「ゼロの魔獣-14」(2008/02/27 (水) 19:47:30) の最新版変更点
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アルヴィーズ食堂2階
一夜にして舞踏会場となったそのホールでは、思い思いに着飾った貴族の子弟たちが会話に花を咲かせている。
その中を、ひときわ注目を集める華が、縫うようにして進んで行く。
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
『微熱』の二つ名を持つ彼女は、近寄る男たちに愛想を振りまきながら、ある人物を探していた。
「ねぇ タバサ 彼のこと知らない?」
「・・・・・・・・」
美しく着飾った青い髪の少女は、目の前の料理の山と格闘中だった。
キュルケが言葉を繋ぐ。
「シンイチよ あのヴァリエールの使い魔はどこに入ったの?」
キュルケはあの日以来、慎一にぞっこんであった。
数多くの貴族の子弟と浮名を流したキュルケだったが、あれ程までに野性味溢れる『面白い』男を彼女は知らない。
(この場合、あの慎一を『面白い』の一言で割り切れるキュルケの胆力こそ驚嘆すべきであろう)
慎一の他人を寄せ付けない雰囲気、特に女に一切興味を見せない感じも、彼女にはかえって可愛らしいと感じられ、
キュルケの中の女の矜持、その征服欲を強く掻き立てた。
(この場合、あの慎一を『可愛らしい』の一言で以下略。)
「ふぁるふぉにィ」
原始人の食卓に並んでいそうな骨付き肉を口いっぱいに頬張りながら、タバサが言った。
「・・・せめて 飲み込んでから言いなさい」
キュルケの目の前にいるのは、まさに小さな魔獣であった。
―もうひとりの魔獣はバルコニーに居た。
頭上に輝く二つの月が、そこが慎一の故郷では無い事を強く意識させる。
ガラにもなく、彼は寂寥感というものを味わっていた。
(・・・この感覚 あの頃と同じじゃねえか)
―母親が死んだあの日。
その日以来、蒸発したかのように地上から消え去った十三人の科学者。
その痕跡を追って、慎一はあてどなく街を彷徨い、真夜中の高速道路を駆け抜け、いつも一人で月を見ていた。
時に欺かれ、時に傷つき、時には傷つけ、その身の孤独を復讐の炎で打ち消しながら、
少年は青年へと成長していった。
もし今、慎一の身を縛り付けている枷が無かったならば、
彼は元の世界に戻る術を求めて、あの頃のように荒野を駆け出していただろう。
「おう コイツはおでれーた! 馬子にも衣装とは言ったもんだ!」
デルフリンガーの素っ頓狂な声で、慎一は現実へと引き戻される。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
バルコニーに現れたのは、そのいかにも貴族めいた長い名前で呼びたくなるような、可憐な少女だった。
慎一は振り向かない。
ルイズはゆっくりと歩を進め、わざわざ慎一の正面に回りこんで、その鼻先にずい、と顔を付き合わせた。
「・・・パーティーの方はいいのか?」
「ええ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
―沈黙が続く。
固く結んだルイズの口元が、彼女の意思の強固さを示している。
遂に魔獣の方が折れる。彼女が何を望んでいるかは分かっていた。
「 『なかなか似合ってるんじゃないか? お嬢様』 」
「・・・なんか引っかかる言い方するわね
まあいいわ ありがと」
ようやくルイズは納得し、慎一の横に並んだ
「ねえ シンイチ ・・・やっぱり 元の世界に帰りたい?」
「・・・俺の体を刻み オフクロを殺したアイツらを 俺はこの手でブッ殺さなきゃならねえ」
「そのために ・・・マリアを巻き込むの?」
「・・・・・・・」
「だって そういう事なんでしょ?
あなたが死ぬと あなたの中のマリアも死ぬんでしょ?」
「・・・・・・・」
「マリアは・・・そう 彼女は言ってたわ
この世界だったら 無理にぶつかり合わなくても生きて行ける、って
だから だからあなたも・・・」
「真理阿は一度死んだんだ」
慎一が、決定的な一言を放った。
「真理阿もヤツらに殺されたのさ
彼女は 俺の目の前でくたばった・・・」
「でも・・・でも 生きているんでしょう? あなたの中で」
「そうだ
おふくろや ゴールドや 他の動物たちと同じだ
アイツは俺の細胞の一部となった」
― 慎一が目覚めて以来、真理阿はルイズの前に現れていない。
宿主が復活を遂げた事により、真理阿の自我は、急速に失われつつあった・・・。
ルイズは、最後に彼女の顔を見た時のことを思い出す。
(もしあの日 あのまま真理阿が踏み殺されていたなら
自分は一生 フーケの事を赦さなかっただろう・・・
でも だとしたら 私には慎一を止める事はできないの・・・?)
慎一は、深刻そうにうつむくルイズを横目で見て、次いで自らの右手に目をやった。
手の甲に刻まれた契約の証が、淡い光を発している。
その光こそ、今の慎一を縛る『枷』であった。
契約の証、その輝きに強制力を持たせているのは、傍らに居る彼の主人ではない。
他ならぬ、彼自身の中に宿る同居人だった。
(真理阿・・・)
慎一が強い意志を示せば、簡単に断ち切れるであろう細い鎖―
同時にそれは、真理阿がそこに存在する事を照明する、唯一の絆でもあった。
―チッ、
慎一は大きく舌打ちをし、ルイズの頭に右手を置くと、折角セットした髪をクシャクシャに撫でた。
「なっ!? 何すんのよ!!」
「先の事をウダウダと悩んでんじゃねえよ!
偉そうな事を言ったがな こう見えても俺は迷子なんだ
帰り道が分かるまでは付き合ってやるよ」
慎一の結論に合わせるかのように、ホールの喧騒が徐々に収まっていく
程なく、背後から優雅な音楽が響いてきた。
「さて―
久しぶりに頭を使ったら ハラが減ってきたな
あのちっこい魔獣に全部平らげられる前に 俺もご相伴に預かるとするか・・・」
そう言いながらホールに戻ろうとする慎一の服を、ルイズが掴んだ。
「どうした?」
「あ え あっと・・・」
「・・・?」
「あ あ、・・・か! か、かかか感謝し しなさいよね!
本来ならき、貴族のあたしがとか使い魔のあなたにとか こ こんなこと言うなんて
ぜぜぜ絶対に あ ありえないんだから・・・」
「・・・踊らねぇぞ」
「んなっ!? バ、バ、バッカじゃないの!!
なんでアタシがそんな事言わなきゃいけないのよ!! 自惚れてんじゃないわよッ!!
―ただ
た、ただ! ただ! ただよ!!
もしもアンタが貴族の踊ってるトコ見てるだけじゃ肩身がせまいっていうんなら・・・
ど~してもッ!って頼むんだったらねぇ・・・」
「だから踊らねぇって」
「アンタちょっと空気読みなさいよッ!!
アンタはあたしの使い魔でしょーがッ!?
情けを掛けてやってるご主人様のメンツを潰す気!?」
「だが断る」
「ムキーッ!!」
ルイズが地団駄を踏む。
そんなやり取りをしながらホールに消えて行く二人を見ながら、デルフリンガーが言った。
「こいつはおでれーた! やっこさんは本物の魔獣だぜ
それを娘っこが2人して なかなかうまく飼い慣らしやがるじゃねーか!」
・
・
・
―慎一の戦いは続く。
彼の存在が運命の方を巻き込んでしまうのか?
あるいは避けられぬ戦いがあるからこそ、始祖ブリミルは真理阿を匿い、導いたのか?
いずれにせよ、平和なトリステインにも、戦争の足音が忍び寄っていた・・・。
それは、戦士にとって休息の一夜。
戦いの暴風雨にさらされた一匹の獣が、ぽっかりと開いた台風の目に飛び込んでしまったかのような
妙に心穏やかで、それでいて、どこか滑稽な夜だった。
#navi(ゼロの魔獣)
アルヴィーズ食堂2階
一夜にして舞踏会場となったそのホールでは、思い思いに着飾った貴族の子弟たちが会話に花を咲かせている。
その中を、ひときわ注目を集める華が、縫うようにして進んで行く。
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
『微熱』の二つ名を持つ彼女は、近寄る男たちに愛想を振りまきながら、ある人物を探していた。
「ねぇ タバサ 彼のこと知らない?」
「・・・・・・・・」
美しく着飾った青い髪の少女は、目の前の料理の山と格闘中だった。
キュルケが言葉を繋ぐ。
「シンイチよ あのヴァリエールの使い魔はどこに入ったの?」
キュルケはあの日以来、慎一にぞっこんであった。
数多くの貴族の子弟と浮名を流したキュルケだったが、あれ程までに野性味溢れる『面白い』男を彼女は知らない。
(この場合、あの慎一を『面白い』の一言で割り切れるキュルケの胆力こそ驚嘆すべきであろう)
慎一の他人を寄せ付けない雰囲気、特に女に一切興味を見せない感じも、彼女にはかえって可愛らしいと感じられ、
キュルケの中の女の矜持、その征服欲を強く掻き立てた。
(この場合、あの慎一を『可愛らしい』の一言で以下略。)
「ふぁるふぉにィ」
原始人の食卓に並んでいそうな骨付き肉を口いっぱいに頬張りながら、タバサが言った。
「・・・せめて 飲み込んでから言いなさい」
キュルケの目の前にいるのは、まさに小さな魔獣であった。
―もうひとりの魔獣はバルコニーに居た。
頭上に輝く二つの月が、そこが慎一の故郷では無い事を強く意識させる。
ガラにもなく、彼は寂寥感というものを味わっていた。
(・・・この感覚 あの頃と同じじゃねえか)
―母親が死んだあの日。
その日以来、蒸発したかのように地上から消え去った十三人の科学者。
その痕跡を追って、慎一はあてどなく街を彷徨い、真夜中の高速道路を駆け抜け、いつも一人で月を見ていた。
時に欺かれ、時に傷つき、時には傷つけ、その身の孤独を復讐の炎で打ち消しながら、
少年は青年へと成長していった。
もし今、慎一の身を縛り付けている枷が無かったならば、
彼は元の世界に戻る術を求めて、あの頃のように荒野を駆け出していただろう。
「おう コイツはおでれーた! 馬子にも衣装とは言ったもんだ!」
デルフリンガーの素っ頓狂な声で、慎一は現実へと引き戻される。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
バルコニーに現れたのは、そのいかにも貴族めいた長い名前で呼びたくなるような、可憐な少女だった。
慎一は振り向かない。
ルイズはゆっくりと歩を進め、わざわざ慎一の正面に回りこんで、その鼻先にずい、と顔を付き合わせた。
「・・・パーティーの方はいいのか?」
「ええ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
―沈黙が続く。
固く結んだルイズの口元が、彼女の意思の強固さを示している。
遂に魔獣の方が折れる。彼女が何を望んでいるかは分かっていた。
「 『なかなか似合ってるんじゃないか? お嬢様』 」
「・・・なんか引っかかる言い方するわね
まあいいわ ありがと」
ようやくルイズは納得し、慎一の横に並んだ
「ねえ シンイチ ・・・やっぱり 元の世界に帰りたい?」
「・・・俺の体を刻み オフクロを殺したアイツらを 俺はこの手でブッ殺さなきゃならねえ」
「そのために ・・・マリアを巻き込むの?」
「・・・・・・・」
「だって そういう事なんでしょ?
あなたが死ぬと あなたの中のマリアも死ぬんでしょ?」
「・・・・・・・」
「マリアは・・・そう 彼女は言ってたわ
この世界だったら 無理にぶつかり合わなくても生きて行ける、って
だから だからあなたも・・・」
「真理阿は一度死んだんだ」
慎一が、決定的な一言を放った。
「真理阿もヤツらに殺されたのさ
彼女は 俺の目の前でくたばった・・・」
「でも・・・でも 生きているんでしょう? あなたの中で」
「そうだ
おふくろや ゴールドや 他の動物たちと同じだ
アイツは俺の細胞の一部となった」
― 慎一が目覚めて以来、真理阿はルイズの前に現れていない。
宿主が復活を遂げた事により、真理阿の自我は、急速に失われつつあった・・・。
ルイズは、最後に彼女の顔を見た時のことを思い出す。
(もしあの日 あのまま真理阿が踏み殺されていたなら
自分は一生 フーケの事を赦さなかっただろう・・・
でも だとしたら 私には慎一を止める事はできないの・・・?)
慎一は、深刻そうにうつむくルイズを横目で見て、次いで自らの右手に目をやった。
手の甲に刻まれた契約の証が、淡い光を発している。
その光こそ、今の慎一を縛る『枷』であった。
契約の証、その輝きに強制力を持たせているのは、傍らに居る彼の主人ではない。
他ならぬ、彼自身の中に宿る同居人だった。
(真理阿・・・)
慎一が強い意志を示せば、簡単に断ち切れるであろう細い鎖―
同時にそれは、真理阿がそこに存在する事を照明する、唯一の絆でもあった。
―チッ、
慎一は大きく舌打ちをし、ルイズの頭に右手を置くと、折角セットした髪をクシャクシャに撫でた。
「なっ!? 何すんのよ!!」
「先の事をウダウダと悩んでんじゃねえよ!
偉そうな事を言ったがな こう見えても俺は迷子なんだ
帰り道が分かるまでは付き合ってやるよ」
慎一の結論に合わせるかのように、ホールの喧騒が徐々に収まっていく
程なく、背後から優雅な音楽が響いてきた。
「さて―
久しぶりに頭を使ったら ハラが減ってきたな
あのちっこい魔獣に全部平らげられる前に 俺もご相伴に預かるとするか・・・」
そう言いながらホールに戻ろうとする慎一の服を、ルイズが掴んだ。
「どうした?」
「あ え あっと・・・」
「・・・?」
「あ あ、・・・か! か、かかか感謝し しなさいよね!
本来ならき、貴族のあたしがとか使い魔のあなたにとか こ こんなこと言うなんて
ぜぜぜ絶対に あ ありえないんだから・・・」
「・・・踊らねぇぞ」
「んなっ!? バ、バ、バッカじゃないの!!
なんでアタシがそんな事言わなきゃいけないのよ!! 自惚れてんじゃないわよッ!!
―ただ
た、ただ! ただ! ただよ!!
もしもアンタが貴族の踊ってるトコ見てるだけじゃ肩身がせまいっていうんなら・・・
ど~してもッ!って頼むんだったらねぇ・・・」
「だから踊らねぇって」
「アンタちょっと空気読みなさいよッ!!
アンタはあたしの使い魔でしょーがッ!?
情けを掛けてやってるご主人様のメンツを潰す気!?」
「だが断る」
「ムキーッ!!」
ルイズが地団駄を踏む。
そんなやり取りをしながらホールに消えて行く二人を見ながら、デルフリンガーが言った。
「こいつはおでれーた! やっこさんは本物の魔獣だぜ
それを娘っこが2人して なかなかうまく飼い慣らしやがるじゃねーか!」
・
・
・
―慎一の戦いは続く。
彼の存在が運命の方を巻き込んでしまうのか?
あるいは避けられぬ戦いがあるからこそ、始祖ブリミルは真理阿を匿い、導いたのか?
いずれにせよ、平和なトリステインにも、戦争の足音が忍び寄っていた・・・。
それは、戦士にとって休息の一夜。
戦いの暴風雨にさらされた一匹の獣が、ぽっかりと開いた台風の目に飛び込んでしまったかのような
妙に心穏やかで、それでいて、どこか滑稽な夜だった。
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