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「使い魔のカービィ 09」(2007/08/25 (土) 21:37:37) の最新版変更点
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ギーシュとの決闘から数日後の朝。
カービィはベッドの中で惰眠を貪っていた。
基本的に、カービィがルイズよりも早く起きるということはない。
いつも先に起きたルイズがカービィを起こし、一緒に朝食へ行くというのがパターン化していた。
「カービィ! 起きなさい!」
今朝もやはりその繰り返しで、ルイズがカービィの被っていた布団を引き剥がした。
「ぽょぉ………」
眠い目を擦りながらゆっくりと起き上がるカービィ。
余談だが、前にこの光景を見たキュルケが「使い魔としての職務怠慢ね、どっちが主人だか分からないわ」と皮肉っていたが、ルイズは大して気に留めなかった。
何故ならば、大当たりなこの使い魔を、ルイズは周りが気にならないほど溺愛していたのだ。
優しさ、珍しさ、特殊能力、そして強さまで兼ね備えた使い魔を、どうしてルイズが卑下に出来ようか。
幼さを差し引いても、確実にトップクラスの価値がカービィにはあるのだ。
そういったことから、ルイズは溺愛するだけでなく、同時にカービィを誇らしくも思っていた。
そのためどうしてもカービィには甘くなってしまう節があり、自身が打ち立てた教育方針などとうの昔に忘れ去っていた。
……話しを戻そう。
ルイズはカービィをベッドから下ろすと、しゃがんで目線の高さを近づけた。
その顔はどこか嬉しそうである。
「カービィ、今日は街に行くわよ」
「ぽょ?」
ルイズの提案に、カービィは大きく首を傾げた。
今日は虚無の曜日、週に一度だけ来る休みの日だ。
ルイズは今日がカービィと更に絆を深めるための良い機会だと思い、街へ買い物に繰り出そうとしていた。
しかし、街へ行くのは何もカービィとの絆を深めるためだけではない。
先日のギーシュの決闘以来、ルイズはカービィの能力を『剣を吸い込むと剣士になれる』という限定的なものだと誤認していた。(あながち間違いではないが)
そのためカービィ専用の剣を買い与え、いつでも力を遺憾なく発揮出来るようにしようとしていたのだ。
――しかし、ルイズは気付いていない。
決闘の時カービィが吸い込んだ剣がそのまま彼の腹の中にあることを。
そしてカービィは今まで、吸い込んだ物を吐き出した事があまりないことを。
総じてカービィ専用の剣に大金を注ぎ込んだ場合大損する可能性があるのだが、ルイズは知る由もなかった――
そんなこんなで寝ぼけ眼のカービィを連れて部屋を出たルイズは、まずシエスタの所へ向かった。
平民の常識や物の価格の相場が分かっている彼女に買い物の付き添いを頼むためだ。
決闘以来変わったことは、ルイズからカービィへの評価だけではない。
ルイズとシエスタの仲にも変化が生じていた。
一般的な『貴族』と『使用人』の関係でしかなかった2人だが、この数日で急激に親好が深まっている。
身分云々の問題はあれど、両者はお互いを『良い友人』と認め合っていた。
そんなルイズの頼みをシエスタが断る筈もなく、二つ返事で快く了承していた。
こうして買い物支度を整えたルイズ一行は、一路街へ向かって借りた馬を走らせた。
そして走行すること数時間。
一行は目的地――王都トリステイン城下町へ到着した。
乗ってきた馬を駅に預け、街への入り門を潜る。
その先の光景に、カービィは目を見張った。
「ぽよぉーー!」
白い町並みはたくさんの人が行き交い、道の両端には数々の店が軒を連ねている。
店だけでなく屋台や露天商も見受けられ、ププビレッジよりも賑わいがあった。
流石は王家のお膝元である。
ルイズは財布をシエスタに預け、これから先の予定を確認し始めた。
「とにかく、まずは武器屋ね。たしか武器屋は……」
「ぽよぉっ!」
「? カービィ?」
ルイズが急に大声を出したカービィの方を見ると、ある一点を見つめて固まっている。
顔を見合わせる2人を余所に、カービィは走り出した。
「ぽよー♪」
「あっ、ちょっとカービィ!」
止めようとルイズが手を伸ばすがかわされる。
残された2人は仕方なく跡を追った。
が、カービィは案外あっさりと野菜の店の前で立ち止まった。
走るまでもなく2人は追いつき、ルイズがカービィを抱き上げる。
「一体どうしたっていうのよ?」
「スイカ♪ スイカ♪」
「スイカ?」
そう、スイカだ。
店の軒先にはたくさんのスイカが並んでいた。
カービィはそれを一生懸命指している。
「もしかして、スイカが好きだったんですか?」
「ぽよっ♪」
カービィはこの世界に来て以来、大好物のスイカを食べていなかった。
前の世界ではそれこそ毎日食べていた物を急に食べれなくなったのだから、少し寂しい思いをしていた。
「1個どうです? お安くしときやすぜ?」
いつの間に出てきたのか、営業スマイルを浮かべた店主がそこにいた。
『まあ、1個くらいなら』と思い、ルイズはスイカを選び始める。
「じゃあ、この一番大きいの」
「あ、待って下さい」
シエスタがルイズを制し、一歩前に出る。
そしてスイカを1つ1つ軽く叩き始めた。
その様子にルイズは頭の上に幾つも『?』を浮かべる。
「何してるの?」
「音ですいかの善し悪しを見極めてるんです………これをください」
「はいよ、毎度あり!」
ルイズにはどれも同じ音に聞こえたが、シエスタには違いが分かったようだ。
満足したような表情で、選び抜いたスイカを購入していた。
「どうぞ、カービィさん」
「ぽよおぉー♪」
「随分詳しいわね?」
「父から教えてもらったんです。他にも買い物の豆知識は色々と」
「へぇ。今度、私にも教えてくれる?」
「ええ、ルイズ様なら喜んで」
微笑み合う2人。
その横で、カービィがスイカを丸呑みにしていた。
「ん~、なんかいいのがないわね」
寄り道はあったが、武器屋にやって来たルイズ達はカービィ専用の剣を見定めていた。
しかし素人しかいない一行に剣のことなど分かるはずもなく、とりあえず店主に見繕ってもらった品々を眺めていた。
「なら、これなんてどうです? この長さではうちで一番の業ものでさあ。なにせこれを鍛えたのはかの高名な錬金魔術師のシュペー郷で、魔法が掛かっているから鉄さえ一刀両断。武器としても装飾としても一流の品でして」
そう言って店主が手に取ったのは数字の『Ⅰ』を思わせるデザインのショートソードだった。
随所に豪華な宝石があしらわれ、鍔は黄金で出来ている。
ルイズは店主のセールストークと剣の美しさにすっかり魅入っていた。
「いいわね、お幾ら?」
「へい、新金貨で千五百になります」
次の瞬間張り手を食らったように正気に戻されてしまった。
「し、新金貨千五百っ!?」
「立派な屋敷が買えるじゃない!」
ルイズとシエスタは財布の中身を再確認し、頭を抱えた。
財布の中身……新金貨百枚。
新金貨千五百などとてもじゃないが手が届かない。
「弱ったわね……新金貨百枚しか持ってないわ」
「ルイズ様、とりあえずそれで買える剣を買うしか……」
「惜しいけどそうするしかないわね……まあ、剣なら何でもいいわけだし」
「『剣なら何でもいい』だぁ? ふざけんな! んな所持者のことも考えない買い方すんならとっとと出てけ! てめぇに武器を買う資格はねぇ!」
苦々しい表情で財布と相談していた2人と遊んでいたカービィの元へ、どこからともなく怒鳴り声が飛んできた。
「ななななな、なんですって!? 貴族に向かってなんて口の利き方なの!?」
ボロクソに言われたルイズはその声の主にキレ、睨みを利かせて周りを見回した。
しかし、声はせども姿は見えず。
彼女の周りには相変わらず数々の武器が鎮座しているだけだった。
「誰もいない……?」
「やいデル公! お客様に向かってなんて物言いだ!」
「ぽよーーー♪」
「うわっ! な、何しやがる!」
店主が剣の山に向かって怒鳴りつけると同時に、カービィが数ある剣の内の1本を手に取り嬉しそうに店内を駆け回った。
シエスタはカービィが何をしているのか疑問に思っていたが、ルイズはそれを見てふと思い出した。
魔法で作られた『喋る剣』という物が存在することを。
「あれって……インテリジェンスソード?」
「へい。どうにも口が悪くて全く売れず、逆にお客様に喧嘩を売る始末。誰が考えたんでしょうねぇ、喋る魔剣なんて……」
「ぽよよいぽよよい♪」「おいっ! おもちゃじゃねぇんだ! そんな風に振り回すんじゃ……ん?」
自分を振り回して遊んでいるカービィに一発怒鳴ってやろうとした剣だが、カービィに『何か』を感じ取った。
剣を振り回していたカービィも、急に喋らなくなったため不思議そうな顔をしている。
しばらくの沈黙の後、剣が何かを見切ったように喋り始めた。
「……おでれーた。てめぇ、そのナリで『使い手』かよ」
「ぽよ?」
「『使い手』? 何よそれ?」
「んなこたぁどうでもいい。とにかくてめぇら、俺を買え」
「はぁ!? なんであんたみたいな口の悪い剣を買わなきゃいけないのよ!」
「ほぉー、そうかい。でもこいつは俺を気に入ったみたいだぜ?」
剣は勝ち誇ったような声でルイズに高圧的な態度を取る。
否定したいルイズだったが、カービィの嬉しそうな表情を見ると言葉が詰まった。
甘やかしの影響がこんな所に出るとは、何がどう転ぶかわからないものだ。
「えと……あの剣はお幾らですか?」
とにかく値段だけでも知ろうと、店主に訪ねるシエスタ。
その問いに店主は即答した。
「あれなら新金貨100で結構でさ」
「えっ、随分お安いんですね」
「サービスですよ。こっちとしても客に因縁付けるようなオンボロを引き取って貰えて清々出来ますからね」
店主の言葉になるほど頷くシエスタとルイズ。
しかし
「でも、この長さじゃカービィに持たせるのは無理ね」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! こいつだってこんなに俺のこと気に入ってんだろ!?」
ルイズの一言に剣の声に焦りが混じり始める。
その後も剣の説得と悪態は続いたが、ことごとくルイズは却下した。
このままでは本当に不味いと剣が感じ始めた頃、意外な場所から助け舟が出た。
「あの、でしたら私が背負いましょうか?」
ルイズと剣が言い争う横で、シエスタがそっと手を挙げる。
「えっ?」
「そりゃあいい! 必要な時、丸っころにはオメェさんから俺を渡してもらえばいいしな!」
しめたとばかりに剣が話し出す。
ルイズはそれを叱咤して制止させた。
「大丈夫? ボロなのに意外と重いわよ?」
「普段から掃除や洗濯で足腰は鍛えてますから、大丈夫です」
シエスタの言葉にルイズは考え込んだ。
その間にも剣の熱い視線(のような念)が突き刺さる。
しばらく悩み……ルイズは遂に押し負けた。
「はぁ……分かったわよ、買うわ」
「毎度あり! 今鞘をご用意しますぜ!」
そう言うと、店主は再び店の奥へ消えた。
ルイズは未だに納得していないが、仕方なく観念したようだ。
剣の方に向き直って話し掛ける。
「あんた、名前は? まさかデル公なわけないでしょ?」
「当たり前だ! 俺はインテリジェンスソードのデルフリンガー。デルフでいいぜ。よろしくな、娘っこ達、それに相棒!」
「ぽよっ♪」
カービィはデルフを掲げると、また振り回して遊び始めた。――一方、トリステイン魔法学院の宝物庫入口の前。
宝物庫の扉を触りながら、苦々しい表情を浮かべる人物がいた。
オールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルである。
彼女は宝のリストを作ると偽り、この場所でコルベールから宝物庫と宝について説明を受けた処だった。
「まったく……固定化は強力だわ、厚さ5メイルの壁を使ってるわ、こんな設計をした奴は馬鹿だね、賊泣かせにも程があるよ」
今まで何度か『錬金』を試してきたが、結果はいつも同じ。
かすり傷がつく程度で、壁を破るなど夢のまた夢だった。
「あのツルっ禿……『物理衝撃が弱点』? こんなトンデモ設計じゃそんな理論何の意味もないじゃないかい」
色仕掛けを使いコルベールから色々情報を仕入れたが、『固定化』と『5メイルの壁』を突破する術までは聞き出すことができなかった。
『物理衝撃が弱点』というのも、コルベールの予想に過ぎないことから信憑性は微妙だ。
難攻不落とも言える宝物庫に、ミス・ロングビルは頭痛がしそうだった。
しかし、コルベールの情報の中に、そんな頭痛を吹き飛ばしてくれそうな物が1つだけ存在した。
それは『煌めきの星』という、つい最近宝物庫に入れられたマジックアイテムの情報だった。
コルベールが言うには膨大な力を秘めており、宝石とは違った美しい輝きを放っているらしい。
誰も使い方が分からないにも関わらず、この秘宝を欲しがる貴族は引く手数多だそうだ。
「『煌めきの星』ねぇ……こりゃイイコト聞いた」
先程までの苦悶の表情が一変。
口元はつり上がり、女狐のようにずる賢い『怪盗』がそこにいた。
#navi(使い魔のカービィ)
ギーシュとの決闘から数日後の朝。
カービィはベッドの中で惰眠を貪っていた。
基本的に、カービィがルイズよりも早く起きるということはない。
いつも先に起きたルイズがカービィを起こし、一緒に朝食へ行くというのがパターン化していた。
「カービィ! 起きなさい!」
今朝もやはりその繰り返しで、ルイズがカービィの被っていた布団を引き剥がした。
「ぽょぉ………」
眠い目を擦りながらゆっくりと起き上がるカービィ。
余談だが、前にこの光景を見たキュルケが「使い魔としての職務怠慢ね、どっちが主人だか分からないわ」と皮肉っていたが、ルイズは大して気に留めなかった。
何故ならば、大当たりなこの使い魔を、ルイズは周りが気にならないほど溺愛していたのだ。
優しさ、珍しさ、特殊能力、そして強さまで兼ね備えた使い魔を、どうしてルイズが卑下に出来ようか。
幼さを差し引いても、確実にトップクラスの価値がカービィにはあるのだ。
そういったことから、ルイズは溺愛するだけでなく、同時にカービィを誇らしくも思っていた。
そのためどうしてもカービィには甘くなってしまう節があり、自身が打ち立てた教育方針などとうの昔に忘れ去っていた。
……話しを戻そう。
ルイズはカービィをベッドから下ろすと、しゃがんで目線の高さを近づけた。
その顔はどこか嬉しそうである。
「カービィ、今日は街に行くわよ」
「ぽょ?」
ルイズの提案に、カービィは大きく首を傾げた。
今日は虚無の曜日、週に一度だけ来る休みの日だ。
ルイズは今日がカービィと更に絆を深めるための良い機会だと思い、街へ買い物に繰り出そうとしていた。
しかし、街へ行くのは何もカービィとの絆を深めるためだけではない。
先日のギーシュの決闘以来、ルイズはカービィの能力を『剣を吸い込むと剣士になれる』という限定的なものだと誤認していた。(あながち間違いではないが)
そのためカービィ専用の剣を買い与え、いつでも力を遺憾なく発揮出来るようにしようとしていたのだ。
――しかし、ルイズは気付いていない。
決闘の時カービィが吸い込んだ剣がそのまま彼の腹の中にあることを。
そしてカービィは今まで、吸い込んだ物を吐き出した事があまりないことを。
総じてカービィ専用の剣に大金を注ぎ込んだ場合大損する可能性があるのだが、ルイズは知る由もなかった――
そんなこんなで寝ぼけ眼のカービィを連れて部屋を出たルイズは、まずシエスタの所へ向かった。
平民の常識や物の価格の相場が分かっている彼女に買い物の付き添いを頼むためだ。
決闘以来変わったことは、ルイズからカービィへの評価だけではない。
ルイズとシエスタの仲にも変化が生じていた。
一般的な『貴族』と『使用人』の関係でしかなかった2人だが、この数日で急激に親好が深まっている。
身分云々の問題はあれど、両者はお互いを『良い友人』と認め合っていた。
そんなルイズの頼みをシエスタが断る筈もなく、二つ返事で快く了承していた。
こうして買い物支度を整えたルイズ一行は、一路街へ向かって借りた馬を走らせた。
そして走行すること数時間。
一行は目的地――王都トリステイン城下町へ到着した。
乗ってきた馬を駅に預け、街への入り門を潜る。
その先の光景に、カービィは目を見張った。
「ぽよぉーー!」
白い町並みはたくさんの人が行き交い、道の両端には数々の店が軒を連ねている。
店だけでなく屋台や露天商も見受けられ、ププビレッジよりも賑わいがあった。
流石は王家のお膝元である。
ルイズは財布をシエスタに預け、これから先の予定を確認し始めた。
「とにかく、まずは武器屋ね。たしか武器屋は……」
「ぽよぉっ!」
「? カービィ?」
ルイズが急に大声を出したカービィの方を見ると、ある一点を見つめて固まっている。
顔を見合わせる2人を余所に、カービィは走り出した。
「ぽよー♪」
「あっ、ちょっとカービィ!」
止めようとルイズが手を伸ばすがかわされる。
残された2人は仕方なく跡を追った。
が、カービィは案外あっさりと野菜の店の前で立ち止まった。
走るまでもなく2人は追いつき、ルイズがカービィを抱き上げる。
「一体どうしたっていうのよ?」
「スイカ♪ スイカ♪」
「スイカ?」
そう、スイカだ。
店の軒先にはたくさんのスイカが並んでいた。
カービィはそれを一生懸命指している。
「もしかして、スイカが好きだったんですか?」
「ぽよっ♪」
カービィはこの世界に来て以来、大好物のスイカを食べていなかった。
前の世界ではそれこそ毎日食べていた物を急に食べれなくなったのだから、少し寂しい思いをしていた。
「1個どうです? お安くしときやすぜ?」
いつの間に出てきたのか、営業スマイルを浮かべた店主がそこにいた。
『まあ、1個くらいなら』と思い、ルイズはスイカを選び始める。
「じゃあ、この一番大きいの」
「あ、待って下さい」
シエスタがルイズを制し、一歩前に出る。
そしてスイカを1つ1つ軽く叩き始めた。
その様子にルイズは頭の上に幾つも『?』を浮かべる。
「何してるの?」
「音ですいかの善し悪しを見極めてるんです………これをください」
「はいよ、毎度あり!」
ルイズにはどれも同じ音に聞こえたが、シエスタには違いが分かったようだ。
満足したような表情で、選び抜いたスイカを購入していた。
「どうぞ、カービィさん」
「ぽよおぉー♪」
「随分詳しいわね?」
「父から教えてもらったんです。他にも買い物の豆知識は色々と」
「へぇ。今度、私にも教えてくれる?」
「ええ、ルイズ様なら喜んで」
微笑み合う2人。
その横で、カービィがスイカを丸呑みにしていた。
「ん~、なんかいいのがないわね」
寄り道はあったが、武器屋にやって来たルイズ達はカービィ専用の剣を見定めていた。
しかし素人しかいない一行に剣のことなど分かるはずもなく、とりあえず店主に見繕ってもらった品々を眺めていた。
「なら、これなんてどうです? この長さではうちで一番の業ものでさあ。なにせこれを鍛えたのはかの高名な錬金魔術師のシュペー郷で、魔法が掛かっているから鉄さえ一刀両断。武器としても装飾としても一流の品でして」
そう言って店主が手に取ったのは数字の『Ⅰ』を思わせるデザインのショートソードだった。
随所に豪華な宝石があしらわれ、鍔は黄金で出来ている。
ルイズは店主のセールストークと剣の美しさにすっかり魅入っていた。
「いいわね、お幾ら?」
「へい、新金貨で千五百になります」
次の瞬間張り手を食らったように正気に戻されてしまった。
「し、新金貨千五百っ!?」
「立派な屋敷が買えるじゃない!」
ルイズとシエスタは財布の中身を再確認し、頭を抱えた。
財布の中身……新金貨百枚。
新金貨千五百などとてもじゃないが手が届かない。
「弱ったわね……新金貨百枚しか持ってないわ」
「ルイズ様、とりあえずそれで買える剣を買うしか……」
「惜しいけどそうするしかないわね……まあ、剣なら何でもいいわけだし」
「『剣なら何でもいい』だぁ? ふざけんな! んな所持者のことも考えない買い方すんならとっとと出てけ! てめぇに武器を買う資格はねぇ!」
苦々しい表情で財布と相談していた2人と遊んでいたカービィの元へ、どこからともなく怒鳴り声が飛んできた。
「ななななな、なんですって!? 貴族に向かってなんて口の利き方なの!?」
ボロクソに言われたルイズはその声の主にキレ、睨みを利かせて周りを見回した。
しかし、声はせども姿は見えず。
彼女の周りには相変わらず数々の武器が鎮座しているだけだった。
「誰もいない……?」
「やいデル公! お客様に向かってなんて物言いだ!」
「ぽよーーー♪」
「うわっ! な、何しやがる!」
店主が剣の山に向かって怒鳴りつけると同時に、カービィが数ある剣の内の1本を手に取り嬉しそうに店内を駆け回った。
シエスタはカービィが何をしているのか疑問に思っていたが、ルイズはそれを見てふと思い出した。
魔法で作られた『喋る剣』という物が存在することを。
「あれって……インテリジェンスソード?」
「へい。どうにも口が悪くて全く売れず、逆にお客様に喧嘩を売る始末。誰が考えたんでしょうねぇ、喋る魔剣なんて……」
「ぽよよいぽよよい♪」「おいっ! おもちゃじゃねぇんだ! そんな風に振り回すんじゃ……ん?」
自分を振り回して遊んでいるカービィに一発怒鳴ってやろうとした剣だが、カービィに『何か』を感じ取った。
剣を振り回していたカービィも、急に喋らなくなったため不思議そうな顔をしている。
しばらくの沈黙の後、剣が何かを見切ったように喋り始めた。
「……おでれーた。てめぇ、そのナリで『使い手』かよ」
「ぽよ?」
「『使い手』? 何よそれ?」
「んなこたぁどうでもいい。とにかくてめぇら、俺を買え」
「はぁ!? なんであんたみたいな口の悪い剣を買わなきゃいけないのよ!」
「ほぉー、そうかい。でもこいつは俺を気に入ったみたいだぜ?」
剣は勝ち誇ったような声でルイズに高圧的な態度を取る。
否定したいルイズだったが、カービィの嬉しそうな表情を見ると言葉が詰まった。
甘やかしの影響がこんな所に出るとは、何がどう転ぶかわからないものだ。
「えと……あの剣はお幾らですか?」
とにかく値段だけでも知ろうと、店主に訪ねるシエスタ。
その問いに店主は即答した。
「あれなら新金貨100で結構でさ」
「えっ、随分お安いんですね」
「サービスですよ。こっちとしても客に因縁付けるようなオンボロを引き取って貰えて清々出来ますからね」
店主の言葉になるほど頷くシエスタとルイズ。
しかし
「でも、この長さじゃカービィに持たせるのは無理ね」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! こいつだってこんなに俺のこと気に入ってんだろ!?」
ルイズの一言に剣の声に焦りが混じり始める。
その後も剣の説得と悪態は続いたが、ことごとくルイズは却下した。
このままでは本当に不味いと剣が感じ始めた頃、意外な場所から助け舟が出た。
「あの、でしたら私が背負いましょうか?」
ルイズと剣が言い争う横で、シエスタがそっと手を挙げる。
「えっ?」
「そりゃあいい! 必要な時、丸っころにはオメェさんから俺を渡してもらえばいいしな!」
しめたとばかりに剣が話し出す。
ルイズはそれを叱咤して制止させた。
「大丈夫? ボロなのに意外と重いわよ?」
「普段から掃除や洗濯で足腰は鍛えてますから、大丈夫です」
シエスタの言葉にルイズは考え込んだ。
その間にも剣の熱い視線(のような念)が突き刺さる。
しばらく悩み……ルイズは遂に押し負けた。
「はぁ……分かったわよ、買うわ」
「毎度あり! 今鞘をご用意しますぜ!」
そう言うと、店主は再び店の奥へ消えた。
ルイズは未だに納得していないが、仕方なく観念したようだ。
剣の方に向き直って話し掛ける。
「あんた、名前は? まさかデル公なわけないでしょ?」
「当たり前だ! 俺はインテリジェンスソードのデルフリンガー。デルフでいいぜ。よろしくな、娘っこ達、それに相棒!」
「ぽよっ♪」
カービィはデルフを掲げると、また振り回して遊び始めた。――一方、トリステイン魔法学院の宝物庫入口の前。
宝物庫の扉を触りながら、苦々しい表情を浮かべる人物がいた。
オールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルである。
彼女は宝のリストを作ると偽り、この場所でコルベールから宝物庫と宝について説明を受けた処だった。
「まったく……固定化は強力だわ、厚さ5メイルの壁を使ってるわ、こんな設計をした奴は馬鹿だね、賊泣かせにも程があるよ」
今まで何度か『錬金』を試してきたが、結果はいつも同じ。
かすり傷がつく程度で、壁を破るなど夢のまた夢だった。
「あのツルっ禿……『物理衝撃が弱点』? こんなトンデモ設計じゃそんな理論何の意味もないじゃないかい」
色仕掛けを使いコルベールから色々情報を仕入れたが、『固定化』と『5メイルの壁』を突破する術までは聞き出すことができなかった。
『物理衝撃が弱点』というのも、コルベールの予想に過ぎないことから信憑性は微妙だ。
難攻不落とも言える宝物庫に、ミス・ロングビルは頭痛がしそうだった。
しかし、コルベールの情報の中に、そんな頭痛を吹き飛ばしてくれそうな物が1つだけ存在した。
それは『煌めきの星』という、つい最近宝物庫に入れられたマジックアイテムの情報だった。
コルベールが言うには膨大な力を秘めており、宝石とは違った美しい輝きを放っているらしい。
誰も使い方が分からないにも関わらず、この秘宝を欲しがる貴族は引く手数多だそうだ。
「『煌めきの星』ねぇ……こりゃイイコト聞いた」
先程までの苦悶の表情が一変。
口元はつり上がり、女狐のようにずる賢い『怪盗』がそこにいた。
#navi(使い魔のカービィ)
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