、過去のルイズが「ゼロ」という嘲りに怒鳴り返す姿がもう滑稽とは思えない。
昨日からは自分も彼女のように周りの生徒達から馬鹿にされ、あざ笑われる立場になってしまった。
それでも自分の意志は曲げられない、もう誇りは捨てられない。昨日、上級生を前にして誇りを捨てたあの時の感情は一生忘れられないだろう。
今日から僕は本当の貴族になるんだ、そう決意を込めて廊下へ足を踏み出した。
「(大丈夫だ。このくらいどうって事はない………こんな貴族に相応しくない真似に付き合えない)」
食事を終えたギーシュが席を立つ。それに合わせるように、隣の席に座っていたマリコヌルがゲフウと音を立ててアルコール臭のするゲップをしてにやりと笑い、それを見た周囲の生徒がクスクスと笑いを漏らす。
食堂に向かうまでの陰口はまだ平気だった。しかし、家の格がルイズと比べて劣るギーシュにはやや直接的な嫌がらせをしてその様を見て笑おうとする者もいた。しかもその一人は一昨日までは友人だと思っていたマリコヌルだった。先にテーブルに着いてフォークを隠す、ギーシュが目を離した隙に彼のグラスのワインを飲み干すなど、そういった行動をして周囲の笑いを誘っている。
裏切られた、というよりは悲しみがギーシュの中では勝っていた。友人だと思っていた人間がこんな下品な神経をしていたということ、そして、自分も以前は同じようなことをルイズにして笑っていたということが悲しかった。
こうして周囲の嘲笑を浴びる立場になってようやくギーシュはどれだけ酷い仕打ちをルイズにしていたのか理解した。今日会ったら改めて謝ろう、ルイズが謹慎処分を受けていることを知らないギーシュはそう考えながら食堂を出ようとして…………思わず声が出た。
「………モンモランシー………」
食堂の出口、そこにモンモランシーがいた。ギーシュも知っている同じ学年の女子生徒、そして彼も知らない、上級生らしい長身の男子生徒。
「っ、あ…あら何か用かしらギーシュ?」
モンモランシーは一瞬気まずそうな顔をして顔を伏せるが、すぐに表情を戻して顔を上げる。それにギーシュが何か言う前に、一緒にいる女子生徒が侮蔑も顕わに割り込んでくる。
「あら架空冒険譚で噂のミスタ・グラモンではありませんか。今は冒険譚の気分じゃありませんの」
「ふふっ、私たち虚無の曜日の予定の相談で忙しいんですの。どこかに行って下さらない?」
そう言って口元を隠しながらクスクスと笑う。さらにギーシュから庇うように上級生がモンモランシー達とギーシュの間に割って入るようにギーシュの前に立ち見下ろし、馬鹿にしたように言う。
「なんだい、君がミス・モンモランシに言い寄っていたっていう噂の嘘吐きギーシュか。私は今度彼女達と休日を楽しみたいと思っているだけさ。邪魔しないでくれるかな」
その言葉に後ろの女子生徒達は再び笑い声を漏らす。モンモランシーの顔は見えない………軽く口元を隠しながら俯く彼女の表情が解らない。
ギーシュは短く息を吸うと表情を引き締め視線をモンモランシーから目の前の上級生に戻す。今度は退かない、その意思を視線に込めてまっすぐに見つめ返す。
「その言葉取り消して頂きたい。ギーシュ・ド・グラモン。そのような蔑称を受ける覚えはありません」
しかし、その上級生は一瞬意表を突かれたような顔をしただけですぐに馬鹿にしたような表情に戻る。
「あれ?なんだい君………女の子の前では見栄を張りたいのかい?はは、余計に格好悪いよ」
そう言ってポーズを決めるように―――というか実際そうなのだろうが―――髪をかき上げる。その仕種に女子生徒達は悲鳴のような歓声を上げる。
「あっはは、言い過ぎですよ先輩。彼、錬金しか取り得の無いドットですから。先輩とは格が違うって
分かってても見栄を捨てられないんですよぉ」
そして、笑いながらのその言葉に、思い出したようにもう一人が致命的に余計なことを口走った。
「あらそういえばモンモランシー、あなたの首飾り………前にグラモンが作ったって言ってなかった?」
その言葉に今まで彼女らのさらに後ろで俯いていたモンモランシーに視線が集まる。女子生徒と前に立つ上級生、そしてギーシュと目が合う。モンモランシーはすぐに視線を外して泳がせるように廊下の先を見ながら「そういえばそうだったわね」と小さく漏らす。
しかし、その言葉に今まで余裕の態度を取っていた上級生が気に食わないといった表情に変わる。ふーん、と彼が不機嫌そうに漏らす声にモンモランシーと女子生徒が思わず振り返る。上級生は彼女達が自分の態度におろおろしているのを見て少し気が晴れたが、相変わらずこちらをまっすぐに見つめ返してくる、いや睨み返してくるギーシュは別だった。
彼は最初からギーシュのことは眼中に無かった。所詮下級生のドットメイジ、しかも元帥家とはいえ落ち目の家柄。聞く限りでは単なる女たらしの放蕩貴族、そう思っていた。現に先程まで彼が声をかけていた女の子との会話に割り込まれても笑顔であしらっていたくらいだ。しかし、今このドットメイジ風情は彼の嘲笑に家名を上げて訂正を求めてきた………気に入らない。
しかし上級生の自分が彼を直接ヘコませるというのも面白くない、そう考えた彼は笑みを浮かべながら振り返る。そして膝を曲げモンモランシーと視線を合わせて彼女の首飾りを指差しながら言う。
「やれやれ、僕と休日の予定を話す時に他の男からの贈り物を見につけていたのかい?酷いなあ」
「あ、いや………その、すみません………私そんなつもりじゃなくて彼女達に付き―――
友達に付き合って、そう言いかけたモンモランシーに彼は首飾りを指差したまま言った。
「それ、捨ててよ」
その言葉にモンモランシーの表情が凍りついた。彼女を見つめる上級生の目………口元が笑みの形に歪んでいるだけの表情。その表情が意味するところは言うまでも無い、この場で、食堂という周囲の目がある場所でギーシュと決別しろということ。
あう、と声にならない声を漏らしながら視線を泳がせたモンモランシーの目に入ってきたのは、真剣な目で上級生を睨みつけるギーシュ、そして好奇心一杯の生徒達の視線だった。
食堂の入り口でこんなことをしていれば目を引かないはずが無い。モンモランシーは泣きそうになりながらも必死でどうすればいいのか考えていた。そもそも、モンモランシーにはこの上級生と一緒に虚無の曜日を過ごすつもりなどなかったのだ。友人と話しているところに上級生が話しかけて来て、いつの間にか自分と友人が一緒に遊びに行くという話しになってしまっていただけでしかない。しかし、ここで首飾りを捨てられないと言ってしまえば、彼女は下級生の目がある場所でこの上級生に恥をかかせることになってしまうだけでなく「嘘吐きギーシュ」と笑われるギーシュの仲間と思われてしまう。
正直、モンモランシーもギーシュがフーケのゴーレムを倒すという手柄を立てたなどとは思ってもいない。しかしギーシュが自分のことを誇張して話すのは今に始まったことではないし、それはそれで楽しんでいた、とモンモランシーは思っている。それが今回のように嘘吐きギーシュと過剰に馬鹿にするようになったのは「ゼロのルイズ」の手柄を学院が認めたのが気に入らない、ということが飛び火しただけだとモンモランシーは判断していた。
そうなのだ、モンモランシーにギーシュを嫌う理由は無い。いや、この首飾りを捨てろと言われた今、こんなにもショックを受けていることを考えれば…………
しかしここで首飾りを捨てないということは………でも捨てるなんて、私はギーシュを………
そんな思考のループにはまり込んだモンモランシーに、唐突に名案が思い浮かんだ。いや、普段ならこんな選択肢は論外だろう。しかし、上級生の面子と友人との付き合い、周囲の生徒の視線とギーシュへの感情、それら全てをクリアする選択肢としてその案に飛びついてしまった。
するり、とモンモランシーは上級生の横をすり抜けてギーシュの方へ向かう。一瞬あっけに取られた上級生は怒りも顕わにモンモランシーとギーシュを睨みつける。戸惑う女子生徒と面白そうに見つめる生徒達の視線の中で、モンモランシーはギーシュの目の前に立った。
「ああ愛しいモンモランシー………僕は、君を」
モンモランシーが自分の方に来たことに微笑を浮かべて手を広げるギーシュ。しかし、その言葉には応えずモンモランシーは無言で両手を首飾りにかける。
そしてギーシュの、周囲の目の前で首飾りを外した。
「これ、お返ししますわ。ミスタ・グラモン」
どっ、と周囲が沸いた。広げた両手をそのままに何を言われたのか理解できず呆然とするギーシュの手が取られ、モンモランシーの手で首飾りを握らされる。
「モ、モンモランシー………?」
呆然と、しかしまだ理解していないという顔で名前を呟くギーシュに目を合わせることなく、顔を伏せたまま食堂から走り去るモンモランシー。そして口元を隠すことさえせずに大声で笑い声を上げる先程の上級生と女子生徒。
捨てることは絶対に出来ない、しかしこの状況で手放さない訳にはいかない。その背反する選択にモンモランシーは首飾りを返すという選択をしたのだ。いつかギーシュと誤解を解き、改めて首飾りを贈ってもらえる、そんな希望を持って。しかし、周囲の生徒とギーシュにそんなモンモランシーの苦悩と行動の真意は分からない。今目の前で起こったことは、贈り物を相手から突き返されるという屈辱的な行動をギーシュが受けたということ。それだけだ。
「 」「 !」「 っ」「 」「 」
ぐらぐらする。周囲の騒がしさが遠い。何かとても屈辱的なことを言われているような気がする。
ぐらぐらする。
ぐらぐらする。
ぐるりぐるりと思考が空転する。
ぐるりぐるりと思考が空転する。
何か、何かがギーシュの中から欠けた。ギーシュの中の大部分を占めていた何かが無くなった。
彼にとって毎日の生活の軸だった物が無くなった。
ぐるりぐるりと思考が空転する。
ぐるりぐるりと思考が空転する。
「はは………そうさ………僕は、振られたんだ」
昨日、そして今日の朝の決意と覚悟は………もうかけらも残っていない。
最後にそう呟いてギーシュは抱きついているモグラに頬擦りを始める。ああ僕の可愛いヴェルダンデ、そんなことをいいながらぐりぐりと穴の中でモグラにじゃれ付いている………何かもう痛々しい。
その様子を呆れたように見守りながら、サモンジは頭の隅でふと思いついたことがあった。友人たちに裏切られ、恋人も離れた上に他の男がアプローチをかけていた。今なら、ギーシュもルイズと同様にひとりぼっち………他に相手もいないのだから、ルイズと仲良くしてくれるかもしれない。
そこまで考えたところで頭を振ってそれ以上の思考を止める。さすがに今まさに意中の子から振られたばかりのギーシュに、別な女の子と友達になってくれと頼むというのはデリカシーが無いにも程があるというものだ。サモンジは軽く息を吐くとベンチから腰を上げる。
「そうかい………そっちも大変そうだね、私は君に用事があったんだけど明日にしようかな」
穴の中のギーシュを見るが、モグラ―――ヴェルダンデといったか―――に抱きついたままで顔だけをサモンジの方に向けている。その様子にサモンジは軽く肩をすくめる。
「いや、明日でいいよ。ちょっと君にしか頼めそうに無いことだったんだけど、まあよろしく頼むよ」
そう言って女子寮に向かいながら背中越しに手を振る。ギーシュを必要としている、ということをさりげなく言葉にしたおかげで多少の興味は引けたようだ。後は多少気持ちが落ち着いたところで、サモンジからの頼みごとついでにルイズと引き合わせよう………ほんのりと熱を持つ左手のルーンを何とはなしに撫でながらこれからのことを考えていた。
「さて………今日のこと、ルイズちゃんには何て言おうかな………」
周囲の生徒達の態度の変化、ルイズと共にフーケのゴーレムを倒したギーシュへの周囲のいじめ、そしてコルベールが口走った虚無の系統という言葉。何よりも、教室でルイズが自分の意思で生徒と教師を爆発魔法で攻撃した昨日の夜………ルイズに芽生えた「私は私のことをを哂う他の生徒より強い」という暗い自信。
別にサモンジはルイズが軍人を目指そうとするなら反対するつもりは無い。この星の貴族社会ではメイジは領民を守るという側面を持っているし、サモンジの部下には女性兵士が二人いた上に最年少のレベッカは17歳だ。ガーディアンエンジェル小隊にいたっては全員16歳、ルイズと同い年の女の子というトンデモ部隊である。戦争が現在進行する中心領域で傭兵をしていたサモンジに反対する理由は特に無いのだ。心配しているのは、その魔法という暴力を軍人として管理するのではなく自分の感情のままに行使する、ただの理不尽な貴族になるのではないかということだ。
ルイズが周囲に抱いていたコンプレックスの深さはサモンジも知っている。そして、心を許せる友人がいないルイズがその感情を処理しきれなくなるのではないかということをサモンジは心配していた。
自分とルイズを繋いでいるという魔法………左手のルーンを見た後で、女子寮の窓―――ルイズの部屋のあたりを見上げる。
せめて、あの孤独な少女を大人としてできるだけ助けてやりたい。そう思ったあとで、我ながらお節介な事してるよなぁと胸の内で突っ込みを入れていた。
#navi(ゼロの独立愚連隊)
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