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「爆炎の使い魔-06」(2008/03/16 (日) 08:43:24) の最新版変更点
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ヴェストリの広場は魔法学院の西側にある広場である。西側にあるそこは、日中でも日があまり差さない場所のため、普段はあまり人もいない場所となっている。
しかし、本日はギーシュの決闘の噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れ返っていた。
「諸君!決闘だ!」
ギーシュが薔薇の造花を掲げると周りから歓声が上がる。
「ギーシュが決闘をするぞ!相手はルイズが召喚した、あの平民だ!」
そんな声に対して、ギーシュは腕を振っている。
ひとしきり歓声に対して応えた後、ヒロのほうを振り向いた。
ギーシュはヒロのほうをぐっと睨む、しかしヒロは目を瞑ったままで立っている。
「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてやろうじゃないか」
「・・・・」
何も言わないヒロ、その無言を怯えと受け取ったのだろう。ふふふ、と笑いながらと薔薇の花をいじっていた。
「さて、では始めるか」
「まて」
無言だったヒロが言葉を放つ。
「なにかね?」
「決闘だそうだが、何か明確なルールはあるのか?どうすれば勝ちになる?いや、違うな、どうすれば貴様は負けを認める?」
「何を言うのかと思えば・・そうだな。僕はメイジだ。メイジは杖がなければ魔法が使えないからね。僕の杖はこの薔薇だ。この薔薇を君が奪えたら勝ちにしよう。君が泣いて謝ればその時点で終了でもかまわないよ」
「わかった」
「こんなの見ようと思うなんて珍しいわね。タバサ」
「別に・・・」
広場にはあのキュルケもやってきていた。そしてその横には短い青髪の少女、名をタバサと言うようだ。
「まあ、なんとなく、普通の人間とは違う感じがするけど、所詮は平民でしょ?ギーシュには勝てないんじゃないかしら・・・」
「ただの平民ならそうかもしれない。けれど、何か変な感じがする」
「ふーん」
この戦いに、というよりヒロに何かを感じるタバサ。
キュルケはあまり興味がないようだった。
「よし、開始だ!」
ギーシュは言うないなや、薔薇の花を振った。
花びらが1枚宙に舞う。
すると甲冑を着た女戦士の人形が現れたのだった。
身長は人間と同じくらい、硬い金属製らしく陽の光を受けて、甲冑がきらめいていた。
(金属製のゴーレムか。サイズは人間とほぼ同等・・・さて・・・)
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。文句があるかい?」
「まさか」
「ふふん、いい覚悟だ。そうそう言い忘れていたね。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
言うが早いか、女戦士の形をしたゴーレムがヒロに向かって突進してきた。
ゴーレムの右の拳がうなりをあげて、ヒロの腹に放たれる。
ヒロはそれをなんなくかわす。次々と拳を突き出すゴーレム。それを紙一重で避けるヒロ。
「くくく、どうした?青銅のゴーレム。発想は悪くはないが、動きが単調すぎるな。操る物体の動きは、そのまま使い手のセンスが問われるものだがな」
悠々とゴーレムの攻撃をかわしながら、そんなことを言うヒロ。
「くっ。平民が調子に乗るなよ!」
ゴーレムの攻撃は休むことなく続いていく。しかし、ヒロにとってはこの程度の攻撃、避けることは造作もないことであった。
そんなことが10分ほど続いただろうか。
「おーい、ギーシュ。いつまで遊んでるんだ?」
「つまんないから早く終わらせろよ。ギーシュ」
攻撃する。かわす。の繰り返しに次第に退屈さを感じてきている生徒たちが野次を飛ばす。
(遊んでるんじゃない!本当に当たらないんだ。かすりすらしない!)
飛んでくる野次などどこ吹く風か、ギーシュは戦いに集中することで精一杯だった。
「あふ・・・粘るわねー・・・飽きてきちゃった。そりゃ平民にしちゃよくやるけど、避けるばっかりじゃねぇ」
退屈さが溜まってきたキュルケ。
「ねぇ、もう帰らない?」
「まだ、あの使い魔、全然疲れてない」
そして、突然動きを止めるヒロ。
「は、はははっ頑張ったようだが、避け続けるだけでは体力を消耗するだけだね。さすがにこれだけの時間動いていれば、そりゃ疲れもするだろう」
動きが止まったヒロを、ギーシュは疲労によるものだと判断したのだろう。ギーシュは笑い声を上げた。
その時、人ごみの中からルイズが飛び出してくる。
「ギーシュ!」
「ルイズじゃないか。悪いけど、君の使い魔をお借りしているよ」
「いい加減にして頂戴!大体、決闘は禁止されてるはずでしょ!?」
「決闘が禁止されているのは貴族同士の場合のみ、だけじゃないか。平民との決闘が禁止されてるなんて、そんな決まりごとはありはしないよ」
ルイズは言葉に詰まる。
「そ、それは・・・そんなこと、今までなかったからであって・・」
「ルイズ・・・」
ヒロがルイズの肩を掴む。
「ヒロ、決闘なんてやめなさいよ!貴方はせっかく呼び出した。初めての私の成功そのものなのよ!」
ヒロは困ったような笑みを浮かべる。
「おやおや、わが主人は心配性だな。だが、そこまで言われては、なおさらやめるわけにはいかぬな。不本意ではあるが、使い魔として呼び出された以上、期待に応えねば、私の名が廃ると言うものだ。そういうわけで少しは信用して下がっていろ」
「もう、知らないんだから!」
そう言って下がるルイズ。そんなルイズを見届けると、
「さて、ようやく体が温まってきたところだ。避けるのも飽きた」
「はっ減らず口もそこまでだ!行け!ワルキューレ!!」
ギーシュが杖を振ると、突進するワルキューレ。ヒロは動く気配がない。
(これで終わりだ!)
ギーシュは勝利を確信した。
ワルキューレに対し、ヒロは着ていたローブを翻す。そして、ヒロの姿がローブに隠れた。しかし、ワルキューレはかまわずに突っ込んでいく。
その時、ローブを突き破り、巨大な腕がワルキューレの胴体を掴んでいた。
学園長室に舞台は移る。
ミスタ・コルベールは、唾が飛ぶ勢いでオスマン氏に説明している。
ルイズが呼び出した平民の少女のこと、ルイズがその少女と『契約』した際に現れたルーン文字が・・
「始祖ブリミルの使い魔『ミョズニトニルン』に行き着いた。というわけじゃな?」
「そうなんです!あの少女の額に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ミョズニトニルン』に違いありません。従って、あの少女は契約したことによって『ミョズニトニルン』に覚醒した。と考えるべきです」
「ふむ、確かに同じルーンじゃな。しかし、それだけでその少女が『ミョズニトニルン』だと決め付けるのは、早計ではないかね?」
「そうかもしれません。ですが・・・」
すると、ドアがノックされた。
「誰じゃ?」
扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてきた。
「私です。オールド・オスマン」
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようです。一人はギーシュ・ド・グラモン」
「もう一人は?」
「それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の少女のようです」
オスマン氏とコルベールは、顔を見合わせ頷く。
「教師たちは『眠りの鐘』の使用許可を求めておりますが」
「アホか、たかが子供の喧嘩に秘宝を使うなんぞ、放っておきなさい」
「わかりました」
ミス・ロングビルの足音が遠ざかっていくのを確認すると、オスマン氏は杖を振る。
すると壁にかかった大きな鏡にヴェストリの広場の様子が映し出された。
「な、ななな、なんだそれは」
ギーシュはうめく。
「な、なによあの腕・・・」
ワルキューレの胴体を掴んでいた腕は、ルイズも初めて見る左手であった。
ワルキューレは空中に持ち上げられて、じたばたともがくが、ヒロの手は離そうとしない。
そして、ヒロは短く詠唱を終え、呟く。
「ファイア」
『ファイア』ネバーランドにおける火属性の魔法の1つである。ネバーランドでは、種族、職業にかかわらず魔法が使える。その中でも『ファイア』は火の属性の魔法の中でも初歩中の初歩。しかし、母親から火魔法の素質と父親から受け継いだ膨大な魔力。その2つを持ったヒロの左手か
ら放たれたソレは、とてつもない威力をもってワルキューレに襲い掛かった。
ヒロの炎を受けたワルキューレは、燃えることなく、熔けて地面にどろりと落ちた。
そんなワルキューレを見て、ギーシュは戦慄する。
「な、何だ今の!?」
「ま、まさか先住魔法!?」
周りの生徒たちも、平民だと思っていた少女がいきなり魔法を、しかも杖を無しで行使したことに驚きを隠せないでいた。
「先住魔法?残念ながら私が使うのは『普通』の魔法だ」
そう言うと、ギーシュの方を向くヒロ。
ギーシュは慌てて薔薇の杖を振る。花びらが舞うと、新たなゴーレムが6体現れた。最初に出した1体とこの6体をあわせた7体がギーシュの最大の武器である。最初に1体しか出さなかったのは、単純に侮っていたからである。
「全員でかかれ!ワルキューレ!」
6体中5体のゴーレムがヒロに踊りかかる。6体現れたゴーレムを見ても、ヒロは動じない。またも詠唱をワルキューレたちが来る前に終える。
「クリムゾンエッジ」
ワルキューレたちがヒロに触れようとした瞬間、ヒロの周りを炎の竜巻が舞う。その衝撃で5体いたワルキューレはばらばらになり、吹き飛んだ。
そして、ヒロはギーシュに向かって駆け出す。
「ワルキューレ!!」
最後の一体を盾にするギーシュ。しかし、ヒロの炎をまとった右足の蹴りで粉砕。さらに返す左足の踵でギーシュの顔面を蹴る。
「ギャッ」
顔を蹴られたギーシュは、吹っ飛んだ後地面に転がる。
眼前にヒロの顔が見え、やられる!と思って顔を抱える。すると、先ほどのワルキューレと同じように、ヒロの左腕はギーシュの胴体を掴み空中に持ち上げていた。
「な、な、な」
「さて、次はとっておきだ」
ギーシュは自分を掴んでいる腕が熱を帯びてきたことを感じる。そして、先ほど熔けた自分のゴーレムが脳裏に浮かんだ。
「わ、わかった!降参だ!参った!ごめんなさい!!」
なりふり構わず喚くギーシュ。
そんなギーシュを見て白けるヒロ。手を離すとギーシュは地面に落ちた。
ヒロはギーシュから離れ、歩き出す。
周りで見物していた生徒たちは、驚愕と畏怖の表情でヒロを見る。ルイズも怯えたような目でヒロを見ていた。
(まあ、しょうがないな・・・私は所詮魔族、こいつらから見れば化け物のようなものだ。しかし、ルイズにもついに見せてしまったからな。さて、今日からどうやって寝床を確保するか)
異様な視線で見られる中、ヒロはヴェストリの広場から出て行こうとするヒロ。そんなヒロを見ていたルイズはヒロに向かって駆け出した。
「ヒロ!」
そのままヒロの背中に抱きつくルイズ。
「ルイズ・・・」
「あ、あんた、ちゃんとギーシュに勝ったわね。やるじゃない。さすがは私の使い魔ね」
「ああ、私はルイズの使い魔だからな」
抱きつきながらも偉そうなルイズ。そんなルイズを見て笑みを浮かべるヒロ
「ね、ねえ、アンタのその左手・・・」
ヒロの左手を指すルイズ。
「ああ、この左手は、ちゃんと自分の腕だ」
「あんた、以前平民でも人間でもないって言ってたわよね」
「ん・・そのことか。まあ、長い話になるし、いずれ話す時がくる」
「そう、じゃあ話してくれるまで私、待つわ・・・立ったまんまで疲れたし、帰りましょう」
「そうだな・・」
そう言うと、ルイズとヒロは話しながらヴェストリの広場から出て行ったのであった。集まっていた生徒とギーシュを置き去りにして。
腰が抜けているのか、1人では立てないギーシュを数人の生徒たちが支える。
「い、一体彼女は何者なんだ・・・?」
ギーシュの呟きはこの場にいる全員の思いを代弁していた。
「す、すごいわね・・あの炎、私より扱いうまいじゃない・・ねぇタバサ、あんたならあの使い魔に勝てると思う?」
タバサはヒロが去った方を見つめながら呟く。
「やってみないとわからない」
オスマン氏とコルベールは秘宝『遠見の鏡』で一部始終を見終えると顔を見合わせた。
「オールド・オスマン、ギーシュは1番レベルの低い『ドット』のメイジですが、それでも、ただの平民に後れを取るとは到底思えません。そしてあの動き、あの魔法、あんな平民は見たことがありません!」
「そりゃ、あんな腕しておる平民はおらんじゃろうな。魔法も使っておったし」
オスマン氏のもっともな突っ込みに思わずたじろぐコルベール。しかしくじけない。
「し、しかし、彼女はおそらく『ミョズニトニルン』に違いありません!」
「とはいえのう・・・『ミョズニトニルン』とは『神の頭脳』と言われる使い魔じゃ、なんでもあらゆるマジックアイテムを使いこなすとか・・
マジックアイテムを持っていないようじゃから確かめようがないがのう」
「ともかく、これは一大事ですぞ。早速王室に報告して、指示を仰がないことには」
「それには及ばん」
「な、なぜですか?これほどの事実、世紀の大発見ですよ?」
「確かにな、しかし王室のボンクラ共に『ミョズニトニルン』・・伝説クラスのオモチャなんぞ与えてしまっては、すぐにでも戦になるじゃろう。
宮廷で暇をもてあましてる貴族ほど厄介なものはおらぬからな」
「なるほど、私が浅はかでした」
「この件はワシが預かる、他言無用じゃぞミズタ・コルベール」
オスマン氏が目を光らせる。
「は、はい。かしこまりました」
そういうとコルベールは、では失礼します。と学園長室から出て行った。
オスマン氏は戦っていたヒロの姿を思い出す。
(ふーむ・・・っていうか、ぶっちゃけあの使い魔、ワシより強くね?)
それぞれの思いが交錯する中、騒々しい1日は幕を閉じたのであった。
#navi(爆炎の使い魔)
ヴェストリの広場は魔法学院の西側にある広場である。西側にあるそこは、日中でも日があまり差さない場所のため、普段はあまり人もいない場所となっている。
しかし、本日はギーシュの決闘の噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れ返っていた。
「諸君!決闘だ!」
ギーシュが薔薇の造花を掲げると周りから歓声が上がる。
「ギーシュが決闘をするぞ!相手はルイズが召喚した、あの平民だ!」
そんな声に対して、ギーシュは腕を振っている。
ひとしきり歓声に対して応えた後、ヒロのほうを振り向いた。
ギーシュはヒロのほうをぐっと睨む、しかしヒロは目を瞑ったままで立っている。
「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてやろうじゃないか」
「・・・・」
何も言わないヒロ、その無言を怯えと受け取ったのだろう。ふふふ、と笑いながらと薔薇の花をいじっていた。
「さて、では始めるか」
「まて」
無言だったヒロが言葉を放つ。
「なにかね?」
「決闘だそうだが、何か明確なルールはあるのか?どうすれば勝ちになる?いや、違うな、どうすれば貴様は負けを認める?」
「何を言うのかと思えば・・そうだな。僕はメイジだ。メイジは杖がなければ魔法が使えないからね。僕の杖はこの薔薇だ。この薔薇を君が奪えたら勝ちにしよう。君が泣いて謝ればその時点で終了でもかまわないよ」
「わかった」
「こんなの見ようと思うなんて珍しいわね。タバサ」
「別に・・・」
広場にはあのキュルケもやってきていた。そしてその横には短い青髪の少女、名をタバサと言うようだ。
「まあ、なんとなく、普通の人間とは違う感じがするけど、所詮は平民でしょ?ギーシュには勝てないんじゃないかしら・・・」
「ただの平民ならそうかもしれない。けれど、何か変な感じがする」
「ふーん」
この戦いに、というよりヒロに何かを感じるタバサ。
キュルケはあまり興味がないようだった。
「よし、開始だ!」
ギーシュは言うないなや、薔薇の花を振った。
花びらが1枚宙に舞う。
すると甲冑を着た女戦士の人形が現れたのだった。
身長は人間と同じくらい、硬い金属製らしく陽の光を受けて、甲冑がきらめいていた。
(金属製のゴーレムか。サイズは人間とほぼ同等・・・さて・・・)
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。文句があるかい?」
「まさか」
「ふふん、いい覚悟だ。そうそう言い忘れていたね。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
言うが早いか、女戦士の形をしたゴーレムがヒロに向かって突進してきた。
ゴーレムの右の拳がうなりをあげて、ヒロの腹に放たれる。
ヒロはそれをなんなくかわす。次々と拳を突き出すゴーレム。それを紙一重で避けるヒロ。
「くくく、どうした?青銅のゴーレム。発想は悪くはないが、動きが単調すぎるな。操る物体の動きは、そのまま使い手のセンスが問われるものだがな」
悠々とゴーレムの攻撃をかわしながら、そんなことを言うヒロ。
「くっ。平民が調子に乗るなよ!」
ゴーレムの攻撃は休むことなく続いていく。しかし、ヒロにとってはこの程度の攻撃、避けることは造作もないことであった。
そんなことが10分ほど続いただろうか。
「おーい、ギーシュ。いつまで遊んでるんだ?」
「つまんないから早く終わらせろよ。ギーシュ」
攻撃する。かわす。の繰り返しに次第に退屈さを感じてきている生徒たちが野次を飛ばす。
(遊んでるんじゃない!本当に当たらないんだ。かすりすらしない!)
飛んでくる野次などどこ吹く風か、ギーシュは戦いに集中することで精一杯だった。
「あふ・・・粘るわねー・・・飽きてきちゃった。そりゃ平民にしちゃよくやるけど、避けるばっかりじゃねぇ」
退屈さが溜まってきたキュルケ。
「ねぇ、もう帰らない?」
「まだ、あの使い魔、全然疲れてない」
そして、突然動きを止めるヒロ。
「は、はははっ頑張ったようだが、避け続けるだけでは体力を消耗するだけだね。さすがにこれだけの時間動いていれば、そりゃ疲れもするだろう」
動きが止まったヒロを、ギーシュは疲労によるものだと判断したのだろう。ギーシュは笑い声を上げた。
その時、人ごみの中からルイズが飛び出してくる。
「ギーシュ!」
「ルイズじゃないか。悪いけど、君の使い魔をお借りしているよ」
「いい加減にして頂戴!大体、決闘は禁止されてるはずでしょ!?」
「決闘が禁止されているのは貴族同士の場合のみ、だけじゃないか。平民との決闘が禁止されてるなんて、そんな決まりごとはありはしないよ」
ルイズは言葉に詰まる。
「そ、それは・・・そんなこと、今までなかったからであって・・」
「ルイズ・・・」
ヒロがルイズの肩を掴む。
「ヒロ、決闘なんてやめなさいよ!貴方はせっかく呼び出した。初めての私の成功そのものなのよ!」
ヒロは困ったような笑みを浮かべる。
「おやおや、わが主人は心配性だな。だが、そこまで言われては、なおさらやめるわけにはいかぬな。不本意ではあるが、使い魔として呼び出された以上、期待に応えねば、私の名が廃ると言うものだ。そういうわけで少しは信用して下がっていろ」
「もう、知らないんだから!」
そう言って下がるルイズ。そんなルイズを見届けると、
「さて、ようやく体が温まってきたところだ。避けるのも飽きた」
「はっ減らず口もそこまでだ!行け!ワルキューレ!!」
ギーシュが杖を振ると、突進するワルキューレ。ヒロは動く気配がない。
(これで終わりだ!)
ギーシュは勝利を確信した。
ワルキューレに対し、ヒロは着ていたローブを翻す。そして、ヒロの姿がローブに隠れた。しかし、ワルキューレはかまわずに突っ込んでいく。
その時、ローブを突き破り、巨大な腕がワルキューレの胴体を掴んでいた。
学園長室に舞台は移る。
ミスタ・コルベールは、唾が飛ぶ勢いでオスマン氏に説明している。
ルイズが呼び出した平民の少女のこと、ルイズがその少女と『契約』した際に現れたルーン文字が・・
「始祖ブリミルの使い魔『ミョズニトニルン』に行き着いた。というわけじゃな?」
「そうなんです!あの少女の額に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ミョズニトニルン』に違いありません。従って、あの少女は契約したことによって『ミョズニトニルン』に覚醒した。と考えるべきです」
「ふむ、確かに同じルーンじゃな。しかし、それだけでその少女が『ミョズニトニルン』だと決め付けるのは、早計ではないかね?」
「そうかもしれません。ですが・・・」
すると、ドアがノックされた。
「誰じゃ?」
扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてきた。
「私です。オールド・オスマン」
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようです。一人はギーシュ・ド・グラモン」
「もう一人は?」
「それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の少女のようです」
オスマン氏とコルベールは、顔を見合わせ頷く。
「教師たちは『眠りの鐘』の使用許可を求めておりますが」
「アホか、たかが子供の喧嘩に秘宝を使うなんぞ、放っておきなさい」
「わかりました」
ミス・ロングビルの足音が遠ざかっていくのを確認すると、オスマン氏は杖を振る。
すると壁にかかった大きな鏡にヴェストリの広場の様子が映し出された。
「な、ななな、なんだそれは」
ギーシュはうめく。
「な、なによあの腕・・・」
ワルキューレの胴体を掴んでいた腕は、ルイズも初めて見る左手であった。
ワルキューレは空中に持ち上げられて、じたばたともがくが、ヒロの手は離そうとしない。
そして、ヒロは短く詠唱を終え、呟く。
「ファイア」
『ファイア』ネバーランドにおける火属性の魔法の1つである。ネバーランドでは、種族、職業にかかわらず魔法が使える。その中でも『ファイア』は火の属性の魔法の中でも初歩中の初歩。しかし、母親から火魔法の素質と父親から受け継いだ膨大な魔力。その2つを持ったヒロの左手か
ら放たれたソレは、とてつもない威力をもってワルキューレに襲い掛かった。
ヒロの炎を受けたワルキューレは、燃えることなく、熔けて地面にどろりと落ちた。
そんなワルキューレを見て、ギーシュは戦慄する。
「な、何だ今の!?」
「ま、まさか先住魔法!?」
周りの生徒たちも、平民だと思っていた少女がいきなり魔法を、しかも杖を無しで行使したことに驚きを隠せないでいた。
「先住魔法?残念ながら私が使うのは『普通』の魔法だ」
そう言うと、ギーシュの方を向くヒロ。
ギーシュは慌てて薔薇の杖を振る。花びらが舞うと、新たなゴーレムが6体現れた。最初に出した1体とこの6体をあわせた7体がギーシュの最大の武器である。最初に1体しか出さなかったのは、単純に侮っていたからである。
「全員でかかれ!ワルキューレ!」
6体中5体のゴーレムがヒロに踊りかかる。6体現れたゴーレムを見ても、ヒロは動じない。またも詠唱をワルキューレたちが来る前に終える。
「クリムゾンエッジ」
ワルキューレたちがヒロに触れようとした瞬間、ヒロの周りを炎の竜巻が舞う。その衝撃で5体いたワルキューレはばらばらになり、吹き飛んだ。
そして、ヒロはギーシュに向かって駆け出す。
「ワルキューレ!!」
最後の一体を盾にするギーシュ。しかし、ヒロの炎をまとった右足の蹴りで粉砕。さらに返す左足の踵でギーシュの顔面を蹴る。
「ギャッ」
顔を蹴られたギーシュは、吹っ飛んだ後地面に転がる。
眼前にヒロの顔が見え、やられる!と思って顔を抱える。すると、先ほどのワルキューレと同じように、ヒロの左腕はギーシュの胴体を掴み空中に持ち上げていた。
「な、な、な」
「さて、次はとっておきだ」
ギーシュは自分を掴んでいる腕が熱を帯びてきたことを感じる。そして、先ほど熔けた自分のゴーレムが脳裏に浮かんだ。
「わ、わかった!降参だ!参った!ごめんなさい!!」
なりふり構わず喚くギーシュ。
そんなギーシュを見て白けるヒロ。手を離すとギーシュは地面に落ちた。
ヒロはギーシュから離れ、歩き出す。
周りで見物していた生徒たちは、驚愕と畏怖の表情でヒロを見る。ルイズも怯えたような目でヒロを見ていた。
(まあ、しょうがないな・・・私は所詮魔族、こいつらから見れば化け物のようなものだ。しかし、ルイズにもついに見せてしまったからな。さて、今日からどうやって寝床を確保するか)
異様な視線で見られる中、ヒロはヴェストリの広場から出て行こうとするヒロ。そんなヒロを見ていたルイズはヒロに向かって駆け出した。
「ヒロ!」
そのままヒロの背中に抱きつくルイズ。
「ルイズ・・・」
「あ、あんた、ちゃんとギーシュに勝ったわね。やるじゃない。さすがは私の使い魔ね」
「ああ、私はルイズの使い魔だからな」
抱きつきながらも偉そうなルイズ。そんなルイズを見て笑みを浮かべるヒロ
「ね、ねえ、アンタのその左手・・・」
ヒロの左手を指すルイズ。
「ああ、この左手は、ちゃんと自分の腕だ」
「あんた、以前平民でも人間でもないって言ってたわよね」
「ん・・そのことか。まあ、長い話になるし、いずれ話す時がくる」
「そう、じゃあ話してくれるまで私、待つわ・・・立ったまんまで疲れたし、帰りましょう」
「そうだな・・」
そう言うと、ルイズとヒロは話しながらヴェストリの広場から出て行ったのであった。集まっていた生徒とギーシュを置き去りにして。
腰が抜けているのか、1人では立てないギーシュを数人の生徒たちが支える。
「い、一体彼女は何者なんだ・・・?」
ギーシュの呟きはこの場にいる全員の思いを代弁していた。
「す、すごいわね・・あの炎、私より扱いうまいじゃない・・ねぇタバサ、あんたならあの使い魔に勝てると思う?」
タバサはヒロが去った方を見つめながら呟く。
「やってみないとわからない」
オスマン氏とコルベールは秘宝『遠見の鏡』で一部始終を見終えると顔を見合わせた。
「オールド・オスマン、ギーシュは1番レベルの低い『ドット』のメイジですが、それでも、ただの平民に後れを取るとは到底思えません。そしてあの動き、あの魔法、あんな平民は見たことがありません!」
「そりゃ、あんな腕しておる平民はおらんじゃろうな。魔法も使っておったし」
オスマン氏のもっともな突っ込みに思わずたじろぐコルベール。しかしくじけない。
「し、しかし、彼女はおそらく『ミョズニトニルン』に違いありません!」
「とはいえのう・・・『ミョズニトニルン』とは『神の頭脳』と言われる使い魔じゃ、なんでもあらゆるマジックアイテムを使いこなすとか・・
マジックアイテムを持っていないようじゃから確かめようがないがのう」
「ともかく、これは一大事ですぞ。早速王室に報告して、指示を仰がないことには」
「それには及ばん」
「な、なぜですか?これほどの事実、世紀の大発見ですよ?」
「確かにな、しかし王室のボンクラ共に『ミョズニトニルン』・・伝説クラスのオモチャなんぞ与えてしまっては、すぐにでも戦になるじゃろう。
宮廷で暇をもてあましてる貴族ほど厄介なものはおらぬからな」
「なるほど、私が浅はかでした」
「この件はワシが預かる、他言無用じゃぞミズタ・コルベール」
オスマン氏が目を光らせる。
「は、はい。かしこまりました」
そういうとコルベールは、では失礼します。と学園長室から出て行った。
オスマン氏は戦っていたヒロの姿を思い出す。
(ふーむ・・・っていうか、ぶっちゃけあの使い魔、ワシより強くね?)
それぞれの思いが交錯する中、騒々しい1日は幕を閉じたのであった。
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