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Crazy Wonderland◆3VRdoXFH4I



「ユッキー」

か細い声が、闇へ溶けた。

ここはとある街の一角。
家がある。
道路がある。
市場がある。
顔を上げれば遠くもでもその存在感を示す大きな円盤が地に落ちている。
そこを円形闘技場―――コロッセオだとし、この地図を信じるのだとすれば、ここはその周辺の市街ということになる。
本来それがあるとされるローマのような、古き良き、という表現が実に似合う、やや前時代的ながらも美しさを感じさせる街並みだ。
昼下がりにはさぞ活気に満ち溢れていることだろう。

けれど、ここにはそれがない。

夜、というのもあるだろう。
時刻は深夜0時。仕事か、夜遊びか、人目を憚られる事情がない限りは誰しも眠りについてる刻限だ。
この街には、その姿すら影も形もない。
睡眠中の寝息、家で明日の仕事への作業音、夜の営みに喘ぐ声すら聞こえない。
静寂というよりも、ここは音が死んでいる。
つまり、人の気配というものがこの町には皆無なのだ。

廃墟ならばまだ分かる。
人が造り、人が棄てた街。人がいた証の残骸。
そんな彼岸の土地ならば誰もいないことに疑問はない。
だがこの街は、真新しい家が並び、道路は整備され、市場には新鮮な野菜や果物が取り揃えられている。
明らかに今まで人がいた痕跡は残っているのに、その痕を残した人間が存在しない。
それがこの街の静寂の正体。

つまりこの街は、とてつもなく異常だった。


「ユッキー」

では、その風景を全く意に介さないこの少女は正常なのか、異常なのか。
髪は桃色。腰辺りまで届く長髪を後ろで2つに結わえている。
服装はリボンをしつらえたキャミソールに膝までのジーパンと可愛らしく健康的だ。
中学生としては発育も進んだ体をしており、同年代か、良からぬ欲求を持つ者なら思わず視線をつられてしまう魅力を持つ。

「……ユッキー」

そんな、客観的視点から見ても十分に「美人」のカテゴリーに入れる少女が、
真夜中のゴーストタウンで壊れた機械のように同じ言葉を繰り返すのは、はたして正常の範疇に入るのか。

「すぐに、助けに行くからね」

ようやく、人の名前らしき言葉以外を口にする少女。
その瞳は場に流されるものでも、この状況に怯えるものでもない。
今の自分の状況を冷静に把握し、己の為すことを自覚し、その為に行動する強い意志のもとに輝いている。

暗い夜道も、そこにただ一人という恐怖も、彼女にはない。
なぜなら彼女は孤独ではないから。孤独であったら彼女は死んでしまうから。
彼女の心の中には常に、彼女の想い人が住んでいる。
彼がいる限り彼女は死なず、壊れず、そして強い。
だから決して、彼女は戸惑うことはない。
彼に合うことを。
そのための障害は叩き潰すことを。
邪魔をする相手は殺すことを。








少女、我妻由乃は狂人である。
何が狂っているかといえば……、ユッキーこと、天野雪輝への感情だろう。
何気ない出逢いと他愛もない会話で恋をし、以来1年間彼の行動を観察、記録し続けたことからもその程が窺える。
文字通り狂おしいまでの雪輝への愛情は、雪輝以外へ対しての行動を取らせない。
それは時として、いや常時狂気ともいえる行動を取らせる。
元々持ち合わせた能力の高さと相乗してより過激になっていってしまう。
彼に恋し、彼を愛し、彼を想い、彼を思い、彼を守り、彼を助け、彼を救い、彼を捕らえ、彼のために殺し、彼のために死ぬ。
我妻由乃にとって雪輝以外の全ては等価値であり、無価値である。
天野雪輝 >越えられない壁> それ以外 は彼女に定められた唯一絶対の方程式だ。
神の座を目指すゲームに巻き込まれてからも、それに変化はなかった。

時間と空間の「神」の後継を決めるための、12人による生き残り戦。
ある意味でここで行われるとされる殺し合いにも近似したゲームに由乃は参加していた。
由乃自身に「神」の座は興味ない。ただ自分と同じ参加者である雪輝のために動くだけだった。
だからだろう。こうして実際強制的に連れて去られ殺し合いの場に放り込まれても、格別動揺することはなかった。
動揺したというのなら、参加者である名簿に雪輝の名が記されていたことにこそだろう。
故に、状況を把握し、渡された道具を確認し、現在位置を確認した後、瞬く間に雪輝の捜索するべく行動を開始した。
合えない心配など微塵もない。この島がどれだけ広かろうが我妻由乃が天野雪輝の所在を見失うことなどあり得ない。
何故ならそれが彼女の決めた将来、「未来日記」の性能だからだ。

未来日記とは名の通り、未来の出来事を記す映写器だ。
これを授けられることが神の座を巡る争いへ参加する条件であり、その神が持つ力の一端であろう。
所有者によって日記の本体、記される未来の範囲はまちまちだが、由乃の「未来日記」は彼女の異常性をそのまま形にしたものだ。
「雪輝日記」。天野雪輝の行動を逐一把握する個人専用の未来観測。
限定は最小だがその分見える範囲は最大規模。事実上雪輝が逃れ得ることは不可能である。
それ故に、離れた雪輝を探し出すのもまた容易だった。

だったのだが―――ここで問題が生じた。


支給品として手に渡ったのは由乃が所有している『雪輝日記』、そのレプリカ。機能を劣化コピーしたものだという。
その通りに、送られるユッキーに関しての情報が圧倒的に少ない。
現在わかってるのは『ユッキーはビルの路地裏にいる』という1文だけ。
それより未来のことも、過去も書かれていない、まっさらなページ。
これでは、ユッキーの居場所を正確に計れない。由乃の心臓ともいえる彼と会えない。
代わりとでもいうのか、未来日記所有者の共通の弱点『日記を壊されれば所有者は消滅する』ことはないが、
それは由乃にとって甚だ不満だった。
消滅のリスクを抱えてでも、雪輝の情報は多く得るべきなのだ。
消える危険がなくなったからといって、それで雪輝と会えなければ話にならない。
よって早急に本物の『雪輝日記』を取り戻さなければいけない。
それまでは現状、このレプリカで雪輝を追っていくしかないようだ。

それでも、定期的に情報が入ってくるというのは手掛かりなしとは段違いだ。
現時点での手掛かりはビル。この付近は小さい建物が家々が建ち並ぶばかりで近代的な高層建築は見当たらない。
つまりこのコロッセオ周辺に雪輝はいない。
大まかな候補地は2つに分けられる。地図の中心であるここより左右に置かれた大規模な都市。
どちらかへ行けば、残った方へ向かうのはかなりのロスを喰らってしまう。
そんな天秤の選択で由乃が選んだのは、東南の都市だった。
理由は多くある。
まず現在位置とは近いこと。
都市のさらに西南にある『ゴッサムタワー』や、西の方と比べて整理された並びから、近代都市でビル群があると踏んだこと。
当然、候補の2つ以外にもビルはある。当たる確率はまだまだ低いと見なさざるを得ない。
仮に正しかったとしても、地図の4分の1を占める広大な土地を劣化した日記一つで探すのは困難だろう。

「足りない分は愛で補え、だね!」

それを埋め立てて余りあるのは由乃の雪輝への愛。
ユッキーを愛する自分がユッキーの居場所を間違えるはずがない。
理屈も根拠も不要。この体は、無限の愛で出来ている。ならばきっと、必ず、この身は彼の元へと辿り着く。


そんな確信に満ちた強固な自信。
この「実験」が「神」、デウス・エクス・マキナの思惑なのか、それを外れた介入なのか、ここを脱出する手立てはあるのか、
そんなものは、彼に会ってから考えればいい。
良くも悪くも、天野雪輝は我妻由乃の根幹を成す人物であった。

そして、行き先を決めた少女はひとり歩を進めている。
否、それは歩みというより走りに近い。歩きよりはずっと速く、それでいて後の行動に支障が出ない程度の速度。
何処にいるとも知れない想い人の身を案じて遮二無二駆ける少女。
言葉にしてみれば、なんとも健気で愛らしい。
これは、そんな少女の決意のもとに始まる愛物語。
その路に続くのはきっと、赤い紅いヴァージンロード(血飛沫絨毯)。



【E-6/市街:深夜】

【我妻由乃@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:雪輝日記(レプリカ)
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:ユッキー(天野雪輝)と共に生き残る。
1:ユッキーを探す。情報を頼りに東南の都市へ向かう。残りは愛でカバー!
2: そのためにも本物の雪輝日記を取り戻したい。
3: 邪魔をする人間、ユッキーの敵になりそうな奴は排除する。殺人に忌避はない。
4:最終的にユッキーが生き残るなら自己の命は度外視してもいい。
[備考]

※雪輝日記(レプリカ)
ユッキーこと天野雪輝の未来の行動、状況が逐一書き込まれる携帯電話。
劣化コピーなのでごく近い未来しか記されず、精度はやや粗い。










「HA-HA-HA-HA-HA―――」



闇から、音が漏れ出た。

しゃがれてかすれた、錆びついた機械が鳴らすような音。
這いずるように、染み入るように聞いた者の耳に流れ込む汚濁。
どうやらそれは、人間の声であったらしい。

コツリと、闇から足音が響く。
姿が見えないだけなのに、まるで地獄の底から来たかのようなおぞましさがある。
足音は路を照らす電灯へ向かい、スポットライトのように音の主を照らす。
それは誰もが数分前に思い起こされる光景。
この地に足を付ける前にいた謎の空間。
そこで執り行われた、彼ら彼女らの命運を告げた殺し合いの開会式。
そこで奇声―――それは笑い声といえるものであったがそう聞こえる者もいただろう―――
を上げた声の主を光が照らした中で現れた「道化」。
光景が同様なら、現れた姿もまた同様だった。

体型は、細い。老人とも捉えられかねない程に不健康だ。
服装は、紫色のスーツ。緑のインナーとの色合わせは人の目には害といってよく、体型と重ねてなお不気味さを助長する。
髪の毛は毒々しい緑色。ケアが行き届いてる余地はない。
そして顔は、殊更に酷かった。
顔の肌は白い。メイクで塗りたくったか、肌そのものから色素が抜け落ちてしまったのか。
そこに日本の芸者、舞妓のような美しさはなく、ただただ気味の悪さを見せるのみ。
唇は赤く彩られ、両端は化粧を失敗したように赤の線が引かれ、まるで口が裂けてしまったかのよう。


体も服も、全てはこの顔を彩るための小道具に過ぎないと思わせられる。
まさにこの人物を象徴する「顔」だった。

開会の場で堂々と首謀者へもの申すその姿は全参加者のうち、もっとも目立っていたであろう。
そこにいたであろう全ての参加者は、ほぼ例外なくその姿に良い印象を持たなかっただろう。
そして直接対面した者は思うだろう。「こいつ」が、善意のもとに接触してくる人物の筈がないと。

「今夜は良い夜だな。悪魔と手を取って踊りもしたい気分だぜ」

手を広げタップダンスでも踊りそうな軽快さで語りかける男。
聞く相手は、いない。

広げた手の、右の方から何かが飛び出た。
飛来物は上空へ突進して、一軒家を越えていく。
やがて推進力のガス圧も切れ、重力に敗れて飛来物は落ちていく。
それが地に落ちることない。飛来物は銛状のフックになっており、屋根の風見に張り付いてそこからの落下を頑なに拒む。
フックに繋がれたロープが巻き戻る。銛ではなく、それを飛ばした銃を持つ男が。
ロープは切れることなく、主を屋根に引き上げ切り、男は風景を見下ろす。
デパートの玩具売り場で目を輝かせながらお気に入りを探す、童子のように。

「さあて、俺を楽しませるオモチャはどれだけあるかな?」






男、ジョーカーは狂人である。
何が狂ってるかといえば……、なにもかもだろう。
一般常識、倫理観、精神性。挙げればきりがないほどに狂い切っている。


まるで底の無い深淵の海のように、彼を知るほどにその狂気に呑まれていってしまう。
狂った原因は誰も知らない。
なにせ本人が語る内容すら時々によって違っているのだ。その起源を知る術は皆無といって差し支えない。
よって他者がこの男に抱くべき感想は、「コイツは狂ってる」。それだけで十分である。

だが、ジョーカーという男は狂人であるが、愚者ではない。
むしろその計算高さ、知恵の回りは他者を圧倒している。
こと犯罪行為に関して、彼を上回る知略を用いるのは世界に果たしてどれだけいるか。
「犯罪界の道化王子」。それが裏社会でのジョーカーの異名の一つである。
完璧にして周到、緻密かつ大胆。仕損じた件はひとつとしてなし。
そして彼がそこまでして世界に刻み込もうとしてるのは、その狂気である。
ジョーカーの犯罪動機は営利、怨恨、大義、そのどれでもない。
彼はただ、既存の社会や芸術を破壊し尽くし、世界を混沌にしてしまいたいだけなのだ。
無軌道で、無意味で、無差別。
それ故に、彼の行動を読むことは困難を極める。
彼の動きを予測するということは、狂気を心に持つことに他ならないのだから。



「Oh oh, そんなに急いでドコ行こうってんだpussy?」

そんな狂人だからこそ、このゲームに巻き込まれたことになど意に介さず普段通りに振る舞っている。
道化の狂人は、誰にも支配されない。止められない。
眼下の遠くからは闇の通路を駆ける姿が見える。
細かいところまでは見きれないが、どうやら少女であるようだ。

「リストにMy loverでもいたかい?大変だねえ、早くしないとおっちんじまうよぉ?」

聞こえるはずもないが、嘲笑うように少女へ言葉を投げる。
後にその言葉が真実になることを期待しつつ。

「しっかし、まだまだ練りが足りねえなぁミスター。言ったろ?こんなんじゃロクに客も集まらねえ三文芝居だってよ。
どうやらコイツの脚本家はエンターティメントってのを知らねえルーキーみてえだな」



聞き届ける相手がいないにも関わらず男は口を閉ざさない。
尋常ならざる事態に自分を落ちつけるために言葉をまくし立てているのか。
或いは、彼には言葉を届ける相手がそこに入るのか。

「先輩からの特別サービスだ、俺がこのゲームをプロデュースしてやるよ。
世界中の人間がただただ笑うしかないような、とびっきりの笑い話(ジョーク)にな」

誰が敵か味方かわからない状況での生死を賭けたグループ戦。それだけでは満足しないと道化は言う。
もっと悲鳴を。もっと混沌を。もっと地獄を。
ここにそれが少ないようなら、自分がばら撒いてやる。
悲劇の芽を。惨劇の種を。破滅の礎を。

「さあて、まずは愛しのホームにでも向かおうかねぇ」

この地図に書かれている施設の中でジョーカーが知るものは『アーカムアサイラム』と『ゴッサムタワー』。
前者は人里から離れてるし、ここからも遠い。
なによりアサイラムはイカれた犯罪者達の収容施設だ。好き好んでくる奴も少ないだろう。
ならばより人が集まってきやすい都市部へ向かうのが最も吉だ。
それに簡易的といえどもタワーがある都市は彼が根城としてるゴッサムシティと似た構図をしてる。
こういう場所で土地感というのは存外に役立つだろう。
それに。

「バァ~~ツッ。今頃良い気分だろう?夢にまで見たヒーローごっこが思う存分出来るんだからよぉ?」

バットマン。ゴッサムの闇の騎士。正義のヒーロー。
そして今のジョーカーにとって最も遊びがいのある「おもちゃ」。
開会式でモニターに現れた影で検討は付いていたがやはり名簿に書かれていた。ご丁寧にヒーローの名前で。

「今からとびっきりのディナーを用意してやるぜ。
涎垂らした顔で待ってなバッツ!HAHAHA!」

笑い声は響くことなく、だが侵食するように街に溶け込んでいく。
それは、狂人の宴の始まりを告げる狂物語。
その道筋は、地獄の扉への一本道。





【E-6/市街・屋根の上:深夜】

【ジョーカー@バットマン】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康
[装備]:アンカーガン
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:このゲームをとびっきりのジョークにプロデュースする。
1: とりあえずゴッサムタワーにでも向かう。
2:他に面白そうなヤツがいたらちょっかいをかけてみる。
3:バッツ(バットマン)をからかって遊ぶ。
[備考]
※方針の順位は曖昧です。別のものに興味が沸いたらあっさりと切り替えます。
※由乃の姿を確認してますが、現状どうこうする気はありません。

※アンカーガン@ウォッチメン
ロールシャッハの親友、ナイトオウル2世の発明品。ガス圧でフックを飛ばす銃。
高層ビルまで届き、大の男を軽々と引き上げられる。攻撃にも使える。





そうして、2人の狂人は夜を歩む。
邂逅はなく、目指す先は奇しくも同じながら、異なる人を求め夜を進む。
異端は孤立してこそ異端である。分かりあう機会は永劫ない。
故に2人の出逢いは、互いの否定のみに終始するだろう。
その時はもうすぐか、やがてか、それとも一切起こらないか。
答えは未だ、深淵の中。




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より強き世界 ジョーカー 「Lights! Camera! Action!」








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