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マジシャン ザ ルイズ (4)聖なる教示
ハルゲニア大陸、トリステインの南に位置するガリア王国王都リュティス。
その王城、ヴェルサルテイル宮殿はグラン・トロワ。
そこには人形を手に狼狽し、泣き崩れている宮殿の主、ガリア国王ジョゼフ一世の姿があった。
「ああ、ミューズ!おれのミューズ!なぜだ!?なぜこんなことに!?」
感覚共有がなされている伝説の使い魔ミョズニトニルン、シェフィールドとの共有が途切れて早十日。
そして先ほど、再度アルビオンに派遣された間諜からの報告で森の中でシェフィールドの遺体が発見されたとの報がもたらされたのである。
「狂ってしまった!何もかもぶち壊しだ!ミューズ!何てことだ!」
側近の者達や、愛人すらも下がらせて大声で泣き喚く。
それは正しく世間で愚王と噂されるままの姿であった。
しかし、シェフィールドを使い、裏でアルビオン王国内部の貴族派を操っていた切れ者こそが、この男の真の姿である。
暫く、一時間ほど喚き、暴れ、もう一度喚き、そして最後に蹲って泣いていたジョゼフの震えがピタリと止まる。
続いて部屋中に響き渡ったのは大音量の笑い声であった。
「はははははははははははははっ!あはははははははははっ!
狂ったぞ!おれのチェスボードが!?見ているかミューズ!遂に狂ったのだぞ!?
すべての駒が盤上からひっくり返された!だが、こんなに嬉しいことは無い!」
狂気/狂喜するジョゼフ、その手がシェフィールドの死亡報告と同時に提出された書類を掴む。
「そうだ!次の対局の相手はお前だ!ジャン・ジャック・ド・ワルド!」
そこには、シェフィールドを殺害の犯人であり、現アルビオン新政府を実質的に手中に収めている男が、現在ガリア国内に潜伏しているとの内容が記載されているのであった。
「あなたは、何者?」
あの日と同じ月が天にある。
闇は全てを等しく隠して染める、双月は冷たくも優しい光で照らす。
すべての絶望の中にあって、決して裏切らない希望の様に。
「虚無のメイジ、それがあなた」
背中の男に語りかけるルイズ、まるで戯曲の場面であるように。
答える男は振り返らない、それが彼と彼女の距離であることを示すために。
「それは君だ、虚無の担い手ルイズ」
「やっぱり、何もかも知っていたのね」
「そういう君は、どうして気付いたのかね?」
「姫さまから、王家に伝わる『始祖の祈祷書』というものを貸して頂いたの。
そうしたら、虚無の呪文のルーンが浮かび上がってきてね。
その時にあの時の魔法が虚無の魔法だって分かっちゃったのよ」
一歩、前に出る。
躊躇わない、戸惑わない、立ち止まらない。
ゆっくりと、歩む、ウルザの隣へと。
そうして空を見上げると、大きな月が瞳に映った。
月がこんなにも大きなものだと、ルイズは始めて知った。
「元々、違和感は感じていたわ。
あの魔法もそうだし、あなたを呼び出したこともね。
それらが全部、自分が『伝説』なんだって分かった時に全部繋がった感じよ」
前代未聞のメイジの召喚。
記憶が混乱していると言いながら、様々な技術をミスタ・コルベールに提供しているウルザ。
一切成功しなかった系統魔法、初めて使った魔法は正体不明。
そしてニューカッスルの城での光景。
疑問の欠片は幾つもあった。
「察しの良いことだ、話すのはもう少し後になると思っていたのだがね」
「こんなことで褒めてもらってもね。
自分のことは分かったわ。
次はあなたの番、もう一度聞くわ」
そこで区切り、ルイズは息を吸い込む。
これから放つのは万感を込めた言葉。
自分達の新たなる関係への、始まりの問いかけ。
「あなたは、何者?」
永く果て無き時を生きた。
悠久の者は時に、短い時を駆ける者の成長の早さを見誤る。
長く生きた故、時を見つめ続けた故に。
ならば認めなければならない、自分と彼女、その新たな関係を。
「ミス・ルイズ、あれの名前を知っているかね」
横に立つルイズに語りかけるウルザ、その先には見事な満月の片割れ。
「月?月は月じゃない」
ハルケギニア、その何万リーグもの空に浮かぶ天体、双子の月の一方。
あれは虚無月。
私の世界、ドミナリアにもまた存在する、二つの月の一つ」
「私の、世界…?」
「その通りだ、ミス・ルイズ。
私はこの世界の人間ではない別の世界、ドミナリアという世界から君に呼ばれたのだ」
真実の告白、想像を遙かに上回る言葉に、ルイズの目が見開かれる。
冷静に、常識的に考えても、納得できる話ではない。
「信じられないわ、別の世界があるなんて、…どうしてそんなことを言うのよ」
「私は真実を話している。それを信じるかどうかを決めるのは君だ」
一瞬の沈黙、梟の鳴き声だけが響き渡る。
「…ああもう、いいわ、別の世界がある、あなたはそこから来た。
全部信じてあげようじゃないの!
そこから来たあなたが虚無の使い手、そこの人間は皆が皆伝説ってこと!?」
「ミス・ルイズ、それは発想が逆だ。
ハルケギニアで虚無と呼ばれるものは、他の世界においては伝説ではない、この世界においてのみ伝説なのだ」
「……意味が分からないわ」
「こちらの世界で虚無と呼ばれる魔法、その発展を妨げた要因がこの世界に存在する。
他の世界に潤沢に存在する虚無を利用する為の魔力、それがこの世界には極端に薄いのだ。
ハルケギニアにおいて、虚無の魔法を操るのは薪無しに火を灯すに等しい。
そのような力、伝説として彼方に追いやられても仕方は無い」
すべての魔法を生み出す力、マナ。
その中でも白と黒のマナ、それがハルケギニアにおいては希薄な状態で安定しているのだった。
「…他の世界には普通にあるものがこの世界にはない。
だから虚無は使われなくて伝説になってるって言うのね。
でもそれじゃあおかしいじゃない。
私が虚無の魔法を使える理由がつかなくなるわ」
そう、確かにルイズは自分が使った呪文が『虚無』であることを、心で、体で、確かに実感している。
ウルザは口を開きかけたが、一瞬何かを考え、その後に言葉を紡いだ。
「始祖ブリミル。この世界で六千年前に降臨したとされれている何者か。この世界に虚無を持ち込んだ者。
その血を色濃く残す者は潜在的に虚無を操る力を有している。
ブリミルの子孫によって建国されてたというトリステイン王国、その公爵家筋にあたる君には才能があった。
私はそう考えている」
突然にウルザの口から出た始祖ブリミルの名、ルイズはその神の如き神聖な名を耳にしながらも、冒涜的とも言える想像が鎌首を擡げることを止められなかった。
「それじゃ…その言い方じゃ、まるで始祖ブリミルがっ」
「あ、思い出した」
突然に割り込まれる第三者の声。
二人しかいないはずのこの場に現れた闖入者、今の会話を聞かれたのかもしれないという背徳感から、ルイズは慌てて周囲を見渡す。
当の声の主はすぐに見つけることが出来た、それは壁に立てかけられた二本の剣、その片方、古ぼけたインテリジェンスソード、それこそがこの場の三人目であった。
「思い出した、思い出したぜ相棒。
おめーさん、ガンダールヴっつーか、何か別の奴に似てると思ってたんだよ。
今の話で思い出したぜ、相棒、おめぇさん、ブリミルに似てるんだよ」
カタカタと震わせながら喋る剣デルフリンガー。
「待って、待ってよ。
ミスタ・ウルザがブリミルに似てるってどういうことよ、虚無の使い手だからってこと?
いい加減なこと言わないでよポンコツ!」
デルフリンガーを両手で持ち上げて、詰め寄るルイズ。
「ポンコツたーひでぇなあ。
なあ、嬢ちゃん。嬢ちゃんが虚無の使い手だってのはあの城の一件で気付いてたんだぜ。
相棒が何も言わねぇから黙ってたけどよ。
でも別に嬢ちゃんの雰囲気がブリミルに似てるって訳じゃねぇのよ。
相棒はなあ、虚無とかそういうの抜きにして似てんだよ、初代虚無の使い手に」
「そんな、それじゃ、本当に………」
「ミス・ルイズ、君の考えていることは私の推測でもある。
この世界に六千年前降臨した始祖ブリミル。
私はブリミルが別の世界、ドミナリアの人間だったのではないかと考えている」
白と黒を混ぜたらどうなると思う?
全てが無かったことになるんだ。
―――ウルザ
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マジシャン ザ ルイズ (4)聖なる教示
ハルケギニア大陸、トリステインの南に位置するガリア王国王都リュティス。
その王城、ヴェルサルテイル宮殿はグラン・トロワ。
そこには人形を手に狼狽し、泣き崩れている宮殿の主、ガリア国王ジョゼフ一世の姿があった。
「ああ、ミューズ!おれのミューズ!なぜだ!?なぜこんなことに!?」
感覚共有がなされている伝説の使い魔ミョズニトニルン、シェフィールドとの共有が途切れて早十日。
そして先ほど、再度アルビオンに派遣された間諜からの報告で森の中でシェフィールドの遺体が発見されたとの報がもたらされたのである。
「狂ってしまった!何もかもぶち壊しだ!ミューズ!何てことだ!」
側近の者達や、愛人すらも下がらせて大声で泣き喚く。
それは正しく世間で愚王と噂されるままの姿であった。
しかし、シェフィールドを使い、裏でアルビオン王国内部の貴族派を操っていた切れ者こそが、この男の真の姿である。
暫く、一時間ほど喚き、暴れ、もう一度喚き、そして最後に蹲って泣いていたジョゼフの震えがピタリと止まる。
続いて部屋中に響き渡ったのは大音量の笑い声であった。
「はははははははははははははっ!あはははははははははっ!
狂ったぞ!おれのチェスボードが!?見ているかミューズ!遂に狂ったのだぞ!?
すべての駒が盤上からひっくり返された!だが、こんなに嬉しいことは無い!」
狂気/狂喜するジョゼフ、その手がシェフィールドの死亡報告と同時に提出された書類を掴む。
「そうだ!次の対局の相手はお前だ!ジャン・ジャック・ド・ワルド!」
そこには、シェフィールドを殺害の犯人であり、現アルビオン新政府を実質的に手中に収めている男が、現在ガリア国内に潜伏しているとの内容が記載されているのであった。
「あなたは、何者?」
あの日と同じ月が天にある。
闇は全てを等しく隠して染める、双月は冷たくも優しい光で照らす。
すべての絶望の中にあって、決して裏切らない希望の様に。
「虚無のメイジ、それがあなた」
背中の男に語りかけるルイズ、まるで戯曲の場面であるように。
答える男は振り返らない、それが彼と彼女の距離であることを示すために。
「それは君だ、虚無の担い手ルイズ」
「やっぱり、何もかも知っていたのね」
「そういう君は、どうして気付いたのかね?」
「姫さまから、王家に伝わる『始祖の祈祷書』というものを貸して頂いたの。
そうしたら、虚無の呪文のルーンが浮かび上がってきてね。
その時にあの時の魔法が虚無の魔法だって分かっちゃったのよ」
一歩、前に出る。
躊躇わない、戸惑わない、立ち止まらない。
ゆっくりと、歩む、ウルザの隣へと。
そうして空を見上げると、大きな月が瞳に映った。
月がこんなにも大きなものだと、ルイズは始めて知った。
「元々、違和感は感じていたわ。
あの魔法もそうだし、あなたを呼び出したこともね。
それらが全部、自分が『伝説』なんだって分かった時に全部繋がった感じよ」
前代未聞のメイジの召喚。
記憶が混乱していると言いながら、様々な技術をミスタ・コルベールに提供しているウルザ。
一切成功しなかった系統魔法、初めて使った魔法は正体不明。
そしてニューカッスルの城での光景。
疑問の欠片は幾つもあった。
「察しの良いことだ、話すのはもう少し後になると思っていたのだがね」
「こんなことで褒めてもらってもね。
自分のことは分かったわ。
次はあなたの番、もう一度聞くわ」
そこで区切り、ルイズは息を吸い込む。
これから放つのは万感を込めた言葉。
自分達の新たなる関係への、始まりの問いかけ。
「あなたは、何者?」
永く果て無き時を生きた。
悠久の者は時に、短い時を駆ける者の成長の早さを見誤る。
長く生きた故、時を見つめ続けた故に。
ならば認めなければならない、自分と彼女、その新たな関係を。
「ミス・ルイズ、あれの名前を知っているかね」
横に立つルイズに語りかけるウルザ、その先には見事な満月の片割れ。
「月?月は月じゃない」
ハルケギニア、その何万リーグもの空に浮かぶ天体、双子の月の一方。
あれは虚無月。
私の世界、ドミナリアにもまた存在する、二つの月の一つ」
「私の、世界…?」
「その通りだ、ミス・ルイズ。
私はこの世界の人間ではない別の世界、ドミナリアという世界から君に呼ばれたのだ」
真実の告白、想像を遙かに上回る言葉に、ルイズの目が見開かれる。
冷静に、常識的に考えても、納得できる話ではない。
「信じられないわ、別の世界があるなんて、…どうしてそんなことを言うのよ」
「私は真実を話している。それを信じるかどうかを決めるのは君だ」
一瞬の沈黙、梟の鳴き声だけが響き渡る。
「…ああもう、いいわ、別の世界がある、あなたはそこから来た。
全部信じてあげようじゃないの!
そこから来たあなたが虚無の使い手、そこの人間は皆が皆伝説ってこと!?」
「ミス・ルイズ、それは発想が逆だ。
ハルケギニアで虚無と呼ばれるものは、他の世界においては伝説ではない、この世界においてのみ伝説なのだ」
「……意味が分からないわ」
「こちらの世界で虚無と呼ばれる魔法、その発展を妨げた要因がこの世界に存在する。
他の世界に潤沢に存在する虚無を利用する為の魔力、それがこの世界には極端に薄いのだ。
ハルケギニアにおいて、虚無の魔法を操るのは薪無しに火を灯すに等しい。
そのような力、伝説として彼方に追いやられても仕方は無い」
すべての魔法を生み出す力、マナ。
その中でも白と黒のマナ、それがハルケギニアにおいては希薄な状態で安定しているのだった。
「…他の世界には普通にあるものがこの世界にはない。
だから虚無は使われなくて伝説になってるって言うのね。
でもそれじゃあおかしいじゃない。
私が虚無の魔法を使える理由がつかなくなるわ」
そう、確かにルイズは自分が使った呪文が『虚無』であることを、心で、体で、確かに実感している。
ウルザは口を開きかけたが、一瞬何かを考え、その後に言葉を紡いだ。
「始祖ブリミル。この世界で六千年前に降臨したとされている何者か。この世界に虚無を持ち込んだ者。
その血を色濃く残す者は潜在的に虚無を操る力を有している。
ブリミルの子孫によって建国されてたというトリステイン王国、その公爵家筋にあたる君には才能があった。
私はそう考えている」
突然にウルザの口から出た始祖ブリミルの名、ルイズはその神の如き神聖な名を耳にしながらも、冒涜的とも言える想像が鎌首を擡げることを止められなかった。
「それじゃ…その言い方じゃ、まるで始祖ブリミルがっ」
「あ、思い出した」
突然に割り込まれる第三者の声。
二人しかいないはずのこの場に現れた闖入者、今の会話を聞かれたのかもしれないという背徳感から、ルイズは慌てて周囲を見渡す。
当の声の主はすぐに見つけることが出来た、それは壁に立てかけられた二本の剣、その片方、古ぼけたインテリジェンスソード、それこそがこの場の三人目であった。
「思い出した、思い出したぜ相棒。
おめーさん、ガンダールヴっつーか、何か別の奴に似てると思ってたんだよ。
今の話で思い出したぜ、相棒、おめぇさん、ブリミルに似てるんだよ」
カタカタと震わせながら喋る剣デルフリンガー。
「待って、待ってよ。
ミスタ・ウルザがブリミルに似てるってどういうことよ、虚無の使い手だからってこと?
いい加減なこと言わないでよポンコツ!」
デルフリンガーを両手で持ち上げて、詰め寄るルイズ。
「ポンコツたーひでぇなあ。
なあ、嬢ちゃん。嬢ちゃんが虚無の使い手だってのはあの城の一件で気付いてたんだぜ。
相棒が何も言わねぇから黙ってたけどよ。
でも別に嬢ちゃんの雰囲気がブリミルに似てるって訳じゃねぇのよ。
相棒はなあ、虚無とかそういうの抜きにして似てんだよ、初代虚無の使い手に」
「そんな、それじゃ、本当に………」
「ミス・ルイズ、君の考えていることは私の推測でもある。
この世界に六千年前降臨した始祖ブリミル。
私はブリミルが別の世界、ドミナリアの人間だったのではないかと考えている」
白と黒を混ぜたらどうなると思う?
全てが無かったことになるんだ。
―――ウルザ
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