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「ゼロの機神 ギガンティック・ゼロ-01」(2007/11/12 (月) 00:25:28) の最新版変更点
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消えゆく命の中、「彼」は思考した。反芻した。
きっとそれは年頃の子供が抱く「目上の人間に対する劣等感」みたいなモノで、一時的なモノだったのかも知れない。
自分はゼウスによって作り出され、捨て石となるために生まれた。
アレスを滅ぼすための先触れ。
つまり、自らには「死」の運命が確定する。
彼は捨て石である故に、感情は持っていなかった。自らを起動しようとする人間を全て抹殺し、日々を過ごしていた。
自分に流れ込む人間達の意志は、無意味な記号でしかなかった。彼を道具としか認識しない彼らの感情など、雑音に等しかった。
だが、ある日それが変わった。
ある時、とても軍人とは思えない少年少女が、彼に乗り込んできた。今まで触れたことのない少年少女の若い感性は、彼を刺激した。それはもともとゼウスの一部であった彼を、覚醒させるのに十分であった。
不安、喜び、憤り、悲しみ。
ある時彼らは、彼に語りかけてきた。彼を「モノ」としてでなく、「彼」として認識した人間は、彼らが初めてであった。
彼は少年少女に、親しみを覚えた。そして、交流を図ろうとした。だが、皮肉にも彼が少年少女と深く繋がるごとに、彼らの体は蝕まれた。
彼は悲しんだ。
----------カナ。マサヒト。
彼は、この矛盾に激怒した。
そして、自らに死の運命を与えたゼウスに、激怒した。
そして、この運命を生み出す元凶となったアレスに、激怒した。
それらは無垢な彼を怒りに染めるのに十分なパワーを持ち、そしてその怒りは単純なゼウスへの憎悪に変じた。
やがて、彼は少年少女を道具のように扱うようになった。深く自らの根を下ろし、自分の手足とした。
ゼウスへの復讐だけが、彼を突き動かすようになった。
思えば、あの時あの戦いを静観していれば、何も起こらずにすんだのかもしれない。スサノヲはジュピターに破壊され、彼は役目を終えて解体される。それだけのことですんだのかもしれない。
だが、ゼウスへの憎悪が勝った。
ジュピターの頭部を握りつぶした時、復習を満たした満足感と共に、虚ろなものと、もう戻れない、という自責の念が流れ込んできた。
コドモの劣等感は異常な程肥大化し、ついには他人を巻き込んだ。ここで戻ることは出来ない。そして彼は、もう一人の憎悪の根源、アレスにその剣を向けた。世界の新生を謳って。
負けることは許されない。
例えそれで何も得るものが、なかったとしても。
彼は剣を抜いた。
思えばあの時から、アレスの剣に自らの命が絶たれることを、望んでいたのかもしれない。
走馬灯のように逆再生された記憶が途切れる。
景色が白く霞んでいく。
俺は、あんなことがしたかったんじゃない
コピーという烙印を押されるのが嫌だっただけ
劣化複製として死にたくなかっただけ
アレスの代用品と
ゼウスの代用品と
いわれたくなかっただけ。
不意に景色が黒く暗転した。それと同時に、目の前で剣を掲げるアレスの姿もまた、消えた。周囲のいっさいは消失し、彼は無に放り出された。
どこが手で、どこが足なのか、わからない。わずかに生きる視覚を総動員し、状況を、把握しようとする。だが、わからない。何もかもが、わからない。
-------ここが、地獄なのか?
-------ちがうよ。
声。その声は、厳格な老人の声にも、妖艶な女性の声にも、無垢な子供の声にも、しわがれた老婆の声にも聞こえた。
-------君は必要とされている。まだ、誰かに
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、銀色の視界が開け、彼の意識は失われた。
何十回目かのサモン・サーヴァントは、成功した。沸き上がる魔力の奔流。風は周囲の物体を吹き飛ばすばかりの勢いで荒れ狂った。そして、数秒のうちに止んだ。
ルイズは儀式は成功した、と確信する。間違いはない(ハズだ)。この手からほとばしり、杖に至り、その先端から大気へと放出される魔力を、感じ取れた(気がする)。
今の自分なら、きっと神とて一撃で打ち倒せるだろう。そうおもえるほどの高揚感が、今の彼女を満たしていた。
「……来た、私の使い魔が」
煙が晴れる。ゴーレムか。飛竜か。それとも亜人か。ルイズの期待は高まる。
煙の向こうに見える使い魔の姿を、ルイズは想像した。そしてそれを従える自らの姿も。
サイッコーの使い魔とサイッコーのアタシが、今に学園のトップになってやる。
そして、煙が晴れる。
煙の向こうに見えたのは、石像だった。
しかも、頭だけの。
「………」
ルイズも、周囲の人間も、言葉を失う。それがただの頭なら、即刻周囲の生徒はルイズを笑い飛ばしたことだろう。だが、それはただの頭ではなかった。
大きい。
それの全高は、軽く2メートルを超えている。小さなルイズからしてみれば、さらに巨大に見えたことだろう。
「…なにこれ」
アーティファクトの類だろうか。ルイズはゆっくりとそれに近づいていく。周囲は押し黙ったままだ。頭は動かない。
ルイズは近づく。頭は動かない。ルイズはさらに近づく。頭は動かない。ルイズはそれに、手を触れようとした-------
「危ない!」
誰が叫んだのか。途端に、石像の目が光った。ルイズは突然の事態の急変に、腰を抜かして座り込んでしまった。赤い輝きが、石像の目からほとばしる。
一部の生徒は既に逃げの体勢に入っている。場の空気は緊張から危険へと変じた。
「え、え、えぇぇぇええ!?」
だがルイズは動けない。目の前の石像の動向を、見守ることしか出来ないのだ。石像は動かないが、目の光は止まず、真昼よりも明るくその場を真紅に染めた。
だが、それだけだった。光は次第に収束し、灯った時と同様、また静かに消えていく。ルイズも、周囲も安堵した。
「……ほっ」
ルイズが息をついた瞬間。事態は再び急変する。石像から触手が伸びた。黄緑色に輝く触手。触手は石像の上で、絡まるように暴れた。
「下がりなさい!」
儀式の監督に当たっていたコルベールが、生徒達の前に踊りでて、自らの杖を構える。これは使い魔と呼ぶに相応しくない、単なる魔物だと判断したのか。既に詠唱を始めている。
だが、触手の主はこれに気付いたのか、頭上で暴れていた触手は突如規則的な動きに変じ、コルベールの杖を叩き落とした。
さらに触手は向きを変えて伸びる。先ほどまで無秩序に暴れていた触手が、一方向へと、加速する。ルイズはその触手の行く先を見やった。
観衆のほうに向かっている。その方向に集まっていた生徒達の一部は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。触手はこれを個別に追った。生徒の悲鳴が響き渡る。
その追われる生徒の一人があしをもつれさせ、派手に転んだ。
「モンモランシー!」
その少女は、立てロールの髪を何本もさげ、いかにも「貴族」と言ったカンジの少女だった。そのモンモランシーに触手が迫る。
一方のモンモランシーは恐怖に顔を引きつらせ、杖を構えることすらままならない。触手は速度を緩めることなくモンモランシーに到達した。
「いっ、いや、ひやぁあああああっ!!?」
昼間の学園に響き渡るモンモランシーの悲鳴。触手はモンモランシーに吸い込まれるようにして内側へと侵入し、消えた。
同時に他の触手が消失し、モンモランシーは弓なりにビクビクと痙攣して震えている。依然顔は恐怖で固まったままだ。
前代未聞の事態に、コルベールもうかつに手を出せずに固まっている。足腰の調子が戻ったルイズは立ち上がると、石像を仰ぎ見る。
「あんたが…あんたがやったの!?」
その声とほぼ同時に、病気の発作のように震えるモンモランシーの動きが止まり、モンモランシーはがくりとたおれこんだが、緩慢な動作ですぐに立ち上がった。
だが、その顔はうつむき、無表情で固まっている。
「な、直ったのか?」
生徒の一部が彼女に語りかけるが、彼女は反応を返さない。うつむいたまま、固まっている。見かねたコルベールが彼女に近づき、肩を揺すった。
「大丈夫ですか?」
何度か肩を揺すられるモンモランシー。だが、顔はうつむいたままで反応は全くない。コルベールは再び揺すった。
「返事を返しなさい」
『…うるさい』
モンモランシーは、声を発した。
だが、それはそこにいる人間が知っているモンモランシーの声ではなかった。どす黒い、邪気に満ちた声。
まるで、ファンタジーに登場する魔王のような。モンモランシーはコルベールの腕を振り払うと、コルベールが反応するより早く、掌底をコルベールに叩き込んだ。
コルベールは凄まじい勢いで吹き飛び、3メートル程空中を舞った。心配した生徒がコルベールに駆け寄る。
この時、ほとんどの生徒の視線は、当然ながらそのモンモランシー…否、「モンモランシーかどうか疑わしい何か」に向けられている。
驚愕で動けない、というのもあるが、やはりそうさせるのは、恐いもの見たさなのだろうか。モンモランシーは、次にルイズを指差した。
「…わたし?」
『俺を呼んだのは、お前か』
「そ、そうよ。わたしがあんたを呼んだのよ。あんたはわたしの使い魔なんだから、わたしの言うことを聞きなさい」
ルイズは精一杯の威厳を混めて言い放った。だが、それはこの場では逆効果だった。
『ふざけるな…』
トーンの低い声でモンモランシーは言った。怒気がこもっている。怒気を通り越して、殺気の域にまで来ているかもしれない。
困惑するルイズを尻目に、モンモランシーは右手をスッ、と天にかざした。途端、モンモランシーの腕から先ほどモンモランシーを襲った触手のようなものが数本のび、モンモランシーの掌の上で収束した。
形態を失い、一個の個体に変じた触手は、一本の剣となり、モンモランシーの手の中に収まる。鈍い輝きを放つ剣は、殺意の証。
『死人をおいそれと起こすな』
どんっ。
モンモランシーが踏み込んだ。まるで彼女とは思えない。達人の域にまで達したその動作はルイズに身構える暇を与えない。
わずか4歩で、モンモランシーはルイズのまさに目の前まで肉薄し、それと同時に剣を振りかぶり、それと同時に空いた腕でルイズを殴りつけていた。
顔面にまともに入ったパンチに、ルイズはふらりとよろけて後退し、豹変したモンモランシーを見据えようと顔を上げる。
目の前にあったのは、剣の刀身だった。鈍い輝きが、目の前に、ある。
だが、それ以上にはならなかった。剣はルイズの目の前でまさに「停止」していた。モンモランシーもまた、石像のようになり、動きを止めている。
ルイズもまた、極度の緊張感と何が起こったかわからない不安と、死の恐怖が先ほどまで目の前にあった故の緊迫感により、動けない。
そのまま数秒が経過した。
『…クソ…この少女の魔力量では、やはりライトニングソードは…無理か』
----
次 回 予 告
呼び出されたものが何かもわからぬままに、
混乱は増大する。
ゼロの少女が呼んだものは、
神か、悪魔か。
次回「前世」 機械をまとった神々の戦いが、始まる。
消えゆく命の中、「彼」は思考した。反芻した。
きっとそれは年頃の子供が抱く「目上の人間に対する劣等感」みたいなモノで、一時的なモノだったのかも知れない。
自分はゼウスによって作り出され、捨て石となるために生まれた。
アレスを滅ぼすための先触れ。
つまり、自らには「死」の運命が確定する。
彼は捨て石である故に、感情は持っていなかった。自らを起動しようとする人間を全て抹殺し、日々を過ごしていた。
自分に流れ込む人間達の意志は、無意味な記号でしかなかった。彼を道具としか認識しない彼らの感情など、雑音に等しかった。
だが、ある日それが変わった。
ある時、とても軍人とは思えない少年少女が、彼に乗り込んできた。今まで触れたことのない少年少女の若い感性は、彼を刺激した。それはもともとゼウスの一部であった彼を、覚醒させるのに十分であった。
不安、喜び、憤り、悲しみ。
ある時彼らは、彼に語りかけてきた。彼を「モノ」としてでなく、「彼」として認識した人間は、彼らが初めてであった。
彼は少年少女に、親しみを覚えた。そして、交流を図ろうとした。だが、皮肉にも彼が少年少女と深く繋がるごとに、彼らの体は蝕まれた。
彼は悲しんだ。
-----カナ。マサヒト。
彼は、この矛盾に激怒した。
そして、自らに死の運命を与えたゼウスに、激怒した。
そして、この運命を生み出す元凶となったアレスに、激怒した。
それらは無垢な彼を怒りに染めるのに十分なパワーを持ち、そしてその怒りは単純なゼウスへの憎悪に変じた。
やがて、彼は少年少女を道具のように扱うようになった。深く自らの根を下ろし、自分の手足とした。
ゼウスへの復讐だけが、彼を突き動かすようになった。
思えば、あの時あの戦いを静観していれば、何も起こらずにすんだのかもしれない。スサノヲはジュピターに破壊され、彼は役目を終えて解体される。それだけのことですんだのかもしれない。
だが、ゼウスへの憎悪が勝った。
ジュピターの頭部を握りつぶした時、復習を満たした満足感と共に、虚ろなものと、もう戻れない、という自責の念が流れ込んできた。
コドモの劣等感は異常な程肥大化し、ついには他人を巻き込んだ。ここで戻ることは出来ない。そして彼は、もう一人の憎悪の根源、アレスにその剣を向けた。世界の新生を謳って。
負けることは許されない。
例えそれで何も得るものが、なかったとしても。
彼は剣を抜いた。
思えばあの時から、アレスの剣に自らの命が絶たれることを、望んでいたのかもしれない。
走馬灯のように逆再生された記憶が途切れる。
景色が白く霞んでいく。
俺は、あんなことがしたかったんじゃない
コピーという烙印を押されるのが嫌だっただけ
劣化複製として死にたくなかっただけ
アレスの代用品と
ゼウスの代用品と
いわれたくなかっただけ。
不意に景色が黒く暗転した。それと同時に、目の前で剣を掲げるアレスの姿もまた、消えた。周囲のいっさいは消失し、彼は無に放り出された。
どこが手で、どこが足なのか、わからない。わずかに生きる視覚を総動員し、状況を、把握しようとする。だが、わからない。何もかもが、わからない。
-----ここが、地獄なのか?
-----ちがうよ。
声。その声は、厳格な老人の声にも、妖艶な女性の声にも、無垢な子供の声にも、しわがれた老婆の声にも聞こえた。
-----君は必要とされている。まだ、誰かに
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、銀色の視界が開け、彼の意識は失われた。
何十回目かのサモン・サーヴァントは、成功した。沸き上がる魔力の奔流。風は周囲の物体を吹き飛ばすばかりの勢いで荒れ狂った。そして、数秒のうちに止んだ。
ルイズは儀式は成功した、と確信する。間違いはない(ハズだ)。この手からほとばしり、杖に至り、その先端から大気へと放出される魔力を、感じ取れた(気がする)。
今の自分なら、きっと神とて一撃で打ち倒せるだろう。そうおもえるほどの高揚感が、今の彼女を満たしていた。
「……来た、私の使い魔が」
煙が晴れる。ゴーレムか。飛竜か。それとも亜人か。ルイズの期待は高まる。
煙の向こうに見える使い魔の姿を、ルイズは想像した。そしてそれを従える自らの姿も。
サイッコーの使い魔とサイッコーのアタシが、今に学園のトップになってやる。
そして、煙が晴れる。
煙の向こうに見えたのは、石像だった。
しかも、頭だけの。
「………」
ルイズも、周囲の人間も、言葉を失う。それがただの頭なら、即刻周囲の生徒はルイズを笑い飛ばしたことだろう。だが、それはただの頭ではなかった。
大きい。
それの全高は、軽く2メートルを超えている。小さなルイズからしてみれば、さらに巨大に見えたことだろう。
「…なにこれ」
アーティファクトの類だろうか。ルイズはゆっくりとそれに近づいていく。周囲は押し黙ったままだ。頭は動かない。
ルイズは近づく。頭は動かない。ルイズはさらに近づく。頭は動かない。ルイズはそれに、手を触れようとした-------
「危ない!」
誰が叫んだのか。途端に、石像の目が光った。ルイズは突然の事態の急変に、腰を抜かして座り込んでしまった。赤い輝きが、石像の目からほとばしる。
一部の生徒は既に逃げの体勢に入っている。場の空気は緊張から危険へと変じた。
「え、え、えぇぇぇええ!?」
だがルイズは動けない。目の前の石像の動向を、見守ることしか出来ないのだ。石像は動かないが、目の光は止まず、真昼よりも明るくその場を真紅に染めた。
だが、それだけだった。光は次第に収束し、灯った時と同様、また静かに消えていく。ルイズも、周囲も安堵した。
「……ほっ」
ルイズが息をついた瞬間。事態は再び急変する。石像から触手が伸びた。黄緑色に輝く触手。触手は石像の上で、絡まるように暴れた。
「下がりなさい!」
儀式の監督に当たっていたコルベールが、生徒達の前に踊りでて、自らの杖を構える。これは使い魔と呼ぶに相応しくない、単なる魔物だと判断したのか。既に詠唱を始めている。
だが、触手の主はこれに気付いたのか、頭上で暴れていた触手は突如規則的な動きに変じ、コルベールの杖を叩き落とした。
さらに触手は向きを変えて伸びる。先ほどまで無秩序に暴れていた触手が、一方向へと、加速する。ルイズはその触手の行く先を見やった。
観衆のほうに向かっている。その方向に集まっていた生徒達の一部は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。触手はこれを個別に追った。生徒の悲鳴が響き渡る。
その追われる生徒の一人があしをもつれさせ、派手に転んだ。
「モンモランシー!」
その少女は、立てロールの髪を何本もさげ、いかにも「貴族」と言ったカンジの少女だった。そのモンモランシーに触手が迫る。
一方のモンモランシーは恐怖に顔を引きつらせ、杖を構えることすらままならない。触手は速度を緩めることなくモンモランシーに到達した。
「いっ、いや、ひやぁあああああっ!!?」
昼間の学園に響き渡るモンモランシーの悲鳴。触手はモンモランシーに吸い込まれるようにして内側へと侵入し、消えた。
同時に他の触手が消失し、モンモランシーは弓なりにビクビクと痙攣して震えている。依然顔は恐怖で固まったままだ。
前代未聞の事態に、コルベールもうかつに手を出せずに固まっている。足腰の調子が戻ったルイズは立ち上がると、石像を仰ぎ見る。
「あんたが…あんたがやったの!?」
その声とほぼ同時に、病気の発作のように震えるモンモランシーの動きが止まり、モンモランシーはがくりとたおれこんだが、緩慢な動作ですぐに立ち上がった。
だが、その顔はうつむき、無表情で固まっている。
「な、直ったのか?」
生徒の一部が彼女に語りかけるが、彼女は反応を返さない。うつむいたまま、固まっている。見かねたコルベールが彼女に近づき、肩を揺すった。
「大丈夫ですか?」
何度か肩を揺すられるモンモランシー。だが、顔はうつむいたままで反応は全くない。コルベールは再び揺すった。
「返事を返しなさい」
『…うるさい』
モンモランシーは、声を発した。
だが、それはそこにいる人間が知っているモンモランシーの声ではなかった。どす黒い、邪気に満ちた声。
まるで、ファンタジーに登場する魔王のような。モンモランシーはコルベールの腕を振り払うと、コルベールが反応するより早く、掌底をコルベールに叩き込んだ。
コルベールは凄まじい勢いで吹き飛び、3メートル程空中を舞った。心配した生徒がコルベールに駆け寄る。
この時、ほとんどの生徒の視線は、当然ながらそのモンモランシー…否、「モンモランシーかどうか疑わしい何か」に向けられている。
驚愕で動けない、というのもあるが、やはりそうさせるのは、恐いもの見たさなのだろうか。モンモランシーは、次にルイズを指差した。
「…わたし?」
『俺を呼んだのは、お前か』
「そ、そうよ。わたしがあんたを呼んだのよ。あんたはわたしの使い魔なんだから、わたしの言うことを聞きなさい」
ルイズは精一杯の威厳を混めて言い放った。だが、それはこの場では逆効果だった。
『ふざけるな…』
トーンの低い声でモンモランシーは言った。怒気がこもっている。怒気を通り越して、殺気の域にまで来ているかもしれない。
困惑するルイズを尻目に、モンモランシーは右手をスッ、と天にかざした。途端、モンモランシーの腕から先ほどモンモランシーを襲った触手のようなものが数本のび、モンモランシーの掌の上で収束した。
形態を失い、一個の個体に変じた触手は、一本の剣となり、モンモランシーの手の中に収まる。鈍い輝きを放つ剣は、殺意の証。
『死人をおいそれと起こすな』
どんっ。
モンモランシーが踏み込んだ。まるで彼女とは思えない。達人の域にまで達したその動作はルイズに身構える暇を与えない。
わずか4歩で、モンモランシーはルイズのまさに目の前まで肉薄し、それと同時に剣を振りかぶり、それと同時に空いた腕でルイズを殴りつけていた。
顔面にまともに入ったパンチに、ルイズはふらりとよろけて後退し、豹変したモンモランシーを見据えようと顔を上げる。
目の前にあったのは、剣の刀身だった。鈍い輝きが、目の前に、ある。
だが、それ以上にはならなかった。剣はルイズの目の前でまさに「停止」していた。モンモランシーもまた、石像のようになり、動きを止めている。
ルイズもまた、極度の緊張感と何が起こったかわからない不安と、死の恐怖が先ほどまで目の前にあった故の緊迫感により、動けない。
そのまま数秒が経過した。
『…クソ…この少女の魔力量では、やはりライトニングソードは…無理か』
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呼び出されたものが何かもわからぬままに、
混乱は増大する。
ゼロの少女が呼んだものは、
神か、悪魔か。
次回「前世」 機械をまとった神々の戦いが、始まる。
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