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究極の闇◆40jGqg6Boc


太陽は沈み、暗闇が降り注ぐ地上に足音が響いている。
足音は一つではなく複数で人影の数は二つ。
一歩一歩ゆっくりと進んでいく歩みからは警戒の色が見える。
一人が先導し、もう一人が後をついていく形で彼らは歩いている。
彼らは他の参加者に出会うために移動していた。

「大丈夫、すずかちゃん。疲れたりしてない?」

黒の学生ズボン、赤のTシャツに橙のマフラーを巻いた青年が振り向き、声を掛ける。
青年の名は武藤カズキ。私立銀成学園高校に通う男子高校生だ。

「はい、大丈夫です……」

白い制服に身を包み、流れるような黒髪を揺らす少女が応える。
少女の名は月村すずか。
すずかは殺し合いが始まった直ぐにカズキと出会った。
暗闇に一人放りだされ、寂しさに震えていたすずかが年上のカズキと行動を共にするのはそこまで可笑しい話でもない。

(直ぐに会えたのが武藤さんでよかった……)

何故ならカズキを見て先ず悪い人ではないとすずかは考えた。
真っ先に自分に声をかけ、色々と話をしてくれたのも心配してくれたためだろう。
カズキには見ず知らずのすずかの面倒を見る理由なんてない。
それでも頼みもしないのにカズキから同行を言いだしたのには正直びっくりした。
放ってはおけない。カズキのその言葉に凄く安心し、信じてみようと思った。
だが、全てが順調にいっているわけではなかった。

「なんだか元気ないけど、本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫です! 大丈夫ですけどやっぱりちょっと……」

すずかの脳裏には今もあの光景がこびりついている。
先程見せられた、趣味の悪い映画のように酷い内容。
名前も知らない他人とはいえ、何人もの人間が一瞬の内に死んだのは小学生であるすずかにはあまりにも厳しかった。
自分もあんな風になってしまうのではと思うとどうにかなってしまいそうだった。

「ッ……そうだよね。ごめん、俺、何も出来なかった」
「あ、いえ、武藤さんのせいじゃ」

カズキの方もすすかが考えていることがわかったのだろう。
謝罪の言葉を口にするカズキはとても悲しそうな顔を浮かべている。
もちろん、カズキが悪いわけではなくすずかもカズキに謝られるとは思っていなかった。


「それでもごめん……!」


しかし、カズキは頑なにまるで自分の責任であるかのように振る舞う。
今にも泣き出しそうなカズキの顔は彼の優しさを現しているようだった。
名前も知らない人間の死にも悲しむことが出来るカズキ。
すずかはそんなカズキを嫌いだとは思えなかった。



(……アリサちゃんとなのはちゃんはどうしてるかな……)

暫く歩いている内に、不意に二人の友人をすずかは考え始める。
アリサ・バニングスに高町なのは、共にすずかの友達だ。
二人が誰かに襲われる可能性だって充分にある。
それも命の危険が、たとえば先程の映像のように――。
そこまで考えて、すずがは急に血の気が引く思いを味わった。

(そんなこと、あるわけないよね……)

それは最早願望に近かった。
親友の二人が死んでしまうなんて嘘でも考えたくない。
二人の喪失はすずかにとって家族が失われると同じくらいの意味を持つ。
喧嘩もするけども二人は正真正銘の親友達なのだから。

「い、 いた」

そんな時、すずかは何かに顔面をぶつけた。
つい俯きがちに歩いていたため前が見えなかったためだ。
忌々しげに前を見やるとどこか薄汚れた赤色が映った。
感触から布であることがわかり、上の方には橙のマフラーが生えている。
それは予想以上に広い、カズキの背中だとすずかは理解する。

「どうしたんですか、武藤さん――」

だが、すずかの声は最後まで発されることはなかった。
すずかはただ驚き、思わず呆然としてしまう。
目の前に居る人間が一瞬誰かと考えてしまった。
さっきまでの優しい笑顔や泣きだしてしまいそうな悲しい顔。
それらのどれとも違う険しい表情をカズキは浮かべていた。

「下がるんだ、すずかちゃん!」

カズキの右腕がすずかを庇うように伸ばされる。
すずかにはその腕が見かけよりもずっと逞しく見えた。
背中と同じく、カズキが自分とは別の遠い存在に思えてしまうほどに。
そしてカズキの腕の向こう側、彼が睨むその先にはもっと異質なものが見えた。


「やぁ、君達はまだ生きているみたいだね――リント」


◇     ◇     ◇


確かに自分は斗貴子さんと一緒に銀成学園高校に突入していたはずだ。
なのに気がつけば殺し合いに巻き込まれ、自分は映像の中の人達を救えなかった。
許せなかった。あの男ももちろんのことだが、何よりも自分自身が許せない。
もう誰も死なせない。みんなの笑顔を守るために戦うと決めたのに守れなかった。
だからやることは決まっている。
HorやIsiなどの区分けも関係ない。
拾える命は一つでも拾う、偽りのない信念の下に行動するだけだ。
運よく直ぐに出会えたすずかを守り通し、この場に居る全員を救う。
そのためには今は、決断をする時であることは間違いない。
左胸に右腕を強く当てながらカズキは目の前の存在を強く眼に焼きつけていた。

「どうしたの、何か話してもらえないかな」

雪のように白い服が細身を覆っている。
自分よりも年上か、それとも年下か微妙な線だがどこにでも居そうな青年に見える。
言葉遣いも棘がなくどこか温和な印象を抱かせる。
それでも決定的な違和感がカズキにはこびりついていた。

「お前は、どうなんだ……?」

自分らしくもないと思う。
信じるよりも先ず疑ってしまった。
胸騒ぎがしたから。目の前の青年からはどうしようもない恐怖を感じている。
彼と眼を合わせているだけで自分の中の本能が疼きだす。
逃げろ、戦え、倒せ――自らを護るために自然と闘争心が高まっていく。
この時になって額から流れ始めたものが、緊張による汗だとカズキはようやくわかった。

「よくわからないね。もう少し僕にもわかるように言ってよ」

目の前の青年が一歩ずつ近づく。
そんな時、右腕の後ろで何かが震えたような感触をカズキは感じ取った。
見ればすずかがカズキの右腕にしがみついている。
すずかも何かが変だと思ったのだろう。
小さな手で縋るように寄り添うすずかの姿がカズキを奮い立たせる。

「だったら言ってやる。お前は……誰かを傷つけたりするつもりなのか?
もし、そうなら俺がお前を――」
「僕は好きなようにするだけさ」

だが、青年はカズキの言葉を待たずに口を開いていく。
その様子はカズキの決意を嘲笑うかのようにすらも見える。
事実、青年にとってカズキの言葉などなんら意味はない。
ただ青年が興味を持つかどうかで全ては決まってしまう。
そして現時点での青年のカズキへの興味はゼロにも等しかった。




「だって僕を、“究極の闇”を止められる存在なんて居ないじゃない」


青年の言葉が具体的に何を指しているのかはわからない。
ただ、その一言は決定的な確信へと繋がった。
止めなければならない。この男は危険だ、と。
右腕に力を込め、カズキはありったけの声で叫ぶ。


「武装錬金!!」


両目を大きく見開いたすずかを尻目に全ては一瞬で完了した。
錬金術により生成された金属、“核鉄”がカズキの想いに応え力と成る。
同じく錬金術により生み出された化物、“ホムンクルス”を倒すための唯一無二の力の名は武装錬金。
飾り布を垂らし、竜の頭を模したような銀色の槍がカズキの腕に握られる。
突撃槍(ランス)型の武装錬金、サンライトハートを構えカズキは臨戦態勢へ入る。

「武藤さん……これって……」
「ごめん、すずかちゃん。後で説明するから。絶対に説明するから、今は……!」

背中越しにもすずかの震えが大きくなっているのはわかる。
無理もない話だ。いきなり大きな槍を何もない場所から出せる人間は普通じゃない。
普通じゃない世界に飛び込んだカズキにとって武装錬金は大切な力だ。
大事なものを護るために、大事なものを壊す存在に対抗しうる唯一の手段。
しかし、すずかにとっては武装錬金もホムンクルスと同じく暴力の象徴に過ぎないだろう。
それでもカズキにはこの力を振るう生き方しか出来ない。
先ずは青年の接近を止め、彼を無力化しようとする。

「へぇ……リントの戦士だったんだね、君は」

だが、青年はデイバックを投げ捨て少し眉を顰めただけだ。
武装錬金という異能を眼にしても驚きはあまりない。
向けられたサンライトハートの矛先をただ眺めている。
品定めをするような眼つきからは焦りといった感情は見られない。
そこに存在するのは純粋な興味。
新しい玩具が楽しく遊べられるかどうかを無邪気に考える子供のように笑っている。
カズキにとって青年の笑みはこれ以上なく気味の悪いものに見えた。



「ッ! うおおおおおおおおおおおおおお!!」

青年の笑みを振り切り、カズキの身体が打ち出された弾丸のように加速する。
飾り布は風で荒れ狂うように揺れ、サンライトハートの矛先が真っすぐ青年の元へ向かう。
青年は動かない。逆に例の笑みを更に色濃いものにすらもしている。
やがて青年とカズキとの距離が0に近づこうとする瞬間。
カズキの表情が驚愕に染まった。

(サンライトハートが――)

サンライトハートは確かに青年を捉えていた。
ゆっくりと差し出された彼の右腕からサンライトハートの刀身が伸びている。
だが、それだけだった。


(一ミリも、刺さってない……!)


サンライトハートは青年の右手を貫いてはいない。
刃先が石のように動かないのは青年の腕によって押しとどめられているためだ。
今まで数多くのホムンクルスを倒してきた武装錬金、サンライトハート。
その威力は痩身の青年が受け切れるようなものではない。
ましてや刃先を全く喰い込ませないなど到底無理な話だ。
そう、青年が肉体的な話で限って本当に普通ではあるのなら。
真っ白に染まった、強靱な腕がサンライトハートを軽く跳ね返す。


「どうしたの、リント?」

青年の声に変わりはない。
ただ、彼は既に“人間”の姿をしていない。
人間のような別の何かだ。
筋肉の鎧をまとった白色の体躯は元のそれよりも一回りも二回りも大きなものに見える。
全身のところどころには金色の装飾具が纏われ、どこか不気味さを匂わせる。
何よりも眼を引くものはクワガタ虫を模した複眼を備えた、おぞましい顔だ。
言うなれば異形の者に青年は姿を変えている。
彼こそが超古代、戦闘民族として殺戮の限りを尽くしていた“グロンギ”族の長。
現代で言う人間に当て嵌まるリントから畏怖され、そして “究極の闇”を齎す存在 ――。


「もっと僕を笑顔にしてよ」


ン・ダグバ・ゼバがカズキの前にその姿を見せる。


◇     ◇     ◇


目の前の出来事がすずかに信じられなかった。
唐突に武器を手に取ったカズキ、そして何よりも怪物に姿を変えたダグバ。
平凡で平和な日常を送るすずかにとって両方とも異質そのものでしかない。
だからこそすずかの眼にはカズキとダグバの戦いは化物同士の争いに映っていた。
それも酷くおぞましく、思わず眼を背けたくなるような戦いに。

「くっ! このぉ!!」

すずかの困惑をよそにカズキは闘争心を昂ぶらせサンライトハートを振り続ける。
右へ左へ、ダグバに反撃の隙を与えないように斬撃の速度を上げていく。
おそらく今のカズキの頭にはすずかのことはろくに入っていないだろう。
カズキが他人を軽視するような冷たい人間だと言うわけではない。
むしろその性格からカズキは自身よりも他人の命を重視するぐらいだ。
そんなカズキがすずかのことまで考えが回らないのは一体何故か。
その理由は――カズキにはただ余裕がなかった、それだけだった。

(強い。こいつは今までのホムンクルスとは……全然違う……!)

一回目の突撃を止められた時から予感はしていた。
だが、今でははっきりとした確信に変わりカズキは焦りに襲われていた。
先程からサンライトハートで斬り続けているのにろくなダメージを与えられていない。
そのどれもが刃先を少しでも喰い込ませることが出来ていない。
まるで尖った部分がない丸大を受け止めるように、ダグバは易々と斬撃を止め続けていた。
ホムンクルス以上の未知なる存在に対し、カズキは戦いに集中するだけで精一杯だった。

「大変そうだね」

一方、ダグバは楽しそうに言葉をもらす。
カズキを気遣うようなその言葉には善意なんてこれっぽちもない。
重量のあるサンライトハートを振り続けるカズキを見ての無邪気な感想でしかない。
カズキとは対照的にダグバには焦りはなく余裕しかなかった。
ダグバの様子から圧倒的な力の差をカズキはまざまざと認識させられる。
しかし、それだけで戦意を喪失するようであればカズキは錬金の戦士には成れていない。
実戦経験、血を滲むような特訓、そして譲れない想いを糧にカズキが今一歩前へ踏み込む。




「そこだ!!」

サンライトハートの矛先をダグバに突きつける。
渾身の一撃がダグバに迫るが彼は軽く腕を払うだけで刀身を弾き飛ばす。
堪らず後ろへ飛びのくカズキだがその勢いに振り回されることなく踏みとどまる。
カズキとダグバの間に空いた数十メートルの距離。
それはカズキの、サンライトハートの距離にも等しい。
サンライトハートを前方に立つダグバに向け、カズキは自身の力の名を呼ぶ。

「サンライトハート――エネルギー全・開!! 」

カズキの咆哮と共にサンライトハートの飾り布が強く輝く。
段々と輝きを増していく飾り布はカズキの精神に呼応している。
エネルギーはカズキの感情から形成されサンライトハートの出力に直に繋がっていく。
その力の色は山吹色(サンライトイエロー)。
優しさと力強さを兼ね合わせた、カズキの象徴ともいえる力の現れだ。

「いいよ、やってみせてよ。それでどうしてくれるのかな?」

一方、悠然と構えるダグバはやはり動こうとはしない。
ただ山吹色の光を目に焼きつけている。
何も変わらないダグバからカズキは依然としてどこか不気味さを感じている。
それでもカズキは止まらない、止まる理由がない。
目の前に危険な奴が居るなら自分がなんとしてでも止めなければならない。
故にカズキは今一度叫ぶ。

「サンライトスラッシャー!!」

ジュースティングスラッシャー改めサンライトスラッシャー。
飾り布のエネルギーを起爆剤とする突撃は、突きに特化したサンライトハートの特性を存分に発揮する。
飾り布から生まれた爆発的な加速により全身を飛ばし、カズキは再び弾丸となる。
その勢いは強力で、すずかにとっては恐らく動きを捉えきることは不可能だろう。
当然、カズキの身体にも負荷は掛かるが彼にとって自身の身体よりも優先するべきものがある。
護りたいものがあればカズキはどんなことでも我慢出来るのだから。
まるでサンライトハートのように愚直なまでに真っすぐな決意。
たとえ偽善者と言われようとも――カズキの意志が折れることはない。



「貫けぇぇぇぇぇッ!!」


眼前の敵を貫かんと差し出されたサンライトハートに想いを託す。
心臓を核鉄の代用としているカズキにとってサンライトハートは文字通り一心同体だ。
もう一人のカズキであるサンライトハートは力をもってして彼の意思に応える。
サンライトハートの刃がカズキの狙い通りにダグバを捉えた。


「へぇ」


そのダグバが呟く。
短い言葉にはダグバの感情が強く込められている。
ダグバがカズキに対して抱いた感想は単純なものだった。

「残念だね」
「なに!?」

心底失望した様子でダグバは目の前のカズキに問いかける。
答えを必要としない問いはカズキをまるで凍りつかせるように響いた。
カズキは目の前の出来事がまだ信じられないでいる。
全力のサンライトスラッシャーをこれ以上のないタイミングで撃つことが出来た。
だというのにサンライトハートは、ダグバには届いていない。
サンライトハートの刃はダグバに掴まれ、ほんの少しの動きすらも許されていなかった。

「こんなものじゃ――」





そういうや否やダグバは握りしめた腕への力を強める。
サンライトハートの刀身からは砂のような粒子が零れ落ちていく。
ダグバの尋常ではない握力はサンライトハートを確実に砕き始めている。
苦痛に表情を歪めるカズキ。武装錬金のダメージはカズキ自身の傷となるためだ。
一端武装解除を試みようとするカズキは意識を左胸に集中させる。
その時、不意にカズキは自身の身体が軽くなったように思えた。


「僕と同じにはなれないね」


ダグバの声と同時にカズキは強烈な衝撃を右頬に感じた。
ダグバは右の拳を軽く振りかぶり、ただ殴っただけだった。
それでも右顔面を根こそぎ持っていかれるような痛みがカズキに走る。
叫ぶ事すらもままならず、カズキの身体はいとも容易く後方に吹き飛ぶ。
戦士長、キャプテンブラボーの指導の下、錬金の戦士としての過酷な特訓をカズキはずっと続けてきた。
一般の男子高校生よりもずっと強固な肉体を培ってきたつもりだった。
だが、ダグバにとってカズキの特訓は何も意味を持たない。
いくら鍛えようが、錬金の力を得ようがカズキは根本的に人間であることに違いない。
それだけでは、とっくに人間という存在を超えたダグバには何もかもが通用しない。
たったそれだけの話だった。


◇     ◇     ◇




「む、武藤さん! しっかり……しっかりしてください!!」


すずかがようやく声を出せたのはカズキが仰向けに倒れた後だった。
走り出して必死にカズキの身体を揺すりだす。
すずかにとってカズキは知り合ったばかりの人間だ。
それでもカズキは一人でどうしようもなかったすずかに声を掛けてくれた。
そんなカズキを放っておくことは出来なかった。

「無駄だよ。それはもう立てないさ」

段々と近づく声にすずかは思わず尻もちをつく。
未だに怪人態を解いていないダグバの姿は近づけば近づくほど恐ろしいものに見えた。
表情は仮面に隠されているがその声の調子からダグバはきっと笑っているのだろう。
何も抵抗出来ずに、怯えるしかないすずかの様子がダグバには堪らない。
強大な力で他者を蹂躙することこそがダグバの生き方であり、彼が何よりも愛する事なのだから。

「い、いやぁ……」
「逃げないでよ。これ以上、僕を楽しくさせないでよ」

すずかはダグバから逃げようとするが上手く足を動かせない。
すっかり腰が抜けてしまったすずかが逃げられるわけもなく、ダグバとの距離は確実に縮まっていく。
対照的に、ゆっくりとすずかを追い詰めるダグバはやはり余裕そのものだ。
むしろどうにか逃げようとするすずかを見て嬉しがっている様子もあった。
抵抗がないのもつまらない。どうせなら足掻いて苦しむ獲物の方が殺し甲斐もある。
やがてダグバは右腕をすずかの方へ伸ばす。


「……ごめん、すずかちゃん。遅くなっちゃった」
「武藤さん!!」

そんな時、カズキが立ちあがり、すずかとダグバの間に割って入った。
右顔面は酷く腫れあがり、口元からは血も流れている。
それでもサンライトハートを支えにしてしっかりと両足で地を踏みしめている。
地面と擦れ、傷だらけになったカズキの背中はすずかにはとても大きなものに見えた。



「少し驚いたよ。もう起き上がれるんだね」
「ああ……かなり効いたけどな。正直、立ってるだけでも辛い」
「だったら、どうしてまだ僕に立ち向かうのかな?」

吐息は荒く、カズキの今の状態は彼が言ったように良くはない。
だが、カズキには立ちあがる理由がある。
ダグバにはわからない、カズキが信じる信念が彼自身に力を与えてくれる。


「お前はきっと誰かを傷つける。
だから……俺はお前を止めるためになら絶対に負けられない!
俺の武装錬金は、俺の命はそのためにあるんだ!!」


ホムンクルスに心臓を貫かれたことに始まり、カズキは様々な痛みを経験してきた。
そのどれもがどうしようもなく痛く、カズキに一つの決意をさせた。
もう誰にも痛い想いをして欲しくない、悲しい想いはさせたくない。
変わらない想いは日々成長する力となり今のカズキを造った。
ボロボロになろうともカズキはダグバに対し一歩も引くつもりはない。
津村斗貴子によって蘇ったカズキの命は、誰かを護るために今も動いている。
たとえそれが錬金術による仮初の命といえど、熱い脈動は変わらない。
溢れ出る感情は闘争心と成り、瞳を曇らせることなくカズキはダグバと対峙する。


「ふふ、面白いね。弱いのに君は、少し面白い」


カズキのその視線を受け、ダグバは何か得心がいったような様子を見せた。
小刻みに全身を震わせるダグバはまるで笑いを押し殺しているようだ。

「なら君はそこの小さなリントも僕から護らないといけないよね?」
「当たり前だ。俺は、お前に誰にも傷つけさせない! 俺の総てを賭けてでもお前を止めてやる!!」

サンライトハートを引き抜き、ダグバに突きつけるカズキ。
しかし、ダグバがサンライトハートの刃を意に介さない。
確かめるように発されたダグバの言葉にカズキは肯定の意を示す。
カズキにとってダグバの問いは考えるまでもない。
すずかを護ることがこの場でのカズキの最優先事項だ。
少し後ろに引き、すずかを出来るだけダグバから遠のける。
一方、ダグバは腰を落とし手を伸ばした。



「良い言葉だね。感動を覚えるよ。だけど――」


自らのデイバックを取り出し、ダグバは何かを取り出す。
カズキとすずかにはそれが一瞬なんなのかわからなかった。
ダグバが極自然に手に取ったものは嫌に長細く、肌色と白が混じりあったような色だった。
そう、例えるなら日焼けをしていない人間の女性の――。
逸早く何であるかに気付いたカズキは咄嗟にすずかの眼を隠す。


「君のその言葉は無意味だね。だって、もう僕はこのリントを殺したんだから。
内田かよ子だったかな……まあ、もう意味のない名前だけどね」


成人女性のものらしき片腕をダグバはカズキに見せつける。
楽しそうな様子から自慢の玩具を自慢するような子供の無邪気さが感じられる。
また、片腕の切断面は荒々しいもので刃物による切断とは考えにくい。
それは力任せに引き抜いたものであることが誰の眼にも明らかだった。
その片腕を足元に落とし、ダグバは己の足で踏みつける。
肉をすり潰したような音と液体が跳ねる音が混ざり合い、やがてダグバの笑い声に変わっていった。

「ッ!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

サンライトハートを手元に寄せ、カズキは力強く吠える。
右腕の主の名前は絶対に忘れられない。
後悔とどうしようもない怒りをサンライトハートに叩きこむ。
闘争心で昂ぶる心がもう一度力を穿てと叫び、カズキはその声に従う。
そう、確かに従ったはずだった。


「うるさいな」
「なっ……!」


カズキの動きが急に止まる。
サンライトハートを受け止められたわけではない。
ただ、ダグバはカズキを一睨みしただけだ。
カズキの生物としての本能に直に働きかけるその睨みは一瞬にして彼から全てを奪った。
全身に流れていた血の流れが急速に遅くなり、昂ぶらせていた闘争心にも陰りが生じる。
そしてサンライトハートすらもその形を維持できなくなり、強制的に武装解除が行われる。
何百メートルも離れている距離で、超古代の戦士の戦意すらも喪失させたダグバにはこのくらいの芸当は造作もない。



「終わりだね」
「くそ……」

既にカズキに力はない。
武装錬金を再度使おうにも力が入らない。
全身から吹き出る脂汗に塗れた自分の身体を抑えるので精いっぱいだった。
自分の後ろにはすずかが居るというのに。
女の人が自分の知らない場所で殺されてしまったというのに。
死ぬことに対しての恐れよりも何も護れなかった自分への悔しさが何よりも辛い。


「安心してよ。まだ殺すつもりはないさ」
「!?」

だが、ダグバは止めを刺そうとはしない。
デイバックを担ぎ、カズキの横を通りこしていく。
思わず身を縮こませていたすずかにすらも一瞥をくれない。
既に用は済んだと言わんばかりに歩いていく。

「でも、今度会う時には……もっと強くなってね。君もクウガのようになってくれたら嬉しいよ」

カズキにはダグバの表情が窺えない。
ダグバは背を向けていることもあり、彼には異形の仮面が張り付いている。
それでもダグバが愉しんでいることはカズキには明らかだった。


「だからもっと強くなって、もっと僕を笑顔にしてよ。もし君が弱いままだったら――」


今まで戦ってきたホムンクルスとも、あの蝶野攻爵とも根本的に違う。
絶対に判り合えない存在なんてカズキは居ないと思っていた。
しかし、その認識は脆くも崩れていくようだった。
正真正銘の化物は、確かに今この場に居るのだとカズキは確信する。
そしてなんとかカズキは強引に身体を捻らせようとする。
だが、身体はカズキの思うようには動かない。


「その時は殺すよ。その小さなリントからね」


結局、カズキはその場に倒れ伏せるしかなかった


◇     ◇     ◇



赤く燃え盛る炎を感慨深く眺める怪人が居た。
ン・ダグバ・ゼバ、超古代の戦闘民族グロンギの王にして最強の戦士。
カズキとすずかから別れた後、彼は未だに怪人態のままで観察を行っていた。
激しい勢いで燃え盛る炎が燃やしているのは一本の木だ。
やがて完全に燃え尽きたのを見届けてからダグバは再び人間の姿に戻った。

「なるほどね」

木が燃えていたのはダグバが持つ彼固有の能力によるものだ。
物体の分子を振動させ、物質の温度を高温にまで引き上げ発火させる。
カズキの戦いで使う事はなかった自然発火能力は未だ健在だ。
しかし、その能力はダグバが予想していたものとは少し劣化していた。
カズキとの戦いでも自身の身体がいつもよりも鈍いことはわかっていた。
理由はわからないが自身の身体の不調をダグバは自覚する。
だが、ダグバにとってそれは些細なことだった。

「だけど僕には関係ない。どうせ殺すだけさ」

霊石、“アマダム”の力により変身を行う戦闘民族グロンギ。
その長であるダグバの力は強大そのものだ。
飛びぬけた身体能力だけでもダグバは大抵の相手を圧倒する。
発火能力をカズキに使えばあまりにもあっけないものだっただろう。
始めに出会った参加者とは違い、もう少しじっくりと殺したいという思いがダグバにはあった。
そう、一人目の獲物となった内田かよ子もまたダグバにとっては少し稀有な存在だった。

怯え惑う姿を見ようと早々に変身したがかよ子にはそれほど驚きはなかった。
初対面の人間に対する警戒心だけで怪人態のダグバを特に畏怖するような様子もない。
どこかダグバのような存在に対し慣れているような素振りすらもあった。
その分ダグバにとっても労せずに殺すことが出来たのだが。

好き勝手にかよ子の遺体を弄んだ後、一部分をデイバックに詰めたのは単なる気まぐれだ。
もし心の弱いリントであるならば見せるだけで我を見失うかもしれない。
心が狂ったリントを圧倒的な力で殺していくのもきっとさぞかし面白いものだろう。
“ファイナルゲーム”を行った際のように片っ端から抵抗する間もなく殺していくのも一つの手だろうが。
しかし、3万以上ものリントをファイナルゲームにより虐殺したダグバにとって約60という数はあまりにも少ない。
だからこそダグバは趣向を凝らし、カズキとすずかを一度だけ見逃した。




「もっと僕を憎んで、強くなってね」


ダグバはカズキに期待していた。
ただのリントであるはずなのに異様にしぶとい生命力。
他人を護るために戦うと、ダグバにとっては理解できないその信念。
何よりもダグバにはカズキがこれ以上も力をつけるだろうと見込んだ。
その感覚は確実に究極の闇を齎す存在へ進んでいるあのクウガと同じだった。
どこか不安定で、一つ狂ってしまえば何もかもが崩れてしまいそうな危うさが期待させる。
自分と同じになるか、それともやはり同じにはなれないのか。
どちらにせよ今殺してしまうよりももう少し楽しめそうなのは確かだった。
だが、いつまでも待っているだけではつまらない。


「楽しみだよ。クウガ、そしてカズキ。本当にね……!」


究極の闇になったはずのクウガ、そしていまだ可能性を秘めたカズキ。
彼らとの再会を期待してダグバは闇の中に身を沈めていく。
目につく人間は殺し、戦いを楽しむ。
あの男が言っていたルールすらもダグバには関係がない。
どうせ自分以外の全ては殺しつくすことに変わりはないのだから。
遊び相手は二人で充分だから、もう――見逃す理由はない。
どんな存在であろうとも。


◇     ◇     ◇




幸運だったのか不幸だったのかすらもわからない。
自分が間違いなくまだ生きていることに対しては純粋に嬉しいとは思う。
だが、名前も知らない怪物に今度は殺すと言われた。
きっともう既に誰かを殺してしまった、恐るべき怪物に。
何も力がないすずかにとっては抵抗する術は一つもない。
一欠けらの希望すらも持てない現実が重くのしかかる。
そして何よりもすずがには辛いことがあった。

「武藤さん……」

あんなにも頼もしく見えたカズキの背中があまりにもか細く見える。
両肩を震わせるカズキはすずかに背を向けて何も言わない。
すずかの方もどう声を掛けていいかわからない。
ただ、カズキの悲しみと怒りは痛いほどに伝わってきた。
きっと、内田かよ子の死を自分の責任だと感じているのだろう。
カズキのその性格は嫌いではないがどこか不安だった。
自分一人でなんでも背負いこみ、いつかは燃え尽きてしまいそうな気がしたから。
それでもすずかにとって頼れる人間はカズキしか居ない。

「ごめん、すずかちゃん……。今度こそ絶対にあいつを倒すから……!」
「はい……」

カズキの言葉が何故だか精いっぱいの強がりにしか聞こえない。
それでもすずかはカズキの言葉に弱弱しく応えるしかなかった




完敗だった。
自分の武装錬金術が全く通じなかった。
恐らく全力のサンライトクラッシャーも通用しないだろう。
今の自分力ではダグバを倒すには限界がある。
すずかには必ず倒すと言ったものの、今のままでは駄目なのは自分がよくわかっている。
仲間が必要だった。錬金の戦士のように護りたいものを同じとする仲間が。
そして何よりも自分自身が変わらないといけない。
もう内田かよ子のような犠牲者を出さないためにも――





“力”が欲しいとカズキは強く願った。



【内田かよ子@天体戦士サンレッド:死亡確認】


【D-3 /北西:深夜】
【武藤カズキ@武装錬金】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:右顔面に大きな痛み
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3(本人未確認)
 [思考・状況]
 基本行動方針:救える命は一つでも拾う
 1:すずかを守る
2:ダグバを倒す
 [備考]
 ※参戦時期は原作五巻、私立銀成学園高校突入直後。

 【月村すずか@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [持物]:基本支給品一式、不明支給品1~3(本人未確認)
 [方針/目的]
  基本方針:アリサとなのはと会う
  1:カズキについていく
  [備考]
 ※参戦時期は未定。


【D-4 /北東の森:深夜】
 【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [持物]:基本支給品一式×2、不明支給品2~6(本人未確認)
 [方針/目的]
  基本方針:好きなように遊ぶ
  1:クウガとカズキにはまた会いたい
 [備考]
 ※参戦時期は九郎ヶ岳山中で五代を待っている最中(EPISODE48)
 ※かよ子を殺害したのはC-3南付近です。C-3の南、ダグバのデイバックにはかよ子の遺体の一部が有る可能性があります



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実験開始 武藤カズキ Hurting Heart
実験開始 月村すずか
実験開始 ン・ダグバ・ゼバ 悪ノ王
実験開始 内田かよ子 死亡








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