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一七三
このまま居座っていても事態は好転せぬと考えた君は、山を下りることに決めるが、その前に腹ごしらえをして、疲れ傷ついた体に活力をつけることにする。
死んだ馬の鞍袋から食糧を取り出し、手早く食事を済ませる。
体力点に二を加えよ。
細い潅木の幹とマントを組み合わせて応急の担架をこしらえると、その上にギーシュを横たえ、落ちぬように縄で縛り付ける。
担架の一端を地面に引きずることになるが、両腕で抱え上げるよりはずっと安全で、君の負担も軽いはずだ。
次に、気絶して動かぬモンモランシーを背中にかつぎ、やはり縄を使って自らの体にくくりつける。
準備を終えた君は、ゆっくりと足を踏み出す。
どちらも細身とはいえ、意識のない人間をふたりも運びながら岩だらけの山道を下るのは、容易なことではない。
だがそれでも進み続けるしかない――彼らの命を救うために。
名ばかりの道を踏みしだく君の足音と、担架が引きずられる音が、あたりに立ち込める不気味な沈黙を不作法に破る。
ところどころに発育の悪い潅木や下生えがあることを除いて、周囲に生命の痕跡はない。
動物の足跡や糞すら見当たらぬのだ。
猛獣や怪物に出くわす確立は低いようだが、それは同時に、人間にも滅多に出会えぬということだと気づいた君は、気が滅入りそうになる。
半刻が過ぎても周囲の景観は変わらず、君の歩みは遅々として進まない。
やはり、このやり方は間違っていたのだろうか?
そんなことを考えだした君が何気なく暗雲たなびく空を仰ぐと、なにかがこちらに向かって飛来してくるのを見て取る。
鷲や鴉だろうか?
いや、それの姿はどんな鳥よりもずっと大きい。
タバサの≪使い魔≫である青い竜、シルフィードか?
あの竜の鳴き声はもっと愛嬌のある高いさえずりであり、これほど不気味なしわがれたものではない――腐肉喰らいの禿鷹さながらだ!
やがて、空飛ぶ巨大なものの姿がはっきりと見えるようになる。
それは、差し渡し三十フィートにも達する大きな革の翼と、蛇に似た長い首と尻尾をもつ醜悪な生き物だ。
口は短くも鋭い牙だらけで、その上には小さいがぎらぎらと輝く瞳があり、君をじっとにらんでいる。
灰色の鱗に覆われたひょろ長い体は竜に似ているが、鉤爪の生えた脚は一対だけだ。
怪物はおぞましい鳴き声を上げると、君たちめがけて急降下してくる!
慌てて地に伏せ、突き出された鋭い鉤爪をかわす。
武器をつかむと縄を切ってモンモランシーを地面に横たえ、君は怪物を見上げる。
君の頭上を旋回している巨大な生き物はワイバーンだ。
≪タイタン≫に棲息する同種の怪物にくらべてやや細身だが、凶暴さではひけをとらない。
いまだ意識の戻らぬギーシュたちを見捨てて逃げるわけにもいかず、君はワイバーン相手に闘う覚悟を決める。
ワイバーン
技術点・九
体力点・一一
倒したなら二四〇へ。
望むなら、術を用いることもできる。
WAL・四一八へ
FOG・三七一へ
LOW・四八六へ
MUD・三四八へ
FIX・四〇六へ
四八六
体力点四を失う。
呪文を唱えているあいだにも、ワイバーンはふたたび舞い降りてくる。
だが術が効果を示すと、そのまま君の頭上を飛び過ぎてゆく。
君が北へ行けと命ずると、怪物は翼を大きくはばたかせ、指示どおりに飛び去る。
ワイバーンの姿が空の彼方に消え去ったのを見届け、君はほっと安堵の溜息をつく。二四〇へ。
二四〇
危険が去ったので、ふたたびモンモランシーをかつぎ、ギーシュの乗った担架をつかむ。
この場を立ち去る前に、小石を五個、または瓶一本ぶんの砂を持ち去ってよい。
君は岩だらけの小道を注意して進む。
道は今や急な下り坂になっており、場所によっては転げ落ちぬように一歩ずつそっと進まねばならない。
背中と両腕にかかる重みは耐えがたいものになり、疲労のために体力点一を失う。
立ち止まって息を整えた君は、時間の経過を確認しようと太陽を見上げ……背筋が凍る思いをする!
またもや空に大きな姿が浮かんでおり、上空を旋回しているのだ!
新たなワイバーンか、それともより凶悪な怪物か。
道端に生えている藪陰に隠れようとするが、もう遅い。
その生き物は君めがけて一直線に降下してくる。
先刻のワイバーンにも劣らぬ大きな翼をもった怪物は、きゅい、と甲高い鳴き声をほとばしらせ……『きゅい』?
よく眼を凝らした君は、舞い降りてくるのが恐るべき怪物ではなく、タバサの≪使い魔≫、青き≪韻竜≫のシルフィードだと気づく。
その背中には、ふたりの小柄な少女――タバサとルイズ――が乗っており、彼女たちは竜が着陸するや否や素早く飛び降り、君のほうに向かってくる。
ルイズは満身創痍の君たちを眼にし、驚愕と困惑の入り混じった表情を浮かべ、
「ギーシュ!? ひどい怪我じゃない!」と悲鳴じみた声で叫ぶ。
「あんたも怪我してるし……いったいなにがあったのよ!? それに、なんでモンモランシーまで居るの? なんで気絶してるの? ど、どうなってるのよー!」
「手当てが必要。学院へ」
ひどいありさまの君たちを見て取り乱すルイズとは対照的に、タバサはてきぱきと動く。
彼女は横たわるギーシュとモンモランシーに≪浮揚≫の術をかけると、シルフィードの背中に乗せる。
シルフィードの翼をもってすれば、学院まではあっという間だ。
一時(いっとき)は絶望的な状況かと思われたが、君たち三人は救われたのだ。
君は竜の背中によじ登るルイズに手を貸しながら、神々は誉むべきかな、と小さく快哉を叫ぶ。一三へ。
一三
竜に限らず、空を翔る生き物の背にまたがるなど君にとっては初めての経験だが、眼下に広がる景色を堪能する暇などない。
吹きつける向かい風の圧力はタバサが魔法で打ち消しているようだが、シルフィードの背中は人間が五人も――うちふたりはぐったりと横たわっている――乗るにはやや手狭だ。
冷や汗まみれの君は、一方の手で竜の背鰭の一枚をしっかりとつかみ、空いたほうの手で命綱を握りしめている――いまだ眼を覚まさぬ、
ギーシュとモンモランシーにくくりつけられた綱だ。
君にとっては気の抜けぬ行程だが、ふたりの少女は恐ろしくはないようで、竜が多少揺れたところでまったく動じない。
タバサは竜の首の付け根に近いところにぽつんと座り、じっと前方を見つめている。
彼女にしては珍しく、本を手にしてはいないようだ。
よく見るとその服は、四日前に会ったときに較べてさらに汚れが目立ち、あちらこちらが破れている。
小さな顔や細い手首には何枚か湿布のようなものが貼られており、貴族の令嬢らしからぬぼろぼろの姿だ。
彼女の身にいったいなにが起こったのだろう?
いっぽうルイズはそわそわと落ち着きのない様子で、ときおり君のほうを見ては、物問いたげな表情を見せる。
ルイズに話しかけようかとも考えるが、自身が落ちぬよう、ギーシュたちを落とさぬよう、必死の奮闘を続けるうちに、それどころではなくなってしまう。一三三へ。
一三三
≪水の塔≫の医務室にギーシュとモンモランシーを運び込んだのち、ルイズを連れて学院長室に出向く。
≪虚無の曜日≫にもかかわらず、幸いにもオスマン学院長の姿はあり、君は挨拶もそこそこに自身とギーシュ、モンモランシーが遭遇した怪異についての報告をはじめる。
「結局、あんたたちなにしに『北の山』まで行ったの? モンモランシーまで連れて」などと言い、
たびたび話の腰を折るルイズだったが、土大蛇の出現のくだりにさしかかると
「フーケを捕まえたときのあの怪物が、また現れたなんて……」と、
やや青ざめた顔でつぶやく。
土大蛇とともに現れたもう一匹の怪物、月大蛇に襲われた記憶をよみがえらせたのだろう。
「なんにせよ、ミスタ・グラモンもミス・モンモランシも命に別状はないようで一安心じゃ。もちろん、君もな。よくぞ彼らを守ってくれた。
学院長として礼を言わねばならんな」
話し終えるとオスマンがねぎらいの言葉をかけてくれるが、君の表情は暗い。
ある不吉な思いが、今の君の考えを占めているからだ。
土大蛇の目的はあきらかに君を抹殺することであり、ギーシュとモンモランシーはその巻き添えをくったのだ。
おそらく怪物は、ずっと君をつけまわし、襲撃の機会をうかがっていた――人里離れて邪魔が入らぬ、自らの武器となる岩だらけの場所で、獲物がすぐに逃げぬよう、馬から降りる瞬間を。
ハルケギニアのすべての国を敵に回した≪レコン・キスタ≫は崩壊の危機に立たされているはずだが、その首魁の≪使い魔≫である土大蛇は、君のような取るに足りぬ小者の命を狙った。
これはなにを意味するのだろう?
君への憎しみに駆られた土大蛇の独断専行か、それともクロムウェル自身の指令によるものか。
もしも後者だとすれば、これからも君に向けて刺客が送り込まれることになる。
次はルイズやタバサ、キュルケやオスマンが巻き込まれることになるかもしれぬのだ。
「ちょっと、さっきからどうしたのよ。ギーシュたちが怪我したのは、あんたのせいじゃないでしょ? そんなに落ち込むことはないわよ」
学院長室を出て寄宿舎に向かう君たちのうち、最初に口を開いたのはルイズだ。
君は立ち止まってルイズに向き直ると、彼女の鳶色の瞳をじっと見つめる。
「な、なによ」
どぎまぎとするルイズに君は、自らの考えを述べる。
自分は≪レコン・キスタ≫に狙われているかもしれぬ、このままではルイズや学院の人々を危険にさらしてしまう、と。
「姫さまや宮廷の重臣たちならともかく、なんで流れ者の平民で使い魔のあんたが狙われるのよ。自分を何様だと思ってるわけ?」
ルイズは君の考えを鼻で笑う。
「あの化け物たちは、もとの世界であんたにいっぺん殺されたんでしょ? その恨みを晴らそうとしに来ただけよ。なにかの任務のついでにね。
つまんないことを気に病んでないで、さっさと部屋に戻るわよ。あんたはわたしに、なにもかも事情を説明する義務があるんだから」
とまどい顔になる君を見て、ルイズは眉を吊り上げ、言葉を続ける。
「ギーシュたちと一緒になにをしに行ったのか。タバサと本当はどんな約束を取り交わしたのか――ああ、お話を聞かせてあげるんだったわね?
随分と面白くて、続きが気になるお話だったみたいね。タバサってば、四日ぶりに戻ってきたと思ったらまっすぐわたしの部屋にやってきて、『使い魔はどこ?』って訊いてくるのよ。
『北の山』へ行ったって教えてあげたらあの子、あんたの帰りを待とうともせずに、すぐに窓から飛び出して風竜に乗ろうとするんだもん。
慌てて追いかけて乗せてもらったけど、お話の続きを聞くのが待ちきれなかったみたいね。すごい速さで風竜を飛ばせてたわ」
ルイズはそこでいったん言葉を途切れさせるが、よく見ると肩を震わせている。
君が『ご主人様』に隠し事をしていたことに、腹を立てているのはあきらかだ。
忘れていた怒りが、話をするうちにふつふつと再燃してきたらしい!
ルイズは
「よろしければ、わたしにもそのお話を聞かせていただけませんこと? 今度はいっさいの嘘偽り抜きで、ね」と冗談めかした調子で言うが、
その声はまったく笑っていない!
タバサのおかげで窮地を救われた君だが、その彼女のせいで別の危地に陥ろうとしている。
君は溜息をつき肩を落とすと、とぼとぼと歩を進める。五五へ。
五五
部屋に戻るとすぐ、ルイズは声高に命令する。
「あんた、そこに座んなさい。誰が椅子に座っていいって言ったの? 床よ、床!」
小柄な少女から発せられているとはとても信じられぬ迫力に気圧された君は、彼女の言葉に従い床にひざまずく。
「それじゃあ、洗いざらい話してもらおうかしら? 晩ご飯まではまだ、たっぷり時間があるんだからね。あんたには晩ご飯とか関係ないけど」
そう言うと、箪笥の抽斗(ひきだし)から、黒光りする細長いなにかを取り出す――乗馬用の鞭だ!
ルイズは使い心地を試すかのように、鞭で何度か空を切る。
君がおびえた声で、それでなにをするつもりだと尋ねると、
「ううん、気にしないで。あんたが正直に、ありのままを話してくれれば、これを使うことなんてないわ。でも、この期におよんでもまだご主人様に嘘をついたり隠し事をするような使い魔には、
これできちんと躾をしてあげなきゃね。勘違いしないでね、わたしだって手荒なことはしたくないのよ?」という答えが返ってくる。
君は血の凍るような戦慄を覚える。
相手は、腕力でも魔力でも君にとうてい及ばぬ非力な存在のはずなのだが、どうしたわけか逆らえない。
観念してすべてを語ろうとしたところで、何者かの手によって背後の扉が叩かれる。
「ルイズ、いるんでしょ? タバサがダーリンと話をしたいんだって」
扉の向こうから聞こえてきたのは、キュルケの声だ。
ルイズは扉に向かって怒鳴る。
「今は取り込み中よ! あとでいくらでもお話させてあげるから、出直しなさい。 あと、ダーリンはやめてって言ってるでしょ!」
「……急を要する」
「タバサもこう言ってることだし、いいでしょ? まだ日も高いうちからダーリンを独占だなんて、ずるいわよ」
「変な言いかたするなー!」
扉越しに行われる少女たちのやりとりを聞きながら、君はどう動くべきか考える。
扉に飛びついて鍵を開け、キュルケとタバサを招き入れるか(一五九へ)、逆に、扉を押さえてルイズへの忠義を示すか(二三五へ)。
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一七三
このまま居座っていても事態は好転せぬと考えた君は、山を下りることに決めるが、その前に腹ごしらえをして、疲れ傷ついた体に活力をつけることにする。
死んだ馬の鞍袋から食糧を取り出し、手早く食事を済ませる。
体力点に二を加えよ。
細い潅木の幹とマントを組み合わせて応急の担架をこしらえると、その上にギーシュを横たえ、落ちぬように縄で縛り付ける。
担架の一端を地面に引きずることになるが、両腕で抱え上げるよりはずっと安全で、君の負担も軽いはずだ。
次に、気絶して動かぬモンモランシーを背中にかつぎ、やはり縄を使って自らの体にくくりつける。
準備を終えた君は、ゆっくりと足を踏み出す。
どちらも細身とはいえ、意識のない人間をふたりも運びながら岩だらけの山道を下るのは、容易なことではない。
だがそれでも進み続けるしかない――彼らの命を救うために。
名ばかりの道を踏みしだく君の足音と、担架が引きずられる音が、あたりに立ち込める不気味な沈黙を不作法に破る。
ところどころに発育の悪い潅木や下生えがあることを除いて、周囲に生命の痕跡はない。
動物の足跡や糞すら見当たらぬのだ。
猛獣や怪物に出くわす確立は低いようだが、それは同時に、人間にも滅多に出会えぬということだと気づいた君は、気が滅入りそうになる。
半刻が過ぎても周囲の景観は変わらず、君の歩みは遅々として進まない。
やはり、このやり方は間違っていたのだろうか?
そんなことを考えだした君が何気なく暗雲たなびく空を仰ぐと、なにかがこちらに向かって飛来してくるのを見て取る。
鷲や鴉だろうか?
いや、それの姿はどんな鳥よりもずっと大きい。
タバサの≪使い魔≫である青い竜、シルフィードか?
あの竜の鳴き声はもっと愛嬌のある高いさえずりであり、これほど不気味なしわがれたものではない――腐肉喰らいの禿鷹さながらだ!
やがて、空飛ぶ巨大なものの姿がはっきりと見えるようになる。
それは、差し渡し三十フィートにも達する大きな革の翼と、蛇に似た長い首と尻尾をもつ醜悪な生き物だ。
口は短くも鋭い牙だらけで、その上には小さいがぎらぎらと輝く瞳があり、君をじっとにらんでいる。
灰色の鱗に覆われたひょろ長い体は竜に似ているが、鉤爪の生えた脚は一対だけだ。
怪物はおぞましい鳴き声を上げると、君たちめがけて急降下してくる!
慌てて地に伏せ、突き出された鋭い鉤爪をかわす。
武器をつかむと縄を切ってモンモランシーを地面に横たえ、君は怪物を見上げる。
君の頭上を旋回している巨大な生き物はワイバーンだ。
≪タイタン≫に棲息する同種の怪物にくらべてやや細身だが、凶暴さではひけをとらない。
いまだ意識の戻らぬギーシュたちを見捨てて逃げるわけにもいかず、君はワイバーン相手に闘う覚悟を決める。
ワイバーン
技術点・九
体力点・一一
倒したなら二四〇へ。
望むなら、術を用いることもできる。
WAL・四一八へ
FOG・三七一へ
LOW・四八六へ
MUD・三四八へ
FIX・四〇六へ
四八六
体力点四を失う。
呪文を唱えているあいだにも、ワイバーンはふたたび舞い降りてくる。
だが術が効果を示すと、そのまま君の頭上を飛び過ぎてゆく。
君が北へ行けと命ずると、怪物は翼を大きくはばたかせ、指示どおりに飛び去る。
ワイバーンの姿が空の彼方に消え去ったのを見届け、君はほっと安堵の溜息をつく。二四〇へ。
二四〇
危険が去ったので、ふたたびモンモランシーをかつぎ、ギーシュの乗った担架をつかむ。
この場を立ち去る前に、小石を五個、または瓶一本ぶんの砂を持ち去ってよい。
君は岩だらけの小道を注意して進む。
道は今や急な下り坂になっており、場所によっては転げ落ちぬように一歩ずつそっと進まねばならない。
背中と両腕にかかる重みは耐えがたいものになり、疲労のために体力点一を失う。
立ち止まって息を整えた君は、時間の経過を確認しようと太陽を見上げ……背筋が凍る思いをする!
またもや空に大きな姿が浮かんでおり、上空を旋回しているのだ!
新たなワイバーンか、それともより凶悪な怪物か。
道端に生えている藪陰に隠れようとするが、もう遅い。
その生き物は君めがけて一直線に降下してくる。
先刻のワイバーンにも劣らぬ大きな翼をもった怪物は、きゅい、と甲高い鳴き声をほとばしらせ……『きゅい』?
よく眼を凝らした君は、舞い降りてくるのが恐るべき怪物ではなく、タバサの≪使い魔≫、青き≪韻竜≫のシルフィードだと気づく。
その背中には、ふたりの小柄な少女――タバサとルイズ――が乗っており、彼女たちは竜が着陸するや否や素早く飛び降り、君のほうに向かってくる。
ルイズは満身創痍の君たちを眼にし、驚愕と困惑の入り混じった表情を浮かべ、
「ギーシュ!? ひどい怪我じゃない!」と悲鳴じみた声で叫ぶ。
「あんたも怪我してるし……いったいなにがあったのよ!? それに、なんでモンモランシーまで居るの? なんで気絶してるの? ど、どうなってるのよー!」
「手当てが必要。学院へ」
ひどいありさまの君たちを見て取り乱すルイズとは対照的に、タバサはてきぱきと動く。
彼女は横たわるギーシュとモンモランシーに≪浮揚≫の術をかけると、シルフィードの背中に乗せる。
シルフィードの翼をもってすれば、学院まではあっという間だ。
一時(いっとき)は絶望的な状況かと思われたが、君たち三人は救われたのだ。
君は竜の背中によじ登るルイズに手を貸しながら、神々は誉むべきかな、と小さく快哉を叫ぶ。一三へ。
一三
竜に限らず、空を翔る生き物の背にまたがるなど君にとっては初めての経験だが、眼下に広がる景色を堪能する暇などない。
吹きつける向かい風の圧力はタバサが魔法で打ち消しているようだが、シルフィードの背中は人間が五人も――うちふたりはぐったりと横たわっている――乗るにはやや手狭だ。
冷や汗まみれの君は、一方の手で竜の背鰭の一枚をしっかりとつかみ、空いたほうの手で命綱を握りしめている――いまだ眼を覚まさぬ、
ギーシュとモンモランシーにくくりつけられた綱だ。
君にとっては気の抜けぬ行程だが、ふたりの少女は恐ろしくはないようで、竜が多少揺れたところでまったく動じない。
タバサは竜の首の付け根に近いところにぽつんと座り、じっと前方を見つめている。
彼女にしては珍しく、本を手にしてはいないようだ。
よく見るとその服は、四日前に会ったときに較べてさらに汚れが目立ち、あちらこちらが破れている。
小さな顔や細い手首には何枚か湿布のようなものが貼られており、貴族の令嬢らしからぬぼろぼろの姿だ。
彼女の身にいったいなにが起こったのだろう?
いっぽうルイズはそわそわと落ち着きのない様子で、ときおり君のほうを見ては、物問いたげな表情を見せる。
ルイズに話しかけようかとも考えるが、自身が落ちぬよう、ギーシュたちを落とさぬよう、必死の奮闘を続けるうちに、それどころではなくなってしまう。一三三へ。
一三三
≪水の塔≫の医務室にギーシュとモンモランシーを運び込んだのち、ルイズを連れて学院長室に出向く。
≪虚無の曜日≫にもかかわらず、幸いにもオスマン学院長の姿はあり、君は挨拶もそこそこに自身とギーシュ、モンモランシーが遭遇した怪異についての報告をはじめる。
「結局、あんたたちなにしに『北の山』まで行ったの? モンモランシーまで連れて」などと言い、
たびたび話の腰を折るルイズだったが、土大蛇の出現のくだりにさしかかると
「フーケを捕まえたときのあの怪物が、また現れたなんて……」と、
やや青ざめた顔でつぶやく。
土大蛇とともに現れたもう一匹の怪物、月大蛇に襲われた記憶をよみがえらせたのだろう。
「なんにせよ、ミスタ・グラモンもミス・モンモランシも命に別状はないようで一安心じゃ。もちろん、君もな。よくぞ彼らを守ってくれた。
学院長として礼を言わねばならんな」
話し終えるとオスマンがねぎらいの言葉をかけてくれるが、君の表情は暗い。
ある不吉な思いが、今の君の考えを占めているからだ。
土大蛇の目的はあきらかに君を抹殺することであり、ギーシュとモンモランシーはその巻き添えをくったのだ。
おそらく怪物は、ずっと君をつけまわし、襲撃の機会をうかがっていた――人里離れて邪魔が入らぬ、自らの武器となる岩だらけの場所で、獲物がすぐに逃げぬよう、馬から降りる瞬間を。
ハルケギニアのすべての国を敵に回した≪レコン・キスタ≫は崩壊の危機に立たされているはずだが、その首魁の≪使い魔≫である土大蛇は、君のような取るに足りぬ小者の命を狙った。
これはなにを意味するのだろう?
君への憎しみに駆られた土大蛇の独断専行か、それともクロムウェル自身の指令によるものか。
もしも後者だとすれば、これからも君に向けて刺客が送り込まれることになる。
次はルイズやタバサ、キュルケやオスマンが巻き込まれることになるかもしれぬのだ。
「ちょっと、さっきからどうしたのよ。ギーシュたちが怪我したのは、あんたのせいじゃないでしょ? そんなに落ち込むことはないわよ」
学院長室を出て寄宿舎に向かう君たちのうち、最初に口を開いたのはルイズだ。
君は立ち止まってルイズに向き直ると、彼女の鳶色の瞳をじっと見つめる。
「な、なによ」
どぎまぎとするルイズに君は、自らの考えを述べる。
自分は≪レコン・キスタ≫に狙われているかもしれぬ、このままではルイズや学院の人々を危険にさらしてしまう、と。
「姫さまや宮廷の重臣たちならともかく、なんで流れ者の平民で使い魔のあんたが狙われるのよ。自分を何様だと思ってるわけ?」
ルイズは君の考えを鼻で笑う。
「あの化け物たちは、もとの世界であんたにいっぺん殺されたんでしょ? その恨みを晴らそうとしに来ただけよ。なにかの任務のついでにね。
つまんないことを気に病んでないで、さっさと部屋に戻るわよ。あんたはわたしに、なにもかも事情を説明する義務があるんだから」
とまどい顔になる君を見て、ルイズは眉を吊り上げ、言葉を続ける。
「ギーシュたちと一緒になにをしに行ったのか。タバサと本当はどんな約束を取り交わしたのか――ああ、お話を聞かせてあげるんだったわね?
随分と面白くて、続きが気になるお話だったみたいね。タバサってば、四日ぶりに戻ってきたと思ったらまっすぐわたしの部屋にやってきて、『使い魔はどこ?』って訊いてくるのよ。
『北の山』へ行ったって教えてあげたらあの子、あんたの帰りを待とうともせずに、すぐに窓から飛び出して風竜に乗ろうとするんだもん。
慌てて追いかけて乗せてもらったけど、お話の続きを聞くのが待ちきれなかったみたいね。すごい速さで風竜を飛ばせてたわ」
ルイズはそこでいったん言葉を途切れさせるが、よく見ると肩を震わせている。
君が『ご主人様』に隠し事をしていたことに、腹を立てているのはあきらかだ。
忘れていた怒りが、話をするうちにふつふつと再燃してきたらしい!
ルイズは
「よろしければ、わたしにもそのお話を聞かせていただけませんこと? 今度はいっさいの嘘偽り抜きで、ね」と冗談めかした調子で言うが、
その声はまったく笑っていない!
タバサのおかげで窮地を救われた君だが、その彼女のせいで別の危地に陥ろうとしている。
君は溜息をつき肩を落とすと、とぼとぼと歩を進める。五五へ。
五五
部屋に戻るとすぐ、ルイズは声高に命令する。
「あんた、そこに座んなさい。誰が椅子に座っていいって言ったの? 床よ、床!」
小柄な少女から発せられているとはとても信じられぬ迫力に気圧された君は、彼女の言葉に従い床にひざまずく。
「それじゃあ、洗いざらい話してもらおうかしら? 晩ご飯まではまだ、たっぷり時間があるんだからね。あんたには晩ご飯とか関係ないけど」
そう言うと、箪笥の抽斗(ひきだし)から、黒光りする細長いなにかを取り出す――乗馬用の鞭だ!
ルイズは使い心地を試すかのように、鞭で何度か空を切る。
君がおびえた声で、それでなにをするつもりだと尋ねると、
「ううん、気にしないで。あんたが正直に、ありのままを話してくれれば、これを使うことなんてないわ。でも、この期におよんでもまだご主人様に嘘をついたり隠し事をするような使い魔には、
これできちんと躾をしてあげなきゃね。勘違いしないでね、わたしだって手荒なことはしたくないのよ?」という答えが返ってくる。
君は血の凍るような戦慄を覚える。
相手は、腕力でも魔力でも君にとうてい及ばぬ非力な存在のはずなのだが、どうしたわけか逆らえない。
観念してすべてを語ろうとしたところで、何者かの手によって背後の扉が叩かれる。
「ルイズ、いるんでしょ? タバサがダーリンと話をしたいんだって」
扉の向こうから聞こえてきたのは、キュルケの声だ。
ルイズは扉に向かって怒鳴る。
「今は取り込み中よ! あとでいくらでもお話させてあげるから、出直しなさい。 あと、ダーリンはやめてって言ってるでしょ!」
「……急を要する」
「タバサもこう言ってることだし、いいでしょ? まだ日も高いうちからダーリンを独占だなんて、ずるいわよ」
「変な言いかたするなー!」
扉越しに行われる少女たちのやりとりを聞きながら、君はどう動くべきか考える。
扉に飛びついて鍵を開け、キュルケとタバサを招き入れるか([[一五九へ>ソーサリー・ゼロ第三部-10(偽)]])、逆に、扉を押さえてルイズへの忠義を示すか(二三五へ)。
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