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chapter1 回廊
「会えなくても、ただひたすら待ち続けるということがどれほど大変なのかは分かっています。それでも私は待つことにします」
俯いて、沈んでいたネペトリの表情が、ふと凛としたものになる。
彼女の傍らには、呪われた運命を背負っていた愛しい存在が地に伏している。
三頭の猛々しい巨龍へと変えられたエンキクラドュス。プレメイア王国の女王ネペトリのかつての姿であるポルティナから、その命の火が消えるまで彼女を愛し続けていた。
「……その出会いが、たとえ来世の出来事だとしても、私の運命の相手にお会いできるその日まで待ち続けるつもりです」
――ただ、彼女は待っていただけであった。
自分の運命の相手を、永久に愛する存在を。ウェーブの掛かったブロンドの髪が、彼女から相応以上に落ち着いた雰囲気を滲み出しているが、その心は幼い少女そのもののようであった。
そうして待っていた先には、運命の相手の死と、海神ポセイドンの求婚を受け入れる自分自身。
――これからは、どのみち誰でも構わないのです。
ネペトリが告げた言葉に、ドラコは悔しさを隠しきれずに、頭を垂れてしまった。彼女を見ることすらできない。
ただ運命の流れを見ている存在でしかない。どれ程の力があろうとも、これほど自分が無力に感じたことはなかった。
「お元気、で」
すでに何を言えばいいのか、彼女に謝罪も、励ます言葉も浮かばなかった。
それでもネペトリの瞳は、潤むことなく真っ直ぐにこちらを直視している。慈愛に満ちた、濃い緑の瞳は本当に自分を見てくれているのだろうか?
いくら考えたところで、ドラコの中で答えが出ることはなかった。
蜃気楼の中にいるような感覚を覚える。すべてが幻だったら。幻覚だったらと。
それでも、目の前に悠然と佇む彼女は幻ではない、そこに存在しているのだ。事実がドラコの胸を締め付けて、後悔の苦悶に苛まれていた。
それからドラコは、ネペトリに別れを告げてから暗闇へと向かった。
運命の女神たちに再び会うために。永遠の呪いが断ち切られたエンキクラドュスと、その運命の渦にいるネペトリの未来を問うために。
島の崖にある巨大な渦に、海の精霊から貰った鱗と共に飛び込むと、女神たちのいる海底の洞窟へと向かうことができる。
そして、知りたいことは他にもある。
(ハルコンとネペトリを守る……そして、十六人の守護者たちの審判)
恐らくだが、ドラコには後者の予想は付いていた。もしかしたら、すでにその審判を受けているはずなのだから。
首から掛けてあるダイヤモンド、アレキサンドライトの守護リングがその考えに答えるように淡い光を発する。
(もし、本当にネペトリを守ることが出来るなら……)
自分もその運命の渦に飲み込まれよう。そうして、これ以上彼女を苦しませないように、解き放ってあげたい。
エンキクラドュスの最後の言葉が脳裏に蘇ってくる。
『運命の女神に会って、伝えてほしい。もうネペトリと俺の運命が交わることが無いようにしてくれと。彼女を俺の呪われた運命から解放して自由にしてやってくれと……』
彼に対する供養になるのかもしれない。それが自己満足であることは分かっている。
それでも、エンキクラドュスの言葉を伝えて、ネペトリの未来を問わなければいけない。二人のために。
意を決して、ドラコは断崖から見下ろす巨大な渦へと身を投げ出した。
水面に落ちて、激しく揺さぶられる自身の身体と、徐々に深みに飲み込まれていく感覚。
ふと浮かぶ仲間たちの姿を思い出して、それからドラコの意識は深淵へと落ちていった――。
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#navi(ゼロのTrickster)
chapter1 回廊
「会えなくても、ただひたすら待ち続けるということがどれほど大変なのかは分かっています。それでも私は待つことにします」
俯いて、沈んでいたネペトリの表情が、ふと凛としたものになる。
彼女の傍らには、呪われた運命を背負っていた愛しい存在が地に伏している。
三頭の猛々しい巨龍へと変えられたエンキクラドュス。プレメイア王国の女王ネペトリのかつての姿であるポルティナから、その命の火が消えるまで彼女を愛し続けていた。
「……その出会いが、たとえ来世の出来事だとしても、私の運命の相手にお会いできるその日まで待ち続けるつもりです」
――ただ、彼女は待っていただけであった。
自分の運命の相手を、永久に愛する存在を。ウェーブの掛かったブロンドの髪が、彼女から相応以上に落ち着いた雰囲気を滲み出しているが、その心は幼い少女そのもののようであった。
そうして待っていた先には、運命の相手の死と、海神ポセイドンの求婚を受け入れる自分自身。
――これからは、どのみち誰でも構わないのです。
ネペトリが告げた言葉に、ドラコは悔しさを隠しきれずに、頭を垂れてしまった。彼女を見ることすらできない。
ただ運命の流れを見ている存在でしかない。どれ程の力があろうとも、これほど自分が無力に感じたことはなかった。
「お元気、で」
すでに何を言えばいいのか、彼女に謝罪も、励ます言葉も浮かばなかった。
それでもネペトリの瞳は、潤むことなく真っ直ぐにこちらを直視している。慈愛に満ちた、濃い緑の瞳は本当に自分を見てくれているのだろうか?
いくら考えたところで、ドラコの中で答えが出ることはなかった。
蜃気楼の中にいるような感覚を覚える。すべてが幻だったら。幻覚だったらと。
それでも、目の前に悠然と佇む彼女は幻ではない、そこに存在しているのだ。事実がドラコの胸を締め付けて、後悔の苦悶に苛まれていた。
それからドラコは、ネペトリに別れを告げてから暗闇へと向かった。
運命の女神たちに再び会うために。永遠の呪いが断ち切られたエンキクラドュスと、その運命の渦にいるネペトリの未来を問うために。
島の崖にある巨大な渦に、海の精霊から貰った鱗と共に飛び込むと、女神たちのいる海底の洞窟へと向かうことができる。
そして、知りたいことは他にもある。
(ハルコンとネペトリを守る……そして、十六人の守護者たちの審判)
恐らくだが、ドラコには後者の予想は付いていた。もしかしたら、すでにその審判を受けているはずなのだから。
首から掛けてあるダイヤモンド、アレキサンドライトの守護リングがその考えに答えるように淡い光を発する。
(もし、本当にネペトリを守ることが出来るなら……)
自分もその運命の渦に飲み込まれよう。そうして、これ以上彼女を苦しませないように、解き放ってあげたい。
エンキクラドュスの最後の言葉が脳裏に蘇ってくる。
『運命の女神に会って、伝えてほしい。もうネペトリと俺の運命が交わることが無いようにしてくれと。彼女を俺の呪われた運命から解放して自由にしてやってくれと……』
彼に対する供養になるのかもしれない。それが自己満足であることは分かっている。
それでも、エンキクラドュスの言葉を伝えて、ネペトリの未来を問わなければいけない。二人のために。
意を決して、ドラコは断崖から見下ろす巨大な渦へと身を投げ出した。
水面に落ちて、激しく揺さぶられる自身の身体と、徐々に深みに飲み込まれていく感覚。
ふと浮かぶ仲間たちの姿を思い出して、それからドラコの意識は深淵へと落ちていった――。
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