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「ルイズ・キングダム!!-1」(2009/04/05 (日) 09:54:13) の最新版変更点
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#navi(ルイズ・キングダム!!)
その日その時、彼女は初めて魔法を成功させた。
「ゼロのルイズが召喚を成功させたぞ!」
「こりゃあ、明日は嵐かもな」
まわりのクラスメイトからの野次も今は気にならない。気にする余裕も無かった。
「えっと……なにコレ? 亜人?」
今日はトリステイン魔法学院、春の使い魔召喚儀式。
ルイズ・ラ・ド・ヴァリエールは自分が召喚した相手を前に呆然としていた。
彼女が召喚し、目をグルグルさせて倒れているのは、女の子のような生き物。
女の子、と断言しないのは、その子の肌が子犬のような茶色い短毛で覆われているからだ。
耳も垂れた感じのイヌミミ。少しだけ覗いた口にも、犬のような鋭い牙が生えている。
じゃあどの辺りが女の子っぽいかと言うと、それ以外の全部。
小柄な身体は人間と同じような四肢が揃っているし、きちんと衣服を纏っている。
粗末な厚手の布のワンピース。丈夫そうな革のブーツと手袋。
身体に合わない大きなベルトに、こちらは身体に合わせたような小さな剣。
くすんだ赤のマントは口元を隠す襟巻きのように覆い、体毛とは色の違う真っ白な髪の毛が背中程に伸ばされている。
そして、トサカのような逆立った前髪の後ろに隠されるように、小さな王冠を被っていた。
可愛らしいと言っても良い顔立ちはトロール鬼やオーク鬼とはまるで違うけれど、全体的な雰囲気は亜人のそれに近い。
その上王冠とくれば、未知の亜人の王族でも召喚してしまったんだろうかと不安にもなる。
「なぁ、アレってまさかエルフなんじゃあ……」
「まさかぁ。ゼロのルイズがエルフなんて凄い使い魔を呼び出すはず無いって」
ヒソヒソと話し合うクラスメイト達。
タレミミが長いと言えば長い耳だから、確かにウワサに聞くエルフかもしれない。
でもエルフがこんな毛皮に覆われた生き物だなんてハナシは聞かないし……
でもまぁ、召喚成功は成功という事で、ルイズはあまり深く考えず契約の呪文を唱えてその子とキスをした。
豚のような顔のオーク鬼とかじゃなくて本当に良かったと思いながら。
<ルイズ・キングダム!!>
キスをした途端、私の使い魔になったばかりの亜人っぽい女の子が跳ね起きる。
パッチリと開いた瞳はルビーのように綺麗な真紅。
おそらく普段なら凛々しいであろう太めの白い眉が、呆然と見開かれた目を縁取っている。
「な、なんだここは!? 天井が青いぞ! 壁が見えないぞ!」
「ちょ、ちょっとアンタ落ち着きなさいよ!」
「星も無いのに明るいのはなんでだ!? ってゆーかここはドコだ!?」
周囲を見回して、突然騒ぎ出す女の子。
コンストラクト・サーヴァントの効果か言葉はルイズ達と同じ言語だが、
周囲の人間の姿なんか目に入ってないようで、ルイズの言葉なんかまるで聞いていない。
「ダッパー! ダッパは居ないのー!?」
心細そうな、切ない声で誰かを呼ぶのを聞いて、ふと罪悪感がこみ上げてきた。
柔らかそうなニコ毛を生やした見た感じはまだ子供っぽいし、自分にとってサモン・サーヴァントを行うのが必要だったとは言え、
亜人少女の家族や友達から引き離してしまったと思うと、ルイズもなんだか可哀そうな気がしたのだ。
「あの、ゴメンね……貴女のダッパって人は、ここには……」
――よびました?――
驚きで一瞬ビクッと硬直してしまうルイズ。
いつの間にそこに居たのか、彼女の背後から変な生き物が声をかけてきたからだ。
小柄なルイズの腰ほどの身長しかない、茶色の動物。
生意気にも二足歩行をしていて、服は着ていないのにベルトと口元を隠す赤い襟巻きだけを身につけている。
その手にはけっこう立派な槍をぶら下げ、アタマにはバッテン印の巨大バンソーコー。
「なななな、なによアンタ」
――あ、はじめまして。『忠実な僕』ダッパといいます――
「ちちち忠実な僕?」
――はい。『小鬼小王』クロビスさまの従者です――
「クロビス様って誰よ……って、あの子の事ね?」
――そですね――
「ダッパぁ! 居たんだダッパー! よかったよー」
ガシッと変な生き物ことダッパに抱きつく亜人の子・クロビス。
良く見ると二匹は似ていない事も無いと思える外見だ。
犬っぽいタレミミとか茶色い短毛とか赤い襟巻きとか。
大きさは倍半ぐらい違ってて、クロビスが上級機でダッパが量産型って感じだけど。
まぁ、なんだか判らないけど大事な人と離れ離れにならなくて良かった、とかルイズが思っていると。
「馴れ馴れしいー!!」
――むぎゅ――
自分から抱きついたはずのクロビスが、いきなり怒鳴ってズビシとダッパを突き飛ばしていた。
コロリンと転がりながら受身を取るダッパ君。妙に慣れた様子だった。
「ミス・ヴァリエール? これはいったい何の騒ぎなのかね?」
「私の方が聞きたいです、ミスタ・コルベール。
だいたい一体の動物しか召喚されないはずのサモン・サーヴァントを唱えて、
なんで亜人が二匹も現われるんでしょうか?」
――まぁ、なんとなくそこにいるのが小鬼なんで――
「小鬼?」
――くわしくはこちらのヒトにきいてください――
「こちらって……うわっ!?」
これまたいつの間にか居たのはえっと、小鬼のお婆さん?
やけにヨボヨボしてて背中の曲ったローブ姿の小鬼が、4匹の小鬼が支える輿ってゆーか板にゴザをひいたようなモノに乗っていた。
「いや、だからアンタ達ホント何処から現れてるのよ」
「ワシは『話の長い』バゼバゼじゃ。おじょうちゃんに、ちぃ~と小鬼に関して解説してやろうかのぉ」
「なんだか不吉な予感がする二つ名なんだけど……」
ルイズの予感は当たりだった。本当にトコトン話が長い。
そりゃもう、コルベール先生を残してクラスメイトは学院に帰ってしまうし、終わる頃にはとっぷり日も暮れるぐらいに。
その世界は住人達からは百万迷宮と呼ばれている。
空も大地もなく、あるのは床と壁と天井のみという迷宮世界。
上に登れば「天使」という超越種族が住む「天階」に、
下に降れば「深人」という超越種族が住む「深階」にたどり着くと言うが、
そこに行って戻ってきた者などお伽噺でしか知られない、
東西南北上下のどちらに行ってもひたすら迷宮が広がっているヘンテコな世界なのだと言う。
小鬼達は迷宮の中では最もありふれた種なのだという。
それこそ人間とタメを張るぐらいに何処にでも住んでいる。
迷宮世界での食物連鎖ヒエラルキーで最下位を競う両種族はしかし、高い繁殖力と適応性でもって生き延びる事を選んだ。
特に小鬼は、普通に子供をつくるだけでなく、なんとなく生えてきたり、なんとなく増えたりすると言うのだ。
かなりムチャクチャな種族と言えるだろう。
ともかく、そんな小鬼や人間は、弱いからこそ徒党を組む。
徒党を組めば中から少し力の強かったり頭が良かったりする者が現れるのは必然と言えよう。
そう言った者達は国土開拓者「ランドメーカー」と呼ばれて「国王」や「大臣」を名乗り、「宮廷」を形成。
「宮廷」に率いられた人々が小は数十人から大は数万人の「王国」がひしめいて群雄割拠の様相を呈する。
それが百万迷宮という世界なのだと言う。
そしてルイズが召喚した「小鬼小王」クロビスこそ、「神官」のバゼバゼや「従者」のダッパを率いる「小鬼王国」に君臨する国王なのである。
ちなみに国民は小鬼46匹
「いやまぁ良いけど。ウチの学校の学年一つ分より少ない国民で国家を名乗るってどうなのよ?」
「国民100人以下の小国は、卓上に納まるような王国、テーブルランドなどと呼ばれるのじゃ。
そして迷宮国家全体の約八割はテーブルランドであるとも言われておるじゃ」
「ショボっ」
――あと「学園」をなのるこっかもあるそうですよ、いくつも――
規模としてはそっちが正しそうな気がするルイズだったが、迷宮の中の学校と言うのも想像し難かった。
正直異世界とか迷宮だらけの世界など荒唐無稽で信じ難いけれど、話のディテールがしっかりとし過ぎているし、
こんな生き物についての知識はルイズやコルベールにも無い。
ハルケギニアの既知生物では無い事は確かだろう。
クロビス達が月を見上げて「なんか丸いのが二つ浮いてるぞー」とか言ってガビーンとなってるのも演技には見えなかったし。
――きいたことありますよ。よるにひかるまるい星は『月』っていうんです――
「ああ、その伝説なら知ってるぞ。アレってチーズで出来てるんだよな?」
――おなかいっぱいたべられますね――
「なんでチーズなのよ。
まぁ百歩譲って彼等がその百万迷宮から来た異世界の亜人だとしても良いわ。
私の呪文が妙な世界とこの世界を繋いでしまったとしても、特別に許すわよ。
で、何でサモン・サーヴァントでその小鬼が三匹も呼び寄せられてるのよ?」
――たぶん迷宮嵐のせいですね――
「迷宮嵐?」
迷宮嵐と言うのは、空間構造の不安定な百万迷宮では時折起こる自然現象だ。
部屋の配置やその中身の位置、果ては住人までもをランダムに飛ばしてしまう迷惑な迷宮災害。
たまに異世界からの稀人が現われたり、その逆に他所の世界に飛ばされる者も居る。
近年では大規模な迷宮嵐で異世界との大きな通路が繋がったようで「チキュウ」とかいう世界と頻繁に行き来している小鬼も多いという。
――ちょうどソレに遭ってたトコロだったんです――
「大変だったんだぞー」
「いやまぁ、トンデモない世界だって事だけはよーっく判ったわ……」
「大変過ぎて王国が滅んだぐらいだからな」
「はい?」
――あ、ほろんじゃいましたか――
「え? 良いのアンタ達、そんな軽く言ってて?」
――毎度のことですから――
「うん。クヨクヨしてても始まらない。ほろんでも再建すればいいんだからな!」
まるでメゲたところも見せず、クロビスが元気一杯でそう言った。
「いや、再建とかじゃなくて、アンタは私の使い魔なんだけど……」
「オババ、ここに宮廷を呼んでちょうだい!」
「やれやれ、めんどうだねぇ。アンタ替わりに頼むよ」
口を挟む間もなく、勝手に話を進めるクロビスとバゼバゼ。
「ねえ……ひょっとして、ダッパ君が一番人の話聞いてくれる人なのかしら?」
――まわりをみないタイプのヒトがおおいですからねぇ――
「人じゃなくて小鬼でしょうアンタ達……なんか早くもメゲそうよ私」
言ってる間にもオババことバゼバゼに命令されて、小さな鍵のような杖を持った小鬼が、なにか呪文を唱え出した。
まさかメイジでも無いのに魔法が使えるんだろうか?
いやでもオババは神官とか言ってたし。でも亜人なのに先住魔法じゃ無くて呪文を唱えて?
ルイズがそう思って見ていると、小鬼は何も無い空間にその鍵を突き刺し、思いっきり捻った。
空間が開く。
そうとしか表現のしようが無い現象がおこって、次の瞬間原っぱに粗末な小屋が現われていた。
「ショボっ! 魔法自体は凄いけど『宮廷』ショボいわよ!」
どれぐらいショボいかと言うと、学院の馬小屋の方がまだマシじゃないかというぐらい。
テキトーに石材とゆーか石ころを積んで、テキトーに動物の骨や牙で骨組みを作って、
テキトーに布で囲った大き目の簡易テントのような「宮廷」である。
なんだかゲンナリするルイズ。
「おおっ、コレは凄い。こんな骨は見たことがありませんぞ!」
対照的にコルベール先生は凄く嬉しそうだった。
どうやら学術的好奇心が刺激されたらしい。
「おお、これは何かの道具ですかな? むむむ、こっちもなにやら不思議な物が……」
「それより今の魔法ってなんなのよ? アンタ達メイジなの?」
――それはまた、ふるくさいよびなですね――
「ずーっとずーっと昔には、魔法を使うのはみんなメイジって呼んでた時代もあったものさ。
今は三大魔道って言われる主要な三つに分けられててねぇ。
つまり星術、召喚術、科学の三部門があって、その全部を操るのが魔導師ウォーロック、
星術を扱うのは星術師、召喚術は召喚師、科学を使うのは博士って呼ばれるのさ。
いましがた使って見せたのは召喚術の一種じゃね。
国の施設を一個移動させられる『お引越し』って術なんじゃよ、お嬢ちゃん」
「国に温泉があれば迷宮探索の途中でも温泉に入れるし、
国に転職所があれば探索中でも転職できるんだぞ!
って言っても、まぁウチの国にそんな『施設』は無いけどな」
「魔法が使える使い魔……って、ワタシの使い魔はクロビスだけど、
国王の部下の部下なら私の使い魔も同然よね?」
これはダンゼン当たりを引いたかと喜ぶルイズ。
そんなルイズをまるっきり無視した様子でクロビスは元気一杯に気勢を上げる。
「よーし、ここに新小鬼王国の建国を宣言するぞ!
景気付けに王国の名前を一新するので、宮廷は各自ダイスを持て!」
「え、私も?」
なにがなんだか分からない内にサイコロを持たされて振る事になるルイズ。
「ええっと、出目は3と4ね」
クロビスとダッパもサイコロを振っている。
これで何が決まるのかとルイズとコルベール先生が思っていたら……
「新王国の国名は「帝政連合帝国」に決定だぞ!」
「いやいやいやいやいやいや、待ちなさいよ!
帝政と帝国が被ってるって言うか、連合で帝国ってどうなのよって言うか、サイコロ振って決めるのかよとか、ツッコミ所が多すぎ!
むしろツッコミ所しか無いじゃないのこの国名!」
「気に入らないのか? じゃあオババとモークで振りなおして」
「うわっ!? いつのまにかもう一匹小鬼が増えてる!?」
そこにはいつの間にか黒装束に身を包んで生気の無い目をした、なんだか存在感が薄い小鬼が座ってた。
どうやらモークと言うらしい小鬼とオババが、先程のルイズと同じようにサイコロを振る。
「新王国の国名は「古代連合同盟」に決定したぞー!!」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
連合で同盟ってまた被ってるわよって言うか、今出来たばっかりなのに古代ってナニよって言うか、
そもそもサイコロ振って決めんなとか、ツッコミ所が全然減ってないってば!」
「しかしこの国名決定は『世界の法(ルールブック)』に則ったもの。
これ以上の変更は出来んのだ。あきらめろ神官」
「そんな、あきらめろって言われても。
そもそもルールブックって何よ、そんなワケ判らない物なんかに……って、神官?」
「そなたの事だぞ『ゼロの』ルイズ。
これより我々の宮廷(コート)は一心同体の運命共同体となった!
『古代連合同盟』をいずれこの『外』世界に覇を唱える大国にするため、
国民共々精進努力を重ねてゆくのだ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」」」」」」」」」
「え?
私いつの間に運命共同体?
いや、確かに使い魔とメイジは一心同体の運命共同体なんだけど。
っていうか、またいつの間にか小鬼が増えてるうぅぅぅぅ!?」
その数およそ50匹。
小鬼。
百万迷宮で最も数が多く種類も豊富ながら、その生態は詳細不明。
繁殖方法などにも謎が多く、たまに土の中から生まれてきたり、
モンスターの死体やキノコ畑などから生えてきたりもする。
普通に子作りや子育てをしている場合もあるらしいが、
百万迷宮に住む多くの住民にとっての認識は「気が付いたら増えている」である。
百万迷宮のコトワザにいわく「小鬼は一匹見かけたら三十匹は居ると思え」
階段で転んだだけで死ぬかわりに、どんなに食べられても殺されても絶滅しない種族なのだ。
「……うん、もういい。もう考えるのめんどい」
大喜びで小鬼から話を聞いているコルベール先生は放置して、ルイズは歩いて自室に帰る事にした。
ねがわくば、コレが夢でありますように。
そして目が覚めたら異世界の男の子とか召喚してて、1St Kissから始まる二人のヒストリーとかが開始していますように……
と、願って眠りについた翌朝。
「うわーん!「古代連合同盟」が野犬の群れに襲われて滅亡したーっ!」
「……夢じゃなかった」
しかも小鬼国家は野犬より弱いらしかった。50匹も揃ってて。
おまけの用語説明コーナー『百万迷宮の歩き方』
【迷宮キングダム(MakeYouKingdom!!)】
発売元・ホビーベースのシニカルポップダンジョンシアターRPG。
いわゆる卓ゲ。テーブルトークロールプレイングゲーム。無電源系。
「迷宮災厄」によって世界の全てが迷宮となった「百万世界」を舞台に、
プレイヤーは王国を運営する宮廷の一員となって、ワリと貧乏臭く冒険する。
最近のTRPGとしては珍しく、自キャラが死にやすいあたりがシニカルかつ命の重さが超ポップ。
富士見ドラゴンブックからリプレイも発売されている。
【小鬼(Ogrekin)】
迷宮キングダム最弱モンスターにしてマスコットモンスター。
敵がファンブル(絶対失敗。1のゾロ目)すると1匹増える。
特殊ルールを使用していると、自分がファンブルしても2匹増える。
【『小鬼小王』クロビスと従者のダッパ】
サプリメント掲載の四コマ「小鬼キングダム」シリーズの主役主従。
クロビス様はツンデレで強気ヘタレ。ダッパ君は素直クール。双方萌えキャラ。
【国名】
ホントにサイコロ振って決定。
【野犬の群れに襲われて全滅】
『群狼』相当のモンスター。
群狼のレベルは5なので、そりゃー1レベルの小鬼じゃ勝てっこ無い。
なお、このモンスターは絶対成功すると相手のHPを1D6にしてしまうと言うスキルを持っている。
たとえHPが300あっても、発動すれば一撃で一桁にされるという恐るべき能力だが、
小鬼がこれを食らうと逆にHPが増えたりする。元が1だけに。
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#navi(ルイズ・キングダム!!)
#navi(ルイズ・キングダム!!)
その日その時、彼女は初めて魔法を成功させた。
「ゼロのルイズが召喚を成功させたぞ!」
「こりゃあ、明日は嵐かもな」
まわりのクラスメイトからの野次も今は気にならない。気にする余裕も無かった。
「えっと……なにコレ? 亜人?」
今日はトリステイン魔法学院、春の使い魔召喚儀式。
ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは自分が召喚した相手を前に呆然としていた。
彼女が召喚し、目をグルグルさせて倒れているのは、女の子のような生き物。
女の子、と断言しないのは、その子の肌が子犬のような茶色い短毛で覆われているからだ。
耳も垂れた感じのイヌミミ。少しだけ覗いた口にも、犬のような鋭い牙が生えている。
じゃあどの辺りが女の子っぽいかと言うと、それ以外の全部。
小柄な身体は人間と同じような四肢が揃っているし、きちんと衣服を纏っている。
粗末な厚手の布のワンピース。丈夫そうな革のブーツと手袋。
身体に合わない大きなベルトに、こちらは身体に合わせたような小さな剣。
くすんだ赤のマントは口元を隠す襟巻きのように覆い、体毛とは色の違う真っ白な髪の毛が背中程に伸ばされている。
そして、トサカのような逆立った前髪の後ろに隠されるように、小さな王冠を被っていた。
可愛らしいと言っても良い顔立ちはトロール鬼やオーク鬼とはまるで違うけれど、全体的な雰囲気は亜人のそれに近い。
その上王冠とくれば、未知の亜人の王族でも召喚してしまったんだろうかと不安にもなる。
「なぁ、アレってまさかエルフなんじゃあ……」
「まさかぁ。ゼロのルイズがエルフなんて凄い使い魔を呼び出すはず無いって」
ヒソヒソと話し合うクラスメイト達。
タレミミが長いと言えば長い耳だから、確かにウワサに聞くエルフかもしれない。
でもエルフがこんな毛皮に覆われた生き物だなんてハナシは聞かないし……
でもまぁ、召喚成功は成功という事で、ルイズはあまり深く考えず契約の呪文を唱えてその子とキスをした。
豚のような顔のオーク鬼とかじゃなくて本当に良かったと思いながら。
<ルイズ・キングダム!!>
キスをした途端、私の使い魔になったばかりの亜人っぽい女の子が跳ね起きる。
パッチリと開いた瞳はルビーのように綺麗な真紅。
おそらく普段なら凛々しいであろう太めの白い眉が、呆然と見開かれた目を縁取っている。
「な、なんだここは!? 天井が青いぞ! 壁が見えないぞ!」
「ちょ、ちょっとアンタ落ち着きなさいよ!」
「星も無いのに明るいのはなんでだ!? ってゆーかここはドコだ!?」
周囲を見回して、突然騒ぎ出す女の子。
コンストラクト・サーヴァントの効果か言葉はルイズ達と同じ言語だが、
周囲の人間の姿なんか目に入ってないようで、ルイズの言葉なんかまるで聞いていない。
「ダッパー! ダッパは居ないのー!?」
心細そうな、切ない声で誰かを呼ぶのを聞いて、ふと罪悪感がこみ上げてきた。
柔らかそうなニコ毛を生やした見た感じはまだ子供っぽいし、自分にとってサモン・サーヴァントを行うのが必要だったとは言え、
亜人少女の家族や友達から引き離してしまったと思うと、ルイズもなんだか可哀そうな気がしたのだ。
「あの、ゴメンね……貴女のダッパって人は、ここには……」
――よびました?――
驚きで一瞬ビクッと硬直してしまうルイズ。
いつの間にそこに居たのか、彼女の背後から変な生き物が声をかけてきたからだ。
小柄なルイズの腰ほどの身長しかない、茶色の動物。
生意気にも二足歩行をしていて、服は着ていないのにベルトと口元を隠す赤い襟巻きだけを身につけている。
その手にはけっこう立派な槍をぶら下げ、アタマにはバッテン印の巨大バンソーコー。
「なななな、なによアンタ」
――あ、はじめまして。『忠実な僕』ダッパといいます――
「ちちち忠実な僕?」
――はい。『小鬼小王』クロビスさまの従者です――
「クロビス様って誰よ……って、あの子の事ね?」
――そですね――
「ダッパぁ! 居たんだダッパー! よかったよー」
ガシッと変な生き物ことダッパに抱きつく亜人の子・クロビス。
良く見ると二匹は似ていない事も無いと思える外見だ。
犬っぽいタレミミとか茶色い短毛とか赤い襟巻きとか。
大きさは倍半ぐらい違ってて、クロビスが上級機でダッパが量産型って感じだけど。
まぁ、なんだか判らないけど大事な人と離れ離れにならなくて良かった、とかルイズが思っていると。
「馴れ馴れしいー!!」
――むぎゅ――
自分から抱きついたはずのクロビスが、いきなり怒鳴ってズビシとダッパを突き飛ばしていた。
コロリンと転がりながら受身を取るダッパ君。妙に慣れた様子だった。
「ミス・ヴァリエール? これはいったい何の騒ぎなのかね?」
「私の方が聞きたいです、ミスタ・コルベール。
だいたい一体の動物しか召喚されないはずのサモン・サーヴァントを唱えて、
なんで亜人が二匹も現われるんでしょうか?」
――まぁ、なんとなくそこにいるのが小鬼なんで――
「小鬼?」
――くわしくはこちらのヒトにきいてください――
「こちらって……うわっ!?」
これまたいつの間にか居たのはえっと、小鬼のお婆さん?
やけにヨボヨボしてて背中の曲ったローブ姿の小鬼が、4匹の小鬼が支える輿ってゆーか板にゴザをひいたようなモノに乗っていた。
「いや、だからアンタ達ホント何処から現れてるのよ」
「ワシは『話の長い』バゼバゼじゃ。おじょうちゃんに、ちぃ~と小鬼に関して解説してやろうかのぉ」
「なんだか不吉な予感がする二つ名なんだけど……」
ルイズの予感は当たりだった。本当にトコトン話が長い。
そりゃもう、コルベール先生を残してクラスメイトは学院に帰ってしまうし、終わる頃にはとっぷり日も暮れるぐらいに。
その世界は住人達からは百万迷宮と呼ばれている。
空も大地もなく、あるのは床と壁と天井のみという迷宮世界。
上に登れば「天使」という超越種族が住む「天階」に、
下に降れば「深人」という超越種族が住む「深階」にたどり着くと言うが、
そこに行って戻ってきた者などお伽噺でしか知られない、
東西南北上下のどちらに行ってもひたすら迷宮が広がっているヘンテコな世界なのだと言う。
小鬼達は迷宮の中では最もありふれた種なのだという。
それこそ人間とタメを張るぐらいに何処にでも住んでいる。
迷宮世界での食物連鎖ヒエラルキーで最下位を競う両種族はしかし、高い繁殖力と適応性でもって生き延びる事を選んだ。
特に小鬼は、普通に子供をつくるだけでなく、なんとなく生えてきたり、なんとなく増えたりすると言うのだ。
かなりムチャクチャな種族と言えるだろう。
ともかく、そんな小鬼や人間は、弱いからこそ徒党を組む。
徒党を組めば中から少し力の強かったり頭が良かったりする者が現れるのは必然と言えよう。
そう言った者達は国土開拓者「ランドメーカー」と呼ばれて「国王」や「大臣」を名乗り、「宮廷」を形成。
「宮廷」に率いられた人々が小は数十人から大は数万人の「王国」がひしめいて群雄割拠の様相を呈する。
それが百万迷宮という世界なのだと言う。
そしてルイズが召喚した「小鬼小王」クロビスこそ、「神官」のバゼバゼや「従者」のダッパを率いる「小鬼王国」に君臨する国王なのである。
ちなみに国民は小鬼46匹
「いやまぁ良いけど。ウチの学校の学年一つ分より少ない国民で国家を名乗るってどうなのよ?」
「国民100人以下の小国は、卓上に納まるような王国、テーブルランドなどと呼ばれるのじゃ。
そして迷宮国家全体の約八割はテーブルランドであるとも言われておるじゃ」
「ショボっ」
――あと「学園」をなのるこっかもあるそうですよ、いくつも――
規模としてはそっちが正しそうな気がするルイズだったが、迷宮の中の学校と言うのも想像し難かった。
正直異世界とか迷宮だらけの世界など荒唐無稽で信じ難いけれど、話のディテールがしっかりとし過ぎているし、
こんな生き物についての知識はルイズやコルベールにも無い。
ハルケギニアの既知生物では無い事は確かだろう。
クロビス達が月を見上げて「なんか丸いのが二つ浮いてるぞー」とか言ってガビーンとなってるのも演技には見えなかったし。
――きいたことありますよ。よるにひかるまるい星は『月』っていうんです――
「ああ、その伝説なら知ってるぞ。アレってチーズで出来てるんだよな?」
――おなかいっぱいたべられますね――
「なんでチーズなのよ。
まぁ百歩譲って彼等がその百万迷宮から来た異世界の亜人だとしても良いわ。
私の呪文が妙な世界とこの世界を繋いでしまったとしても、特別に許すわよ。
で、何でサモン・サーヴァントでその小鬼が三匹も呼び寄せられてるのよ?」
――たぶん迷宮嵐のせいですね――
「迷宮嵐?」
迷宮嵐と言うのは、空間構造の不安定な百万迷宮では時折起こる自然現象だ。
部屋の配置やその中身の位置、果ては住人までもをランダムに飛ばしてしまう迷惑な迷宮災害。
たまに異世界からの稀人が現われたり、その逆に他所の世界に飛ばされる者も居る。
近年では大規模な迷宮嵐で異世界との大きな通路が繋がったようで「チキュウ」とかいう世界と頻繁に行き来している小鬼も多いという。
――ちょうどソレに遭ってたトコロだったんです――
「大変だったんだぞー」
「いやまぁ、トンデモない世界だって事だけはよーっく判ったわ……」
「大変過ぎて王国が滅んだぐらいだからな」
「はい?」
――あ、ほろんじゃいましたか――
「え? 良いのアンタ達、そんな軽く言ってて?」
――毎度のことですから――
「うん。クヨクヨしてても始まらない。ほろんでも再建すればいいんだからな!」
まるでメゲたところも見せず、クロビスが元気一杯でそう言った。
「いや、再建とかじゃなくて、アンタは私の使い魔なんだけど……」
「オババ、ここに宮廷を呼んでちょうだい!」
「やれやれ、めんどうだねぇ。アンタ替わりに頼むよ」
口を挟む間もなく、勝手に話を進めるクロビスとバゼバゼ。
「ねえ……ひょっとして、ダッパ君が一番人の話聞いてくれる人なのかしら?」
――まわりをみないタイプのヒトがおおいですからねぇ――
「人じゃなくて小鬼でしょうアンタ達……なんか早くもメゲそうよ私」
言ってる間にもオババことバゼバゼに命令されて、小さな鍵のような杖を持った小鬼が、なにか呪文を唱え出した。
まさかメイジでも無いのに魔法が使えるんだろうか?
いやでもオババは神官とか言ってたし。でも亜人なのに先住魔法じゃ無くて呪文を唱えて?
ルイズがそう思って見ていると、小鬼は何も無い空間にその鍵を突き刺し、思いっきり捻った。
空間が開く。
そうとしか表現のしようが無い現象がおこって、次の瞬間原っぱに粗末な小屋が現われていた。
「ショボっ! 魔法自体は凄いけど『宮廷』ショボいわよ!」
どれぐらいショボいかと言うと、学院の馬小屋の方がまだマシじゃないかというぐらい。
テキトーに石材とゆーか石ころを積んで、テキトーに動物の骨や牙で骨組みを作って、
テキトーに布で囲った大き目の簡易テントのような「宮廷」である。
なんだかゲンナリするルイズ。
「おおっ、コレは凄い。こんな骨は見たことがありませんぞ!」
対照的にコルベール先生は凄く嬉しそうだった。
どうやら学術的好奇心が刺激されたらしい。
「おお、これは何かの道具ですかな? むむむ、こっちもなにやら不思議な物が……」
「それより今の魔法ってなんなのよ? アンタ達メイジなの?」
――それはまた、ふるくさいよびなですね――
「ずーっとずーっと昔には、魔法を使うのはみんなメイジって呼んでた時代もあったものさ。
今は三大魔道って言われる主要な三つに分けられててねぇ。
つまり星術、召喚術、科学の三部門があって、その全部を操るのが魔導師ウォーロック、
星術を扱うのは星術師、召喚術は召喚師、科学を使うのは博士って呼ばれるのさ。
いましがた使って見せたのは召喚術の一種じゃね。
国の施設を一個移動させられる『お引越し』って術なんじゃよ、お嬢ちゃん」
「国に温泉があれば迷宮探索の途中でも温泉に入れるし、
国に転職所があれば探索中でも転職できるんだぞ!
って言っても、まぁウチの国にそんな『施設』は無いけどな」
「魔法が使える使い魔……って、ワタシの使い魔はクロビスだけど、
国王の部下の部下なら私の使い魔も同然よね?」
これはダンゼン当たりを引いたかと喜ぶルイズ。
そんなルイズをまるっきり無視した様子でクロビスは元気一杯に気勢を上げる。
「よーし、ここに新小鬼王国の建国を宣言するぞ!
景気付けに王国の名前を一新するので、宮廷は各自ダイスを持て!」
「え、私も?」
なにがなんだか分からない内にサイコロを持たされて振る事になるルイズ。
「ええっと、出目は3と4ね」
クロビスとダッパもサイコロを振っている。
これで何が決まるのかとルイズとコルベール先生が思っていたら……
「新王国の国名は「帝政連合帝国」に決定だぞ!」
「いやいやいやいやいやいや、待ちなさいよ!
帝政と帝国が被ってるって言うか、連合で帝国ってどうなのよって言うか、サイコロ振って決めるのかよとか、ツッコミ所が多すぎ!
むしろツッコミ所しか無いじゃないのこの国名!」
「気に入らないのか? じゃあオババとモークで振りなおして」
「うわっ!? いつのまにかもう一匹小鬼が増えてる!?」
そこにはいつの間にか黒装束に身を包んで生気の無い目をした、なんだか存在感が薄い小鬼が座ってた。
どうやらモークと言うらしい小鬼とオババが、先程のルイズと同じようにサイコロを振る。
「新王国の国名は「古代連合同盟」に決定したぞー!!」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
連合で同盟ってまた被ってるわよって言うか、今出来たばっかりなのに古代ってナニよって言うか、
そもそもサイコロ振って決めんなとか、ツッコミ所が全然減ってないってば!」
「しかしこの国名決定は『世界の法(ルールブック)』に則ったもの。
これ以上の変更は出来んのだ。あきらめろ神官」
「そんな、あきらめろって言われても。
そもそもルールブックって何よ、そんなワケ判らない物なんかに……って、神官?」
「そなたの事だぞ『ゼロの』ルイズ。
これより我々の宮廷(コート)は一心同体の運命共同体となった!
『古代連合同盟』をいずれこの『外』世界に覇を唱える大国にするため、
国民共々精進努力を重ねてゆくのだ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」」」」」」」」」
「え?
私いつの間に運命共同体?
いや、確かに使い魔とメイジは一心同体の運命共同体なんだけど。
っていうか、またいつの間にか小鬼が増えてるうぅぅぅぅ!?」
その数およそ50匹。
小鬼。
百万迷宮で最も数が多く種類も豊富ながら、その生態は詳細不明。
繁殖方法などにも謎が多く、たまに土の中から生まれてきたり、
モンスターの死体やキノコ畑などから生えてきたりもする。
普通に子作りや子育てをしている場合もあるらしいが、
百万迷宮に住む多くの住民にとっての認識は「気が付いたら増えている」である。
百万迷宮のコトワザにいわく「小鬼は一匹見かけたら三十匹は居ると思え」
階段で転んだだけで死ぬかわりに、どんなに食べられても殺されても絶滅しない種族なのだ。
「……うん、もういい。もう考えるのめんどい」
大喜びで小鬼から話を聞いているコルベール先生は放置して、ルイズは歩いて自室に帰る事にした。
ねがわくば、コレが夢でありますように。
そして目が覚めたら異世界の男の子とか召喚してて、1St Kissから始まる二人のヒストリーとかが開始していますように……
と、願って眠りについた翌朝。
「うわーん!「古代連合同盟」が野犬の群れに襲われて滅亡したーっ!」
「……夢じゃなかった」
しかも小鬼国家は野犬より弱いらしかった。50匹も揃ってて。
おまけの用語説明コーナー『百万迷宮の歩き方』
【迷宮キングダム(MakeYouKingdom!!)】
発売元・ホビーベースのシニカルポップダンジョンシアターRPG。
いわゆる卓ゲ。テーブルトークロールプレイングゲーム。無電源系。
「迷宮災厄」によって世界の全てが迷宮となった「百万世界」を舞台に、
プレイヤーは王国を運営する宮廷の一員となって、ワリと貧乏臭く冒険する。
最近のTRPGとしては珍しく、自キャラが死にやすいあたりがシニカルかつ命の重さが超ポップ。
富士見ドラゴンブックからリプレイも発売されている。
【小鬼(Ogrekin)】
迷宮キングダム最弱モンスターにしてマスコットモンスター。
敵がファンブル(絶対失敗。1のゾロ目)すると1匹増える。
特殊ルールを使用していると、自分がファンブルしても2匹増える。
【『小鬼小王』クロビスと従者のダッパ】
サプリメント掲載の四コマ「小鬼キングダム」シリーズの主役主従。
クロビス様はツンデレで強気ヘタレ。ダッパ君は素直クール。双方萌えキャラ。
【国名】
ホントにサイコロ振って決定。
【野犬の群れに襲われて全滅】
『群狼』相当のモンスター。
群狼のレベルは5なので、そりゃー1レベルの小鬼じゃ勝てっこ無い。
なお、このモンスターは絶対成功すると相手のHPを1D6にしてしまうと言うスキルを持っている。
たとえHPが300あっても、発動すれば一撃で一桁にされるという恐るべき能力だが、
小鬼がこれを食らうと逆にHPが増えたりする。元が1だけに。
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#navi(ルイズ・キングダム!!)
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