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一三五
「ああ、ルイズ! あなたとこうして、生きてふたたび会えるなんて!」
アンリエッタは、ルイズの小さな体を強く抱きしめる。
「姫さま、よくご無事で……姫さまがここにおられるということは、『ロリアン』号は……」
ルイズは言いよどむ。
「そうです、ルイズ……」
王女の青い瞳が潤む。
「あなたたちを見送った後すぐ、何十という翼人の群れが港に現れました。彼らは空から火と油をふり撒き、桟橋の船をすべて燃やそうとしたのです。
『ロリアン』号も、あっという間に炎に包まれました。船から逃げ出せたのは、飛び降りて≪レビテーション≫を使ったわたくしひとりだけ……船長さんも、
他の船員のかたがたも、おそらくは……」
そう言うと、アンリエッタは顔を曇らせる。
ロサイスの桟橋を襲ったのは、おそらくカーカバードの鳥人たちだろう、と君は見当をつける。
敵は真っ先に、アルビオン大陸からの逃げ道をふさいだのだ。
「途方に暮れていたわたくしを助けてくれたのが、このアニエスです」
アンリエッタは、傍らに立つ若い女を君たちに紹介する。
王女の同行者であるアニエスは、馬車隊のニコラが言っていたとおりの姿だ。
引き締まり均整のとれた体を鎖帷子に包み、腰には細身の剣を差している。
意志の強そうな整った顔つきをしており、短く切りそろえた金髪の下では、澄んだ青い目が輝く。
「アニエスだ。お見知りおきを」
アニエスは、女丈夫にふさわしい凛とした声で挨拶する。
貴族であるルイズたちを前にしてまったく臆さぬその態度に、君は親近感を覚える。
「アニエスと出会えたのは幸運でした……始祖のお導きに感謝を」
王女は話を続けるが、そこから先は昨晩、幌馬車の中でルイズやキュルケが推測したとおりの筋書きだった。
「何度もあなたたちに迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさい」
アンリエッタはそう言って、頭を下げる。
「後になって考えれば、誰か軍人の方にでもかくまってもらうべきでした。でも、あの時のわたくしは怖くてたまらなかったのです。とにかく、
信頼できるお友達と一緒に居たいという思いでいっぱいでした。それで、あなたたちに追いつこうと、アニエスを連れてシティオブサウスゴータの都へと向かったのです」
「なぜ、盗賊たちに捕まっていたのですか?」
キュルケの問いに王女は
「わたくしが悪いのです」と、
気まずそうに答える。
「都の門前で、ルイズたちを見た者がいないかと尋ねまわっていると、四人組の傭兵が『森の中で見かけたから案内してやろう』と声をかけてきて……わたくしは、
その、アニエスは止めてくれたのに、気がつくとこの空き地で取り囲まれて、アニエスは勇敢に闘ったのですが……」
話の内容がしどろもどろになる。
「あいつら、あたしたちまで同じ手口で捕まえようとしてたのね」
キュルケの言葉に、君はうなずく。
森の入り口に居た四人組は、盗賊の一味だったのだ。
アンリエッタの話が終わると、今度はルイズが、カリンとはぐれてしまった経緯を説明する。
「まあ、なんという事でしょう……」
アンリエッタは青ざめ、両手を口にあてる。
「ルイズ、気をしっかり持ってね。あの≪烈風≫が倒されるなんて、ありえませんわ」
「もちろんです。姫さまがご無事だったのです、母さまだって、きっと……」
「静かに」
アニエスがルイズの言葉を遮る。
「な、何?」
アニエスは森の木立に鋭い視線を向け、
「奴らが戻ってきた。新手を連れてきているな」と、
つぶやく。
「まずいわね。二、三十人はいるわ」
キュルケはそう言うと、杖を構える。
耳をそばだてると、ひそひそ声や、武器や鎧のがちゃつく音が聞こえてくる──そして、弓弦(ゆづる)の鳴る音も!
君とアニエスは同時に
「伏せろ!」と叫ぶ。
飛んできた矢は君の一フィート脇を通り抜けると、馬の腹に突き刺さり、悲痛ないななきを上げさせる。
急いで決断しなければならない。
盗賊どもに立ち向かうか(五〇二へ)、森の奥へと逃げ込むか(三八三へ)?
三八三
君は、逃げろと叫び、森の奥に伸びる道を指し示す──馬に跨がる暇はない。
「姫殿下、こちらへ!」
アニエスがアンリエッタの手を引きながら先頭に立ち、ルイズがそれに続く。
キュルケは駆け出そうとしたところでぱっと振り返り、杖を振る。
杖の先から一筋の炎がほとばしると、鞭のように伸び、空き地の周囲の木立や下生えを燃え上がらせる。
「あたしからの置き土産よ、たっぷり楽しみなさいな!」
キュルケはそう言うと、ルイズたちの後を追って走る。
最後にその場を離れた君は、盗賊どもの怒鳴り合う声を耳にする。
「逃がすな! 追え! ぶっ殺せ!」
「畜生、火と煙で何も見えねえ!」
陽も暮れて真っ暗になった森の中を、何分も走り続けた君たち五人だったが、分かれ道にさしかかった所でそれぞれ足を止める。
アニエスにひっぱり回されたアンリエッタは、痛々しいほどに息を切らしており、木の幹に両手をついてなんとか体を支えている。
高貴な育ちである彼女にとって、これほど走ったのは生まれて初めての事なのだろう。
「ひ、姫さま、だい、大丈夫ですか?」
王女を気遣うルイズもまた、荒い息をついている。
「も、もう来ないわよね?」
そう言うと、不安げな表情で来た道を振り返る。
「足止めはしたけど、あれで諦めてくれるかどうか」
キュルケの声には、いつもの余裕綽々とした調子がない。
「とにかく、先へ進むほかなかろう」
アニエスが一同を促す。
道は二手に分かれている。
小さな丘を越える登り道を行くか(三三一へ)、谷へと下る道をたどるか(五〇九へ)?
三三一
蛇行した小道をたどって丘を登っていく。
自然と、野歩きに慣れている君とアニエスが、肩を並べて先頭に立つ形になる。
君は、この新しい道連れに話しかけてみることにする。
彼女はトリステイン軍に雇われた多くの傭兵のうちのひとりであり、なりゆきでアンリエッタを助け、そのまま、
君たちを探す王女に同行することになってしまったのだと言う。
今度はアニエスが、君たちの行き先と目的を尋ねてくる。
君は声を潜めて、内容は明かせぬが、王宮から秘密の任務を与えられたのだと語り、ロンディニウム塔に行かねばならぬのだと告げる。
アニエスは怪訝そうな顔をする。
「平民の剣士に、年端もいかぬ貴族の娘がふたり。頼みの騎士は行方知れず。何をしに行くつもりか知らんが、あまりに無謀だな」
ルイズの≪虚無≫について教えるわけにもいかぬので、君は黙って肩をすくめる。
アニエスはアンリエッタのほうを振り返り、
「お前たちがどこへ向かうにせよ、姫様を同行させるわけにはいかんな。危険すぎる」と言う。
「夜が明けたら別れるとしよう。シティオブサウスゴータに引き返して、誰か信頼のおける相手に姫様の身柄を預けなければ」
君は、ふと湧いた疑問を口にする。
どうして、会ったばかりのアンリエッタにそこまで尽くすのか、と。
「決まっているだろう」
アニエスは笑みを浮かべる。
「わたしは金で動く傭兵だ。王族の命を救ったとなれば、褒美は思いのままに違いない──そうだろう?」
君はうなずくが、どうも釈然としない。
丘の頂に立って来た方を振り返ると、数マイルの彼方に、炎の輝きと立ち昇る煙が見える──キュルケの魔法が引き起こした火事だ。
盗賊たちが追ってくる気配はないようだが、安心するにはまだ早い。
このまま夜通し歩き続けるか(四五一へ)?
それとももう少し先で野宿し、少しは睡眠をとるか(三九七へ)?
三九七
少し進むと、尾根の岩肌に小さな洞窟が口をあけているのを見つける。
中を調べてみたところ何もおらず、君たち五人が眠るのに充分な広さがある。
ここで夜を明かそうという君の提案に、全員が賛同する──盗賊の追っ手は脅威だが、ひどい疲労はそれ以上に大きな問題なのだ。
野宿の準備をしていると、アンリエッタが興味深そうな目でこちらを眺めていることに気づく。
どうかしたのかと尋ねると、彼女は慌てた様子で
「ああ、じろじろ見てしまってごめんなさい、お気に障りましたか?」と頭を下げる。
「わたくし、こんな時に不謹慎ですが、少しわくわくしているんです。野宿なんて初めてのことですから。ラ・ロシェールで船に乗ってからずっと、
初めて経験することばかり」
この状況で何を暢気な事を、と君は眉をひそめるが、王女の邪気のない微笑みを見ていると、その緊迫感のない落ち着いた態度が、
えがたい美点のように思えてくる。
民を惹き付ける王族の魅力とはこういうものなのかと、君は感じ入る。
食事を終え(体力点二を加えよ)、皆が毛布やマントにくるまる。
洞窟の固い地面は理想的な寝床ではないが、疲れきったルイズたちはあっという間に眠りに落ちる。
君は最初に見張りに立つが、何も起きぬままただ時間だけが過ぎていく。
やがてアニエスと交代し、君も眠りにつく。
睡眠をとったので体力点一を加えて、日の出とともに出発する。四八三へ。
四八三
夜が明け、君たちは涼しい朝の森の空気の中を歩き出す。
「わたしは、姫様をシティオブサウスゴータにお連れしなければならん」
アニエスは言う。
「だが、来た道を引き返すのは論外だ。盗賊どもが待ち伏せているかもしれん。そこで、北東に進もうと思う。うまくいけば都の北側に出るはずだ」
「それはそれで危険なんじゃない?」
異議を唱えたのはキュルケだ。
「ちょっと方向を間違えたら、シティオブサウスゴータとロンディニウムを結ぶ街道に出ちゃうわ。最悪の場合、南下してきた敵と鉢合わせになるかも」
「では、どうせよというのだ? お前たちと一緒にロンディニウム塔へと向かえとでも?」
アニエスは眉を吊り上げる。
「今のアルビオンに、安全な場所などありはしない。ならば、少しでも危険の少ない方に賭けるほかなかろう」
そう言って、先へと進む。
この辺りは下生えが深く、道を離れて歩くのは難しいため、しばらくはアニエスたちと一緒に進むことになる。
北に向かって三十分ほど歩き続けるが、アニエスの望みにかなうような分かれ道には出会わない。
一行の先頭に立つのは君だが、急な坂を上り終えたとたん、はっと足を止める。
道の向こうに人影が六つ、槍や弓を構えて立っているのだ。
昨夜の盗賊どもが先回りしたのか?
いや、目の前の連中が身に付けた甲冑は、ハルケギニアの軍人や傭兵のそれではない。
もっと粗雑で不格好な、古めかしい形式──君がかつて居た≪旧世界≫のものだ。
彼らは≪門≫をくぐってやって来た、カーカバードの兵士たちに違いない。
兵士のひとり──首に青いスカーフを巻いた、背の高い男──が呼びかける。
「前に出ろ、野良犬め」と横柄な口調で言う。
「その服装、ハルケギニア人には見えんな。何者だ?」
向こうは、君の後ろにルイズたち四人が続いていることに気づいておらぬ様子だ。
挨拶をして同郷の者だと言うか(五三へ)、仲間たちの援護のもと、武器を抜いて闘うか(五一九へ)、それとも術を使うか?
MUD・六三〇へ
LAW・七九五へ
HOT・七〇二へ
DET・六六二へ
TEL・七五〇へ
四四三
君が≪ロイヤル・ソヴリン≫と唱えると、兵士たちはとまどった様子で顔を見合わせるが、やがて、青いスカーフの男が進み出る。
「その合言葉を知っているということは、お前は我らアルビオン王党派の味方なのか?」
君はその通りだと答え、背後に控えていた仲間たちを呼び寄せる。
ルイズたちの姿を目にして、兵士たちは警戒を解く。
君たちはそれぞれ名乗るが、アンリエッタだけは『アン』と偽名を使う──身分を明かして彼らに気を遣わせることはない、
と考えたのだろう。
青いスカーフの男は、王家に忠誠を誓う騎士、サー・ブレナンと名乗り、
「それで、高貴な身分のご婦人がたが、なぜこんな所に?」と、
うわずった声を上げる。
「わたしたちはロンディニウム塔に向かっているのです」
ルイズが説明する。
「トリステインの宮廷から特別の命令を拝領し、敵の秘密兵器を破壊するべく……」
ルイズがそこまで言ったところで、君は彼女の言葉を遮り、不用心に喋りすぎだ、と戒める。
ルイズは
「な、なによ。この人たちは味方なんだから別にいいじゃない」と言って、
むくれる。
「賢明です」
ブレナンが声を抑えて言う。
「今のアルビオンでは、慎重さこそが生き延びるための鍵。敵の目と耳はいたる所にあり、その腕は、遠くガリアやトリステインにまで伸びているとの話です」
「ミスタ、≪門≫の事をご存じなのですね」
ルイズの言葉に、ブレナンはうなずく。
「かの魔法兵器の脅威については、我らも聞き及んでおります。しかし、詳しい話はのちほどにいたしましょう。ひとまず、
我らの砦にお越しください。道なき道を五時間ほど歩くことになりますが」
今の状況は、初めてウェールズに会った時のことを思い出させる。
あの時も君たちは、王党派の拠点である秘密の岩屋へと連れていかれのだ。
君とルイズ、キュルケの三人は、ブレナンの申し出を受けて彼らについていくことに決める。
アンリエッタとアニエスはどうするべきだろう?
野山を歩くことに不馴れな王女が、これからの道のりで足手まといになることは間違いない。
しかし、アニエスとのふたり連れで別行動をとらせるのも不安だ。
ここで別れて、当初の予定どおりシティオブサウスゴータへ向かわせるか(一一二へ)、一緒に連れていくか(一五へ)?
一五
君たちは話し合った結果、アンリエッタとアニエスを同行させることに決める。
いつ敵が現れるかわからぬ都よりも、場所を知られておらぬ砦のほうが、ずっと安全なはずだ。
「まあ!」
アンリエッタは笑みを浮かべる。
「わたくしも連れていってくださるの? 王党派のみなさまが集まっている場所まで」
妙に乗り気なのは、ウェールズ皇太子についての話を聞ける相手に会えるかもしれぬ、という期待の表れなのだろうが、
これから味わう苦労を知っていれば、笑みなど浮かばぬはずだ、と君は思う。
ブレナンはこう言ったのだ──『道なき道を五時間ほど歩く』と。
胸まである藪をかき分けながら慎重に進むが、アンリエッタが追いつけるよう、途中で何度も立ち止まることになる。
王女はひどく疲れているはずだが、驚いたことに、泣き言ひとつ言わない。
ルイズも遅れがちだが、息を切らせながらもすぐに追いついてくる。
体力はともかく、苦難に耐える心の強さはふたりとも大したものだ、と君は感心する。
進路はゆるやかな上り坂になっており、どうやら山に近づいているようだ。
草むらを踏み越え、小川を渡り、岩場を進む。
長く、気の滅入るような道のりのすえ、そびえ立つ岩壁に左右を挟まれた門扉(もんぴ)の前へとたどり着く。
木造の門は、あまり大きくないが頑丈そうな作りになっており、上部には物見櫓が築かれている。
「さあ、着きましたぞ……≪ウォースパイト≫!」
ブレナンが合言葉を叫ぶと、門がゆっくりと開く。
「ここが我らの隠し砦です。狭いうえに散らかっておりますが、どうぞ中へ」
門の内側は楕円形の空間になっており、周囲は七十フィート以上の高さの岩壁に囲まれている。
木造の小屋がまばらに立ち並び、岩壁の低い所には横穴が掘られている。
横穴は倉庫として使われているようだ。
君たちを出迎えたのは、二十人ほどの兵士たちだ。
ブレナンたちと違って、カーカバード兵の変装はしておらず、質素な胴着や革の上着をまとっている。
しばらく休憩した後、疲れはてて口もきけないアンリエッタを小屋で休ませ、君たちは別の小屋でブレナンと話をする。
「我らはここを拠点にして、何ヵ月もの間≪レコン・キスタ≫の叛徒や、カーカバードの蛮族どもと戦ってきました。
連合軍がアルビオンに上陸したと聞いたときは、長く苦しい戦いももうすぐ終わり、王と冠がロンディニウムの都に戻るのだ、と喜んだものです。
しかし……」
ブレナンは顔をしかめる。
「≪門≫が戦局を一変させました。奇襲を受けたトリステイン軍は総司令官を失い、いまだ混乱から立ち直っておりません。
ガリア軍も同じようなありさまだそうです」
「それだけではありませんわ」
ルイズが口を開く。
「わたしたちがロサイスに降り立った直後、港に敵が現れました」
そう言いながらうつむく。
ロサイスではぐれてしまった母親のことを、思い出したのだろう。
「停泊していた船はほとんどが焼き払われてしまったそうです。それに、ガリアの王都リュティスも襲われ、ヴェルサルテイル宮殿は炎上しました。
トリスタニアには敵の使者が現れ、降伏を迫っています。返答の期限まで、あと三日しかありません」五一五へ。
五一五
「なんと……」
ブレナンはうめく。
「敵がハルケギニア本土にまで手を伸ばしたことは知っておりましたが、よもや、そこまで差し迫った事態になっていようとは。
そこで、≪門≫に対処すべく、あなたがたが遣わされたのですね、ラ・ヴァリエール嬢?」
ルイズはうなずき、
「具体的な方法は秘密ですが、わたしたちは≪門≫を消し去る手段を持っています」と答える。
ブレナンは半信半疑のまなざしで君たちを見ていたが、やがて
「他に手もない。あなたがたを信じるほかなさそうですな」と言う。
「ところで、ラ・ヴァリエール嬢。ロンディニウム塔に行くのなら、近道がありますぞ」
「本当ですか?」
「地図に載っていない、細い山道があるのです。ロンディニウム塔は山地を挟んだ向こう側にあるので、麓(ふもと)を回り込むと二日はかかりますが、
山を越える峠道を使えば一日で着くはずです」
「では、さっそく行きましょう!」
ルイズは勢いよく立ち上がるが、キュルケがそれを引き止める。
「落ち着きなさいな、ルイズ。あなた、立ってるのがやっとじゃないの。休まないと、山登りなんて無理よ」
「だ、大丈夫よ、これくらい……」
ルイズは意地を張るが、足のふらつきは隠しようがない。
「それに、もうすぐ暗くなるわ。夜の山道は危ないわよ」
「でも、急がないと……」
ルイズはなおも食い下がる。
「ああ、もう!」
キュルケは声を張り上げ、ルイズに指を突きつける。
「あなたがよくってもね、あたしはもう限界。半日歩き続けてくたくたなの。足がむくんじゃって、ブーツも脱げないわ。
今日はここに泊まって体を休めて、明日の朝に出発! いいわね、ラ・ヴァリエール?」
一方的にまくし立てると、キュルケは小屋を出ていく。
残された君とルイズは、顔を見合わせる。
「ほんと、キュルケってわがままよね。忍耐心ってものがないのかしら?」
ルイズはあきれたように言うが、あまり不機嫌そうには見えない。
今日はこれ以上歩かずに済むので、内心ではほっとしているようだ。
「仕方ないわね、わたしたちも休みましょう」
陽が沈んだのち、君たちは夕食をとる。
体力点二を加えよ。
スープを飲んでいたルイズは、隣に座るアンリエッタをしげしげと見つめる。
「姫さま、なんだかご機嫌ですね」
「ええ」
話しかけられたアンリエッタは、笑ってうなずく。
「ブレナン殿から聞いたのですが、ウェールズさまがこちらに向かっているとか。もうすぐ会えると思うと、わたくし、なんだか落ち着かなくって」
そう言って、顔を赤らめる。
君は、トリスタニアの王宮でウェールズの老侍従であるパリーから聞いた話を思い出す。
『我々はガリア軍の前に姿を現し、彼らにアルビオン王位の正統たる継承者、ウェールズ殿下の保護を求めるつもりでした。しかし、
ほかならぬ殿下ご自身が、それに反対なさったのです──ガリアは信用できない、合流するのならトリステイン軍のほうが良い、と。
ともかく、そういった事情があったために我々は≪レコン・キスタ≫、カーカバード、ガリアの三者の目を避けながら、這うようにゆっくりと、
トリステイン軍の占領する地域へと移動していったのです』
「わたくしは、この砦でウェールズさまが来るのを待つつもり」
幼馴染みのルイズが相手で安心しきったためか、アンリエッタの口調は砕けたものになる。
「でも、ルイズが任務を成功させて戦争が終わった場合、ウェールズさまはシティオブサウスゴータかロンディニウムに向かうかもしれないわね。
どちらにせよ、王党派のかたがたと一緒にいれば、ウェールズさまに会えるはず。これでもう、あなたたちの足を引っ張るようこともなくなったわ。
ルイズ、何度も迷惑ばかりかけて、本当にごめんなさい」
そう言って、深々と頭を下げる。
「ひ、姫さま、お顔をお上げください!」
ルイズは慌てる。
ふたりのやりとりをよそに、君は考える──もしウェールズがこの砦に現れたなら、あまりの驚きに呆然とするに違いない、と。
はるか彼方のトリステインに居るはずの恋人に、アルビオンの人里離れた森の奥で出会うのだから!
食事が済むと、君たちは早々と眠りにつく。四八〇へ。
四八〇
真夜中までぐっすり眠っていたが、
「敵襲! 敵襲!」という叫びを耳にして跳ね起きる。
小屋の外に飛び出した君は、近くを通りかかった兵士に、何があったのかと尋ねる。
「敵が砦のすぐそばまで来ているんだ! 二百人は下らないらしい……こっちはたったの三十人だというのに!」
それだけ言うと、兵士は走り去る。
ルイズたちも騒ぎに目を覚まし、君のそばに集まる。
「もしかして……」
ルイズの声が震える。
「……わたしたち、後をつけられてたの?」
「ああ! そんな!」
アンリエッタが悲痛な叫びを上げる。
「きっと、きっとわたくしが悪いのです。わたくしがもたもたしていたばかりに、敵の尾行を許すことに!」
「お静かに!」
アニエスが一喝する。
「今は、誰が悪いなどと責任を問うている場合ではありません! 姫殿下、このまま砦の中にいては危険です。
≪フライ≫で岩山の上までお逃げください。さあ、ヴァリエール嬢とツェルプストー嬢も早く!」
きびきびと指示を出すアニエスに、ルイズは
「お世話になった王党派の人たちを見捨てて、逃げろっていうの!?」と、
抗議の声を上げる。
「お前たちは、大事な任務を帯びている身なのだろうが! 万一のことがあったらどうする!」
アニエスの剣幕に気圧されながらも、ルイズはあきらめきれない様子だ。
急いで決断しなければならない。
岩山へと逃げるか(五七六へ)、それとも砦を守るため闘うか(四七五へ)?
四七五
アニエスは信じられぬという顔をする。
「正気か!? 敵は我が方の七倍、いや、夜の闇に隠れた後続がまだいるかもしれん。王党派のメイジは三・四人しかおらず、
門のほかに敵味方を隔てる物もない。勝ち目はないぞ!」
「そうとも限らないわよ」
ルイズは低くつぶやく。
「敵を一掃する手段はあるわ。できれば使いたくなかったけど、そんな事は言ってられない状況みたいだしね」
君ははっとする。
ルイズはこれから≪虚無≫の魔法を使うつもりだ──かつてタルブの村で≪混沌≫の怪物を消し飛ばしたあの光を、ここでふたたび放つのだ。
キュルケとアンリエッタも、ルイズの思惑に気づく。
「ちょっと待ちなさいよ。ロンディニウム塔を射程におさめるまで、温存しておくんじゃなかったの?」
「ルイズ……」
ルイズはふたりの方に向き直る。
鳶色の瞳がきらりと輝く。
「キュルケ、ごめんなさいね。姫さま、わたし、決めたんです。もうこれ以上、誰も見捨てはしないと!」 そう言って、門に向かって駆け出す。
慌ててそれを追いつつ、君は考える。
今回の旅で、ルイズは何度も非情な決断を強いられてきた。
任務を優先するために、、はぐれた母親を探すことを諦め、助けを求める少年を見捨てた。
それらの事を気に病んでいたルイズには、ここでまた非情に徹することなど、不可能だったのだ。
梯子をよじ登り、門の上部に築かれた物見櫓に上がる。
そこには既にルイズが立っており、眼下に広がる暗闇を見つめている。
見ればまったくの闇ではなく、遠くの方に松明(たいまつ)の光がちらついている。
松明はその数を増し、列をなして近づいてくる。
「来た……」
ルイズの肩が震える。
やがて暗闇の中から、獣じみた唸り声、叩き鳴らされる太鼓の音、そして
「カーカバード! カーカバード!」と、
荒々しい鬨の声が聞こえてくる。
君は早く≪虚無≫の魔法を使え、とルイズを急かす。
≪虚無≫の呪文の詠唱は時間がかかるため、もたもたしていると、敵が矢の射程にまで近づいてくるかもしれない。
≪タイタン≫のオークは夜目が利き、闇の中でも正確に矢を射ることができるのだ。
「わ、わかってるわよ!」 ルイズは応えると、杖を構える。
“エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ”
ルイズの口から旋律がほとばしる。
それは、タルブの村で聞いたのとまったく同じ呪文だ。
“オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド”
そこで唐突に詠唱が途切れ、門から十ヤードほど離れた地面で小さな爆発が起きる。
なぜ途中でやめるのだと尋ねようとした君の目の前で、ルイズはがくりと膝をつき、そのまま倒れ伏す。三八六へ。
三八六
いったい、ルイズに何が起きたのだろう?
君が慌てて揺り起こすと、彼女はすぐに目を開け、立ち上がる。
君は安心してほっと息をつくが、ルイズは戸惑う。
「呪文を唱えている途中で耐え切れなくなって、気絶しちゃったの……精神力を使い果たしたときみたいに」
この世界の魔法使いたちは、『精神力』と呼ばれる内に秘めた力を使って術を操るが、使いすぎると気絶してしまうのだ
──ギーシュが土大蛇から受けた傷に癒しの術をかけていた、モンモランシーのように。
普通、精神力は一晩ぐっすり眠れば回復するはずなのだが、ルイズにはこの常識があてはまらないのだろうか?
「も、もう一回! もう一回よ!」
ルイズはふたたび詠唱を始める。
“エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……”
詠唱は先ほどよりも早く途絶え、ルイズは白目をむく。
倒れそうになる彼女を支える君の耳に、どこか近くで小さな爆発が起きる音が飛び込む。
どうやら≪爆発(エクスプロージョン)≫の術は、呪文を詠唱する長さに比例して、射程と威力が増すようだ。
「どうなってるのよ!?」
目を覚ましたルイズが、困惑と絶望の入り混じった声を上げる。
「これじゃあ、魔法を失敗したときの爆発と同じじゃない! わたし、≪ゼロ≫に戻っちゃったの?
砦を守れず、任務も果たせない、ただの≪ゼロ≫に……」
呆然としてつぶやくルイズに、君は早く櫓から下りようと叫ぶ。
松明を持った黒い姿の列は、砦まであとわずかの所に迫ってきている。
君とルイズが門から離れてすぐ、角笛が不気味に鳴り響く。
敵の攻撃が始まったのだ。
何十本もの矢が門の向こうから射ち込まれ、君たちの周りに落ちて音を立てる。
君とルイズは岩壁に掘られた横穴のひとつに隠れ、矢をやりすごす。
王党派の兵士も櫓の上から射返していたが、すぐに矢の餌食となってしまう。
キュルケやアニエス、それにアンリエッタは無事だろうか?
矢が降ってこなくなったので、君は横穴からおそるおそる顔を出す。
それと同時に、門のほうからズシンと重々しい音が響く。
見れば、五人ほどの兵士が内側から門を押さえ、彼らの傍では他の者たちが岩や木材を積み上げている──門が破られようとしているのだ!
君は兵士たちを手伝うため横穴を飛び出そうとするが、ルイズに手をつかまれる。
「待って、行かないで!」
そう言って、君の手を握った指に力を込める。
「そばにいて、お願い……」
鳶色の瞳が涙にうるむ。
これまで気丈に振る舞ってきたルイズだが、自分が≪虚無≫の魔法を使えなくなったことを知って、不安と恐怖がいっぺんに押し寄せてきたのだろう。
今や、彼女の心の拠り所は≪使い魔≫である君だけなのだ。
君はどうする?
ルイズを守ることを優先するか(二六三へ)、それとも手を振り払い、門に駆けつけるか(五四七へ)?
二六三
君はルイズに告げる──そばから離れず、お前を守る、と。
「う、うん。当然よね。あんたはわたしの≪使い魔≫なんだから」
口にする言葉こそいつも通りの強気なものだが、その声は震え、消え入りそうだ。
「でも、わたし、どうしちゃったの……? これじゃただの役立たず……いいえ、みんなの期待を裏切ったんだから、それ以下じゃない……」
ルイズは肩を落とし、涙を流す。
君は、思い悩むのは後にしろと言い、ルイズの手を引いて横穴を出る。
今はキュルケたちと合流するのが先決だ。
門のほうでは相変わらず、ズシンズシンと大きな音が響いている。
敵の破城槌が、門に叩きつけられているのだろう。
もう長くはもちそうにない。
君とルイズは、キュルケとアンリエッタ、そしてアニエスの所に戻る。
彼女たちは小屋の陰に隠れていたので、矢の被害を免れたらしい。
ルイズの≪虚無≫の魔法が不発同然に終わったことを説明すると、一同は愕然とする。
「そんな……」
キュルケは目を丸くし、アンリエッタは青ざめる。
「≪虚無≫とやらが何なのかは知らないが」
アニエスの表情が険しくなる。
「ラ・ヴァリエール嬢の秘策は失敗したということだな。姫殿下、やはりここは≪フライ≫で脱出を……」
アニエスの言葉は、耳をつんざく轟音にかき消される。
ついに門が打ち破られたのだ。
門の前に積まれた岩を踏み越えて、敵兵が飛び込んでくる。
「放て!」
ブレナンの号令を受けて、王党派の兵士たちが一斉に矢を放つ。
先頭のオークどもが矢を受けてばたばたと倒れ、≪火≫と≪風≫の魔法が後続の兵士をなぎ払う。
しかし、敵はひるまず次々と新手を送り込んでくる。
敵味方の間隔はあっという間にせばまり、やがて剣と剣をぶつけ合う乱戦となる。
吠えたけるオークどもは、君たちの方にも向かってくる。
キュルケの魔法で三人のオークがまとめて燃やされるが、すぐに三倍の数の敵が押し寄せる。
「下がれ、化け物め!」
アニエスの剣が夜の闇に閃くと、ふたりのオークが首を失って倒れる──まさしく達人の技だ。
しかし、アニエスひとりで敵を押しとどめるのは不可能だ。
三人の敵兵が怒号を上げて、君とルイズのほうへと突進してくる。
相手は背の高いホブゴブリンだ。
剣を抜いて闘うか(一六七へ)、それとも術を使うか?
SAP・七四四へ
MID・六〇九へ
RAZ・七一五へ
DOZ・七八〇へ
RAP・六六五へ
七四四
体力点二を失う。
君が術を使うと、ホブゴブリンのひとりは動きを止める。
凶暴さは影をひそめ、醜い顔に浮かべた表情も穏やかな、安らかとさえいえるものに変わる。
闘う意欲を失ったようだが、残りのふたりは術の影響を受けておらず、武器を構えて迫ってくる。
ひとりずつ相手にせよ。
第一のホブゴブリン
技術点・七
体力点・六
第二のホブゴブリン
技術点・六
体力点・六
ふたりとも倒したなら、七七へ。
七七
ホブゴブリンは倒れ伏すが、今度は新手のオークが襲いかかってくる。
闘おうと身構えた君のすぐそばに、大きな火の玉が飛んでくる──キュルケの魔法だ。
火の玉は的に命中し、オークは炎に包まれて苦悶の声を上げる。
「ふたりとも、大丈夫!?」
キュルケの呼びかけに、アニエスは
「どうにかな!」と応える。
服も剣もオークの血を浴びて黒く汚れているが、彼女自身は無傷のようだ。
「だが、多勢に無勢だ。このままでは……」
門の前では王党派の兵士たちがまだ持ちこたえているが、その数は大きく減っている。
彼らが倒れれば、すべての敵──ゆうに百人を越す──が君たちに向かって押し寄せてくることになるだろう。
もはやこれまでかと考えたその時、高く鋭い喇叭(らっぱ)の音色が、乱戦の喧騒を圧して響き渡る。
喇叭は砦の外から聞こえてくるが、その音色はオークの荒々しい角笛とはまるで違った、洗練されたものだ。
敵兵は浮き足立って攻撃の手を止め、互いに不安げな顔を見合わせる。
口々に
「後ろに敵がいるぞ!」
「こいつは罠だ! 挟み撃ちだ!」と叫ぶ。
オークどもの言葉は現実となる──≪風≫の魔法で作られたとおぼしき竜巻が門の外で荒れ狂い、敵兵を空中に巻き上げているのだ。
動揺した敵は君たちに背を向け、砦から逃げ出そうと走るが、われがちに門をくぐろうとしたためぶつかり、押し合い、ごった返す。
動きを止めたオークどもは前後から魔法と矢を放たれ、次々に討ち取られていく。
「我々の勝利だ!」
兵士のひとりが高らかに叫ぶ。
敵は砦から一掃される。
門の外での闘いの音も止み、周囲に静けさが訪れる。
ルイズはぺたりと地面にへたり込む。
緊張の糸が切れて、全身の力が抜けてしまったのだろう。
「わ、わたしたち……助かったの?」と、
放心したようにつぶやく。
「アルビオン王党派の援軍か?」
アニエスはそう言って、積み上がったオークの屍の向こう、門の方を見つめる。
門をくぐって何が現れるのかを警戒しているようだ。
「しかし、いったいどこから来たのだ?」
「もしかすると」
上ずった声を上げたのはアンリエッタだ。
「ウェールズさまかもしれません!」と、
興奮気味に言う。
「夕食の時に言ったでしょう? ウェールズさまがこの砦に向かっていると」
「では、確かめに行きましょう」
そう言って、キュルケは大股に歩き出し、アンリエッタとアニエスがそれを追う。
君は地面に座り込んだままのルイズの手をとり、助け起こす。
彼女の表情は暗い。
この場を生き延びることはできたが、≪虚無≫の魔法が使えぬままでは、≪門≫を破壊するという任務の達成は絶望的なのだ。三〇六へ。
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一三五
「ああ、ルイズ! あなたとこうして、生きてふたたび会えるなんて!」
アンリエッタは、ルイズの小さな体を強く抱きしめる。
「姫さま、よくご無事で……姫さまがここにおられるということは、『ロリアン』号は……」
ルイズは言いよどむ。
「そうです、ルイズ……」
王女の青い瞳が潤む。
「あなたたちを見送った後すぐ、何十という翼人の群れが港に現れました。彼らは空から火と油をふり撒き、桟橋の船をすべて燃やそうとしたのです。
『ロリアン』号も、あっという間に炎に包まれました。船から逃げ出せたのは、飛び降りて≪レビテーション≫を使ったわたくしひとりだけ……船長さんも、
他の船員のかたがたも、おそらくは……」
そう言うと、アンリエッタは顔を曇らせる。
ロサイスの桟橋を襲ったのは、おそらくカーカバードの鳥人たちだろう、と君は見当をつける。
敵は真っ先に、アルビオン大陸からの逃げ道をふさいだのだ。
「途方に暮れていたわたくしを助けてくれたのが、このアニエスです」
アンリエッタは、傍らに立つ若い女を君たちに紹介する。
王女の同行者であるアニエスは、馬車隊のニコラが言っていたとおりの姿だ。
引き締まり均整のとれた体を鎖帷子に包み、腰には細身の剣を差している。
意志の強そうな整った顔つきをしており、短く切りそろえた金髪の下では、澄んだ青い目が輝く。
「アニエスだ。お見知りおきを」
アニエスは、女丈夫にふさわしい凛とした声で挨拶する。
貴族であるルイズたちを前にしてまったく臆さぬその態度に、君は親近感を覚える。
「アニエスと出会えたのは幸運でした……始祖のお導きに感謝を」
王女は話を続けるが、そこから先は昨晩、幌馬車の中でルイズやキュルケが推測したとおりの筋書きだった。
「何度もあなたたちに迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさい」
アンリエッタはそう言って、頭を下げる。
「後になって考えれば、誰か軍人の方にでもかくまってもらうべきでした。でも、あの時のわたくしは怖くてたまらなかったのです。とにかく、
信頼できるお友達と一緒に居たいという思いでいっぱいでした。それで、あなたたちに追いつこうと、アニエスを連れてシティオブサウスゴータの都へと向かったのです」
「なぜ、盗賊たちに捕まっていたのですか?」
キュルケの問いに王女は
「わたくしが悪いのです」と、
気まずそうに答える。
「都の門前で、ルイズたちを見た者がいないかと尋ねまわっていると、四人組の傭兵が『森の中で見かけたから案内してやろう』と声をかけてきて……わたくしは、
その、アニエスは止めてくれたのに、気がつくとこの空き地で取り囲まれて、アニエスは勇敢に闘ったのですが……」
話の内容がしどろもどろになる。
「あいつら、あたしたちまで同じ手口で捕まえようとしてたのね」
キュルケの言葉に、君はうなずく。
森の入り口に居た四人組は、盗賊の一味だったのだ。
アンリエッタの話が終わると、今度はルイズが、カリンとはぐれてしまった経緯を説明する。
「まあ、なんという事でしょう……」
アンリエッタは青ざめ、両手を口にあてる。
「ルイズ、気をしっかり持ってね。あの≪烈風≫が倒されるなんて、ありえませんわ」
「もちろんです。姫さまがご無事だったのです、母さまだって、きっと……」
「静かに」
アニエスがルイズの言葉を遮る。
「な、何?」
アニエスは森の木立に鋭い視線を向け、
「奴らが戻ってきた。新手を連れてきているな」と、
つぶやく。
「まずいわね。二、三十人はいるわ」
キュルケはそう言うと、杖を構える。
耳をそばだてると、ひそひそ声や、武器や鎧のがちゃつく音が聞こえてくる──そして、弓弦(ゆづる)の鳴る音も!
君とアニエスは同時に
「伏せろ!」と叫ぶ。
飛んできた矢は君の一フィート脇を通り抜けると、馬の腹に突き刺さり、悲痛ないななきを上げさせる。
急いで決断しなければならない。
盗賊どもに立ち向かうか(五〇二へ)、森の奥へと逃げ込むか(三八三へ)?
三八三
君は、逃げろと叫び、森の奥に伸びる道を指し示す──馬に跨がる暇はない。
「姫殿下、こちらへ!」
アニエスがアンリエッタの手を引きながら先頭に立ち、ルイズがそれに続く。
キュルケは駆け出そうとしたところでぱっと振り返り、杖を振る。
杖の先から一筋の炎がほとばしると、鞭のように伸び、空き地の周囲の木立や下生えを燃え上がらせる。
「あたしからの置き土産よ、たっぷり楽しみなさいな!」
キュルケはそう言うと、ルイズたちの後を追って走る。
最後にその場を離れた君は、盗賊どもの怒鳴り合う声を耳にする。
「逃がすな! 追え! ぶっ殺せ!」
「畜生、火と煙で何も見えねえ!」
陽も暮れて真っ暗になった森の中を、何分も走り続けた君たち五人だったが、分かれ道にさしかかった所でそれぞれ足を止める。
アニエスにひっぱり回されたアンリエッタは、痛々しいほどに息を切らしており、木の幹に両手をついてなんとか体を支えている。
高貴な育ちである彼女にとって、これほど走ったのは生まれて初めての事なのだろう。
「ひ、姫さま、だい、大丈夫ですか?」
王女を気遣うルイズもまた、荒い息をついている。
「も、もう来ないわよね?」
そう言うと、不安げな表情で来た道を振り返る。
「足止めはしたけど、あれで諦めてくれるかどうか」
キュルケの声には、いつもの余裕綽々とした調子がない。
「とにかく、先へ進むほかなかろう」
アニエスが一同を促す。
道は二手に分かれている。
小さな丘を越える登り道を行くか(三三一へ)、谷へと下る道をたどるか(五〇九へ)?
三三一
蛇行した小道をたどって丘を登っていく。
自然と、野歩きに慣れている君とアニエスが、肩を並べて先頭に立つ形になる。
君は、この新しい道連れに話しかけてみることにする。
彼女はトリステイン軍に雇われた多くの傭兵のうちのひとりであり、なりゆきでアンリエッタを助け、そのまま、
君たちを探す王女に同行することになってしまったのだと言う。
今度はアニエスが、君たちの行き先と目的を尋ねてくる。
君は声を潜めて、内容は明かせぬが、王宮から秘密の任務を与えられたのだと語り、ロンディニウム塔に行かねばならぬのだと告げる。
アニエスは怪訝そうな顔をする。
「平民の剣士に、年端もいかぬ貴族の娘がふたり。頼みの騎士は行方知れず。何をしに行くつもりか知らんが、あまりに無謀だな」
ルイズの≪虚無≫について教えるわけにもいかぬので、君は黙って肩をすくめる。
アニエスはアンリエッタのほうを振り返り、
「お前たちがどこへ向かうにせよ、姫様を同行させるわけにはいかんな。危険すぎる」と言う。
「夜が明けたら別れるとしよう。シティオブサウスゴータに引き返して、誰か信頼のおける相手に姫様の身柄を預けなければ」
君は、ふと湧いた疑問を口にする。
どうして、会ったばかりのアンリエッタにそこまで尽くすのか、と。
「決まっているだろう」
アニエスは笑みを浮かべる。
「わたしは金で動く傭兵だ。王族の命を救ったとなれば、褒美は思いのままに違いない──そうだろう?」
君はうなずくが、どうも釈然としない。
丘の頂に立って来た方を振り返ると、数マイルの彼方に、炎の輝きと立ち昇る煙が見える──キュルケの魔法が引き起こした火事だ。
盗賊たちが追ってくる気配はないようだが、安心するにはまだ早い。
このまま夜通し歩き続けるか(四五一へ)?
それとももう少し先で野宿し、少しは睡眠をとるか(三九七へ)?
三九七
少し進むと、尾根の岩肌に小さな洞窟が口をあけているのを見つける。
中を調べてみたところ何もおらず、君たち五人が眠るのに充分な広さがある。
ここで夜を明かそうという君の提案に、全員が賛同する──盗賊の追っ手は脅威だが、ひどい疲労はそれ以上に大きな問題なのだ。
野宿の準備をしていると、アンリエッタが興味深そうな目でこちらを眺めていることに気づく。
どうかしたのかと尋ねると、彼女は慌てた様子で
「ああ、じろじろ見てしまってごめんなさい、お気に障りましたか?」と頭を下げる。
「わたくし、こんな時に不謹慎ですが、少しわくわくしているんです。野宿なんて初めてのことですから。ラ・ロシェールで船に乗ってからずっと、
初めて経験することばかり」
この状況で何を暢気な事を、と君は眉をひそめるが、王女の邪気のない微笑みを見ていると、その緊迫感のない落ち着いた態度が、
えがたい美点のように思えてくる。
民を惹き付ける王族の魅力とはこういうものなのかと、君は感じ入る。
食事を終え(体力点二を加えよ)、皆が毛布やマントにくるまる。
洞窟の固い地面は理想的な寝床ではないが、疲れきったルイズたちはあっという間に眠りに落ちる。
君は最初に見張りに立つが、何も起きぬままただ時間だけが過ぎていく。
やがてアニエスと交代し、君も眠りにつく。
睡眠をとったので体力点一を加えて、日の出とともに出発する。四八三へ。
四八三
夜が明け、君たちは涼しい朝の森の空気の中を歩き出す。
「わたしは、姫様をシティオブサウスゴータにお連れしなければならん」
アニエスは言う。
「だが、来た道を引き返すのは論外だ。盗賊どもが待ち伏せているかもしれん。そこで、北東に進もうと思う。うまくいけば都の北側に出るはずだ」
「それはそれで危険なんじゃない?」
異議を唱えたのはキュルケだ。
「ちょっと方向を間違えたら、シティオブサウスゴータとロンディニウムを結ぶ街道に出ちゃうわ。最悪の場合、南下してきた敵と鉢合わせになるかも」
「では、どうせよというのだ? お前たちと一緒にロンディニウム塔へと向かえとでも?」
アニエスは眉を吊り上げる。
「今のアルビオンに、安全な場所などありはしない。ならば、少しでも危険の少ない方に賭けるほかなかろう」
そう言って、先へと進む。
この辺りは下生えが深く、道を離れて歩くのは難しいため、しばらくはアニエスたちと一緒に進むことになる。
北に向かって三十分ほど歩き続けるが、アニエスの望みにかなうような分かれ道には出会わない。
一行の先頭に立つのは君だが、急な坂を上り終えたとたん、はっと足を止める。
道の向こうに人影が六つ、槍や弓を構えて立っているのだ。
昨夜の盗賊どもが先回りしたのか?
いや、目の前の連中が身に付けた甲冑は、ハルケギニアの軍人や傭兵のそれではない。
もっと粗雑で不格好な、古めかしい形式──君がかつて居た≪旧世界≫のものだ。
彼らは≪門≫をくぐってやって来た、カーカバードの兵士たちに違いない。
兵士のひとり──首に青いスカーフを巻いた、背の高い男──が呼びかける。
「前に出ろ、野良犬め」と横柄な口調で言う。
「その服装、ハルケギニア人には見えんな。何者だ?」
向こうは、君の後ろにルイズたち四人が続いていることに気づいておらぬ様子だ。
挨拶をして同郷の者だと言うか(五三へ)、仲間たちの援護のもと、武器を抜いて闘うか(五一九へ)、それとも術を使うか?
MUD・六三〇へ
LAW・七九五へ
HOT・七〇二へ
DET・六六二へ
TEL・七五〇へ
四四三
君が≪ロイヤル・ソヴリン≫と唱えると、兵士たちはとまどった様子で顔を見合わせるが、やがて、青いスカーフの男が進み出る。
「その合言葉を知っているということは、お前は我らアルビオン王党派の味方なのか?」
君はその通りだと答え、背後に控えていた仲間たちを呼び寄せる。
ルイズたちの姿を目にして、兵士たちは警戒を解く。
君たちはそれぞれ名乗るが、アンリエッタだけは『アン』と偽名を使う──身分を明かして彼らに気を遣わせることはない、
と考えたのだろう。
青いスカーフの男は、王家に忠誠を誓う騎士、サー・ブレナンと名乗り、
「それで、高貴な身分のご婦人がたが、なぜこんな所に?」と、
うわずった声を上げる。
「わたしたちはロンディニウム塔に向かっているのです」
ルイズが説明する。
「トリステインの宮廷から特別の命令を拝領し、敵の秘密兵器を破壊するべく……」
ルイズがそこまで言ったところで、君は彼女の言葉を遮り、不用心に喋りすぎだ、と戒める。
ルイズは
「な、なによ。この人たちは味方なんだから別にいいじゃない」と言って、
むくれる。
「賢明です」
ブレナンが声を抑えて言う。
「今のアルビオンでは、慎重さこそが生き延びるための鍵。敵の目と耳はいたる所にあり、その腕は、遠くガリアやトリステインにまで伸びているとの話です」
「ミスタ、≪門≫の事をご存じなのですね」
ルイズの言葉に、ブレナンはうなずく。
「かの魔法兵器の脅威については、我らも聞き及んでおります。しかし、詳しい話はのちほどにいたしましょう。ひとまず、
我らの砦にお越しください。道なき道を五時間ほど歩くことになりますが」
今の状況は、初めてウェールズに会った時のことを思い出させる。
あの時も君たちは、王党派の拠点である秘密の岩屋へと連れていかれのだ。
君とルイズ、キュルケの三人は、ブレナンの申し出を受けて彼らについていくことに決める。
アンリエッタとアニエスはどうするべきだろう?
野山を歩くことに不馴れな王女が、これからの道のりで足手まといになることは間違いない。
しかし、アニエスとのふたり連れで別行動をとらせるのも不安だ。
ここで別れて、当初の予定どおりシティオブサウスゴータへ向かわせるか(一一二へ)、一緒に連れていくか(一五へ)?
一五
君たちは話し合った結果、アンリエッタとアニエスを同行させることに決める。
いつ敵が現れるかわからぬ都よりも、場所を知られておらぬ砦のほうが、ずっと安全なはずだ。
「まあ!」
アンリエッタは笑みを浮かべる。
「わたくしも連れていってくださるの? 王党派のみなさまが集まっている場所まで」
妙に乗り気なのは、ウェールズ皇太子についての話を聞ける相手に会えるかもしれぬ、という期待の表れなのだろうが、
これから味わう苦労を知っていれば、笑みなど浮かばぬはずだ、と君は思う。
ブレナンはこう言ったのだ──『道なき道を五時間ほど歩く』と。
胸まである藪をかき分けながら慎重に進むが、アンリエッタが追いつけるよう、途中で何度も立ち止まることになる。
王女はひどく疲れているはずだが、驚いたことに、泣き言ひとつ言わない。
ルイズも遅れがちだが、息を切らせながらもすぐに追いついてくる。
体力はともかく、苦難に耐える心の強さはふたりとも大したものだ、と君は感心する。
進路はゆるやかな上り坂になっており、どうやら山に近づいているようだ。
草むらを踏み越え、小川を渡り、岩場を進む。
長く、気の滅入るような道のりのすえ、そびえ立つ岩壁に左右を挟まれた門扉(もんぴ)の前へとたどり着く。
木造の門は、あまり大きくないが頑丈そうな作りになっており、上部には物見櫓が築かれている。
「さあ、着きましたぞ……≪ウォースパイト≫!」
ブレナンが合言葉を叫ぶと、門がゆっくりと開く。
「ここが我らの隠し砦です。狭いうえに散らかっておりますが、どうぞ中へ」
門の内側は楕円形の空間になっており、周囲は七十フィート以上の高さの岩壁に囲まれている。
木造の小屋がまばらに立ち並び、岩壁の低い所には横穴が掘られている。
横穴は倉庫として使われているようだ。
君たちを出迎えたのは、二十人ほどの兵士たちだ。
ブレナンたちと違って、カーカバード兵の変装はしておらず、質素な胴着や革の上着をまとっている。
しばらく休憩した後、疲れはてて口もきけないアンリエッタを小屋で休ませ、君たちは別の小屋でブレナンと話をする。
「我らはここを拠点にして、何ヵ月もの間≪レコン・キスタ≫の叛徒や、カーカバードの蛮族どもと戦ってきました。
連合軍がアルビオンに上陸したと聞いたときは、長く苦しい戦いももうすぐ終わり、王と冠がロンディニウムの都に戻るのだ、と喜んだものです。
しかし……」
ブレナンは顔をしかめる。
「≪門≫が戦局を一変させました。奇襲を受けたトリステイン軍は総司令官を失い、いまだ混乱から立ち直っておりません。
ガリア軍も同じようなありさまだそうです」
「それだけではありませんわ」
ルイズが口を開く。
「わたしたちがロサイスに降り立った直後、港に敵が現れました」
そう言いながらうつむく。
ロサイスではぐれてしまった母親のことを、思い出したのだろう。
「停泊していた船はほとんどが焼き払われてしまったそうです。それに、ガリアの王都リュティスも襲われ、ヴェルサルテイル宮殿は炎上しました。
トリスタニアには敵の使者が現れ、降伏を迫っています。返答の期限まで、あと三日しかありません」五一五へ。
五一五
「なんと……」
ブレナンはうめく。
「敵がハルケギニア本土にまで手を伸ばしたことは知っておりましたが、よもや、そこまで差し迫った事態になっていようとは。
そこで、≪門≫に対処すべく、あなたがたが遣わされたのですね、ラ・ヴァリエール嬢?」
ルイズはうなずき、
「具体的な方法は秘密ですが、わたしたちは≪門≫を消し去る手段を持っています」と答える。
ブレナンは半信半疑のまなざしで君たちを見ていたが、やがて
「他に手もない。あなたがたを信じるほかなさそうですな」と言う。
「ところで、ラ・ヴァリエール嬢。ロンディニウム塔に行くのなら、近道がありますぞ」
「本当ですか?」
「地図に載っていない、細い山道があるのです。ロンディニウム塔は山地を挟んだ向こう側にあるので、麓(ふもと)を回り込むと二日はかかりますが、
山を越える峠道を使えば一日で着くはずです」
「では、さっそく行きましょう!」
ルイズは勢いよく立ち上がるが、キュルケがそれを引き止める。
「落ち着きなさいな、ルイズ。あなた、立ってるのがやっとじゃないの。休まないと、山登りなんて無理よ」
「だ、大丈夫よ、これくらい……」
ルイズは意地を張るが、足のふらつきは隠しようがない。
「それに、もうすぐ暗くなるわ。夜の山道は危ないわよ」
「でも、急がないと……」
ルイズはなおも食い下がる。
「ああ、もう!」
キュルケは声を張り上げ、ルイズに指を突きつける。
「あなたがよくってもね、あたしはもう限界。半日歩き続けてくたくたなの。足がむくんじゃって、ブーツも脱げないわ。
今日はここに泊まって体を休めて、明日の朝に出発! いいわね、ラ・ヴァリエール?」
一方的にまくし立てると、キュルケは小屋を出ていく。
残された君とルイズは、顔を見合わせる。
「ほんと、キュルケってわがままよね。忍耐心ってものがないのかしら?」
ルイズはあきれたように言うが、あまり不機嫌そうには見えない。
今日はこれ以上歩かずに済むので、内心ではほっとしているようだ。
「仕方ないわね、わたしたちも休みましょう」
陽が沈んだのち、君たちは夕食をとる。
体力点二を加えよ。
スープを飲んでいたルイズは、隣に座るアンリエッタをしげしげと見つめる。
「姫さま、なんだかご機嫌ですね」
「ええ」
話しかけられたアンリエッタは、笑ってうなずく。
「ブレナン殿から聞いたのですが、ウェールズさまがこちらに向かっているとか。もうすぐ会えると思うと、わたくし、なんだか落ち着かなくって」
そう言って、顔を赤らめる。
君は、トリスタニアの王宮でウェールズの老侍従であるパリーから聞いた話を思い出す。
『我々はガリア軍の前に姿を現し、彼らにアルビオン王位の正統たる継承者、ウェールズ殿下の保護を求めるつもりでした。しかし、
ほかならぬ殿下ご自身が、それに反対なさったのです──ガリアは信用できない、合流するのならトリステイン軍のほうが良い、と。
ともかく、そういった事情があったために我々は≪レコン・キスタ≫、カーカバード、ガリアの三者の目を避けながら、這うようにゆっくりと、
トリステイン軍の占領する地域へと移動していったのです』
「わたくしは、この砦でウェールズさまが来るのを待つつもり」
幼馴染みのルイズが相手で安心しきったためか、アンリエッタの口調は砕けたものになる。
「でも、ルイズが任務を成功させて戦争が終わった場合、ウェールズさまはシティオブサウスゴータかロンディニウムに向かうかもしれないわね。
どちらにせよ、王党派のかたがたと一緒にいれば、ウェールズさまに会えるはず。これでもう、あなたたちの足を引っ張るようこともなくなったわ。
ルイズ、何度も迷惑ばかりかけて、本当にごめんなさい」
そう言って、深々と頭を下げる。
「ひ、姫さま、お顔をお上げください!」
ルイズは慌てる。
ふたりのやりとりをよそに、君は考える──もしウェールズがこの砦に現れたなら、あまりの驚きに呆然とするに違いない、と。
はるか彼方のトリステインに居るはずの恋人に、アルビオンの人里離れた森の奥で出会うのだから!
食事が済むと、君たちは早々と眠りにつく。四八〇へ。
四八〇
真夜中までぐっすり眠っていたが、
「敵襲! 敵襲!」という叫びを耳にして跳ね起きる。
小屋の外に飛び出した君は、近くを通りかかった兵士に、何があったのかと尋ねる。
「敵が砦のすぐそばまで来ているんだ! 二百人は下らないらしい……こっちはたったの三十人だというのに!」
それだけ言うと、兵士は走り去る。
ルイズたちも騒ぎに目を覚まし、君のそばに集まる。
「もしかして……」
ルイズの声が震える。
「……わたしたち、後をつけられてたの?」
「ああ! そんな!」
アンリエッタが悲痛な叫びを上げる。
「きっと、きっとわたくしが悪いのです。わたくしがもたもたしていたばかりに、敵の尾行を許すことに!」
「お静かに!」
アニエスが一喝する。
「今は、誰が悪いなどと責任を問うている場合ではありません! 姫殿下、このまま砦の中にいては危険です。
≪フライ≫で岩山の上までお逃げください。さあ、ヴァリエール嬢とツェルプストー嬢も早く!」
きびきびと指示を出すアニエスに、ルイズは
「お世話になった王党派の人たちを見捨てて、逃げろっていうの!?」と、
抗議の声を上げる。
「お前たちは、大事な任務を帯びている身なのだろうが! 万一のことがあったらどうする!」
アニエスの剣幕に気圧されながらも、ルイズはあきらめきれない様子だ。
急いで決断しなければならない。
岩山へと逃げるか(五七六へ)、それとも砦を守るため闘うか(四七五へ)?
四七五
アニエスは信じられぬという顔をする。
「正気か!? 敵は我が方の七倍、いや、夜の闇に隠れた後続がまだいるかもしれん。王党派のメイジは三・四人しかおらず、
門のほかに敵味方を隔てる物もない。勝ち目はないぞ!」
「そうとも限らないわよ」
ルイズは低くつぶやく。
「敵を一掃する手段はあるわ。できれば使いたくなかったけど、そんな事は言ってられない状況みたいだしね」
君ははっとする。
ルイズはこれから≪虚無≫の魔法を使うつもりだ──かつてタルブの村で≪混沌≫の怪物を消し飛ばしたあの光を、ここでふたたび放つのだ。
キュルケとアンリエッタも、ルイズの思惑に気づく。
「ちょっと待ちなさいよ。ロンディニウム塔を射程におさめるまで、温存しておくんじゃなかったの?」
「ルイズ……」
ルイズはふたりの方に向き直る。
鳶色の瞳がきらりと輝く。
「キュルケ、ごめんなさいね。姫さま、わたし、決めたんです。もうこれ以上、誰も見捨てはしないと!」 そう言って、門に向かって駆け出す。
慌ててそれを追いつつ、君は考える。
今回の旅で、ルイズは何度も非情な決断を強いられてきた。
任務を優先するために、、はぐれた母親を探すことを諦め、助けを求める少年を見捨てた。
それらの事を気に病んでいたルイズには、ここでまた非情に徹することなど、不可能だったのだ。
梯子をよじ登り、門の上部に築かれた物見櫓に上がる。
そこには既にルイズが立っており、眼下に広がる暗闇を見つめている。
見ればまったくの闇ではなく、遠くの方に松明(たいまつ)の光がちらついている。
松明はその数を増し、列をなして近づいてくる。
「来た……」
ルイズの肩が震える。
やがて暗闇の中から、獣じみた唸り声、叩き鳴らされる太鼓の音、そして
「カーカバード! カーカバード!」と、
荒々しい鬨の声が聞こえてくる。
君は早く≪虚無≫の魔法を使え、とルイズを急かす。
≪虚無≫の呪文の詠唱は時間がかかるため、もたもたしていると、敵が矢の射程にまで近づいてくるかもしれない。
≪タイタン≫のオークは夜目が利き、闇の中でも正確に矢を射ることができるのだ。
「わ、わかってるわよ!」 ルイズは応えると、杖を構える。
“エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ”
ルイズの口から旋律がほとばしる。
それは、タルブの村で聞いたのとまったく同じ呪文だ。
“オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド”
そこで唐突に詠唱が途切れ、門から十ヤードほど離れた地面で小さな爆発が起きる。
なぜ途中でやめるのだと尋ねようとした君の目の前で、ルイズはがくりと膝をつき、そのまま倒れ伏す。三八六へ。
三八六
いったい、ルイズに何が起きたのだろう?
君が慌てて揺り起こすと、彼女はすぐに目を開け、立ち上がる。
君は安心してほっと息をつくが、ルイズは戸惑う。
「呪文を唱えている途中で耐え切れなくなって、気絶しちゃったの……精神力を使い果たしたときみたいに」
この世界の魔法使いたちは、『精神力』と呼ばれる内に秘めた力を使って術を操るが、使いすぎると気絶してしまうのだ
──ギーシュが土大蛇から受けた傷に癒しの術をかけていた、モンモランシーのように。
普通、精神力は一晩ぐっすり眠れば回復するはずなのだが、ルイズにはこの常識があてはまらないのだろうか?
「も、もう一回! もう一回よ!」
ルイズはふたたび詠唱を始める。
“エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……”
詠唱は先ほどよりも早く途絶え、ルイズは白目をむく。
倒れそうになる彼女を支える君の耳に、どこか近くで小さな爆発が起きる音が飛び込む。
どうやら≪爆発(エクスプロージョン)≫の術は、呪文を詠唱する長さに比例して、射程と威力が増すようだ。
「どうなってるのよ!?」
目を覚ましたルイズが、困惑と絶望の入り混じった声を上げる。
「これじゃあ、魔法を失敗したときの爆発と同じじゃない! わたし、≪ゼロ≫に戻っちゃったの?
砦を守れず、任務も果たせない、ただの≪ゼロ≫に……」
呆然としてつぶやくルイズに、君は早く櫓から下りようと叫ぶ。
松明を持った黒い姿の列は、砦まであとわずかの所に迫ってきている。
君とルイズが門から離れてすぐ、角笛が不気味に鳴り響く。
敵の攻撃が始まったのだ。
何十本もの矢が門の向こうから射ち込まれ、君たちの周りに落ちて音を立てる。
君とルイズは岩壁に掘られた横穴のひとつに隠れ、矢をやりすごす。
王党派の兵士も櫓の上から射返していたが、すぐに矢の餌食となってしまう。
キュルケやアニエス、それにアンリエッタは無事だろうか?
矢が降ってこなくなったので、君は横穴からおそるおそる顔を出す。
それと同時に、門のほうからズシンと重々しい音が響く。
見れば、五人ほどの兵士が内側から門を押さえ、彼らの傍では他の者たちが岩や木材を積み上げている──門が破られようとしているのだ!
君は兵士たちを手伝うため横穴を飛び出そうとするが、ルイズに手をつかまれる。
「待って、行かないで!」
そう言って、君の手を握った指に力を込める。
「そばにいて、お願い……」
鳶色の瞳が涙にうるむ。
これまで気丈に振る舞ってきたルイズだが、自分が≪虚無≫の魔法を使えなくなったことを知って、不安と恐怖がいっぺんに押し寄せてきたのだろう。
今や、彼女の心の拠り所は≪使い魔≫である君だけなのだ。
君はどうする?
ルイズを守ることを優先するか(二六三へ)、それとも手を振り払い、門に駆けつけるか(五四七へ)?
二六三
君はルイズに告げる──そばから離れず、お前を守る、と。
「う、うん。当然よね。あんたはわたしの≪使い魔≫なんだから」
口にする言葉こそいつも通りの強気なものだが、その声は震え、消え入りそうだ。
「でも、わたし、どうしちゃったの……? これじゃただの役立たず……いいえ、みんなの期待を裏切ったんだから、それ以下じゃない……」
ルイズは肩を落とし、涙を流す。
君は、思い悩むのは後にしろと言い、ルイズの手を引いて横穴を出る。
今はキュルケたちと合流するのが先決だ。
門のほうでは相変わらず、ズシンズシンと大きな音が響いている。
敵の破城槌が、門に叩きつけられているのだろう。
もう長くはもちそうにない。
君とルイズは、キュルケとアンリエッタ、そしてアニエスの所に戻る。
彼女たちは小屋の陰に隠れていたので、矢の被害を免れたらしい。
ルイズの≪虚無≫の魔法が不発同然に終わったことを説明すると、一同は愕然とする。
「そんな……」
キュルケは目を丸くし、アンリエッタは青ざめる。
「≪虚無≫とやらが何なのかは知らないが」
アニエスの表情が険しくなる。
「ラ・ヴァリエール嬢の秘策は失敗したということだな。姫殿下、やはりここは≪フライ≫で脱出を……」
アニエスの言葉は、耳をつんざく轟音にかき消される。
ついに門が打ち破られたのだ。
門の前に積まれた岩を踏み越えて、敵兵が飛び込んでくる。
「放て!」
ブレナンの号令を受けて、王党派の兵士たちが一斉に矢を放つ。
先頭のオークどもが矢を受けてばたばたと倒れ、≪火≫と≪風≫の魔法が後続の兵士をなぎ払う。
しかし、敵はひるまず次々と新手を送り込んでくる。
敵味方の間隔はあっという間にせばまり、やがて剣と剣をぶつけ合う乱戦となる。
吠えたけるオークどもは、君たちの方にも向かってくる。
キュルケの魔法で三人のオークがまとめて燃やされるが、すぐに三倍の数の敵が押し寄せる。
「下がれ、化け物め!」
アニエスの剣が夜の闇に閃くと、ふたりのオークが首を失って倒れる──まさしく達人の技だ。
しかし、アニエスひとりで敵を押しとどめるのは不可能だ。
三人の敵兵が怒号を上げて、君とルイズのほうへと突進してくる。
相手は背の高いホブゴブリンだ。
剣を抜いて闘うか(一六七へ)、それとも術を使うか?
SAP・七四四へ
MID・六〇九へ
RAZ・七一五へ
DOZ・七八〇へ
RAP・六六五へ
七四四
体力点二を失う。
君が術を使うと、ホブゴブリンのひとりは動きを止める。
凶暴さは影をひそめ、醜い顔に浮かべた表情も穏やかな、安らかとさえいえるものに変わる。
闘う意欲を失ったようだが、残りのふたりは術の影響を受けておらず、武器を構えて迫ってくる。
ひとりずつ相手にせよ。
第一のホブゴブリン
技術点・七
体力点・六
第二のホブゴブリン
技術点・六
体力点・六
ふたりとも倒したなら、七七へ。
七七
ホブゴブリンは倒れ伏すが、今度は新手のオークが襲いかかってくる。
闘おうと身構えた君のすぐそばに、大きな火の玉が飛んでくる──キュルケの魔法だ。
火の玉は的に命中し、オークは炎に包まれて苦悶の声を上げる。
「ふたりとも、大丈夫!?」
キュルケの呼びかけに、アニエスは
「どうにかな!」と応える。
服も剣もオークの血を浴びて黒く汚れているが、彼女自身は無傷のようだ。
「だが、多勢に無勢だ。このままでは……」
門の前では王党派の兵士たちがまだ持ちこたえているが、その数は大きく減っている。
彼らが倒れれば、すべての敵──ゆうに百人を越す──が君たちに向かって押し寄せてくることになるだろう。
もはやこれまでかと考えたその時、高く鋭い喇叭(らっぱ)の音色が、乱戦の喧騒を圧して響き渡る。
喇叭は砦の外から聞こえてくるが、その音色はオークの荒々しい角笛とはまるで違った、洗練されたものだ。
敵兵は浮き足立って攻撃の手を止め、互いに不安げな顔を見合わせる。
口々に
「後ろに敵がいるぞ!」
「こいつは罠だ! 挟み撃ちだ!」と叫ぶ。
オークどもの言葉は現実となる──≪風≫の魔法で作られたとおぼしき竜巻が門の外で荒れ狂い、敵兵を空中に巻き上げているのだ。
動揺した敵は君たちに背を向け、砦から逃げ出そうと走るが、われがちに門をくぐろうとしたためぶつかり、押し合い、ごった返す。
動きを止めたオークどもは前後から魔法と矢を放たれ、次々に討ち取られていく。
「我々の勝利だ!」
兵士のひとりが高らかに叫ぶ。
敵は砦から一掃される。
門の外での闘いの音も止み、周囲に静けさが訪れる。
ルイズはぺたりと地面にへたり込む。
緊張の糸が切れて、全身の力が抜けてしまったのだろう。
「わ、わたしたち……助かったの?」と、
放心したようにつぶやく。
「アルビオン王党派の援軍か?」
アニエスはそう言って、積み上がったオークの屍の向こう、門の方を見つめる。
門をくぐって何が現れるのかを警戒しているようだ。
「しかし、いったいどこから来たのだ?」
「もしかすると」
上ずった声を上げたのはアンリエッタだ。
「ウェールズさまかもしれません!」と、
興奮気味に言う。
「夕食の時に言ったでしょう? ウェールズさまがこの砦に向かっていると」
「では、確かめに行きましょう」
そう言って、キュルケは大股に歩き出し、アンリエッタとアニエスがそれを追う。
君は地面に座り込んだままのルイズの手をとり、助け起こす。
彼女の表情は暗い。
この場を生き延びることはできたが、≪虚無≫の魔法が使えぬままでは、≪門≫を破壊するという任務の達成は絶望的なのだ。三〇六へ。
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