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「ディセプティコン・ゼロ-3」(2007/08/25 (土) 13:37:54) の最新版変更点
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学院長室に、ミスタ・コルベールの興奮した声が響く。
室外に佇むミス・ロングビルは耳を澄ませてみるものの、内で発せられるその声が洩れ聞こえる事は無かった。
「つまりオールド・オスマン! あれはマジックアイテムなどではなく、紛う事無き『銃』だったのですよ!」
「ふぅむ・・・・・・」
沸き立つ感情もそのままに叫ぶコルベールに、オールド・オスマンは得心がいったという様に頷く。
その様子にコルベールは、訝しげに目の前の老人を見た。
「・・・・・・驚かないのですね?」
「予想はしておったよ。あの引き金を見れば、誰だって銃を思い浮かべるわい・・・・・・尤もすぐに考え直すじゃろうがの」
苦笑しつつ答えるオスマンに、コルベールもまた曖昧な笑みを浮かべる。
このハルケギニアの人間が『あれ』を見たとして、銃だと断言出来る者が果たしてどれだけ居る事だろう。
「とにかく、ミスタ・コルベール。『火竜の息吹』の取り扱い方は極秘という事にしておいてくれ」
「勿論です。分析結果を示した書類は、同じチェストに入れておきます」
「頼むぞ。ところで、『破壊の槍』の方の分析はどうなっとるかの?」
その質問にコルベールは、打って変わって意気消沈した表情を浮かべる。
「殆ど進んでいません・・・・・・引き金を引こうにも、何らかの安全装置が掛かっているらしく・・・・・・」
「そうか」
口惜しげに語るコルベールとは対照的に、オスマンは何処かほっとした様に呟いた。
そしてコルベールを慰める様に、奇妙な言葉を発する。
「だが寧ろ、引き金を引かずに済んだ事は幸運かもしれんぞ、ミスタ・コルベール。もし君の研究室であれが放たれれば、今頃・・・・・・」
「失礼します」
オスマンの言葉を遮って入室してきたのは、室外で待機していたミス・ロングビル、そして汗だくで荒い息を吐くミセス・シュヴルーズだった。
その尋常ならざる様子に、室内の2人も一瞬で表情を引き締める。
「何事かね」
「ヴェストリの広場で・・・・・・生徒が・・・・・・決闘を・・・・・・」
意気も絶え絶えにシュヴルーズが吐き出した言葉に、オスマンは拍子抜けした様な表情を浮かべた。
コルベールも同様で、そんな事かといわんばかりに溜息を吐いている。
「なんじゃ・・・・・・暇人どもの馬鹿騒ぎか。放っておきなさい、その内飽きるじゃろ」
「グラモン・・・・・・ミス・ヴァリエールが・・・・・・」
呆れを隠そうともせずシュヴルーズを宥めようと言葉を発したオスマンだったが、当のシュヴルーズはそれが耳に入らないかの様に何かを呟いている。
それに気付いたロングビルが、もっと良く聴き取ろうと耳を近付けたその時、シュヴルーズが必死の形相で叫んだ。
「殺されます・・・・・・ミスタ・グラモンと、ミス・ヴァリエールが・・・・・・殺されてしまう!」
学院全体を揺らす地響きが轟いたのは、それと同時だった。
時は僅かに遡り、ヴェストリの広場。
キュルケとタバサが其処へと辿り着いた時、既にルイズとギーシュは広場の中央で敵と向かい合っていた。
遅かったか、と歯噛みするキュルケを余所に、2人は杖を構える。
そして敵は余裕を滲ませた笑みを浮かべ、風の系統が誇る悪夢の呪文を唱えた。
『ユビキタス・デル・ウィンデ・・・・・・』
瞬間、2つの人影が7つに分裂する。
一方の遍在は2体、さらに一方は3体。
本体も含め、計7体。
それが2人が相対する敵の数だった。
「あはは・・・・・・声も出ないか? 僕等に歯向かう事がどれだけ愚かな事か、今更解ったってところか」
「風は遍在する・・・・・・風の吹く所、何処と『ワルキューレッ!』なぁッ!?」
見下す様な眼で2人を貶める敵。
しかしその御高説は、広場を覆いつくさんばかりの薔薇の花弁と共に現れた青銅の戦乙女達の突撃によって遮られた。
各々の得物を手に、果敢に敵へと襲い掛かる5体のワルキューレ。
その突進力に面食らった敵は態勢を崩すも、次の瞬間には1体のワルキューレが首を飛ばされる。
『エア・カッター』だ。
「チッ!」
「ファイアーボールッ!」
舌打ちするギーシュの横でルイズが『ファイアーボール』を唱えるも、失敗魔法の爆発は狙いが安定せず、命中したものは1発も無い。
周囲の生徒達から巻き起こる笑い。
しかしそれに狙われた当人は、その威力に内心肝を冷やしていた。
(何だ!? あれが・・・・・・失敗魔法だって? 冗談じゃない! あんなもの喰らったら、火傷どころじゃ・・・・・・!)
背筋を走った冷たい感覚に、彼はぶるりと震えた。
曲りなりにもトライアングルメイジ、瞬時に思考を切り替え、全力で敵を叩き潰すべく次の呪文を唱える。
「エア・ハンマー!」
その声と共に杖から暴力的なまでの突風が放たれ、それは未だに『ファイアーボール』を唱えていたルイズに直撃する。
「きゃっ!」
「ミス・ヴァリエ・・・・・・ぐぅッ!」
「お前もだッ!」
吹き飛ばされるルイズに気を取られたギーシュが、遍在を含めたもう一方の敵3体からの『エア・ハンマー』で壁に叩き付けられる。
地面へとずり落ちたギーシュは何処か内臓を傷めたのか、その口から咳と共に僅かな血を漏らした。
その姿に、ギャラリーの所々から微かな悲鳴が上がる。
「う・・・・・・ぐっ・・・・・・」
「どうした? 大口叩いた割には大した事が無いな。所詮ドットはこの程度か」
「な・・・・・・貴様・・・・・・僕の事を知って・・・・・・」
敵の言葉に含まれた『ドット』という単語に反応したギーシュ。
相手はどちらかといえば端整に見えるその顔に厭らしい笑みを浮かべ、勝ち誇った様に語りだした。
既に5体のワルキューレ全てが撃破されており、ルイズは気絶、ギーシュは負傷によって動けず、大方の勝敗は決した様に見える。
「知っているさ、グラモン家の末息子。兄弟に比べて随分と劣った出来らしいな」
「っ!」
「見栄を張るしかないグラモンの家には、女を誑かすしか能の無い失敗作がお似合いだよ」
その言葉と同時、ギャラリーの一角が俄かに騒がしくなる。
見れば、食堂を出て部屋へと戻った筈のモンモランシーが、級友達に抑えつけられているではないか。
どうやら決闘の話を聞き付けて、居ても立ってもいられずに此処へと駆け付けてきたらしい。
そしてギーシュへの暴言に耐えられずに思わず飛び出そうとした所を、彼女が巻き込まれるのを防ごうとした級友達に抑えられているという訳である。
しかしその彼女の目の前で、ギーシュとルイズへの暴言は更に続く。
「おまけにヴァリエールの出来損ないとデキているとあってはな。まぁ、失敗作と出来損ない、お似合いではあるか」
楽しそうに声を張り上げる2人の脳裏には、ヴァリエール家とグラモン家の力など欠片も浮かんではいなかった。
実際に陰謀渦巻く王宮などに出れば、そんな命知らずな真似は決して出来ないだろう。
しかし彼等は未だ学生の身。
散々に自らの家名を盾にしてきたにも関わらず、魔法の才能で劣ると判断したルイズとギーシュに対し、自らと比べ遥か格下の相手であるかの様に振舞う。
結局のところ、彼等は井の中の蛙だった。
「どうした? 少しは反論したらどうか・・・・・・ねッ!」
「がっ!」
遍在の1体が、ギーシュの腹に蹴りを入れる。
少し離れた所では、相方の遍在がルイズを『レビテーション』で浮かし、壁へと叩き付けていた。
どうやら本気で動けなくなるまで痛め付けるつもりらしい。
「ほらほらほらほらほらほらァ! 何とか言ったらどうだい、えぇ?」
「う、うああっ、ぐ、ぇえッ」
「・・・・・・なんだ、こっちはもう気絶してるぞ」
眼前で繰り広げられる余りの非道に、其処彼処から悲鳴が上がる。
血反吐を吐くギーシュを仰向けにし、その腹を繰り返し踏み付ける3体の遍在。
本体は少し離れた場所から、薄笑いを浮かべながらその様子を見守っている。
一方でその相方は気絶したらしきルイズを広場の中央へと放り出し、呼び出した己の使い魔を差し出した腕にとまらせて下卑た笑みを浮かべた。
「トーレスの仇を討たなければな・・・・・・なぁ、イルミー?」
主の呼びかけに応える様に、その腕にとまったオオワシが羽を広げつつ甲高く鳴き声を上げる。
そして主はその腕を掲げ、隠し切れない愉悦の表情を滲ませた。
「まぁ・・・・・・片目くらい無くても、楽しむ事は出来るだろう」
差し出した腕をルイズへと向け、余りにも非情な命令を使い魔に下す。
「抉り出せ、イルミー!」
その命令にイルミーは、一際高い鳴き声を上げて羽を打ち下ろし、意識の無いルイズへと向かうべく主の腕を離れた。
堪らずキュルケが、それに呼応してタバサが杖を構えた、その瞬間。
青銅の豪腕が、哀れな使い魔の体を握り潰していた。
「・・・・・・イルミー?」
目の前で起きた事を受け入れられず、呆然と呟く主。
そして我に返った瞬間、己の使い魔を握り潰した腕が自分の背後から伸びている事に気付いた。
若干離れた場所で、思わず踏み付ける脚の動きを中断していた3体の遍在の足元から、息も絶え絶えながら可笑しくて仕様が無いといった声が洩れる。
「本当は・・・・・・ヴェルダンデが見分けるのを待って・・・・・・仕掛けるつもりだったんだけど・・・・・・ね・・・・・・」
「な・・・・・・に?」
背後から抱きしめられる様にして押さえ付けられた彼は、ぼろぼろのギーシュから放たれる言葉に凍り付いた。
見れば自分の足元には小さな穴が開き、その中に小さな光る目らしき物が動いているのが見て取れるではないか。
「どれが本物か判らないから・・・・・・1つだけ異なるニオイを・・・・・・探させたんだ」
「お、お前・・・・・・」
「でもまさか・・・・・・『自分から』名乗り出てくれるなんてね」
その言葉に今度こそ遍在も含め、7つの人影が凍り付く。
ギーシュの言う通り、彼等はよりにもよって自らの行動で、どれが本体かを敵に教えてしまったのだ。
片や、1人安全な場所から遍在の行う暴行を眺めていた。
片や、呼び出した使い魔を自身の腕にとめた。
既に勝負は決したとの思い込みから来た、致命的な失策。
ギーシュは激しい暴行を受けながらも、決してそれを見落とさなかった。
最初のワルキューレを錬金した際に、演出を装って広場中にばら撒いた薔薇の花弁。
その中で敵本体に最も近い1枚から、ワルキューレを錬金したのだ。
「そして・・・・・・これが僕等の切り札だ」
「エア・カッター!」
ギーシュの言葉が終わるか否かというところで、ワルキューレの胴体が斜めに切り飛ばされる。
抱え込まれた人間が巻き込まれぬよう、絶妙な角度で射ち込まれた一撃。
それは遍在の1体が放ったものだった。
同時に勝ち誇った様な、嘲りの声が上がる。
「切り札だって? それはこの青銅のゴミ・・・・・・!」
「そう・・・・・・そうすると思ったよ」
『勝利への確信』に満ちた声は、ギーシュの『確実な勝利への確信』に満ちた声によって遮られる。
ワルキューレを切り飛ばした当の本人は、その内部から零れ落ちた無数の『石』を見て呆けた顔を晒していた。
「僕のワルキューレは・・・・・・中が空洞でね・・・・・・」
その無防備な相手に対しギーシュは、一片の慈悲も無く止めの声を発する。
「ヴェルダンデが集めたんだ・・・・・・それだけの石礫の中で・・・・・・『爆発』が起こったら・・・・・・どうなるだろうね・・・・・・!」
「やめっ・・・・・・」
「ミス・ヴァリエールッ!」
その瞬間、気絶したと思われていたルイズが跳ね起き、杖を構えて呪文を唱えた。
「錬金ッ!」
瞬間、石礫の1つが爆発を起こし、その爆風によって飛び散った周囲の石礫が敵本体を激しく打ち据えた。
防御する暇などある筈も無く、無数の破片を受けた彼は数メイルも吹き飛ばされて地面に転がる。
同時に、2体の遍在もその姿を消した。
「なっ!?」
「ヴェルダンデ!」
そして間を置かず、もう一方の本体の足が吸い込まれる様に地に沈む。
ウェルダンデが掘った落とし穴だ。
そしてこちらの背後にも、青銅の死神がその姿を現す。
「あ・・・・・・あ・・・・・・」
「さて、ミス・ヴァリエール・・・・・・さっき彼は、僕等が何だって言ってたかな?」
仰向けに地に転がったまま薔薇の造花を咥えたギーシュが、ワルキューレへと杖を向けるルイズに問い掛けた。
遍在に囲まれ血を吐きつつも、その顔は何時も通りの気障な表情を浮かべている。
そして対するルイズの声もまた、何時も通りの気丈さに満ちたものだった。
「さあ・・・・・・忘れちゃったわ。でも別にいいんじゃない? 何せ・・・・・・」
「ああ、そう言えばそうだね。何せ・・・・・・」
前屈みになったワルキューレの首が落ち、中から無数の石礫が零れ落ちる。
自身の頭に当たるそれらの硬く冷たい感触に、首の無い戦乙女に抱きしめられた彼は絶望の表情を浮かべた。
『まともに喋る事も出来なくなるんだからねッ!』
そして『錬金』の呪文と共に、彼は石礫の暴風に呑み込まれた。
「・・・・・・はぁ」
「ぐっ・・・・・・ふぅ」
呻き声と共に2人が身を起こし、互いの姿を見て笑みを浮かべた、その瞬間。
ヴェストリの広場に、耳を劈く様な歓声が上がった。
「ルイズッ! ルイズ、ルイズ、ルイズルイズルイズッ!」
「なっ、ちょ、キュルケッ・・・・・・ふみゃうっ!」
「嗚呼、ルイズ! やった、勝った、勝ったのよトライアングル2人に! 凄いわ!」
「むーっ、むーっ!」
「・・・・・・お美事」
駆け寄ってきたキュルケに熱烈な抱擁を受け、呼吸困難に陥るルイズ。
キュルケはルイズの額から滲む血が己の服を汚すのにも構わず、彼女を抱きしめたままくるくると回転する。
タバサはそんな2人を何処か羨ましそうに眺めつつ、心からの賛辞をルイズとギーシュに送った。
一方でギーシュは・・・・・・
「やあ、モンモランシー」
「・・・・・・」
「あ、あはは、見ていてくれたかい、僕の戦いを? いやあ、如何にトライアングルとはいえ、僕のワルキューレの前には・・・・・・」
「ギーシュ」
「はい」
ギーシュ、直立不動。
初めて王の前に立った新米騎士の様に、冷や汗を流しながら俯いたままのモンモランシーの言葉を待つ。
しかし続く言葉は予想していたような怒声ではなく、か細く震える涙声だった。
「こんな・・・・・・こんな無茶して・・・・・・」
「・・・・・・」
「死んじゃうかと・・・・・・思ったじゃないっ・・・・・・」
「モンモランシー・・・・・・」
「もう・・・・・・こんな無茶・・・・・・しないでよっ・・・・・・」
しゃくり上げるモンモランシーの肩に、ギーシュはそっと手を置く。
そして泣き顔を上げたモンモランシーの耳元に口を近づけ、何事かを呟いた。
するとモンモランシーの顔が一瞬にして赤く染まり、次いでギーシュの頭を可愛らしく叩き始める。
ギーシュは笑いながらそれを宥めていたが、それらの声は周囲の止む事の無い歓声に掻き消されて誰の耳に入る事も無かった。
そして数分後、ルイズとギーシュは周囲の友人達に見守られながら、互いの健闘に賞賛の言葉を送り合っていた。
「まさかあそこまで上手くいくとはね・・・・・・アンタのワルキューレ、なかなかのものじゃない」
「ふっ、何を今更。しかしあんな作戦、よく思い付いたものだね」
「アンタがワルキューレの特徴を事細かに教えてくれたからよ・・・・・・その、感謝するわ」
そっぽを向いて言われたその言葉に、ギーシュは苦笑しながら手を差し出す。
それを眼にしたルイズも、一瞬戸惑いを見せたもののすぐに手を差し出し、2人は握手を交わした。
周囲からは再び割れんばかりの歓声が上がり、2人の顔にもまた笑みが浮かぶ。
そしてそんな2人にキュルケ、そしてモンモランシーが駆け寄ろうとして―――――
「エア・カッター!」
無数の風の刃が、2人を襲った。
「えっ!?」
「きゃあっ!」
咄嗟に腕で顔を庇う、キュルケとモンモランシー。
刃の暴風が通り過ぎ、腕を下ろして見た先に、ルイズとギーシュの姿があった。
「ルイズ・・・・・・」
「ギーシュ、良かっ・・・・・・」
無事らしき2人の姿に安心したのも束の間、周囲の生徒達は凍り付いた。
ルイズ、そしてギーシュの全身から、夥しい量の血が噴き出したのだから。
「ルイズ!」
「ギーシュ、ルイズ!」
動きを止めたのは一瞬の事。
すぐさまモンモランシーが駆け寄り、2人に治療を施そうとする。
しかし次の瞬間、その華奢な体が『エア・ハンマー』の暴風に吹き飛ばされ、床へと強かに打ち付けられた。
「モンモランシー!? くっ!」
キュルケ、タバサ。
そして複数の生徒達が杖を構えた先に、その2人は立っていた。
服は至る所が破け、全身から血を流してはいるものの、憎悪と殺意に濁ったその双眸は爛々と輝いている。
「アンタ達・・・・・・」
「出来損ない風情が・・・・・・調子に乗りやがってぇ!」
「殺してやる! 豚の相手など生温い! 切り刻んで鼠の餌にしてやる!」
怨嗟の叫びと共に、再び遍在がその姿を現す。
どうやら既に詠唱は済んでいたらしい。
そして2人のその言葉によって、キュルケの瞳に灼熱の憎悪と憤怒が燃え上がる。
「いいわ・・・・・・アンタ達はこの決闘を汚した・・・・・・此処から五体満足で帰れると思わない事ね・・・・・・!」
その背後ではタバサがその眼に絶対零度の怒りを浮かべ、無言で杖を構える。
意識の無いルイズとギーシュ、モンモランシーの周囲には級友達が集まり、何としても3人を守ろうと同じく杖を構えていた。
そして、ルイズ達を級友諸共切り刻もうと、7体の敵が詠唱に入った、その瞬間。
ヴェストリの広場上空を、轟音と共に巨大な影が飛び去った。
広場に詰めた全員が空を見上げ、絶句する。
其処には金属の巨体から放たれた無数の火球が白い尾を引き、空中を白一色に覆い尽くしていた。
視線の遥か先には濃灰色の鉄塊が移り込み、既に点ほどの大きさになっているというその事実が、鉄塊の誇る異常なまでの速度と上昇力を示している。
しかし、ヴェストリの広場に居る者達が眼を奪われたのは、そんな事ではなく。
鉄塊の尾の下で、ゆっくりと閉じてゆく空洞から飛び出した何かが。
日の光を受けて鈍く輝く何かが。
生物の様で、決してそうではないと解る何かが。
白煙の層を突き破って広場へと落下してきたという事実だった。
そしてトリステイン魔法学院に、異形の咆哮が響き渡る。
これこそが、後に永く語り継がれる事となる『虚無の鋼鉄の使い魔』こと『動く兵器庫』、そしてその僕『鋼鉄の蠍』こと『地中の暗殺者』により引き起こされる数々の惨劇、その第一幕の始まりであった。
[[ディセプティコン・ゼロ]]
[[back>ディセプティコン・ゼロ-2]] / [[next>ディセプティコン・ゼロ-4]]
学院長室に、ミスタ・コルベールの興奮した声が響く。
室外に佇むミス・ロングビルは耳を澄ませてみるものの、内で発せられるその声が洩れ聞こえる事は無かった。
「つまりオールド・オスマン! あれはマジックアイテムなどではなく、紛う事無き『銃』だったのですよ!」
「ふぅむ・・・・・・」
沸き立つ感情もそのままに叫ぶコルベールに、オールド・オスマンは得心がいったという様に頷く。
その様子にコルベールは、訝しげに目の前の老人を見た。
「・・・・・・驚かないのですね?」
「予想はしておったよ。あの引き金を見れば、誰だって銃を思い浮かべるわい・・・・・・尤もすぐに考え直すじゃろうがの」
苦笑しつつ答えるオスマンに、コルベールもまた曖昧な笑みを浮かべる。
このハルケギニアの人間が『あれ』を見たとして、銃だと断言出来る者が果たしてどれだけ居る事だろう。
「とにかく、ミスタ・コルベール。『火竜の息吹』の取り扱い方は極秘という事にしておいてくれ」
「勿論です。分析結果を示した書類は、同じチェストに入れておきます」
「頼むぞ。ところで、『破壊の槍』の方の分析はどうなっとるかの?」
その質問にコルベールは、打って変わって意気消沈した表情を浮かべる。
「殆ど進んでいません・・・・・・引き金を引こうにも、何らかの安全装置が掛かっているらしく・・・・・・」
「そうか」
口惜しげに語るコルベールとは対照的に、オスマンは何処かほっとした様に呟いた。
そしてコルベールを慰める様に、奇妙な言葉を発する。
「だが寧ろ、引き金を引かずに済んだ事は幸運かもしれんぞ、ミスタ・コルベール。もし君の研究室であれが放たれれば、今頃・・・・・・」
「失礼します」
オスマンの言葉を遮って入室してきたのは、室外で待機していたミス・ロングビル、そして汗だくで荒い息を吐くミセス・シュヴルーズだった。
その尋常ならざる様子に、室内の2人も一瞬で表情を引き締める。
「何事かね」
「ヴェストリの広場で・・・・・・生徒が・・・・・・決闘を・・・・・・」
意気も絶え絶えにシュヴルーズが吐き出した言葉に、オスマンは拍子抜けした様な表情を浮かべた。
コルベールも同様で、そんな事かといわんばかりに溜息を吐いている。
「なんじゃ・・・・・・暇人どもの馬鹿騒ぎか。放っておきなさい、その内飽きるじゃろ」
「グラモン・・・・・・ミス・ヴァリエールが・・・・・・」
呆れを隠そうともせずシュヴルーズを宥めようと言葉を発したオスマンだったが、当のシュヴルーズはそれが耳に入らないかの様に何かを呟いている。
それに気付いたロングビルが、もっと良く聴き取ろうと耳を近付けたその時、シュヴルーズが必死の形相で叫んだ。
「殺されます・・・・・・ミスタ・グラモンと、ミス・ヴァリエールが・・・・・・殺されてしまう!」
学院全体を揺らす地響きが轟いたのは、それと同時だった。
時は僅かに遡り、ヴェストリの広場。
キュルケとタバサが其処へと辿り着いた時、既にルイズとギーシュは広場の中央で敵と向かい合っていた。
遅かったか、と歯噛みするキュルケを余所に、2人は杖を構える。
そして敵は余裕を滲ませた笑みを浮かべ、風の系統が誇る悪夢の呪文を唱えた。
『ユビキタス・デル・ウィンデ・・・・・・』
瞬間、2つの人影が7つに分裂する。
一方の遍在は2体、さらに一方は3体。
本体も含め、計7体。
それが2人が相対する敵の数だった。
「あはは・・・・・・声も出ないか? 僕等に歯向かう事がどれだけ愚かな事か、今更解ったってところか」
「風は遍在する・・・・・・風の吹く所、何処と『ワルキューレッ!』なぁッ!?」
見下す様な眼で2人を貶める敵。
しかしその御高説は、広場を覆いつくさんばかりの薔薇の花弁と共に現れた青銅の戦乙女達の突撃によって遮られた。
各々の得物を手に、果敢に敵へと襲い掛かる5体のワルキューレ。
その突進力に面食らった敵は態勢を崩すも、次の瞬間には1体のワルキューレが首を飛ばされる。
『エア・カッター』だ。
「チッ!」
「ファイアーボールッ!」
舌打ちするギーシュの横でルイズが『ファイアーボール』を唱えるも、失敗魔法の爆発は狙いが安定せず、命中したものは1発も無い。
周囲の生徒達から巻き起こる笑い。
しかしそれに狙われた当人は、その威力に内心肝を冷やしていた。
(何だ!? あれが・・・・・・失敗魔法だって? 冗談じゃない! あんなもの喰らったら、火傷どころじゃ・・・・・・!)
背筋を走った冷たい感覚に、彼はぶるりと震えた。
曲りなりにもトライアングルメイジ、瞬時に思考を切り替え、全力で敵を叩き潰すべく次の呪文を唱える。
「エア・ハンマー!」
その声と共に杖から暴力的なまでの突風が放たれ、それは未だに『ファイアーボール』を唱えていたルイズに直撃する。
「きゃっ!」
「ミス・ヴァリエ・・・・・・ぐぅッ!」
「お前もだッ!」
吹き飛ばされるルイズに気を取られたギーシュが、遍在を含めたもう一方の敵3体からの『エア・ハンマー』で壁に叩き付けられる。
地面へとずり落ちたギーシュは何処か内臓を傷めたのか、その口から咳と共に僅かな血を漏らした。
その姿に、ギャラリーの所々から微かな悲鳴が上がる。
「う・・・・・・ぐっ・・・・・・」
「どうした? 大口叩いた割には大した事が無いな。所詮ドットはこの程度か」
「な・・・・・・貴様・・・・・・僕の事を知って・・・・・・」
敵の言葉に含まれた『ドット』という単語に反応したギーシュ。
相手はどちらかといえば端整に見えるその顔に厭らしい笑みを浮かべ、勝ち誇った様に語りだした。
既に5体のワルキューレ全てが撃破されており、ルイズは気絶、ギーシュは負傷によって動けず、大方の勝敗は決した様に見える。
「知っているさ、グラモン家の末息子。兄弟に比べて随分と劣った出来らしいな」
「っ!」
「見栄を張るしかないグラモンの家には、女を誑かすしか能の無い失敗作がお似合いだよ」
その言葉と同時、ギャラリーの一角が俄かに騒がしくなる。
見れば、食堂を出て部屋へと戻った筈のモンモランシーが、級友達に抑えつけられているではないか。
どうやら決闘の話を聞き付けて、居ても立ってもいられずに此処へと駆け付けてきたらしい。
そしてギーシュへの暴言に耐えられずに思わず飛び出そうとした所を、彼女が巻き込まれるのを防ごうとした級友達に抑えられているという訳である。
しかしその彼女の目の前で、ギーシュとルイズへの暴言は更に続く。
「おまけにヴァリエールの出来損ないとデキているとあってはな。まぁ、失敗作と出来損ない、お似合いではあるか」
楽しそうに声を張り上げる2人の脳裏には、ヴァリエール家とグラモン家の力など欠片も浮かんではいなかった。
実際に陰謀渦巻く王宮などに出れば、そんな命知らずな真似は決して出来ないだろう。
しかし彼等は未だ学生の身。
散々に自らの家名を盾にしてきたにも関わらず、魔法の才能で劣ると判断したルイズとギーシュに対し、自らと比べ遥か格下の相手であるかの様に振舞う。
結局のところ、彼等は井の中の蛙だった。
「どうした? 少しは反論したらどうか・・・・・・ねッ!」
「がっ!」
遍在の1体が、ギーシュの腹に蹴りを入れる。
少し離れた所では、相方の遍在がルイズを『レビテーション』で浮かし、壁へと叩き付けていた。
どうやら本気で動けなくなるまで痛め付けるつもりらしい。
「ほらほらほらほらほらほらァ! 何とか言ったらどうだい、えぇ?」
「う、うああっ、ぐ、ぇえッ」
「・・・・・・なんだ、こっちはもう気絶してるぞ」
眼前で繰り広げられる余りの非道に、其処彼処から悲鳴が上がる。
血反吐を吐くギーシュを仰向けにし、その腹を繰り返し踏み付ける3体の遍在。
本体は少し離れた場所から、薄笑いを浮かべながらその様子を見守っている。
一方でその相方は気絶したらしきルイズを広場の中央へと放り出し、呼び出した己の使い魔を差し出した腕にとまらせて下卑た笑みを浮かべた。
「トーレスの仇を討たなければな・・・・・・なぁ、イルミー?」
主の呼びかけに応える様に、その腕にとまったオオワシが羽を広げつつ甲高く鳴き声を上げる。
そして主はその腕を掲げ、隠し切れない愉悦の表情を滲ませた。
「まぁ・・・・・・片目くらい無くても、楽しむ事は出来るだろう」
差し出した腕をルイズへと向け、余りにも非情な命令を使い魔に下す。
「抉り出せ、イルミー!」
その命令にイルミーは、一際高い鳴き声を上げて羽を打ち下ろし、意識の無いルイズへと向かうべく主の腕を離れた。
堪らずキュルケが、それに呼応してタバサが杖を構えた、その瞬間。
青銅の豪腕が、哀れな使い魔の体を握り潰していた。
「・・・・・・イルミー?」
目の前で起きた事を受け入れられず、呆然と呟く主。
そして我に返った瞬間、己の使い魔を握り潰した腕が自分の背後から伸びている事に気付いた。
若干離れた場所で、思わず踏み付ける脚の動きを中断していた3体の遍在の足元から、息も絶え絶えながら可笑しくて仕様が無いといった声が洩れる。
「本当は・・・・・・ヴェルダンデが見分けるのを待って・・・・・・仕掛けるつもりだったんだけど・・・・・・ね・・・・・・」
「な・・・・・・に?」
背後から抱きしめられる様にして押さえ付けられた彼は、ぼろぼろのギーシュから放たれる言葉に凍り付いた。
見れば自分の足元には小さな穴が開き、その中に小さな光る目らしき物が動いているのが見て取れるではないか。
「どれが本物か判らないから・・・・・・1つだけ異なるニオイを・・・・・・探させたんだ」
「お、お前・・・・・・」
「でもまさか・・・・・・『自分から』名乗り出てくれるなんてね」
その言葉に今度こそ遍在も含め、7つの人影が凍り付く。
ギーシュの言う通り、彼等はよりにもよって自らの行動で、どれが本体かを敵に教えてしまったのだ。
片や、1人安全な場所から遍在の行う暴行を眺めていた。
片や、呼び出した使い魔を自身の腕にとめた。
既に勝負は決したとの思い込みから来た、致命的な失策。
ギーシュは激しい暴行を受けながらも、決してそれを見落とさなかった。
最初のワルキューレを錬金した際に、演出を装って広場中にばら撒いた薔薇の花弁。
その中で敵本体に最も近い1枚から、ワルキューレを錬金したのだ。
「そして・・・・・・これが僕等の切り札だ」
「エア・カッター!」
ギーシュの言葉が終わるか否かというところで、ワルキューレの胴体が斜めに切り飛ばされる。
抱え込まれた人間が巻き込まれぬよう、絶妙な角度で射ち込まれた一撃。
それは遍在の1体が放ったものだった。
同時に勝ち誇った様な、嘲りの声が上がる。
「切り札だって? それはこの青銅のゴミ・・・・・・!」
「そう・・・・・・そうすると思ったよ」
『勝利への確信』に満ちた声は、ギーシュの『確実な勝利への確信』に満ちた声によって遮られる。
ワルキューレを切り飛ばした当の本人は、その内部から零れ落ちた無数の『石』を見て呆けた顔を晒していた。
「僕のワルキューレは・・・・・・中が空洞でね・・・・・・」
その無防備な相手に対しギーシュは、一片の慈悲も無く止めの声を発する。
「ヴェルダンデが集めたんだ・・・・・・それだけの石礫の中で・・・・・・『爆発』が起こったら・・・・・・どうなるだろうね・・・・・・!」
「やめっ・・・・・・」
「ミス・ヴァリエールッ!」
その瞬間、気絶したと思われていたルイズが跳ね起き、杖を構えて呪文を唱えた。
「錬金ッ!」
瞬間、石礫の1つが爆発を起こし、その爆風によって飛び散った周囲の石礫が敵本体を激しく打ち据えた。
防御する暇などある筈も無く、無数の破片を受けた彼は数メイルも吹き飛ばされて地面に転がる。
同時に、2体の遍在もその姿を消した。
「なっ!?」
「ヴェルダンデ!」
そして間を置かず、もう一方の本体の足が吸い込まれる様に地に沈む。
ウェルダンデが掘った落とし穴だ。
そしてこちらの背後にも、青銅の死神がその姿を現す。
「あ・・・・・・あ・・・・・・」
「さて、ミス・ヴァリエール・・・・・・さっき彼は、僕等が何だって言ってたかな?」
仰向けに地に転がったまま薔薇の造花を咥えたギーシュが、ワルキューレへと杖を向けるルイズに問い掛けた。
遍在に囲まれ血を吐きつつも、その顔は何時も通りの気障な表情を浮かべている。
そして対するルイズの声もまた、何時も通りの気丈さに満ちたものだった。
「さあ・・・・・・忘れちゃったわ。でも別にいいんじゃない? 何せ・・・・・・」
「ああ、そう言えばそうだね。何せ・・・・・・」
前屈みになったワルキューレの首が落ち、中から無数の石礫が零れ落ちる。
自身の頭に当たるそれらの硬く冷たい感触に、首の無い戦乙女に抱きしめられた彼は絶望の表情を浮かべた。
『まともに喋る事も出来なくなるんだからねッ!』
そして『錬金』の呪文と共に、彼は石礫の暴風に呑み込まれた。
「・・・・・・はぁ」
「ぐっ・・・・・・ふぅ」
呻き声と共に2人が身を起こし、互いの姿を見て笑みを浮かべた、その瞬間。
ヴェストリの広場に、耳を劈く様な歓声が上がった。
「ルイズッ! ルイズ、ルイズ、ルイズルイズルイズッ!」
「なっ、ちょ、キュルケッ・・・・・・ふみゃうっ!」
「嗚呼、ルイズ! やった、勝った、勝ったのよトライアングル2人に! 凄いわ!」
「むーっ、むーっ!」
「・・・・・・お美事」
駆け寄ってきたキュルケに熱烈な抱擁を受け、呼吸困難に陥るルイズ。
キュルケはルイズの額から滲む血が己の服を汚すのにも構わず、彼女を抱きしめたままくるくると回転する。
タバサはそんな2人を何処か羨ましそうに眺めつつ、心からの賛辞をルイズとギーシュに送った。
一方でギーシュは・・・・・・
「やあ、モンモランシー」
「・・・・・・」
「あ、あはは、見ていてくれたかい、僕の戦いを? いやあ、如何にトライアングルとはいえ、僕のワルキューレの前には・・・・・・」
「ギーシュ」
「はい」
ギーシュ、直立不動。
初めて王の前に立った新米騎士の様に、冷や汗を流しながら俯いたままのモンモランシーの言葉を待つ。
しかし続く言葉は予想していたような怒声ではなく、か細く震える涙声だった。
「こんな・・・・・・こんな無茶して・・・・・・」
「・・・・・・」
「死んじゃうかと・・・・・・思ったじゃないっ・・・・・・」
「モンモランシー・・・・・・」
「もう・・・・・・こんな無茶・・・・・・しないでよっ・・・・・・」
しゃくり上げるモンモランシーの肩に、ギーシュはそっと手を置く。
そして泣き顔を上げたモンモランシーの耳元に口を近づけ、何事かを呟いた。
するとモンモランシーの顔が一瞬にして赤く染まり、次いでギーシュの頭を可愛らしく叩き始める。
ギーシュは笑いながらそれを宥めていたが、それらの声は周囲の止む事の無い歓声に掻き消されて誰の耳に入る事も無かった。
そして数分後、ルイズとギーシュは周囲の友人達に見守られながら、互いの健闘に賞賛の言葉を送り合っていた。
「まさかあそこまで上手くいくとはね・・・・・・アンタのワルキューレ、なかなかのものじゃない」
「ふっ、何を今更。しかしあんな作戦、よく思い付いたものだね」
「アンタがワルキューレの特徴を事細かに教えてくれたからよ・・・・・・その、感謝するわ」
そっぽを向いて言われたその言葉に、ギーシュは苦笑しながら手を差し出す。
それを眼にしたルイズも、一瞬戸惑いを見せたもののすぐに手を差し出し、2人は握手を交わした。
周囲からは再び割れんばかりの歓声が上がり、2人の顔にもまた笑みが浮かぶ。
そしてそんな2人にキュルケ、そしてモンモランシーが駆け寄ろうとして―――――
「エア・カッター!」
無数の風の刃が、2人を襲った。
「えっ!?」
「きゃあっ!」
咄嗟に腕で顔を庇う、キュルケとモンモランシー。
刃の暴風が通り過ぎ、腕を下ろして見た先に、ルイズとギーシュの姿があった。
「ルイズ・・・・・・」
「ギーシュ、良かっ・・・・・・」
無事らしき2人の姿に安心したのも束の間、周囲の生徒達は凍り付いた。
ルイズ、そしてギーシュの全身から、夥しい量の血が噴き出したのだから。
「ルイズ!」
「ギーシュ、ルイズ!」
動きを止めたのは一瞬の事。
すぐさまモンモランシーが駆け寄り、2人に治療を施そうとする。
しかし次の瞬間、その華奢な体が『エア・ハンマー』の暴風に吹き飛ばされ、床へと強かに打ち付けられた。
「モンモランシー!? くっ!」
キュルケ、タバサ。
そして複数の生徒達が杖を構えた先に、その2人は立っていた。
服は至る所が破け、全身から血を流してはいるものの、憎悪と殺意に濁ったその双眸は爛々と輝いている。
「アンタ達・・・・・・」
「出来損ない風情が・・・・・・調子に乗りやがってぇ!」
「殺してやる! 豚の相手など生温い! 切り刻んで鼠の餌にしてやる!」
怨嗟の叫びと共に、再び遍在がその姿を現す。
どうやら既に詠唱は済んでいたらしい。
そして2人のその言葉によって、キュルケの瞳に灼熱の憎悪と憤怒が燃え上がる。
「いいわ・・・・・・アンタ達はこの決闘を汚した・・・・・・此処から五体満足で帰れると思わない事ね・・・・・・!」
その背後ではタバサがその眼に絶対零度の怒りを浮かべ、無言で杖を構える。
意識の無いルイズとギーシュ、モンモランシーの周囲には級友達が集まり、何としても3人を守ろうと同じく杖を構えていた。
そして、ルイズ達を級友諸共切り刻もうと、7体の敵が詠唱に入った、その瞬間。
ヴェストリの広場上空を、轟音と共に巨大な影が飛び去った。
広場に詰めた全員が空を見上げ、絶句する。
其処には金属の巨体から放たれた無数の火球が白い尾を引き、空中を白一色に覆い尽くしていた。
視線の遥か先には濃灰色の鉄塊が移り込み、既に点ほどの大きさになっているというその事実が、鉄塊の誇る異常なまでの速度と上昇力を示している。
しかし、ヴェストリの広場に居る者達が眼を奪われたのは、そんな事ではなく。
鉄塊の尾の下で、ゆっくりと閉じてゆく空洞から飛び出した何かが。
日の光を受けて鈍く輝く何かが。
生物の様で、決してそうではないと解る何かが。
白煙の層を突き破って広場へと落下してきたという事実だった。
そしてトリステイン魔法学院に、異形の咆哮が響き渡る。
これこそが、後に永く語り継がれる事となる『虚無の鋼鉄の使い魔』こと『動く兵器庫』、そしてその僕『鋼鉄の蠍』こと『地中の暗殺者』により引き起こされる数々の惨劇、その第一幕の始まりであった。
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