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#navi(アクマがこんにちわ)
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朝食を終えた生徒達が、ばらばらに教室へと移動していく。
魔法学院の教室は、半円形のホール状になっており、円の中心に教壇が設置されている。
それを囲うようにして机が配列されており、外周に行くほど足場が高くなっている、最後列まで昇って教壇を見下ろすと、机の上がよく見える。
それはテレビで見た、どこか大きな大学の講義室のようであり、人修羅は大学という環境に憧れを持っていたので、ちょっとだけ得した気分になった。
その上、石で作られた建物なので、教室の雰囲気はどこか中世ヨーロッパの臭いが漂っている気もする。
ヨーロッパになど行ったことはない、想像上のヨーロッパに思いを馳せているだけだが、人修羅にとってはそれも新鮮で喜ばしいことだった。
人修羅とルイズが中に入っていくと、先に教室にやってきていた生徒たちが一斉に振り向き、じろじろと二人の姿を見た。
そして周囲からくすくすと笑い声が聞こえてくる、先ほど会ったキュルケはこちらにウインクを見せ、青い髪の毛の少女は他の生徒とは違いこちらを見向きもしない。
キュルケの周囲は、男子生徒が固めている、男がイチコロになるのも無理はないなと思い、人修羅は一瞬だけはにかみを見せた。
もちろん素早く視線を巡らし、キュルケが室一のバストを誇っているのは確認済みである。
階段のような段差を昇っていき、最後列の席に近づくと、人修羅は食堂と同じように椅子を引いた。
ルイズは無言でそれに座る、人修羅は立ったまま教室内の『使い魔』らしき生き物を見回し、どんな生き物が使い魔になっているのかを確認しようとしていた。
キュルケのサラマンダーは、椅子の下で眠り込んでいるようだ。
肩にフクロウを乗せている生徒もいるし、教室の窓からは大きなヘビが中をのぞき込んでいる、空には昨日も見かけたドラゴンがいて、蛇の後ろから教室内をちらちらとのぞき込んでいるのが解った。
昨日は、あの青い髪の毛の少女がドラゴンに乗っていた、おそらくあの少女の使い魔だろうと予測して、人修羅は目を閉じた。
肌の感覚を少しずつ敏感にしていく、感じるのは温度でも風の流れでもなく、純粋なエネルギー。
以前、古くから人間と関わり、何度も召喚されたことがあるピクシーが、こんなことを言っていた。
マガツヒ、魔力、精神力、マグネタイト、気、霊力…それらは同じものかもしれないし、違うものかもしれない、と。
誰からそんなことを聞いたのか解らないが、人修羅にとってそれは大きなヒントだった。
自分の身体の中を流れる混沌としたエネルギーを、より効率よく、的確に操るための、糸口になったのだ。
今感じようとしているのもそれだ、教室内の人間、使い魔達のエネルギーを肌で感じようとしていた。
いくつもの小さな粒、その中でひときわ大きな力の塊が二つ、そしてそれとは別に濃密な力が一つ存在している。
人修羅が目を開け、力を感じた場所を一つ筒確認していくと、二つの大きな粒はキュルケと青髪の少女。
そして濃密な力は…不思議なことに、ルイズから発せられていた。
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「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
いつの間にか教壇には教師らしき人物が立ち、教室内を見渡していた。
人修羅がふとルイズを見ると、俯いて肩を縮めていた。
教壇の方から視線を感じ、人修羅がさりげなく視線の元を見る、そこにはシュヴルーズと名乗った、中年女性のメイジがいた。
「…ミス・ヴァリエールもよく召喚を成功させましたね」
シュヴルーズが人修羅を見てそう言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。
「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、変な格好の平民なんか連れてくるなよ!」
その言葉に怒りを覚えたのか、ルイズは勢いよく立ち上がった。
ピンク色の髪を揺らしたまま、可愛いらしい声に必死の怒りを乗せて怒鳴る。
「違うわ! きちんと召喚したわよ! こいつが来ちゃっただけよ!」
別のメイジがルイズの方を向いて、こう大声を上げた。
「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』ができなかったんだムガッ」
「お友達を侮辱してはいけませんよ」
ゲラゲラと笑い声が上がりかけたところで、シュヴルーズが杖を振って魔法を使い、笑い声を注意した。
シュヴルーズのこめかみにはうっすらと冷や汗が浮かんでいる、人修羅にはそれが解った、昨日のうちに人修羅の存在が通達されたのだろう、明らかにルイズと、人修羅に注意が向けられている。
先ほどルイズを侮辱した生徒は、シュヴルーズが杖を振ると同時に出現した粘土で、口を覆われていた。
窒息させるまでの効果は無く、ただ張り付いているだけだが、生徒を黙らせるにはそれで十分らしい。
ルイズもそれを見て、ふん、と鼻を鳴らし着席した。
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「では、授業を始めますよ」
コホンと咳をして気を取り直したシュヴルーズが、右手に持った杖を軽く振った。
すると机の上に、直径三センチから四センチほどの石ころがいくつか出現した。
人修羅はそれを見て「へー」と呟き、感心していた。
「私の二つ名は赤土。赤土のシュヴルーズです。これから一年皆さんに『土』系統の魔法を抗議します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」
ぽすん、と音を立てて、マリコルヌと呼ばれた少年の口から粘土が消える。
「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです!」
マリコルヌの回答が満足のいくものだったのだろう、シユヴルーズは口元にわずかな笑みを浮かべて頷いた。
「今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです。その五つの系統の中で『土』はもっとも重要なポジションを占めていると私は考えます……」
シュヴルーズによる土系統の抗議は、去年一年間のおさらいを兼ねており、人修羅にとってはこの世界の魔法を知る上で大いに役立った。
万物の組成を司る重要な魔法、金属や石を作り出し、加工し、建築物を造り出し、農作物の収穫にも役立つという、生活に密着した重要な系統…それが土系統らしい。
人修羅はなるほど、と思いつつ、天地創造の神話に登場するような、神様や魔神などの仲魔を思い出していた。
彼らは、人間が呼吸をするのと同じぐらい簡単に、天地を作り出すこともできたはずだ。
しかしボルテクス界では、彼らの邪魔をする存在もまた同格の神々だった、そのため天地創造の力は完全に発揮されることはなく、彼らの力は戦いでのみ発揮されていた。
シュヴルーズの行った『練金』は、魔法を戦いの手段として使っていた人修羅にとって、とても興味深く、そして面白いものだった。
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俺は最後列に座るルイズの後ろで、壁を背にして立ったまま、授業風景を見ていた。
授業は滞りなく進み、何名かの生徒が指名され、練金の実演を行っている。
シュヴルーズ先生が練金した石ころを、真鍮に変える者もいれは、鉄や青銅に変える者もいた。
中には失敗して、中身が石ころのままだった生徒もいるが、ほとんどの生徒は練金に成功していた。
「それでは最後に、ミス・ヴァリエールにやって頂きましょうか」
「え? わたし?」
目の前でルイズさんが指名された。
…おいおい、危険だろう、規模は小さいとはいえ爆発を実演させるなんて、危ないんじゃないだろうか。
俺はコルベール先生から、ルイズさんの魔法が爆発すると聞いていたので、危険だと思ったが…シュヴルーズ先生は自信満々にこう続けた。
「そうです。ここにある石ころを、あなたの望む金属に変えてごらんなさい」
なるほど、この先生は自分の『練金』によほど自信があるのだろう、先ほども粘土を生徒の口に貼り付けたあの手腕は見事だった。
きっと、多少の爆風なら簡単に封じ込めてしまうに違いない。
しかしルイズさんは立ち上がらない、背後からでも困ったようにもじもじしているのが解る。
よほど緊張しているのだろうか。
「ミス・ヴァリエール! どうしたのですか?」
シュヴルーズ先生が再度ルイズさんに呼びかける、するとキュルケさんが困ったような声でこんな事を言い出した。
「先生」
「なんです?」
「やめといた方がいいと思います……」
「おや、どうしてですか?」
「危険です」
キュルケさんがきっぱりと言い放つ、あまりの言い分に俺は呆気にとられたが、教室のほとんど全員が頷いていたので、思わず「え?」と口から声が漏れてしまった。
「危険? どうしてですか?」
「先生はルイズを教えるのは初めてですよね?」
シュヴルーズ先生がキュルケさんに疑問を投げかけると、キュルケさんはそれを質問で返した。
キュルケさんの言葉を信用するなら、この先生はルイズさんが魔法を失敗して爆発するのを知らない。
「ええ。ですが彼女が努力家ということは聞いていますよ。それに……」
ちらりと俺の方を見る、どうやら俺という存在を呼び出したことで、よく分からないけどルイズさんは期待されてるらしい。
「…さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。魔法の得手不得手は誰に出もあるのです、失敗を恐れていては、何もできないのですよ?」
にっこりと微笑むシュヴルーズ先生とは対照的に、キュルケさんは顔面蒼白でこう言った。
「ルイズ。やめて」
おいおい、キュルケさんはこの教室の中じゃそれなりに実力があると思ったのに、そんな人がルイズの魔法を恐れるのか?もしかして俺、ルイズさんを止めた方が良いのか…?
……しかし、俺が止める間もなくルイズさんが立ち上がった。
「やります」
ルイズさんはつかつかと教室の前に歩いていき、黒板を背にして教壇の前に立った。
緊張した顔で教壇を見ると、右手で杖を握りしめ、肩の高さに掲げる。
隣に立っているシュヴルーズ先生が、緊張を解きほぐそうとしてルイズさんに笑いかけた。
「ミス・ヴァリエール。この石をどのような金属に錬金したいのか、強く心に思い浮かべるのですよ」
ルイズさんは真剣な表情で頷いた、その仕草がどこか可愛らしいので、俺は心の中でガッツポーズを取ろうとした。
そう、顔も仕草もとても可愛らしい、しかし……。
ルイズさんが呪文を唱えようとした瞬間から、杖を介して収束していくエネルギーは、方向性を持たない暴風のようなもので、どこに飛んでいくか解らない危うさに満ちていた。
前の列に座る生徒達は、既に机の下に隠れており、キュルケさんは机の影から心配するように俺を見ていた。
……やっぱりルイズさんを止めるべきだったかもしれない。
そんなことを考えている内に、ルイズさんは呪文を唱え終わり、杖を振り下ろした。
俺の目には、石ころが琥珀のような濃密な黄色と紫の輝きに包まれたように見えた、それはあらゆる耐性を破壊させる『万能属性』に酷似している。
しかもルイズさんは、自分の目の前、それこそ目と鼻の先で『万能属性』のエネルギーを爆発させようとしている。
「やばっ」
俺は教壇めがけて跳躍した。
ルイズさんの隣に着地し、すかさず右手で石ころを握りしめる
熱い、今からじゃ投げるのも間に合わない
片手じゃ押さえきれない、左手を重ねる、石ころが意外と大きい、手に隙間ができる
腹に手を押しつけて、もっと強く押さえ込む
マサカドゥスによって得た魔法反射能力が、勝手に発動しそうになる
万能属性じゃない? 複数属性の魔法?
反射するな、反射したらどこに飛ぶか解らない
まずい、押さえろ、押さえ込め! 押さえ込め!!!
押さ
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使い魔のフレイムに覆い被さる形で、私は床に伏せた。
ヴァリエールの魔法は、気合いを入れるといつも爆発する。
去年、『ロック』を唱えようとして鍵穴を吹き飛ばした事件は、ヴァリエールが『魔法の成功しないメイジ』として有名になるきっかけだった。
ランプに火を灯そうとして、着火のルーンを詠唱したヴァリエールが、ランプを爆発させたこともある、あの時は破片で自分の手を怪我していた、その時はバカにする気も起きず、むしろ哀れだとも思えた。
練金の授業で、ヴァリエールはいつになく真剣な面持ちで杖を握りしめていた、気合いを入れれば入れるほどヴァリエールの魔法は大きな爆発を産む、それを知っていた私はフレイムの上で頭を抱え、鳴り響くであろう爆音に備えていた…
ボシュッ
………?
いつものような、ドカン!とか、ズドン!という盛大な爆発音が聞こえない、代わりに聞こえてきたのは気の抜けるような音だった。
同じく机の下に隠れている、隣の男子生徒(なんて名前だっけ?)がおそるおそる顔を上げていた。
男子生徒は、口を半開きにして、ぽかんと教壇の方を見ていた。
私も机から顔を出して教壇を見た……いつの間にか教壇の脇に立っている人修羅が、両手から煙を立ち上らせている。
シュゥシュウと音を立て、煙が出ているその手には、何か服の切れ端のようなものが少し垂れ下がっていた。
違う、人修羅の上半身は裸だ、ということは…あれは、掌の皮膚!?
■■■
「いてー、ルイズさん大丈夫?怪我とかない?」
俺はなるべく軽いノリでルイズさんに話しかけた。
手の怪我は大したこともない、これぐらいなら一分ほどで再生できる。
「ひと、しゅら…」
ルイズさんは呆然と俺の手を見ていた、その瞳は困惑に彩られ、心の内は解らない。
もしかして魔法を邪魔されたので、怒っているのだろうか?
「ちょっと!その手!」
「あ、ああ、ごめん。見たこと無い魔法なんで、ちょっと驚いて咄嗟に掴んでさ、投げようとしたんだけど」
「そうじゃないわよ!そうじゃ…ミ、ミセスシュヴルーズ!水のメイジに、治癒を」
「大丈夫だって!ほら」
俺は狼狽えるルイズさんに掌を見せた、破れて垂れ下がった皮膚は既に風化を初めており、黒く焦げた部分もピンク色になっている。
「え? あ、あれ、さっきのは? 酷い火傷で…」
「見間違いだよ見間違い」
迷ったけど、俺は嘘をつくことにした。
このアクマの身体に秘められた再生能力を自慢するのも、ルイズさんに変な引け目を感じさせるのも、いいことでは無いと思ったからだ。
「あ、何よ、でも腫れてるじゃない…ミセス・シュヴルーズ。私は使い魔の治癒を頼んできます」
「え?ええ」
ルイズさんは、なぜか早口で喋っている、シュヴルーズ先生は一瞬だけ呆気にとられたようだが、すぐに気を取り直して返事をしてくれた。
そして俺はルイズさんに腕を捕まれ、まるで連れ去られるような勢いで教室から出て行くハメになった。
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俺はルイズさんに引っ張られ、廊下を早歩きで移動している。
ここまで俺のことを気にしてくれるのだから、『大丈夫だよ!』と言って手を振りほどくのはかえって失礼だろう。
魔法学院の建物から外に出ると、朝とは別の水くみ場にたどり着いた。
「そこで手を冷やしなさい」
ルイズさんはそう言い放つと、教室に戻るつもりなのか、ずいぶん急いで建物の中へと戻っていった。
…そのとき、俺の耳は、ルイズさんが教室とは別の方向に歩いているのを察知してしまった。
そろり、そろりと足音を殺し、気配を消して、ルイズさんが走り去った方へ近づいていく。
周囲の音や気配を拾いつつ歩くと、使い魔らしき魔力を含んだ動物の気配がいくつも感じられた。
その中に一つだけ、小さく、頼りなく輝くような気配があった。場所は魔法学院本塔の裏側…ヴェストリの広場だ。
本塔の作る日陰で薄暗いその広場は、今の時間なんの授業にも使われていないのか、人の気配は一つしか存在しない。
唯一の気配は、扉から広場に出たところで立ちつくし、右手に杖を握りしめたまま肩をふるわせて、嗚咽を漏らしていた。
「…うっ……ぐすっ…あ゛うううっ…」
ルイズさんが、泣いている。
ぽたり、ぽたりと地面に水滴が落ちる。
俺の胸が、ずきりと痛み出した。
…痛み、心の苦しみ、俺がずっと忘れていた感情が、アクマとなったあの日から消えていたはずの感覚が、なぜか今感じられる。
俺は二人の友達を殺した、弱肉強食の世界を作ろうとした友達を殺し、閉じられた停滞の世界を作ろうとした友達を殺した。
でも胸は痛まなかった、あのとき俺は何も感じていなかった。
オスマン先生とコルベール先生に『俺は人間を捨てきれない』と言ったが、あれは嘘だ。
俺はアクマとなったあの日から悪魔になった、だから俺は人間らしさにこだわり、馬鹿なことをして、進んで笑いを取って、自分が人間だったのを忘れないようにしていた。
俺は…『人間を捨てられない悪魔』じゃなくて『人間に憧れる悪魔』になってしまったんだ……。
そんな俺の胸に、今、人間の時に感じていた、ココロの苦しみが湧き出している!
俺は後ろから、できるだけ優しくルイズさんを抱きしめた。
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私は、自分が情けない。
教師に練金の実技を指名された時、私は怖じ気づいていた。
ツェルプストーが私に「やめて」と言った時、私は止めるべきだった。
練金の実技は、使い魔にメイジとしての姿を見せる、チャンスだと思いこんで、私は必死の思いで魔法を成功させようとした。
…けれども、結果は失敗だった。
それどころか使い魔は、人修羅は、私の目の前に飛び込んで、爆発を起こす魔法を両手で押さえ込み、爆発を防いでくれた。
だけどその代償として、私は使い魔を怪我させてしまった……。
酷く手を腫らせた人修羅は「大丈夫?」と言って、私の身を心配してくれた。
それなのに私は『悔しい!』と思ってしまった。
そう考えた自分が許せない、人修羅は私を助けようとしてくれたのに、私は人修羅に敵意を向けてしまった。
そんな自分が情けなくて、私は人修羅の手を引いて教室を抜け出し、誰もいない場所を探した。
廊下を走る間、私は、あふれ出る涙が止まらなかった。
ヴェストリの広場に足を踏み入れ、そこに誰もいないと解ると、ついに私は声を我慢できなくなってしまった。
「うぇっ……う゛ぅ…うああああ……っ」
どうすればいいか解らない。
何をして良いのか解らない。
私が何でここにいるのか、わからない…
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「ルイズさん」
「!」
不意に、肩が温かいものに包まれる。
背後から回された、模様の描かれた腕が、私を抱きしめていた。
…人修羅?
「俺は、ここに召喚される前、地獄のような場所にいたんだ。家族も同級生もみんな死んで、生き残っていた友達も、最後には誰もいなくなった、みんな、死んだんだ」
「………」
「だから形はどうあれ、また人間と会うことができて、俺は嬉しいんだ。ルイズさんが召喚してくれたから、俺はまた人とふれあうことが出来た、俺はそれが何より嬉しいんだ」
「………」
「だから、気を落とさないでくれ、俺はルイズさんに助けて貰ったんだ、だから……」
「……ふんっ」
わたしは、人修羅の腕を振りほどいた。
はしたないことだと解っているけど、袖で顔を拭い、人修羅の方を振り向く。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
人修羅の額に、右手に持った杖を向けてから、左手で人修羅の首を掴む。
わたしの唇が人修羅の唇と重なった。
。
「………え、えっと」
驚いたのか、人修羅は呆気にとられて目を泳がせていた、恥ずかしさもあるのか頬を少し赤く染めている。
それを見た私は、ちょっとだけ恥ずかしくなった。
「かっ、勘違いしないでよ!使い魔の契約よ!」
「え、あ、そうなの? あ、あはは、ビックリしちゃった、あははは」
照れ隠しなのか、後頭部をぽりぽりとかき始める人修羅を見て、私はちょっとだけむかついた。
「……キスだったんだから…」
「え?」
「……ファーストキスだったんだからね!」
私の怒鳴り声が、昼前の魔法学院に響く。
どうして怒鳴ってしまったのか、自分でもよく分からない。
だけど、私のココロは、ヴェストリの広場から見上げた空のように、とても青く透き通っている気がした。
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