「風林火山-03」(2008/02/27 (水) 19:27:02) の最新版変更点
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―――――なんと驚くべきことか、と勘助は思った。
あれから丸一日、勘助は眠っていたのだという。
そして、目覚めた勘助は勘助は何よりも先に、これから暮らすであろうこの地について、そして自分の身について尋ねた。
そこで、勘助は自分の処遇・この社会での地位などを理解した。
(魔法の存在もさることながら、やはり海外ともなると随分と異なる)
魔法の存在が産業のほぼ全てを支えていることにも驚きを隠せない。
油なぞ、最低レベルの魔法で作れることから、ずいぶんと価値が低く見られているらしいし、紙も大量に出回り、図書館と呼ばれる、大量の本を集める場所もあるという。
さらに、蝮が行っていた、型破りの楽市楽座をどこの市場でも当然のように行っている。
そして何より、ガリアと呼ばれる国の存在。
人口1500万の国であるという。
1500万の国とは、武田・上杉・朝倉・毛利等など、大国の国々が同盟して戦っても、勝ち目があるかどうか。
さらに、空を飛ぶ船の存在。
使い魔の感覚の共有。
ポルトガル伝来の火縄銃程の威力は無いが、使い勝手が良い銃。
何を取っても、驚くことばかりだ。
もし、甲斐に空船の一つでもあれば、楽に上杉を打ち取ることもできたであろう。
攻撃できない場所から一方的に攻撃できるということは、それほど大きいのだ。
魔法の便利さにも驚きの一文字しか出てこない。
すでに、勘助の頭の中には、これを利用していかなる陣形を取るべきか、いかなる作戦を使うべきか、いかにして城を取るべきか、そんなことばかりが駆け巡っている。
ルイズの話しか聞いてはいないが、しかしその説明でも多くの事がわかった。
ほぼ、半日はそれについやしたのだろうか。
この地の地理も大まかにだが理解した。
目を閉じれば、タルブの平原や城下町、浮遊大陸アルビオンの首都、ゲルマニアの街やロマリア、ガリアの首都やラグドリアン湖の光景などとも、ありありと浮かんでくる。
さすがに城や家等の建造物等は想像しにくい。
だが、もし、隣国であるゲルマニアとの戦争が起きれば、どこを拠点とするべきか、もしガリアとの戦争が起きれば、どう対処すれば良いか、そんなことすら、勘助は考え出している。
勘助の頭は、それからめまぐるしく回った。
(いかん。ルイズの話によれば、ここに戦など面影もありはしないのだ。それよりも―――)
勘助の手には、主たるルイズの衣服の入った籠が握られていた。
(まずは、これをどうにかするのが先決か・・・洗濯なぞ、殆どやったこともないが・・・)
と、前方にメイドの衣装を着た少女が歩いているのが目に入った。
「もし、そこのお方」
「・・・え、あ、私ですか?」
勘助が声をかけると、数秒遅れて返事が返ってきた。
何故自分に声がかけられたのかわからないといった風だったが、勘助の持っているものを見て納得した。
「洗濯ものですか?それならば、私たちにお申し付けくださ・・・あ、もしかしてミス・ヴァリエールが召喚した使い魔さんですか?」
「いかにも」
「あの・・・えと、私たちと同じ・・・平民、でしたよね」
「この国の区分では、平民であることは確かだ。魔法は使えんのでな」
「そうでしたか!わたし、シエスタといいます!えと、何かありましたらいつでも私を頼ってください!平民どうし、助けあわなくっちゃ・・・」
勘助の異相にも全く恐れることなく、シエスタと名乗った少女が笑いかけた。
「恐れ入る。それでは、これを頼んでも良いだろうか」
「はい、お任せください!」
「ふむ。だが、立場が対等ならばこちらだけ何かして貰う訳にも行くまい。何か、手伝えることはあるか」
半ば、楽しむように、笑うように勘助は言った。
「そうですか?では、今日のお昼に食堂にケーキを運ぶのですが、お手伝いいただけますか?」
「承知した」
笑みを浮かべながら、勘助は籠をシエスタに手渡した。
―――――昼の食堂
ルイズからの見たこともない昼食を平らげた勘助は、その足でそのまま調理場へと向かった。
これまた見たこともない物を、シエスタに頼まれ、学生たちへと届ける手助けをする。
「この列にある、台の上に置いていけばいいのだな?」
「はい。そんなに丁寧にやる必要も無いですから。終わったら私に声をかけてくださいね」
「あいわかった」
いうと、勘助とシエスタは別れ、それぞれの机にケーキを配膳していく。
はじめは柔らかいケーキに苦戦したが、元々手先が器用な方である。
すぐに慣れ、そう時間もたたずにケーキを配り終えた。
と、何やら奥で大きな声が聞こえた。
「これは僕のじゃない。他人の物ではないのか?」
「その香水はモンモランシーのじゃないか?」
「そうだ! その鮮やかな紫色はモンモランシーが自分のために調合している香水だぞ!」
「ということは・・・ギーシュ、お前はモンモランシーと付き合っているということか!?」
「それは違う。 彼女の名誉のために言っておくが……」
「ギーシュさま……やはり、ミス・モンモランシーと……」
「そんなわけないだろケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは君だけ――」
バチン―――
大きな頬を叩く音がして、向こうから少女が歩いてきて、それと入れ替わるように巻き髪の少女が歩いてきた。
「モンモランシー、誤解だ。彼女とはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」
「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」
「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔をそのような怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」
と、モンモランシーが机の上のワインを手に取りギーシュにそれを吹っ掛け、
「うそつき!」
と、怒鳴って去っていった。
ギーシュはハンカチを取り出し、ゆっくり顔を拭く。
そして、突然シエスタに怒鳴りつけた。
「そこのメイド、待ちたまえ」
シエスタの肩が震え、恐る恐るとギーシュの方へ振り向く。
「君が軽率に香水の壜なんか拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
「あ・・・す、すみません!」
シエスタはペコペコと何度も謝る。
そこで、周囲の野次馬から
「いや、二股をかけてたお前が悪いんじゃないのか?」
と声がかけられた。
ギーシュの友人達が、どっと笑った。
「確かに、そりゃ当然だ!」
すると、顔を赤く染めたギーシュが、友人達は無視してシエスタへと詰め寄る。
「何を言っている給仕君。君達が壜を放置してればよかっただけじゃないか」
「もうしわけありません、貴族様・・・」
「これは謝って済む問題ではないのだよ!君一人が謝っても、彼女達の名誉はけがれたままだ!」
「すいません、すいません、すいません・・・」
「だから謝って済む問題ではないのだよ・・・そうだな、決闘でもするかね?互いの名誉をかけて行う決闘ならば、彼女たちの名誉の汚れも少しは落とせるかもしれない」
シエスタが、泣きそうな顔で、いや、すでに目に涙をためながら、必死に謝っている。
(どうやら、シエスタに非があるのではなく、ただの八つ当たりのようだな)
シエスタに非があるのならば、自分が出る必要はないと思っていた、が。
それがただのやつあたりだというのなら、それも、身分の違いを盾にするようなやつあたりであるならば、恩のある自分はそれを助けねばならないだろう。
それに、周りのだれもが彼女を助けようとはしない。
まるで、見せものであるかのようだ。
見ていて、とても気分が良いものでは無い。
(それに、あの小僧。気に食わんな)
あんな小童が、幅を利かせ、あの少女のような有能な者が隅をあるかねばならないなどと。
ルイズの話を聞いた時、勘助はまず中国を思い浮かべた。
郷挙里選のように、有能なものは取り立て、無能なものは落ちていくという制度も、これほどに素晴らしい技術や政治体制がある国ならば、あって当然だと思っていたのだ。
だが、そうでは無いらしい。
有能な平民よりも、無能な貴族の方が偉いという。
下の者の事を考えることができない支配者は、どれほどの能があろうと無能である、と勘助は思う。
無能である上に、下々の物の考えることができないような支配者が、幅を聞かせられているような国なのか。
これでは、やがては上が腐敗し、下剋上が起きるのが必定、などと思いを巡らす。
「あいや、待った!なにも決闘などする必要なないだろう」
「む?なんだね君は」
「某の名は山本勘助にござる。何があったのか、大体わかった。しかし、何も決闘まで行う必要はないであろう」
「は?ああ、ルイズが召喚した平民の軍人か。全く。ルイズは自分の使い魔の教育すらまともにできないのか。さすがはゼロのルイズだ!」
ゲラゲラと、あざ笑いながら、ギーシュが言った。
そして、勘助を流し見るようにして言った。
「ならば、君が代わりにこの僕と決闘をするのかね?軍人ならば、多少は手ごたえもあるだろうさ」
ギーシュの言葉を聞いた野次馬達が、面白そうに勘助達を眺めている。
「決闘?この勘助と、決闘すると申したか?」
「ああ、確かに言ったね。耳が悪いのかい?」
「ふむ。小童。決闘の、意味。理解しているのであろうな?」
ギロリ―――
塞がっていない片目でギーシュを睨む。
今更、勘助の異相に気づいたのだろうか。
ビクリ、と肩をすくませ、一歩後ずさった。
が、震えながらも、しどろもどろに勘助に口を叩く。
「も、も勿論さ。貴族に二言は、な、ない、よ」
「ふむ」
「い、いや、だけど平民相手にさすがに今のは僕もちょっと大人げなかったかな、あはは、君が謝るというのなら、この場は納めてもいいよ」
変に素早い口調で勘助に口をきく。
「いや、決闘か。構わん。やろう」
ヒクッ、とギーシュの口元が引きつる。
それに気付きながらも、そんな事を気にする勘助では無い。
「仮にも主人であるルイズをけなされ、それを放っておくのは使い魔としての名折れでもある」
「そ、そうかね。あ、そうだ、僕は貴族なんだ!だから、魔法を使っても文句あるまいね!」
「構わん」
「よ、よし、今の言葉忘れるなよ・・・それじゃあ、1時間後にヴェストリの広場へ来るんだ!・・・いや、もし怖気づいたのなら別に来なくても構わないよ。僕は別に君と戦いたいわけでは無いからね」
「必ず行こう。もし、その広場はどこにあるのか、教えていただきたい」
ギーシュの言葉を軽く受け流し、勘助は野次馬から広場の場所を聞き出した。
その間に、ギーシュは早歩きでその場から立ち去った。
「あ・・・あなた、殺されちゃう・・・貴族と決闘何かしたら・・・」
それまで、事の成り行きを見守っていたシエスタが、顔を真っ青にして言った。
そして、そのまま彼女は走り去ってしまった。
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―――――なんと驚くべきことか、と勘助は思った。
あれから丸一日、勘助は眠っていたのだという。
そして、目覚めた勘助は勘助は何よりも先に、これから暮らすであろうこの地について、そして自分の身について尋ねた。
そこで、勘助は自分の処遇・この社会での地位などを理解した。
(魔法の存在もさることながら、やはり海外ともなると随分と異なる)
魔法の存在が産業のほぼ全てを支えていることにも驚きを隠せない。
油なぞ、最低レベルの魔法で作れることから、ずいぶんと価値が低く見られているらしいし、紙も大量に出回り、図書館と呼ばれる、大量の本を集める場所もあるという。
さらに、蝮が行っていた、型破りの楽市楽座をどこの市場でも当然のように行っている。
そして何より、ガリアと呼ばれる国の存在。
人口1500万の国であるという。
1500万の国とは、武田・上杉・朝倉・毛利等など、大国の国々が同盟して戦っても、勝ち目があるかどうか。
さらに、空を飛ぶ船の存在。
使い魔の感覚の共有。
ポルトガル伝来の火縄銃程の威力は無いが、使い勝手が良い銃。
何を取っても、驚くことばかりだ。
もし、甲斐に空船の一つでもあれば、楽に上杉を打ち取ることもできたであろう。
攻撃できない場所から一方的に攻撃できるということは、それほど大きいのだ。
魔法の便利さにも驚きの一文字しか出てこない。
すでに、勘助の頭の中には、これを利用していかなる陣形を取るべきか、いかなる作戦を使うべきか、いかにして城を取るべきか、そんなことばかりが駆け巡っている。
ルイズの話しか聞いてはいないが、しかしその説明でも多くの事がわかった。
ほぼ、半日はそれについやしたのだろうか。
この地の地理も大まかにだが理解した。
目を閉じれば、タルブの平原や城下町、浮遊大陸アルビオンの首都、ゲルマニアの街やロマリア、ガリアの首都やラグドリアン湖の光景などとも、ありありと浮かんでくる。
さすがに城や家等の建造物等は想像しにくい。
だが、もし、隣国であるゲルマニアとの戦争が起きれば、どこを拠点とするべきか、もしガリアとの戦争が起きれば、どう対処すれば良いか、そんなことすら、勘助は考え出している。
勘助の頭は、それからめまぐるしく回った。
(いかん。ルイズの話によれば、ここに戦など面影もありはしないのだ。それよりも―――)
勘助の手には、主たるルイズの衣服の入った籠が握られていた。
(まずは、これをどうにかするのが先決か・・・洗濯なぞ、殆どやったこともないが・・・)
と、前方にメイドの衣装を着た少女が歩いているのが目に入った。
「もし、そこのお方」
「・・・え、あ、私ですか?」
勘助が声をかけると、数秒遅れて返事が返ってきた。
何故自分に声がかけられたのかわからないといった風だったが、勘助の持っているものを見て納得した。
「洗濯ものですか?それならば、私たちにお申し付けくださ・・・あ、もしかしてミス・ヴァリエールが召喚した使い魔さんですか?」
「いかにも」
「あの・・・えと、私たちと同じ・・・平民、でしたよね」
「この国の区分では、平民であることは確かだ。魔法は使えんのでな」
「そうでしたか!わたし、シエスタといいます!えと、何かありましたらいつでも私を頼ってください!平民どうし、助けあわなくっちゃ・・・」
勘助の異相にも全く恐れることなく、シエスタと名乗った少女が笑いかけた。
「恐れ入る。それでは、これを頼んでも良いだろうか」
「はい、お任せください!」
「ふむ。だが、立場が対等ならばこちらだけ何かして貰う訳にも行くまい。何か、手伝えることはあるか」
半ば、楽しむように、笑うように勘助は言った。
「そうですか?では、今日のお昼に食堂にケーキを運ぶのですが、お手伝いいただけますか?」
「承知した」
笑みを浮かべながら、勘助は籠をシエスタに手渡した。
―――――昼の食堂
ルイズからの見たこともない昼食を平らげた勘助は、その足でそのまま調理場へと向かった。
これまた見たこともない物を、シエスタに頼まれ、学生たちへと届ける手助けをする。
「この列にある、台の上に置いていけばいいのだな?」
「はい。そんなに丁寧にやる必要も無いですから。終わったら私に声をかけてくださいね」
「あいわかった」
いうと、勘助とシエスタは別れ、それぞれの机にケーキを配膳していく。
はじめは柔らかいケーキに苦戦したが、元々手先が器用な方である。
すぐに慣れ、そう時間もたたずにケーキを配り終えた。
と、何やら奥で大きな声が聞こえた。
「これは僕のじゃない。他人の物ではないのか?」
「その香水はモンモランシーのじゃないか?」
「そうだ! その鮮やかな紫色はモンモランシーが自分のために調合している香水だぞ!」
「ということは・・・ギーシュ、お前はモンモランシーと付き合っているということか!?」
「それは違う。 彼女の名誉のために言っておくが……」
「ギーシュさま……やはり、ミス・モンモランシーと……」
「そんなわけないだろケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは君だけ――」
バチン―――
大きな頬を叩く音がして、向こうから少女が歩いてきて、それと入れ替わるように巻き髪の少女が歩いてきた。
「モンモランシー、誤解だ。彼女とはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」
「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」
「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔をそのような怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」
と、モンモランシーが机の上のワインを手に取りギーシュにそれを吹っ掛け、
「うそつき!」
と、怒鳴って去っていった。
ギーシュはハンカチを取り出し、ゆっくり顔を拭く。
そして、突然シエスタに怒鳴りつけた。
「そこのメイド、待ちたまえ」
シエスタの肩が震え、恐る恐るとギーシュの方へ振り向く。
「君が軽率に香水の壜なんか拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
「あ・・・す、すみません!」
シエスタはペコペコと何度も謝る。
そこで、周囲の野次馬から
「いや、二股をかけてたお前が悪いんじゃないのか?」
と声がかけられた。
ギーシュの友人達が、どっと笑った。
「確かに、そりゃ当然だ!」
すると、顔を赤く染めたギーシュが、友人達は無視してシエスタへと詰め寄る。
「何を言っている給仕君。君達が壜を放置してればよかっただけじゃないか」
「もうしわけありません、貴族様・・・」
「これは謝って済む問題ではないのだよ!君一人が謝っても、彼女達の名誉はけがれたままだ!」
「すいません、すいません、すいません・・・」
「だから謝って済む問題ではないのだよ・・・そうだな、決闘でもするかね?互いの名誉をかけて行う決闘ならば、彼女たちの名誉の汚れも少しは落とせるかもしれない」
シエスタが、泣きそうな顔で、いや、すでに目に涙をためながら、必死に謝っている。
(どうやら、シエスタに非があるのではなく、ただの八つ当たりのようだな)
シエスタに非があるのならば、自分が出る必要はないと思っていた、が。
それがただのやつあたりだというのなら、それも、身分の違いを盾にするようなやつあたりであるならば、恩のある自分はそれを助けねばならないだろう。
それに、周りのだれもが彼女を助けようとはしない。
まるで、見せものであるかのようだ。
見ていて、とても気分が良いものでは無い。
(それに、あの小僧。気に食わんな)
あんな小童が、幅を利かせ、あの少女のような有能な者が隅をあるかねばならないなどと。
ルイズの話を聞いた時、勘助はまず中国を思い浮かべた。
郷挙里選のように、有能なものは取り立て、無能なものは落ちていくという制度も、これほどに素晴らしい技術や政治体制がある国ならば、あって当然だと思っていたのだ。
だが、そうでは無いらしい。
有能な平民よりも、無能な貴族の方が偉いという。
下の者の事を考えることができない支配者は、どれほどの能があろうと無能である、と勘助は思う。
無能である上に、下々の物の考えることができないような支配者が、幅を聞かせられているような国なのか。
これでは、やがては上が腐敗し、下剋上が起きるのが必定、などと思いを巡らす。
「あいや、待った!なにも決闘などする必要なないだろう」
「む?なんだね君は」
「某の名は山本勘助にござる。何があったのか、大体わかった。しかし、何も決闘まで行う必要はないであろう」
「は?ああ、ルイズが召喚した平民の軍人か。全く。ルイズは自分の使い魔の教育すらまともにできないのか。さすがはゼロのルイズだ!」
ゲラゲラと、あざ笑いながら、ギーシュが言った。
そして、勘助を流し見るようにして言った。
「ならば、君が代わりにこの僕と決闘をするのかね?軍人ならば、多少は手ごたえもあるだろうさ」
ギーシュの言葉を聞いた野次馬達が、面白そうに勘助達を眺めている。
「決闘?この勘助と、決闘すると申したか?」
「ああ、確かに言ったね。耳が悪いのかい?」
「ふむ。小童。決闘の、意味。理解しているのであろうな?」
ギロリ―――
塞がっていない片目でギーシュを睨む。
今更、勘助の異相に気づいたのだろうか。
ビクリ、と肩をすくませ、一歩後ずさった。
が、震えながらも、しどろもどろに勘助に口を叩く。
「も、も勿論さ。貴族に二言は、な、ない、よ」
「ふむ」
「い、いや、だけど平民相手にさすがに今のは僕もちょっと大人げなかったかな、あはは、君が謝るというのなら、この場は納めてもいいよ」
変に素早い口調で勘助に口をきく。
「いや、決闘か。構わん。やろう」
ヒクッ、とギーシュの口元が引きつる。
それに気付きながらも、そんな事を気にする勘助では無い。
「仮にも主人であるルイズをけなされ、それを放っておくのは使い魔としての名折れでもある」
「そ、そうかね。あ、そうだ、僕は貴族なんだ!だから、魔法を使っても文句あるまいね!」
「構わん」
「よ、よし、今の言葉忘れるなよ・・・それじゃあ、1時間後にヴェストリの広場へ来るんだ!・・・いや、もし怖気づいたのなら別に来なくても構わないよ。僕は別に君と戦いたいわけでは無いからね」
「必ず行こう。もし、その広場はどこにあるのか、教えていただきたい」
ギーシュの言葉を軽く受け流し、勘助は野次馬から広場の場所を聞き出した。
その間に、ギーシュは早歩きでその場から立ち去った。
「あ・・・あなた、殺されちゃう・・・貴族と決闘何かしたら・・・」
それまで、事の成り行きを見守っていたシエスタが、顔を真っ青にして言った。
そして、そのまま彼女は走り去ってしまった。
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