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「ゼロのアルケミスト-5」(2008/02/28 (木) 17:19:21) の最新版変更点
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自分で言うのもなんだが私 シエスタは仕事熱心な方だと思う。貴族様と接するのは緊張するけど、それで仕事がイヤになった事は無い。
もちろん働かなければ生きて行けないという理由も無きにしも非ずだが、それでもお仕事にはそれ以上の意味を感じている。
「はぁ……」
でもそのお方に会わなければならない時だけは、気の抜けた溜め息が漏れてしまう。
手には頼まれた洗濯物を満載した籠を持ち重い足取りで進むのは、今まではメイドすら余り行かなかった中庭の一角。
広くてガッシリとした石造りの小屋、その扉の前で大きく深呼吸。まるで魔王の城に突入する勇者様……のような気分。
「ミス・パラケルスス、仰せつかっていた洗濯物をお持ちしました」
「は~い」
「あれ?」
何時もの優しい声は建物の中からではなく、その後ろから聴こえてくる。そちらには周ってみれば、立派な菜園が広がっていた。
貴族様が好んでする花を中心とした庭ではない。文字通り様々な植物が畑のように整然と並んでいる。
「わ~……ヒャッ!」
思わず故郷の風景を思い出して漏らしてしまった歓声は、後ろから私の胸を揉む手の出現で素っ頓狂な悲鳴に変わる。
恐らくアノ人だ。もう何度目かなんて数えていないけど、微妙なテクニックでクセに……しっかりして、私!!
「ご苦労様~いつも頼んで悪いわね」
「イエ……メイドの仕事ですから」
「じゃあ私に改造されるのも…「違います」…チェッ!」
何とか否定の言葉を搾り出すと、胸を揉んでいた手は離れる。声の主は残念そうに私の前へと周った。
現れたのは間違いなく絶世の美人。にこやかな笑みを絶やさない妙齢な女性。紫色の長い髪はキラキラと輝き、しみ一つ無い白い肌。
「もう~いい加減にOKしてくれれば良いのに~」
「こればかりはダメです、ミス・パラケルスス」
そんな話をしながらもミス・パラケルススは土を弄り、植えられた植物に水を与えていた。
私のお給金何か月分するか解らない服は所々土に汚れている。これは普通の貴族様ではありえない事。
異国のメイジであるこの人は学園にお仕えしている平民が持つ貴族 メイジに対する認識を容易く打ち壊している。
「クラリスでいいわよ? 他のメイドたちにもそう呼んでもらっているから」
「はい、クラリス様」
この人はとにかくとっつき易い。どんな時でもニコニコ微笑んでいる。そして私たち平民を下に見ていないのだ。
何か頼みごとを仰せつかった時は『お願いね?』とか『手間を取らせてごめんなさい』。やり終えれば『ありがとう』や『助かったわ』なんて言ってくれる。
貴族様が平民を下に見るのは当然であり、メイドにいちいち配慮やお礼などしないのが普通。
今までそうやって来た皆からすれば、お礼と言うのは味わったことが無いある種の快感だったのだろう。
だから私の同僚もクラリス様にお呼びがかかると実に嬉しそうだし、仕事をやり終えた時も満ち足りた表情。
「そうそう! 話は変わるけどシエスタちゃん!」
「はい、なんでしょうか」
「魔法……使いたくない?」
「結構です!」
話は振り出しに戻ったらしい。そう言えば他の子もこんなお誘いを受けているのだろうか?
クラリス様が不思議なのは何もお礼を言ってくれるなんて小さな事に縛られない。
『怪我を魔法で治してくれた』とか『風邪に効く魔法薬を貰った』。果ては『故郷の姉に安産祈願のお守りをくれた』みたいな言う話は良く聴く。
プライドなんて何処吹く風で、誰にでもメイジの特権たる魔法や高いだろう薬などを軽々しく与える。
本人曰く『データが欲しい』とのことだけど、効果があるのだから貰った人は大喜び。
だけど……私はこの人が怖い。
改造されそうになるからって言うのもあるけど、大きな理由はソレではない。
本当に怖いのは笑顔。いつもニコニコと笑っている事が逆に怖いのだ。裏も表も無さ過ぎる笑みは狙ったように邪気を取り除いた結果なのでは?
本当に自分が失礼なことを考えていると解っているのだが、そんな思考が止まらなかった。
「あの……クラリス様?」
「なにかしら?」
「そのハシバミ草……大きすぎませんか?」
しかし目の前の怪奇現象でそんな恐怖心が吹き飛んだ。良く考えたら作ったばかりであるはずの菜園で植物が実をつけているのはオカシイ。そして現在進行形で山のように大きくなるハシバミ草の塊。
「調合を間違えたかしら……」
「なっなんのですか?」
「肥料」
オカシイ。肥料って言うのは植物の成長を促す物で、葉っぱに目が付いたり、蔓が動き出すようなものでは(ry
私は数日ハシバミ草が食べられなくなった。
ギーシュ・ド・グラモンは混乱していた。『なぜこんな事になったのだろう?』と。
僕は今闘っていた。残念ながら決闘なんて良い物じゃない。ゼロのルイズ曰く『実験』と言う事らしい。
「ギーシュ、ボサっとしているとさっさと終わっちゃうからしっかりやんなさい!」
「うるさいな! ゼロのルイズの使い魔なんて相手に……『斬!』…あれ?」
ルイズにぶつけていた反論は中断せざる得なかった。視線をワルキューレに戻せば、中心で真っ二つに両断された青銅が地面を打ち、鈍い音を立てる。
「どう、エルザ。デルフの切れ味は」
「申し分ありません」
「当たり前だぜ、何せオレ様は……」
「はいはい。解った解った」
もちろん真っ二つにしてくれたのはルイズの使い魔であり、ミス・パラケルススの人造生命体のエルザ。
白い肌に銀色の髪、幼い少女の姿だが感情を廃した表情はやはり人間ではない何かを感じさせる。
戦闘用らしい黒の防護コートに身を包み、手にはなにやら良く喋るインテリジェントソードを握っていた。
これでルイズの声で『うるさいうるさい!』とか言えば灼○のシ○ナなのだが……何を考えているんだろう?
「ギーシュ! さっさとワルキューレを出しなさい」
「何で僕がこんな事を……」
「あら? ギーシュ・ド・グラモンはゼロのルイズに背を向けるのかしら?」
「ッ!? 冗談じゃない!」
思わず叫び造花の杖を振ってワルキューレを作ってから後悔した。上手い事自分は乗せられているんだと気が付いて。
だがもう遅いようだ。敵の出現を喜ぶようにエルザが走り出す。戦闘用に調整されているらしい身体能力は半端ではない。
瞬く間に大剣に両断される無数のワルキューレ。ただ負けるなんてイヤだから、必死に指示を飛ばしているというのに全く相手にならない。
歯痒い! もう決闘ではないとか、唯の実験なんて無意味な慰めだ。そんな様子をみて勝ち誇り、笑っているのだろうルイズを睨みつけて……
「なんでそんな真剣な顔を……」
手に持ったメモ帳に戦闘を睨みつけながら、何かを書き連ねているルイズが居た。ブツブツと呟いては首を傾げ、熱心にメモを取る。
『実験だ』と確かに言われては居たが……どうやら彼女は他人も何かが進んでいるようだ。魔法など具体的なことではなく、志の面で……
「イタッ!」
ルイズに見とれていたのは五秒に満たない程度だったはず。だと言うのに僕は何かに首を掴んで押し倒されている。
自分の状態を理解すると視界には僕の首元を押さえたまま、大剣を逆手にして振り下ろしてくる銀髪の少女。
その目は僕を殺すことをなんとも思っていないガラスのようで……ってギャ~!! なんか殺されそうになってるけど!!
「ストップよ、エルザ!!」
「しっ死ぬところだったぞ!?」
ビタリとご主人様の命令で止まったエルザを払いのけて、怒鳴った。貴族は何時でも取り乱してはならないのだろうが、命がけとなると話は別。
だけどようやくメモ帳から目を離したルイズは実に単純に言い切った。
「ゴメン、エルザに貴方を『倒せ』って命令したけど、『殺すな』って言うの忘れてた」
「君は頭までゼロなのか!? そんな理由で殺され…『マスターの悪口は許さない』…ゴメン」
ピタリと背後から首筋に当たる冷たい感覚に、僕の最後の嘆きは遮られた。珍しそうに集まっていたギャラリーからは笑いが聞こえる。
世の中はこんな筈じゃなかった事ばかりである。
「やっぱり武器を持つとエルザは強くなるみたいね」
ギーシュを相手にした実験も終了して、ルイズはメモ帳に書き連ねたデータに目を通す。
あの後デルフ無しでギーシュと闘ってもらったが、やはり苦戦した。
そこからわかる事は武器使用による有効打の増加だけではなく、エルザの動きそのものが違うと言う事。
「エルザ、デルフや武器を持っている時ってどんな感じ?」
「私が本来持っている能力以上のモノを引き出している感覚があります。具体的に説明する事は出来ませんが……」
「なるほど……」
宝物庫が見える中庭の一角で、私はエルザに膝枕してもらいながら、思考に耽っていた。ア~実に落ち着く。この膝は良いものだ……あれだけ運動したというに汗の匂いが全くしないし、弾力が違う。
因みにエルザの今の格好はクラリス様から貰った防護コートを脱ぎ、戦闘用にと作ったフィットする素材で作られたタイトな黒の上下。
露出した肩と太腿がなんとも素晴らしい……アレ? 思考がクラリス様のようになっている。汚染されてしまったのだろうか?
「使い魔の幼女に膝枕させている時点で、充分に踏み外してると思うぜ? 娘っこ」
「黙れ、バカ剣。クラリス様に溶かして作り直してもらうわよ?」
「ヒィ!? アソコだけは勘弁してくれ! もうアソコには……あの魔女に弄られるのはイヤだ~!!」
エルザの横に置いた剣 デルフリンガーがカタカタと音を立てて震えている。なにやらトラウマがあるらしい。
買った日に錆を落としてもらおうとクラリス様に預けたら、錆がキレイに落ちて華麗な装飾が施された握りに換装して帰ってきた。
でもどうやらその過程でトラウマが出来たらしく、彼女の名前を出せば無条件でこの剣は大人しくなる。
「さて……今度は私の魔法の練習ね」
未だにエルザの膝から頭を起こさないが、取り出したのは杖。合いも変わらず爆発ばかりだけど、それでも私は練習していた。
いつかチャンと当たるようになれば、並みの攻撃魔法よりも威力が高いと言う事に気が付いたから。
「レビテーション」
ポツリと呟いてみた。いつも真面目に狙って当たらないのだから、不真面目にやってみた。発想の転換は大事!だとクラリス様もいつも言っている。あの人は思考が転換どころか、回転していて一般人は付いていけないけど……
「ドゴォォン」
何処かで爆音が聞こえた。頭を起こして見てみれば、煙を上げ微かにヒビが走る宝物庫の搭。
アァ……不真面目にやると見当違いな場所が爆発するようだ。こうしてまたルイズは賢くなったのである。
「アレって……ゴーレム!?」
知識の進展に寄与した搭を感慨深げに眺めていると、不意に立ち上がった巨大な土の人型。
トライアングル以上の土メイジが操っているだろうゴーレムが巨大な拳を振り降ろした。
先程とは違った轟音に耳を塞いでいたら、あっけなく崩れ落ちる外壁が見える。
アレか? 私の爆発のせいだろうか? スクウェアクラスメイジが数人で固定化をかけた壁がまるでゴミのようだ!!
「まさか土くれ?」
物騒な事を考えていたらゴーレムの肩から宝物庫へ侵入するローブを纏った人影が見えた。
数秒と経たずに出てきたソイツの手に中には何かのマジックアイテムが抱えれている。反転したゴーレムを呆然と見送って私はまずしなければならない事をする。
「エルザ……」
「はい、マスター」
「ついでにデルフ」
「俺はオマケかよ」
真剣な声で呼びかけ、真剣な瞳を向けて私は成すべき事をする。それは……
「これから色々と強奪の経緯を聞かれるわ。その時に……私の魔法の事は言わないように」
成すべき事は口止め。『私の爆発がきっかけでゴーレムが搭を破壊できました!』なんて決して知られてはならない。
懲罰どころか退学処分だってありうる……アァ、恐ろしい!
「解りました、マスター。決してマスターが私の膝枕上からテキトウに魔法を唱えた事は口外しません」
「……もうちょっと言葉をオブラートに包みなさい、エルザ」
「申し訳ありません」
#navi(ゼロのアルケミスト)
自分で言うのもなんだが私 シエスタは仕事熱心な方だと思う。貴族様と接するのは緊張するけど、それで仕事がイヤになった事は無い。
もちろん働かなければ生きて行けないという理由も無きにしも非ずだが、それでもお仕事にはそれ以上の意味を感じている。
「はぁ……」
でもそのお方に会わなければならない時だけは、気の抜けた溜め息が漏れてしまう。
手には頼まれた洗濯物を満載した籠を持ち重い足取りで進むのは、今まではメイドすら余り行かなかった中庭の一角。
広くてガッシリとした石造りの小屋、その扉の前で大きく深呼吸。まるで魔王の城に突入する勇者様……のような気分。
「ミス・パラケルスス、仰せつかっていた洗濯物をお持ちしました」
「は~い」
「あれ?」
何時もの優しい声は建物の中からではなく、その後ろから聴こえてくる。そちらには周ってみれば、立派な菜園が広がっていた。
貴族様が好んでする花を中心とした庭ではない。文字通り様々な植物が畑のように整然と並んでいる。
「わ~……ヒャッ!」
思わず故郷の風景を思い出して漏らしてしまった歓声は、後ろから私の胸を揉む手の出現で素っ頓狂な悲鳴に変わる。
恐らくアノ人だ。もう何度目かなんて数えていないけど、微妙なテクニックでクセに……しっかりして、私!!
「ご苦労様~いつも頼んで悪いわね」
「イエ……メイドの仕事ですから」
「じゃあ私に改造されるのも…「違います」…チェッ!」
何とか否定の言葉を搾り出すと、胸を揉んでいた手は離れる。声の主は残念そうに私の前へと周った。
現れたのは間違いなく絶世の美人。にこやかな笑みを絶やさない妙齢な女性。紫色の長い髪はキラキラと輝き、しみ一つ無い白い肌。
「もう~いい加減にOKしてくれれば良いのに~」
「こればかりはダメです、ミス・パラケルスス」
そんな話をしながらもミス・パラケルススは土を弄り、植えられた植物に水を与えていた。
私のお給金何か月分するか解らない服は所々土に汚れている。これは普通の貴族様ではありえない事。
異国のメイジであるこの人は学園にお仕えしている平民が持つ貴族 メイジに対する認識を容易く打ち壊している。
「クラリスでいいわよ? 他のメイドたちにもそう呼んでもらっているから」
「はい、クラリス様」
この人はとにかくとっつき易い。どんな時でもニコニコ微笑んでいる。そして私たち平民を下に見ていないのだ。
何か頼みごとを仰せつかった時は『お願いね?』とか『手間を取らせてごめんなさい』。やり終えれば『ありがとう』や『助かったわ』なんて言ってくれる。
貴族様が平民を下に見るのは当然であり、メイドにいちいち配慮やお礼などしないのが普通。
今までそうやって来た皆からすれば、お礼と言うのは味わったことが無いある種の快感だったのだろう。
だから私の同僚もクラリス様にお呼びがかかると実に嬉しそうだし、仕事をやり終えた時も満ち足りた表情。
「そうそう! 話は変わるけどシエスタちゃん!」
「はい、なんでしょうか」
「魔法……使いたくない?」
「結構です!」
話は振り出しに戻ったらしい。そう言えば他の子もこんなお誘いを受けているのだろうか?
クラリス様が不思議なのは何もお礼を言ってくれるなんて小さな事に縛られない。
『怪我を魔法で治してくれた』とか『風邪に効く魔法薬を貰った』。果ては『故郷の姉に安産祈願のお守りをくれた』みたいな言う話は良く聴く。
プライドなんて何処吹く風で、誰にでもメイジの特権たる魔法や高いだろう薬などを軽々しく与える。
本人曰く『データが欲しい』とのことだけど、効果があるのだから貰った人は大喜び。
だけど……私はこの人が怖い。
改造されそうになるからって言うのもあるけど、大きな理由はソレではない。
本当に怖いのは笑顔。いつもニコニコと笑っている事が逆に怖いのだ。裏も表も無さ過ぎる笑みは狙ったように邪気を取り除いた結果なのでは?
本当に自分が失礼なことを考えていると解っているのだが、そんな思考が止まらなかった。
「あの……クラリス様?」
「なにかしら?」
「そのハシバミ草……大きすぎませんか?」
しかし目の前の怪奇現象でそんな恐怖心が吹き飛んだ。良く考えたら作ったばかりであるはずの菜園で植物が実をつけているのはオカシイ。そして現在進行形で山のように大きくなるハシバミ草の塊。
「調合を間違えたかしら……」
「なっなんのですか?」
「肥料」
オカシイ。肥料って言うのは植物の成長を促す物で、葉っぱに目が付いたり、蔓が動き出すようなものでは(ry
私は数日ハシバミ草が食べられなくなった。
ギーシュ・ド・グラモンは混乱していた。『なぜこんな事になったのだろう?』と。
僕は今闘っていた。残念ながら決闘なんて良い物じゃない。ゼロのルイズ曰く『実験』と言う事らしい。
「ギーシュ、ボサっとしているとさっさと終わっちゃうからしっかりやんなさい!」
「うるさいな! ゼロのルイズの使い魔なんて相手に……『斬!』…あれ?」
ルイズにぶつけていた反論は中断せざる得なかった。視線をワルキューレに戻せば、中心で真っ二つに両断された青銅が地面を打ち、鈍い音を立てる。
「どう、エルザ。デルフの切れ味は」
「申し分ありません」
「当たり前だぜ、何せオレ様は……」
「はいはい。解った解った」
もちろん真っ二つにしてくれたのはルイズの使い魔であり、ミス・パラケルススの人造生命体のエルザ。
白い肌に銀色の髪、幼い少女の姿だが感情を廃した表情はやはり人間ではない何かを感じさせる。
戦闘用らしい黒の防護コートに身を包み、手にはなにやら良く喋るインテリジェントソードを握っていた。
これでルイズの声で『うるさいうるさい!』とか言えば灼○のシ○ナなのだが……何を考えているんだろう?
「ギーシュ! さっさとワルキューレを出しなさい」
「何で僕がこんな事を……」
「あら? ギーシュ・ド・グラモンはゼロのルイズに背を向けるのかしら?」
「ッ!? 冗談じゃない!」
思わず叫び造花の杖を振ってワルキューレを作ってから後悔した。上手い事自分は乗せられているんだと気が付いて。
だがもう遅いようだ。敵の出現を喜ぶようにエルザが走り出す。戦闘用に調整されているらしい身体能力は半端ではない。
瞬く間に大剣に両断される無数のワルキューレ。ただ負けるなんてイヤだから、必死に指示を飛ばしているというのに全く相手にならない。
歯痒い! もう決闘ではないとか、唯の実験なんて無意味な慰めだ。そんな様子をみて勝ち誇り、笑っているのだろうルイズを睨みつけて……
「なんでそんな真剣な顔を……」
手に持ったメモ帳に戦闘を睨みつけながら、何かを書き連ねているルイズが居た。ブツブツと呟いては首を傾げ、熱心にメモを取る。
『実験だ』と確かに言われては居たが……どうやら彼女は他人も何かが進んでいるようだ。魔法など具体的なことではなく、志の面で……
「イタッ!」
ルイズに見とれていたのは五秒に満たない程度だったはず。だと言うのに僕は何かに首を掴んで押し倒されている。
自分の状態を理解すると視界には僕の首元を押さえたまま、大剣を逆手にして振り下ろしてくる銀髪の少女。
その目は僕を殺すことをなんとも思っていないガラスのようで……ってギャ~!! なんか殺されそうになってるけど!!
「ストップよ、エルザ!!」
「しっ死ぬところだったぞ!?」
ビタリとご主人様の命令で止まったエルザを払いのけて、怒鳴った。貴族は何時でも取り乱してはならないのだろうが、命がけとなると話は別。
だけどようやくメモ帳から目を離したルイズは実に単純に言い切った。
「ゴメン、エルザに貴方を『倒せ』って命令したけど、『殺すな』って言うの忘れてた」
「君は頭までゼロなのか!? そんな理由で殺され…『マスターの悪口は許さない』…ゴメン」
ピタリと背後から首筋に当たる冷たい感覚に、僕の最後の嘆きは遮られた。珍しそうに集まっていたギャラリーからは笑いが聞こえる。
世の中はこんな筈じゃなかった事ばかりである。
「やっぱり武器を持つとエルザは強くなるみたいね」
ギーシュを相手にした実験も終了して、ルイズはメモ帳に書き連ねたデータに目を通す。
あの後デルフ無しでギーシュと闘ってもらったが、やはり苦戦した。
そこからわかる事は武器使用による有効打の増加だけではなく、エルザの動きそのものが違うと言う事。
「エルザ、デルフや武器を持っている時ってどんな感じ?」
「私が本来持っている能力以上のモノを引き出している感覚があります。具体的に説明する事は出来ませんが……」
「なるほど……」
宝物庫が見える中庭の一角で、私はエルザに膝枕してもらいながら、思考に耽っていた。ア~実に落ち着く。この膝は良いものだ……あれだけ運動したというに汗の匂いが全くしないし、弾力が違う。
因みにエルザの今の格好はクラリス様から貰った防護コートを脱ぎ、戦闘用にと作ったフィットする素材で作られたタイトな黒の上下。
露出した肩と太腿がなんとも素晴らしい……アレ? 思考がクラリス様のようになっている。汚染されてしまったのだろうか?
「使い魔の幼女に膝枕させている時点で、充分に踏み外してると思うぜ? 娘っこ」
「黙れ、バカ剣。クラリス様に溶かして作り直してもらうわよ?」
「ヒィ!? アソコだけは勘弁してくれ! もうアソコには……あの魔女に弄られるのはイヤだ~!!」
エルザの横に置いた剣 デルフリンガーがカタカタと音を立てて震えている。なにやらトラウマがあるらしい。
買った日に錆を落としてもらおうとクラリス様に預けたら、錆がキレイに落ちて華麗な装飾が施された握りに換装して帰ってきた。
でもどうやらその過程でトラウマが出来たらしく、彼女の名前を出せば無条件でこの剣は大人しくなる。
「さて……今度は私の魔法の練習ね」
未だにエルザの膝から頭を起こさないが、取り出したのは杖。合いも変わらず爆発ばかりだけど、それでも私は練習していた。
いつかチャンと当たるようになれば、並みの攻撃魔法よりも威力が高いと言う事に気が付いたから。
「レビテーション」
ポツリと呟いてみた。いつも真面目に狙って当たらないのだから、不真面目にやってみた。発想の転換は大事!だとクラリス様もいつも言っている。あの人は思考が転換どころか、回転していて一般人は付いていけないけど……
「ドゴォォン」
何処かで爆音が聞こえた。頭を起こして見てみれば、煙を上げ微かにヒビが走る宝物庫の搭。
アァ……不真面目にやると見当違いな場所が爆発するようだ。こうしてまたルイズは賢くなったのである。
「アレって……ゴーレム!?」
知識の進展に寄与した搭を感慨深げに眺めていると、不意に立ち上がった巨大な土の人型。
トライアングル以上の土メイジが操っているだろうゴーレムが巨大な拳を振り降ろした。
先程とは違った轟音に耳を塞いでいたら、あっけなく崩れ落ちる外壁が見える。
アレか? 私の爆発のせいだろうか? スクウェアクラスメイジが数人で固定化をかけた壁がまるでゴミのようだ!!
「まさか土くれ?」
物騒な事を考えていたらゴーレムの肩から宝物庫へ侵入するローブを纏った人影が見えた。
数秒と経たずに出てきたソイツの手に中には何かのマジックアイテムが抱えれている。反転したゴーレムを呆然と見送って私はまずしなければならない事をする。
「エルザ……」
「はい、マスター」
「ついでにデルフ」
「俺はオマケかよ」
真剣な声で呼びかけ、真剣な瞳を向けて私は成すべき事をする。それは……
「これから色々と強奪の経緯を聞かれるわ。その時に……私の魔法の事は言わないように」
成すべき事は口止め。『私の爆発がきっかけでゴーレムが搭を破壊できました!』なんて決して知られてはならない。
懲罰どころか退学処分だってありうる……アァ、恐ろしい!
「解りました、マスター。決してマスターが私の膝枕上からテキトウに魔法を唱えた事は口外しません」
「……もうちょっと言葉をオブラートに包みなさい、エルザ」
「申し訳ありません」
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