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「ゼロのドリル 中篇」(2009/04/11 (土) 19:48:09) の最新版変更点
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三ヶ月後――。
「無理だ……勝てっこないっ!!」
総数七万のアルビオン軍を目の前にして、伝説のゴーレムであるカオガミ様の副操縦士になったギーシュはそう叫んでいた。
なぜギーシュが副操縦士になったのか。
それはルイズが自分の巨大な魔力を上手く調節できなかったからだ。
カオガミ様が傷ついたとき、ルイズは簡単な修復にも無駄な魔力を使っていた。それを見かねたコルベールが効率よく魔力を使えるよう、土のメイジを乗せれるように改造したのだ。ゴーレムのことで、土のメイジの右に出る者はいないから。
もっとも改造などと大げさな言い方をしているが、実際には三十メイルのゴーレムの胴体部分に穴を開けて人一人が座れるスペースを空けた程度だ。
「ちょ、ちょっと!! 男の癖に弱腰にならないでよ!」
自分が座る操縦席の下にいるギーシュに向かって、震える声でルイズは叫んだ。
アルビオンとの戦争でめざましい活躍を見せたカオガミ様のゴーレムは現在、アルビオンから撤退するトリステイン軍の殿を任されていた。
七万を前にして自分はただの一体。逃げることは許されない。なぜなら、これは死守命令。つなわち、命がけで守れと言う命令だ。
死んだらどうなるんだろう? 痛いのかな? 暗いのかな? ブリミル様の元に召されるのかな? 分からない、怖い。
操縦桿を持つ右手がガチガチと震える。ルイズは左手で右手首を握りしめて、無理矢理その震えを抑え込もうとした。
それから何度か深呼吸して、自分と同じように震えてるであろうギーシュに呼びかける。
「ギーシュ。私を信じなさい。あんたが信じる、私を信じなさい」
「君が信じる僕は? 君が信じる僕はないのか、ルイズ?」
「私たちはこんな所で負けないんだから」
「スルー!?」
ゼロのドリル 中編「あばよ、デル公」
そんな二人の会話を、ルイズが座る操縦席の後ろで聞いていた喋る剣、デルフリンガーが遮る。
「漫才もいーけどよ、嬢ちゃん。そろそろ敵の射程に入っちまうぜ、これ」
直後。目の前が真っ赤に燃え上がる。大きくゆれるカオガミ様。炎の魔法が直撃したのだ。
「ひ、ひぃ!」
ギーシュの口から悲鳴が零れる。作戦級の規模を想定した大がかりな魔法攻撃が直撃したのだ。現在のハルケギニアでこの炎を受けて生きている人間はいない。
そう、今回の戦争でカオガミ様が挙げた戦果は戦術レベルではなく、作戦レベルで考えなければならないほど大きかったのだ。
「こ、のぉ!」
炎を放ってきた魔術師隊に向けて拳を突き出す。距離にしておよそ数百メイル。パンチが届く距離ではない。
敵はカオガミ様の射程外から一方的に魔法を撃つ作戦のようだ。
しかしルイズは慌てず、魔力――と信じている"力"が拳に集まるイメージを固める。すると拳からドリルが出現。出現したドリルはそのまま拳を離れると、回転しながら敵の部隊へとぶっ飛んでいく。
大慌てで敵はドリルをかわす。地面に突っ込んだドリルは回転もそのままに、周りの土をえぐり取りながらアルビオン大陸を貫いた。
「よし、このまま遠距離から攻撃するんだルイズ!」
「そいつは賛成できねーなぁ」
「インテリジェンスソードは黙っていたまえ。僕はルイズに言っているんだ」
「なによ。ギーシュの癖に私に命令する気?」
「め、命令じゃないよ。提案だ」
ルイズは意識をゴーレムの背中につんだ風石へとやる。緑色の光が風石から溢れだして、カオガミ様の身体をフワリ――と、宙へ持ち上げる。
「お。嬢ちゃんは分かってるみたいだねぇ」
「ななな、何を考えているのかねルイズ。そうか! 空から攻撃するんだね! それなら更に敵から距離を稼げる!!!」
「突っ込むわよ! ギーシュ!!!!」
「ほ、本気かいルイズ!! ミス・ヴァリエール!!!!」
「ええ! 本気よ!!!!」
ルイズがゴーレムの片腕を丸ごとドリルに変える。するとギーシュは慌ててそのドリルをルイズの魔力を使って青銅へと錬金した。
巨大なドリルを尽きだしたまま、カオガミ様は一直線に敵の本陣へと突っ込んでいった。
遠距離からの差し合いでは数の差、そこからくるスタミナの差で負ける。それがルイズの判断であった。
ゆえに一見無謀とも思える中央突破を強行することにしたのだ。
「司令塔や指揮官を狙え」
敵陣の中に降り立ったルイズはデルフリンガーのアドバイスを聞くやいなや、即座に多くの兵に守られている貴族に狙いを定めた。
足下では土のメイジがゴーレムを錬金してただの土くれに戻そうとしている。
片手のドリルでそのメイジ達を薙ぎ払いながら、ルイズはひたすら司令塔を倒し続ける。
倒した指揮官の数が二十を超えた辺りで、土のメイジ達はルイズのゴーレムに対抗するために、数百人で力を合わせ同じ大きさのゴーレムを数体作り出した。
「ふはははは!! 見ろ、このゴーレムの数を!! たった一体で何が出来る!!」
どこかの誰かがそう叫ぶ。たまたま聞こえたその声に、ルイズは律儀に応えてやった。
「ふん。やってみせるわよ!!」
死への恐怖と、命より大切な誇り。その天秤を、力尽くで誇りに傾けるために、ルイズは叫んだ。
敵のゴーレムは軍人らしい連携のとれた動きでカオガミ様を包囲する。
包囲されたルイズは迅速に、迷わず、包囲したゴーレムの中の一体に飛びかかって思いっきり蹴っ飛ばした。
迷いのない動きにうろたえた他のゴーレムの動揺を見逃さず、続けてすぐ側にいたゴーレムを思いっきり殴りつける。
冷静さを取り戻した他のゴーレムが一斉に飛びかかってきたのを見るやいなや、ルイズは全身から高速で回転するドリルを生み出して全てのゴーレムを貫いた。
――いける!!
このまま押し切れば勝てる。
一瞬で全てのゴーレムを葬ったルイズを見て、敵の大部隊は恐怖に駆られて統率を失い始めていた。
勝機が見えてきたルイズの心に、ほんのわずかな隙が生まれた。
「油断すんねい嬢ちゃん!! "風"がくるぞ!!」
その一瞬の隙を突いた者がいた。
元トリステイン王国魔法衛士隊・グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
ルイズの元婚約者であり、今は――敵。
愛馬であるグリフォンに跨り、上空から一気にカオガミ様の、ルイズの操縦席めがけて急降下してきた。
どうやらこの戦いが始まってからずっと、ルイズ達の直上に控えてチャンスを待っていたらしい。
ワルドは落下の加速と風の魔法による加速、更に偏差による分身と鉄も切り裂くウィンドカッター。これら全てを使ってカオガミ様に突っ込んできた。
大きな音と衝撃が戦場に木霊した。
ワルドはこれだけの魔法を使った。これだけ使ってようやくルイズが座る操縦席を覆う装甲に、亀裂を一筋だけ入れることが出来た。
そして、風のメイジである閃光のワルドにしてみれば、この亀裂だけで十分だった。
小娘一人を葬るぐらい、この程度の亀裂があれば十分だったのだ。
「さよなら、僕のルイズ」
「ワ……ルドさま……」
亀裂からルイズに向かってエアカッターを唱える。
ルイズは咄嗟に魔法を吸収するデルフリンガーを盾にしようとした。
斬――と操縦席の中に音がなり、操縦席が真っ赤に染まる。
にやりと、ワルドの顔に笑みが浮かぶ。
間に合わなかった。
真空の刃は、エアカッターは、ルイズの脇腹を引き裂いていた。
胴体が真っ二つにならなかったのは、ギリギリで身体半分だけデルフリンガーを盾にすることが出来たから。
口からゴポリと血の塊を吐き出した。痛みでこぼれる涙で霞む瞳で、元婚約者の顔を見る。
ワルドはトドメのエアカッターを唱えようとしている。急いで振り払わなければいけないのに、手には力がこもらない。息は吐くばかりで、なぜか吸うことが出来なかった。
あ……そっか。私、死んじゃうんだ。
当然のようにそう覚悟して……操縦桿を握る手がルイズの意志を無視して動いた。
カオガミ様の手がへばりついていたワルドをはじき飛ばす。
「その傷でまだ動くか!」
吹き飛ばされたワルドの表情が驚愕でゆがむ。
血に染まった操縦席。そこに座るルイズの瞳からは、すでに光が消えていた。
けれど操縦桿を握る手にだけは、まるで本人の意志を無視しているかのように、不気味に力がこもっている。
「吸った魔力の分だけ、持ち主を動かすことが出来る力。どたんばで思い出したねぇ」
ルイズの片手に掴まれていたインテリジェンスソードがそう呟く。
「坊主! 嬢ちゃんがもたねぇ……退くぞ!!」
「なんだなんだ? なにかあったのかね?」
副操縦席にいたギーシュには何が起こっているのかサッパリ分からなかった。
状況の説明を求めるギーシュの言葉を無視して、デルフリンガーはルイズの身体を操作してカオガミ様を浮かばせると全速力で戦場を離脱した。
「なにをやっているんだい、ルイズ!? し、死守命令を無視するのか?」
「死守ならやったよ。嬢ちゃんはな、文字通り死ぬまで、よ」
カオガミ様の身体から急速に力が無くなり始めていた。ルイズの"力"が供給されなくなったせいで、もう動かなくなり始めていたのだ。
「あと使えるエネルギーは……これだけってわけかい? たまんねーな」
デルフリンガーはルイズの身体を操作するとカオガミ様にスピンオンされていたコアドリルを抜き取り、代わりに自分の刀身をその穴にそえる。
「……な……にを」
か細い声がした。
血まみれの少女の、死体と言っても過言ではないほどボロボロの少女の口が、ほんの少しだけ動いた。
「してる……の……デルフ」
「こーすんでい」
朦朧とゆれるルイズの瞳に見られている中で、デルフリンガーの刀身が緑色に輝き出す。
「覚えとけ嬢ちゃん。おめぇさんの使ってる力は魔力じゃねぇ、螺旋力ってんだ」
輝きが消えたとき、デルフリンガーの刀身はルイズにとって良く見慣れた、螺旋を描く突起物。ドリルとなっていた。
「俺がインテリジェンスソードであるために使っていた進化エネルギーを螺旋力に戻す! うけとれぇい、ルイズ!!」
そのままルイズの身体を操作して、デルフリンガーは自らのドリルをカオガミ様にスピンオンした。
サイズが違いすぎるせいで差し込み口を破壊してしまったが、ひび割れた隙間から溢れんばかりの光が零れだした。
そうして……デルフリンガーはルイズの目の前で光の粒子となって消えていく。
眩い光を全身から放ったカオガミ様は、そのまま戦場から猛スピードで離脱した。ワルドのグリフォンですらそのスピードには着いていくことが出来なかった。
真っ赤に染まった操縦席で、ルイズはぼんやりとデルフリンガーが消えた螺旋ゲージを眺めていた。
――お礼を言っておくね、デルフリンガー。一応、ここまで付き合わせたギーシュは無事にモンモランシーの元へ返してあげたかったから。
デルフリンガーの螺旋力も切れたカオガミ様は、しばらく飛び続けた後そのまま近くの森に墜落した。多くの木々をなぎ倒しながら、森の中で横たわる。
そのカオガミ様の操縦席の中で微笑みながら――ルイズは息絶えたのであった。
次回 後編 「天の光は、全て虚無」
#navi(ゼロのドリル)
三ヶ月後――。
「無理だ……勝てっこないっ!!」
総数七万のアルビオン軍を目の前にして、伝説のゴーレムであるカオガミ様の副操縦士になったギーシュはそう叫んでいた。
なぜギーシュが副操縦士になったのか。
それはルイズが自分の巨大な魔力を上手く調節できなかったからだ。
カオガミ様が傷ついたとき、ルイズは簡単な修復にも無駄な魔力を使っていた。それを見かねたコルベールが効率よく魔力を使えるよう、土のメイジを乗せれるように改造したのだ。ゴーレムのことで、土のメイジの右に出る者はいないから。
もっとも改造などと大げさな言い方をしているが、実際には三十メイルのゴーレムの胴体部分に穴を開けて人一人が座れるスペースを空けた程度だ。
「ちょ、ちょっと!! 男の癖に弱腰にならないでよ!」
自分が座る操縦席の下にいるギーシュに向かって、震える声でルイズは叫んだ。
アルビオンとの戦争でめざましい活躍を見せたカオガミ様のゴーレムは現在、アルビオンから撤退するトリステイン軍の殿を任されていた。
七万を前にして自分はただの一体。逃げることは許されない。なぜなら、これは死守命令。つなわち、命がけで守れと言う命令だ。
死んだらどうなるんだろう? 痛いのかな? 暗いのかな? ブリミル様の元に召されるのかな? 分からない、怖い。
操縦桿を持つ右手がガチガチと震える。ルイズは左手で右手首を握りしめて、無理矢理その震えを抑え込もうとした。
それから何度か深呼吸して、自分と同じように震えてるであろうギーシュに呼びかける。
「ギーシュ。私を信じなさい。あんたが信じる、私を信じなさい」
「君が信じる僕は? 君が信じる僕はないのか、ルイズ?」
「私たちはこんな所で負けないんだから」
「スルー!?」
ゼロのドリル 中編「あばよ、デル公」
そんな二人の会話を、ルイズが座る操縦席の後ろで聞いていた喋る剣、デルフリンガーが遮る。
「漫才もいーけどよ、嬢ちゃん。そろそろ敵の射程に入っちまうぜ、これ」
直後。目の前が真っ赤に燃え上がる。大きくゆれるカオガミ様。炎の魔法が直撃したのだ。
「ひ、ひぃ!」
ギーシュの口から悲鳴が零れる。作戦級の規模を想定した大がかりな魔法攻撃が直撃したのだ。現在のハルケギニアでこの炎を受けて生きている人間はいない。
そう、今回の戦争でカオガミ様が挙げた戦果は戦術レベルではなく、作戦レベルで考えなければならないほど大きかったのだ。
「こ、のぉ!」
炎を放ってきた魔術師隊に向けて拳を突き出す。距離にしておよそ数百メイル。パンチが届く距離ではない。
敵はカオガミ様の射程外から一方的に魔法を撃つ作戦のようだ。
しかしルイズは慌てず、魔力――と信じている"力"が拳に集まるイメージを固める。すると拳からドリルが出現。出現したドリルはそのまま拳を離れると、回転しながら敵の部隊へとぶっ飛んでいく。
大慌てで敵はドリルをかわす。地面に突っ込んだドリルは回転もそのままに、周りの土をえぐり取りながらアルビオン大陸を貫いた。
「よし、このまま遠距離から攻撃するんだルイズ!」
「そいつは賛成できねーなぁ」
「インテリジェンスソードは黙っていたまえ。僕はルイズに言っているんだ」
「なによ。ギーシュの癖に私に命令する気?」
「め、命令じゃないよ。提案だ」
ルイズは意識をゴーレムの背中につんだ風石へとやる。緑色の光が風石から溢れだして、カオガミ様の身体をフワリ――と、宙へ持ち上げる。
「お。嬢ちゃんは分かってるみたいだねぇ」
「ななな、何を考えているのかねルイズ。そうか! 空から攻撃するんだね! それなら更に敵から距離を稼げる!!!」
「突っ込むわよ! ギーシュ!!!!」
「ほ、本気かいルイズ!! ミス・ヴァリエール!!!!」
「ええ! 本気よ!!!!」
ルイズがゴーレムの片腕を丸ごとドリルに変える。するとギーシュは慌ててそのドリルをルイズの魔力を使って青銅へと錬金した。
巨大なドリルを尽きだしたまま、カオガミ様は一直線に敵の本陣へと突っ込んでいった。
遠距離からの差し合いでは数の差、そこからくるスタミナの差で負ける。それがルイズの判断であった。
ゆえに一見無謀とも思える中央突破を強行することにしたのだ。
「司令塔や指揮官を狙え」
敵陣の中に降り立ったルイズはデルフリンガーのアドバイスを聞くやいなや、即座に多くの兵に守られている貴族に狙いを定めた。
足下では土のメイジがゴーレムを錬金してただの土くれに戻そうとしている。
片手のドリルでそのメイジ達を薙ぎ払いながら、ルイズはひたすら司令塔を倒し続ける。
倒した指揮官の数が二十を超えた辺りで、土のメイジ達はルイズのゴーレムに対抗するために、数百人で力を合わせ同じ大きさのゴーレムを数体作り出した。
「ふはははは!! 見ろ、このゴーレムの数を!! たった一体で何が出来る!!」
どこかの誰かがそう叫ぶ。たまたま聞こえたその声に、ルイズは律儀に応えてやった。
「ふん。やってみせるわよ!!」
死への恐怖と、命より大切な誇り。その天秤を、力尽くで誇りに傾けるために、ルイズは叫んだ。
敵のゴーレムは軍人らしい連携のとれた動きでカオガミ様を包囲する。
包囲されたルイズは迅速に、迷わず、包囲したゴーレムの中の一体に飛びかかって思いっきり蹴っ飛ばした。
迷いのない動きにうろたえた他のゴーレムの動揺を見逃さず、続けてすぐ側にいたゴーレムを思いっきり殴りつける。
冷静さを取り戻した他のゴーレムが一斉に飛びかかってきたのを見るやいなや、ルイズは全身から高速で回転するドリルを生み出して全てのゴーレムを貫いた。
――いける!!
このまま押し切れば勝てる。
一瞬で全てのゴーレムを葬ったルイズを見て、敵の大部隊は恐怖に駆られて統率を失い始めていた。
勝機が見えてきたルイズの心に、ほんのわずかな隙が生まれた。
「油断すんねい嬢ちゃん!! "風"がくるぞ!!」
その一瞬の隙を突いた者がいた。
元トリステイン王国魔法衛士隊・グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
ルイズの元婚約者であり、今は――敵。
愛馬であるグリフォンに跨り、上空から一気にカオガミ様の、ルイズの操縦席めがけて急降下してきた。
どうやらこの戦いが始まってからずっと、ルイズ達の直上に控えてチャンスを待っていたらしい。
ワルドは落下の加速と風の魔法による加速、更に偏差による分身と鉄も切り裂くウィンドカッター。これら全てを使ってカオガミ様に突っ込んできた。
大きな音と衝撃が戦場に木霊した。
ワルドはこれだけの魔法を使った。これだけ使ってようやくルイズが座る操縦席を覆う装甲に、亀裂を一筋だけ入れることが出来た。
そして、風のメイジである閃光のワルドにしてみれば、この亀裂だけで十分だった。
小娘一人を葬るぐらい、この程度の亀裂があれば十分だったのだ。
「さよなら、僕のルイズ」
「ワ……ルドさま……」
亀裂からルイズに向かってエアカッターを唱える。
ルイズは咄嗟に魔法を吸収するデルフリンガーを盾にしようとした。
斬――と操縦席の中に音がなり、操縦席が真っ赤に染まる。
にやりと、ワルドの顔に笑みが浮かぶ。
間に合わなかった。
真空の刃は、エアカッターは、ルイズの脇腹を引き裂いていた。
胴体が真っ二つにならなかったのは、ギリギリで身体半分だけデルフリンガーを盾にすることが出来たから。
口からゴポリと血の塊を吐き出した。痛みでこぼれる涙で霞む瞳で、元婚約者の顔を見る。
ワルドはトドメのエアカッターを唱えようとしている。急いで振り払わなければいけないのに、手には力がこもらない。息は吐くばかりで、なぜか吸うことが出来なかった。
あ……そっか。私、死んじゃうんだ。
当然のようにそう覚悟して……操縦桿を握る手がルイズの意志を無視して動いた。
カオガミ様の手がへばりついていたワルドをはじき飛ばす。
「その傷でまだ動くか!」
吹き飛ばされたワルドの表情が驚愕でゆがむ。
血に染まった操縦席。そこに座るルイズの瞳からは、すでに光が消えていた。
けれど操縦桿を握る手にだけは、まるで本人の意志を無視しているかのように、不気味に力がこもっている。
「吸った魔力の分だけ、持ち主を動かすことが出来る力。どたんばで思い出したねぇ」
ルイズの片手に掴まれていたインテリジェンスソードがそう呟く。
「坊主! 嬢ちゃんがもたねぇ……退くぞ!!」
「なんだなんだ? なにかあったのかね?」
副操縦席にいたギーシュには何が起こっているのかサッパリ分からなかった。
状況の説明を求めるギーシュの言葉を無視して、デルフリンガーはルイズの身体を操作してカオガミ様を浮かばせると全速力で戦場を離脱した。
「なにをやっているんだい、ルイズ!? し、死守命令を無視するのか?」
「死守ならやったよ。嬢ちゃんはな、文字通り死ぬまで、よ」
カオガミ様の身体から急速に力が無くなり始めていた。ルイズの"力"が供給されなくなったせいで、もう動かなくなり始めていたのだ。
「あと使えるエネルギーは……これだけってわけかい? たまんねーな」
デルフリンガーはルイズの身体を操作するとカオガミ様にスピンオンされていたコアドリルを抜き取り、代わりに自分の刀身をその穴にそえる。
「……な……にを」
か細い声がした。
血まみれの少女の、死体と言っても過言ではないほどボロボロの少女の口が、ほんの少しだけ動いた。
「してる……の……デルフ」
「こーすんでい」
朦朧とゆれるルイズの瞳に見られている中で、デルフリンガーの刀身が緑色に輝き出す。
「覚えとけ嬢ちゃん。おめぇさんの使ってる力は魔力じゃねぇ、螺旋力ってんだ」
輝きが消えたとき、デルフリンガーの刀身はルイズにとって良く見慣れた、螺旋を描く突起物。ドリルとなっていた。
「俺がインテリジェンスソードであるために使っていた進化エネルギーを螺旋力に戻す! うけとれぇい、ルイズ!!」
そのままルイズの身体を操作して、デルフリンガーは自らのドリルをカオガミ様にスピンオンした。
サイズが違いすぎるせいで差し込み口を破壊してしまったが、ひび割れた隙間から溢れんばかりの光が零れだした。
そうして……デルフリンガーはルイズの目の前で光の粒子となって消えていく。
眩い光を全身から放ったカオガミ様は、そのまま戦場から猛スピードで離脱した。ワルドのグリフォンですらそのスピードには着いていくことが出来なかった。
真っ赤に染まった操縦席で、ルイズはぼんやりとデルフリンガーが消えた螺旋ゲージを眺めていた。
――お礼を言っておくね、デルフリンガー。一応、ここまで付き合わせたギーシュは無事にモンモランシーの元へ返してあげたかったから。
デルフリンガーの螺旋力も切れたカオガミ様は、しばらく飛び続けた後そのまま近くの森に墜落した。多くの木々をなぎ倒しながら、森の中で横たわる。
そのカオガミ様の操縦席の中で微笑みながら――ルイズは息絶えたのであった。
次回 後編 「天の光は、全て虚無」
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