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「ナイトメイジ-03」(2008/04/11 (金) 05:40:25) の最新版変更点
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#navi(ナイトメイジ)
少々、いやかなり不機嫌なルイズは大股でのしのしと食堂に向けて歩いていた。
歩きながらルイズは考える。
どうしてこんなにいらついているのだろう、と。
まず最初は朝食に部屋を出た時だった。
キュルケとばったり出くわして使い魔自慢につきあわされてしまった。
それだけならまだいい。ほんとは良くないけど。
キュルケはこう言ったのだ。
「あなた、使い魔の召喚に失敗したの?」
召喚した使い魔がかなりアレなのは認めざるを得ないが、失敗したわけではない。
今いないだけなのだ。
朝に使用人を雇ってくると言って部屋を飛び出して以来戻ってきていないだけなのだ。
だからルイズは腹にイライラを溜めてここはぐっと我慢した。
次は、朝食の時だ。
使い魔といってもご飯を食べなければならない。
朝ご飯くらい食べに来るだろうと考えたルイズは、躾のために薄いスープと固いパンを用意して床に置いてやった。
ところが使い魔はいつになっても帰ってこない。
ルイズの思惑は見事に空振りに終わった。
でも、ここでわめき立てるのもみっともない。
だから、ルイズは腹にイライラを溜めてここはぐっと我慢した。
そして、ついさっき授業中。
その授業で担当のミス・シェヴルーズはこう言ったのだ。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね」
ところがルイズは使い魔をつれていない。
さんざん馬鹿にされてしまった。とくに、風邪っぴきのマリコルヌに。
おまけに、あまりに頭に来ていて、その後の練金の実技では教室丸ごと大爆破をしてしまった。
おかげで教室の片付けまですることになってしまった。
使い魔がいれば少しは楽になったと思うのだが、肝心の使い魔はいない。
ここで暴れても片付けに時間がかかるだけ。
だから、ルイズは腹にイライラを溜めてここはぐっと我慢した。
考えてみれば、どれもこれも使い魔のベルが原因だ。第三者から見ればかなり理不尽かも知れないが。
それでも、ご飯を食べればこのイライラも少しは収まるだろう。
ルイズは食堂の扉を力一杯開けた。
「あら、ルイズ。遅かったわね」
「……」
いた。
ここにいた。
何がいたって、ルイズの使い魔ベルことベール・ゼファーがいたのだ。
ルイズがいつも座る席に座って、優雅にお茶なんか飲んでいる。
実に優雅だ。そこら辺にいる貴族の子弟よりはずっと貴族に見えるのがまた腹立たしい。
ルイズは目をつり上げ、ベルの正面に座り机を叩いた。
「あなたここで何してるのよ!」
「何って、食後のお茶よ」
見たまんまである。
「私のご飯はどうしたの?」
「あ、それ?」
ベルは舌をぺろりと出す。
「食べちゃったわよ。全然来ないから、スープも冷めちゃったし」
「全部?」
「ええ、おいしかったわ。ごちそうさま」
「あ・な・た・ねーーーっ」
頭に来たルイズは顔を真っ赤にして机をばんばん叩く。
もっとも、丈夫な机はそれくらいでは揺るぎもしないが。
「遅くなったのはあなたのせいなのよ!それなのに、主のご飯を食べちゃうなんて!どういう使い魔よ!!」
「そうなの?」
「そうよ。あなたが私と来ていればあんな事やこんな事にはならなかったのよ!」
「何があったかは、よく分からないけど私は雑用係を探しに行ってたのよ。ルイズもわかってるでしょ」
ルイズはさらに顔を真っ赤にする。
今度は頭から湯気くらい噴きそうな勢いだ。
「じゃあ、その雑用係はどこにいるのよ。仕事も終わらないうちにのうのうと主のご飯を食べていたって言うんじゃないでしょうね」
「そんなはず無いじゃない。終わったわよ」
「だったら、その雑用係はどこにいるのよ。早く見せないさいよ」
「ちょっと待って」
ベルは顔を後ろに向けるて背後を見回す。
右を見回して、探している物がなかったのか今度は左後ろを見る。
「そろそろ来るはずよ……あ、来た来た」
何が来たのか。
ベルの視線をたどると、その先にいたのはケーキを乗せた銀のトレイを持ったこの学院のメイドだ。
名前は知らないが何度か見たことがある。
「私たちの身の回りの世話をしてくれるシエスタよ。シエスタ、ルイズに挨拶をして」
「はい。この度、ベール・ゼファー様の配下に加えていただきましたシエスタです。よろしくお願いします」
シエスタと言うメイドは挨拶をした後、ケーキをベルの前とルイズの前に置く。
ベルが
「ルイズは何も食べてないみたいだから、もう一つあげて」
と命令すると、当然のようにルイズの前のケーキを二つにする。
ルイズがベルとシエスタの2人を交互に見ているうちに、シエスタはケーキを配りに行ってしまった。
「ちょっと、どういう事よ」
ルイズはフォークを握りながら訪ねる。お腹が空いているので食べながら追求することにしたのだ。
「どういう事って、ああいう事よ。聞いてなかったの?」
「そうじゃなくて!」
ずだんとケーキを一等両断。
「あのメイド、この学院のメイドでしょ?学院のメイドにはね。生徒の身の回りの世話をするって仕事もあるの」
「……メイドがやってくれるのに私にやらせようとしたの?」
「使い魔なら当然なの!それより、これじゃあなたがやったことにならないじゃない!単にメイドに頼んだだけじゃない」
「ちがうわ。私はシエスタと契約したの。彼女が私たちの世話をするのは、学院の仕事だからじゃないわ。契約に基づいたことなのよ」
「契約?」
その言葉もベルが言うとかなり怪しげだ。
「どんな契約したのよ。あなたお金持ってないはずよね」
ベルを召喚したときには何も荷物は持ってなかった。もしお金を持っていたとしても大した金額ではないはずだ。
「あら、お金が無くても契約はできるわよ」
「どういう事よ」
「たとえば、私とルイズとか」
「ぐ……い、いいのよ。使い魔とメイジは別なの!」
ルイズは言葉に詰まり、うろたえてしまう。
そんなルイズをベルは何か面白い物のように笑って見ている。
「じゃあ、そういうことにしましょう。で、私がシエスタとした契約はね、シエスタが私に仕える代わりに力を与えるって契約なの」
「力……?どういう事よ」
「どういう事もこういう事も、魔王の力ををちょっと分けてあげただけ」
「もっと具体的に言って」
「そうね。たとえば……冬でも凍えないわね」
「は?」
「空気のないところに行っても平気だし」
「え?」
「大気圏から落ちても痛いくらいで済むわ」
「大気圏て何よ」
「知らないの?」
「知らないわよ!」
ベルは小さいあごをちょっとだけ持ち上げて塔が見える窓の外を見る。
「あの塔、なんて言うの?」
「火の塔だけど」
「あのてっぺんから落ちても全然平気ね」
「え……?」
「これだけ恩恵を与えばれ十分でしょ?むしろ、雑用の代償としては大盤振る舞いの大安売りよ」
本当なら確かに大盤振る舞いだ。
だが、そんな不思議な恩恵などあるかどうか、とても疑わしい。
それに、この恩恵はまるで……
「異端や悪魔との契約じゃない?それって」
「あら」
ベルの笑顔が変わる。
今までの面白がっているような目ではない。
もっと、別の物だ。
「ようやくわかったの?最初から言ってたわよね。私は、魔王だって」
ルイズはベルのこの目があまり好きではない。
ルイズがまばたきをした瞬間にはベルの目あった底が知れないような色はもう消えている。
いつもの微笑みを口元にたたえ、ケーキを頬張っていた。
「自分を魔王と言ってるけど、そうやってると全然魔王らしくないわよね」
ベルが半分食べる間にルイズは1つ食べ終わって、2つめにフォークを突き刺している。
「そんなこと無いわよ。そうね、じゃあ証明してあげましょうか?」
「ここにいる生徒を皆殺しなんて言うのは冗談でも言わないでよ」
「わかってるわよ。もっと、別なこと。見てなさい」
そういうとベルは残りのケーキを一口で食べてしまう。
ふくれた頬をもごもご動かして飲み込むと、立ち上がって歩いていった。
ベルの行く先にいる生徒、あれはギーシュ・ド・グラモン。ルイズの同級生だ。
彼は今、これもルイズの同級生の男友達と話しているようだ。
少し耳を澄ませれば、何を話しているかとぎれとぎれだが何となくわかる。
女生徒の関係について、修飾詞をこれでもかとつけて話しているのだ。
そんなギーシュの側でベルは唐突に立ち止まり、これまた唐突にこんなことを言い出す。大声で。
「あの、ギーシュ様。昨日は、その……とても楽しかったです。今晩もよろしいですか?」
「は……?」
ギーシュは口をあんぐり開ける。
彼と話していた同級生達はざわめきだす。
それを無視してベルは続けた。大声で。
「私、あんなこと初めてで……それに、ギーシュ様は私だけだって……嬉しかったです」
口をぱくぱくさせるギーシュにさらにベルは熱っぽく大声で続けた。
「ギーシュ様」
それと同時にギーシュとベルを見ていた同級生達の輪が3つに分かれる。
1つの隙間から現れた女が底冷えするような声でギーシュを呼ぶ。
「ギーーシュ!!」
声の主はモンモランシーだ。
その声を聞いたギーシュはゴーレムのようにぎこちない動きでモンモランシーを見た。
そして、もう一つの隙間からも女性が現れる。
彼女は冷たい北風のような声でギーシュを呼んだ。
「ギーシュ様!」
こちらが誰か、ルイズは知らないが辺りのざわめきが彼女のプロフィールをしっかり周りに伝えている。
ケティという一年生らしい。
そこからはもう大変だ。
ギーシュは三人の女性に詰め寄られもはやあたふたするばかり。
「ま、待ってくれ。三人とも。僕は三股もかけた覚えはないんだ」
だが、そんな弁解など通す女性がいるだろうか。いや、いない。
「ギーシュ様、ミス・モンモランシーだけでなく……」
「そんな、私だけ、私だけって言ってくれたのに」
「一年生ばかりでなく、こんな子にまで!」
そして、ギーシュは徐々に壁際まで追い詰められ。
「ま、待ってくれ。待ってくれーーーー」
「どうだった?」
ギーシュの悲鳴が響き渡る中、ベルはどうやってあの輪の中から抜け出したのかわからないがルイズの前に戻ってきていた。
何か満足した顔でゆっくり新しい紅茶をティーカップにつぎ直し、その香りと味を堪能している。
「どうって……」
「あのギーシュって男を破滅させたでしょ?」
ルイズも紅茶をつぎ直す。その間もベルは話し続けていた。
「恋愛は専門外だったけど、あのくらいなら私でも簡単ね。そっちの専門家のフォルネーがやってたらあのギーシュって男の首は胴体と離れていることになってたでしょうけど」
ルイズは飲み終わってから口を開いた。
「ねえ、アレって魔王の所業と言うより、小悪魔的なことって言うんじゃない?」
「あら、わかった?」
2人は同時に深呼吸をする。
そして、これまた同時に立ち上がり、見つめ合い。
ルイズは杖をふった。
素早く動かしたベルの頭の横で爆発が起こる。
「避けるな!」
「避けるわよ!」
走り出すベル。
机を乗り越して追いかけるルイズ。
2人は食堂中を爆発をまき散らして走り回る。
「あなた、私をからかって楽しんでいるでしょ?」
「わかってたの?気づいてないと思ったのに」
「待ちなさい!このエセ魔王!ぽんこつ魔王!今すぐここで爆破してあげるわ」
「ぽんこつって言わないでよ!」
その後、2人は食堂どころか学校中をルイズの体力が尽きるまで走り回り、中庭に二桁に届くクレーターを作りまくったという。
「やっぱり。ルイズ、貴方の力はとても面白いわ。でもまだ弱い。貴方の本当の力はいつ見せてもらえるのかしら。そうしたら、世界でも貴方の物にしてあげるわ」
#navi(ナイトメイジ)
#navi(ナイトメイジ)
少々、いやかなり不機嫌なルイズは大股でのしのしと食堂に向けて歩いていた。
歩きながらルイズは考える。
どうしてこんなにいらついているのだろう、と。
まず最初は朝食に部屋を出た時だった。
キュルケとばったり出くわして使い魔自慢につきあわされてしまった。
それだけならまだいい。ほんとは良くないけど。
キュルケはこう言ったのだ。
「あなた、使い魔の召喚に失敗したの?」
召喚した使い魔がかなりアレなのは認めざるを得ないが、失敗したわけではない。
今いないだけなのだ。
朝に使用人を雇ってくると言って部屋を飛び出して以来戻ってきていないだけなのだ。
だからルイズは腹にイライラを溜めてここはぐっと我慢した。
次は、朝食の時だ。
使い魔といってもご飯を食べなければならない。
朝ご飯くらい食べに来るだろうと考えたルイズは、躾のために薄いスープと固いパンを用意して床に置いてやった。
ところが使い魔はいつになっても帰ってこない。
ルイズの思惑は見事に空振りに終わった。
でも、ここでわめき立てるのもみっともない。
だから、ルイズは腹にイライラを溜めてここはぐっと我慢した。
そして、ついさっき授業中。
その授業で担当のミス・シェヴルーズはこう言ったのだ。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね」
ところがルイズは使い魔をつれていない。
さんざん馬鹿にされてしまった。とくに、風邪っぴきのマリコルヌに。
おまけに、あまりに頭に来ていて、その後の練金の実技では教室丸ごと大爆破をしてしまった。
おかげで教室の片付けまですることになってしまった。
使い魔がいれば少しは楽になったと思うのだが、肝心の使い魔はいない。
ここで暴れても片付けに時間がかかるだけ。
だから、ルイズは腹にイライラを溜めてここはぐっと我慢した。
考えてみれば、どれもこれも使い魔のベルが原因だ。第三者から見ればかなり理不尽かも知れないが。
それでも、ご飯を食べればこのイライラも少しは収まるだろう。
ルイズは食堂の扉を力一杯開けた。
「あら、ルイズ。遅かったわね」
「……」
いた。
ここにいた。
何がいたって、ルイズの使い魔ベルことベール・ゼファーがいたのだ。
ルイズがいつも座る席に座って、優雅にお茶なんか飲んでいる。
実に優雅だ。そこら辺にいる貴族の子弟よりはずっと貴族に見えるのがまた腹立たしい。
ルイズは目をつり上げ、ベルの正面に座り机を叩いた。
「あなたここで何してるのよ!」
「何って、食後のお茶よ」
見たまんまである。
「私のご飯はどうしたの?」
「あ、それ?」
ベルは舌をぺろりと出す。
「食べちゃったわよ。全然来ないから、スープも冷めちゃったし」
「全部?」
「ええ、おいしかったわ。ごちそうさま」
「あ・な・た・ねーーーっ」
頭に来たルイズは顔を真っ赤にして机をばんばん叩く。
もっとも、丈夫な机はそれくらいでは揺るぎもしないが。
「遅くなったのはあなたのせいなのよ!それなのに、主のご飯を食べちゃうなんて!どういう使い魔よ!!」
「そうなの?」
「そうよ。あなたが私と来ていればあんな事やこんな事にはならなかったのよ!」
「何があったかは、よく分からないけど私は雑用係を探しに行ってたのよ。ルイズもわかってるでしょ」
ルイズはさらに顔を真っ赤にする。
今度は頭から湯気くらい噴きそうな勢いだ。
「じゃあ、その雑用係はどこにいるのよ。仕事も終わらないうちにのうのうと主のご飯を食べていたって言うんじゃないでしょうね」
「そんなはず無いじゃない。終わったわよ」
「だったら、その雑用係はどこにいるのよ。早く見せないさいよ」
「ちょっと待って」
ベルは顔を後ろに向けて後ろを見回す。
右を見回して、探している物がなかったのか今度は左後ろを見る。
「そろそろ来るはずよ……あ、来た来た」
何が来たのか。
ベルの視線をたどると、その先にいたのはケーキを乗せた銀のトレイを持ったこの学院のメイドだ。
名前は知らないが何度か見たことがある。
「私たちの身の回りの世話をしてくれるシエスタよ。シエスタ、ルイズに挨拶をして」
「はい。この度、ベール・ゼファー様の配下に加えていただきましたシエスタです。よろしくお願いします」
シエスタと言うメイドは挨拶をした後、ケーキをベルの前とルイズの前に置く。
ベルが
「ルイズは何も食べてないみたいだから、もう一つあげて」
と命令すると、当然のようにルイズの前のケーキを二つにする。
ルイズがベルとシエスタの2人を交互に見ているうちに、シエスタはケーキを配りに行ってしまった。
「ちょっと、どういう事よ」
ルイズはフォークを握りながら訪ねる。お腹が空いているので食べながら追求することにしたのだ。
「どういう事って、ああいう事よ。聞いてなかったの?」
「そうじゃなくて!」
ずだんとケーキを一等両断。
「あのメイド、この学院のメイドでしょ?学院のメイドにはね。生徒の身の回りの世話をするって仕事もあるの」
「……メイドがやってくれるのに私にやらせようとしたの?」
「使い魔なら当然なの!それより、これじゃあなたがやったことにならないじゃない!単にメイドに頼んだだけじゃない」
「ちがうわ。私はシエスタと契約したの。彼女が私たちの世話をするのは、学院の仕事だからじゃないわ。契約に基づいたことなのよ」
「契約?」
その言葉もベルが言うとかなり怪しげだ。
「どんな契約したのよ。あなたお金持ってないはずよね」
ベルを召喚したときには何も荷物は持ってなかった。もしお金を持っていたとしても大した金額ではないはずだ。
「あら、お金が無くても契約はできるわよ」
「どういう事よ」
「たとえば、私とルイズとか」
「ぐ……い、いいのよ。使い魔とメイジは別なの!」
ルイズは言葉に詰まり、うろたえてしまう。
そんなルイズをベルは何か面白い物のように笑って見ている。
「じゃあ、そういうことにしましょう。で、私がシエスタとした契約はね、シエスタが私に仕える代わりに力を与えるって契約なの」
「力……?どういう事よ」
「どういう事もこういう事も、魔王の力ををちょっと分けてあげただけ」
「もっと具体的に言って」
「そうね。たとえば……冬でも凍えないわね」
「は?」
「空気のないところに行っても平気だし」
「え?」
「大気圏から落ちても痛いくらいで済むわ」
「大気圏て何よ」
「知らないの?」
「知らないわよ!」
ベルは小さいあごをちょっとだけ持ち上げて塔が見える窓の外を見る。
「あの塔、なんて言うの?」
「火の塔だけど」
「あのてっぺんから落ちても全然平気ね」
「え……?」
「これだけ恩恵を与えばれ十分でしょ?むしろ、雑用の代償としては大盤振る舞いの大安売りよ」
本当なら確かに大盤振る舞いだ。
だが、そんな不思議な恩恵などあるかどうか、とても疑わしい。
それに、この恩恵はまるで……
「異端や悪魔との契約じゃない?それって」
「あら」
ベルの笑顔が変わる。
今までの面白がっているような目ではない。
もっと、別の物だ。
「ようやくわかったの?最初から言ってたわよね。私は、魔王だって」
ルイズはベルのこの目があまり好きではない。
ルイズがまばたきをした瞬間にはベルの目にあった底が知れないような色はもう消えている。
いつもの微笑みを口元にたたえ、ケーキを頬張っていた。
「自分を魔王と言ってるけど、そうやってると全然魔王らしくないわよね」
ベルが半分食べる間にルイズは1つ食べ終わって、2つめにフォークを突き刺している。
「そんなこと無いわよ。そうね、じゃあ証明してあげましょうか?」
「ここにいる生徒を皆殺しなんて言うのは冗談でも言わないでよ」
「わかってるわよ。もっと、別なこと。見てなさい」
そういうとベルは残りのケーキを一口で食べてしまう。
ふくれた頬をもごもご動かして飲み込むと、立ち上がって歩いていった。
ベルの行く先にいる生徒、あれはギーシュ・ド・グラモン。ルイズの同級生だ。
彼は今、これもルイズの同級生の男友達と話しているようだ。
少し耳を澄ませれば、何を話しているかとぎれとぎれだが何となくわかる。
女生徒との関係について、修飾詞をこれでもかとつけて話しているのだ。
そんなギーシュの側でベルは唐突に立ち止まり、これまた唐突にこんなことを言い出す。大声で。
「あの、ギーシュ様。昨日は、その……とても楽しかったです。今晩もよろしいですか?」
「は……?」
ギーシュは口をあんぐり開ける。
彼と話していた同級生達はざわめきだす。
それを無視してベルは続けた。大声で。
「私、あんなこと初めてで……それに、ギーシュ様は私だけだって……嬉しかったです」
口をぱくぱくさせるギーシュにさらにベルは熱っぽく大声で続けた。
「ギーシュ様」
それと同時にギーシュとベルを見ていた同級生達の輪が2つに分かれる。
1つの隙間から現れた女が底冷えするような声でギーシュを呼ぶ。
「ギーーシュ!!」
声の主はモンモランシーだ。
その声を聞いたギーシュはゴーレムのようにぎこちない動きでモンモランシーを見た。
そして、もう一つの隙間からも女性が現れる。
彼女は冷たい北風のような声でギーシュを呼んだ。
「ギーシュ様!」
こちらが誰かルイズは知らないが、辺りのざわめきが彼女のプロフィールをしっかり周りに伝えている。
ケティという一年生らしい。
そこからはもう大変だ。
ギーシュは三人の女性に詰め寄られ、もはやあたふたするばかり。
「ま、待ってくれ。三人とも。僕は三股もかけた覚えはないんだ」
だが、そんな弁解など通す女性がいるだろうか。いや、いない。
「ギーシュ様、ミス・モンモランシーだけでなく……」
「そんな、私だけ、私だけって言ってくれたのに」
「1年生ばかりでなく、こんな子にまで!」
そして、ギーシュは徐々に壁際まで追い詰められ。
「ま、待ってくれ。待ってくれーーーー」
「どうだった?」
ギーシュの悲鳴が響き渡る中、ベルはどうやってあの輪の中から抜け出したのかわからないがルイズの前に戻ってきていた。
何か満足した顔でゆっくり新しい紅茶をティーカップにつぎ直し、その香りと味を堪能している。
「どうって……」
「あのギーシュって男を破滅させたでしょ?」
ルイズも紅茶をつぎ直す。その間もベルは話し続けていた。
「恋愛は専門外だけど、あのくらいなら私でも簡単ね。そっちの専門家のフォルネーがやってたらあのギーシュって男の首は胴体と離れていることになってたでしょうけど」
ルイズは飲み終わってから口を開いた。
「ねえ、アレって魔王の所業と言うより、小悪魔的なことって言うんじゃない?」
「あら、わかった?」
2人は同時に深呼吸をする。
そして、これまた同時に立ち上がり、見つめ合い。
ルイズは杖をふった。
素早く動かしたベルの頭の横で爆発が起こる。
「避けるな!」
「避けるわよ!」
走り出すベル。
机を乗り越して追いかけるルイズ。
2人は食堂中を爆発をまき散らして走り回る。
「あなた、私をからかって楽しんでいるでしょ?」
「わかってたの?気づいてないと思ったのに」
「待ちなさい!このエセ魔王!ぽんこつ魔王!今すぐここで爆破してあげるわ」
「ぽんこつって言わないでよ!」
その後、2人は食堂どころか学校中をルイズの体力が尽きるまで走り回り、中庭に2桁に届くクレーターを作りまくったという。
「やっぱり。ルイズ、貴方の力はとても面白いわ。でもまだ弱い。貴方の本当の力はいつ見せてもらえるのかしら。そうしたら、世界でも貴方の物にしてあげるわ」
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