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「ゼロの夢幻竜-26」(2008/02/27 (水) 21:53:17) の最新版変更点
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第二十六話「助力」
「もう半日以上走りっぱなしじゃないか。どうなっているんだ?魔法衛士隊は化け物か?」
「情けない事言うんじゃないわよ。貴族でしょ、男でしょ。」
半ば倒れるような格好で馬にしがみついているギーシュをモンモランシーが叱咤する。
とは言っても、彼女とて疲れを知らないわけではない。
いい加減に腰の辺りが痛くなってきた。
こんな調子では馬より先に自分達が参ってしまうだろう。
学院を出立してからというものの、ワルドはグリフォンを馬より速い速度で疾駆させっ放しだった。
大体、ハルケギニアの常識に照らし合わせてみても、最大速度で飛ぶグリフォンを馬で追う事自体が無茶とも言えた。
と言うのも、ギーシュ達は途中の駅で馬を二回交換したが、グリフォンは今に至るまで疲れた素振りを全く見せなかったからである。
いや、そんなグリフォンよりもっと驚かされたのはラティアスである。
グリフォン以上の速さ、正に放たれた矢の如く野辺を進み続ける様は圧巻だった。
途中の休憩にしても、やはりグリフォンの様に疲れている様な気配は全く無い。
速く飛び始めた当初は、何時までその勢いが持つかといった雰囲気だったが、全くの杞憂に終わりそうだ。
と、ラティアスの飛行速度が段々と落ちていく。
流石に疲労感が溜まってきたかと思われたがそれは違う。
乗り手であるルイズの意向、ワルドと共に飛びたいという提案をラティアスが受け入れたからである。
ラティアスの背に乗ったルイズはワルドに一つ質問をした。
「ねえ少しペースが速くない?アルビオンに通じるラ・ロシェールまでどんな早馬を駆っても二日かかるのよ?ギーシュもモンモランシーもへばっているわ。」
「そうか。私としては今日の内にそこまで止まらずに行きたいのだが……」
「無理よ。最大限頑張ったとしても、今日行ける所は全体の行程で半分くらいの所になりそうだわ。」
そんな時ラティアスが一つの考えを出した。
「ならご主人様はワルドさんと一緒に乗られて、私が後続の二人を乗せると言う事で如何でしょうか?……不本意ですけど。」
「えっ?い……いいのよラティアス。あなたを余計に疲れさせるわけにはいかないわ。」
ルイズはラティアスから発せられる得体の知れない黒い雰囲気に迫られたのか、気を使う発言をする。
どんな理由であれご主人以外を背中に乗せるのが、さぞ気に入らないのだろう。
そこへワルドが新たに助け船を出した。
「そうとも。君は竜ゆえに速く飛ぶ事が出来る。グリフォンに乗っているこの僕よりもね。現に今、ルイズの方向指示がついている君が全体の先導をしているだろう?」
その言葉にラティアスは得意になって頷く。
少なくともそれは間違いではなかったからだ。
ラティアスはすっかり機嫌を直したのか、元の調子でワルドに話しかける。
「ええ……アルビオンまで頑張ります。御主人様の為に!この国のお姫様の為に!」
「はは。良い心構えだ。それでこそ僕のルイズの使い魔だな。」
そう言ってワルドは手綱を握りなおし、グリフォンにもっと速度を出すよう嗾ける。
ぐんぐん飛ぶ速度を上げるグリフォンを横目にラティアスはルイズに一つ込み入った事を訊く。
「御主人様はワルドさんと随分お親しいんですね。どういった事が昔あったんですか?」
「いろいろあったのよ。とても簡単には話し終える事が出来ないくらい沢山ね。それはラ・ロシェールに着いてから寝しなにでも話すわ。それでいい?」
「はい。」
その返事を合図に、ラティアスも速度を上げる。
旅も、相手を知る事も、まだ始まったも同然なのだ。
それから更に野辺を馳せる事半日。
日没寸前になってルイズ達は、アルビオンに通じる小さな港町ラ・ロシェールの入り口に辿り着いた。
馬を換えに換え、ひたすら急いでそこまで来たために、ギーシュとモンモランシーはくたくただった。
ルイズとラティアスも、そこまでは疲れてはいなかったし時間こそ早かったが、いい加減腹に真っ当なものを収めた後、明日に備えて眠りたかった。
宿屋に入る前のちょっとした休憩の時、人間形態になったラティアスがギーシュに質問した。
「ここからアルビオンに向けて船が出るんですよね?だからここは港町なんですよね?」
「そうだが?」
「じゃ、なんでこんな山の中にあるんですか?」
「おやおや。君はアルビオンがどういう所かを知らないのかい?まあ、その前にここ、ラ・ロシェールについて教えてあげよう。」
呆れたように知らないのかいと言われたって、知らないものは知らないのだ。
こちらの世界に召喚されてからまだ日の浅いラティアスにとって、ルイズから聞き及んだ事以外で知らない事などまだ山の様に残っている。
いちいち癪に障る物言いしか出来ないのかとつっこみたいのを抑えて、ラティアスはギーシュからの回答に耳を寄せた。
「ここ、ラ・ロシェールは小さいながらもアルビオンへの玄関口としては立派な町だ。彼方此方に見える建物は、全て土系統のスクウェアメイジ達が崖にある一枚板から作り出した至高の芸術作品だよ。」
「私が聞いているのはそういった事じゃなくて、何で船が出るというのに山の中にいるんですか、とそう訊いているんです。」
「それはつまり……どういう事だい?」
「どういう事って……船と名の付く物は普通水面を進むものですよ?港ってまさかまた一山超えた所にあるとか?」
その言葉を聞いたギーシュは、あはは、と底の抜けた様な笑いをした。
「君、ここハルケギニアではね、船と言う物は二種類に分けられるのだよ。海を進む『船』と、空を飛ぶ『フネ』とね。」
「え?空を飛ぶ『フネ』?」
「そうだ。あそこに大きな樹が見えるだろう?あそこが船着場なのさ。」
ギーシュはそう言って、町の中心からそれほど離れていない丘に聳え立つ巨大な樹を指差した。
目をこらさなくても一応見えるほどの大きさだったが、つい、あれが船着場?と思わず訊き返しそうになる。
だが幾重にも伸びた多くの枝には、確かに帆を張った帆船が果実の様に幾つもついていた。
普通船着場というのは海にあって、それから桟橋があって、そしてその側に大なり小なり船があって……言いかけてラティアスはやめる。
この世界では自分にとっての『普通』は通用しない。
それよりもっと範疇の大きい事が、『普通』として取り上げられているのだ。
諦め顔のラティアスを余所に、ギーシュは得意になって説明を続けた。
「浮遊大陸アルビオンに行くために、フネは風石を使って空を飛ぶのさ。君は風石を知っているかな?」
「風石……いえ、聞いた事ありません。それにさっきあなた浮遊大陸アルビオンって言ってましたよね?まさか陸地が空に浮いているんですか?」
「そうさ。だから……だから僕のヴェルダンデはついて来れなかったんだよ……」
そう言ってギーシュは、涙は流さないまでも深い感傷の世界に浸っていった。
自分だけ使い魔と一緒に来る事が出来なくて相当ショックだったのだろう。
が、ラティアスはギーシュの答えに驚くしか他なかった。
陸地が浮いているなんて、自分における常識ではこれまた考えられない事である。
が、そんな事にいちいち驚いていったら精神がもたない。
取り敢えずもう一つの質問をしてみる。
「風石って何ですか?」
「風石?風石ってのはね、風の魔法力を備えた石の事よ。それでフネは浮かぶの。」
ギーシュの代わりに答えたモンモランシーは事も無げに言ってみせる。
と、その時。
不意に近くの崖から何本もの松明が投げ込まれる。
戦闘訓練を受けていない馬はそれだけでパニックを起こし、ギーシュとモンモランシーは
馬から落とされてしまった。
と、同時に何本もの矢が彼等目掛けて飛んでくる。
「き!奇襲だっ!」
ギーシュが喚くと、その近くに矢が次々に突き刺さる。
そして息吐く間も無く、更に無数の矢が飛んでくる。
ラティアスは角度を変えながら、数発のミストボールを放つ。
勢い良く吹き荒れる湿った風によって、矢は一気に失速しながらバランスを崩し、ラティアス達のいる所に到達する前に地面に落ちる。
近くを見ると、ワルドも魔法で小さな竜巻を作り、飛んでくる矢に対応していた。
「野盗か山賊の類か?」
「わたし達をつけているアルビオンの貴族派かもしれませんよ?」
「いや。貴族なら弓を使うという事はあるまい。」
ルイズの懸念をワルドが『それはない』といった感じで否定する。
すると、どこからか勢いの良い翼の音が聞こえてきた。
音からしてラティアスと同じ、竜種族ではあるとその場にいた全員に見当がついた。
そして、矢が飛んできた崖の上から何人もの男達の悲鳴が聞こえてきた。
次いで自分達がいる所とは違う方向に向けて、再び何本という矢が放たれる。
しかし矢は虚しく空を切り、代わりに多くの悲鳴が突如現れた小型の竜巻と共に起きた。
「おや?あれは風の魔法じゃないか。」
と、ワルドが呟く。
そして自分達を攻撃してきた連中が、何とも無様に転がり落ちてくる。
そして崖の上に、ルイズ達が見慣れた幻獣が姿を現す。
「あれ、タバサのシルフィードじゃない!」
「何であの竜がここにいるんでしょうか?」
訳も分からずぽかんとシルフィードを見つめていると、その理由とも言える人物が二人、竜の背中から颯爽と飛び降りた。
キュルケとタバサだ。
「お待たせ。」
「誰も待ってませんよ。」
髪を掻きあげながら格好良く綺麗に決めたつもりのキュルケは、間髪入れずにつっこまれたラティアスの一言で忽ちぶすっとした表情になった。
次いでワルドの側に居たルイズが怒鳴ってきた。
「あんたねぇ、一体何しに来たのよ?」
「何しにって、崖の上で今あった事見てなかったの?助けに来てあげたんじゃないの。
今朝方窓から見てたらあんた達が馬に乗って出かけようとしているもんだから、急いでタバサを起こして後をつけたのよ。」
見るとタバサは確かに寝込みを叩き起こされた様で、寝巻きのままであった。
相も変わらず本を読んでいたが。
ルイズはそれを聞いても同じ剣幕で話し続ける。
「ツェルプストー!これはね、お忍びなのよ?お忍び!」
「お忍び?だったらそう言いなさいよ。言ってくれなきゃ分からないじゃない。まあ、とにかく感謝しなさいよね。あなた達を襲った連中を捕まえたんだから。」
得意げになって話すキュルケだったが、ラティアスの怒気を含んだ一言で再びムッとした表情になる。
「出発する当の本人達が、誰にも行き先を告げないからお忍びだっていうのは容易に想像つきませんか?
それにあれしきの人数ならあなたの力を借りずとも、ここにいる面々だけでも、じゅーぶん!対応できましたよ。ま、思わぬ助力だけは感謝しておきますけど。思わぬ助力だけは。」
それからやれやれと言わんばかりの呆れた表情でキュルケを見つめる。
戦力は増えた。だが……この二人の間にはもう一悶着起きそうだった。
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#navi(ゼロの夢幻竜)
第二十六話「助力」
「もう半日以上走りっぱなしじゃないか。どうなっているんだ?魔法衛士隊は化け物か?」
「情けない事言うんじゃないわよ。貴族でしょ、男でしょ。」
半ば倒れるような格好で馬にしがみついているギーシュをモンモランシーが叱咤する。
とは言っても、彼女とて疲れを知らないわけではない。
いい加減に腰の辺りが痛くなってきた。
こんな調子では馬より先に自分達が参ってしまうだろう。
学院を出立してからというものの、ワルドはグリフォンを馬より速い速度で疾駆させっ放しだった。
大体、ハルケギニアの常識に照らし合わせてみても、最大速度で飛ぶグリフォンを馬で追う事自体が無茶とも言えた。
と言うのも、ギーシュ達は途中の駅で馬を二回交換したが、グリフォンは今に至るまで疲れた素振りを全く見せなかったからである。
いや、そんなグリフォンよりもっと驚かされたのはラティアスである。
グリフォン以上の速さ、正に放たれた矢の如く野辺を進み続ける様は圧巻だった。
途中の休憩にしても、やはりグリフォンの様に疲れている様な気配は全く無い。
速く飛び始めた当初は、何時までその勢いが持つかといった雰囲気だったが、全くの杞憂に終わりそうだ。
と、ラティアスの飛行速度が段々と落ちていく。
流石に疲労感が溜まってきたかと思われたがそれは違う。
乗り手であるルイズの意向、ワルドと共に飛びたいという提案をラティアスが受け入れたからである。
ラティアスの背に乗ったルイズはワルドに一つ質問をした。
「ねえ少しペースが速くない?アルビオンに通じるラ・ロシェールまでどんな早馬を駆っても二日かかるのよ?ギーシュもモンモランシーもへばっているわ。」
「そうか。私としては今日の内にそこまで止まらずに行きたいのだが……」
「無理よ。最大限頑張ったとしても、今日行ける所は全体の行程で半分くらいの所になりそうだわ。」
そんな時ラティアスが一つの考えを出した。
「ならご主人様はワルドさんと一緒に乗られて、私が後続の二人を乗せると言う事で如何でしょうか?……不本意ですけど。」
「えっ?い……いいのよラティアス。あなたを余計に疲れさせるわけにはいかないわ。」
ルイズはラティアスから発せられる得体の知れない黒い雰囲気に迫られたのか、気を使う発言をする。
どんな理由であれご主人以外を背中に乗せるのが、さぞ気に入らないのだろう。
そこへワルドが新たに助け船を出した。
「そうとも。君は竜ゆえに速く飛ぶ事が出来る。グリフォンに乗っているこの僕よりもね。現に今、ルイズの方向指示がついている君が全体の先導をしているだろう?」
その言葉にラティアスは得意になって頷く。
少なくともそれは間違いではなかったからだ。
ラティアスはすっかり機嫌を直したのか、元の調子でワルドに話しかける。
「ええ……アルビオンまで頑張ります。御主人様の為に!この国のお姫様の為に!」
「はは。良い心構えだ。それでこそ僕のルイズの使い魔だな。」
そう言ってワルドは手綱を握りなおし、グリフォンにもっと速度を出すよう嗾ける。
ぐんぐん飛ぶ速度を上げるグリフォンを横目にラティアスはルイズに一つ込み入った事を訊く。
「御主人様はワルドさんと随分お親しいんですね。どういった事が昔あったんですか?」
「いろいろあったのよ。とても簡単には話し終える事が出来ないくらい沢山ね。それはラ・ロシェールに着いてから寝しなにでも話すわ。それでいい?」
「はい。」
その返事を合図に、ラティアスも速度を上げる。
旅も、相手を知る事も、まだ始まったも同然なのだ。
それから更に野辺を馳せる事半日。
日没寸前になってルイズ達は、アルビオンに通じる小さな港町ラ・ロシェールの入り口に辿り着いた。
馬を換えに換え、ひたすら急いでそこまで来たために、ギーシュとモンモランシーはくたくただった。
ルイズとラティアスも、そこまでは疲れてはいなかったし時間こそ早かったが、いい加減腹に真っ当なものを収めた後、明日に備えて眠りたかった。
宿屋に入る前のちょっとした休憩の時、人間形態になったラティアスがギーシュに質問した。
「ここからアルビオンに向けて船が出るんですよね?だからここは港町なんですよね?」
「そうだが?」
「じゃ、なんでこんな山の中にあるんですか?」
「おやおや。君はアルビオンがどういう所かを知らないのかい?まあ、その前にここ、ラ・ロシェールについて教えてあげよう。」
呆れたように知らないのかいと言われたって、知らないものは知らないのだ。
こちらの世界に召喚されてからまだ日の浅いラティアスにとって、ルイズから聞き及んだ事以外で知らない事などまだ山の様に残っている。
いちいち癪に障る物言いしか出来ないのかとつっこみたいのを抑えて、ラティアスはギーシュからの回答に耳を寄せた。
「ここ、ラ・ロシェールは小さいながらもアルビオンへの玄関口としては立派な町だ。彼方此方に見える建物は、全て土系統のスクウェアメイジ達が崖にある一枚板から作り出した至高の芸術作品だよ。」
「私が聞いているのはそういった事じゃなくて、何で船が出るというのに山の中にいるんですか、とそう訊いているんです。」
「それはつまり……どういう事だい?」
「どういう事って……船と名の付く物は普通水面を進むものですよ?港ってまさかまた一山超えた所にあるとか?」
その言葉を聞いたギーシュは、あはは、と底の抜けた様な笑いをした。
「君、ここハルケギニアではね、船と言う物は二種類に分けられるのだよ。海を進む『船』と、空を飛ぶ『フネ』とね。」
「え?空を飛ぶ『フネ』?」
「そうだ。あそこに大きな樹が見えるだろう?あそこが船着場なのさ。」
ギーシュはそう言って、町の中心からそれほど離れていない丘に聳え立つ巨大な樹を指差した。
目をこらさなくても一応見えるほどの大きさだったが、つい、あれが船着場?と思わず訊き返しそうになる。
だが幾重にも伸びた多くの枝には、確かに帆を張った帆船が果実の様に幾つもついていた。
普通船着場というのは海にあって、それから桟橋があって、そしてその側に大なり小なり船があって……言いかけてラティアスはやめる。
この世界では自分にとっての『普通』は通用しない。
それよりもっと範疇の大きい事が、『普通』として取り上げられているのだ。
諦め顔のラティアスを余所に、ギーシュは得意になって説明を続けた。
「浮遊大陸アルビオンに行くために、フネは風石を使って空を飛ぶのさ。君は風石を知っているかな?」
「風石……いえ、聞いた事ありません。それにさっきあなた浮遊大陸アルビオンって言ってましたよね?まさか陸地が空に浮いているんですか?」
「そうさ。だから……だから僕のヴェルダンデはついて来れなかったんだよ……」
そう言ってギーシュは、涙は流さないまでも深い感傷の世界に浸っていった。
自分だけ使い魔と一緒に来る事が出来なくて相当ショックだったのだろう。
が、ラティアスはギーシュの答えに驚くしか他なかった。
陸地が浮いているなんて、自分における常識ではこれまた考えられない事である。
が、そんな事にいちいち驚いていったら精神がもたない。
取り敢えずもう一つの質問をしてみる。
「風石って何ですか?」
「風石?風石ってのはね、風の魔法力を備えた石の事よ。それでフネは浮かぶの。」
ギーシュの代わりに答えたモンモランシーは事も無げに言ってみせる。
と、その時。
不意に近くの崖から何本もの松明が投げ込まれる。
戦闘訓練を受けていない馬はそれだけでパニックを起こし、ギーシュとモンモランシーは
馬から落とされてしまった。
と、同時に何本もの矢が彼等目掛けて飛んでくる。
「き!奇襲だっ!」
ギーシュが喚くと、その近くに矢が次々に突き刺さる。
そして息吐く間も無く、更に無数の矢が飛んでくる。
ラティアスは角度を変えながら、数発のミストボールを放つ。
勢い良く吹き荒れる湿った風によって、矢は一気に失速しながらバランスを崩し、ラティアス達のいる所に到達する前に地面に落ちる。
近くを見ると、ワルドも魔法で小さな竜巻を作り、飛んでくる矢に対応していた。
「野盗か山賊の類か?」
「わたし達をつけているアルビオンの貴族派かもしれませんよ?」
「いや。貴族なら弓を使うという事はあるまい。」
ルイズの懸念をワルドが『それはない』といった感じで否定する。
すると、どこからか勢いの良い翼の音が聞こえてきた。
音からしてラティアスと同じ、竜種族ではあるとその場にいた全員に見当がついた。
そして、矢が飛んできた崖の上から何人もの男達の悲鳴が聞こえてきた。
次いで自分達がいる所とは違う方向に向けて、再び何本という矢が放たれる。
しかし矢は虚しく空を切り、代わりに多くの悲鳴が突如現れた小型の竜巻と共に起きた。
「おや?あれは風の魔法じゃないか。」
と、ワルドが呟く。
そして自分達を攻撃してきた連中が、何とも無様に転がり落ちてくる。
そして崖の上に、ルイズ達が見慣れた幻獣が姿を現す。
「あれ、タバサのシルフィードじゃない!」
「何であの竜がここにいるんでしょうか?」
訳も分からずぽかんとシルフィードを見つめていると、その理由とも言える人物が二人、竜の背中から颯爽と飛び降りた。
キュルケとタバサだ。
「お待たせ。」
「誰も待ってませんよ。」
髪を掻きあげながら格好良く綺麗に決めたつもりのキュルケは、間髪入れずにつっこまれたラティアスの一言で忽ちぶすっとした表情になった。
次いでワルドの側に居たルイズが怒鳴ってきた。
「あんたねぇ、一体何しに来たのよ?」
「何しにって、崖の上で今あった事見てなかったの?助けに来てあげたんじゃないの。
今朝方窓から見てたらあんた達が馬に乗って出かけようとしているもんだから、急いでタバサを起こして後をつけたのよ。」
見るとタバサは確かに寝込みを叩き起こされた様で、寝巻きのままであった。
相も変わらず本を読んでいたが。
ルイズはそれを聞いても同じ剣幕で話し続ける。
「ツェルプストー!これはね、お忍びなのよ?お忍び!」
「お忍び?だったらそう言いなさいよ。言ってくれなきゃ分からないじゃない。まあ、とにかく感謝しなさいよね。あなた達を襲った連中を捕まえたんだから。」
得意げになって話すキュルケだったが、ラティアスの怒気を含んだ一言で再びムッとした表情になる。
「出発する当の本人達が、誰にも行き先を告げないからお忍びだっていうのは容易に想像つきませんか?
それにあれしきの人数ならあなたの力を借りずとも、ここにいる面々だけでも、じゅーぶん!対応できましたよ。ま、思わぬ助力だけは感謝しておきますけど。思わぬ助力だけは。」
それからやれやれと言わんばかりの呆れた表情でキュルケを見つめる。
戦力は増えた。だが……この二人の間にはもう一悶着起きそうだった。
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