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少女は静かに歌う。
その歌声は風と共に流れて行く。遠く遠くどこまでも。
これは天使の歌を歌う少女と、<ゼロ>と呼ばれた少女が奏でる物語。
エンジェリック・ゼロ
(何とか成功して欲しいものだが・・・)
コルベールはそう呟きながら、眼前の桃色の髪の少女を見守っていた。
その日、トリステイン魔法学院では毎年の恒例行事である春の使い魔召喚の儀式が行われていた。
魔法を使う者が生涯を共にするパートナーを決める為の重要な儀式である。
どの様な使い魔が呼び出されるかはその時まで判らない為、召喚を行う生徒は勿論
今年の儀式の監督を務めるコルベールも緊張を崩せない。
万が一、召喚した使い魔が暴れ出した時に生徒達を護るのも彼の役目だからである。
去年の儀式では大蛇を召喚した生徒が契約の呪文を唱えようと近づいた途端
その大蛇に危うく丸呑みにされかけた事があっただけに、今年もそうならない様、不測の事態に備えていた。
だが、今年の儀式は大したトラブルも無く、一人を除いた全ての生徒が無事に召喚を終えていた。
中には非常に珍しい風竜の子供を召喚した生徒も居り、それはコルベールにとっても満足の行くものであったが
彼は未だ緊張の面持ちを崩していない。その原因は最後に儀式に望んだ生徒にあった。
彼女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
トリステインでも有数の名門貴族の出身でありながら、如何なる魔法も全て爆発させてしまうという特異な存在だった。
その有り様に周囲からは『ゼロ』のルイズと揶揄され、馬鹿にされている。
その為、彼女はせめて使い魔だけでも立派な者を召喚しようと決意し、儀式に望んだ訳だが
失敗の連続に初めのうちは笑っていた生徒達も「早くしろよ」「何時まで続ける気だ」等、様々な野次を彼女に飛ばしていた。
「皆さん! ミス・ヴァリエールも一生懸命やっているのですから、彼女を責めるのはやめなさい!」
コルベールの一喝に騒いでいた生徒達は一瞬で静まり返る。
思わず語気を荒げてしまったが、ルイズが人一倍努力家である事を誰よりも知っている自分にとって
彼女が馬鹿にされる事は教師として許せない。だからこれは仕方が無い事だと彼は思った。
とは言え、彼女の召喚の失敗は既に三十回に及んでいる。
いくら召喚の呪文が微少の魔力消費で済む『コモン・マジック』の一種だとしても、かなりの魔力を消費している筈だ。
事実、彼女の顔には相当な疲労の色が浮かんでいた。その様子に心配になったコルベールが声を掛けた。
「大丈夫かね。ミス・ヴァリエール。少し休んだ方がいい。」
「い、いえ、まだ行けます! ミスタ・コルベール!」
「しかしだね、君は相当疲れている筈だ。このまま続けても埒が明かない。
後日、改めて儀式を行える様に学院長に掛け合ってみるから、今日の所はこれで終わりにしなさい。」
「で、でも」
「でも、何だね。」
「それでは納得が行かないんです! 後一回、一回でいいですからやらせて下さい! お願いします!」
さて、どうしたものか・・・
このまま特別扱いしても、他の生徒達に示しがつかない。だが、彼女がここまで頑張って来た事を無駄にもしたくない。
暫く考えた後、コルベールは静かに口を開いた。
「判りました。特別に後一回だけ認めましょう。但し、これで失敗したら私の言う通りにしてもらいます。
それで構いませんね。」
「はい! ありがとうございます! ミスタ・コルベール!」
ルイズは嬉しそうに礼を言った後、今まで以上に真剣な表情で呪文を唱え始めた。
「この宇宙の何処かにいる私の下僕よ! 神聖で美しく、そして、気高く力強い使い魔よ!
・・・えーい! この際、何でもいいわっ! 私は心より求め、訴えるわっ!
我が導きに答えなさいっ! ってゆうか答えてください! お願いします!!」
半分自棄になりながらも呪文を唱える彼女の熱意に応えたのか、魔方陣から眩い光が溢れ出した。
また失敗するとばかり思っていた生徒達から驚きの声が上がる。
そんな周囲を余所に、ルイズは一人感動に打ち震えていた。
(遂にやったわ! 私だってやれば出来るのよ。
さあ、その神聖で美しく、そして、気高く力強い姿を私に見せなさい・・・・・・って、あれ・・・?)
光が収まった後、そこに居たのは神聖で美しく、そして、気高く力強い使い魔ではなく、人間の少女だった。
年はルイズよりも下だろうか。『少女』と言うよりはまだ『子供』と言った方が良い感じだった。
柔らかそうなライトブラウンの髪を両側で留めているヘアピンはうさぎの顔を可愛く模っており
少女の幼さをより引き立たせている。眠るように静かに横たわる様は、まるで人形のように可愛らしかった。
周囲からは「ゼロのルイズが平民を召喚したぞ」等と笑いが起こった。それは何時もの事なので特に気にはしなかったが
何故か一部の男子が鼻息を荒くしていたのが気に入らなかったので、失敗魔法の爆発で容赦無く吹き飛ばした。
そんなやり取りをしていても少女は一向に目を覚まさないので、ルイズは不安を覚えた。
「ミミミ、ミスタ・コルベール! さっきから、全然目を覚まさないんですけど。
まま、まさか死んでるんじゃ・・・」
ルイズが言い終わるより早く、コルベールが少女に駆け寄り、彼女の脈を確認する。
「いや、脈はあるから死んでいる訳では無い様だ。恐らく召喚された時のショックで気を失っているのだろう。」
「そうですか。良かったぁ・・・・・・あの、ミスタ・コルベール。」
「ん?何かね。」
「やはりこの平民を使い魔にしなければいけなんでしょうか。」
「もちろんだとも。この使い魔召喚の儀式は君達の将来を決める上でも重要なんだ。
それに一度呼び出した使い魔を変更する事は出来ない。それだけに神聖な儀式でもあるんだ。」
ルイズはがっくりと肩を落とす。
だが、何時までも惚けていても仕方が無いので、諦めて契約しようと少女に足を向けようとした所で
コルベールが慌てて彼女を止めた。
「待ちなさい、ミス・ヴァリエール。話を最後まで聞きなさい。」
ルイズが自分の方を向いたのを確認してから言葉を続ける。
「私も今まで様々な使い魔を見てきたが、人間の少女を召喚したのは君が初めてだよ。
普通なら早く契約を済ませなさいと言いたいところだが、今回ばかりは少し事情が違う。」
「どういうことですか。」
「特殊なケースだからね。彼女にも色々と話を聞いてみたいのだよ。
だから、それまで契約するのを待って貰いたいのだが、構わないかね。
勿論、契約をするなという訳では無いから安心して欲しい。」
「・・・判りました。そちらにお任せします。ただ・・・」
「ただ?」
「あんまり可愛いからって、絶対に変な事だけはしないで下さいね。」
「・・・君は普段からそういう目で、私の事を見ていたのかね・・・・・・」
ルイズのあまりの一言にコルベールはがっくりと肩を落とした。
このコルベールという男、人当たりの良さと教育熱心なところから、生徒や教師からの人気は総じて高い。
だが、女性が嫌いではないにも拘らず、そのような素振りをあまり見せない為、一部では少女趣味があるのではないかと
噂されていた。
「と、兎に角、このままここに寝かせて置く訳にもいかないだろう。取り敢えず医務室に運ぼう。」
コルベールは杖を一振りし、少女に『レビテーション』の魔法を掛ける。少女の体がふわりと宙に浮き上がった。
自ら抱き抱えて運ぼうとも考えたが、今は止めて置く事にした。
「さあ、召喚の儀式はこれで終わりです。今日はもう授業はありませんから、各自、自分の部屋に戻りなさい。
ミス・ヴァリエールは私と一緒に医務室に向かいましょう。」
ルイズは契約が出来なかった事に気落ちしたが、召喚が旨くいっただけでも上出来だ。と前向きに考え直したところで
コルベールの後を追う事にした。
#navi(エンジェリック・ゼロ)
少女は静かに歌う。
その歌声は風と共に流れて行く。遠く遠くどこまでも。
これは天使の歌を歌う少女と、<ゼロ>と呼ばれた少女が奏でる物語。
エンジェリック・ゼロ
(何とか成功して欲しいものだが・・・)
コルベールはそう呟きながら、眼前の桃色の髪の少女を見守っていた。
その日、トリステイン魔法学院では毎年の恒例行事である春の使い魔召喚の儀式が行われていた。
魔法を使う者が生涯を共にするパートナーを決める為の重要な儀式である。
どの様な使い魔が呼び出されるかはその時まで判らない為、召喚を行う生徒は勿論
今年の儀式の監督を務めるコルベールも緊張を崩せない。
万が一、召喚した使い魔が暴れ出した時に生徒達を護るのも彼の役目だからである。
去年の儀式では大蛇を召喚した生徒が契約の呪文を唱えようと近づいた途端
その大蛇に危うく丸呑みにされかけた事があっただけに、今年もそうならない様、不測の事態に備えていた。
だが、今年の儀式は大したトラブルも無く、一人を除いた全ての生徒が無事に召喚を終えていた。
中には非常に珍しい風竜の子供を召喚した生徒も居り、それはコルベールにとっても満足の行くものであったが
彼は未だ緊張の面持ちを崩していない。その原因は最後に儀式に望んだ生徒にあった。
彼女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
トリステインでも有数の名門貴族の出身でありながら、如何なる魔法も全て爆発させてしまうという特異な存在だった。
その有り様に周囲からは『ゼロ』のルイズと揶揄され、馬鹿にされている。
その為、彼女はせめて使い魔だけでも立派な者を召喚しようと決意し、儀式に望んだ訳だが
失敗の連続に初めのうちは笑っていた生徒達も「早くしろよ」「何時まで続ける気だ」等、様々な野次を彼女に飛ばしていた。
「皆さん! ミス・ヴァリエールも一生懸命やっているのですから、彼女を責めるのはやめなさい!」
コルベールの一喝に騒いでいた生徒達は一瞬で静まり返る。
思わず語気を荒げてしまったが、ルイズが人一倍努力家である事を誰よりも知っている自分にとって
彼女が馬鹿にされる事は教師として許せない。だからこれは仕方が無い事だと彼は思った。
とは言え、彼女の召喚の失敗は既に三十回に及んでいる。
いくら召喚の呪文が微少の魔力消費で済む『コモン・マジック』の一種だとしても、かなりの魔力を消費している筈だ。
事実、彼女の顔には相当な疲労の色が浮かんでいた。その様子に心配になったコルベールが声を掛けた。
「大丈夫かね。ミス・ヴァリエール。少し休んだ方がいい。」
「い、いえ、まだ行けます! ミスタ・コルベール!」
「しかしだね、君は相当疲れている筈だ。このまま続けても埒が明かない。
後日、改めて儀式を行える様に学院長に掛け合ってみるから、今日の所はこれで終わりにしなさい。」
「で、でも」
「でも、何だね。」
「それでは納得が行かないんです! 後一回、一回でいいですからやらせて下さい! お願いします!」
さて、どうしたものか・・・
このまま特別扱いしても、他の生徒達に示しがつかない。だが、彼女がここまで頑張って来た事を無駄にもしたくない。
暫く考えた後、コルベールは静かに口を開いた。
「判りました。特別に後一回だけ認めましょう。但し、これで失敗したら私の言う通りにしてもらいます。
それで構いませんね。」
「はい! ありがとうございます! ミスタ・コルベール!」
ルイズは嬉しそうに礼を言った後、今まで以上に真剣な表情で呪文を唱え始めた。
「この宇宙の何処かにいる私の下僕よ! 神聖で美しく、そして、気高く力強い使い魔よ!
・・・えーい! この際、何でもいいわっ! 私は心より求め、訴えるわっ!
我が導きに答えなさいっ! ってゆうか答えてください! お願いします!!」
半分自棄になりながらも呪文を唱える彼女の熱意に応えたのか、魔方陣から眩い光が溢れ出した。
また失敗するとばかり思っていた生徒達から驚きの声が上がる。
そんな周囲を余所に、ルイズは一人感動に打ち震えていた。
(遂にやったわ! 私だってやれば出来るのよ。
さあ、その神聖で美しく、そして、気高く力強い姿を私に見せなさい・・・・・・って、あれ・・・?)
光が収まった後、そこに居たのは神聖で美しく、そして、気高く力強い使い魔ではなく、人間の少女だった。
年はルイズよりも下だろうか。『少女』と言うよりはまだ『子供』と言った方が良い感じだった。
柔らかそうなライトブラウンの髪を両側で留めているヘアピンはうさぎの顔を可愛く模っており
少女の幼さをより引き立たせている。眠るように静かに横たわる様は、まるで人形のように可愛らしかった。
周囲からは「ゼロのルイズが平民を召喚したぞ」等と笑いが起こった。それは何時もの事なので特に気にはしなかったが
何故か一部の男子が鼻息を荒くしていたのが気に入らなかったので、失敗魔法の爆発で容赦無く吹き飛ばした。
そんなやり取りをしていても少女は一向に目を覚まさないので、ルイズは不安を覚えた。
「ミミミ、ミスタ・コルベール! さっきから、全然目を覚まさないんですけど。
まま、まさか死んでるんじゃ・・・」
ルイズが言い終わるより早く、コルベールが少女に駆け寄り、彼女の脈を確認する。
「いや、脈はあるから死んでいる訳では無い様だ。恐らく召喚された時のショックで気を失っているのだろう。」
「そうですか。良かったぁ・・・・・・あの、ミスタ・コルベール。」
「ん?何かね。」
「やはりこの平民を使い魔にしなければいけなんでしょうか。」
「もちろんだとも。この使い魔召喚の儀式は君達の将来を決める上でも重要なんだ。
それに一度呼び出した使い魔を変更する事は出来ない。それだけに神聖な儀式でもあるんだ。」
ルイズはがっくりと肩を落とす。
だが、何時までも惚けていても仕方が無いので、諦めて契約しようと少女に足を向けようとした所で
コルベールが慌てて彼女を止めた。
「待ちなさい、ミス・ヴァリエール。話を最後まで聞きなさい。」
ルイズが自分の方を向いたのを確認してから言葉を続ける。
「私も今まで様々な使い魔を見てきたが、人間の少女を召喚したのは君が初めてだよ。
普通なら早く契約を済ませなさいと言いたいところだが、今回ばかりは少し事情が違う。」
「どういうことですか。」
「特殊なケースだからね。彼女にも色々と話を聞いてみたいのだよ。
だから、それまで契約するのを待って貰いたいのだが、構わないかね。
勿論、契約をするなという訳では無いから安心して欲しい。」
「・・・判りました。そちらにお任せします。ただ・・・」
「ただ?」
「あんまり可愛いからって、絶対に変な事だけはしないで下さいね。」
「・・・君は普段からそういう目で、私の事を見ていたのかね・・・・・・」
ルイズのあまりの一言にコルベールはがっくりと肩を落とした。
このコルベールという男、人当たりの良さと教育熱心なところから、生徒や教師からの人気は総じて高い。
だが、女性が嫌いではないにも拘らず、そのような素振りをあまり見せない為、一部では少女趣味があるのではないかと
噂されていた。
「と、兎に角、このままここに寝かせて置く訳にもいかないだろう。取り敢えず医務室に運ぼう。」
コルベールは杖を一振りし、少女に『レビテーション』の魔法を掛ける。少女の体がふわりと宙に浮き上がった。
自ら抱き抱えて運ぼうとも考えたが、今は止めて置く事にした。
「さあ、召喚の儀式はこれで終わりです。今日はもう授業はありませんから、各自、自分の部屋に戻りなさい。
ミス・ヴァリエールは私と一緒に医務室に向かいましょう。」
ルイズは契約が出来なかった事に気落ちしたが、召喚が旨くいっただけでも上出来だ。と前向きに考え直したところで
コルベールの後を追う事にした。
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