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「とある魔術の使い魔と主-38」(2009/10/11 (日) 16:16:43) の最新版変更点
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「さーって、再びの鬼ごっこですかー……」
こちらの世界で三度目の展開である。いい加減慣れるだろ、と言われるかもしれないが、それは間違いである。
なにせ、今回は以前とは少し違うのだから。
ちらりと後ろを見るが、背後から迫ってくる様子はない。今のうちに作戦を立てるべきだと、当麻は軽快に動かしていた足を止める。
やみくもに逃げ回っていたらすぐに捕まってしまう。相手は闇の力を授かったような強さを誇るのだ。正直、ワープとかしてしまいそうな勢いを持っている。
最悪の展開、正面衝突だけは避けたい。幻想殺し一本だけでは、あの魔王を止める事はできない。
(ただ逃げてたら廊下でバッタリ! って可能性があるよな……、となると誰かの部屋に匿ってもらうべきか)
当麻は自分を匿ってくれそうな人物を思い浮かべる。
キュルケ……はダメだ。確かタバサと一緒に帰郷しているので部屋には鍵がかかっているはず。
ギーシュ……もダメだ。彼の部屋がわからない以上、どうしようもない。
(となると……)
残された相手は一人。
できる事ならあまりこういうのに関わらせたくない相手だが、
やはり命より大事なものはない。
当麻は僅かに費やした思考の後、再び走り始めた。
少年は向かう、少女の元へ。
その選択が最善でありながら、最悪の選択である事も気付かずに、
ただ、走る。
その姿は、
まるで主人公がヒロインを守りにいくかのようであった。
「なるほどね~、そういうことがあったのね……」
「当麻君には悪いことをしたね」
「もー……ちゃんと謝ってくださいね」
シエスタは、帰ってきた二人に当麻との関係を勘違いさせないように説明をした。
すでにある程度の予測を立てていた二人だが、やはり酷い事をしてしまったなと、再び実感するかのように落ち込む。
ほんわかとしたシエスタの説教を終え、今度当麻に会ったら謝るという約束をした。となると、話が終わった今、話題を変えるには絶好の機会である。
具体的に言うならば、
「そういえば、私たちがいない間なにやってたの?」
シエスタと当麻との時間である。
ビクッ、とシエスタの体が反応する。彼女は冷や汗を流し、焦りながらも、答えた。
「え、えっと、ふ、二人で世間話をしましたよー」
この二人の洞察力は高い。先の出来事を説明したらシエスタの顔はきっと赤くなる。
ただ身長を測るだけなのに、顔を赤くするのはおかしい。そこに二人が違和感を感じるのは明らかだ。
だから、言わない。自分がそのようにはしたない子だと思われたくないから。
しかし、
洞察力が優れているのならば、シエスタが嘘をついているのを見破るのもまた当然の事である。
金髪の子が話しかけた瞬間、体を震わす時点で疑いをかけたのだ。
「あんた、嘘ついてるわよね?」
「な、なんのことですかなー?」
マニュアル通りのような対応の仕方に、二人はますます疑いの眼差しを向ける。
あえて言わないという事は、
何か裏があるに違いない。
「シエスタ、あんた言わないとわかってるでしょうね?」
「へ? な、なんのことですか~」
「とぼけても無駄よ! あんたが何かしたなんてバレバレなんだから!」
グイッと、金髪の子がシエスタの顔にと迫る。二人の吐息が、互いの皮膚へと直接感じるその距離に、思わず彼女は後ずさる。
「べ、別になにもないですから!」
頬がいつの間にか赤くなっていた。何度もしつこく尋ねられたので、無理矢理思い出されたのだ。
「嘘おっしゃい! 吐け! 吐かないといろいろ――」
瞬間、鍵を開けていた扉は勢いよく開かれた。
ノックなどする暇なく、少年がなだれこんだ。
「と、当麻さん!?」
「悪いシエスタ。ちょい匿ってくれないか!?」
同意を貰う事なく、当麻はベッドの下にある僅かの隙間に隠れる。
様子からして、緊急事態が起こっているのは誰にでも判断できる。問題はなぜなのか、だ。
「と、トウマさん? 別に大丈夫ですけど一体なんで……?」
「あー話せば長くなるんだが、ルイズがめちゃめちゃキレて追われてるんだ」
当麻の言葉に、ドキッと金髪の子が反応する。もちろん、シエスタが見逃すわけがない。
攻守交代である。
「な・に・か。知ってるんですか~?」
「いやーなんでもない。つかなにもないから安心して」
シエスタが、本日二度目のお怒りモードに突入したので、金髪の子が慌てて両手を左右に振り、否定の言葉を並べる。
「嘘――」
「シエスタはここにいるかしら? いいわ何も言わなくても、わたしの視界にちゃんと入ってるから」
しかし、その攻守も一度リセットされる。新たなお客が迎えた事で、そのような論争をする暇がなくなったからだ。
役者は揃った。
構成も設定も決まっていない、ただ配役だけが決まっているお芝居が、
今、始まる。
「ラ……ラ・ヴァリエール嬢、ど、どうしたのですか?」
あまりの殺気の大きさに、シエスタ含めて三人のメイドは一歩だけ後退した。
それでもシエスタは当麻の前に立ち、ルイズから彼を隠そうとしている。
当麻がここにいないとわかれば、きっと向こうも退いてくれるはず。そう信じてシエスタが尋ねたのだが、
「あんたをぼこぼこにしにきたのよ」
さらりと、まるで挨拶を交わすかのようにさらりと言った。
「はい……?」
なぜそこで自分の名が出たのかわからないシエスタは、ルイズに確認を取る。
「あんたも、トウマと同罪。一緒に償ってもらうわよ。女の子だからって許されると思ったら大間違いよ」
「いえ……だからなんでそんなことに……?」
「わたしより胸が大きくてそれをトウマに見せびらかした罪」
そんな罪ないですよ! と突っ込む少女に、もう話す事を終えたのか、ルイズは杖を取り出す。
当麻はまずいと思う。このまま隠れ通せば大丈夫かと思ったのだが、標的をシエスタに変えられた。
当麻自身はある程度耐性を持っている為、死ぬ事はないと思う。しかし、シエスタは違う。
闘う事も何もできない女の子なのだ。そんな子が目の前の貴族に怯む事なく自分の前に立ち塞がっている。
当麻さえ安全ならそれでいいかのように
ギリッと奥歯を噛み締める。
そう、そこは本来当麻が立つ位置なのだ。たとえそうじゃなくとも、シエスタの身を守るのは当麻なのだ。
それなのに自分はなんだ?
ただ黙ってここに隠れているのか?
違う。当麻は断言する。そんな事をしたら、一生後悔するであろう。
(人の不幸を……勝手に背負うな!)
考えるより前に足が動くとはこの事だろう。当麻は、ベッドの下から再び身を乗り出し、シエスタの前に立ち塞がった。
「と、トウマさん!?」
「わりいシエスタ、お前が関わっているなら別だ」
ビキビキビキィ! とルイズのこめかみからあまり穏やかではない音がする。
「そう、あんたはその子を守る為にここに来てたのね、素晴らしいわ。なんていいお話なのかしら?」
「待って、だからなんでそんなに怒っているんですか!?」
「あんたの胸に聞いてみれば?」
やはりダメだ。怒りは収まる所かむしろ増加している様子だ。
ルイズが足に力を入れた瞬間、シエスタの仲間である二人が当麻の前に立った。
感心したかのように、ルイズは不敵な笑みを浮かべる。
「へぇ、仲間愛? 涙が出ちゃうわね」
もちろんルイズの瞳からは何も出ていない。彼女の挑発に対抗すべく、金髪の子が口を開く。
「はっ、一人で挑んできたあんたには一生理解できないようね!」
ギリッとルイズは奥歯を噛み締める。彼女の中での目標が変更された。まずは最初に小うるさい仲間を倒してから本命の方がいろいろと好都合だろう。
「さあ、トウマ君! 今のうちに逃げるんだ!」
「でも……!」
「でももへちまもないっ! こういうパターンになったら黙って行く!」
「ッ……」
わかっている。ルイズに立ち向かうわけにはいかない。
しかし、向こうは別である。二人の命が狙われている今、当麻達はルイズが落ち着きを取り戻すまで逃げ続ける必要があるのだ。
そのためには逃げる時間が要る。たとえ僅かであろうと、距離を再び開かせないと意味がない。
ならばと、二人がその役目を名乗り出てくれたのだ。
しかし、それはかなり危険な行為でもある。あのルイズと相手をするのだ。無傷で帰ってはこれない。
それだけ二人にとって、当麻とシエスタは大事な存在なのだろうか? 決まっている。そうでなければこのような事をするわけがない。
「いくぞ……シエスタ」
「え……? キャッ!」
当麻はシエスタの腕を引っ張り、扉へと向かう。
「逃がさない!」
「だから! あんたはこっちの相手だっつーの!」
「簡単にやられると思ったら大間違いです!」
ルイズが振り返る瞬間、二人のメイドが襲いかかった。
「とりあえず走るぞ!」
「え……あ、はい!」
シエスタは想いを寄せている少年に腕を引っ張られ恥ずかしくなる。不安と喜びが混ざり合う中、少女は少年の背中を追い続ける。
「待ちなさい!!」
叫び声と共に、後ろから勢いよくルイズが迫ってきた。どうやら、足止めの時間は僅かであったようだ。
距離は二十メートルぐらいだろうか? しかし、曲がり角が少ないこの直線の廊下、逃げ切れる距離ではない。
それに、シエスタはお世辞に言っても運動神経がよいとは言えない。このまま近づかれるのも再び時間の問題である。
廊下を曲がり、一階と二階を繋ぐ階段を一気に駆け上がった。襲いかかる足の疲労をもろともせず、再び直線の廊下を走る。
と、その時だ。
前方のとある部屋から声がした。
「え? どこ! どこどこ!」
知っている声、数少ない当麻の知り合いである。
(このまま振り払える様子もない……ッ!)
杭を足に刺すかのように急ブレーキをかけ、
(なら、第三者の説得が必要だ。つか最悪シエスタだけ助かるようにしなければ!)
扉を開いた。
「ギーシュ! 頼みがあるんだ!」
当麻とシエスタが室内に入ると、そこにはギーシュともう一人の女の子が立っていた。突然の事態に困惑している様子である。
「んなボサッとしちゃう時間はないんです!」
当麻はシエスタを部屋の奥へと引っ張っていく。そこで、ようやく住人である二人の口が開いた。
「なにをやってるんだ君はぁ!?」
「ちょっと! なにわたしの部屋に入ってきてるのよ!」
当麻がそんな文句を述べる二人に対応する暇がなかった。
三人目が文句を言う代わりに扉を盛大に蹴ったからである。
「もう逃げれないわよ!」
ルイズは当麻とシエスタの二人を見ると、ずかずかと部屋に入り込む。
「待ってくれ! 俺は構わんがシエスタは許してくれ!」
「いまさら許して貰おうと思ったら大間違いよ」
と、ルイズは何かに気付いたのか、当麻達とは違う場所に置いてあるテーブルへと向かう。
そこには、ワインとグラスが置かれていた。二つあるので、おそらくギーシュと女の子用なのだろう。
すると、ルイズはグラスの中身を一気に飲み干した。
女の子があっ! と叫んだが、誰も気がつかない。
「プハー、走ったら喉が渇くものね。さて、どっちから罰を与えようかしら?」
手で口の汚れをを拭うと、当麻達へと視線を向けると……。
キュンッ、と胸が鳴った。
「あ……れ……?」
おかしい。ちょっと前まで怒りで感情が支配したはずなのに、いつの間にか変わっている。
なぜだろう、なんでこんなに好きという想いが強くなっていくのだ?
ルイズは思わずその人物の名を挙げた。
「シエ……スタ……」
顔が、真っ赤に染まっていた。
#navi(とある魔術の使い魔と主)
「さーって、再びの鬼ごっこですかー……」
こちらの世界で三度目の展開である。いい加減慣れるだろ、と言われるかもしれないが、それは間違いである。
なにせ、今回は以前とは少し違うのだから。
ちらりと後ろを見るが、背後から迫ってくる様子はない。今のうちに作戦を立てるべきだと、当麻は軽快に動かしていた足を止める。
やみくもに逃げ回っていたらすぐに捕まってしまう。相手は闇の力を授かったような強さを誇るのだ。正直、ワープとかしてしまいそうな勢いを持っている。
最悪の展開、正面衝突だけは避けたい。幻想殺し一本だけでは、あの魔王を止める事はできない。
(ただ逃げてたら廊下でバッタリ! って可能性があるよな……、となると誰かの部屋に匿ってもらうべきか)
当麻は自分を匿ってくれそうな人物を思い浮かべる。
キュルケ……はダメだ。確かタバサと一緒に帰郷しているので部屋には鍵がかかっているはず。
ギーシュ……もダメだ。彼の部屋がわからない以上、どうしようもない。
(となると……)
残された相手は一人。
できる事ならあまりこういうのに関わらせたくない相手だが、
やはり命より大事なものはない。
当麻は僅かに費やした思考の後、再び走り始めた。
少年は向かう、少女の元へ。
その選択が最善でありながら、最悪の選択である事も気付かずに、
ただ、走る。
その姿は、
まるで主人公がヒロインを守りにいくかのようであった。
「なるほどね~、そういうことがあったのね……」
「当麻君には悪いことをしたね」
「もー……ちゃんと謝ってくださいね」
シエスタは、帰ってきた二人に当麻との関係を勘違いさせないように説明をした。
すでにある程度の予測を立てていた二人だが、やはり酷い事をしてしまったなと、再び実感するかのように落ち込む。
ほんわかとしたシエスタの説教を終え、今度当麻に会ったら謝るという約束をした。となると、話が終わった今、話題を変えるには絶好の機会である。
具体的に言うならば、
「そういえば、私たちがいない間なにやってたの?」
シエスタと当麻との時間である。
ビクッ、とシエスタの体が反応する。彼女は冷や汗を流し、焦りながらも、答えた。
「え、えっと、ふ、二人で世間話をしましたよー」
この二人の洞察力は高い。先の出来事を説明したらシエスタの顔はきっと赤くなる。
ただ身長を測るだけなのに、顔を赤くするのはおかしい。そこに二人が違和感を感じるのは明らかだ。
だから、言わない。自分がそのようにはしたない子だと思われたくないから。
しかし、
洞察力が優れているのならば、シエスタが嘘をついているのを見破るのもまた当然の事である。
金髪の子が話しかけた瞬間、体を震わす時点で疑いをかけたのだ。
「あんた、嘘ついてるわよね?」
「な、なんのことですかなー?」
マニュアル通りのような対応の仕方に、二人はますます疑いの眼差しを向ける。
あえて言わないという事は、
何か裏があるに違いない。
「シエスタ、あんた言わないとわかってるでしょうね?」
「へ? な、なんのことですか~」
「とぼけても無駄よ! あんたが何かしたなんてバレバレなんだから!」
グイッと、金髪の子がシエスタの顔にと迫る。二人の吐息が、互いの皮膚へと直接感じるその距離に、思わず彼女は後ずさる。
「べ、別になにもないですから!」
頬がいつの間にか赤くなっていた。何度もしつこく尋ねられたので、無理矢理思い出されたのだ。
「嘘おっしゃい! 吐け! 吐かないといろいろ――」
瞬間、鍵を開けていた扉は勢いよく開かれた。
ノックなどする暇なく、少年がなだれこんだ。
「と、当麻さん!?」
「悪いシエスタ。ちょい匿ってくれないか!?」
同意を貰う事なく、当麻はベッドの下にある僅かの隙間に隠れる。
様子からして、緊急事態が起こっているのは誰にでも判断できる。問題はなぜなのか、だ。
「と、トウマさん? 別に大丈夫ですけど一体なんで……?」
「あー話せば長くなるんだが、ルイズがめちゃめちゃキレて追われてるんだ」
当麻の言葉に、ドキッと金髪の子が反応する。もちろん、シエスタが見逃すわけがない。
攻守交代である。
「な・に・か。知ってるんですか~?」
「いやーなんでもない。つかなにもないから安心して」
シエスタが、本日二度目のお怒りモードに突入したので、金髪の子が慌てて両手を左右に振り、否定の言葉を並べる。
「嘘――」
「シエスタはここにいるかしら? いいわ何も言わなくても、わたしの視界にちゃんと入ってるから」
しかし、その攻守も一度リセットされる。新たなお客が迎えた事で、そのような論争をする暇がなくなったからだ。
役者は揃った。
構成も設定も決まっていない、ただ配役だけが決まっているお芝居が、
今、始まる。
「ラ……ラ・ヴァリエール嬢、ど、どうしたのですか?」
あまりの殺気の大きさに、シエスタ含めて三人のメイドは一歩だけ後退した。
それでもシエスタは当麻の前に立ち、ルイズから彼を隠そうとしている。
当麻がここにいないとわかれば、きっと向こうも退いてくれるはず。そう信じてシエスタが尋ねたのだが、
「あんたをぼこぼこにしにきたのよ」
さらりと、まるで挨拶を交わすかのようにさらりと言った。
「はい……?」
なぜそこで自分の名が出たのかわからないシエスタは、ルイズに確認を取る。
「あんたも、トウマと同罪。一緒に償ってもらうわよ。女の子だからって許されると思ったら大間違いよ」
「いえ……だからなんでそんなことに……?」
「わたしより胸が大きくてそれをトウマに見せびらかした罪」
そんな罪ないですよ! と突っ込む少女に、もう話す事を終えたのか、ルイズは杖を取り出す。
当麻はまずいと思う。このまま隠れ通せば大丈夫かと思ったのだが、標的をシエスタに変えられた。
当麻自身はある程度耐性を持っている為、死ぬ事はないと思う。しかし、シエスタは違う。
闘う事も何もできない女の子なのだ。そんな子が目の前の貴族に怯む事なく自分の前に立ち塞がっている。
当麻さえ安全ならそれでいいかのように
ギリッと奥歯を噛み締める。
そう、そこは本来当麻が立つ位置なのだ。たとえそうじゃなくとも、シエスタの身を守るのは当麻なのだ。
それなのに自分はなんだ?
ただ黙ってここに隠れているのか?
違う。当麻は断言する。そんな事をしたら、一生後悔するであろう。
(人の不幸を……勝手に背負うな!)
考えるより前に足が動くとはこの事だろう。当麻は、ベッドの下から再び身を乗り出し、シエスタの前に立ち塞がった。
「と、トウマさん!?」
「わりいシエスタ、お前が関わっているなら別だ」
ビキビキビキィ! とルイズのこめかみからあまり穏やかではない音がする。
「そう、あんたはその子を守る為にここに来てたのね、素晴らしいわ。なんていいお話なのかしら?」
「待って、だからなんでそんなに怒っているんですか!?」
「あんたの胸に聞いてみれば?」
やはりダメだ。怒りは収まる所かむしろ増加している様子だ。
ルイズが足に力を入れた瞬間、シエスタの仲間である二人が当麻の前に立った。
感心したかのように、ルイズは不敵な笑みを浮かべる。
「へぇ、仲間愛? 涙が出ちゃうわね」
もちろんルイズの瞳からは何も出ていない。彼女の挑発に対抗すべく、金髪の子が口を開く。
「はっ、一人で挑んできたあんたには一生理解できないようね!」
ギリッとルイズは奥歯を噛み締める。彼女の中での目標が変更された。まずは最初に小うるさい仲間を倒してから本命の方がいろいろと好都合だろう。
「さあ、トウマ君! 今のうちに逃げるんだ!」
「でも……!」
「でももへちまもないっ! こういうパターンになったら黙って行く!」
「ッ……」
わかっている。ルイズに立ち向かうわけにはいかない。
しかし、向こうは別である。二人の命が狙われている今、当麻達はルイズが落ち着きを取り戻すまで逃げ続ける必要があるのだ。
そのためには逃げる時間が要る。たとえ僅かであろうと、距離を再び開かせないと意味がない。
ならばと、二人がその役目を名乗り出てくれたのだ。
しかし、それはかなり危険な行為でもある。あのルイズと相手をするのだ。無傷で帰ってはこれない。
それだけ二人にとって、当麻とシエスタは大事な存在なのだろうか? 決まっている。そうでなければこのような事をするわけがない。
「いくぞ……シエスタ」
「え……? キャッ!」
当麻はシエスタの腕を引っ張り、扉へと向かう。
「逃がさない!」
「だから! あんたはこっちの相手だっつーの!」
「簡単にやられると思ったら大間違いです!」
ルイズが振り返る瞬間、二人のメイドが襲いかかった。
「とりあえず走るぞ!」
「え……あ、はい!」
シエスタは想いを寄せている少年に腕を引っ張られ恥ずかしくなる。不安と喜びが混ざり合う中、少女は少年の背中を追い続ける。
「待ちなさい!!」
叫び声と共に、後ろから勢いよくルイズが迫ってきた。どうやら、足止めの時間は僅かであったようだ。
距離は二十メートルぐらいだろうか? しかし、曲がり角が少ないこの直線の廊下、逃げ切れる距離ではない。
それに、シエスタはお世辞に言っても運動神経がよいとは言えない。このまま近づかれるのも再び時間の問題である。
廊下を曲がり、一階と二階を繋ぐ階段を一気に駆け上がった。襲いかかる足の疲労をもろともせず、再び直線の廊下を走る。
と、その時だ。
前方のとある部屋から声がした。
「え? どこ! どこどこ!」
知っている声、数少ない当麻の知り合いである。
(このまま振り払える様子もない……ッ!)
杭を足に刺すかのように急ブレーキをかけ、
(なら、第三者の説得が必要だ。つか最悪シエスタだけ助かるようにしなければ!)
扉を開いた。
「ギーシュ! 頼みがあるんだ!」
当麻とシエスタが室内に入ると、そこにはギーシュともう一人の女の子が立っていた。突然の事態に困惑している様子である。
「んなボサッとしちゃう時間はないんです!」
当麻はシエスタを部屋の奥へと引っ張っていく。そこで、ようやく住人である二人の口が開いた。
「なにをやってるんだ君はぁ!?」
「ちょっと! なにわたしの部屋に入ってきてるのよ!」
当麻がそんな文句を述べる二人に対応する暇がなかった。
三人目が文句を言う代わりに扉を盛大に蹴ったからである。
「もう逃げれないわよ!」
ルイズは当麻とシエスタの二人を見ると、ずかずかと部屋に入り込む。
「待ってくれ! 俺は構わんがシエスタは許してくれ!」
「いまさら許して貰おうと思ったら大間違いよ」
と、ルイズは何かに気付いたのか、当麻達とは違う場所に置いてあるテーブルへと向かう。
そこには、ワインとグラスが置かれていた。二つあるので、おそらくギーシュと女の子用なのだろう。
すると、ルイズはグラスの中身を一気に飲み干した。
女の子があっ! と叫んだが、誰も気がつかない。
「プハー、走ったら喉が渇くものね。さて、どっちから罰を与えようかしら?」
手で口の汚れをを拭うと、当麻達へと視線を向けると……。
キュンッ、と胸が鳴った。
「あ……れ……?」
おかしい。ちょっと前まで怒りで感情が支配したはずなのに、いつの間にか変わっている。
なぜだろう、なんでこんなに好きという想いが強くなっていくのだ?
ルイズは思わずその人物の名を挙げた。
「シエ……スタ……」
顔が、真っ赤に染まっていた。
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