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「デュエルモンスターズZERO-07」(2007/09/30 (日) 09:01:32) の最新版変更点
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室内は緊迫した空気に包まれる。
コルベールは突如として部屋に現れた盗賊、土くれのフーケと対峙していた。
「さぁ『闇のゲーム』の始まりだぜぇ!」
フーケは叫びながら己のデッキからカードを6枚抜く。
コルベールは思い出した。
曰く、土くれのフーケは巨大な怪物を操り財宝の持ち主達を喰い殺した、と。
そして先ほどルイズが見せた悪魔と幻獣の召喚。
今しがたフーケが口走った『闇のゲーム』という言葉。
(間違いない。こいつは私を怪物の餌にする気だ!)
ちら、と先ほどのルイズが使っていたカードデッキを見やる。
(駄目だ。一回戦いを見ていとはいえ私には理解できないことが多すぎる。ここは“炎蛇”の名にかけて、土くれを倒す!!)
コルベールはこの盗賊を倒さなければ、と固く心に誓う。
炎蛇のコルベール ☆☆☆☆ 炎属性
攻撃力1400 守備力1700
魔法使い族 特殊効果 唱える呪文によって攻撃力が上がる。
「オレ様は、モンスターゾーンにカードをセット。終了だ」
土くれは、巨大な札を一枚、出現させる。
それと同時、コルベールが唱えていた呪文の詠唱が終わった。
おそらくはルイズ同様、フーケの札にも魔獣や悪魔が封印されている。ならば、チャンスは唯一つ。相手がモンスターを出現させる前に、敵を無力化するしかない!
「炎球!」
詠唱を最短で済ませ、火球を一つ、フーケに向かって発射する。殺しはしない。コルベールは誓っていた。例え相手が邪教徒だろうが、盗賊であろうが、破壊のために己の炎を使うまいと。
だが、その攻撃は、何者かによって遮られる。
「かかったな! 貴様の攻撃は、裏側表示のこのモンスターが代わりに受けるぜ!! 起きろ アステカの石像!!」
現れたのは石造りの巨大な像。
全体が四角い顔面でできていて、そこから申し訳程度に、腕が生えている。その像は、壁となって炎を受け止める。
アステカの石像 ☆☆☆☆ 土属性
攻撃力300 守備力2000
岩石族 効果 反射ダメージを倍にする。
「な! 召喚していないのに怪物が……!」
思わず、後ずさるコルベールを嘲笑し、盗賊は頼まれてもいないのに説明を始めた。
「バカなおっさんに説明してやるよ。モンスターには表側表示で行う召喚と、裏側表示で行うセットがあるのさ!」
フーケは、教師に向かって指を指す。
「そして、戦闘でモンスターを破壊できなかった場合、攻撃力の低いアンタは、オレ様のしもべの反撃を食らうぜ!」
コルベールの今の攻撃は呪文唱えたことでアップしていた。
だが、殺さずフーケを撃退しようとしたのが仇となる。
炎球はアステカの石像を貫くことが出来なかった。
故にダメージの幾割かがコルベール自身に返ってくる。
「反撃しろ! アステカの石像。そのオヤジを潰せ!!」
石像の目が光り、巨体には不釣合いな一回り小さい手が、コルベールを殴り飛ばす。彼は勢いよく壁に叩きつけられた。
「ぐっ、くぅ……」
ふらつきながらも教師は立ち上がる。
殴られた肩を押さようとして、コルベールは気がついた。
自分が殴られたはずの肩の一部が……むしり取られたように消えている。
「な、何だコレは!?」
「ヒャハハハハ! 言っただろうが! こいつは闇のゲームよ!! ライフが削られればその分俺たちの体も消えてゆく。先に相手を消滅させた者だけがこの空間から出ることができるのさぁ!」
土くれの言葉と同時、彼の体から闇が噴き出した。
それは部屋を包み、周囲を暗黒へと染めてゆく。
狭い部屋が一瞬にして広大な空間へと変わった。
広大であるが、出口も無い闇の鉄檻へと。
「……貴様は狂っている」
「ハッ、好きにほざきな! てめぇを消したら次はこの学院全員を消してやるぜぇ!」
フーケはデッキからカードを一枚引く。
彼は再び、モンスターゾーンにカードをセットした。
「さあ、攻撃して来いよ。あんたの攻撃でオレ様の僕を破壊できると思うならなぁ!!」
「……」
コルベールは己の杖を見た。
杖から幻聴が聞こえる。
『焼け』『殺せ』『全てを灰燼に帰せ』
杖が語りかける誘惑を撥ね退け、コルベールは土くれに問う。
「先に言っておく。降参してくれる気はないか?」
当然というべきか、自称、盗賊王はそれを一笑に付した。
「腰抜けが、そんな台詞はオレ様のゴーレムを砕いてからいいな!」
「私は、もう誰も殺したくは無いのだ。頼む」
「はっ!そうかい。ならこっちは遠慮なく行かせてもらうぜ! 目を覚ませ! 精霊獣 ディアバウンド!!」
地中から巨大な白く濁ったような色の手が突き出た。
その腕は、フーケの場にいた二体のモンスターを粉々に握りつぶす。
腕の次に現れたのは巨大な顔。そして大蛇の頭。
時間をおいてその魔物の全容を見た瞬間、コルベールの顎を一筋の汗が伝った。
「……なんという魔力だ」
全身が白濁を固めた像のような魔物。
上半身こそ人間であるものの、肩からは刃のような羽根が生え、下半身は巨大な大蛇。
あまりにも禍々しいその姿。
ルイズが召喚した幻獣のキマイラでさえ、この怪物と比べればまるで子犬のようだ。
「俺様が二体の魔物を生贄に召喚するのは、精霊獣 ディアバウンド!!」
ディアバウンド 闇属性 ☆☆☆☆☆☆☆☆
幻神獣族 攻撃力 3000 守備力2500
効果??
魔獣 ディアバウンドは咆哮する。
その叫びは、コルベールに死を予感させた。
だが、死を感じた中年のメイジはその眼を細める。
盗賊 土くれのフーケはその眼を見た瞬間、自分の背筋に悪寒が走るのを感じた。
まるで体を流れる血に熱の通っていない――冷血動物をおもわせる眼。
まさしく蛇。
「仕方ない。今一度――私は忌まわしき『昔』に戻ろう」
つい、とずれた眼鏡を人差し指で直しながら、トライアングルメイジ 『炎蛇のコルベール』は杖を振るう。
杖から生まれるのは闇を僅かばかりに照らす。炎の塊。
土くれの前に浮遊するそれは、ちろちろと寂しく燃えた。
「ハッ! さっきの炎球より小さいコイツで何が出来るっていうんだ!?」
不気味な視線も所詮はこけおどしか、と土くれが嘲笑った瞬間。
精霊獣 ディアバウンドは守護するかのようにフーケの体を包み込んだ。
そして爆発。
初めは小さな炎の塊。
それは宇宙が作られたビッグバンのように絶え間なく爆発を続ける。
切り札の名は『爆炎』
連鎖する炎はフィールドにある全てを燃やす。大気に満ちる酸素ですらも。
口元を押さえ、うずくまっていたコルベールは身を起こした。
爆炎を唱えて、あたりには硝煙が満ちている。
『爆炎』は本来相手の間近で使う呪文ではない。
相手の近くで炸裂させたが最後、骨も残さず爆破してしまうからだ。
煙は中々晴れない。その先――
「ヒャハハハハハ!!」
「くっ!」
認めたくないことだが、哄笑が聞こえた。
禿頭のメイジは歯噛みをし、恐怖に身を震わせながらも鋭い眼でソレをにらみつける。
生きていた。
信じられないことに。
爆炎の直撃を受けて尚。
盗賊も、その僕も。
「ヒャハハハハ! やるじゃねぇか! オッサン!!」
土くれのフーケを守護するディアバウンドの周り、真空の渦が彼らを覆っていた。
『螺旋波動』
それが、ディアバウンドの攻防一体の技。
時にそれは、相手を消滅させる破壊の息吹。
時にそれは、相手の攻撃全てをかき消す鎧。
その渦を解いてフーケの笑い声はいよいよ耳障りさを増すように大きくなる。
「さあ、ゲームを終わらせようぜ!」
「まさか爆炎を防がれるとは、な」
炎のメイジは冷たい目を閉じて息をつく。
諦観のため息ではない。
決意を固めた者だけがだすことを許される、冷たい吐息。
「貴様に敬意を表すよ。土くれのフーケ。私が戦った中で君は間違いなく最強のメイジだ」
杖に再び、炎が灯る。
懐から懐中時計を取り出し、コルベールは呟いた。
「だが、もう夜が明ける。君の言うとおりだ。この馬鹿げた遊戯もそろそろ終わりにしよう」
「ハッ! じゃあ消えな! オッサン」
ガパリ、とディアバウンドの下半身である大蛇が口を開けた。
迫る精霊獣。
それらを前にしてコルベールは今宵、終言をフィールドに残した。
「貴様を生かしておくわけにはいかない。この身を引き換えにしてでも、私は君を連れて逝く!」
彼の口からは、凄まじい勢いで呪文が漏れ出る。
(この状況を、打破できる方法が一つだけ、たった一つだけある。短期間で詠唱を唱えられ、目の前の怪物を屠る威力を持つ呪文が)
「アビシス・フランマ・イーゴ・ペリーテア……」
(私はかつて許されぬ罪を犯した。これで帳消しに出来るとは思っていない。)
トライアングルメイジ・炎蛇のコルベールは己の死に場所を決めた。
ここで土くれを討ち取らねば、害が他の場所にも及ぶ。
ならば、刺し違えても止めねばならぬ。
自分の限界を込めた魔力を杖に注ぎ込む。
可能限りの詠唱を破棄。
足りない魔力も、決められた詠唱の不足も、この肉体が一切のリスクを背負う。
(せめて、生徒の命だけでも守らねば。この手が血で汚れていようとも、今の私は教師なのだから)
「…ジァ・オムニス・オルヌス!」
コルベールの杖が真紅に輝く。
炎の粉塵が、勇ましい魔法使いの上に舞い散る。
「土くれ……貴様は私と共に死ぬのだ」
「ハッ! 生憎と中年のジジイと心中する趣味はねぇよ!! 食らえ! ディアバウンド!」
精霊獣の下半身の大蛇は1飲みでコルベールを飲み下す。
あまりにあっけない結末にフーケは笑いが止まらない。
「ヒャハハハハハハ! あばよメイジのオッサン! 少し寂しいだろうが安心しな! すぎにアンタの教え子も全員あの世におくってやるからよぉ!!」
『バゥン!』
突如、ディアバウンドの口から煙がもれ出た。
連鎖するように魔物の体からは爆発音が漏れ、まるで風船のようにその体は膨らんでゆく。
「な!?」
「……一緒に死んでもらうと言っただろう? 土くれ」
精霊獣の腹の中、くぐもったコルベールの声が聞こえる。
「てめぇ! なにをしてやがる!?」
「『錬金』をしているだけさ。君の魔物にも『肺』と『胃』があってよかったよ」
「何!?」
コルベールが使った魔法は本来、ドラゴンを初めとする巨大な魔物と戦うのを想定して作り出されたものだった。
「君を最強と認めたときから、この命捨てると決意していた」
あえて我が身をドラゴンの中に投じ、可能な限り体内の物質……体内の酸素や胃液を有毒な物質に錬金する。
「てめえ……」
無論、魔物の体の中に居るのだ。術者が長く持つはずが無い。
「きみは…罠に…かかったのだ……土くれ…炎蛇の毒というに…罠にな」
声が途切れ始めた。
ディアバウンドの周囲を有毒物質に錬金することでコルベールの体にも毒が回り始めている。
「周囲の空間を学院と隔離したのは……失敗だったね。おかげで加減することなく……『爆発』を起こせるよ」
「ッ! ディアバウンド!」
コルベールが錬金した有毒物質は全て可燃性のもの。
体内の酸素を揮発性の高い気体…揮発油に。
胃酸をニトログリセリンの原料…硝酸に変えたのである。
最後に、食われる前に詠唱を済ませた特別の炎を命が尽きるまで打ち出す。
「錬炎殺!」
その言葉を最後にディアバウンドの体が弾け、閃光と轟音、耳鳴りが、全てを燃やし尽くした!!
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