「ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 3」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 3」(2007/08/18 (土) 12:14:15) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
「ほう…広いな」
歩くにつれ、少しづつ収まってきたルイズを前に食堂に着いたのだが、その結構な広さに、素直に感嘆していた。
「ここで教えているのは魔法だけじゃなくて『貴族は魔法を以ってしてその精神となす』のモットーのもと
貴族たるべき教育を受けているの。だから、ここも貴族の食卓に相応しいものでなければってことね」
長ったらしい説明を受けたが、まぁイレーネにとってはどうでもいい。
ルイズが席に座ろうとすると、絶妙のタイミングで椅子を引くと、驚いたようにルイズが反応した。
「意外と気が利くのね…」
「組織から一通りの事は叩き込まれてきたからな」
妖気を消す薬を使った上での潜入任務用のものだが、その気になれば娼婦の目だってやれるのだ。
使用人の動きも当然叩き込まれている。
「…こんな所で役に立つとは思わなかったが」
まぁ、そのNoの高さ故に潜入などには使われる事は無かったので、今回が初披露という事になる。
しばらくルイズの近くに立っていたが、人が集まろうとしない。
いや、他の席は人で埋まっていたが、ルイズの周りの席だけ綺麗に空いている。
少し考えたが、その理由は一瞬で分かった。
(ああ、ここでは私はエルフだったな)
要は仕事を成した後に姿を見せたがらない街人のようなものだと思えば納得できる。
つまり、恐れているという事だ。
ただ、朝のルイズが嫌そうにしていた赤い髪のキュルケはそうでもなかったようだが。
「見た目より、仲が悪いというわけではないようだ」
からかっているようにも見えたが、それなりに気にかけた上での行動だろうと検討を付ける。
本人に言えば否定されるだろうから、あえて言わないでいるが、とにかく、ここに居ては食事も始まらないだろうとし外に出ておく事にした。
どのみち、まだ一週間は持つはずだ。
「私は外に出ておく。済んだ頃には外で待っている」
「へ?何で外に出る必要があるのよ」
「気付いていないのか…周りを見ろ」
結構大物になるかもしれんと思ったが、場の状況を把握できないというのは、後で後悔するハメになる事が多いので確認させるように促す。
それはもう、夥しい数の視線がこちらに向けられている。
自分にではなく、主にイレーネに。
「と、いうわけだ」
そう言うが否やイレーネが食堂を後にする。
「…って、待ちなさい!あんたの食事は…」
そこまで言って、昨日、自分が言った事を思い出したのか口篭る。
もっともイレーネはそれを気にした様子も無く、とっとと食堂から出てしまったのだが。
「もう…勝手にしなさい!」
「少し、ここを探るか」
食堂から出たイレーネだが、まだ時間はある。
これからしばらくここに居るのだ。少し、学院の構造を調べておく事にした。
「確か、今居る塔が本塔だったな、他にも分塔が分かれているというわけか。…しかし、妖力がほとんど回復していない…やはり再生の影響か」
攻撃型の上位Noが腕一本再生するとしても、数ヶ月かかるのだ。それをこの短時間で行えたのだから、その影響だろう。
高速剣は腕を覚醒させ精神力で押さえつける技のため気にしなくてもいいだろうが、こうなればいよいよ一割の妖力解放すら温存しておいた方がよさそうだ。
少し考えながら歩いていたため、曲がり角で思いっきり人にぶつかってしまった。
これが妖魔なら事前に察知できていたのだが、相手はただの人だ。
「妖魔のようにはいかんものだ…すまんな、大丈夫か?」
「い、いえ…こちらこそ申し訳あり……」
イレーネはそのまま立っていたがぶつかった方はしりもちをついて倒れている。
戦士として鍛えられたイレーネと、そうでない者なら当然の結果か。
「珍しい色だ。私が居た場所でも滅多に無いが…確か『獅子王リガルド』がそんな髪の色だと聞いたな」
男の時代のかつてのNo2。イレーネ自身、直接遭遇した事は無いが、外見はそうだと聞かされている。
が、倒れている方は、イレーネを見たまま固まっている。
「…どうした?立てないのか?」
手を差し出すが…何故か思いっきり叫ばれた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!わわわ、わたしなんか食べたっておいしくないですよぉ!!」
「食べる…?何を言って「ああ…!父様、母様ごめんなさい…!シエスタはエルフに攫われてしまいます!」」
どうにもこうにも、シエスタと言うらしい少女が一人で何か別の世界に突入しているが、それを見たイレーネも動じていないあたりさすがだ。
「ど、どうしよう!学院にエルフがいるってことは貴族の方たちも、連れ去られてしま「とりあえず落ち着け」」
言うと同時に手刀を頭に叩き込む。もちろん角度60°の綺麗なやつをだ。
髪型がクレアに似ていたので思わず後頭部を掴んで、土下座体勢にさせたくなったが、チョップで我慢しておく。
「ひぁ…!た、食べないでくださいぃ~~~!」
「エルフというのは人を喰らうのか?…だとしたら妖魔か?しかし、それならなんで私がそれと同列に扱われなくてはならないんだ」
妖魔扱いされたと思い少しイラついたが表情には出さない。
「い、いえ、わたしも人から聞いただけなんですけど…違うんですか?」
「私はエルフではないから、知らんし、お前達が使うような魔法なども使えん」
「…そういえば、ミス・ヴァリエールがエルフを使い魔にしたって噂になってましたけど…魔法使えないんですか?」
「少なくとも、空を飛んだりする事などできんさ。大体、お前達はどこで私をエルフだと判断しているんだ」
今朝、エルフだと思われていた方がいいと判断したばかりだが、即撤回だ。
半人半妖だが、さすがに妖魔のように人を食うとは思われたくない。
「その…えっと…耳ですかね」
「確かに一般的なものとは違っているが…私はエルフではないよ」
クレアを襲っていたあの女もそうだが、あっちではそう珍しくない。どうやらこっちでは尖っている=エルフというらしいと認識した。
「エルフじゃなくて魔法が使えないって事はわたし達と同じ平民なんですか?」
「同じ?お前、魔法は使えないのか?」
「魔法が使えるのは貴族の方達だけなんですよ。わたしは貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公をさせていただいているんです」
「ふん…ならここでは、私もそうなるのだろうな」
ルイズにならともかく、この少女に半人半妖だと言っても理解すらできまいとし、それを言うのは止めたのだが、一つ疑問が浮かぶ。
「…いや、私を召喚したというやつも魔法だったか」
なら、何故に空を飛ばなかったのかは気になったのだが、まぁ些細な事だ。
攻撃型、防御型の違いのように得手不得手があるのだろうというところで納得した。
「わたしはシエスタっていいます。よろしくお願いしますね」
「さっき私に攫われると言っていた時に聞いたよ。イレーネだ」
さっきの事を思い出したのかシエスタが慌ててながら赤くなった。
「す、すいません…!でも魔法を使える貴族ですらわたし達にとっては怖いんです…。その貴族ですら恐れるエルフと思ったんですから…」
「怖い…か。私にも怖いと思うことぐらいあるよ」
もちろん、プリシラに左腕を持っていかれた時の事だが、シエスタは自分と同じだと思ったらしい。
「やっぱりそうですよね。…そうだ!余り物で作った賄い食でよければ食べていかれませんか?」
「ああ、私は…」
「遠慮なんてしないでくださいな。こちらにいらしてください」
大丈夫だと答える前にシエスタに手を掴まれ阻まれた。どうも見た目に反し押しが強いらしい。
こうなればあちらと違って、恐れられていないだけに一方的に弱い形になる。
戦士によっては、どこまでやるのかは違うが、少なくともイレーネは一般人と揉め事を起こすようなタイプではない。
無理に断っても拗れるだけだし、一週間は持つが、食べる必要が無いというわけではない。まして妖力が尽きているのだ。
引っ張られるままに食堂の裏手の厨房に連れていかれ椅子に座らされ待つこと数分。
シエスタが皿に入った暖かいシチューを持ってきた。
半分ぐらい食べたところでスプーンを置くとニコニコしていたシエスタが急に不安そうな顔をして聞いてきた。
「もしかして…お口に合いませんでしたか…?」
「ああ、性質でな。私は大体、二日に一度この程度食べれば事足りるんだ」
まぁ戦士にもよるが、大体このぐらいだ。クレアはさらに少ない方だったようだが。
「駄目ですよ!ちゃんと食べないと大きくなれません!」
長女としてのプライドか、どうも食事を残す妹や弟達とかぶったらしく、思わず似たような説教が出た。
「これ以上成長するというのもどうかと思うが」
身長180センチ、一般的に見ても高身長だ。
「そうですけど…毎日のご飯は大事なんですからね」
(やれやれ…クレアに『欲しくなくても無理にでも体に入れておけ』と言った私の立場が無いな)
因果応報。弟子にやった事がそのまま返ってきたような気がしたため、とりあえずその場は全部食べる事にした。
味は美味かったため、そう苦にはならなかったのは幸いというところか。
というか、本気で久方ぶりにまともな料理を食べた。
戦士時代から性質上、どういったものでも少量摂取すればいいというだけあって、基本的に生でいける果実か、そのまま焼いたものぐらいしか食べていない。
例外も居るだろうが、大抵の戦士はそれで済むため、わざわざ、一般人が食べるような料理を食べようなどというものは非常に少ないのだ。
だから、素直に感想が出た。
「旨いな」
「よかった。全部食べてくれて。いつでも食べに来てくださいね。わたし達が食べているものでよければお出ししますので」
「さすがに、毎日というわけにはな…ルイズの方も終わったようだ、世話になった」
「それじゃあ、またお昼に」
マントを翻し厨房を出るが、先行き不安と言えば不安だ。
「四肢接続を繰り返せばいけるか…?」
本気でそんな危ない事を考えつつ、ルイズと合流し教室へと向かう事になった。
ルイズがイレーネを伴い教室へ入ると、今まで結構話し声とかしていた教室が一気に静まり返った。
全員、正面を向き誰も一切ルイズを、もといイレーネを見ようとしない。
唯一の例外は今朝のキュルケと、その近くに座っている青髪の少女ぐらいだ。
風属性の教師曰く「学院として理想的な状態だ」とのこと。
さすがに、イレーネもこう大人数から人を食うエルフと思われてはたまらないので、ルイズに問いただす事にした。
「…お前達が言うエルフというのは人を食うのか?」
「人を食べるのはオーク鬼とかでエルフは強力な先住魔法を使うけど人なんか食べないと思うわ。急にどうしたのよ」
「そうか。…いや少しな」
どうやらシエスタの思い込みだったようで、一先ず安堵した。
なら訂正する事もあるまいと思い床に腰を落す。
やはり、こうなると背中に大剣が無い事に多少違和感を感じる。
「しかし…あれ全てが使い魔というやつか?」
「そりゃそうよ」
(まるで覚醒者の展示会だな…)
もちろん普通の動物も居るが、中に浮いている巨大な目玉。蛸人魚。六本足を持つトカゲ。どれもこれも40番代ぐらいの下位の覚醒者ならありえる形だ。
そうしていると、扉が開き中年の女性の教師が入ってきた。
教室を一瞥するなり、満足げに微笑むと
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」
と、口を開いたが、ルイズとその使い魔であるイレーネと目が合うと一気にその調子が下がった。
「ず、ずいぶんと、変わった…いえ、立派な使い魔を召喚したものですね?ミス・ヴァリエール」
瞬間、ただでさえ冷えていた教室の空気が下がる。それはもう、生徒から空気読めよと言わんばかりの視線がモロにシュヴルーズと呼ばれる教師に集まっていた。
:ゼロの使い魔―銀眼の戦士―:2007/08/18(土) 10:52:39 ID:SG0o7N4j
「で、では授業を始めますよ。私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。土系統の魔法を、皆さんに講義します」
こほん、と咳払いをし授業が始まるが、イレーネの興味は属性などよりも二つ名の方に移っている。
「お前達は、全員二つ名を持っているのか」
「そうね、大抵二つ名で属性が分かるのよ。あそこの小太りが『風上』。あのキザったらしい金髪が『青銅』。その横のは『香水』。後は…キュルケの『微熱』ね」
「順に、『風』『土』『水』『火』といったところだな。もう一つあるようだが…誰も使えないのか」
「伝説になってるぐらいだしね。虚無は」
「…それでルイズ、お前の二つ名は何なんだ?」
イレーネ自身、『高速剣』という二つ名を持っていたからには、そこのところはやはり興味はある。
そう聞かれてもルイズが答えないので、まぁ深くは聞かなかったのだが、かなり静かな教室の中、話していたので結構目立っていた。
「ミス・ヴァリエール、使い魔と親睦を深めるのは構わないのですが…授業中は慎みなさい」
「ああ、すまん。続けてくれ」
ルイズが謝るより先にイレーネがそう言ったのだが、思いのほか素直に謝られた事に対して緊張が取れたようで、ようやく何時もの調子に戻ったようだ。
「判っていただければ幸いです。ミス・ヴァリエールには、ここにある石ころを私がやったように金属に変えてもらいましょう」
「わ、わたしですか?」
もじもじしつつ立ち上がらないルイズを若干疑念を含んだ目で見たが、土系統は苦手なのだろうと判断した。
「や、やります」
そんな、視線に気付いたのか、緊張した面持ちでルイズが前に向かうが、別の方向から待ったがかかった。
「先生、ルイズにやらせるのは危険だと思いますけど…」
他の生徒もそれに同調しているが、シュヴルーズは止めさせるどころか、むしろ促している。
「失敗を恐れていては何もできませんよ。気にしないでやってごらんなさい」
もう止められない。ルイズが教壇の前に行き杖を構えると生徒が一斉に机の下に隠れ始めた。
ルイズが呪文を唱えるが、戦いから離れていたとはいえ戦士。イレーネの体が反応した。
体のあちこちが妖力解放した時のように音を立てている。
何か分からんがマズイ!
「そこまでだ、止めろ!」
何故か限界を突破しそうな予感にかられ、ルイズを止めたのだが、もう杖を振り下ろしていた。
「いかん!」
瞬時に妖力解放。大して回復していない妖力を全て回し床を蹴った瞬間、爆発が起こった。
教室がパニックに陥り、他の使い魔達が暴れ出す。
フレイムが火を吐き、飛行可能な使い魔はガラスを突き破り外へ逃げ、その穴から入ってきた大蛇が小太りの少年を飲み込もうとしている。
「ああ!マリコルヌが食われた!」「まだ、食べられてない!助けてくれ!」「火を消せぇーーーー」
まるで、妖魔か覚醒者が町を襲った時の様な阿鼻叫喚だ。
「だ、だから言ったのよ!ルイズにやらせるなって!ってルイズと先生は!?」
キュルケが教壇を指差しながらそう言ったのだが、二人は居なかった。
「うそ…二人とも爆発で!?」
その場に居たはずなのに居ないので、爆発で消し飛んだと思ったらしいが、教室の後ろの方から声がかかった。
「まったく…問題児もいいところだ」
イレーネが珍しく焦った様子で、その右腕にルイズを抱えている。
「左腕が無いんでな。悪いが蹴ったぞ」
その視線の先にはシュヴルーズが倒れていた。
爆発に巻き込まれたわけではないが、イレーネの蹴りが良い所に入ったようで気絶している。
先住魔法というざわめきが起きたが、何の事は無い。ただ疾く動いただけの事だ
妖力解放し、教壇まで一足飛びに飛ぶと同時に教壇のルイズを掴み
そのままの勢いで壁を蹴り反転。ついでにシュヴルーズを蹴り飛ばしたのだが、鳩尾に綺麗に決まったようだった。
当然、手加減はしたが急所である。そりゃあ気絶もする。
瞬間的な妖力解放による高速移動。『幻影』程ではないが、かなりのスピードで移動はできる。
ただ、もう回復した妖力を使い果たしたようだったが。
「ちょっと失敗したみたいね」
そんな教室のざわめきを受けても淡々とした声でと事も無げに言う姿を見て改めてイレーネは、こいつは大物になるな。と本気でそう思った。
「ほう…広いな」
歩くにつれ、少しづつ収まってきたルイズを前に食堂に着いたのだが、その結構な広さに、素直に感嘆していた。
「ここで教えているのは魔法だけじゃなくて『貴族は魔法を以ってしてその精神となす』のモットーのもと
貴族たるべき教育を受けているの。だから、ここも貴族の食卓に相応しいものでなければってことね」
長ったらしい説明を受けたが、まぁイレーネにとってはどうでもいい。
ルイズが席に座ろうとすると、絶妙のタイミングで椅子を引くと、驚いたようにルイズが反応した。
「意外と気が利くのね…」
「組織から一通りの事は叩き込まれてきたからな」
妖気を消す薬を使った上での潜入任務用のものだが、その気になれば娼婦の目だってやれるのだ。
使用人の動きも当然叩き込まれている。
「…こんな所で役に立つとは思わなかったが」
まぁ、そのNoの高さ故に潜入などには使われる事は無かったので、今回が初披露という事になる。
しばらくルイズの近くに立っていたが、人が集まろうとしない。
いや、他の席は人で埋まっていたが、ルイズの周りの席だけ綺麗に空いている。
少し考えたが、その理由は一瞬で分かった。
(ああ、ここでは私はエルフだったな)
要は仕事を成した後に姿を見せたがらない街人のようなものだと思えば納得できる。
つまり、恐れているという事だ。
ただ、朝のルイズが嫌そうにしていた赤い髪のキュルケはそうでもなかったようだが。
「見た目より、仲が悪いというわけではないようだ」
からかっているようにも見えたが、それなりに気にかけた上での行動だろうと検討を付ける。
本人に言えば否定されるだろうから、あえて言わないでいるが、とにかく、ここに居ては食事も始まらないだろうとし外に出ておく事にした。
どのみち、まだ一週間は持つはずだ。
「私は外に出ておく。済んだ頃には外で待っている」
「へ?何で外に出る必要があるのよ」
「気付いていないのか…周りを見ろ」
結構大物になるかもしれんと思ったが、場の状況を把握できないというのは、後で後悔するハメになる事が多いので確認させるように促す。
それはもう、夥しい数の視線がこちらに向けられている。
自分にではなく、主にイレーネに。
「と、いうわけだ」
そう言うが否やイレーネが食堂を後にする。
「…って、待ちなさい!あんたの食事は…」
そこまで言って、昨日、自分が言った事を思い出したのか口篭る。
もっともイレーネはそれを気にした様子も無く、とっとと食堂から出てしまったのだが。
「もう…勝手にしなさい!」
「少し、ここを探るか」
食堂から出たイレーネだが、まだ時間はある。
これからしばらくここに居るのだ。少し、学院の構造を調べておく事にした。
「確か、今居る塔が本塔だったな、他にも分塔が分かれているというわけか。…しかし、妖力がほとんど回復していない…やはり再生の影響か」
攻撃型の上位Noが腕一本再生するとしても、数ヶ月かかるのだ。それをこの短時間で行えたのだから、その影響だろう。
高速剣は腕を覚醒させ精神力で押さえつける技のため気にしなくてもいいだろうが、こうなればいよいよ一割の妖力解放すら温存しておいた方がよさそうだ。
少し考えながら歩いていたため、曲がり角で思いっきり人にぶつかってしまった。
これが妖魔なら事前に察知できていたのだが、相手はただの人だ。
「妖魔のようにはいかんものだ…すまんな、大丈夫か?」
「い、いえ…こちらこそ申し訳あり……」
イレーネはそのまま立っていたがぶつかった方はしりもちをついて倒れている。
戦士として鍛えられたイレーネと、そうでない者なら当然の結果か。
「珍しい色だ。私が居た場所でも滅多に無いが…確か『獅子王リガルド』がそんな髪の色だと聞いたな」
男の時代のかつてのNo2。イレーネ自身、直接遭遇した事は無いが、外見はそうだと聞かされている。
が、倒れている方は、イレーネを見たまま固まっている。
「…どうした?立てないのか?」
手を差し出すが…何故か思いっきり叫ばれた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!わわわ、わたしなんか食べたっておいしくないですよぉ!!」
「食べる…?何を言って「ああ…!父様、母様ごめんなさい…!シエスタはエルフに攫われてしまいます!」」
どうにもこうにも、シエスタと言うらしい少女が一人で何か別の世界に突入しているが、それを見たイレーネも動じていないあたりさすがだ。
「ど、どうしよう!学院にエルフがいるってことは貴族の方たちも、連れ去られてしま「とりあえず落ち着け」」
言うと同時に手刀を頭に叩き込む。もちろん角度60°の綺麗なやつをだ。
髪型がクレアに似ていたので思わず後頭部を掴んで、土下座体勢にさせたくなったが、チョップで我慢しておく。
「ひぁ…!た、食べないでくださいぃ~~~!」
「エルフというのは人を喰らうのか?…だとしたら妖魔か?しかし、それならなんで私がそれと同列に扱われなくてはならないんだ」
妖魔扱いされたと思い少しイラついたが表情には出さない。
「い、いえ、わたしも人から聞いただけなんですけど…違うんですか?」
「私はエルフではないから、知らんし、お前達が使うような魔法なども使えん」
「…そういえば、ミス・ヴァリエールがエルフを使い魔にしたって噂になってましたけど…魔法使えないんですか?」
「少なくとも、空を飛んだりする事などできんさ。大体、お前達はどこで私をエルフだと判断しているんだ」
今朝、エルフだと思われていた方がいいと判断したばかりだが、即撤回だ。
半人半妖だが、さすがに妖魔のように人を食うとは思われたくない。
「その…えっと…耳ですかね」
「確かに一般的なものとは違っているが…私はエルフではないよ」
クレアを襲っていたあの女もそうだが、あっちではそう珍しくない。どうやらこっちでは尖っている=エルフというらしいと認識した。
「エルフじゃなくて魔法が使えないって事はわたし達と同じ平民なんですか?」
「同じ?お前、魔法は使えないのか?」
「魔法が使えるのは貴族の方達だけなんですよ。わたしは貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公をさせていただいているんです」
「ふん…ならここでは、私もそうなるのだろうな」
ルイズにならともかく、この少女に半人半妖だと言っても理解すらできまいとし、それを言うのは止めたのだが、一つ疑問が浮かぶ。
「…いや、私を召喚したというやつも魔法だったか」
なら、何故に空を飛ばなかったのかは気になったのだが、まぁ些細な事だ。
攻撃型、防御型の違いのように得手不得手があるのだろうというところで納得した。
「わたしはシエスタっていいます。よろしくお願いしますね」
「さっき私に攫われると言っていた時に聞いたよ。イレーネだ」
さっきの事を思い出したのかシエスタが慌ててながら赤くなった。
「す、すいません…!でも魔法を使える貴族ですらわたし達にとっては怖いんです…。その貴族ですら恐れるエルフと思ったんですから…」
「怖い…か。私にも怖いと思うことぐらいあるよ」
もちろん、プリシラに左腕を持っていかれた時の事だが、シエスタは自分と同じだと思ったらしい。
「やっぱりそうですよね。…そうだ!余り物で作った賄い食でよければ食べていかれませんか?」
「ああ、私は…」
「遠慮なんてしないでくださいな。こちらにいらしてください」
大丈夫だと答える前にシエスタに手を掴まれ阻まれた。どうも見た目に反し押しが強いらしい。
こうなればあちらと違って、恐れられていないだけに一方的に弱い形になる。
戦士によっては、どこまでやるのかは違うが、少なくともイレーネは一般人と揉め事を起こすようなタイプではない。
無理に断っても拗れるだけだし、一週間は持つが、食べる必要が無いというわけではない。まして妖力が尽きているのだ。
引っ張られるままに食堂の裏手の厨房に連れていかれ椅子に座らされ待つこと数分。
シエスタが皿に入った暖かいシチューを持ってきた。
半分ぐらい食べたところでスプーンを置くとニコニコしていたシエスタが急に不安そうな顔をして聞いてきた。
「もしかして…お口に合いませんでしたか…?」
「ああ、性質でな。私は大体、二日に一度この程度食べれば事足りるんだ」
まぁ戦士にもよるが、大体このぐらいだ。クレアはさらに少ない方だったようだが。
「駄目ですよ!ちゃんと食べないと大きくなれません!」
長女としてのプライドか、どうも食事を残す妹や弟達とかぶったらしく、思わず似たような説教が出た。
「これ以上成長するというのもどうかと思うが」
身長180センチ、一般的に見ても高身長だ。
「そうですけど…毎日のご飯は大事なんですからね」
(やれやれ…クレアに『欲しくなくても無理にでも体に入れておけ』と言った私の立場が無いな)
因果応報。弟子にやった事がそのまま返ってきたような気がしたため、とりあえずその場は全部食べる事にした。
味は美味かったため、そう苦にはならなかったのは幸いというところか。
というか、本気で久方ぶりにまともな料理を食べた。
戦士時代から性質上、どういったものでも少量摂取すればいいというだけあって、基本的に生でいける果実か、そのまま焼いたものぐらいしか食べていない。
例外も居るだろうが、大抵の戦士はそれで済むため、わざわざ、一般人が食べるような料理を食べようなどというものは非常に少ないのだ。
だから、素直に感想が出た。
「旨いな」
「よかった。全部食べてくれて。いつでも食べに来てくださいね。わたし達が食べているものでよければお出ししますので」
「さすがに、毎日というわけにはな…ルイズの方も終わったようだ、世話になった」
「それじゃあ、またお昼に」
マントを翻し厨房を出るが、先行き不安と言えば不安だ。
「四肢接続を繰り返せばいけるか…?」
本気でそんな危ない事を考えつつ、ルイズと合流し教室へと向かう事になった。
ルイズがイレーネを伴い教室へ入ると、今まで結構話し声とかしていた教室が一気に静まり返った。
全員、正面を向き誰も一切ルイズを、もといイレーネを見ようとしない。
唯一の例外は今朝のキュルケと、その近くに座っている青髪の少女ぐらいだ。
風属性の教師曰く「学院として理想的な状態だ」とのこと。
さすがに、イレーネもこう大人数から人を食うエルフと思われてはたまらないので、ルイズに問いただす事にした。
「…お前達が言うエルフというのは人を食うのか?」
「人を食べるのはオーク鬼とかでエルフは強力な先住魔法を使うけど人なんか食べないと思うわ。急にどうしたのよ」
「そうか。…いや少しな」
どうやらシエスタの思い込みだったようで、一先ず安堵した。
なら訂正する事もあるまいと思い床に腰を落す。
やはり、こうなると背中に大剣が無い事に多少違和感を感じる。
「しかし…あれ全てが使い魔というやつか?」
「そりゃそうよ」
(まるで覚醒者の展示会だな…)
もちろん普通の動物も居るが、中に浮いている巨大な目玉。蛸人魚。六本足を持つトカゲ。どれもこれも40番代ぐらいの下位の覚醒者ならありえる形だ。
そうしていると、扉が開き中年の女性の教師が入ってきた。
教室を一瞥するなり、満足げに微笑むと
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」
と、口を開いたが、ルイズとその使い魔であるイレーネと目が合うと一気にその調子が下がった。
「ず、ずいぶんと、変わった…いえ、立派な使い魔を召喚したものですね?ミス・ヴァリエール」
瞬間、ただでさえ冷えていた教室の空気が下がる。それはもう、生徒から空気読めよと言わんばかりの視線がモロにシュヴルーズと呼ばれる教師に集まっていた。
「で、では授業を始めますよ。私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。土系統の魔法を、皆さんに講義します」
こほん、と咳払いをし授業が始まるが、イレーネの興味は属性などよりも二つ名の方に移っている。
「お前達は、全員二つ名を持っているのか」
「そうね、大抵二つ名で属性が分かるのよ。あそこの小太りが『風上』。あのキザったらしい金髪が『青銅』。その横のは『香水』。後は…キュルケの『微熱』ね」
「順に、『風』『土』『水』『火』といったところだな。もう一つあるようだが…誰も使えないのか」
「伝説になってるぐらいだしね。虚無は」
「…それでルイズ、お前の二つ名は何なんだ?」
イレーネ自身、『高速剣』という二つ名を持っていたからには、そこのところはやはり興味はある。
そう聞かれてもルイズが答えないので、まぁ深くは聞かなかったのだが、かなり静かな教室の中、話していたので結構目立っていた。
「ミス・ヴァリエール、使い魔と親睦を深めるのは構わないのですが…授業中は慎みなさい」
「ああ、すまん。続けてくれ」
ルイズが謝るより先にイレーネがそう言ったのだが、思いのほか素直に謝られた事に対して緊張が取れたようで、ようやく何時もの調子に戻ったようだ。
「判っていただければ幸いです。ミス・ヴァリエールには、ここにある石ころを私がやったように金属に変えてもらいましょう」
「わ、わたしですか?」
もじもじしつつ立ち上がらないルイズを若干疑念を含んだ目で見たが、土系統は苦手なのだろうと判断した。
「や、やります」
そんな、視線に気付いたのか、緊張した面持ちでルイズが前に向かうが、別の方向から待ったがかかった。
「先生、ルイズにやらせるのは危険だと思いますけど…」
他の生徒もそれに同調しているが、シュヴルーズは止めさせるどころか、むしろ促している。
「失敗を恐れていては何もできませんよ。気にしないでやってごらんなさい」
もう止められない。ルイズが教壇の前に行き杖を構えると生徒が一斉に机の下に隠れ始めた。
ルイズが呪文を唱えるが、戦いから離れていたとはいえ戦士。イレーネの体が反応した。
体のあちこちが妖力解放した時のように音を立てている。
何か分からんがマズイ!
「そこまでだ、止めろ!」
何故か限界を突破しそうな予感にかられ、ルイズを止めたのだが、もう杖を振り下ろしていた。
「いかん!」
瞬時に妖力解放。大して回復していない妖力を全て回し床を蹴った瞬間、爆発が起こった。
教室がパニックに陥り、他の使い魔達が暴れ出す。
フレイムが火を吐き、飛行可能な使い魔はガラスを突き破り外へ逃げ、その穴から入ってきた大蛇が小太りの少年を飲み込もうとしている。
「ああ!マリコルヌが食われた!」「まだ、食べられてない!助けてくれ!」「火を消せぇーーーー」
まるで、妖魔か覚醒者が町を襲った時の様な阿鼻叫喚だ。
「だ、だから言ったのよ!ルイズにやらせるなって!ってルイズと先生は!?」
キュルケが教壇を指差しながらそう言ったのだが、二人は居なかった。
「うそ…二人とも爆発で!?」
その場に居たはずなのに居ないので、爆発で消し飛んだと思ったらしいが、教室の後ろの方から声がかかった。
「まったく…問題児もいいところだ」
イレーネが珍しく焦った様子で、その右腕にルイズを抱えている。
「左腕が無いんでな。悪いが蹴ったぞ」
その視線の先にはシュヴルーズが倒れていた。
爆発に巻き込まれたわけではないが、イレーネの蹴りが良い所に入ったようで気絶している。
先住魔法というざわめきが起きたが、何の事は無い。ただ疾く動いただけの事だ
妖力解放し、教壇まで一足飛びに飛ぶと同時に教壇のルイズを掴み
そのままの勢いで壁を蹴り反転。ついでにシュヴルーズを蹴り飛ばしたのだが、鳩尾に綺麗に決まったようだった。
当然、手加減はしたが急所である。そりゃあ気絶もする。
瞬間的な妖力解放による高速移動。『幻影』程ではないが、かなりのスピードで移動はできる。
ただ、もう回復した妖力を使い果たしたようだったが。
「ちょっと失敗したみたいね」
そんな教室のざわめきを受けても淡々とした声でと事も無げに言う姿を見て改めてイレーネは、こいつは大物になるな。と本気でそう思った。
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: