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「アメリカ最悪の都市」・「Great place to leave(脱出するのに最適な場所)」等と呼ばれている
リバティーシティだが、俺らのような人種には実に過ごしやすい。日本か何処かでのことわざでは、
「住めば都」そのもので、特にポートランドはママのレストランもあり、中国人ギャングのトライアドと
ナワバリ争いをしている事を目を瞑れば気に入ってはいる。だからとある『大物著名人』を消して
リバティーシティをずらかり、ほとぼり醒まして早く戻る事を望んでいる。
Grand Theft Auto: Liberty City Stories 0
トニー・シプリアーニがルイズに召喚されました。
リバティーシティを離れたものの、逃亡先でも人間には生活はある。例え食事の用意をする為だけの外出で
あっても、何時襲われても対処出来るようにピストルにウージー、ショットガンはたまた火炎放射器、手榴弾、
さらにはM-16、スナイパーライフル、ロケットランチャー(!)とそれらの弾丸をしこたま持って外出する
必要が生じてしまう訳だ。逃げる時に乗っていたレオーネ・センチネルに積み込んで常に行動していた。
この不思議な経験をした時も、丁度こんな時だったのを覚えている。俺は雨が降り視界が悪い中をセンチネルを
駆って走る。目的は他愛も無い話で、食事を外食でぱっぱと済ませて隠れ家に戻る途中……まぁ視界が悪かったし
はっきりと確認出来た訳ではないが、鏡のような物体、それも見た事も無いような特大サイズを見た気がする。
気がすると言うのも、ほんの一瞬視界に入った感覚しかなく、反射的に急ブレーキを掛けたわけだから。
最後の最後までぶつかったかどうかの感触を味わう事は無かった。それどころか少々気を失ったらしい。しかし
目を覚ますと自分では想像できない光景が広がっていた。センチネルの窓越しから見ると、清々しい位の青空に
良く整備の行き届いた緑の芝生、何よりも四方を取り囲んでいる中世の城のような城壁。特筆すべきは全てに
於いてそれが生活感があり、加えて全て芸術的な域にあるところ。
「……どう見ても、アメリカじゃあないな……」
自分とは思えない程に目玉を引ん剥いて眺めていた。それ位、この光景が真にもって現実離れしている。しかし、
センチネルその他諸々は変わりなく、自分自身にも怪我が無いのは驚いた。
「×××××××××!!」
だがそれ以外にもおかしな異変はあった。車の周りには人、人、人。しかも喋っている言葉は英語でもイタリア語
でもない意味不明で何を言っているのかは分からなかった。加えて服装もおかしい。全員が黒いマントを羽織り、
まるで中世のような服を着ているのかと思うが、それにしては現代じみていて奇妙な感じをさせる。何とも目立つのが
褐色色のやたら胸を強調した女で、色っぽさはあるものの何故か青臭い雰囲気があるのがギャップがあった。
「……×××……×?…×…×××××……?」
最もおかしいのは目の前には地毛なのかウィッグなのか判別つかないピンク色の髪をした女……と言うには少々無理がある
少女がM字に股を開いた実にはしたない格好で尻餅を付いており、何か呟きながらこちらをじと眼で睨みつけていた。
周囲を見渡すと聞こえてくるのは大凡笑い声であり、雰囲気からしてこのピンク色の髪をした少女を笑っているのだろう。
轢いた覚えも無いし睨み付けられる覚えも無いので、試しに強くクラクションを押してみた。
「×××××!!!」
するとどうだろうか。このピンク色の髪をした少女が、素で驚いた様子でまるでコメディーのドラマのようにいい感じに
飛び跳ね、笑い声を上げていた周囲の人間も驚きの声に変わる。この連中は車と言うものが分からないのだろうか?
「×××××××××××××××××××××?」
「×××××××××××××××××××××!!」
それも束の間、このピンク色の少女は気が強いのか何なのかは定かではないが、褐色色の女に何か言われたこのピンクの少女は、
訳の分からない言葉で捲くし立て、センチネル、如いては俺の前で喚き散らしている。流石にここまで来るとイライラしてきた
気の短い俺はピストルを手に持ち、おもむろに外に出る事にした。
――…一方のルイズ。
「……あんた……誰?…ど…どこの平民……?」
使い魔を召喚してみたら、訳の分からない鉄の塊と……平民ってどう言うことよ……おまけに腰抜かしちゃったじゃない!!
―――ブッブ――!!
ひぃっ!!!何なのよもう!!けたたましい音を鳴らして!!
「お…大見栄切っただけあるわね……へ…平民を呼び出す……なんて」
キュルケはこの鉄の箱の中にいる、少々声を切らしているがちょっとハンサムだけどいかつい男を一瞥しながら私を馬鹿にする。
こいつもけたたましい音に驚いたのだ。
「ちょ…ちょっと間違えただけよ!!」
「さ…流石……《ゼロのルイズ》……期待を……裏切らないや」
……うるさい、うるさい!!ビビりながら喋るんじゃないわよ!!Mrコルベール、もう一度召喚を……
「おお!男が出て来たぞ……!」
奇妙な声があがると鉄の塊からいかつい男が出て来た。手には何か持っている。べっ別に…こ…怖くなんてないんだからね!!
「……なんなんだここはよ……よく見りゃガキばっかじゃねぇか」
場違いとも思える程に清々しい空気に包まれつつ俺は車から出ると、意味の分からない言葉を口走りながら周りの群集は何か
異端な物を見るような目で見据えている。まったく訳が分からない。正直言ってヤバイと言えばヤバイこの状況。ガキ共轢いて
とっとと逃げるなんて選択肢もあったが、状況把握の為に車から降りてしまった。
「……仕方ない、あのオッサンに聞いてみるか」
群衆の中心に禿げたオッサンがいる。これもまぁ妙な法衣を纏ってるな……おまけに妙なバット持って……司祭か?まぁいいさ、
多分こいつら束ねている奴だろう。詳しく話を聞いてみようか。俺は歩みを進め、禿げたオッサンの所まで進んでいく。その時
まるでモーゼの様に道が開いたのは多少なりと驚いた。
「俺はトニー・シプリアーニ。なぁここは何処なんだ?」
だが、この禿げたオッサンも何を言っているのか分からなかった。本気で頭を抱えて困惑する俺だが、周囲ではどんどん状況が
流れている。その一つは俺のレオーネ・センチネルをガキ共が取り囲んでいるのだ。取り囲んでいるだけではない。物珍しい様子で
舐める様に見ているのだ。それだけではない。頭を抱えている横でハゲに説教されたピンク少女が、何かを呟きながら棒切れを
オーケストラの指揮者の如く振り回してる。 『か…感謝しなさいよね……貴族にこんな事をされるなんて…一生無いんだから』
「よ…寄るなっ!!」
頭を抱えている俺を見上げながら何かを呟く少女。思わず俺は声を出し、持っているピストルを少女に向ける。初めての経験だ。
俺はレオーネファミリーに入って子供に銃なんて向けたことなど無かったが、どうしてだろうか、何かの悪寒だろうか、気が付い
たら銃口を少女に向けていた。
「これ以上近寄ったら、子供でも撃つぞ!」
状況の変化を察知したピンク少女はジリジリと間合いを取るが、その歩みは間違い無く俺を捉えている。これが大人なら躊躇無く
撃っているだろうが、撃てない。やはり子供と分かってしまうと、幾ら俺でも二の足を踏んでしまうのか。
「!!」
だがこの瞬間が最悪だった。何と言うか俺の直ぐ横で行き成り何かが爆発、爆風で前に吹っ飛ばされた。リバティーシティでも
エイトボール絡みでこんな爆発結構日常茶飯事だが、これはない。まるで狙い定めたように、俺にそうさせるかのようにスタントで
使うような地を爆破するなんて到底想像も出来なかった……ボディアーマーのお陰で多少助かったが……やれやれ、生憎こんな手を
使うギャング、リバティーシティじゃ見たことねぇしなぁ……エイトボールでもここまでは無理だぜ……。
――…一方のルイズは。
「なんて事を!!」
この男は私に何かを向けながら叫んでいる。これが何かは分からないけど……ハンサムなのは認めるけど……どれだけ年上よ……。
しかも人相悪いし……うう、こんなのにファースト・キス捧げるなんて……。この際だから黙らせ、動かなくさせる麻痺の魔法を
掛けたつもりが、この男の足元を爆破してしまった。また魔法に失敗してしまったのだ。巻き起こる爆笑……と思いきや、巻き
起こってるのは悲鳴と怒号だ。
「やってくれるぜ『ゼロのルイズ』!!自棄起して使い魔殺しに掛かるんじゃないよ!!」
「これは退学もんだぜ!」
爆風で飛ばされた男にMr.コルベールと数人の人間が駆け寄り、急いで治療に取り掛かった……筈だが、何故か彼を見て全員首を
傾げてる。まぁ、死ななかっただけ良かったじゃない。
「良く無いわ!」
「痛っ!!!」
痛っ!!!いたたた……間髪入れずにキュルケが私に拳骨を落としやがった。手加減しなさいよ……脳天直撃して……いてて……。
見なさいよ……あの男気が付いたじゃない……うう、まだ頭が……。
「……衝撃はボディアーマーで助かったが、もう役に立たんな……」
爆風で吹っ飛ばされた俺は気を失い、中庭のど真ん中で寝かされていた。周りには黒いマントを着た幾人かの子供とハゲが俺を
治療している。幸い殆どボディアーマーで防ぎきった為に怪我が無く、擦り傷ばかりな事に子供達とハゲは首を傾げている。更に
その横では、ピンク少女が多分大人なのだろう幾人かの人間に囲まれた挙句日本でいう所の『正座』で座らされ、説教をされていた。
「大丈夫ですか?」
ハゲは気が付いた俺にこんな風に声を掛けた……待て、なんで言葉がわかるんだ?さっきまで雑音にしか聞こえなかったのだが。
「怪我はボディアーマーで何とか防いださ……でもだ、何故言葉が通じてるんだよ……さっきまで通じてなかったぞ」
空を見ながら喋る言葉は何とも格好悪い物だ。気の短さもあってつい口をついて出たのだろう。だが、そんなうわ言のような言葉も
このハゲは聞き漏らさなかった。
「魔法を使ったんですよ」
このハゲはっきり言い切った。魔法?馬鹿な事言うな。シンデレラや指輪物語じゃねぇんだぞ。
「もう一度、頼む」
「なるほど…えーと」
「アントニオ・シプリアーニ……世間からはトニー・シプリアーニと呼ばれてる」
補足するように俺はこう答えると、彼は割と穏やかな様子で説明を続けた。
「Mr.シプリアーニ、恐らく貴方の世界では魔法が存在しないのでしょう……しかし、我々の世界では魔法は普通に有りますからな
……ミス・ヴァリエールが間違った魔法を使って貴方の足元を爆発させたのも、魔法」
ヴァリエール……多分あのピンクの少女か……それにしても全く末恐ろしい話だな……この連中は本当に魔法を信じているらしい。
この世の中、そんなもの有ったら苦労しねぇぜ。
「……なぁ、最初下りた時、真っ先に聞きてぇ事があったんだが……えーとあんたの名は?」
「私はコルベール。この学院の教師をしている」
ここは学院だったのか……それだけでも驚きだ。しかしそれを考えると、この先の質問は心底恐ろしく感じてくる。
「Mr.コルベール、ここは何と言う州で何と言う町だ?」
「州……とは言いませんが……ハルケギニア大陸トリステイン王国首都トリスタニア。因みにここはトリステイン魔法学院です」
すらすらと出て来た以上、これは現実なんだな……実感させられた。背中に気持ちが悪い程汗をかく。しかし何だって俺がこんな訳の
分からぬ場所に……いや待て、そもそも何故俺はこんな場所に居るんだ?
「核心的な質問をするが、俺は何でこんな所に居る?」
「な…何!?すると何か、あのピンクガキが俺を引っ張って来たって言うのか!」
足を中心にピリピリと痛みを感じるが、思わず起き上がってしまった。要はこのコルベールが言う所には、俺はこの奇妙な世界に言わば
《強制的に》あのピンクガキに吸い寄せられたのだ……フルネームをルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとクソ
長い名前らしいのだが、俺の腹の立ち具合から併せ持って今はピンクガキと呼ぶ事にする。そう言えばこのコルベールが言うに『貴方の世界』
何て言い方していやがったな……!
「起き上がってはいけません!!」
「うるせぇ!」
俺はよろよろと立ち上がり、正座して説教されているピンクガキを後ろからウェーブの掛かったピンクの髪をまるで兎の耳を掴むかのごとく
引っ張り上げた。
「痛っ!!痛い!!使い魔の分際で主人の髪引っ張るんじゃないわよ!!」
使い魔?主人?とうとうヤキでも回ったかこのガキ。余りに口数の減らない事に腹を立てた俺は、このピンクの髪をまるでロープでも持つ
ように拳でぐるぐる巻きにして掴み、更に引っ張り上げた。
「訳のわからねぇ事抜かしてねぇで俺の質問に答えろピンク……俺に何をしやがった?」
「ルイズよ!イタタタ!!……うう……何と言う……イタタタ!!どうやら…それなりの……『躾』が…必要……ね……イタタタタタ!!!」
「いかん!!全員で止めるんだ!!」
余りにもあんまりなこの状況に、コルベールはたまらず場に居る男女種族不問の連中全員に指示を出し、何人居るのか分からなかったが、
全員が俺にしがみ付き必死にピンクガキから離そうとしている。所々噛み付く奴まで現われ、堪らず手を放してしまった。 それから暫く喧騒が続いたが、結局コルベールの指示で俺と半べそのピンクガキ、コルベールを除く全員が飛ぶなりなんなりして帰っていった。
ああ、魔法が本当にあるんだなと心底実感させられた。何せ青い色で短髪のガキなんて、書物に目を通しながら涼しい顔して飛んで行ったしな。
しかしながらそれ以上に不快なのは俺はこのピンクガキ……いや、このルイズの『使い魔』に成り下がっているらしい。手の甲には訳の分から
ない紋様が刻み込まれており、悪夢はとうとう現実のものになってきてしまったようだ。加えて実に余計な知識だが、キュルケが言う所では契約は
キスなのだという。だが、あまり嬉しくねぇよなぁ……。
「確認するが、元の世界に帰る術は今の所無いんだな?Mr.コルベール」
「はい、残念な事にMr.シプリアーニ」
『LOUISE OF ZERO......Give Me Liberty』
辺りはまるで絵に描いたように素直にすばらしいと思える夕焼けに彩られていた。この世界に来る前に飯を食ったばかりだった筈だが、自然と
腹が減る錯覚を感じる。偶然にも来ちまったとは言え、帰る術の無い今暫くはここでの生活を余儀なくされるだろうから、今後の事を取り敢えず
コルベールに尋ねてみた。
「仕方ない。Mr.コルベール、取り敢えず当面のねぐらが欲しいのだが」
「実は、メイジと使い魔はほぼ一緒に行動する事が常で、ミス・ヴァリエールと同室と言う事で……」
冗談じゃねぇ!!俺は何か、貧乏クジ引きまくってるなぁ!!
だが、今にも泣きたそうなのは俺よりも寧ろこのピンクガキ……いや違う、ルイズだろう。だが俺としては知ったこっちゃねぇが。俺はこの
ルイズを無視してコルベールと話を続ける。
「この車を納めるガレージ……いや、倉庫なんかあるか?」
「たいしたものは無いが……その『クルマ』に乗せてくださったら考えましょう」
どうやらコルベールはクルマに興味を持ったらしい。本当にこの世界には車なんて存在していないんだな。それ位で引き受けてくれるなら
安いものだ。
「Mr.コルベール……私はこれにて」
がっくりとした様子でルイズは体位を反転して帰ろうとする。あれ?おかしいな、こいつ魔法使いだろ?さっきの連中見たく飛んで……
ははぁなるほど……こいつ魔法からきしなんだな。
「乗れよ」
「!?」
俺の言葉に少々嫌な方面で反応した。ああ、こいつ俺が髪を引っ張ったのまだ根に持ってるな。
「どうせ戻る場所は一緒なんだ。手間じゃないだろ」
「べっ別に乗りたいなんて言って無いからね!!」
素直じゃねぇな!捨て台詞の如く言い放った割にはずかずかと乗り込んでくる当り、こいつ本当に捻くれているなと実感した。先が重いぜ。
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