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#navi(虚無を担う女、文珠を使う男)
第4珠 ~さぼり魔、決闘をする~
「そこの美人のお姉さん、お仕事終わったら愛の語らいでもしませんか?」
「すみません、仕事の邪魔ですので」
「あ、そこの黒髪の女の子! 今朝会ったよね、名前、何て言うの? さっきは聞きそびれちゃって」
「シ、シエスタです…」
1日ぶりにまともな食事をとった横島は、上機嫌で食後のひと時を楽しんでいた。
そう思っているのは、横島ただ一人で、ちょっかいを出されたメイド達は迷惑そうな雰囲気を隠しもせずにいたのだが。
その雰囲気を読み取ったのは、横島ではなくこの厨房で一番偉い人だった。
「おい。ヨコシマだったか? 飯済んだなら、さっさと出て行ってくんないか?
いきなり見知らぬ土地に召喚されて、挙句の果てにろくに飯も食わせてもらえずに使い魔生活、っていうのには同情するが、こっちにも仕事があるんだ。
悪いんだがあんたの面倒見るってわけにもいかないんでね」
「あ、マルトーさんでしたっけ? 昼飯うまかったっす。ありがとうございました。
後はこっちで勝手にやりますんで、気にせずじゃんじゃん仕事しちゃってて下さい」
「メイド達が困ってんだ、ぐだぐだ言ってると、今後の食事の件、考え直さなきゃならなくなるぞ?」
「げっ。すんません、それだけは勘弁してください。声かけるのはまた今度にしときます、それじゃ失礼しましたー」
横島とて、折角のただ飯が食える環境を無くすつもりはないわけで、この場は素直に退散する。
そうして歩いていくと、男子生徒達が歓談している声が聞こえた。
「なぁギーシュ。いいだろ、教えろよ。減るもんじゃなし」
「そうだそうだ。モンモランシーって噂も聞くけどさ。この間、1年の女子と一緒にいたって話も聞いたぞ?」
「君たちは何も分かってないんだな。僕は女の子達を楽しませる薔薇なんだ。『誰と』なんかは気にしちゃいけない。『どうやって』楽しませるかが問題なんだ」
男子の話など、いつもなら気にもとめない横島だが、これは別だ。
「な~にが『僕は女の子達を楽しませる薔薇なんだ』だよ。面白くねーな。西条の野郎に会っちまった気分だ」
近いうちに丑の刻参りセット作らにゃならんかなぁ、と考えながら、ギーシュ達を観察する横島。
その視線は、呪具に頼らずとも呪いをかけられそうな不気味さだ。
それが効果を奏したか、ギーシュのポケットから光る何かが落ちた事を、横島は見逃さなかった。
が、当事者達は話に夢中で気づかなかったようで、そのままどこかへ行ってしまう。
これは好機、とそれを拾ってみると、それは何かの液体が入った小瓶だった。
「ふっふっふ。見てろよ、キザ男め。明日には文珠が使えるからな、そしたらこれにとびっきりの呪いをこめて… ぐふふふふ」
そんな事を考えている彼の前に見知らぬ女の子がやってきた。それなりに可愛い子なのだが、その表情は少し暗い。
「えーと… どちら様? 俺に何か用?」
「確かミス・ヴァリエールの使い魔? ですよね。その小瓶、こっちに渡して下さい」
「え? これ? 何で? 君のってわけじゃないよね」
「それを言うなら、あなたのでもないですよね。さっきそこでギーシュ様が落とされたのを見てましたよ」
「そうそう。落としたのに気づいてないようだったから、後で返しておこうと思ったんだけど」
「私が返しますから、こっちに下さい」
ギーシュに呪いをかける事よりも、目の前の、見知らぬとは言え可愛い女の子の機嫌を損ねない事の方が大事だ。
そう思う横島は、小瓶をその子に渡すが…
その子は一向に小瓶を届けに行こうとはしない。
小瓶をじっと見つめ、何か考えているようだ。
「えっと… どしたの?」
不審に思って声をかけるも、何かぶつぶつ言うだけで反応がない。
仕方ない、立ち去ろう。と思った横島だったが、声をかけられてそちらを向く。
「そこの平民、ちょっと聞きたい事があるんだが構わないかな… って、ケティ、なんで君が平民なんかと話していたんだい!?」
薔薇の造花があしらってある杖を持つ少年、ギーシュだった。
焦っていたらしく、横島に声をかけられるほど近づくまで、一緒にいるのが誰なのかに気づいていなかったようだ。
「ギーシュ様。これはミス・モンモランシーの香水ですよね? これがギーシュ様のポケットから落ちたのを見ました。
やっぱりギーシュ様はミス・モンモランシーと…」
「な、何を言っているのだね? この香水は、確かにモンモランシーの物だが、僕とモンモランシーは決してそのような仲ではないよ。
これは、そ、そうたまたま彼女の課題を手伝ったときのお礼だよ」
「へー ギーシュ様、ミス・モンモランシーの手伝いなんてするんですか」
「あ、いや、そうじゃなくてだね…」
(ふはははは。何、俺ってもしかして凄い? まさか呪う前から不幸になりやがるとは思わなかった)
ギーシュが何やら下手な言い訳を展開している側で、横島がそんな事を思っていると…
「ギーシュ様なんて知りません!!」
パチン、という音と共に破局の宣言がなされた。紅葉の跡をつけて、呆然とするギーシュ。
それにとうとう耐え切れず笑い出してしまう横島。
「だーっはっはっはっは。振られてやんの。ざまーみろ」
その言葉に、呆然としていたギーシュが我を取り戻した。
「き、君は平民の癖に貴族を笑うのか!? この僕が、グラモン家の者と知っての行いかっ!」
「グラモンだかグラタンだか知んねーけど、二股ヤローだって事は今知ったぞ。
あ、今は振られちまったからそうでもねーか」
「ゆ、許さん!! 謝るどころかさらに侮辱を重ねるとは、君は礼儀がなってない!! この僕、ギーシュ・ド・グラモンが直々に躾をしてやる!」
「けっ。俺もお前を見て嫌な奴思い出しちまったからな、そっちがその気ならやってやろうじゃねぇか」
「その言葉、後悔させてやる! 使い魔の不始末はメイジの不始末。君の主人、ルイズも連れてこい!
彼女に躾の仕方って言うのを見せてやる」
ギーシュは、最後にヴェストリの広場で待つ、と言い残して去っていった。
「ルイズを連れてか… あー!? しまった、洗濯物頼まれてたんだよ。
さ、探してるほどの時間はねーよな…
さすがに洗濯物の代わりに決闘の報告を持っていったらまずいよなぁ…」
横島は、ルイズに会うのは洗濯物を見つけてからだ、と思い、結局一人でヴェストリの広場へ向かう事にする。
幸い、場所については途中で出会ったロングビルに聞く事が出来た。
そのロングビルは、
「まぁあんたの事だから大丈夫だろうけど、気をつけな。グラモン家って言えば軍人の家系で有名だから。
けど、そのギーシュって生徒の事はあんまり聞かないから、そんなに魔法の腕は良くないのかもしれないけどね」
などと言っていた。「ついでに見学に来ないか」とも誘ってみたのだが、立場上は決闘を止めないといけない事になっているらしく、「堂々と見学するわけにはいかない」と断られてしまった。
そして多少道を間違えて時間をくいつつも、ヴェストリの広場にたどり着く横島。ギーシュが薔薇の杖を持ち、ただ一人待ち構えていた。
「待っていたよ、ルイズの使い魔… って、おい、君一人か? ルイズはどうしたんだ?」
「あー その。なんだ。やっぱりルイズは関係ないって事で一つ」
「いいや、関係あるね。まだ分からないらしいが、君はすでにただの平民ではないのだよ。
使い魔として召喚された時から、君の不始末は主人であるルイズの不始末になる。これはさっきも言った事だが。
君の無礼な態度、これは言ってみれば、ルイズが君をしっかり躾けていないからだ。つまり、ルイズに責任がある。
そう言うわけで、本来なら君が僕に対して行った無礼な態度について、ルイズが謝罪するべきところだ。
今回はそれについては免除してやるつもりだが、だからと言ってルイズが来なくていいわけではないだろう。
分かったら、早くルイズを連れてきたまえ」
「だー、もう分からんのはお前の方だ! ルイズは関係無いって言ってるだろ。
あんた達からみたら確かに俺は使い魔かもしれんが、そんなの知った事か。俺は俺だっちゅうの。
他の使い魔はどうか知らんが、俺は自分で考えるしそれを口に出す事も出来る。自分のやる事くらい、自分で責任とるっちゅうねん」
横島にしてみれば、洗濯物もないのにルイズと鉢合わせ、という事態だけは避けたい。来るまでに考えておいた必死の抗弁を行う。
そして、10分も続いただろうか。
「はぁ、はぁ、はぁ。仕方がない。認めよう。
君は平民でありながら、貴族に対する不始末のケリを君自身がつけられる、と固く信じているんだね。
それに決して自分の主人を巻き込む事もしない、と。君はよっぽど主人思いか、それとも大馬鹿者か。
だが、君自身がケリをつけるとして、一体何が出来る?
平民に払う事が出来る物など、ろくにないだろう。名誉も金も、平民が持てる程度の物は僕はいらないよ。
強いてあげれば、君の『命』そのものくらいだろう。それでも少し安いくらいだろうが…
大サービスだ、君が命をかけて僕と決闘をして、もしこの薔薇の杖を僕から奪う事が出来れば、この件は不問としよう。
これが最後だ、もし今からルイズを連れてくる、というのであれば命を奪う事まではしない。だが、君一人で責を負うというのであれば、その保障まではしない。
決めるのは君だ」
「さっきから言ってるとおり、ルイズに関係ないって事は変わんねーよ。それはどんな条件がついてもだ」
「よく言った。では、この僕の杖から薔薇の花びらを一枚落とそう。それが地面についたら始めとする。さあ、準備したまえ」
横島がサイキック・ソーサーを準備したのを見て、ギーシュが杖を一振りする。薔薇の花びらが宙に舞い、そして地面に落ちる。
それと同時に、横島に注意を払いながら呪文詠唱を始めるギーシュ、そしてサイキック・ソーサーをギーシュめがけて投げつける横島。
ギーシュの顔に一瞬驚愕の表情が浮かぶが、呪文詠唱は止まらなかった。軍人の家系、というのは伊達ではないようだ。慌てず回避するギーシュ。
「も、戻れ、ソーサー!!」
横島、回避されたのを見てサイキック・ソーサーのコントロールに集中する。
サイキック・ソーサーは、大きく弧を描いて再びギーシュに向かって突進していき…
いつの間にかギーシュの側に立っていた、女剣士とぶつかり大爆発を起こした。
「な、何!?」
「ワ、ワルキューレが一撃!?」
ソーサーのコントロールに気をとられていた横島、ギーシュが『錬金』で呼び出したゴーレム「ワルキューレ」の事を誰か無関係な人だと勘違いした。
「お、おい!! そ、そいつ大丈夫か!?」
心配して駆け出すが、爆風が収まるとそこには金属のがらくたがあるだけ。
女剣士の姿などどこにも無い。
「ははは。ワルキューレが1撃だとは驚いたが、君も驚いているようだね。
君がその不思議な武具を使うように、僕はメイジであり魔法を使う。その二つ名は『青銅』。青銅のギーシュと皆は呼ぶよ。
そして、さっきのは僕が『錬金』の魔法で作り上げるゴーレム、麗しい美剣士、ワルキューレ、さ。
まぁ君の攻撃で木っ端微塵になってしまったわけだが」
横島は、相手の隙をつくような変則的な戦いが得意なのだ。というよりも、正面きった戦いはあまり得意ではない。
だからこそ、投擲武器にもなるサイキック・ソーサーを準備して、遠距離からケリをつけようとしたのだ。
が、もくろみは失敗。これで相手は、遠距離攻撃も注意してくるだろう。
距離をとりながら、念のため確認をしてみる横島。
「な、なぁ。ワルキューレ? も無くなっちまったんだし、ここは引き分けって事にしない?」
「何を馬鹿な事を言っているんだね、君は。まだまだ、これからだよ」
そう言って再度、呪文詠唱とともに杖を振るギーシュ。薔薇の花びらがまたしても宙に舞い、地面につくと同時にワルキューレが錬金される。
「あちゃー やっぱりというか何というか、魔力が続く限り呼び出せちゃったりするのかな…」
「まぁそういう事だね。と言うわけで、引き分けなんてとんでも無い。
君がこの決闘を無事終わらせられるのは、僕からこの杖を奪うか、それとも僕の魔力が尽きるまでワルキューレを壊しつづけるか…
もしくは、僕が君を殴るのに飽きたら、の3択しかない。好きなのを選びたまえ」
一瞬の驚きの後、対処を考える。③は論外だ。
②でも、ソーサーを使うという案は無し。霊力の残り具合からすると、後せいぜい3、4発程度しか使えなさそうに無い。相手の魔力の底など分からんし。
横島、結局次の手はハンズ・オブ・グローリーを選択。
「あの盾は使わないのかい? あれはどうやらすごい威力らしいけど、それだけ使いにくいのかな?」
驚異的な破壊力を持つと判断した盾を出さなかった横島を見て、余裕の態度を深めるギーシュ。
「では… 行け! ワルキューレ!!」
ワルキューレが突進してくる。受けるのは論外、あの重量を受けたら間違いなくどこかを痛める。受け損なった時は目も当てられない。
当然避けるべき。うまく前に出ながら避けられれば相手を攻める絶好のチャンスだ。が、単純に横へ避けるのと比べれば当然リスクが大きい。まずは様子見、素直に回避する横島。
ワルキューレの動きは金属で出来ているわりには素早やかったが、これなら前に出れば良かったかな、と思える程度だった。
再び突っ込んでくるワルキューレを、今度は上手くすれ違うように避けながら前進する横島。その目に映ったギーシュは、呪文を唱えながら再び杖を振っていた。
「って、げっ! ま、まさか!?」
その行動に、霊感が働き急ブレーキをかける横島、そして笑うギーシュ。花びらが地面に落ちると、またもワルキューレが作成される。
「そう。その通り。ワルキューレが1体しか操れない、そんな事はないよ。そして… 後ろ、十分気をつけたまえ」
横島が後ろも見ずに右へと転がった途端、ワルキューレが体当たりの格好で通りすぎていった。
「結構やるね。この程度で倒れられてはつまらないと手加減したんだが、いらぬ配慮だったか?」
「手加減ついでに質問いいか?」
「言ってみたまえ」
「そのワルキューレ、全部で何体準備出来るのかなーとか」
「はっはっは。君は本当に馬鹿だね。ここで僕が何と言ったって、それが本当の事かどうかなんて君には分からないだろ」
この会話の間に呼吸を整え立ち上がる横島。
「さて、サービスはここまでだ。2体のワルキューレを相手にしながら、不意に新手が現れるかもしれないこの恐怖、十分味わうといい」
そう言ってワルキューレに指示を出すギーシュ、対する横島はその武神の剣でさえ避けるという自前の身のこなしでうまくかわし続けるが…
いつギーシュが花びらを設置するか、またギーシュ自身から攻撃魔法が飛んでこないかと注意をするおかげで、集中力をどんどんと削っている。
(くっそー これって反則だろ。魔法なんてどうせ1発ずつしか飛んでこないだろ、とか思ってたのにー 文珠も使えないのに、こんなのどないせいっちゅうんじゃ)
そんな事を思いながら2体のワルキューレの攻撃を捌いていると、ギーシュが杖を一振りした。
その瞬間、何故かワルキューレの動きがとまり… 呪文詠唱終了とともに、ギーシュの側に新たにワルキューレが生み出される。
「どうやら本当に手加減はいらないか。追加だ、ワルキューレ!」
横島、動きが止まった隙にワルキューレ達から距離をとるも、ギーシュ、さらに2枚の花びらを宙に舞わせる。そして再び杖を振ると、ワルキューレがまた動き始める。
(くっ。あの2枚はハッタリか!? そ、それともまだ増えるのか? ど、どうする!?)
横島は、3体のワルキューレの相手で精一杯で、宙に舞っている2枚の花びらを、どうにもする事が出来なかった。
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