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「ルイズ・キングダム!!-6」(2009/04/05 (日) 09:56:36) の最新版変更点
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『SATSUGAIせよSATSUGAIせよ! SATSUGAIせよSATSUGAIせよ!!』
「うおー! 『血塗れ』ギーシュさんが今度は野犬を殺しまくってるぜー!」
『グロテスク小鬼惨殺! グロテスク猟奇戦役!』
「出たぁー! ギーシュさんの1秒間にワルキューレ7体召喚だぁー!」
「でもあのゴーレム、腰までしか無いぜ? 失敗したのか?」
『下半身さえあればいい! 下半身さえあればいい!』
「あれは最新ヒット曲、メス豚交響曲! あのゴーレムはこの曲の暗示をしていたんだよ!」
「「「な、なんだってぇー!!」」」
「なんだコレ?」
――デトロイト・メタル・シティしらないヒトにはイミフメイのマエフリですよ――
<ルイズ・キングダム!>
鬱蒼とした――と言うほどでもなく、チラホラと木漏れ日が差し込む森の中を一行は進んでいた。
さやさやとそよぐ、緑の匂いのする風が頬に心地よい。
「それで、何で『青銅』のギーシュがここに居るのよ?」
「おおうミス・ヴァリエール、僕をキチンと『青銅』と呼んでくれるのはキミだけだよ!」
モグラの背中に乗って先頭を進むギーシュは、感極まったように海老反りの姿勢を華麗にキめる。
翻されたマントが起こす風が頬に当たってキモかった。
この勘違いナルシストまるで話が通じないと、ルイズは頭痛を感じる。
替わりに答えたのはギーシュの隣を黒色デメキンに乗って進むダッパ君だ。
――きょうりょくしてくれるそうです。なかよくなったので――
「そう。とりあえず学院内での悪評を払拭するために小鬼達と仲良くしておこうと思ったのさ。
それに、彼等に牧場も貸してもらったんだよ。友情の証にね!」
ぶわっとマントを翻して薔薇の造花を振れば花びらが舞い散る。
わざわざ『錬金』で生み出したその花弁を割って土の中から現れたのはモグラが2匹。
言うまでもなく『農場』の施設効果で増やしたジャイアントモールである。
つぶらな瞳の巨大モグラ3匹に囲まれて、ギーシュはすっかり悦っていた。
「紹介しよう! 僕の可愛いヴェルダンデの新しい姉妹、ウルドとスクルドだよ!」
「あっそう」
冷たく言ってルイズはギーシュから興味を失った。このモグラフェチは正直どうでも良い。
そして氷点下の視線のまま、自分の隣に居る二人に目を向ける。
「それで、アンタ達はなんで一緒に来てるのよ、特にツェルプストー」
「タイクツだからよヴァリエール。
野犬退治なんてつまらない事だけど、学院の中に籠もりっキリよりはまだマシだもの」
「キュルケが心配」
真っ赤に金色の模様が付いた派手なキンギョに腰掛けたキュルケと、青い風竜に乗ったタバサが答える。
ドスドスと、いささか翼が邪魔そうに歩く風竜のシィルフィードの背に乗る少女の頭は皆より倍ぐらい高い位置にある。
そこから、けれど威圧感はカケラも感じさせない幼い無表情な顔でポツリとこぼすタバサ。
「それにシルフィードもこの子達を心配している」
言いながら跨っている風竜の首の裏を撫でる。
きゅいきゅいと嬉しそうにしている竜は、どうやら使い魔用の厩で小鬼と仲良くなったらしい。
背中に乗ったタバサ以外に、頭に乗せた白い長毛の小鬼がそうなのだろう。
モフモフした体毛が触り心地の良さそうなその小鬼は、見た目に合わせたのかモップという名前だ。
彼(?)が学院に雇われて厩の掃除や飼い葉やりをしていた事をルイズは思い出していた。
「いやはや、美しい友情ですな! 素晴らしい事ですぞ!」
そう嬉しそうに言ったのはコルベール先生。
驚異的な迷宮メカニズムの産物を数々手にしてご満悦な様子はこの数日変わらない。
乗っている小型の蒸気自動車にもごっちゃりと不思議な荷物を積んでいる。
この自動車、研究室で自作したモノと言うから地味に凄い。
ただしスピードに関しては、その隣を輿に揺られて進むオババと同じぐらいだからそんなに早くは無いだろう。
四匹の小鬼がかつぐ輿にも荷物がたくさん載せられていて重そうだが、それでも平気な様子で小鬼達は運んでいる。
この小鬼達、それぞれが立派な逸材で『怠けもの』なオババの『右腕』として冒険中にも活躍してくれるのだ。
召喚師の小鬼ザック、寿ぎ屋の小鬼グッフ、盗賊の小鬼ドッム、医者の小鬼ジッム。
なんか医者だけ所属が違うっぽいけれど、チームワークも良い四人組である。
かくして、前衛がギーシュとクロビスとダッパ君、中衛にキュルケとタバサ、後衛がルイズとコルベールとオババという大所帯は森の中を進んでいた。
もちろん王宮メンバーの小鬼達は配下の小鬼を連れているので、実際は50人を超える集団である。
先頭を進むのは粗末な盾を手にして、棒の先に動物の牙をくくり付けた槍を持つ小鬼戦士団。
ハチマキを付けた意気盛んなクロビス親衛隊がそれに続く。
ぷーかぷーかと楽器を奏でながら軍旗を立てて進むダッパ君の『小鬼司令部』の後ろからは、黒光りする『小鬼大砲』をキンギョでガラガラと牽いている部隊が進む。
キュルケの隣を歩いているのは、背中にピンクの小鬼を乗せた火トカゲのフレイム。
その規模だけを見れば、ルイズが思っていたよりも本格的なものだ。
そんな中、左手に鍋を右手にホウキを持ってエプロンを着たルイズは自分が場違いなんじゃないかと不安になった。
いや、その大きな中華鍋はコルベールが『盾』と『合成』してある立派な防具で、『ホウキ』も仕込み『鉄砲』、『エプロン』すら『鎧』と『合成』された装甲なのだけれど。
不安を誤魔化すために周囲を見回していると、オババの部隊にあの星術師のピピンが居るのに気が付く。
まさに国民の総力を結集した遠征だったらしい。
「あれ? そう言えばモークはどこに居るの?」
その中に、ニンジャのモークが居ないことに今更気が付いてルイズが聞くと、彼は探索に出ているとの答え。
なんの事かと小首をかしげていると、その『雲散霧消の』モークと小鬼忍群がジュバババっと効果音を立てて現われた。
緑まぶしい春の森で黒服なのに全然目立たない存在感の無さが素晴らしい。
「…………」
「うむ、うむ……そうか、なるほど」
「ねぇ、なにをやってるのクロビス?」
耳打ちしてくるモークの報告聞く小鬼国王に問うルイズ。
主人の疑問にえっへんと胸を反らせてクロビスは答える。
「モークは敵の数や仕掛けられているトラップの有無を調べてくれているのだ。
情報を制する者は迷宮を制する。
どんな敵が、罠が待ち構えているのか、それを知らずに突進すれば、どんな強壮な宮廷といえども全滅を免れん。
自分が何のために、どんな敵と戦っているのかを知るのは百万迷宮で生き残る基本だな!」
「だったら無駄な決闘とかしなきゃ良かったのに」
「うるさーい! アレはアレで色々とその、重要な目的があっての事でだなぁ!」
「馴れない土地じゃ、ナメられない事も重要じゃからのぅ」
「むしろ思いっきり舐められたと思うけどね、あの決闘のせいで」
「うわーん! ルイズなんかキライだぁー!」
あ、泣いた。
泣いたままキンギョを駆って森の奥へと逃げ去るクロビス。
と、思ったら逃げた時より勢い良く戻ってくる。
「うわーん! 野犬が出たぁぁぁ!!」
「偵察した意味無いじゃない!」
――ぜんいん、せんとうじゅんびー!――
わーっと散らばりかけた小鬼達がダッパ君の号令に落ち着きを取り戻して武器をかまえる。
現われた野犬……もうほとんどオオカミと呼んでも良いような凶悪なツラ構えと体格の犬どもの数は十匹以上。
それは、もし単身遭遇したのならばメイジでも危険な数だった。
鍛えられた人間を凌駕するスピードで行われる、多方向からのコンビネーション攻撃は、それだけの危険性があるのだ。
だが、小鬼王国軍は数が違う。
1匹1匹は脆弱でも、組織されたこれだけの数に加えてメイジが5人も――その内3人はトライアングルクラス――居る。
たとえそのメイジの内一人が魔法を使えないゼロの料理人でも、野犬ごときに負けはしない。
だが、その予測を簡単に裏切る存在が野犬の背後から出現した。
「なによ、アレ!?」
それは異形の存在。
良く見れば野犬はクロビスを襲おうとしているのではなく、後から現われた怪物に怯えて逃げる最中だとわかる。
キャインキャインと逃げ去る犬。
一行には、そんな犬に注意を向ける余裕も無かった。
「な、なによアレ。まるで……」
「おイモ」
キュルケの震える声にタバサが簡潔に答えを示す。
それは手足が生えて槍を手にしたジャガイモの一団だった。
コロコロして美味しそうな、小鬼と同じぐらいのサイズをしたおイモ。
その槍の穂先は先割れスプーンになっている。
おイモの中には軍旗を掲げた者、楽器を叩く者も居る。
彼等おイモ以外にも、空中を飛ぶ凶悪な面構えの野菜や、カボチャの頭をもった猿のように奇妙な生物も見て取れた。
その奥から現われるのは、巨大なジャガイモ。
ジャガイモのクセに宝玉のマント留めと王冠を身につけ、ジャガイモのクセに豪奢な金髪のタテロール。
真っ赤なルージュも麗しく、福福しいその存在こそじゃが族の女王メイ・クイーン。
隣には赤い王冠を被った、白い粘液に満たされた涙滴型透明チューブが鎮座する。
チューブに立派なヒゲと両腕、ひるがえるマントを具えたソレはマヨ族の王マヨネーズ・キング。
威風堂々。
同盟関係を結ぶ『じゃが族』と『マヨ族』に『血を吸う野菜』達を加えた、混成ポテトサラダ部隊の進軍であった。
「ハ?」
ルイズは石化した。
ものすごーく現実を認めたくなさそうに、正面の部隊を鼻で笑う。
ここはトリステイン魔法学院からほんの少し離れただけの森の中。
なんでこんな、美味しそうな一団と遭遇せねばならないのだ。
ぶっちゃけありえない。
「くっ、油断していましたね。まさかこんな所でこんな恐るべき敵に遭遇するとは!」
「これは、気を引き締めて当たらねばなるまいね―――」
「いやあの、ミスタ・コルベール? ギーシュ?」
油断無く杖を構える二人のメイジ。
コルベールの周囲を炎が踊り、ギーシュを守るように3体のワルキューレが出現した。
「私達もやるわよ、タバサ!」
「…………(コクリ)」
「ねえちょっと、二人とも? あの変なのの存在に呆れるとか不信がるとかの反応は?」
キュルケは胸の谷間から取り出した杖を高く掲げ、タバサもまたシルフィードの背で呪文の詠唱を開始する。
空気は緊迫し、王宮率いる小鬼達もギラギラと獰猛な輝きを瞳に燈す。
「いやだから、今ってそーゆーシーンなの? ねぇ?」
「突撃ーっ!!」
「だから人の話をききなさーい!!」
ある意味唯一マトモな反応をしていたルイズをほっぽって、クロビスの号令一下戦闘が開始された。
先手を取ったのは小鬼達宮廷軍。
おそらく最強の敵であるメイ・クイーンとマヨネーズ・キングに向けてキュルケの炎とフレイムのブレスが放たれた。
だが、身を挺して王を守ったおイモ兵士がこんがり焼けただけで、その攻撃は防がれる。
周囲に漂う美味しそうな香り。
「ウォーター・バインド」
――小鬼大砲、つうじょうだん、てーっ!!――
続いてタバサの呪文が水の鎖となって敵を縛り、間髪居れず森の木々を揺るがす号砲が轟く。
ダッパ君の指揮の下、放たれた小鬼大砲が動きを止められた野菜達に直撃。
人食いダイコンが、吸血ニンジンが、アタック・ザ・キラートマトが、爆風で美味しそうに茹で上がった。
「キッキーッ!」
仲間が美味しそうに殺された事に怒りを感じたのか、奇妙な顔のカタチのくりぬかれたカボチャの頭をもった猿が宮廷に襲い掛かる。
奇声を上げて飛び込んで来た『カボチャ頭』を迎え撃つのはコルベール。
周囲を漂っていた火の粉がカボチャ頭に触れた途端、劫火となって敵を焼き尽くす。
一瞬にしてホッコリと中まで良い具合に火が通る恐るべき威力に、味方であるキュルケすらもが目を見張った。
「マヨーン!」
「ホクホクホクホクホ!」
だが、コルベールの攻撃的防御魔法が消費された瞬間を狙って、敵の総大将が号令を発した。
王と女王の指令に、一気呵成と攻め込んでくる混成野菜部隊。
殺人トマトと小鬼が取っ組み合い、辺りが血とトマトジュースで真っ赤に染まり、ダイコンに貫かれた小鬼が屍を晒した。
嫌いなピーマンに食べられる小鬼。高速で飛来したレンコンによって穴の空いた死体にされる小鬼。
殺意を閃かせて飛来する胡瓜と茄子をシルフィードがパクパクと食べる。
フレイムに襲い掛かったタマネギはこんがりローストされてヨダレものだ。
突き刺さる先割れスプーン。弾き返すのは粗末な槍。
軍靴の音と剣戟の音、怒号と悲鳴が非情な戦場を支配する交響曲だった。
「マヨーン!!」
混乱した戦場で、味方すら巻き込んで放たれたのはマヨネーズ・キングのブレスだった。
王冠の下に隠されていた星型の口から、その内容物がブチュルルルーっと開放される。
広範囲に飛び散って飛来する白い液体を、キュルケやタバサも避けられない。
ルイズもまた、その直撃を受けてしまう。
「いやだぁ、ベトベトじゃないの!!」
「なによ、この白くってネットリしたのは。気持ち悪いし、ブラウスが透けちゃうわ」
「……エローイ」
顔といわず髪といわず服といわず、白い粘液が三人の身体にベットリと張り付いた。
油脂分過多なされを食らえば、高級な生地だけに薄く仕立てられている魔法学院の制服など簡単に透けてしまう。
肌に命中すれば布で拭いてもとれない油っ気で肌がヌメヌメとテカリを帯びてしまう。
豊満なキュルケの健康的に日焼けした肌など、その曲線のなまめかしさが強調されているし、子供のような外見のタバサを白く汚す様子など色々犯罪的な匂いがする。
胸に直撃を受けたルイズなど、ハルケギニアにはブラジャーが無いためピンクの蕾がこう、透けてるような透けて無いような?
更に自慢の髪をベトベトにされて半泣きになった顔などもう大変だった。性的な意味で。
ちなみにブレスはギーシュとか小鬼にも命中しているが描写はしない。
「美味」
タバサはメガネに張り付いたそれを指でぬぐって口に運び、ゴクンと小さな喉を鳴らして飲み込むと、その正体を看破した。
それはマヨネーズ。
現代日本では卵黄と植物油から作られる調味料だが、百万迷宮ではこのモンスターの身体から搾り出されるのである。
ふかしたてのジャガイモにかけて食べるととてもウマイのは周知の通りだ。
「フン、やってくれたわね!」
胸の谷間に粘りつくマヨネーズをぬぐい、キュルケは杖をキングに向ける。
だが様子が変だった。
微妙に動きが遅い。
ボン・キュ・ボンだったはずのキュルケの体型が、いつのまにかボボン・ボボボン・ボボボボボンになっている。
元々Eカップはあったその胸はHカップを超えているが、胴回りはそれ以上に成長しているだろう。
「くうっ、マヨネーズ・キングの『肥満』にやられたぁ」
「ありえないよ! この美しいボクがっ!」
まるまると太ったクロビスとギーシュが声を上げる。
周囲にはふくよかに太ったコロコロのクロビス親衛隊。
マヨキンことマヨネーズ・キングの恐るべき能力。
それは、攻撃を受けた相手が抵抗に失敗すると太るという、一部の人には死ぬほどダメージを与えるものである。
太ると動くのダルい。移動したくなくなる。姿も緊張感が無くなる。
実に恐ろしい力だった。
だが、真に恐ろしいのはその先にある。
「ホック、ホクホクホクホーク!」
高らかな笑い声と共に、メイ・クイーンの能力が発動した。
『おいもコロコロ』と呼ばれるそれは、デブを転がす恐怖の呪い。
「きゃあぁぁぁぁぁ!?」
「うひゃあー!?」
「アリエナイィィィィィィィ!?」
「「「「「「「キューキュー!」」」」」」」
キュルケとギーシュと小鬼と、後とばっちりを食らって太った野菜がコロコロと転がる。
あちこちに頭や腰をぶつけて、けっこうシャレにならないレベルで痛そうだ。
あわててクロビスとキュルケに向かってルイズが『祈り』を放ったので無事だったが、小鬼達には致命傷だった。
倒れ伏すデブ小鬼とデブ野菜。
その中から、怒りに燃えたデブが憎悪を宿した瞳でイモを睨み、敢然と立ち上がる。
「ユルセナイィィィィィィィ!!」
「よくもこの私をデブにしてくれたわね! 死になさいこの根菜類と調味料!」
一本ブチ切れたギーシュとキュルケだった。
天へ向けて人差し指を振り上げるギーシュの手の動きに合わせて、地面から『錬金』される無数の槍。
突如現われた槍に、敵軍兵士達はなすすべもなく貫かれた。
「マヨーン!?」
ドテっ腹を槍で貫通されたキングの傷口から噴出したマヨネーズが、兵士達に降りかかって白く染め上げる。
そこに叩き込まれるのは、キュルケの怒りの炎だった。
自慢の美貌をアレな事にされた憤怒の形相はタバサ以外は味方すら恐怖で一歩後退する迫力。
全精神力を注いだ炎球が、メイ・クイーンやマヨネーズ・キングをも巻き込み、ほどよく焼き上げる。
この炎が全ての決着をつけた。
最早敵陣に息のある野菜は存在しない。
美味しそうな死体を積み上げ、後の小鬼王国史に『野菜のグリル・マヨネーズ仕立て会戦』として記される戦いは、キュルケの貴い犠牲を払いながらも決着したのである。
おまけの用語解説コーナー『百万迷宮の歩き方』
【モグラ増殖】
モンスターの民を増やす施設『牧場』を『同盟国の施設を借りる』ルールを利用して小鬼王国と同盟したギーシュが使用する事で理論上可能となる外道技。
理論上フレイムどころかシルフィだって増やせる。百万迷宮のドラゴンも普通に喋るし。
更に『迷宮キングダム』のルールブックには、『魔剣』と言う喋る剣のモンスターも……
【マヨネーズ・キング】
百万迷宮に生息する怪奇と言うかぶっちゃけ変な敵。略称マヨキン。
『迷宮キングダム』略称まよキンの、小鬼と並ぶマスコットキャラクター。
5レベルの『異形』にカテゴリーされるモンスターで、初期宮廷にはそこそこ強敵。
上位種族にマヨネーズキング・ピュアセレクトとゆーのが居る。ホントに居る。
百万迷宮住民の食卓の友。ただしコレステロールには気をつけるコト。
ぶっちゃけルイズ達にマヨネーズをかけたいから出した。まるで反省していない。
【メイ・クイーン】
じゃが族の女王で『異形』にカテゴリーされる7レベルのモンスター。イモ。
『肥満』のバッドステータスを食らった者を全員転がす能力『おいもコロコロ』を持つため、敵を『肥満』させる能力『高カロリー』を持つマヨキンとのコンボで出現させるが基本。
前後6マスのボードの上で戦闘を行う迷宮キングダムというゲームで、任意に3マス移動させた上で期待値7点のダメージを発生させるのだからたまらない。
実際のゲームでコレをやられると、ダメージ食らった上で敵陣に放り出されてフルボッコなのだ。
あと『魅了』なんて能力も持っていたりする。イモのクセに。
【肥満】
毒・散漫・肥満・呪い・睡眠・愚かと6種類あるバッドステータス(状態異常)の一つ。
太って動きにくくなるため、戦闘で1マス移動する度に1ダメージを受けるようになる。
1ターン食事をしないか、王国に帰還すれば肥満の状態異常は取り除かれる。
しかし迷宮キングダムというゲーム、1ターン食事をしないと宮廷全体がダメージを受けるし、かといって1ターンに3回以上(体力回復を狙って)食事をすると肥満するという、なかなかやっかいなゲームなのだ。
しかも食事は自動的に全員が取った事になるため、1人だけ肥満すると最後までデブのままだったりする。
ちなみにバッドステータスを無効にするスキルも存在するが、そのスキル名は『美形』。
美形はデブになったり愚かになったりしないのだ。
#navi(ルイズ・キングダム!!)
『SATSUGAIせよSATSUGAIせよ! SATSUGAIせよSATSUGAIせよ!!』
「うおー! 『血塗れ』ギーシュさんが今度は野犬を殺しまくってるぜー!」
『グロテスク小鬼惨殺! グロテスク猟奇戦役!』
「出たぁー! ギーシュさんの1秒間にワルキューレ7体召喚だぁー!」
「でもあのゴーレム、腰までしか無いぜ? 失敗したのか?」
『下半身さえあればいい! 下半身さえあればいい!』
「あれは最新ヒット曲、メス豚交響曲! あのゴーレムはこの曲の暗示をしていたんだよ!」
「「「な、なんだってぇー!!」」」
「なんだコレ?」
――デトロイト・メタル・シティしらないヒトにはイミフメイのマエフリですよ――
<ルイズ・キングダム!>
鬱蒼とした――と言うほどでもなく、チラホラと木漏れ日が差し込む森の中を一行は進んでいた。
さやさやとそよぐ、緑の匂いのする風が頬に心地よい。
「それで、何で『青銅』のギーシュがここに居るのよ?」
「おおうミス・ヴァリエール、僕をキチンと『青銅』と呼んでくれるのはキミだけだよ!」
モグラの背中に乗って先頭を進むギーシュは、感極まったように海老反りの姿勢を華麗にキめる。
翻されたマントが起こす風が頬に当たってキモかった。
この勘違いナルシストまるで話が通じないと、ルイズは頭痛を感じる。
替わりに答えたのはギーシュの隣を黒色デメキンに乗って進むダッパ君だ。
――きょうりょくしてくれるそうです。なかよくなったので――
「そう。とりあえず学院内での悪評を払拭するために小鬼達と仲良くしておこうと思ったのさ。
それに、彼等に牧場も貸してもらったんだよ。友情の証にね!」
ぶわっとマントを翻して薔薇の造花を振れば花びらが舞い散る。
わざわざ『錬金』で生み出したその花弁を割って土の中から現れたのはモグラが2匹。
言うまでもなく『農場』の施設効果で増やしたジャイアントモールである。
つぶらな瞳の巨大モグラ3匹に囲まれて、ギーシュはすっかり悦っていた。
「紹介しよう! 僕の可愛いヴェルダンデの新しい姉妹、ウルドとスクルドだよ!」
「あっそう」
冷たく言ってルイズはギーシュから興味を失った。このモグラフェチは正直どうでも良い。
そして氷点下の視線のまま、自分の隣に居る二人に目を向ける。
「それで、アンタ達はなんで一緒に来てるのよ、特にツェルプストー」
「タイクツだからよヴァリエール。
野犬退治なんてつまらない事だけど、学院の中に籠もりっキリよりはまだマシだもの」
「キュルケが心配」
真っ赤に金色の模様が付いた派手なキンギョに腰掛けたキュルケと、青い風竜に乗ったタバサが答える。
ドスドスと、いささか翼が邪魔そうに歩く風竜のシィルフィードの背に乗る少女の頭は皆より倍ぐらい高い位置にある。
そこから、けれど威圧感はカケラも感じさせない幼い無表情な顔でポツリとこぼすタバサ。
「それにシルフィードもこの子達を心配している」
言いながら跨っている風竜の首の裏を撫でる。
きゅいきゅいと嬉しそうにしている竜は、どうやら使い魔用の厩で小鬼と仲良くなったらしい。
背中に乗ったタバサ以外に、頭に乗せた白い長毛の小鬼がそうなのだろう。
モフモフした体毛が触り心地の良さそうなその小鬼は、見た目に合わせたのかモップという名前だ。
彼(?)が学院に雇われて厩の掃除や飼い葉やりをしていた事をルイズは思い出していた。
「いやはや、美しい友情ですな! 素晴らしい事ですぞ!」
そう嬉しそうに言ったのはコルベール先生。
驚異的な迷宮メカニズムの産物を数々手にしてご満悦な様子はこの数日変わらない。
乗っている小型の蒸気自動車にもごっちゃりと不思議な荷物を積んでいる。
この自動車、研究室で自作したモノと言うから地味に凄い。
ただしスピードに関しては、その隣を輿に揺られて進むオババと同じぐらいだからそんなに早くは無いだろう。
四匹の小鬼がかつぐ輿にも荷物がたくさん載せられていて重そうだが、それでも平気な様子で小鬼達は運んでいる。
この小鬼達、それぞれが立派な逸材で『怠けもの』なオババの『右腕』として冒険中にも活躍してくれるのだ。
召喚師の小鬼ザック、寿ぎ屋の小鬼グッフ、盗賊の小鬼ドッム、医者の小鬼ジッム。
なんか医者だけ所属が違うっぽいけれど、チームワークも良い四人組である。
かくして、前衛がギーシュとクロビスとダッパ君、中衛にキュルケとタバサ、後衛がルイズとコルベールとオババという大所帯は森の中を進んでいた。
もちろん王宮メンバーの小鬼達は配下の小鬼を連れているので、実際は50人を超える集団である。
先頭を進むのは粗末な盾を手にして、棒の先に動物の牙をくくり付けた槍を持つ小鬼戦士団。
ハチマキを付けた意気盛んなクロビス親衛隊がそれに続く。
ぷーかぷーかと楽器を奏でながら軍旗を立てて進むダッパ君の『小鬼司令部』の後ろからは、黒光りする『小鬼大砲』をキンギョでガラガラと牽いている部隊が進む。
キュルケの隣を歩いているのは、背中にピンクの小鬼を乗せた火トカゲのフレイム。
その規模だけを見れば、ルイズが思っていたよりも本格的なものだ。
そんな中、左手に鍋を右手にホウキを持ってエプロンを着たルイズは自分が場違いなんじゃないかと不安になった。
いや、その大きな中華鍋はコルベールが『盾』と『合成』してある立派な防具で、『ホウキ』も仕込み『鉄砲』、『エプロン』すら『鎧』と『合成』された装甲なのだけれど。
不安を誤魔化すために周囲を見回していると、オババの部隊にあの星術師のピピンが居るのに気が付く。
まさに国民の総力を結集した遠征だったらしい。
「あれ? そう言えばモークはどこに居るの?」
その中に、ニンジャのモークが居ないことに今更気が付いてルイズが聞くと、彼は探索に出ているとの答え。
なんの事かと小首をかしげていると、その『雲散霧消の』モークと小鬼忍群がジュバババっと効果音を立てて現われた。
緑まぶしい春の森で黒服なのに全然目立たない存在感の無さが素晴らしい。
「…………」
「うむ、うむ……そうか、なるほど」
「ねぇ、なにをやってるのクロビス?」
耳打ちしてくるモークの報告聞く小鬼国王に問うルイズ。
主人の疑問にえっへんと胸を反らせてクロビスは答える。
「モークは敵の数や仕掛けられているトラップの有無を調べてくれているのだ。
情報を制する者は迷宮を制する。
どんな敵が、罠が待ち構えているのか、それを知らずに突進すれば、どんな強壮な宮廷といえども全滅を免れん。
自分が何のために、どんな敵と戦っているのかを知るのは百万迷宮で生き残る基本だな!」
「だったら無駄な決闘とかしなきゃ良かったのに」
「うるさーい! アレはアレで色々とその、重要な目的があっての事でだなぁ!」
「馴れない土地じゃ、ナメられない事も重要じゃからのぅ」
「むしろ思いっきり舐められたと思うけどね、あの決闘のせいで」
「うわーん! ルイズなんかキライだぁー!」
あ、泣いた。
泣いたままキンギョを駆って森の奥へと逃げ去るクロビス。
と、思ったら逃げた時より勢い良く戻ってくる。
「うわーん! 野犬が出たぁぁぁ!!」
「偵察した意味無いじゃない!」
――ぜんいん、せんとうじゅんびー!――
わーっと散らばりかけた小鬼達がダッパ君の号令に落ち着きを取り戻して武器をかまえる。
現われた野犬……もうほとんどオオカミと呼んでも良いような凶悪なツラ構えと体格の犬どもの数は十匹以上。
それは、もし単身遭遇したのならばメイジでも危険な数だった。
鍛えられた人間を凌駕するスピードで行われる、多方向からのコンビネーション攻撃は、それだけの危険性があるのだ。
だが、小鬼王国軍は数が違う。
1匹1匹は脆弱でも、組織されたこれだけの数に加えてメイジが5人も――その内3人はトライアングルクラス――居る。
たとえそのメイジの内一人が魔法を使えないゼロの料理人でも、野犬ごときに負けはしない。
だが、その予測を簡単に裏切る存在が野犬の背後から出現した。
「なによ、アレ!?」
それは異形の存在。
良く見れば野犬はクロビスを襲おうとしているのではなく、後から現われた怪物に怯えて逃げる最中だとわかる。
キャインキャインと逃げ去る犬。
一行には、そんな犬に注意を向ける余裕も無かった。
「な、なによアレ。まるで……」
「おイモ」
キュルケの震える声にタバサが簡潔に答えを示す。
それは手足が生えて槍を手にしたジャガイモの一団だった。
コロコロして美味しそうな、小鬼と同じぐらいのサイズをしたおイモ。
その槍の穂先は先割れスプーンになっている。
おイモの中には軍旗を掲げた者、楽器を叩く者も居る。
彼等おイモ以外にも、空中を飛ぶ凶悪な面構えの野菜や、カボチャの頭をもった猿のように奇妙な生物も見て取れた。
その奥から現われるのは、巨大なジャガイモ。
ジャガイモのクセに宝玉のマント留めと王冠を身につけ、ジャガイモのクセに豪奢な金髪のタテロール。
真っ赤なルージュも麗しく、福福しいその存在こそじゃが族の女王メイ・クイーン。
隣には赤い王冠を被った、白い粘液に満たされた涙滴型透明チューブが鎮座する。
チューブに立派なヒゲと両腕、ひるがえるマントを具えたソレはマヨ族の王マヨネーズ・キング。
威風堂々。
同盟関係を結ぶ『じゃが族』と『マヨ族』に『血を吸う野菜』達を加えた、混成ポテトサラダ部隊の進軍であった。
「ハ?」
ルイズは石化した。
ものすごーく現実を認めたくなさそうに、正面の部隊を鼻で笑う。
ここはトリステイン魔法学院からほんの少し離れただけの森の中。
なんでこんな、美味しそうな一団と遭遇せねばならないのだ。
ぶっちゃけありえない。
「くっ、油断していましたね。まさかこんな所でこんな恐るべき敵に遭遇するとは!」
「これは、気を引き締めて当たらねばなるまいね―――」
「いやあの、ミスタ・コルベール? ギーシュ?」
油断無く杖を構える二人のメイジ。
コルベールの周囲を炎が踊り、ギーシュを守るように3体のワルキューレが出現した。
「私達もやるわよ、タバサ!」
「…………(コクリ)」
「ねえちょっと、二人とも? あの変なのの存在に呆れるとか不信がるとかの反応は?」
キュルケは胸の谷間から取り出した杖を高く掲げ、タバサもまたシルフィードの背で呪文の詠唱を開始する。
空気は緊迫し、王宮率いる小鬼達もギラギラと獰猛な輝きを瞳に燈す。
「いやだから、今ってそーゆーシーンなの? ねぇ?」
「突撃ーっ!!」
「だから人の話をききなさーい!!」
ある意味唯一マトモな反応をしていたルイズをほっぽって、クロビスの号令一下戦闘が開始された。
先手を取ったのは小鬼達宮廷軍。
おそらく最強の敵であるメイ・クイーンとマヨネーズ・キングに向けてキュルケの炎とフレイムのブレスが放たれた。
だが、身を挺して王を守ったおイモ兵士がこんがり焼けただけで、その攻撃は防がれる。
周囲に漂う美味しそうな香り。
「ウォーター・バインド」
――小鬼大砲、つうじょうだん、てーっ!!――
続いてタバサの呪文が水の鎖となって敵を縛り、間髪居れず森の木々を揺るがす号砲が轟く。
ダッパ君の指揮の下、放たれた小鬼大砲が動きを止められた野菜達に直撃。
人食いダイコンが、吸血ニンジンが、アタック・ザ・キラートマトが、爆風で美味しそうに茹で上がった。
「キッキーッ!」
仲間が美味しそうに殺された事に怒りを感じたのか、奇妙な顔のカタチのくりぬかれたカボチャの頭をもった猿が宮廷に襲い掛かる。
奇声を上げて飛び込んで来た『カボチャ頭』を迎え撃つのはコルベール。
周囲を漂っていた火の粉がカボチャ頭に触れた途端、劫火となって敵を焼き尽くす。
一瞬にしてホッコリと中まで良い具合に火が通る恐るべき威力に、味方であるキュルケすらもが目を見張った。
「マヨーン!」
「ホクホクホクホクホ!」
だが、コルベールの攻撃的防御魔法が消費された瞬間を狙って、敵の総大将が号令を発した。
王と女王の指令に、一気呵成と攻め込んでくる混成野菜部隊。
殺人トマトと小鬼が取っ組み合い、辺りが血とトマトジュースで真っ赤に染まり、ダイコンに貫かれた小鬼が屍を晒した。
嫌いなピーマンに食べられる小鬼。高速で飛来したレンコンによって穴の空いた死体にされる小鬼。
殺意を閃かせて飛来する胡瓜と茄子をシルフィードがパクパクと食べる。
フレイムに襲い掛かったタマネギはこんがりローストされてヨダレものだ。
突き刺さる先割れスプーン。弾き返すのは粗末な槍。
軍靴の音と剣戟の音、怒号と悲鳴が非情な戦場を支配する交響曲だった。
「マヨーン!!」
混乱した戦場で、味方すら巻き込んで放たれたのはマヨネーズ・キングのブレスだった。
王冠の下に隠されていた星型の口から、その内容物がブチュルルルーっと開放される。
広範囲に飛び散って飛来する白い液体を、キュルケやタバサも避けられない。
ルイズもまた、その直撃を受けてしまう。
「いやだぁ、ベトベトじゃないの!!」
「なによ、この白くってネットリしたのは。気持ち悪いし、ブラウスが透けちゃうわ」
「……エローイ」
顔といわず髪といわず服といわず、白い粘液が三人の身体にベットリと張り付いた。
油脂分過多なされを食らえば、高級な生地だけに薄く仕立てられている魔法学院の制服など簡単に透けてしまう。
肌に命中すれば布で拭いてもとれない油っ気で肌がヌメヌメとテカリを帯びてしまう。
豊満なキュルケの健康的に日焼けした肌など、その曲線のなまめかしさが強調されているし、子供のような外見のタバサを白く汚す様子など色々犯罪的な匂いがする。
胸に直撃を受けたルイズなど、ハルケギニアにはブラジャーが無いためピンクの蕾がこう、透けてるような透けて無いような?
更に自慢の髪をベトベトにされて半泣きになった顔などもう大変だった。性的な意味で。
ちなみにブレスはギーシュとか小鬼にも命中しているが描写はしない。
「美味」
タバサはメガネに張り付いたそれを指でぬぐって口に運び、ゴクンと小さな喉を鳴らして飲み込むと、その正体を看破した。
それはマヨネーズ。
現代日本では卵黄と植物油から作られる調味料だが、百万迷宮ではこのモンスターの身体から搾り出されるのである。
ふかしたてのジャガイモにかけて食べるととてもウマイのは周知の通りだ。
「フン、やってくれたわね!」
胸の谷間に粘りつくマヨネーズをぬぐい、キュルケは杖をキングに向ける。
だが様子が変だった。
微妙に動きが遅い。
ボン・キュ・ボンだったはずのキュルケの体型が、いつのまにかボボン・ボボボン・ボボボボボンになっている。
元々Eカップはあったその胸はHカップを超えているが、胴回りはそれ以上に成長しているだろう。
「くうっ、マヨネーズ・キングの『肥満』にやられたぁ」
「ありえないよ! この美しいボクがっ!」
まるまると太ったクロビスとギーシュが声を上げる。
周囲にはふくよかに太ったコロコロのクロビス親衛隊。
マヨキンことマヨネーズ・キングの恐るべき能力。
それは、攻撃を受けた相手が抵抗に失敗すると太るという、一部の人には死ぬほどダメージを与えるものである。
太ると動くのダルい。移動したくなくなる。姿も緊張感が無くなる。
実に恐ろしい力だった。
だが、真に恐ろしいのはその先にある。
「ホック、ホクホクホクホーク!」
高らかな笑い声と共に、メイ・クイーンの能力が発動した。
『おいもコロコロ』と呼ばれるそれは、デブを転がす恐怖の呪い。
「きゃあぁぁぁぁぁ!?」
「うひゃあー!?」
「アリエナイィィィィィィィ!?」
「「「「「「「キューキュー!」」」」」」」
キュルケとギーシュと小鬼と、後とばっちりを食らって太った野菜がコロコロと転がる。
あちこちに頭や腰をぶつけて、けっこうシャレにならないレベルで痛そうだ。
あわててクロビスとキュルケに向かってルイズが『祈り』を放ったので無事だったが、小鬼達には致命傷だった。
倒れ伏すデブ小鬼とデブ野菜。
その中から、怒りに燃えたデブが憎悪を宿した瞳でイモを睨み、敢然と立ち上がる。
「ユルセナイィィィィィィィ!!」
「よくもこの私をデブにしてくれたわね! 死になさいこの根菜類と調味料!」
一本ブチ切れたギーシュとキュルケだった。
天へ向けて人差し指を振り上げるギーシュの手の動きに合わせて、地面から『錬金』される無数の槍。
突如現われた槍に、敵軍兵士達はなすすべもなく貫かれた。
「マヨーン!?」
ドテっ腹を槍で貫通されたキングの傷口から噴出したマヨネーズが、兵士達に降りかかって白く染め上げる。
そこに叩き込まれるのは、キュルケの怒りの炎だった。
自慢の美貌をアレな事にされた憤怒の形相はタバサ以外は味方すら恐怖で一歩後退する迫力。
全精神力を注いだ炎球が、メイ・クイーンやマヨネーズ・キングをも巻き込み、ほどよく焼き上げる。
この炎が全ての決着をつけた。
最早敵陣に息のある野菜は存在しない。
美味しそうな死体を積み上げ、後の小鬼王国史に『野菜のグリル・マヨネーズ仕立て会戦』として記される戦いは、キュルケの貴い犠牲を払いながらも決着したのである。
おまけの用語解説コーナー『百万迷宮の歩き方』
【モグラ増殖】
モンスターの民を増やす施設『牧場』を『同盟国の施設を借りる』ルールを利用して小鬼王国と同盟したギーシュが使用する事で理論上可能となる外道技。
理論上フレイムどころかシルフィだって増やせる。百万迷宮のドラゴンも普通に喋るし。
更に『迷宮キングダム』のルールブックには、『魔剣』と言う喋る剣のモンスターも……
【マヨネーズ・キング】
百万迷宮に生息する怪奇と言うかぶっちゃけ変な敵。略称マヨキン。
『迷宮キングダム』略称まよキンの、小鬼と並ぶマスコットキャラクター。
5レベルの『異形』にカテゴリーされるモンスターで、初期宮廷にはそこそこ強敵。
上位種族にマヨネーズキング・ピュアセレクトとゆーのが居る。ホントに居る。
百万迷宮住民の食卓の友。ただしコレステロールには気をつけるコト。
ぶっちゃけルイズ達にマヨネーズをかけたいから出した。まるで反省していない。
【メイ・クイーン】
じゃが族の女王で『異形』にカテゴリーされる7レベルのモンスター。イモ。
『肥満』のバッドステータスを食らった者を全員転がす能力『おいもコロコロ』を持つため、敵を『肥満』させる能力『高カロリー』を持つマヨキンとのコンボで出現させるが基本。
前後6マスのボードの上で戦闘を行う迷宮キングダムというゲームで、任意に3マス移動させた上で期待値7点のダメージを発生させるのだからたまらない。
実際のゲームでコレをやられると、ダメージ食らった上で敵陣に放り出されてフルボッコなのだ。
あと『魅了』なんて能力も持っていたりする。イモのクセに。
【肥満】
毒・散漫・肥満・呪い・睡眠・愚かと6種類あるバッドステータス(状態異常)の一つ。
太って動きにくくなるため、戦闘で1マス移動する度に1ダメージを受けるようになる。
1ターン食事をしないか、王国に帰還すれば肥満の状態異常は取り除かれる。
しかし迷宮キングダムというゲーム、1ターン食事をしないと宮廷全体がダメージを受けるし、かといって1ターンに3回以上(体力回復を狙って)食事をすると肥満するという、なかなかやっかいなゲームなのだ。
しかも食事は自動的に全員が取った事になるため、1人だけ肥満すると最後までデブのままだったりする。
ちなみにバッドステータスを無効にするスキルも存在するが、そのスキル名は『美形』。
美形はデブになったり愚かになったりしないのだ。
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