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ルイズたちは、全員でカトレアの馬車に乗り込んだ。
あれだけの動物がいて、しかもこの人数だというのに乗れこめる馬車とは。それだけでただごとではない。
しかし、問題なのは……
『…姉さま。ちょっと聞いていい?ちいねえちゃん、どうしちゃったの?』
ひそひそ声でルイズ。
『知らないわよ…。お父様には、「いい薬が手に入ったから、試してみる」って一月前に連絡があったけど…』
涼しげな表情のアルベルトにガンを飛ばしていたエレオノールが、我にかえって同じくひそひそと返す。。
2人がうつした視線の先には、鼻血をたらして実に幸せそうな表情のカトレアがいる。
「おかしいな。」
と、首を捻ったのはバビル2世である。脂汗までかいていて、様子がただ事ではない。その様子を見てルイズが肘でわき腹をつつき
「何がおかしいのよ?」
「……いや、ぼくのことを『バビル2世』と呼んだから、なぜ正体を知っているのかと思い心を読んだんだ。」
それを聞いてルイズが青筋を立てて、固まる。
「ちょっと…ビッグ・ファイア……。誰がちいねえちゃんの心を読んでいいって言ったの……?」
自分が先ほどまでエレオノールにやられていたように、バビル2世の頬をつねって捻るルイズ。プロレスラー曰く、「本当に痛い技」、
栄光の第1に輝いた「つねり」だ。さすがの超能力少年といえども、堪える。
「この覗き魔!田代!デバ亀!で、心を読んでどうだったっていうの?」
「結局訊くんだな。」
さんざん人を罵ったあげく、内容を尋ねるルイズにあきれ返るバビル2世。うっさいわね、とルイズがチョップをかます。
バビル2世は頭を押さえながら、
「いや、心を読んだんだが、読めないんだ。」
「はあ?」
「だから、心を読んだんだけど、読めなかったんだ。まるでヨミの心を読もうとしたときのように…。いったいきみのお姉さんは何者なん
だい?」
ルイズは、あらためて上の姉、カトレアを見た。外見はまるで変わっていない。だが、雰囲気が変わったというか、あの病弱だった姉
が生気に満ち溢れているような気がする。なにがあったというのだろうか。
……そういえばなんのためにラ・ヴァリエール家に向かっていたんだっけ?
そのころ、魔法学院。
キュルケとタバサはがらんとしてしまったアウストリの広場を歩いていた。
「いやいや、ほんとに戦争って感じねぇ」
両手を挙げて首を捻るキュルケ。そう、教師も生徒も、男に属するものはほとんど白伐に参加したのだ。教師連中は正規兵として、
部下を与えられすでにラ・ロシェールに赴いているはずだ。生徒は今頃即席の士官教育を受けているころだろう。キュルケの祖国、
ゲルマニアも同盟軍としてラ・ロシェールに第1陣が到着しているはずだ。ちなみに、キュルケも軍に志願したが、女子ということで却下
されたのだ。
2人は行くあてもなく、ぶらぶらと歩き、火の塔前にやってきた。つまりコルベールの研究室近くにやってきたのだ。そこではコルベー
ルが、他の教師は出征したというのに、一生懸命ゼロ戦にかじりついていた。
「お忙しようですわね?」
キュルケは、コルベールにイヤミの混じった声で言った。
「ん?」とコルベールは顔を上げ、にっこりと笑った。
「おお、ミス・ツェルプストー。きみにいつか、火の使い方について講義を受けたことがあったな。」
「……ミスタ・コルベール、あなたは堕落しました!」
どっかの究極超人の妹のように、キュルケは言う。学院の男たちのほとんどは戦に赴くというのに…
「ん?ああ……ゆっさは嫌いでね。」
鹿児島弁でなぜか戦というコルベールは、キュルケから顔を背けた。キュルケは軽蔑の色を顔に浮かべ、鼻を鳴らす。
「同じ火の使い手として恥ずかしいですわ。」
男らしくない。目の前の戦から逃げ出しているようにしか見えない。炎蛇の二つ名を持ちながら、この教師は戦が苦手と言い放つ。
「ミス……いいかね、火の見せ場は…」
「戦いだけではない、とおっしゃりたいのでしょう?聞き飽きましたわ!臆病者のたわごとにしか聞こえませんわ!」
ぷいっと顔を逸らし、キュルケはタバサを促し歩き去っていく。コルベールはその背中を見守りながら、さびしそうなため息をついた。
研究室に戻ったコルベールは、机にしまってある箱から、炎のように赤く光るルビーの指輪を取り出し、それを眺める。
「破壊だけが、火の見せ場ではないのだ。」
アルビオンの首都、ロンディニウムの南側にハヴィランド宮殿がある。そこは、アルビオンのまさに中心部である。ここで歴代の王が
国の舵取りを行っていた。しかし、今の主は違う。すでに政権はレコン・キスタに変わっているのだ。
会議が終わり、首脳以下閣僚がどやどやと、白ホールと言われる大会議場から出てくる。その先頭にいるのは、
「クロムウェル様」
ジャンパーを着た、ぐるぐる目の男がこの国のトップである男、真性アルビオン共和国政府貴族議会議長オリヴァー・クロムウェルを
呼びとめた。男の名前はディックという、ここ最近クロムウェルの秘書を勤めている男だ。
呼び止められたクロムウェルは、笑顔で他の閣僚に別れを告げるとディックの傍によっていった。だが、たしかクロムウェルは死んだ
はずだ。それが、なぜ…。
クロムウェルとディックは、共に近くの個室に入っていく。壁にかかった絵を押すと、部屋全体がゆっくりと下に移動していく。
「ブレランド、もう変装をといてもいいんじゃないか?」
ディックの言葉に、クロムウェルが頷いて顔を手で覆った。指の隙間から、顔面筋がぴくぴくと麻痺し、蠢いているのが見える。
クロムウェルが手を離すと、そこにはクロムウェルとは似ても似つかぬ丸顔の男がいた。
「ふー、疲れた疲れた」
「ごくろうさま」
ディックがにこやかにブレランドをねぎらう。そう、クロムウェルの死後、ブレランドが化けていたのだ。
「まったく、人使いが荒いよ。この前までアルビオンにいて、やっとガリアに帰ったと思ったら、またとんぼ返りだぜ?」
「それはしかたがないさ。ぼくも変身能力はあるけど、クロムウェルの性格を一番知っているのは、間近で見ていたブレランドしかいな
いんだ。」
部屋の下降が止まる。ドアを開けると、先ほどとは似ても似つかぬ、近代的な通路が広がっている。
『ディック・マキ。ブレランド。確認終了。通行ヲ許可スル。』
コンピューター音声が流れる。それを聞いて2人が廊下を歩き出す。
そして2人は大きなスクリーンのある、会議場へ入って行った。そこにはすでに他に9人の男が座っている。
この男たちこそ、ヨミが手ずからに育て上げた、対バビル2世用の部下たち、梁山泊九大天王であった。
モニターの電源がつき、男の姿を映し出す。そこにいたのは托塔天王晁蓋こと、ガリア王ジョゼフであった。
「それでは全員揃ったようなので、今から会議を始める。」
厳かにヨミが宣言する。
「まず、諸君らに感謝を述べる。おかげで我らの悲願、GR計画に完成の目処がたった。」
パチパチと盛大に拍手が起こる。
「次に、ドミノ作戦についても、敵は見事にひっかかってくれている。予定通り、アルビオンへ敵は侵攻を開始するようだ。ご存知のよう
にドミノ作戦には次の2つの意味がある。一つはドミノ倒し、もう一つはかつてアメリカが101とバビル2世を呼んでいた時期、その血液
を用いて作り出された人工超人「ドミノ」に由来する。」
ヨミがあごひげを撫でる。
「ドミノは卑劣な手段を用い、バビル2世を倒そうとした。だがバビル2世はその罠をくぐりぬけた。それどころか、卑劣な手段を用いた
ドミノに激しい怒りを覚え、昼夜を問わずテレパシーで激しく罵り、ついには精神状態を不安定にさせ、おびき出し、殺した。」
ヨミの言葉にあわせ晁蓋の映っているモニターにドミノの顔写真、バビル2世とドミノの決闘、あるいは卑劣な罠の写真が映し出され
ていく。
「つまりドミノ作戦とは、ドミノ倒しのように、ある一つの作戦を皮切りに次々と作戦を連続して行うこと。そしてもう一つは、バビル2世を
激昂させ、おびき寄せることを意味している。我々はこれまで、レコンキスタ工作、アルビオン征服、トリステイン攻撃、そしてトリステイ
ン王女誘拐と、着実にドミノ作戦を成功させてきた。結果、敵はまんまとこちらの思惑に乗り、白伐と称してアルビオンへ侵攻しようと
している。だが、」
ヨミは一同をギラッと睨んだ。
「これで、バビル2世が激昂をしている保証はない。いずれの計画も、充分卑劣な計画だ。王族を皆殺しにしようとし、だまし討ちを行い
王女を死体でだましておびき寄せた。しかし、かと言ってあのバビル2世が激昂している保証はないのだ。そこで、我々はドミノ作戦の
最終段階として、バビル2世の大切なものを奪うことにする。」
「大切なもの?」
いままでヨミのオーラに押し黙っていた九大天王の一人、大塚署長がようやっと口を開いた。
「その通りだ。」
ヨミが指パッチンをする。映像が切り替わり、ある学校が映し出される。そう、この学校は…
「トリステイン魔法学院!?」
「そうだ。今、この学校の教師も生徒も男はほとんど軍に参加してのこっていない。だからこそ攻める価値がある。ここを攻撃されれば
バビル2世は激怒するにちがいない。激怒のまま、罠が待ち構えていると知らずのこのこやってくるはずだ。」
「しかし、いったい誰が襲撃をするというのです?我々はそれこそバビル2世を出迎える準備のため、手が空いていませんが?」
「ふっふふ、安心しろ。それについては、ピッタリの人材がいる。」
ヨミが厳かに宣言する。
「作戦決行は5日後、敵がアルビオン侵攻を正式発表した翌日に行う!そしてその日が、バビル2世にとっては死のカウントダウンが
開始した日となるのだ!」
息が詰まる、とはこのことを言うのだろう。楽しいはずの晩餐会は、一種異様な雰囲気に包まれていた。空気が歪んで見えた。とい
うか空間が歪んでみる。ジョジョならあの地鳴りのような擬音がところ狭しと書き込まれているだろう。
まず、ルイズたちの母親というのが並ではない。威圧感が具現化したような、異常な迫力のある女性だ。ピンクブロンドの髪をしてい
る。おそらくルイズたちの髪の色は母親譲りなのだろう。
母親を上座に、4辺に娘たちが座っている。よほど正面に行くのが嫌なのか、姉2人はあっというまに横の席をとってしまった。
その母親の威圧感に対抗するように、ルイズの後ろに控えている従者たちがいた。
アルベルトと、残月、バビル2世に命の鐘の十常寺だ。
命の鐘の十常寺は、さきほど召喚した。普段は厳重に布で包んで触らぬようにしてあるのだが、
「すこしでも対抗するものが欲しい」
というルイズの要求により、久しぶりに解放されたのである。十常寺自身は外の様子がわかっていたらしく、
「因果応報悔い改める、任務遂行これ易し」
実に頼もしい言葉を吐いてくれた。
そう、ルイズが少しでも母の威圧感に対抗すべく、4人を背後に控えさせたのだ。しかし、結論を言うと効果はまったくの逆になってし
まった。威圧感が鬼のようにある母親と後ろの4人の威圧感に挟まれルイズは半分死に掛けていた。身も痩せる思いとはこのことだ。
ブートキャンプなど目ではない。座っているだけで寿命ごと肉が削られていく。
ああ、この配置は確実に失敗だったな、とルイズが思っていると、
「母さま、ルイズに言ってあげて!この子、戦争にいくだなんてばかげたこと言ってるのよ?」
先に耐えられなくなったエレオノールが発言をする。
「ばかげたことじゃないわ!」
ルイズがテーブルをたたき立ち上がった。
「どうして陛下の軍に志願することが、ばかげたことなの?」
「あなたは女の子じゃないの!戦争は殿方にまかせなさいな!」
「それは昔の話だわ!今はそんな時代じゃないのよ!」
「三宅先生、田嶋先生、落ち着いてください。」
「「誰が三宅に田嶋だ!」」
橋下弁護士の声真似をしたカトレアのボケに、2人が一斉につっこんだ。ころころと笑いながら、カトレアは、
「相変わらず仲がいいのね、2人とも。うらやましいわ。」
屈託なくいう。腐っているように見えたのは、たぶん気のせいだったのだろう。うん。
その様子を見てルイズとエレオノールは不安そうに、
「母さま、話は変わりますけど…」
「カトレアの様子、すこし変わりましたか…?その……こう、どういえばいいのか……」
「何も変わっていません。」
2人を一瞥もせず、母カリーヌがいう。よく通る、威厳のある声だ。
「よく効く薬のおかげで身体が治り、はしゃいでいるのです。元々活発な性格の子なのです。ただ今までは病弱ゆえ音なし目であっただけで、身体が動くようになれば、雰囲気が変わったように見えてもおかしくはありません。」
それだけではないような気がするのだが。
「ルイズのことは、明日お父さまが戻られてから話しましょう。」
それでその話は打ち切りになった。
ルイズたちは、全員でカトレアの馬車に乗り込んだ。
あれだけの動物がいて、しかもこの人数だというのに乗れこめる馬車とは。それだけでただごとではない。
しかし、問題なのは……
『…姉さま。ちょっと聞いていい?ちいねえちゃん、どうしちゃったの?』
ひそひそ声でルイズ。
『知らないわよ…。お父様には、「いい薬が手に入ったから、試してみる」って一月前に連絡があったけど…』
涼しげな表情のアルベルトにガンを飛ばしていたエレオノールが、我にかえって同じくひそひそと返す。。
2人がうつした視線の先には、鼻血をたらして実に幸せそうな表情のカトレアがいる。
「おかしいな。」
と、首を捻ったのはバビル2世である。脂汗までかいていて、様子がただ事ではない。その様子を見てルイズが肘でわき腹をつつき
「何がおかしいのよ?」
「……いや、ぼくのことを『バビル2世』と呼んだから、なぜ正体を知っているのかと思い心を読んだんだ。」
それを聞いてルイズが青筋を立てて、固まる。
「ちょっと…ビッグ・ファイア……。誰がちいねえちゃんの心を読んでいいって言ったの……?」
自分が先ほどまでエレオノールにやられていたように、バビル2世の頬をつねって捻るルイズ。プロレスラー曰く、「本当に痛い技」、栄光の第1に輝いた「つねり」だ。さすがの超能力少年といえども、堪える。
「この覗き魔!田代!デバ亀!で、心を読んでどうだったっていうの?」
「結局訊くんだな。」
さんざん人を罵ったあげく、内容を尋ねるルイズにあきれ返るバビル2世。うっさいわね、とルイズがチョップをかます。
バビル2世は頭を押さえながら、
「いや、心を読んだんだが、読めないんだ。」
「はあ?」
「だから、心を読んだんだけど、読めなかったんだ。まるでヨミの心を読もうとしたときのように…。いったいきみのお姉さんは何者なんだい?」
ルイズは、あらためて上の姉、カトレアを見た。外見はまるで変わっていない。だが、雰囲気が変わったというか、あの病弱だった姉が生気に満ち溢れているような気がする。なにがあったというのだろうか。
……そういえばなんのためにラ・ヴァリエール家に向かっていたんだっけ?
そのころ、魔法学院。
キュルケとタバサはがらんとしてしまったアウストリの広場を歩いていた。
「いやいや、ほんとに戦争って感じねぇ」
両手を挙げて首を捻るキュルケ。そう、教師も生徒も、男に属するものはほとんど白伐に参加したのだ。教師連中は正規兵として、部下を与えられすでにラ・ロシェールに赴いているはずだ。生徒は今頃即席の士官教育を受けているころだろう。キュルケの祖国、ゲルマニアも同盟軍としてラ・ロシェールに第1陣が到着しているはずだ。ちなみに、キュルケも軍に志願したが、女子ということで却下されたのだ。
2人は行くあてもなく、ぶらぶらと歩き、火の塔前にやってきた。つまりコルベールの研究室近くにやってきたのだ。そこではコルベールが、他の教師は出征したというのに、一生懸命ゼロ戦にかじりついていた。
「お忙しようですわね?」
キュルケは、コルベールにイヤミの混じった声で言った。
「ん?」とコルベールは顔を上げ、にっこりと笑った。
「おお、ミス・ツェルプストー。きみにいつか、火の使い方について講義を受けたことがあったな。」
「……ミスタ・コルベール、あなたは堕落しました!」
どっかの究極超人の妹のように、キュルケは言う。学院の男たちのほとんどは戦に赴くというのに…
「ん?ああ……ゆっさは嫌いでね。」
鹿児島弁でなぜか戦というコルベールは、キュルケから顔を背けた。キュルケは軽蔑の色を顔に浮かべ、鼻を鳴らす。
「同じ火の使い手として恥ずかしいですわ。」
男らしくない。目の前の戦から逃げ出しているようにしか見えない。炎蛇の二つ名を持ちながら、この教師は戦が苦手と言い放つ。
「ミス……いいかね、火の見せ場は…」
「戦いだけではない、とおっしゃりたいのでしょう?聞き飽きましたわ!臆病者のたわごとにしか聞こえませんわ!」
ぷいっと顔を逸らし、キュルケはタバサを促し歩き去っていく。コルベールはその背中を見守りながら、さびしそうなため息をついた。
研究室に戻ったコルベールは、机にしまってある箱から、炎のように赤く光るルビーの指輪を取り出し、それを眺める。
「破壊だけが、火の見せ場ではないのだ。」
アルビオンの首都、ロンディニウムの南側にハヴィランド宮殿がある。そこは、アルビオンのまさに中心部である。ここで歴代の王が国の舵取りを行っていた。しかし、今の主は違う。すでに政権はレコン・キスタに変わっているのだ。
会議が終わり、首脳以下閣僚がどやどやと、白ホールと言われる大会議場から出てくる。その先頭にいるのは、
「クロムウェル様」
ジャンパーを着た、ぐるぐる目の男がこの国のトップである男、真性アルビオン共和国政府貴族議会議長オリヴァー・クロムウェルを呼びとめた。男の名前はディックという、ここ最近クロムウェルの秘書を勤めている男だ。
呼び止められたクロムウェルは、笑顔で他の閣僚に別れを告げるとディックの傍によっていった。だが、たしかクロムウェルは死んだはずだ。それが、なぜ…。
クロムウェルとディックは、共に近くの個室に入っていく。壁にかかった絵を押すと、部屋全体がゆっくりと下に移動していく。
「ブレランド、もう変装をといてもいいんじゃないか?」
ディックの言葉に、クロムウェルが頷いて顔を手で覆った。指の隙間から、顔面筋がぴくぴくと麻痺し、蠢いているのが見える。
クロムウェルが手を離すと、そこにはクロムウェルとは似ても似つかぬ丸顔の男がいた。
「ふー、疲れた疲れた」
「ごくろうさま」
ディックがにこやかにブレランドをねぎらう。そう、クロムウェルの死後、ブレランドが化けていたのだ。
「まったく、人使いが荒いよ。この前までアルビオンにいて、やっとガリアに帰ったと思ったら、またとんぼ返りだぜ?」
「それはしかたがないさ。ぼくも変身能力はあるけど、クロムウェルの性格を一番知っているのは、間近で見ていたブレランドしかいないんだ。」
部屋の下降が止まる。ドアを開けると、先ほどとは似ても似つかぬ、近代的な通路が広がっている。
『ディック・マキ。ブレランド。確認終了。通行ヲ許可スル。』
コンピューター音声が流れる。それを聞いて2人が廊下を歩き出す。
そして2人は大きなスクリーンのある、会議場へ入って行った。そこにはすでに他に9人の男が座っている。
この男たちこそ、ヨミが手ずからに育て上げた、対バビル2世用の部下たち、梁山泊九大天王であった。
モニターの電源がつき、男の姿を映し出す。そこにいたのは托塔天王晁蓋こと、ガリア王ジョゼフであった。
「それでは全員揃ったようなので、今から会議を始める。」
厳かにヨミが宣言する。
「まず、諸君らに感謝を述べる。おかげで我らの悲願、GR計画に完成の目処がたった。」
パチパチと盛大に拍手が起こる。
「次に、ドミノ作戦についても、敵は見事にひっかかってくれている。予定通り、アルビオンへ敵は侵攻を開始するようだ。ご存知のようにドミノ作戦には次の2つの意味がある。一つはドミノ倒し、もう一つはかつてアメリカが101とバビル2世を呼んでいた時期、その血液を用いて作り出された人工超人「ドミノ」に由来する。」
ヨミがあごひげを撫でる。
「ドミノは卑劣な手段を用い、バビル2世を倒そうとした。だがバビル2世はその罠をくぐりぬけた。それどころか、卑劣な手段を用いたドミノに激しい怒りを覚え、昼夜を問わずテレパシーで激しく罵り、ついには精神状態を不安定にさせ、おびき出し、殺した。」
ヨミの言葉にあわせ晁蓋の映っているモニターにドミノの顔写真、バビル2世とドミノの決闘、あるいは卑劣な罠の写真が映し出されていく。
「つまりドミノ作戦とは、ドミノ倒しのように、ある一つの作戦を皮切りに次々と作戦を連続して行うこと。そしてもう一つは、バビル2世を激昂させ、おびき寄せることを意味している。我々はこれまで、レコンキスタ工作、アルビオン征服、トリステイン攻撃、そしてトリステイン王女誘拐と、着実にドミノ作戦を成功させてきた。結果、敵はまんまとこちらの思惑に乗り、白伐と称してアルビオンへ侵攻しようとしている。だが、」
ヨミは一同をギラッと睨んだ。
「これで、バビル2世が激昂をしている保証はない。いずれの計画も、充分卑劣な計画だ。王族を皆殺しにしようとし、だまし討ちを行い王女を死体でだましておびき寄せた。しかし、かと言ってあのバビル2世が激昂している保証はないのだ。そこで、我々はドミノ作戦の最終段階として、バビル2世の大切なものを奪うことにする。」
「大切なもの?」
いままでヨミのオーラに押し黙っていた九大天王の一人、大塚署長がようやっと口を開いた。
「その通りだ。」
ヨミが指パッチンをする。映像が切り替わり、ある学校が映し出される。そう、この学校は…
「トリステイン魔法学院!?」
「そうだ。今、この学校の教師も生徒も男はほとんど軍に参加してのこっていない。だからこそ攻める価値がある。ここを攻撃されればバビル2世は激怒するにちがいない。激怒のまま、罠が待ち構えていると知らずのこのこやってくるはずだ。」
「しかし、いったい誰が襲撃をするというのです?我々はそれこそバビル2世を出迎える準備のため、手が空いていませんが?」
「ふっふふ、安心しろ。それについては、ピッタリの人材がいる。」
ヨミが厳かに宣言する。
「作戦決行は5日後、敵がアルビオン侵攻を正式発表した翌日に行う!そしてその日が、バビル2世にとっては死のカウントダウンが
開始した日となるのだ!」
息が詰まる、とはこのことを言うのだろう。楽しいはずの晩餐会は、一種異様な雰囲気に包まれていた。空気が歪んで見えた。というか空間が歪んでみる。ジョジョならあの地鳴りのような擬音がところ狭しと書き込まれているだろう。
まず、ルイズたちの母親というのが並ではない。威圧感が具現化したような、異常な迫力のある女性だ。ピンクブロンドの髪をしている。おそらくルイズたちの髪の色は母親譲りなのだろう。
母親を上座に、4辺に娘たちが座っている。よほど正面に行くのが嫌なのか、姉2人はあっというまに横の席をとってしまった。
その母親の威圧感に対抗するように、ルイズの後ろに控えている従者たちがいた。
アルベルトと、残月、バビル2世に命の鐘の十常寺だ。
命の鐘の十常寺は、さきほど召喚した。普段は厳重に布で包んで触らぬようにしてあるのだが、
「すこしでも対抗するものが欲しい」
というルイズの要求により、久しぶりに解放されたのである。十常寺自身は外の様子がわかっていたらしく、
「因果応報悔い改める、任務遂行これ易し」
実に頼もしい言葉を吐いてくれた。
そう、ルイズが少しでも母の威圧感に対抗すべく、4人を背後に控えさせたのだ。しかし、結論を言うと効果はまったくの逆になってしまった。威圧感が鬼のようにある母親と後ろの4人の威圧感に挟まれルイズは半分死に掛けていた。身も痩せる思いとはこのことだ。
ブートキャンプなど目ではない。座っているだけで寿命ごと肉が削られていく。
ああ、この配置は確実に失敗だったな、とルイズが思っていると、
「母さま、ルイズに言ってあげて!この子、戦争にいくだなんてばかげたこと言ってるのよ?」
先に耐えられなくなったエレオノールが発言をする。
「ばかげたことじゃないわ!」
ルイズがテーブルをたたき立ち上がった。
「どうして陛下の軍に志願することが、ばかげたことなの?」
「あなたは女の子じゃないの!戦争は殿方にまかせなさいな!」
「それは昔の話だわ!今はそんな時代じゃないのよ!」
「三宅先生、田嶋先生、落ち着いてください。」
「「誰が三宅に田嶋だ!」」
橋下弁護士の声真似をしたカトレアのボケに、2人が一斉につっこんだ。ころころと笑いながら、カトレアは、
「相変わらず仲がいいのね、2人とも。うらやましいわ。」
屈託なくいう。腐っているように見えたのは、たぶん気のせいだったのだろう。うん。
その様子を見てルイズとエレオノールは不安そうに、
「母さま、話は変わりますけど…」
「カトレアの様子、すこし変わりましたか…?その……こう、どういえばいいのか……」
「何も変わっていません。」
2人を一瞥もせず、母カリーヌがいう。よく通る、威厳のある声だ。
「よく効く薬のおかげで身体が治り、はしゃいでいるのです。元々活発な性格の子なのです。ただ今までは病弱ゆえ音なし目であっただけで、身体が動くようになれば、雰囲気が変わったように見えてもおかしくはありません。」
それだけではないような気がするのだが。
「ルイズのことは、明日お父さまが戻られてから話しましょう。」
それでその話は打ち切りになった。
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