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#navi(Zero ed una bambola ゼロと人形)
夜も深け舞踏会もそろそろお開きになろうかとしていたとき、ルイズは一足先に会場を抜け出していた。
部屋に戻る途中に一人のメイドとすれ違う。
「あれ? シエスタ?」
声をかけられたシエスタは足早にその場を去ろうとした。
「ちょっと! まちなさいよ!」
ルイズはその場から立ち去ろうとするシエスタの手を掴み引き止める。手を掴まれてしまい、慌ててしまう。
怖い、怖いのだ。だってこの人はあの――の主人。この人の傍にはアレがいつもいるから……
シエスタは顔を強張らせ辺りを見回す。
「な、何よ。何か言いたいことがあるのなら言いなさいよね」
そんなシエスタにルイズは苛立ちを感じ、声を荒げた。
だがシエスタはそれには答えず、何かがいないのを確認した。
よかった。周りには誰もいない、一人のようですね。
「あの…はいないみたいですね」
シエスタは小さな声で呟いた。だがルイズの耳はそれを聞き逃さない。
「え? 何、聞こえない」
ルイズはすぐに聞き返す。シエスタは少し驚いたような顔をした。
しまった。思わず口に出てしまったみたいです。どうしようか。話をはぐらかそうか、それとも思い切って言ってしまおうか。
忘れられない……あの子が私に笑いかけてくれたあの笑顔。
忘れたい……私を殺そうとしたあの子の血まみれの笑顔。
ああ、ミス・ヴァリエールが睨んでくる。この方はこの苦しみなんて知らないのでしょうね。あの子の主人なのに…。
シエスタは恐る恐る口を開き、言葉を紡ぐ。
「あ、あの…ば、化け物は…い、いないみたいですねと言ったのです」
言ってしまった。もう後戻りはできない。
「今何ていったの。化け物? デルフリンガー…あの喋る剣のことではないわよね?」
ルイズは化け物が誰を指すのかある程度は予想できた。だが認めたくはないのだ。アンジェリカと仲の良かったシエスタの口からそんな言葉が出てくるなんて……。
「いえ……違い…ます」
顔を俯かせながらか細い声でそうではないと言うシエスタ。
「まさかアンジェだって言うの?」
心の奥底でシエスタに首を左右に振って欲しいと願うルイズ。だがシエスタはコクンと頷きルイズの言葉を肯定する。
ああ、やっぱり。ルイズはこの返答を予測していたが到底認められるものではない。
「あ、アンジェが化け物ですって?」
顔を真っ赤にしてルイズはシエスタに詰め寄る。
違うの! 私が言いたいのはそんなことじゃない!
化け物なんて…ほんの少しでもそう思ってしまった自分を恥じるシエスタ。だがもう遅い。彼女の瞳には手を振りかぶるルイズの姿が映った。
それを目にした彼女の顔が見る見るうちに恐怖に染まっていく。そう、まるでいつかの光景を思い出すかのように……。
「あ、いや」
今のシエスタにとって相手が誰であるかは関係がなかった。ただ恐怖に身を震わせ、言葉もまともに発せない。
だがルイズは熱くなっていた。感情に身を任せ、急に泣き出したシエスタを気に留めることなく振りかぶった手をシエスタの頬に打ちつける。
頬を打たれたシエスタは悲鳴と共にその場に倒れこむ。
「あんたに…あんたに何がわかるのよ!」
顔を真っ赤にしたルイズは床に倒れこんだシエスタに怒鳴りつける。
我を忘れたシエスタだったがルイズに頬を打たれ直ぐに正気を取り戻した。
この人は何を言っているのでしょうか。あの子の何を知っているというのですか。
もう止められない。悪いのは、何も知らないこの人だ
シエスタの中で沸々と怒りが込み上げてくる。
「あなたこそ何がわかるというのですか!」
身に受けた恐怖と貴族に楯突くという二つの恐怖を押さえ込み、有らんばかりの勇気を振り絞ってルイズに言い返したシエスタ。
「あの子が…アレが何をしたのかご存知なのでしょう?」
あなただって何も解らないくせに! 何も知らないくせに!
「知っていますか。知っていますよね? 私を殺そうとしたことも!」
あの現場にいなかったくせに! 自分は何もしていないくせに! いつも威張っているだけの貴族だけの癖に!
もはやシエスタの心には恐怖心しか残っていなかった。アンジェリカやルイズと共に過ごした短いながらも楽しい日々の記憶はその恐怖心に打ち勝つことなどできなかった。
シエスタは恐怖に負けまいと、己の心の平穏の為にはアンジェリカから離れる、いやルイズと決別するという選択肢しか選ぶことができなかったのだ。
「何よ。何言ってるのよ」
シエスタの言葉にルイズの頭は一気に冷え込む。知りたくもない、忘れたいモット伯の屋敷での惨劇での事実。全てはなかったことに……そして事件前の、あの楽しい生活に戻りたいルイズにとってそれは認められないことだった。
「知らない、そんなの知らない! アンジェは何もしてないもん! 全部嘘よ。そう嘘ね! 嘘ばっかりついて…許さない!」
ルイズは真実から目を逸らす。そう、シエスタの言葉は到底受け入れられない。受け入れられないのならどうすればいいのか。捻じ曲げればいい。
己の都合のいいように強引に解釈しようとするルイズ。シエスタは嘘をついていると……。
再び我を忘れたルイズは目に留まった花瓶を両手で掴むと、シエスタに投げつけようと頭の上に持ち上げた。
「ルイズ! 何してるのよ!」
騒ぎを聞きつけたキュルケがルイズを止めようと割って入る。
キュルケに止められ、シエスタにぶつけようとした花瓶は幸いにも誰にも当たることなく床にぶつかり砕け散った。
「うるさい! キュルケには関係ないでしょ!」
キュルケに後ろから抱きしめられじたばたとルイズは暴れる。
「馬鹿! 落ち着きなさいよ」
キュルケはルイズをなだめようとするがルイズは喚き暴れる。仕方なく彼女の目の前にいるシエスタに話しかけた。
「ちょっとそこのあなた。早く行きなさい」
シエスタはその場で固まって動けないでいた。
「早く!」
キュルケが大きな声を出すとようやくシエスタは起き上がり、小走りにその場を去っていく。
それを見届けキュルケが力を緩めるとルイズはようやくキュルケの腕の中から逃れたのだ。
「ルイズ、あなた正気? 自分が何をしていたのかわかって?」
ルイズに怒るのではなく、まるで諭すように話しかけるキュルケ。ルイズはムスッとした表情のまま答える。
「だって…だってシエスタがアンジェのこと悪く言うんだもん」
ルイズの答えにキュルケは呆れ果てる。
「ねぇルイズ。最近あなたアンジェちゃんが絡むとおかしいわよ」
「おかしくないもん! キュルケだってアンジェによくかまうじゃない」
キュルケは首を左右に振りルイズに語りかける。
「確かにアンジェちゃんは可愛いけどね。あのメイドの子は何をいったの?」
「知らない。あいつアンジェが化け物とか言うんだもん」
ルイズは頬を少し膨らませて答える。まるで子供のように……。
「化け物…ねぇ。あたしもあの子のことが少し気味が悪いと思うことだってときどきあるけど…」
キュルケの言葉を聞きルイズは愕然とする。まさかシエスタに続きキュルケまでもが……。
「ルイズ? 勘違いしないでよね。だからと言って別にあの子が嫌いというわけじゃ…」
「うるさい! もう放っておいてよ…」
ルイズはキュルケの手を振り払い自室に戻ろうとする。今頃部屋で横になっているであろうアンジェリカの顔を見るために。
「ちょっとルイズ!」
ルイズの背中に声をかけるも振り向くことはない。
「聞きなさいよ! ねえ! あなたにとってあの子は何なの! 使い魔? それとも…」
ルイズは懸命にキュルケの声が聞こえない振りをした。
自室に戻り部屋の扉を閉める。キュルケは扉越しにまだ何かを言っていた。両手で耳をふさぎ聞こえないように努力する。
「聞こえない。何も聞きたくない!」
ベットにはアンジェリカが寝ている。舞踏会に行く前にベットに寝かせてから変わった様子はない。
「アンジェは…私の大切な…大切な……」
ルイズは自分に言い聞かせるように呟きベッドに倒れこむ。
意識のないアンジェリカをギュッと抱きしめそっと耳元で囁く。
「アンジェ、ずっと…ずっと一緒にいようね?」
Zero ed una bambola ゼロと人形
「ルイズ! ルイズ! 最後まで聞きなさい」
キュルケは部屋に篭ったルイズにしばらく扉越しに声をかけていたが、全く反応がない。
「何よ! 子供みたいにはぶてちゃて…」
声をかけるのを止め、部屋に戻ろうとしたキュルケだったが、何処からかすすり泣く声が聞こえる。
「空耳…ではなさそうね」
どうやら声は近くから聞こえるではないか。どうしたものかと悩むよりに先に体が動いてしまう。
「我ながら損な性格よねー」
つまりキュルケは困っている人間を見ると基本的に放って置けないお人好しなのだ。
声の発生源は意外と近く、廊下を曲がった先から聞こえてきた。
「あら?」
泣いていたのは先ほどルイズに暴行を受けていたあのメイドだった。
「ちょっと、大丈夫?」
全くルイズったら……あの子の尻拭いも楽じゃないわ。
キュルケはメソメソ泣いているメイドの顔をこちらに向ける。
「頬っぺたが真っ赤になってるわね。少し待ってなさい。氷を持ってくるわ」
手ひどくやったものね。これでは泣いてしまうのも当然だ。
キュルケ自身は彼女が微熱と名乗ることからわかるように魔法で氷など作ることはできない。作れるとしたら友人のタバサだ。
「タバサ!ちょうどいいところに」
運良くタバサは直ぐに見つけられた。
「何?」
「ちょっと氷がいるのよ。魔法で作ってくれない?」
特に理由は説明せずにタバサに頼み込むキュルケ。タバサはコクンと頷き杖を構える。
「どのくらい」
「ほんの少しでいいわ」
杖を振るい氷を作り出すとキュルケの手のひらに載せる。
「ありがとうタバサ」
キュルケはお礼代わりに軽くタバサを抱きしめる。
「別にいい」
抱きつくキュルケを引き離しながら無愛想に答える。
キュルケはタバサと別れ、頬を赤くしたメイドの下へ戻った。
「ほら、これで冷やしてなさい」
キュルケはハンカチに包んだ氷をメイドの頬に優しく宛がう。
「申し訳ありません。ミス・ツェルプストー」
氷を受け取ったメイドはキュルケに頭を下げる。
「いいのよ。ところであなた、名前は何というのかしら?」
名前を聞かないと呼び辛いとばかりに尋ねた。
「あ、すみません。シエスタと申します」
シエスタの名を聞いたキュルケはあることを思い出した。
「そういえば…あなたよくアンジェちゃんと一緒にいなかったかしら?」
最近一緒にいる姿を見ないと、そう聞いてみようとしたキュルケだったが目の前ではポロポロとシエスタが涙をこぼし始めたではないか。
「え!? 何? どうしたの?」
突然泣き出したシエスタにキュルケはオロオロとしてしまう。
「わ、私酷いこと言っちゃたんです。アンジェリカちゃんのこと…化け物だって、ミス・ヴァリエールに…」
シエスタはルイズに殴られた痛みで泣いていたのではない。自らの失言を後悔して泣いていたのだ。
「何が…何があったの? 教えてもらえないかしら…」
あの夜何が起こったのか……その全容を知ることになったキュルケは……。
Episodio 27
Dividendo, ogni pensiero
決別、それぞれの想い
----
Intermissione
「何か勘違いしておらんかのう?」
ロングビルの反応にコルベールは少し慌てるものの、オスマンは余裕を持って彼女の誤解を解こうとする。
「わしらは君を処罰するつもりはないんじゃが…」
オスマンの言葉を聞いたロングビルは唖然とする。まさか自分の正体を知っていながら処罰しないなどありえない。一体何を考えているのか。
「理解できないといった顔じゃな。まぁ逆の立場じゃったらわしも理解できんしのう」
呆然としていたロングビルはゆっくりと口を動かす。
「な、何が目的なの?」
当然の疑問だ。土くれのフーケと知りながら何もしないなんてありえない。
「まさか!?」
思わず声を出してしまう。そう彼女には思い当たる節があるのだ。オスマンの目的、それは……。
「ど、どうしたんじゃ?」
オスマンが声をかけるもロングビルは覚悟を決めようと目を瞑る。
一時の恥辱など命と引き換えならば耐えられる、いや耐えなければならないのだ。生きてティファニアに会うために。
「ミス・ロングビル?」
どこか思いつめた表情を見せるロングビルにコルベールは思わず声をかける。
「どうぞ、お好きになさって下さい」
覚悟を決め、言葉を吐き出す。
「ミス・ロングビル。何を…」
言葉を返すコルベールにロングビルは唇をグッと噛む。
「わたくしの身体が目的なのでしょう? 日頃の言動から容易に想像できますわ。命に…命には代えられませんもの」
コルベールはオスマンを睨み、オスマンは慌ててロングビルに弁明する。
「ミス・ロングビル! 何もしない、何もしないからのう! コルネール君、そんな目でわしを見ないで!」
コルベールは呆れて溜息をつく。
「コルベールです、オールド・オスマン。それと、彼女にちゃんと説明しなければいけませんね」
#navi(Zero ed una bambola ゼロと人形)
#navi(Zero ed una bambola ゼロと人形)
夜も深け舞踏会もそろそろお開きになろうかとしていたとき、ルイズは一足先に会場を抜け出していた。
部屋に戻る途中に一人のメイドとすれ違う。
「あれ? シエスタ?」
声をかけられたシエスタは足早にその場を去ろうとした。
「ちょっと! まちなさいよ!」
ルイズはその場から立ち去ろうとするシエスタの手を掴み引き止める。手を掴まれてしまい、慌ててしまう。
―怖い、怖いのだ。だってこの人はあの――の主人。この人の傍にはアレがいつもいるから…… ―
シエスタは顔を強張らせ辺りを見回す。
「な、何よ。何か言いたいことがあるのなら言いなさいよね」
そんなシエスタにルイズは苛立ちを感じ、声を荒げた。
だがシエスタはそれには答えず、何かがいないのを確認した。
―よかった。周りには誰もいない、一人のようですね。―
「あの…はいないみたいですね」
シエスタは小さな声で呟いた。だがルイズの耳はそれを聞き逃さない。
「え? 何、聞こえない」
ルイズはすぐに聞き返す。シエスタは少し驚いたような顔をした。
―しまった。思わず口に出てしまったみたいです。どうしようか。話をはぐらかそうか、それとも思い切って言ってしまおうか。
忘れられない……あの子が私に笑いかけてくれたあの笑顔。
忘れたい……私を殺そうとしたあの子の血まみれの笑顔。
ああ、ミス・ヴァリエールが睨んでくる。この方はこの苦しみなんて知らないのでしょうね。あの子の主人なのに…。―
シエスタは恐る恐る口を開き、言葉を紡ぐ。
「あ、あの…ば、化け物は…い、いないみたいですねと言ったのです」
言ってしまった。もう後戻りはできない。
「今何ていったの。化け物? デルフリンガー…あの喋る剣のことではないわよね?」
ルイズは化け物が誰を指すのかある程度は予想できた。だが認めたくはないのだ。アンジェリカと仲の良かったシエスタの口からそんな言葉が出てくるなんて……。
「いえ……違い…ます」
顔を俯かせながらか細い声でそうではないと言うシエスタ。
「まさかアンジェだって言うの?」
心の奥底でシエスタに首を左右に振って欲しいと願うルイズ。だがシエスタはコクンと頷きルイズの言葉を肯定する。
ああ、やっぱり。ルイズはこの返答を予測していたが到底認められるものではない。
「あ、アンジェが化け物ですって?」
顔を真っ赤にしてルイズはシエスタに詰め寄る。
―違うの! 私が言いたいのはそんなことじゃない!―
化け物なんて…ほんの少しでもそう思ってしまった自分を恥じるシエスタ。だがもう遅い。彼女の瞳には手を振りかぶるルイズの姿が映った。
それを目にした彼女の顔が見る見るうちに恐怖に染まっていく。そう、まるでいつかの光景を思い出すかのように……。
「あ、いや」
今のシエスタにとって相手が誰であるかは関係がなかった。ただ恐怖に身を震わせ、言葉もまともに発せない。
だがルイズは熱くなっていた。感情に身を任せ、急に泣き出したシエスタを気に留めることなく振りかぶった手をシエスタの頬に打ちつける。
頬を打たれたシエスタは悲鳴と共にその場に倒れこむ。
「あんたに…あんたに何がわかるのよ!」
顔を真っ赤にしたルイズは床に倒れこんだシエスタに怒鳴りつける。
我を忘れたシエスタだったがルイズに頬を打たれ直ぐに正気を取り戻した。
―この人は何を言っているのでしょうか。あの子の何を知っているというのですか。
もう止められない。悪いのは、何も知らないこの人だ―
シエスタの中で沸々と怒りが込み上げてくる。
「あなたこそ何がわかるというのですか!」
身に受けた恐怖と貴族に楯突くという二つの恐怖を押さえ込み、有らんばかりの勇気を振り絞ってルイズに言い返したシエスタ。
「あの子が…アレが何をしたのかご存知なのでしょう?」
―あなただって何も解らないくせに! 何も知らないくせに!―
「知っていますか。知っていますよね? 私を殺そうとしたことも!」
―あの現場にいなかったくせに! 自分は何もしていないくせに! いつも威張っているだけの貴族だけの癖に!―
もはやシエスタの心には恐怖心しか残っていなかった。アンジェリカやルイズと共に過ごした短いながらも楽しい日々の記憶はその恐怖心に打ち勝つことなどできなかった。
シエスタは恐怖に負けまいと、己の心の平穏の為にはアンジェリカから離れる、いやルイズと決別するという選択肢しか選ぶことができなかったのだ。
「何よ。何言ってるのよ」
シエスタの言葉にルイズの頭は一気に冷え込む。知りたくもない、忘れたいモット伯の屋敷での惨劇での事実。全てはなかったことに……そして事件前の、あの楽しい生活に戻りたいルイズにとってそれは認められないことだった。
「知らない、そんなの知らない! アンジェは何もしてないもん! 全部嘘よ。そう嘘ね! 嘘ばっかりついて…許さない!」
ルイズは真実から目を逸らす。そう、シエスタの言葉は到底受け入れられない。受け入れられないのならどうすればいいのか。捻じ曲げればいい。
己の都合のいいように強引に解釈しようとするルイズ。シエスタは嘘をついていると……。
再び我を忘れたルイズは目に留まった花瓶を両手で掴むと、シエスタに投げつけようと頭の上に持ち上げた。
「ルイズ! 何してるのよ!」
騒ぎを聞きつけたキュルケがルイズを止めようと割って入る。
キュルケに止められ、シエスタにぶつけようとした花瓶は幸いにも誰にも当たることなく床にぶつかり砕け散った。
「うるさい! キュルケには関係ないでしょ!」
キュルケに後ろから抱きしめられじたばたとルイズは暴れる。
「馬鹿! 落ち着きなさいよ」
キュルケはルイズをなだめようとするがルイズは喚き暴れる。仕方なく彼女の目の前にいるシエスタに話しかけた。
「ちょっとそこのあなた。早く行きなさい」
シエスタはその場で固まって動けないでいた。
「早く!」
キュルケが大きな声を出すとようやくシエスタは起き上がり、小走りにその場を去っていく。
それを見届けキュルケが力を緩めるとルイズはようやくキュルケの腕の中から逃れたのだ。
「ルイズ、あなた正気? 自分が何をしていたのかわかって?」
ルイズに怒るのではなく、まるで諭すように話しかけるキュルケ。ルイズはムスッとした表情のまま答える。
「だって…だってシエスタがアンジェのこと悪く言うんだもん」
ルイズの答えにキュルケは呆れ果てる。
「ねぇルイズ。最近あなたアンジェちゃんが絡むとおかしいわよ」
「おかしくないもん! キュルケだってアンジェによくかまうじゃない」
キュルケは首を左右に振りルイズに語りかける。
「確かにアンジェちゃんは可愛いけどね。あのメイドの子は何をいったの?」
「知らない。あいつアンジェが化け物とか言うんだもん」
ルイズは頬を少し膨らませて答える。まるで子供のように……。
「化け物…ねぇ。あたしもあの子のことが少し気味が悪いと思うことだってときどきあるけど…」
キュルケの言葉を聞きルイズは愕然とする。まさかシエスタに続きキュルケまでもが……。
「ルイズ? 勘違いしないでよね。だからと言って別にあの子が嫌いというわけじゃ…」
「うるさい! もう放っておいてよ…」
ルイズはキュルケの手を振り払い自室に戻ろうとする。今頃部屋で横になっているであろうアンジェリカの顔を見るために。
「ちょっとルイズ!」
ルイズの背中に声をかけるも振り向くことはない。
「聞きなさいよ! ねえ! あなたにとってあの子は何なの! 使い魔? それとも…」
ルイズは懸命にキュルケの声が聞こえない振りをした。
自室に戻り部屋の扉を閉める。キュルケは扉越しにまだ何かを言っていた。両手で耳をふさぎ聞こえないように努力する。
「聞こえない。何も聞きたくない!」
ベットにはアンジェリカが寝ている。舞踏会に行く前にベットに寝かせてから変わった様子はない。
「アンジェは…私の大切な…大切な……」
ルイズは自分に言い聞かせるように呟きベッドに倒れこむ。
意識のないアンジェリカをギュッと抱きしめそっと耳元で囁く。
「アンジェ、ずっと…ずっと一緒にいようね?」
Zero ed una bambola ゼロと人形
「ルイズ! ルイズ! 最後まで聞きなさい」
キュルケは部屋に篭ったルイズにしばらく扉越しに声をかけていたが、全く反応がない。
「何よ! 子供みたいにはぶてちゃて…」
声をかけるのを止め、部屋に戻ろうとしたキュルケだったが、何処からかすすり泣く声が聞こえる。
「空耳…ではなさそうね」
どうやら声は近くから聞こえるではないか。どうしたものかと悩むよりに先に体が動いてしまう。
「我ながら損な性格よねー」
つまりキュルケは困っている人間を見ると基本的に放って置けないお人好しなのだ。
声の発生源は意外と近く、廊下を曲がった先から聞こえてきた。
「あら?」
泣いていたのは先ほどルイズに暴行を受けていたあのメイドだった。
「ちょっと、大丈夫?」
―全くルイズったら……あの子の尻拭いも楽じゃないわ。 ―
キュルケはメソメソ泣いているメイドの顔をこちらに向ける。
「頬っぺたが真っ赤になってるわね。少し待ってなさい。氷を持ってくるわ」
手ひどくやったものね。これでは泣いてしまうのも当然だ。
キュルケ自身は彼女が微熱と名乗ることからわかるように魔法で氷など作ることはできない。作れるとしたら友人のタバサだ。
「タバサ! ちょうどいいところに」
運良くタバサは直ぐに見つけられた。
「何?」
「ちょっと氷がいるのよ。魔法で作ってくれない?」
特に理由は説明せずにタバサに頼み込むキュルケ。タバサはコクンと頷き杖を構える。
「どのくらい」
「ほんの少しでいいわ」
杖を振るい氷を作り出すとキュルケの手のひらに載せる。
「ありがとうタバサ」
キュルケはお礼代わりに軽くタバサを抱きしめる。
「別にいい」
抱きつくキュルケを引き離しながら無愛想に答える。
キュルケはタバサと別れ、頬を赤くしたメイドの下へ戻った。
「ほら、これで冷やしてなさい」
キュルケはハンカチに包んだ氷をメイドの頬に優しく宛がう。
「申し訳ありません。ミス・ツェルプストー」
氷を受け取ったメイドはキュルケに頭を下げる。
「いいのよ。ところであなた、名前は何というのかしら?」
名前を聞かないと呼び辛いとばかりに尋ねた。
「あ、すみません。シエスタと申します」
シエスタの名を聞いたキュルケはあることを思い出した。
「そういえば…あなたよくアンジェちゃんと一緒にいなかったかしら?」
最近一緒にいる姿を見ないと、そう聞いてみようとしたキュルケだったが目の前ではポロポロとシエスタが涙をこぼし始めたではないか。
「え!? 何? どうしたの?」
突然泣き出したシエスタにキュルケはオロオロとしてしまう。
「わ、私酷いこと言っちゃたんです。アンジェリカちゃんのこと…化け物だって、ミス・ヴァリエールに…」
シエスタはルイズに殴られた痛みで泣いていたのではない。自らの失言を後悔して泣いていたのだ。
「何が…何があったの? 教えてもらえないかしら…」
あの夜何が起こったのか……その全容を知ることになったキュルケは……。
Episodio 27
Dividendo, ogni pensiero
決別、それぞれの想い
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Intermissione
「何か勘違いしておらんかのう?」
ロングビルの反応にコルベールは少し慌てるものの、オスマンは余裕を持って彼女の誤解を解こうとする。
「わしらは君を処罰するつもりはないんじゃが…」
オスマンの言葉を聞いたロングビルは唖然とする。まさか自分の正体を知っていながら処罰しないなどありえない。一体何を考えているのか。
「理解できないといった顔じゃな。まぁ逆の立場じゃったらわしも理解できんしのう」
呆然としていたロングビルはゆっくりと口を動かす。
「な、何が目的なの?」
当然の疑問だ。土くれのフーケと知りながら何もしないなんてありえない。
「まさか!?」
思わず声を出してしまう。そう彼女には思い当たる節があるのだ。オスマンの目的、それは……。
「ど、どうしたんじゃ?」
オスマンが声をかけるもロングビルは覚悟を決めようと目を瞑る。
一時の恥辱など命と引き換えならば耐えられる、いや耐えなければならないのだ。生きてティファニアに会うために。
「ミス・ロングビル?」
どこか思いつめた表情を見せるロングビルにコルベールは思わず声をかける。
「どうぞ、お好きになさって下さい」
覚悟を決め、言葉を吐き出す。
「ミス・ロングビル。何を…」
言葉を返すコルベールにロングビルは唇をグッと噛む。
「わたくしの身体が目的なのでしょう? 日頃の言動から容易に想像できますわ。命に…命には代えられませんもの」
コルベールはオスマンを睨み、オスマンは慌ててロングビルに弁明する。
「ミス・ロングビル! 何もしない、何もしないからのう! コルネール君、そんな目でわしを見ないで!」
コルベールは呆れて溜息をつく。
「コルベールです、オールド・オスマン。それと、彼女にちゃんと説明しなければいけませんね」
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