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二八六
ルイズの声につられて君とアンリエッタはふたたび≪始祖の祈祷書≫に眼をやるが、黄変した頁は最初に見たときと変わらず、なんの文字も書かれてはいない。
王女はまじまじとルイズを見つめる。
「あ、あれ?今、たしかに……見間違いかしら」
そう言って、ルイズは眼をこする――≪水のルビー≫をはめたほうの手で。
君は、ルイズが帰りの道中で、トリステインの国宝である≪水のルビー≫を万が一にも落としたりせぬよう、指に通して肌身離さず持ち歩いていたことを思い出す。
「まあ、ルイズ!それは使者の証として子爵に預けたはずの……取り戻してくれたのは手紙だけではなかったのですね」
ルイズの指に青く輝く大粒の宝石を眼にした王女は、驚喜する。
どうやら王女は、君たちとの会話に夢中になりすぎて、今の今までルイズの細い指を飾る指環にはなんの注意も払わなかったようだ。
ルイズはほのかに赤面すると、
「申し訳ありません、姫さま。これをお返しするのをすっかり忘れていました」と言いつつ指環を抜き取ろうとするが、
アンリエッタはかぶりを振る。
「それはあなたがお持ちなさいな。あなたたちが図らずも果たしてくれた手紙奪回の任務は、秘密裏のものなので、表立って爵位や報奨金を授けるわけにはいきません。
その≪水のルビー≫が、わたくしからのせめてものお礼です」
「でも姫さま、こんな値段のつけようもないほど貴重なものをいただくわけにはいきませんわ!」
「それはわたくしからの感謝の証、ふたりの変わらない友情の証です。いいからとっておきなさい」
そう言われては強情なルイズも引き下がるをえず、感謝の言葉を述べると≪水のルビー≫を指へと戻す。
換金のしようもないのを貰ってもしかたがない、と王女の耳に届かぬ声で小さく冗談を言う君を横目でひと睨みすると、ルイズは話を切り上げて退出しようとするが、それをアンリエッタが呼び止める。
「これもお持ちなさい。なにか字が見えたと言いましたわね」
そう言って、≪始祖の祈祷書≫をルイズに差し出す。
「あ、あれはわたしの勘違いです!今はなにも見えませんもの。≪水のルビー≫だけでもわたしには分不相応なものなのに、大切な宝物を二つもお預かりするわけには……」
慌てて断ろうとするが、王女は古びた書物をルイズの手に押しつける。
「ルイズ、わたくしも≪始祖の祈祷書≫はただのお飾りで、その内容ではなく、王家に代々受け継がれてきたことこそに価値のある骨董だと思っていました」
そこでいったん言葉を切る。
「ルイズ、あなたは魔法が、その……他人とはずいぶんと変わった形で顕れるうえ、稀有なことに人間――それも、遥かな異国のメイジ――を使い魔として召喚しました。
そんなあなたがこの本になにかを見出したというのなら、それがただの光の悪戯や、眼の錯覚だとは思えないのです。やはり、なんらかの秘密が隠されているのかもしれません。
ルイズ、それに使い魔さん、このことを調べてみてはもらえませんか?あなたたちが子爵にかわって任務を果たし王宮に赴いたことも、ここに≪始祖の祈祷書≫が置いてあったことも、
ただの偶然ではなくなにかの縁(えにし)、こうあるべきだという始祖のお導きなのかもしれませんわ。ときどき祈祷書を開いて、そこになにか文字が現れないかと試してみるだけでよいのです」
ルイズはアンリエッタの頼みを聞き入れて祈祷書を預かり、再び頁に文字が現れ、それが意味をなす文面を形作った場合には必ず報告すると告げる。
アンリエッタの言葉を黙って聞いていた君だが、内心では、彼女の軽はずみな行いに少なからずあきれている。
遠戚である公爵家の者が相手とはいえ、か弱くなんの力も持たぬ少女に王家伝来の秘宝を二つも預けるとは、無用心きわまりない!
≪諸王の冠≫のように、悪用されれば恐ろしい結果を招く、絶大な魔力を秘めた物品ではないのがせめてもの救いだろう。二一六へ。
二一六
アンリエッタ王女の私室を辞した君たちは、城門の手前の衛兵詰所へと向かう。
そこで君は、武器と背嚢、魔力を込められた装身具を返してもらう。
君に担がれていたギーシュはようやく眼を覚ますと、きょろきょろと周囲を見回し、
「姫殿下への謁見は、もう終わったのかね?」と、
ぼうっとした口調で言う。
君はそうだと答えるが、ルイズはなにも言わず≪始祖の祈祷書≫を両手で抱きかかえ、なにやら考え込んでいる。
「ああ、トリステインの至宝、麗しの姫殿下がこのぼくに声をかけてくださるとは……いまだに信じられない、夢のなかに居るようだよ」と、
うっとりとつぶやくギーシュに構わず、君とルイズは『ブルドンネ街』と呼ばれる大通りを、町の門の方向に向かって進んでいく。
置いていかれたギーシュは小走りで君たちに追いすがり、
「ところで、姫殿下とはどんな話をしたんだい?ぼくが怪物を仕留めたり、身を挺して傭兵どもから君たちを守ろうとしたくだりは話してくれたかね?姫殿下はぼくのことを、なんと褒め称えてくださったのか……」と呼びかける。
君は返事に詰まる――ルイズも王女も、ギーシュには一言も触れなかったのだから!
言葉を濁し、姫君は気絶していたお前のことを大変に気遣っていた、と言うと、ギーシュは
「おお、なんとお優しい!薔薇のごとき美しさにくわえ、水晶のごとき純粋さをお持ちなのか、姫殿下は」と言って笑顔を見せる。
六日ぶりに魔法学院に戻った君とルイズは、その足で学院長室に赴き、アルビオンでの一部始終をオスマン学院長に報告する。
「そうか、リビングストン男爵は戦場の露と消えたか……政(まつりごと)にも誉(ほまれ)にも興味を示さず、ただ一筋に魔法の研究をしていた、あの男爵までもが巻き込まれて命を落とすとは、まこと、戦とはむごいものじゃのう」
オスマンはそう言って大きく溜息をつくと、椅子に体を深く沈ませる。
「残念じゃったが、気を落としてはならぬぞ。君がもと居た世界に戻る望みが、完全に絶たれたわけではないのじゃからな。リビングストン男爵以外にも、≪門≫の創りかたを研究しておるメイジが居るやもしれぬ。
ミスタ・コルベールにも、過去に異世界からの訪問者がこのハルケギニアに現れたという記録はないかと、調べさせておるところじゃ」
学院長はそう言って気遣ってくれるが、君は、慌てて帰る必要もないのであまり気にすることはない、と告げる。
君の言葉をあきらめの表れととったルイズは、表情を曇らせ視線を君から逸らす。
オスマンも、君が帰還の途を絶たれて絶望し、捨て鉢となっているものと思い眉根を寄せるが、いちばん驚いているのは君自身だ――今の言葉は、まったくの無意識のうちに口をついて出てきたものなのだから!
一刻も早くカーカバードに戻り、≪諸王の冠≫の奪還という任務を成し遂げねばならぬ立場にあるはずの君だが、焦燥感や使命感、望郷の念が自分でも信じられぬほどに鈍ってしまっていたらしい。
自身の心境の奇妙な変化にとまどい、無言で考え込む君を見て、ルイズは
「あきらめないで、わたしが絶対に帰る方法を見つけるから……」と言い、
両手で君の手をそっと握る。 二四へ。
二四
オスマンへの報告を終えた君たちは寄宿舎に向かうが、その途中で、南の方角から飛来した一頭の青い竜が『火の塔』の陰へと舞い降りるのを眼にする。
竜の姿を見送ったルイズは君のほうへと向き直り、
「あれって確か、タバサの使い魔よね」と言う。
君はうなずき、断言はできぬが、竜の背中には小柄な人影があったように見えた、と告げる。
「授業が終わってまだそんなに経ってない時間なのに、どこへ行ってたのかしら」
「それはあたしも、前々から気になってたのよね」
背後から唐突に声をかけられ、ルイズは跳び上がる。
慌てて振り向いた君とルイズが見たものは、炎のように赤い髪と健康的な褐色の肌、みごとな肢体をもつ少女――君たちの隣室の住人、≪火≫の魔法の使い手、キュルケだ。
彼女の足元には、主人よりもさらに赤く豊かな毛皮に覆われた獣、カーカバードの火狐がつき従っている。
「い、い、いつのまにわたしたちの後ろに来てたのよ、ツェルプストー!」
「本塔から出てきたところからね。すぐに声をかけようと思ったんだけど、ふたりして暗い顔で思い悩んでいるものだから、話しかけづらくって」
「そんな気遣いの心があるのなら、相手を驚かせないように声をかけるくらいしなさいよ!」
声を震わせ詰問するルイズをあしらいながら、キュルケは君に流し目を送る。
「それにしても、あたしに何も言わずにどこかに行っちゃうなんて、ふたりとも冷たいわね。急いでタバサのシルフィードで後を追おうと思ったら、あの子までいないんだもの。
てっきり、あたしだけ仲間はずれにして三人で旅に出たのかと思ったわ。あなたたちとタバサじゃ行き先は違ったみたいだけど。寂しかったわダーリン、ついでにルイズも」と、
キュルケは言う。
「人の使い魔を勝手にダ、ダーリン呼ばわりしないでよ!あんたたちツェルプストーには慎みってもんがないの!?」
タバサ――あの小柄で物静かな少女も、君たちと同時期に学院を脱け出してどこかへと向かい、たった今戻ってきたところのようだ。
馬とは比べ物にならぬ速さで空を翔る竜を駆れば、普通に旅をすれば何日もかかる遠方の地にも、一飛びで行けるに違いない。
「前にも何度か同じことがあったのよ。なにも言わずに何日か学院を留守にして、気がついたら戻ってきてるってことがね。一度、なにをしているのか訊いてみたんだけど、一言も答えてくれなかったわ」
「それって、いつもどおりのタバサの反応じゃない。あんたたちほんとに友達なの?」
ルイズの言葉を聞いたキュルケは、彼女には珍しく表情を険しいものに変え、
「友情も愛も、言葉がすべてってわけじゃないのよ、ヴァリエール。どっちもよく知らない、あなたみたいなお子様にはまだわかんないでしょうけどね!」と吐き捨てるように言う。
たちまち始まるルイズとキュルケの口喧嘩を聞き流しながら、君はタバサに対して新たな興味を覚える。
いったいなんの目的があって、たびたび学院を脱け出しているのだろうか?
ようやくルイズの部屋にたどり着き荷物を降ろした君は、夕食までのあいだ、自由にしていてよいと言われる。
君は学院内の誰かに会いに行ってもよいし(一三七へ)、部屋に残って旅の疲れを癒してもよい(一二へ)。
一三七
誰に会いに行く?
シエスタ・一〇四へ
タバサ・一八五へ
コルベール・一七四へ
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二八六
ルイズの声につられて君とアンリエッタはふたたび≪始祖の祈祷書≫に眼をやるが、黄変した頁は最初に見たときと変わらず、
なんの文字も書かれてはいない。
王女はまじまじとルイズを見つめる。
「あ、あれ? 今、たしかに……見間違いかしら」
そう言って、ルイズは眼をこする――≪水のルビー≫をはめたほうの手で。
君は、ルイズが帰りの道中で、トリステインの国宝である≪水のルビー≫を万が一にも落としたりせぬよう、指に通して肌身離さず
持ち歩いていたことを思い出す。
「まあ、ルイズ! それは使者の証として子爵に預けたはずの……取り戻してくれたのは手紙だけではなかったのですね」
ルイズの指に青く輝く大粒の宝石を眼にした王女は、驚喜する。
どうやら王女は、君たちとの会話に夢中になりすぎて、今の今までルイズの細い指を飾る指環にはなんの注意も払わなかったようだ。
ルイズはほのかに赤面すると、
「申し訳ありません、姫さま。これをお返しするのをすっかり忘れていました」と言いつつ指環を抜き取ろうとするが、
アンリエッタはかぶりを振る。
「それはあなたがお持ちなさいな。あなたたちが図らずも果たしてくれた手紙奪回の任務は、秘密裏のものなので、表立って爵位や報奨金を
授けるわけにはいきません。その≪水のルビー≫が、わたくしからのせめてものお礼です」
「でも姫さま、こんな値段のつけようもないほど貴重なものをいただくわけにはいきませんわ!」
「それはわたくしからの感謝の証、ふたりの変わらない友情の証です。いいからとっておきなさい」
そう言われては強情なルイズも引き下がるをえず、感謝の言葉を述べると≪水のルビー≫を指へと戻す。
換金のしようもないのを貰ってもしかたがない、と王女の耳に届かぬ声で小さく冗談を言う君を横目でひと睨みすると、
ルイズは話を切り上げて退出しようとするが、それをアンリエッタが呼び止める。
「これもお持ちなさい。なにか字が見えたと言いましたわね」
そう言って、≪始祖の祈祷書≫をルイズに差し出す。
「あ、あれはわたしの勘違いです! 今はなにも見えませんもの。≪水のルビー≫だけでもわたしには分不相応なものなのに、
大切な宝物を二つもお預かりするわけには……」
慌てて断ろうとするが、王女は古びた書物をルイズの手に押しつける。
「ルイズ、わたくしも≪始祖の祈祷書≫はただのお飾りで、その内容ではなく、王家に代々受け継がれてきたことこそに価値のある
骨董だと思っていました」
そこでいったん言葉を切る。
「ルイズ、あなたは魔法が、その……他人とはずいぶんと変わった形で顕れるうえ、稀有なことに人間――それも、遥かな異国のメイジ――
を使い魔として召喚しました。
そんなあなたがこの本になにかを見出したというのなら、それがただの光の悪戯や、眼の錯覚だとは思えないのです。やはり、
なんらかの秘密が隠されているのかもしれません。ルイズ、それに使い魔さん、このことを調べてみてはもらえませんか?
あなたたちが子爵にかわって任務を果たし王宮に赴いたことも、ここに≪始祖の祈祷書≫が置いてあったことも、ただの偶然ではなくなにかの縁(えにし)、
こうあるべきだという始祖のお導きなのかもしれませんわ。ときどき祈祷書を開いて、そこになにか文字が現れないかと試してみるだけでよいのです」
ルイズはアンリエッタの頼みを聞き入れて祈祷書を預かり、再び頁に文字が現れ、それが意味をなす文面を形作った場合には必ず報告すると告げる。
アンリエッタの言葉を黙って聞いていた君だが、内心では、彼女の軽はずみな行いに少なからずあきれている。
遠戚である公爵家の者が相手とはいえ、か弱くなんの力も持たぬ少女に王家伝来の秘宝を二つも預けるとは、無用心きわまりない!
≪諸王の冠≫のように、悪用されれば恐ろしい結果を招く、絶大な魔力を秘めた物品ではないのがせめてもの救いだろう。二一六へ。
二一六
アンリエッタ王女の私室を辞した君たちは、城門の手前の衛兵詰所へと向かう。
そこで君は、武器と背嚢、魔力を込められた装身具を返してもらう。
君に担がれていたギーシュはようやく眼を覚ますと、きょろきょろと周囲を見回し、
「姫殿下への謁見は、もう終わったのかね?」と、
ぼうっとした口調で言う。
君はそうだと答えるが、ルイズはなにも言わず≪始祖の祈祷書≫を両手で抱きかかえ、なにやら考え込んでいる。
「ああ、トリステインの至宝、麗しの姫殿下がこのぼくに声をかけてくださるとは……いまだに信じられない、夢のなかに居るようだよ」と、
うっとりとつぶやくギーシュに構わず、君とルイズは『ブルドンネ街』と呼ばれる大通りを、町の門の方向に向かって進んでいく。
置いていかれたギーシュは小走りで君たちに追いすがり、
「ところで、姫殿下とはどんな話をしたんだい? ぼくが怪物を仕留めたり、身を挺して傭兵どもから君たちを守ろうとしたくだりは話してくれたかね?
姫殿下はぼくのことを、なんと褒め称えてくださったのか……」と呼びかける。
君は返事に詰まる――ルイズも王女も、ギーシュには一言も触れなかったのだから!
言葉を濁し、姫君は気絶していたお前のことを大変に気遣っていた、と言うと、ギーシュは
「おお、なんとお優しい!薔薇のごとき美しさにくわえ、水晶のごとき純粋さをお持ちなのか、姫殿下は」と言って笑顔を見せる。
六日ぶりに魔法学院に戻った君とルイズは、その足で学院長室に赴き、アルビオンでの一部始終をオスマン学院長に報告する。
「そうか、リビングストン男爵は戦場の露と消えたか……政(まつりごと)にも誉(ほまれ)にも興味を示さず、ただ一筋に魔法の研究をしていた、
あの男爵までもが巻き込まれて命を落とすとは、まこと、戦とはむごいものじゃのう」
オスマンはそう言って大きく溜息をつくと、椅子に体を深く沈ませる。
「残念じゃったが、気を落としてはならぬぞ。君がもと居た世界に戻る望みが、完全に絶たれたわけではないのじゃからな。リビングストン男爵以外にも、
≪門≫の創りかたを研究しておるメイジが居るやもしれぬ。ミスタ・コルベールにも、過去に異世界からの訪問者がこのハルケギニアに現れたという
記録はないかと、調べさせておるところじゃ」
学院長はそう言って気遣ってくれるが、君は、慌てて帰る必要もないのであまり気にすることはない、と告げる。
君の言葉をあきらめの表れととったルイズは、表情を曇らせ視線を君から逸らす。
オスマンも、君が帰還の途を絶たれて絶望し、捨て鉢となっているものと思い眉根を寄せるが、いちばん驚いているのは君自身だ
――今の言葉は、まったくの無意識のうちに口をついて出てきたものなのだから!
一刻も早くカーカバードに戻り、≪諸王の冠≫の奪還という任務を成し遂げねばならぬ立場にあるはずの君だが、焦燥感や使命感、
望郷の念が自分でも信じられぬほどに鈍ってしまっていたらしい。
自身の心境の奇妙な変化にとまどい、無言で考え込む君を見て、ルイズは
「あきらめないで、わたしが絶対に帰る方法を見つけるから……」と言い、
両手で君の手をそっと握る。 二四へ。
二四
オスマンへの報告を終えた君たちは寄宿舎に向かうが、その途中で、南の方角から飛来した一頭の青い竜が『火の塔』の陰へと舞い降りるのを眼にする。
竜の姿を見送ったルイズは君のほうへと向き直り、
「あれって確か、タバサの使い魔よね」と言う。
君はうなずき、断言はできぬが、竜の背中には小柄な人影があったように見えた、と告げる。
「授業が終わってまだそんなに経ってない時間なのに、どこへ行ってたのかしら」
「それはあたしも、前々から気になってたのよね」
背後から唐突に声をかけられ、ルイズは跳び上がる。
慌てて振り向いた君とルイズが見たものは、炎のように赤い髪と健康的な褐色の肌、みごとな肢体をもつ少女――君たちの隣室の住人、
≪火≫の魔法の使い手、キュルケだ。
彼女の足元には、主人よりもさらに赤く豊かな毛皮に覆われた獣、カーカバードの火狐がつき従っている。
「い、い、いつのまにわたしたちの後ろに来てたのよ、ツェルプストー!」
「本塔から出てきたところからね。すぐに声をかけようと思ったんだけど、ふたりして暗い顔で思い悩んでいるものだから、話しかけづらくって」
「そんな気遣いの心があるのなら、相手を驚かせないように声をかけるくらいしなさいよ!」
声を震わせ詰問するルイズをあしらいながら、キュルケは君に流し目を送る。
「それにしても、あたしに何も言わずにどこかに行っちゃうなんて、ふたりとも冷たいわね。急いでタバサのシルフィードで後を追おうと思ったら、
あの子までいないんだもの。
てっきり、あたしだけ仲間はずれにして三人で旅に出たのかと思ったわ。あなたたちとタバサじゃ行き先は違ったみたいだけど。
寂しかったわダーリン、ついでにルイズも」と、
キュルケは言う。
「人の使い魔を勝手にダ、ダーリン呼ばわりしないでよ!あんたたちツェルプストーには慎みってもんがないの!?」
タバサ――あの小柄で物静かな少女も、君たちと同時期に学院を脱け出してどこかへと向かい、たった今戻ってきたところのようだ。
馬とは比べ物にならぬ速さで空を翔る竜を駆れば、普通に旅をすれば何日もかかる遠方の地にも、一飛びで行けるに違いない。
「前にも何度か同じことがあったのよ。なにも言わずに何日か学院を留守にして、気がついたら戻ってきてるってことがね。一度、なにをしているのか訊いてみたんだけど、一言も答えてくれなかったわ」
「それって、いつもどおりのタバサの反応じゃない。あんたたちほんとに友達なの?」
ルイズの言葉を聞いたキュルケは、彼女には珍しく表情を険しいものに変え、
「友情も愛も、言葉がすべてってわけじゃないのよ、ヴァリエール。どっちもよく知らない、あなたみたいなお子様には
まだわかんないでしょうけどね!」と吐き捨てるように言う。
たちまち始まるルイズとキュルケの口喧嘩を聞き流しながら、君はタバサに対して新たな興味を覚える。
いったいなんの目的があって、たびたび学院を脱け出しているのだろうか?
ようやくルイズの部屋にたどり着き荷物を降ろした君は、夕食までのあいだ、自由にしていてよいと言われる。
君は学院内の誰かに会いに行ってもよいし(一三七へ)、部屋に残って旅の疲れを癒してもよい(一二へ)。
一三七
誰に会いに行く?
シエスタ・一〇四へ
タバサ・一八五へ
コルベール・一七四へ
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