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マジシャン ザ ルイズ (5)あなたもわたしも
ガリアとトリステインの国境沿いに位置するラグドリアン湖、その近くにある古ぼけた建物、旧オルレアン公爵屋敷。
かつて将来有望とされたものの、王位を継いだ弟ジョゼフ一世に謀殺されたと噂される王弟の屋敷である。
今、そこには驚くべき短期間でアルビオンを掌握した怪人、ワルドの姿があった。
邸内にいる他の住人は老執事ペルスラン、それに気のふれた婦人だけである。
ワルドは先日からこの屋敷に、ガリア王ジョゼフ一世の知り合いという触れ込みで滞在している。
素性の確かではない、更にはジョゼフ王の知人を名乗る人間の滞在を許すようなペルスランではなかったが、男が振りまく絶望的な何かに逆らうことが出来ず、その滞在を認めていたのだった。
加えて先日、北花壇騎士を名乗る刺客が現れ、その結果として催された一方的な虐殺劇を目撃してしまってからは反抗する気力すら萎えてしまっている有様である。
その屋敷の一室、先日から寝泊りしている客室で、ワルドは紅茶を飲みながら小さくため息をついた。
窓から見える景色は闇に包まれ、天には優しい光を放つ月が昇っている。
既に、北花壇騎士を名乗る刺客を六人ばかり相手にした。
だがそれは、ワルドにとって実に退屈極まりない余興でしかなかった。
もっと心躍る戦いを望んでいたというのに、出てきたのは力を使わずとも相手に出来るような小物ばかり。
これではわざわざガリアまで足を運んだ甲斐が無い、いっそエルフでも現れてくれないかと思い始めたとき、暗闇の中で何かが動いた。
それを察知したワルドは、猫科の動物を思わせる身のこなしで窓から勢い良く飛び出し中庭に降り立った。
闇の中には悪魔が住まう。
ワルドは暗い視界に目を凝らしながら、そんなことを思い出した。
果たして、宵闇の奥には全長25メイルにも達しようかという、巨大な剣士人形の姿があった。
その肩には男、金髪の髪から尖った耳を突き出した、エルフが立っている。
エルフ、ハルケギニアのメイジ達から最も恐れられる存在が口を開く。
「私は"ネフテス"のビダーシャル。出会いに感謝を」
そう告げられたワルドこそ、この出会いに感謝して打ち震えた。
「エルフ、エルフか!?いいぞ!遂に面白そうな相手に出会えたじゃないか!」
頬を高潮させ、興奮した様子のワルドを見ながらも、ビダーシャルは冷静に続けた。
「お前に要求したい、どうか抵抗しないで欲しい。我々エルフは無益な戦いを好まない。
我はお前のお前の意思に関わらず、お前をジョゼフの元に連れて行かねばならない。
どうか穏やかに同道願えないだろうか」
エルフと名乗り、相手に恐怖を呼び起こす。蛮人相手の交渉の常套手段であったが、目の前の男には通じない。
むしろ喜び勇んで走り寄ってくる姿を見て、ビダーシャルは違和感を覚えずにはいられないのであった。
「さあ!エルフのビダーシャル!お前の力を見せるがいい!」
「えー、皆さん、明日から夏季休暇となりますが、早寝早起き、普段通りの規則正しい生活を心がけてください。
休みだからと羽目を外しすぎてはいけませんぞ、それからそれから…おおっと、もう時間がっ!
いいですか!皆さん!詳しいことは夏季休暇のしおりに書いてあります、必ず読んでくださいね!」
トリステイン魔法学院。
口早にまくし立てているのは光る頭が麗しい教員、ミスタ・コルベールである。
季節は既に夏、ついこの間まで春の優しい陽気だったものが、今では身を焦がすような厳しい熱気に変わっている。
トリステイン魔法学院では、この時期になると夏休みという形で長期休暇に入る。
そして、コルベールの発言にもあったように、明日からはその夏季休暇なのである。
「それでは、新学期に元気な顔でお会いしましょう!」
「それでルイズ、あんたは夏季休暇の間はどうするのよ」
慌てて飛び出したコルベール、それに続いて大部分の生徒も教室から出て行き、残ったのはルイズとキュルケにタバサ、その他数名の生徒だけである。
「別に予定なんて無いわよ。使い魔が張り切っちゃってるから、私一人実家に戻るわけにも行かないしね」
件の使い魔は今頃コルベールと合流し、また建造現場か、火の塔にでも向かったに違いない。
「そういうあんたはどうなのよキュルケ」
「んー、本当は面倒だから国境越えて帰るつもりなんて無かったんだけどね。
戦争も近いし、実家から休暇中だけでも帰って来いって煩いのよ、それに…」
キュルケがチラリとタバサを見やる、当のタバサはいつもの通り本を広げて読んでいた。
そんな本の虫にルイズが問いかける。
「タバサ、あなたはどうするの?」
それまで読んでいた本を閉じて顔を上げるタバサ、ちなみに本は古代の魔法の研究書であるらしかった。
「帰る」
「そうなの。そういえばタバサ、あなたの家ってどこなの?」
「ガリア」
「へー、ガリア、ガリアなんだ………ってガリア!?
ガリアってあのガリア王国!?」
驚きに思わず声のボリュームが大きくなったルイズに対して、タバサがこくりと頷いた。
「驚いたわ…タバサも留学生だったのね。
だからツェルプストーとも留学生同士仲が良かったのね」
「まあ、それだけって訳じゃないんだけどね」
意味ありげにタバサを流し見るキュルケ。
「へぇ、何があったか知らないけど、人に歴史有りって訳ね」
「そうよ、今度あんたにも機会があったら話してあげるわ」
アルビオンから戻った後すぐに倒れたルイズを付きっ切りで看病した二人である。
多少なりとも距離が縮まった二人との関係を、ルイズは悪くないと思った。
「ははは、夏季休暇の予定を話しているのかい?」
そしてルイズを看病したもう一人、ギーシュが話の輪に加わろうと話しかけてきた。
「ええ、そうよ。
ギーシュ、そういうあんたはどうするのよ?」
「僕は寮に残るつもりさ。モンモランシーも一緒にね」
「モンモランシーも?
………ねぇギーシュ、まさかあんたモンモランシーにいやらしいことしようなんて考えてるんじゃないでしょうね?」
ルイズが疑惑のまなざしでじろりと、目前の好色一代男を見つめた。
「な、なななな、何を言っているんだい!
僕のような紳士がそんなことを考えているわけが無いじゃないか!」
「ふーん、まあいいけどね。後で一応モンモランシーには忠告しておくわよ」
「む、むぐぐぐ………」
そんなやり取りを傍観していたキュルケがくすりと忍び笑いを漏らす。
「何よツェルプストー、気持ち悪い笑い方なんかして」
「いえ、ちょっと面白くてね」
今度は誰にでも分かるようにくつくつと笑い出だすキュルケ、それを見たルイズが心底気味悪そうにキュルケに聞いた。
「ホントどうしたのよ、胸に栄養行き過ぎて頭がお天気にでもなったの?」
「そんなわけ無いじゃない、自分の胸が栄養失調だからって僻まないでよ。
私が思ったのはね、ルイズ、あんたちょっと変わった?」
「はあ?」
突然のキュルケの言葉に、口を開けたまま世にも面白い表情で聞き返すルイズ。
ルイズだけではなく、ギーシュも意味が分からないという顔をしている。
当然だがタバサは面を下げて本を読んでいた。
「さっきのギーシュとのやり取りもそうだったけど、あんた最近随分と余裕が出てきたじゃない。
以前のあんたならもっとキリキリして、自分のことで手一杯って感じだったわよ。
それがギーシュと話しててモンモランシーの心配までするなんて、周りってものが見えるようになったじゃないの」
「そうかしら?私は普段どおり、いつもの自分だと思うけど」
「本人がそう思ってるほど、あんたは昔のあんたじゃないってことかもね。
あたしとしては、からかいがいのあるゼロのルイズの方が良かったけどね」
言いながら杖でつんつんとルイズの胸を突く仕草をするキュルケである。
「ふん、私はもう大人なの、そんな安い挑発になんて乗らないわよツェルプストー」
と、語りながらも握り締めた拳が微妙に震えているルイズであった。
はい皆さん、ご一緒に!
―――ギーシュ
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マジシャン ザ ルイズ (5)あなたもわたしも
ガリアとトリステインの国境沿いに位置するラグドリアン湖、その近くにある古ぼけた建物、旧オルレアン公爵屋敷。
かつて将来有望とされたものの、王位を継いだ弟ジョゼフ一世に謀殺されたと噂される王弟の屋敷である。
今、そこには驚くべき短期間でアルビオンを掌握した怪人、ワルドの姿があった。
邸内にいる他の住人は老執事ペルスラン、それに気のふれた婦人だけである。
ワルドは先日からこの屋敷に、ガリア王ジョゼフ一世の知り合いという触れ込みで滞在している。
素性の確かではない、更にはジョゼフ王の知人を名乗る人間の滞在を許すようなペルスランではなかったが、男が振りまく絶望的な何かに逆らうことが出来ず、その滞在を認めていたのだった。
加えて先日、北花壇騎士を名乗る刺客が現れ、その結果として催された一方的な虐殺劇を目撃してしまってからは反抗する気力すら萎えてしまっている有様である。
その屋敷の一室、先日から寝泊りしている客室で、ワルドは紅茶を飲みながら小さくため息をついた。
窓から見える景色は闇に包まれ、天には優しい光を放つ月が昇っている。
既に、北花壇騎士を名乗る刺客を六人ばかり相手にした。
だがそれは、ワルドにとって実に退屈極まりない余興でしかなかった。
もっと心躍る戦いを望んでいたというのに、出てきたのは力を使わずとも相手に出来るような小物ばかり。
これではわざわざガリアまで足を運んだ甲斐が無い、いっそエルフでも現れてくれないかと思い始めたとき、暗闇の中で何かが動いた。
それを察知したワルドは、猫科の動物を思わせる身のこなしで窓から勢い良く飛び出し中庭に降り立った。
闇の中には悪魔が住まう。
ワルドは暗い視界に目を凝らしながら、そんなことを思い出した。
果たして、宵闇の奥には全長25メイルにも達しようかという、巨大な剣士人形の姿があった。
その肩には男、金髪の髪から尖った耳を突き出した、エルフが立っている。
エルフ、ハルケギニアのメイジ達から最も恐れられる存在が口を開く。
「私は"ネフテス"のビダーシャル。出会いに感謝を」
そう告げられたワルドこそ、この出会いに感謝して打ち震えた。
「エルフ、エルフか!?いいぞ!遂に面白そうな相手に出会えたじゃないか!」
頬を高潮させ、興奮した様子のワルドを見ながらも、ビダーシャルは冷静に続けた。
「お前に要求したい、どうか抵抗しないで欲しい。我々エルフは無益な戦いを好まない。
我はお前の意思に関わらず、お前をジョゼフの元に連れて行かねばならない。
どうか穏やかに同道願えないだろうか」
エルフと名乗り、相手に恐怖を呼び起こす。蛮人相手の交渉の常套手段であったが、目の前の男には通じない。
むしろ喜び勇んで走り寄ってくる姿を見て、ビダーシャルは違和感を覚えずにはいられないのであった。
「さあ!エルフのビダーシャル!お前の力を見せるがいい!」
「えー、皆さん、明日から夏季休暇となりますが、早寝早起き、普段通りの規則正しい生活を心がけてください。
休みだからと羽目を外しすぎてはいけませんぞ、それからそれから…おおっと、もう時間がっ!
いいですか!皆さん!詳しいことは夏季休暇のしおりに書いてあります、必ず読んでくださいね!」
トリステイン魔法学院。
口早にまくし立てているのは光る頭が麗しい教員、ミスタ・コルベールである。
季節は既に夏、ついこの間まで春の優しい陽気だったものが、今では身を焦がすような厳しい熱気に変わっている。
トリステイン魔法学院では、この時期になると夏休みという形で長期休暇に入る。
そして、コルベールの発言にもあったように、明日からはその夏季休暇なのである。
「それでは、新学期に元気な顔でお会いしましょう!」
「それでルイズ、あんたは夏季休暇の間はどうするのよ」
慌てて飛び出したコルベール、それに続いて大部分の生徒も教室から出て行き、残ったのはルイズとキュルケにタバサ、その他数名の生徒だけである。
「別に予定なんて無いわよ。使い魔が張り切っちゃってるから、私一人実家に戻るわけにも行かないしね」
件の使い魔は今頃コルベールと合流し、また建造現場か、火の塔にでも向かったに違いない。
「そういうあんたはどうなのよキュルケ」
「んー、本当は面倒だから国境越えて帰るつもりなんて無かったんだけどね。
戦争も近いし、実家から休暇中だけでも帰って来いって煩いのよ、それに…」
キュルケがチラリとタバサを見やる、当のタバサはいつもの通り本を広げて読んでいた。
そんな本の虫にルイズが問いかける。
「タバサ、あなたはどうするの?」
それまで読んでいた本を閉じて顔を上げるタバサ、ちなみに本は古代の魔法の研究書であるらしかった。
「帰る」
「そうなの。そういえばタバサ、あなたの家ってどこなの?」
「ガリア」
「へー、ガリア、ガリアなんだ………ってガリア!?
ガリアってあのガリア王国!?」
驚きに思わず声のボリュームが大きくなったルイズに対して、タバサがこくりと頷いた。
「驚いたわ…タバサも留学生だったのね。
だからツェルプストーとも留学生同士仲が良かったのね」
「まあ、それだけって訳じゃないんだけどね」
意味ありげにタバサを流し見るキュルケ。
「へぇ、何があったか知らないけど、人に歴史有りって訳ね」
「そうよ、今度あんたにも機会があったら話してあげるわ」
アルビオンから戻った後すぐに倒れたルイズを付きっ切りで看病した二人である。
多少なりとも距離が縮まった二人との関係を、ルイズは悪くないと思った。
「ははは、夏季休暇の予定を話しているのかい?」
そしてルイズを看病したもう一人、ギーシュが話の輪に加わろうと話しかけてきた。
「ええ、そうよ。
ギーシュ、そういうあんたはどうするのよ?」
「僕は寮に残るつもりさ。モンモランシーも一緒にね」
「モンモランシーも?
………ねぇギーシュ、まさかあんたモンモランシーにいやらしいことしようなんて考えてるんじゃないでしょうね?」
ルイズが疑惑のまなざしでじろりと、目前の好色一代男を見つめた。
「な、なななな、何を言っているんだい!
僕のような紳士がそんなことを考えているわけが無いじゃないか!」
「ふーん、まあいいけどね。後で一応モンモランシーには忠告しておくわよ」
「む、むぐぐぐ………」
そんなやり取りを傍観していたキュルケがくすりと忍び笑いを漏らす。
「何よツェルプストー、気持ち悪い笑い方なんかして」
「いえ、ちょっと面白くてね」
今度は誰にでも分かるようにくつくつと笑い出だすキュルケ、それを見たルイズが心底気味悪そうにキュルケに聞いた。
「ホントどうしたのよ、胸に栄養行き過ぎて頭がお天気にでもなったの?」
「そんなわけ無いじゃない、自分の胸が栄養失調だからって僻まないでよ。
私が思ったのはね、ルイズ、あんたちょっと変わった?」
「はあ?」
突然のキュルケの言葉に、口を開けたまま世にも面白い表情で聞き返すルイズ。
ルイズだけではなく、ギーシュも意味が分からないという顔をしている。
当然だがタバサは面を下げて本を読んでいた。
「さっきのギーシュとのやり取りもそうだったけど、あんた最近随分と余裕が出てきたじゃない。
以前のあんたならもっとキリキリして、自分のことで手一杯って感じだったわよ。
それがギーシュと話しててモンモランシーの心配までするなんて、周りってものが見えるようになったじゃないの」
「そうかしら?私は普段どおり、いつもの自分だと思うけど」
「本人がそう思ってるほど、あんたは昔のあんたじゃないってことかもね。
あたしとしては、からかいがいのあるゼロのルイズの方が良かったけどね」
言いながら杖でつんつんとルイズの胸を突く仕草をするキュルケである。
「ふん、私はもう大人なの、そんな安い挑発になんて乗らないわよツェルプストー」
と、語りながらも握り締めた拳が微妙に震えているルイズであった。
はい皆さん、ご一緒に!
―――ギーシュ
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