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「ゼロと波導の勇者 1」(2007/07/19 (木) 21:08:08) の最新版変更点
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やっと、やっと出来た。これで、使い魔がわたしの元に……!
ルイズの胸は高鳴っていた。
何度も何度も爆発を起こしては、皆に笑われていた『サモン・サーヴァーント』。
最後の正直とばかりに魔力をつぎ込んだが、どうやらそれが功を奏したらしい。
魔術反応に空間が揺らめき、弾け――何かを、この世界に召喚した。
「何よ、これ……」
そこに突き刺さっていたのは、一本の杖だった。銀の飾りと大きな宝石が静かに輝いている。
ルイズはおずおずと歩み寄ると、その杖を引き抜いた。バランスを崩しかけ、ふらつく。銀飾りがちゃりりと鳴った。
「……………………」
「……………………」
さわやかな春風が、吹き抜けた。が。
「おーいゼロのルイズ! せめて生き物呼び出せよ!」
その罵声は沈黙を破ったばかりか、他の罵声を呼び出した。
「無機物呼び出してどうすんだよ」
「まさかインテイジェンスロッドとかー?」
「どこに口があるんだよ!」
ざわつく心ない声に、ルイズの顔がかあっと赤くなった。
「う、うるさいうるさいッ! こんな杖なんか……!」
今は杖の重さすら感じなかった。この喧しい声が止まるなら、腕など安い代償だった。
ゆっくりとルイズは杖を振り上げ、
「こんな杖なんかーッ!」
重力に任せ、振り下ろそうとした。
しかし、その刹那。
『何故ですか! アーロン様!!』
唐突に、奇妙な響きを持った男の声が、辺りに響いた。
男というより、声変わりしたばかりの少年のような若々しい声だった。
皆驚いて顔を見合わせ、今の声の主を探した。
そしてそれがルイズの持っている杖だと気付くと、大きく目を見開いた。
「なっ、によ、コレぇ……!」
杖は宝石から光を放ちながら、ルイズの手の中で震えている。
ともすれば自分の手から落ちそうなそれを、ルイズは必死に掴んだ。がちがちと銀飾りが激しく音を立てる。
遂に宝石から青白い稲妻が走り、生徒たちの目を焼きながら地に落ちた。
ルイズは反動で尻餅をつくという醜態を曝したが、それを恥ずかしく思う暇などなかった。
落ちた稲妻は何かのシルエットを象り、やがて薄れて消えた。
後には、不思議な生き物だけがひざまずいていた。
漸く視力が戻った生徒たちは、思わずその手に小さな杖を構え、生き物に近づいた。
狐の獣人だろうか。青と黄色の身体をしている。
黒い覆面をしたような頭には、雨粒の形をした房が4つ生えていた。
ルイズも何とか衝撃から立ち直り、獣人に近づこうとした。
が、しかし。ふいに獣人は頭を上げると、その房をピンと立て高速で振動させ始めた。
そして体を起こし、未だ自体が飲み込めないルイズに、ゆっくりと近づく。
『何故……城を捨てたのですか! 一体何故……何故なんです!』
どうやら先ほどの声の主は、この獣人らしい。
だが悠長に分析ができる人間など、この場には一握りもいなかった。
『アーロン様、一体……何故』
一番困ったのは、当然ながらこの獣人を呼び出したルイズだった。
先ほどから言っているアーロンなる人物が何者なのか、まったく見当がつかない。
何より目を閉じているのだ。何故自分とその人間を間違えているのだろう。
「あの、あんた……何か人違いしてない?」
ようやくルイズがそう言うと、獣人は喉の奥でブルルと唸った。
そして、辛そうに瞼を開いた。赤い目が、ルイズを射抜くように見つめた。
だがその目線も、すぐに戸惑うものへと変わった。
不安げに尾を垂らし、辺りをぐるりと見回す。
自分に突き刺さる視線にぶるりと身体を震わせると、獣人は軽い身のこなしでそこから跳ねるように走り去った。
「…………あれ?」
「え? 今の使い魔……」
「逃げた?」
「使い魔が?」
「召喚した使い魔が、逃げた?」
「ゼロのルイズが召喚した……」
つぶやきは、再び洪水となってルイズの鼓膜を破ろうとした。
「ミスタ・コルベールッ!!」
洪水が嘲笑に変わる前に、ルイズはそれを自分の怒鳴り声でかき消した。
「何だい? ミス・ヴァリエール」
「あの、もう一度! もう一度召喚させてください!! お願いします!」
嘲笑を消す声も嘆願も、コルベールはもとより、使い魔召喚の儀式を曲げることはなかった。
「残念ながら駄目だ。使い魔召喚が神聖な儀式であることは、君も知っている筈だ。一度呼び出した使い魔は、それから一生涯のパートナーになるということも」
――やはり、駄目なのか。ぎりりとルイズは唇を噛んだ。
切れる限界まで唇を噛み締めると、きっとコルベールに向かい合い、
「……わかりました。連れ戻してきます」
不本意ながら、そう言った。
見つけることは、思ったよりも簡単だった。
獣人は学院内の広場で、空を仰ぎ、呆然と立ち尽くしていた。
不安そうに尾と耳を垂らし、心ここにあらずといった姿で。
怒鳴りつけてでも首輪を着けてでも連れ戻そうと思ったが、こうショックを受けていると……
ルイズは彼に、そっと近づいた。
気づいたのだろう、驚いたような声を上げ、彼は振り返った。
どうやら、この獣の唸り声のような声のほうが地声らしい。
ルイズが口を開く前に、彼は苦しげにつぶやいた。
『戦争は……戦争は、どうなったんだ?』
『ロータは、オルドラン城は……リーン様はどうなってしまわれたんだ!?』
『……アーロン様は……ッ!!』
それだけ、だった。
彼はそれきり黙ると、座り込んでしまった。
結局ルイズが引きずる形で彼を連れて行ったが、既に誰も残っていなかった。
あとには、ショックに打ちひしがれたルイズと彼だけが残された。
やっと、やっと出来た。これで、使い魔がわたしの元に……!
ルイズの胸は高鳴っていた。
何度も何度も爆発を起こしては、皆に笑われていた『サモン・サーヴァント』。
最後の正直とばかりに魔力をつぎ込んだが、どうやらそれが功を奏したらしい。
魔術反応に空間が揺らめき、弾け――何かを、この世界に召喚した。
「何よ、これ……」
そこに突き刺さっていたのは、一本の杖だった。銀の飾りと大きな宝石が静かに輝いている。
ルイズはおずおずと歩み寄ると、その杖を引き抜いた。バランスを崩しかけ、ふらつく。銀飾りがちゃりりと鳴った。
「……………………」
「……………………」
さわやかな春風が、吹き抜けた。が。
「おーいゼロのルイズ! せめて生き物呼び出せよ!」
その罵声は沈黙を破ったばかりか、他の罵声を呼び出した。
「無機物呼び出してどうすんだよ」
「まさかインテイジェンスロッドとかー?」
「どこに口があるんだよ!」
ざわつく心ない声に、ルイズの顔がかあっと赤くなった。
「う、うるさいうるさいッ! こんな杖なんか……!」
今は杖の重さすら感じなかった。この喧しい声が止まるなら、腕など安い代償だった。
ゆっくりとルイズは杖を振り上げ、
「こんな杖なんかーッ!」
重力に任せ、振り下ろそうとした。
しかし、その刹那。
『何故ですか! アーロン様!!』
唐突に、奇妙な響きを持った男の声が、辺りに響いた。
男というより、声変わりしたばかりの少年のような若々しい声だった。
皆驚いて顔を見合わせ、今の声の主を探した。
そしてそれがルイズの持っている杖だと気付くと、大きく目を見開いた。
「なっ、によ、コレぇ……!」
杖は宝石から光を放ちながら、ルイズの手の中で震えている。
ともすれば自分の手から落ちそうなそれを、ルイズは必死に掴んだ。がちがちと銀飾りが激しく音を立てる。
遂に宝石から青白い稲妻が走り、生徒たちの目を焼きながら地に落ちた。
ルイズは反動で尻餅をつくという醜態を曝したが、それを恥ずかしく思う暇などなかった。
落ちた稲妻は何かのシルエットを象り、やがて薄れて消えた。
後には、不思議な生き物だけがひざまずいていた。
漸く視力が戻った生徒たちは、思わずその手に小さな杖を構え、生き物に近づいた。
狐の獣人だろうか。青と黄色の身体をしている。
黒い覆面をしたような頭には、雨粒の形をした房が4つ生えていた。
ルイズも何とか衝撃から立ち直り、獣人に近づこうとした。
が、しかし。ふいに獣人は頭を上げると、その房をピンと立て高速で振動させ始めた。
そして体を起こし、未だ自体が飲み込めないルイズに、ゆっくりと近づく。
『何故……城を捨てたのですか! 一体何故……何故なんです!』
どうやら先ほどの声の主は、この獣人らしい。
だが悠長に分析ができる人間など、この場には一握りもいなかった。
『アーロン様、一体……何故』
一番困ったのは、当然ながらこの獣人を呼び出したルイズだった。
先ほどから言っているアーロンなる人物が何者なのか、まったく見当がつかない。
何より目を閉じているのだ。何故自分とその人間を間違えているのだろう。
「あの、あんた……何か人違いしてない?」
ようやくルイズがそう言うと、獣人は喉の奥でブルルと唸った。
そして、辛そうに瞼を開いた。赤い目が、ルイズを射抜くように見つめた。
だがその目線も、すぐに戸惑うものへと変わった。
不安げに尾を垂らし、辺りをぐるりと見回す。
自分に突き刺さる視線にぶるりと身体を震わせると、獣人は軽い身のこなしでそこから跳ねるように走り去った。
「…………あれ?」
「え? 今の使い魔……」
「逃げた?」
「使い魔が?」
「召喚した使い魔が、逃げた?」
「ゼロのルイズが召喚した……」
つぶやきは、再び洪水となってルイズの鼓膜を破ろうとした。
「ミスタ・コルベールッ!!」
洪水が嘲笑に変わる前に、ルイズはそれを自分の怒鳴り声でかき消した。
「何だい? ミス・ヴァリエール」
「あの、もう一度! もう一度召喚させてください!! お願いします!」
嘲笑を消す声も嘆願も、コルベールはもとより、使い魔召喚の儀式を曲げることはなかった。
「残念ながら駄目だ。使い魔召喚が神聖な儀式であることは、君も知っている筈だ。一度呼び出した使い魔は、それから一生涯のパートナーになるということも」
――やはり、駄目なのか。ぎりりとルイズは唇を噛んだ。
切れる限界まで唇を噛み締めると、きっとコルベールに向かい合い、
「……わかりました。連れ戻してきます」
不本意ながら、そう言った。
見つけることは、思ったよりも簡単だった。
獣人は学院内の広場で、空を仰ぎ、呆然と立ち尽くしていた。
不安そうに尾と耳を垂らし、心ここにあらずといった姿で。
怒鳴りつけてでも首輪を着けてでも連れ戻そうと思ったが、こうショックを受けていると……
ルイズは彼に、そっと近づいた。
気づいたのだろう、驚いたような声を上げ、彼は振り返った。
どうやら、この獣の唸り声のような声のほうが地声らしい。
ルイズが口を開く前に、彼は苦しげにつぶやいた。
『戦争は……戦争は、どうなったんだ?』
『ロータは、オルドラン城は……リーン様はどうなってしまわれたんだ!?』
『……アーロン様は……ッ!!』
それだけ、だった。
彼はそれきり黙ると、座り込んでしまった。
結局ルイズが引きずる形で彼を連れて行ったが、既に誰も残っていなかった。
あとには、ショックに打ちひしがれたルイズと彼だけが残された。
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