「使い魔の夢-1」(2007/08/07 (火) 21:46:12) の最新版変更点
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数十回目の失敗を経て光のゲートを潜り抜けてきたのは
「あんた誰?」
「お前こそ何なんだよ?」
車輪付きの鉄の馬に跨り、丸い兜を着けた若者だった。
使い魔の夢
ルイズは一目で理解した。この男は平民だ。
都上りしたての田舎者がするように周りをキョロキョロ。
風変わりな格好をしてはいるが
何処かの騎士様の真似事でもしていたのだろうか。
それにしても上に立つべき貴族の品性も教養の欠片も見当たらない。
こいつはハズレ。
「で、これは何、変わった形の馬ね?」
僅かな期待を胸に、男の跨っている馬に目を向ける。
生物だったらこの田舎者じゃなくてもこれと『契約』すればいい。
「バイクだ、馬じゃない」
「バイク?」
「こいつは生き物じゃない、乗り物だ」
車輪付きの鉄でできた木馬。生き物じゃない。『契約』できない。
残ってるのは田舎者の平民。結局ハズレ。
「平民を呼び出してどうするの?」
「さすがは『ゼロ』のルイズだ!」
何人かの生徒が笑いながら言った。
「ミスタ・コルベール!もう一度召喚させて下さい!」
「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。儀式を続けなさい」
ルイズは渋々、再び田舎者に目を向ける。
兜越しにみえる無愛想な表情が荒れた心をますますささくれ立たせる。
「その兜みたいなの、外してくれる?」
「何でだよ」
「いいから!」
ああもうじれったい。馬から引き離し、兜を引っぺがし、無理矢理唇を合わせる。
「っ、何しやがる!……ッ、ぐあぁっ!」
ルーンが田舎者の左手に刻まれていく。『契約』は上手くいったようだ。
というか、これ位はスムーズに行ってくれないと困る。
ミスタ・コルベールがその左手を覗き込む。
「ふむ、変わった形のルーンですな。そちらの乗り物も合わせて調べたい所ですが……
次の授業の時間が迫っています故、またの機会にしましょうか」
きびすを返すと、『フライ』で宙に浮いて学院へと飛んでいった。
残った生徒たちも一斉にそれに続く。
「おい、あいつ等、空飛んでったぞ」
「メイジなんだから空を飛んで当たり前でしょ」
平民の子供でも知ってる「フライ」の魔法も知らないなんて。
相当の田舎者らしく血の巡りも良くないようだ。
他の皆はちゃんとアタリを引いたのに
何で私だけこんなハズレなんだろう。
けど、嘆いていても何も変わらない。
この田舎者を使い魔として従えなければ、自分は進級すら危ういのだ。
「行くわよ……って、え?」
ルイズに背を向け『ばいく』とやらで去ろうとする男。
「じゃあな」
慌てて引き止る。
「何処行くのよ!」
「さぁな」
「ご主人様を置いてくつもり!?」
「知るか」
「行く当てはあるの!?」
男が足を止める。
「その様子だとここが何処とか、自分がどの方角からきたかもわからないんでしょ」
当てずっぽうで言ってみた言葉だが、図星だったようだ。
困惑の表情をしていることがわかる。何の考えもなしに行くつもりだったらしい。
「私なら一応あんたの寝床とか食事とかいろいろ出してあげられるから」
とかなんとか、生きてる脳細胞をフル活用して言葉を紡ぎ出す。
何で、貴族の自分が平民を口説くような真似をしないといけないんだか。
気がつけば夕方になっていた。
何とか男は事の次第を把握したらしい。
疲れた。呆れ果てた。
何回もの失敗を経て得た使い魔が
騎士の真似事をしてて、血の巡りが悪くて
ここまで言わないと自分の置かれた状況すら判らないなんて。
だけど、諦めるわけには行かない。
私には夢があるから。
誰にも笑われない立派なメイジになる夢が。
言葉を出し尽くした後、しばしの間が訪れた。
「あっちだな」
先に口を開いたのは男の方だった。
「え?」
「あの連中が行ったのと同じ方向に向かえばいいんだな」
男は、自分がしているのと同じような兜をルイズに手渡す。
「何、これ」
「被っとけ」
この頭全体を覆う丸い兜は「へるめっと」という名らしい。
男はルイズを自分の背中にしがみ付かせ、「ばいく」を走らせた。
「何よ、これ結構速いじゃない。風の魔法でも掛かってるの?」
「これはバイクだ、魔法なんて使っていない」
「じゃあ、これ何で動いてるのよ?」
「ガソリン」
「ハァ?何それ?」
やっぱりこいつは、こいつは……あれ?
「そういえばあんた、名前は?」
「俺か?」
「あんた以外に誰がいるのよ」
「俺は……」
バイクを止め、初めて男はルイズに向き合って答えた。
「乾巧だ」
数十回目の失敗を経て光のゲートを潜り抜けてきたのは
「あんた誰?」
「お前こそ何なんだよ?」
車輪付きの鉄の馬に跨り、丸い兜を着けた若者だった。
使い魔の夢
ルイズは一目で理解した。この男は平民だ。
都上りしたての田舎者がするように周りをキョロキョロ。
風変わりな格好をしてはいるが
何処かの騎士様の真似事でもしていたのだろうか。
それにしても上に立つべき貴族の品性も教養の欠片も見当たらない。
こいつはハズレ。
「で、これは何、変わった形の馬ね?」
僅かな期待を胸に、男の跨っている馬に目を向ける。
生物だったらこの田舎者じゃなくてもこれと『契約』すればいい。
「バイクだ、馬じゃない」
「バイク?」
「こいつは生き物じゃない、乗り物だ」
車輪付きの鉄でできた木馬。生き物じゃない。『契約』できない。
残ってるのは田舎者の平民。結局ハズレ。
「平民を呼び出してどうするの?」
「さすがは『ゼロ』のルイズだ!」
何人かの生徒が笑いながら言った。
「ミスタ・コルベール!もう一度召喚させて下さい!」
「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。儀式を続けなさい」
ルイズは渋々、再び男に目を向ける。
兜越しにみえる無愛想な表情が荒れた心をますますささくれ立たせる。
「その兜みたいなの、外してくれる?」
「何でだよ」
もどかしいったらありゃしない。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール」
馬から引き離し、
「五つの力を司るペンタゴン」
兜を引っぺがし、
「このものに祝福を与え、我の使い魔となせ」
無理矢理唇を合わせた。
「っ、何しやがる!……ッ、ぐあぁっ!」
ルーンが男の左手に刻まれていく。『契約』は上手くいったようだ。
というか、これ位はスムーズに行ってくれないと困る。
ミスタ・コルベールがその左手を覗き込む。
「ふむ、変わった形のルーンですな。そちらの乗り物も合わせて調べたい所ですが……
次の授業の時間が迫っています故、またの機会にしましょうか」
きびすを返すと、『フライ』で宙に浮いて学院へと飛んでいった。
残った生徒たちも一斉にそれに続く。
「おい、あいつ等、空飛んでったぞ」
「メイジなんだから空を飛んで当たり前でしょ」
平民の子供でも知ってる「フライ」の魔法も知らないなんて。
相当の田舎者らしく血の巡りも良くないようだ。
他の皆はちゃんとアタリを引いたのに
何で私だけこんなハズレなんだろう。
けど、嘆いていても何も変わらない。
この田舎者を使い魔として従えなければ、自分は進級すら危ういのだ。
「行くわよ……って、え?」
ルイズに背を向け『ばいく』とやらで去ろうとする男。
「じゃあな」
慌てて引き止る。
「何処行くのよ!」
「さぁな」
「ご主人様を置いてくつもり!?」
「知るか」
「行く当てはあるの!?」
男が足を止める。
「その様子だとここが何処とか、自分がどの方角からきたかもわからないんでしょ」
当てずっぽうで言ってみた言葉だが、図星だったようだ。
困惑の表情をしていることがわかる。何の考えもなしに行くつもりだったらしい。
「私なら一応あんたの寝床とか食事とかいろいろ出してあげられるから」
とかなんとか、生きてる脳細胞をフル活用して言葉を紡ぎ出す。
何で、貴族の自分が平民を口説くような真似をしないといけないんだか。
気がつけば夕方になっていた。
何とか男は事の次第を把握したらしい。
疲れた。呆れ果てた。
何回もの失敗を経て得た使い魔が
血の巡りがとことん悪い平民で、
ここまで言わないと自分の置かれた状況すら判らないなんて。
だけど、諦めるわけには行かない。
私には夢があるから。
誰にも笑われない立派なメイジになる夢が。
言葉を出し尽くした後、しばしの間が訪れた。
「あっちだな」
先に口を開いたのは男の方だった。
「え?」
「あの連中が行ったのと同じ方向に向かえばいいんだな」
男は、自分がしているのと同じような兜をルイズに手渡す。
「何、これ」
「被っとけ」
この頭全体を覆う丸い兜は「へるめっと」という名らしい。
男はルイズを自分の背中にしがみ付かせ、「ばいく」を走らせた。
「何よ、これ結構速いじゃない。風の魔法でも掛かってるの?」
「これはバイクだ、魔法なんて使っていない」
「じゃあ、これ何で動いてるのよ?」
「ガソリン」
「ハァ?何それ?」
やっぱりこいつは、こいつは……あれ?
「そういえばあんた、名前は?」
「俺か?」
「あんた以外に誰がいるのよ」
「俺は……」
バイクを止め、初めて男はルイズに向き合って答えた。
「乾巧だ」
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