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「ゼロのしもべ第2部-4」(2007/11/05 (月) 23:37:11) の最新版変更点
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その日、バビル2世たちはシエスタの実家に泊まることになった。村でも有数の長老であるショウタロウの一声で、一族郎党が
集結した上、貴族の客をお泊めするというので村長までが挨拶に来る騒ぎになった。
バビルたちはシエスタの家族に紹介された。ショウタロウはビッグ・ファイアなる名前を聞いて怪訝そうな顔をしたが、
「魔法使いのいる世界なので本名は隠してるんです」
と事情を説明し、山野浩一と名乗ると納得してくれた。
ショウタロウは上機嫌そのものであった。なにしろ数十年ぶりにあった同胞―――もはや二度と会うことはないだろうと思っていた
人間がついに目の前に現れたからだ。
戦後の政治から、風俗、外交、軍事と話題は枚挙に暇がなかった。もしバビル2世がバベルの塔でコンピューターに教えを受けて
いなければ、半分も答えることはできなかったろう。
「ほう、今は平成と元号が変わっているのか。」
そしてしみじみと、
「陛下はお隠れになったのだなぁ」
と呟いた。そして無理もない、あれから60年近くたっているのだから、と呟いた。
「ふむ。それではソビエトはけっきょく倒れたのかね?」
「弟の金田正太郎について何か知っていないかい?ふーむ、あの後無事だったのは知っているが、それからどうなったかは知らない、
か。」
「力道山が死んだ?刺されて?」
「GDP?国民総生産が世界1位、2位か。なるほど。」
「そうか、国民党が負けたか。」
「たなかかくえい?ふーむ。若手議員のリーダーとして、新聞に名前が載っていたような記憶はあるよ。」
「ほう、アジアはようやく独立したのか。ぼくの友人には馬賊の頭目になったのがいてね…」
「ベトナムとアメリカが戦争を?アメリカが負けた。ふーむ、やはりゲリラ戦しか方法はないのか。」
「廃墟弾事件か。そんな風に名前が残っているんだね。」
「日本人が大リーグに?職業野球が再開されていたが、見に行く機会はなかったからなぁ。」
「エネルギー危機、資源枯渇か…。錬金ができるこの世界を日本が知っていれば、あの戦争は起こるまいと思っていたが……。
未だに必要らしいね。」
延々とバビル2世からもとの世界の情報を仕入れようとするショウタロウ。まるで60年の空白を埋めるように。
その途中、ふと気づいたかのように「それで、今は皇紀…いや西暦何年だい?」と尋ねてきた。
答えると。「ふむ、それはおかしいな。数え間違いかな?」と首を捻っていた。
出された料理、ヨシェナベにもほとんどバビル2世は箸をつける暇がなかった。
「ヨシェナベなどと言ってるが、つまりは寄せ鍋さ。」
と言ってショウタロウは笑った。
「本当はすき焼きを作りたかったんだが、醤油と砂糖がね。」
砂糖は高価だし、現物があれば錬金もできるんだろうが大豆と麹菌が手に入らなくてね、とぼやいた。
「ねえ、ビッグ・ファイア。スキヤキってなに?」
とルイズが聞いてきた。
「牛や豚の肉を、野菜なんかといっしょに料理する、あまじょっぱい味のヨシェナベさ」
と説明すると、シエスタの家族は「ああ、どおりで大豆はないか大豆はないかって探していたのか。」と納得していた。
「大豆って何?」
と聞いてくるルイズたちに、豆の形状を説明するとキュルケが、
「あら、それならひょっとしたら手に入るかもしれないわ」
と言い出し、ショウタロウは飛びついた。この老人は、この年齢になって醤油の鋳造を始める気満々だ。
「スキヤキができたら、ぜひご馳走しよう。」
と嬉しそうに笑う姿が印象的であった。
翌日昼まで宴会は続いた。
夕方、もう出発しなければいけないという5人に、ショウタロウは奇妙な箱を見せてくれた。
大事に桐の箱に入れられ、固定化の魔法をかけらたそれは、鉄でできて金属の棒が2本延びている。
「これは…」
「リモコンだよ。鉄人28号の。」
ショウタロウはこのリモコンを、バビル2世に渡す腹積もりであった。
どうせ老い先短い命なら、同胞に鉄人を役立てて欲しい、と。
もともと飛行機は不時着し、懸命に直したもののガソリンはなくなって飛びたてなくなった。鉄人こそ無事だが、帰り道を見つける保証
はない。ならばここに来たのも天命と、諦めていた。だが、同胞がいるならば―――
「元の世界に帰るのに、是非役立てて欲しいんだ。」
草原が日の光できらきらと輝きながら、風で波打っている。まるで緑の大海原である。
老人は草原を手で示した。
「それに、わしはここに家族がいれば、畑仕事もある。それに帰ってももう母も父もいない。正太郎に会えない事だけが、唯一の気が
かりだが、もうお互い寿命だ。しかたがない。だが、もし生きて君が帰ることができたなら―――」
と手紙を渡された。
「これを正太郎か、家族に渡して欲しいんだ。」
そして空を見上げた。空には、薄ぼんやりと二つの月が浮かんでいる。白昼の残月であった。
かつて廃墟弾の爆発で、乗っていたゼロ戦と操っていた鉄人もろともこの世界に飛ばされた男は、その空の残月を指差した。
「もはやわしは元の世界ではあの残月のように薄ぼんやりとして、掻き消えそうな存在となっているだろう。ならばいっそのこと、
本当にわしのかつての二つ名、白昼の残月となるのも一興ではないか。そう思うんだ。」
そして改めて、リモコンを渡そうとする。
「どうだ、受け取ってくれ。」
バビル2世が、さすがに受け取りづらくどうしたものかと思案していると、
「待って、ひいおじいちゃん!」
とそれを制した声があった。
シエスタであった。
「ひいおじいちゃん、わたしに、鉄の巨人の使い方を教えて!」
いったい何を言い出すんだ、この女と皆がギョッとしていると。
「おじいちゃんが本当に空を飛んできたなんて、わたし信じてなかった。でも、ファイアさんも同じ国から来たって言うし、本当だった
んだって思った。信じてない自分が恥ずかしかった。血のつながった、ひ孫なのに……。」
拳をぎゅっと握り締めるシエスタ。
「わたしはひいおじいちゃんと同じ国から来たファイアさんと会ったのも、なにかの運命だと思う。なら、ファイアさんが国に帰るときに、
お手伝いをしてあげたい。鉄の巨人で、帰る手伝いをしたい!」
心の奥にどす黒いものが潜んでいそうなので、バビル2世は心を読むのをやめた。なんだか怖かったのだ。
だが、シエスタの一族は皆うんうんと頷いている。涙まで浮かべている。
「シエスタ、わかった。わかったよ、シエスタ。」
ショウタロウがシエスタを抱きしめる。
「浩一君。いや、ビッグ・ファイア君。すまないが、リモコンはこの子にあげることになった。前言を翻して済まない。」
代わりに、と言っては何だがとゼロ戦と鉄人の修理に使っていたものだと包みを渡された。中を見た。……まあ、なにかの役に立つ
かもしれない。リモコンを返す。シエスタの目が怪しく輝いた。
バビル2世は予知能力が「危険だ」と告げたのを感じていた。
だから、というわけではないが急いでシルフィードに乗り、ワルドと落ち合う場所を目指すことにした。
場所はラ・ロシェール一の宿屋、『女神の杵』亭。
「やあ、待っていたよ。」
宿に着くと一階の酒場でワルドが出迎えた。部屋を取っておいたから、休んでくればいい。と鍵を渡してくる。
キュルケとタバサが同部屋。バビル2世とギーシュが相部屋。そして、ワルドとルイズが同部屋であった。
「……ロリコン」
タバサがぼそっと呟く。トリステインでも有数強さを誇る貴族が激しいダメージを受けていた。
「ろ、ろり…ロリコ……」
床に倒れこんだワルドが、なんとか立ち上がる。
「そうじゃない、ルイズは婚約者だ。別におかしくないだろう!?」
真っ赤になって否定するワルド。逆に怪しく見えるから不思議だ。
「それに、ルイズに大事な話が…」
「ロリコンを受け入れてくれるかという告白かしら?」
「やめておいたほうがいいと思うよ。」
「……このロリコンどもめ」
ベアード様!ベアード様じゃないですか!
息も絶え絶えに、ロリコンが立ち上がった。先ほどまでの威厳はすっかりさっぱり消え去っている。
「こ、こうなったら……ビッグ・ファイア君、決闘だ!」
「……。」
「ワルド子爵、強引過ぎます」
さすがにギーシュまでがあきれ果てていた。
「いや、強引じゃない。つまり、だ、ここで部屋を賭けて2人で決闘しようと言っているのだ。使い魔のきみなら一緒の部屋で寝ても
構わない。わたしは別にルイズと一緒に寝ることにこだわっていないという証拠になる。違うか!?」
「……両刀」
タバサの追撃に腰から砕け落ちたワルド。もはや立ち上がる気力もなさそうだ。
ギーシュが怯えたように尻を押さえている。ルイズは……なぜか頬を染めていた。
「ち、違う。うぐ、ひっく、ひっく……」
とうとう泣き出してしまった。
「わかりました。決闘を引き受けましょう。」
さすがに同情したバビル2世が決闘をひきうけた。すると、あっというまに機嫌をワルドは取り戻し、
「ひきうけてくれるのか。ありがとう!感謝するよ。別に僕は両刀じゃない。だからそれも晴らしたい。」
しかしギーシュは怯えたままであった。
ぞろぞろとロリコンの後をついていくと、案内されたのはかつての閲兵場後だ。
当時の名残を示すものはほとんど残らず、ほぼ物置同然になっている。
バビル2世はデルフリンガーを無理矢理たたき起こして引き抜き、構えている。
ロリコンは杖を構えている。
「わ、ワルド子爵。くれぐれも手加減をしてください。」
ギーシュが慌てて言う。いくらビッグ・ファイアが強くても、さすがに魔法衛士に叶うはずがない。
まあでも、さすがに本気は出さないだろうとは思っているが。
ロリコンの杖はフェンシングの剣のように細身である。
ひゅっ、と風を切り裂き杖を振るってくる。
受け止め、流す。
飛び退き間合いを取る。
速い。剣の腕はジャキ並み。速度はそれ以上だ。
もっともジャキは不死身の肉体を前提とした相打ち戦法を得意としていたため、速度を必要としていなかったのだろうが、それでも
速い!
「魔法衛士隊のメイジは、ただ魔法を唱える訳じゃあない! 詠唱さえ戦いに特化されている。杖を構える仕草、突き出す動作。
杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」
「つまりこの動きのまま魔法を使ってくるということか。」
ああ、と頷くロリコン。どうしたこのまま防戦一方かい、と連続攻撃を仕掛けてくる。
「ふむ。ならば。」
と、置かれた荷物のほうに跳びこんだ。
そしてデルフリンガーを、一番下においてある樽につきたて、破壊した。
「なに!?」
走りながら一番下のみを連続で破壊していく。バランスを崩した荷物が、ロリコンめがけて倒れこんでくる。
しかし、すばやくロリコンは詠唱を行った。
「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……」
「相棒!いけねえ!魔法が来るぜ!」
バビル2世の前方の空気が歪んだ。
ボンッ!と空気が撥ね、巨大な空気のハンマーが樽ごとバビル2世を吹き飛ばす。
くるくるとネコのように回転しながら着地するバビル2世。
「ふむ。」とバラバラになった樽を見渡す。
「どうやら、ぼくの負けらしいな。」
「いや、引き分けだ。」ロリコンが答える。
「今、君が投げたこの金属製の…リベットかい?これは見事に僕の顔横10cmを通過していた。おそらく当てることができたのを、
わざと当てなかったんだろう。」
後ろの壁を杖で指す。壁に、リベットがめり込んでいた。
「さて、これでは部屋割りが決まらないな。」とロリコン。
「なら、最初の通り、ぼくとギーシュが同部屋、ルイズとロリコンが部屋割りでいいんじゃないかな?」とバビル2世。
「ええ、ロリコン子爵ならよもやヴァリエールと間違いはしないでしょう」とギーシュ。
「よかったわね、ルイズ。あなたがストライクゾーンの許婚で。」とキュルケ。
「わ、ワルド様……」なんというかうれしいのかそうでないのか微妙な表情のルイズ。
「犯罪…」とタバサ。
「きゅるきゅるー」いつの間にかシルフィード。
「がおおーん」グリフォン。
「……結局ロリコンで固定か。」
使い魔にまでロリコン認定されてへこむのだった。
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その日、バビル2世たちはシエスタの実家に泊まることになった。村でも有数の長老であるショウタロウの一声で、一族郎党が
集結した上、貴族の客をお泊めするというので村長までが挨拶に来る騒ぎになった。
バビルたちはシエスタの家族に紹介された。ショウタロウはビッグ・ファイアなる名前を聞いて怪訝そうな顔をしたが、
「魔法使いのいる世界なので本名は隠してるんです」
と事情を説明し、山野浩一と名乗ると納得してくれた。
ショウタロウは上機嫌そのものであった。なにしろ数十年ぶりにあった同胞―――もはや二度と会うことはないだろうと思っていた
人間がついに目の前に現れたからだ。
戦後の政治から、風俗、外交、軍事と話題は枚挙に暇がなかった。もしバビル2世がバベルの塔でコンピューターに教えを受けて
いなければ、半分も答えることはできなかったろう。
「ほう、今は平成と元号が変わっているのか。」
そしてしみじみと、
「陛下はお隠れになったのだなぁ」
と呟いた。そして無理もない、あれから60年近くたっているのだから、と呟いた。
「ふむ。それではソビエトはけっきょく倒れたのかね?」
「弟の金田正太郎について何か知っていないかい?ふーむ、あの後無事だったのは知っているが、それからどうなったかは知らない、
か。」
「力道山が死んだ?刺されて?」
「GDP?国民総生産が世界1位、2位か。なるほど。」
「そうか、国民党が負けたか。」
「たなかかくえい?ふーむ。若手議員のリーダーとして、新聞に名前が載っていたような記憶はあるよ。」
「ほう、アジアはようやく独立したのか。ぼくの友人には馬賊の頭目になったのがいてね…」
「ベトナムとアメリカが戦争を?アメリカが負けた。ふーむ、やはりゲリラ戦しか方法はないのか。」
「廃墟弾事件か。そんな風に名前が残っているんだね。」
「日本人が大リーグに?職業野球が再開されていたが、見に行く機会はなかったからなぁ。」
「エネルギー危機、資源枯渇か…。錬金ができるこの世界を日本が知っていれば、あの戦争は起こるまいと思っていたが……。
未だに必要らしいね。」
延々とバビル2世からもとの世界の情報を仕入れようとするショウタロウ。まるで60年の空白を埋めるように。
その途中、ふと気づいたかのように「それで、今は皇紀…いや西暦何年だい?」と尋ねてきた。
答えると。「ふむ、それはおかしいな。数え間違いかな?」と首を捻っていた。
出された料理、ヨシェナベにもほとんどバビル2世は箸をつける暇がなかった。
「ヨシェナベなどと言ってるが、つまりは寄せ鍋さ。」
と言ってショウタロウは笑った。
「本当はすき焼きを作りたかったんだが、醤油と砂糖がね。」
砂糖は高価だし、現物があれば錬金もできるんだろうが大豆と麹菌が手に入らなくてね、とぼやいた。
「ねえ、ビッグ・ファイア。スキヤキってなに?」
とルイズが聞いてきた。
「牛や豚の肉を、野菜なんかといっしょに料理する、あまじょっぱい味のヨシェナベさ」
と説明すると、シエスタの家族は「ああ、どおりで大豆はないか大豆はないかって探していたのか。」と納得していた。
「大豆って何?」
と聞いてくるルイズたちに、豆の形状を説明するとキュルケが、
「あら、それならひょっとしたら手に入るかもしれないわ」
と言い出し、ショウタロウは飛びついた。この老人は、この年齢になって醤油の鋳造を始める気満々だ。
「スキヤキができたら、ぜひご馳走しよう。」
と嬉しそうに笑う姿が印象的であった。
翌日昼まで宴会は続いた。
夕方、もう出発しなければいけないという5人に、ショウタロウは奇妙な箱を見せてくれた。
大事に桐の箱に入れられ、固定化の魔法をかけらたそれは、鉄でできて金属の棒が2本延びている。
「これは…」
「リモコンだよ。鉄人28号の。」
ショウタロウはこのリモコンを、バビル2世に渡す腹積もりであった。
どうせ老い先短い命なら、同胞に鉄人を役立てて欲しい、と。
もともと飛行機は不時着し、懸命に直したもののガソリンはなくなって飛びたてなくなった。鉄人こそ無事だが、帰り道を見つける保証
はない。ならばここに来たのも天命と、諦めていた。だが、同胞がいるならば―――
「元の世界に帰るのに、是非役立てて欲しいんだ。」
草原が日の光できらきらと輝きながら、風で波打っている。まるで緑の大海原である。
老人は草原を手で示した。
「それに、わしはここに家族がいれば、畑仕事もある。それに帰ってももう母も父もいない。正太郎に会えない事だけが、唯一の気が
かりだが、もうお互い寿命だ。しかたがない。だが、もし生きて君が帰ることができたなら―――」
と手紙を渡された。
「これを正太郎か、家族に渡して欲しいんだ。」
そして空を見上げた。空には、薄ぼんやりと二つの月が浮かんでいる。白昼の残月であった。
かつて廃墟弾の爆発で、乗っていたゼロ戦と操っていた鉄人もろともこの世界に飛ばされた男は、その空の残月を指差した。
「もはやわしは元の世界ではあの残月のように薄ぼんやりとして、掻き消えそうな存在となっているだろう。ならばいっそのこと、
本当にわしのかつての二つ名、白昼の残月となるのも一興ではないか。そう思うんだ。」
そして改めて、リモコンを渡そうとする。
「どうだ、受け取ってくれ。」
バビル2世が、さすがに受け取りづらくどうしたものかと思案していると、
「待って、ひいおじいちゃん!」
とそれを制した声があった。
シエスタであった。
「ひいおじいちゃん、わたしに、鉄の巨人の使い方を教えて!」
いったい何を言い出すんだ、この女と皆がギョッとしていると。
「おじいちゃんが本当に空を飛んできたなんて、わたし信じてなかった。でも、ファイアさんも同じ国から来たって言うし、本当だった
んだって思った。信じてない自分が恥ずかしかった。血のつながった、ひ孫なのに……。」
拳をぎゅっと握り締めるシエスタ。
「わたしはひいおじいちゃんと同じ国から来たファイアさんと会ったのも、なにかの運命だと思う。なら、ファイアさんが国に帰るときに、
お手伝いをしてあげたい。鉄の巨人で、帰る手伝いをしたい!」
心の奥にどす黒いものが潜んでいそうなので、バビル2世は心を読むのをやめた。なんだか怖かったのだ。
だが、シエスタの一族は皆うんうんと頷いている。涙まで浮かべている。
「シエスタ、わかった。わかったよ、シエスタ。」
ショウタロウがシエスタを抱きしめる。
「浩一君。いや、ビッグ・ファイア君。すまないが、リモコンはこの子にあげることになった。前言を翻して済まない。」
代わりに、と言っては何だがとゼロ戦と鉄人の修理に使っていたものだと包みを渡された。中を見た。……まあ、なにかの役に立つ
かもしれない。リモコンを返す。シエスタの目が怪しく輝いた。
バビル2世は予知能力が「危険だ」と告げたのを感じていた。
だから、というわけではないが急いでシルフィードに乗り、ワルドと落ち合う場所を目指すことにした。
場所はラ・ロシェール一の宿屋、『女神の杵』亭。
「やあ、待っていたよ。」
宿に着くと一階の酒場でワルドが出迎えた。部屋を取っておいたから、休んでくればいい。と鍵を渡してくる。
キュルケとタバサが同部屋。バビル2世とギーシュが相部屋。そして、ワルドとルイズが同部屋であった。
「……ロリコン」
タバサがぼそっと呟く。トリステインでも有数強さを誇る貴族が激しいダメージを受けていた。
「ろ、ろり…ロリコ……」
床に倒れこんだワルドが、なんとか立ち上がる。
「そうじゃない、ルイズは婚約者だ。別におかしくないだろう!?」
真っ赤になって否定するワルド。逆に怪しく見えるから不思議だ。
「それに、ルイズに大事な話が…」
「ロリコンを受け入れてくれるかという告白かしら?」
「やめておいたほうがいいと思うよ。」
「……このロリコンどもめ」
ベアード様!ベアード様じゃないですか!
息も絶え絶えに、ロリコンが立ち上がった。先ほどまでの威厳はすっかりさっぱり消え去っている。
「こ、こうなったら……ビッグ・ファイア君、決闘だ!」
「……。」
「ワルド子爵、強引過ぎます」
さすがにギーシュまでがあきれ果てていた。
「いや、強引じゃない。つまり、だ、ここで部屋を賭けて2人で決闘しようと言っているのだ。使い魔のきみなら一緒の部屋で寝ても
構わない。わたしは別にルイズと一緒に寝ることにこだわっていないという証拠になる。違うか!?」
「……両刀」
タバサの追撃に腰から砕け落ちたワルド。もはや立ち上がる気力もなさそうだ。
ギーシュが怯えたように尻を押さえている。ルイズは……なぜか頬を染めていた。
「ち、違う。うぐ、ひっく、ひっく……」
とうとう泣き出してしまった。
「わかりました。決闘を引き受けましょう。」
さすがに同情したバビル2世が決闘をひきうけた。すると、あっというまに機嫌をワルドは取り戻し、
「ひきうけてくれるのか。ありがとう!感謝するよ。別に僕は両刀じゃない。だからそれも晴らしたい。」
しかしギーシュは怯えたままであった。
ぞろぞろとロリコンの後をついていくと、案内されたのはかつての閲兵場後だ。
当時の名残を示すものはほとんど残らず、ほぼ物置同然になっている。
バビル2世はデルフリンガーを無理矢理たたき起こして引き抜き、構えている。
ロリコンは杖を構えている。
「わ、ワルド子爵。くれぐれも手加減をしてください。」
ギーシュが慌てて言う。いくらビッグ・ファイアが強くても、さすがに魔法衛士に叶うはずがない。
まあでも、さすがに本気は出さないだろうとは思っているが。
ロリコンの杖はフェンシングの剣のように細身である。
ひゅっ、と風を切り裂き杖を振るってくる。
受け止め、流す。
飛び退き間合いを取る。
速い。剣の腕はジャキ並み。速度はそれ以上だ。
もっともジャキは不死身の肉体を前提とした相打ち戦法を得意としていたため、速度を必要としていなかったのだろうが、それでも
速い!
「魔法衛士隊のメイジは、ただ魔法を唱える訳じゃあない! 詠唱さえ戦いに特化されている。杖を構える仕草、突き出す動作。
杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」
「つまりこの動きのまま魔法を使ってくるということか。」
ああ、と頷くロリコン。どうしたこのまま防戦一方かい、と連続攻撃を仕掛けてくる。
「ふむ。ならば。」
と、置かれた荷物のほうに跳びこんだ。
そしてデルフリンガーを、一番下においてある樽につきたて、破壊した。
「なに!?」
走りながら一番下のみを連続で破壊していく。バランスを崩した荷物が、ロリコンめがけて倒れこんでくる。
しかし、すばやくロリコンは詠唱を行った。
「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……」
「相棒!いけねえ!魔法が来るぜ!」
バビル2世の前方の空気が歪んだ。
ボンッ!と空気が撥ね、巨大な空気のハンマーが樽ごとバビル2世を吹き飛ばす。
くるくるとネコのように回転しながら着地するバビル2世。
「ふむ。」とバラバラになった樽を見渡す。
「どうやら、ぼくの負けらしいな。」
「いや、引き分けだ。」ロリコンが答える。
「今、君が投げたこの金属製の…リベットかい?これは見事に僕の顔横10cmを通過していた。おそらく当てることができたのを、
わざと当てなかったんだろう。」
後ろの壁を杖で指す。壁に、リベットがめり込んでいた。
「さて、これでは部屋割りが決まらないな。」とロリコン。
「なら、最初の通り、ぼくとギーシュが同部屋、ルイズとロリコンが部屋割りでいいんじゃないかな?」とバビル2世。
「ええ、ロリコン子爵ならよもやヴァリエールと間違いはしないでしょう」とギーシュ。
「よかったわね、ルイズ。あなたがストライクゾーンの許婚で。」とキュルケ。
「わ、ワルド様……」なんというかうれしいのかそうでないのか微妙な表情のルイズ。
「犯罪…」とタバサ。
「きゅるきゅるー」いつの間にかシルフィード。
「がおおーん」グリフォン。
「……結局ロリコンで固定か。」
使い魔にまでロリコン認定されてへこむのだった。
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