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#navi(アクマがこんにちわ)
ウェールズと固い握手を交わした人修羅は、一人、バルコニーで風に当たっていた。
ビルに囲まれた都会の風とも違い、ボルテクス界の命を感じられぬ風とも違う自然の風は、心地良く頬をなでていく。
ところで、アルビオンは富士山より高いのだろうか?確認してはいないが、かなりの高度に浮かんでいるのは確かだ。
それなのに下界との温度差に乏しい、それが不思議だ。
「魔法の世界か」
視界を遮るビルもなく、夜空を照らさんとする町の明かりもない。二つの月は地球の満月よりも少し明るく雲を照らしているが、それでも星はよく見える。
人修羅はバルコニーの手すりに手を置くと、軽く身を乗り出すようにして城下町を見つめた。
ニューカッスル城を囲む外壁の、更に向こうには街道が見え、その街道を囲うようにして扇状に城下町が広がっている。
トリスタニアにも負けぬ、美しい石造りの町並みは見事の一言であった。だが明かりは少なく、人のが息を押し殺しているような印象を受ける。
時々ランプの明かりが街道に見え隠れするのが見えた、たぶんニューカッスル城周辺を見張る貴族派の明かりだろう。
さらに遠くへと視線を移す、暗くて遠くまでは見通せないが、かすかに松明の明かりが見えた。松明を持って集団で疎開したか?違うだろう、貴族派の一団が野営しているのだ。
「1カ所、2、3、………何人ぐらい潜んでいるんだろうな、町に」
…もし魔力の槍を雨のように降らせば、城下町ごと貴族派を消し飛ばせるんじゃないか?
人修羅は両手で頭を抱えた、ウェールズは『あやつらはそのために流されるであろう民草の血のことを考えぬ。荒廃するであろう、国土のことを考えぬ』と言っていた、人修羅が力を使えば非戦闘員はおろか国土を荒廃させてしまう。
「どうすりゃいいんだ」
仮に、この国を荒廃させずに戦うとしたら、単騎で敵陣に乗り込み、貴族派の首魁を生け捕って連れてくる程度のことしか思いつかない。
仮にそれが出来たとしても、その後は平穏では居られない、いずれ誰かがアクマの力に目を付け、俺とルイズを利用しようとする人々が現れるだろう。
その時ルイズはどうなる。
俺に頼り切ってしまうのだろうか?それだけは避けたい。
人修羅は、空を見上げた。
ルイズは”ゼロのルイズ”と呼ばれ続けながらも、努力を怠らず、貴族として如何に生きるべきかを学んでいた。
逆境の中で生きる人間は美しく、強い。
魔法に失敗し、泥を被りながら練習を続けるルイズは輝いていた。
ひたむきに努力したからこそ、努力が実ることも、努力が実らないことも知ることができるはずだ。
その輝かしさを忘れずに育ってほしい。
いつか今以上の困難に立ち向かう日が来たとしても、残酷な決断を迫られた時が来るとしても、それまでの生き様がひたむきであれば毅然として生きられるはずだ。
ルイズが人としての輝かしさを失う姿など、見たくない。
だから今は、ウェールズ皇太子の選択を見届けるべき…かもしれない。
人修羅は、ふと城内の楽しげな声に心を惹かれた。
パーティに顔を出すべきかと思ったが、あることを思い出し、パーティー会場とは別の場所に歩いて行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんか雰囲気が似ていると思ったら、国会議事堂か。あれも雰囲気は石造りの城みたいなものだったな…」
人修羅は、鏡のように磨かれた石造りの城内を見回しながら、ロングビルの寝かされている部屋に向かった。
衛兵に話を聞き、ロングビルの部屋を教えてもらうと、パーティの席から分けてもらった食料を手に部屋へと訪問した。
ロングビルにあてがわれた部屋は、ゲストルームの体裁を保ってはいるが、ルイズ達の部屋とは雰囲気が異なっている。
特に、扉の前に立つ衛兵の雰囲気が違うのだ、ロングビルが望まれない客であることは明白であった。
衛兵にロングビルとの面会を頼むと、衛兵は扉をノックして中のメイドを呼び出した。
メイドに促され、ゲストルームに入室すると、さらに奥にあるベッドルームへと通される。
ロングビルはベッドの上で上半身を起こし、静かに窓の外を見つめていた。
「ロングビルさん」
人修羅が声をかけると、ロングビルは気怠そうに人修羅の方を向いた。
「…あんたか」
「飯、持ってきましょうか」
「さっき食べたよ」
そう言うと、ロングビルは視線を窓に移した。
「ここは、ニューカッスル城だってね。こんな形でニューカッスルの城に入るなんて、想像もしていなかったよ。
明日は決戦だって?」
「そうらしいですね」
「…殺し合って、みんな死んでしまえばいいのさ。王党派も貴族派も、みんな…」
ロングビルの横顔は悲哀に満ちていた。
「余計なことを話したのは、あんたかい」
船室での事を思い出し、人修羅は首を横に振った。
「何も聞かれてませんよ。それにロングビルさんは魔法学院の秘書、でしょう?」
「そっか、じゃあ、あたしのことを知ってる奴が居たんだ。目が覚めて驚いたよ、メイドはあたしをマチルダって呼ぶしさ。どう見ても軟禁向けのゲストルームだしね…」
「…船室でも聞いたけど、どうして、名前を隠してるんですか?」
人修羅がベッドの脇に立ち、そう質問すると、ロングビルは悔しそうに目を細めた。
「没落した貴族の名前なんか出して働けるものか、何処の国にだって『情けをやろう』って、近づいてくる奴はいるんだ。自分より格上のメイジを囲いたいだけなんだ、そういう奴らは」
吐き捨てるように言って、顔を伏せる。
「あたしはどうなってもいいんだ、今更、でも、巻き添えを食って親が処刑された奴らはそうじゃない。子供なんて奉公に出たっきり慰み者になるかもしれないんだ。没落するってのはね、そういう事なんだよ」
嗚咽の混じる言葉には、偽りなど欠片も感じられない。
その時、不意にノックの音が聞こえた。
扉を開けて現れたのは、ウェールズ皇太子であった、ウェールズはベッドに座るロングビルを見つめる。
「久しぶりだね、マチルダ」
ウェールズは懐かしさと悲しみを含んだ目で、ロングビルを見ている。
「何の用…」
「朝早く、非戦闘民を乗せた船が出る。君にはそれに乗ってほしい」
「あたしを殺すんじゃないのかい」
「どうしてそんな事をしなければならないんだ。僕は、モード大公と、領地の者達が処刑されたと聞いただけで、何も聞かされてない。
自分で調べようにも誰も彼も口を閉ざしている。教えてほしい…なぜ叔父は、大公は処刑されたんだ、なぜサウスゴータの家まで不名誉印など与えられたのか!」
「何も知らないのか!今更知って、今更、いまさら!」
体を起こしてウェールズに飛びかかろうとするが、人修羅がそれを止めた。
「離せ!ちくしょう、ちくしょう!」
ロングビルの腕と肩を掴み、動きを封じた人修羅に向けて、ウェールズが首を横に振った。
「いいんだ。離してやってくれ」
「…わかった」
人修羅はゆっくりとロングビルから手を離す。
だが、解放されても暴れる様子はない、ロングビルはただウェールズを睨み付けてるばかりで、手を出そうとはしなかった。
「護衛も杖も持たずに来るなんて、不用心だね。あたしを侮ってるのか、哀れんでるつもりか、ええ?」
「ちがう。 僕は本当のことを知りたいんだ。だから君がここに居ることも王は知らない」
人修羅もこの会話には参った。やはり自分は席を外すべきだろうかと思い始めたところで、ウェールズが人修羅の方を向く。
「すまないが…」
「いや、いい。外に出ているよ」
とだけ答えて、すぐに部屋の外へ出た。
が、人修羅の耳は普通の人間とも、使い魔ともちがう。意識を集中すれば二人の会話を聞くことぐらいたやすい。
『どうか教えて貰えないだろうか。僕には従姉妹が居たかもしれないんだ、若き日の王が如何に苛烈だったとはいえ、アルビオンの財務と宝庫を司るモード大公が家族共々処刑されるほどの罪があったのか、調べれば調べるほど疑問なのだ』
『…教えてやるよ、あんたらが、何をしたのか…』
人修羅は無言で、その場を離れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
しばらく後、人修羅はバルコニーから城内へと入り、給仕をしていたメイドに声をかけて寝所の場所を聞くと、メイドは気を利かせてロウソクの燭台を持たせてくれた。
夜目が利くから必要ないのだが、いちいち断るのも失礼だと思い、受け取る。
真っ暗な廊下をロウソクの明かりだけで歩いていると、廊下の途中に大きな窓が開いていてた。そこには月を見上げて涙ぐんでいる少女がいた。
桃色がかったストロベリーブロンドの髪と、幼さ残る白い頬に伝う涙……。人修羅は息をのんだ。
人の気配に気がついたのか、ルイズが振り向いた。ロウソクを持った人修羅に気がつくと、目頭をごしごしとぬぐったが、ルイズの顔はまた泣きしそうにくずれた。
人修羅が近づくと、ルイズは力が抜けたように人修羅の体にもたれかった。
「…………」
人修羅は、自分の胸に顔を押し当てるルイズを見て狼狽えそうになったが、何とか肩を抱きしめることを思いついた。
ルイズが人修羅の体を抱きしめると同時に、ルイズの肩をやさしく抱きしめる。
泣きながら、ルイズが心中を吐露した。
「ウェールズ皇太子も、陛下も、みんなどうして死を選ぶの?どうして……」
「…どうしてだろうな。正直言って、俺だって彼らを逃がしたい。でも彼らは死のうとしている」
「なによそれ。どうしてなの、愛する人より、大事なものがこの世にあるっていうの?」
抱きついたままのルイズの肩に手を置き、優しく背中に回した手を解く、そして人修羅は体をかがめてルイズに視線を合わせた。
「ルイズに願いはあるか?」
「願いって…」
「そのままの意味だ、カトレアさんの病気が治るとか、家族を守るとか、貴族として責任を果たすために自分が死ぬことを考えたことはあるか?」
「…あるわ」
答えにくい質問だったが、ルイズは正直に答えた。
「彼らにとって、今がその時なんだろう」
ルイズは、黙って人修羅の言葉を反芻していた。
貴族としていかなる死に様があったか、歴史を学べば嫌でも知識として蓄えられていく。しかし彼らの心中を見せつけられたことは一度もなかった。文章で語られる英雄譚への憧れは、ウェールズ皇太子をはじめとするアルビオン王党派を目の当たりにして崩れ去った。
「…だとしても、納得なんかできない…わよ…」
ルイズがそう答えると、人修羅は燭台を床に置いた。
「海賊に変装した皇太子達の前で、殺すなら殺せと言ったじゃないか。あの言葉が嘘だったとは思えない。あれは死に向かう覚悟を知った人でないと言えない言葉だ」
「でも、あれは、人修羅が居たし…」
人修羅は左手の甲を見せた。
「どうしても納得できないのなら、俺を使え」
「使えって…」
「俺は、この程度のルーンなら何時でもかき消せる。俺はルーンの力でルイズに従ってる訳じゃないんだ。このルーンさえ消えれば、俺はルイズの使い魔じゃなくなる。
使い魔でも何でもないアクマが皇太子を連れ去っても、貴族派を殺しても問題ないだろう。必要なら、俺に命令すればいい。ウェールズを連れ出せと…」
ルイズは顔を上げ、正面に見える人修羅に目を合わせた。
「だめ、だめよ!あなたは私の使い魔なんだから!そんな…絶対に、だめ!」
「それなら、これからどうする? このまま彼らを見殺しにするのか」
人修羅の視線はルイズを睨んでいるかに見えたが、ルイズにしてみれば、どこか懐かしさを感じるものであった。
気づいては居ないが、幼い頃のルイズはその瞳を何度も見ていた。
何の魔法を唱えても爆発させてしまうルイズを見守っていた、ヴァリエール公爵の瞳によく似た雰囲気なのだ。
公爵はルイズを不憫に思っていたが、蔑むような哀れみはかけなかった。己の責任に於いて魔法を行使するという責任感を育てるため、厳しく接してきた。
人修羅もまた、ルイズを甘やかしたかったが、辛い決断を促さずにはいられなかった。
この決断がルイズの血肉になってくれれば…そう思って、人修羅はルイズに選択を迫った。
「……もう一度、説得するわ。だって、あの人達に死んで欲しくないもの。」
それを聞いた人修羅は、にっこりと笑ってルイズの頭を撫でた。
「俺にはその答えが正しいか解らない。でも、俺も同じ考えだ。彼らに死んで欲しくないルイズも…あ、ルイズさんと一緒に、彼らを説得しに行くよ」
ルイズはくすぐったそうに身をよじると、頭に置かれた手を掴み、ぎゅっと握りしめた。
「もう…いちいち言い直さなくて良いわ。呼び捨てにして」
「えっ」
「いいの!」
「解ったよ、ルイズ……さん」
「……………」
「ル、ルイズ」
「それで良いのよ」
ルイズは満足したようにふんぞり返ると、人修羅の手を取って歩き出した。
「行きましょ、パーティの最中でも構わないわ、皇太子様に姫様の思いをもう一度伝えてみる」
「ああ、行こう」
人修羅は手をつないだままルイズの脇をすり抜け、ロウソクの燭台で廊下を照らした。
重い責任に潰されかけていた少女は、力強い足取りで歩みを進めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「殿下」
パーティの会場から一人離れ、バルコニーで城下を見つめていたウェールズは、背後からかけられた声に気がついた。
「おや、大使殿。楽しんでおられるかな」
「礼を失するのを承知で殿下に申し上げます。殿下、どうかトリステインに亡命なされませ。このパーティで笑っている方々を、死ぬと解っていて見捨てることはできません」
跪いて亡命を懇願するルイズを見て、ウェールズの表情が優しくほころんだ。
「案じてくれてるのか、私たちを。船の上でもそうだったが、きみは優しいのだな」
「…私は、貴族派の叛徒と如何にして戦ったのか、いかなる驚異なのかを一番ご存じな、皇太子殿下に亡命していただきたいのです」
「ふむ…、いずれ叛徒どもがトリステインへと牙をむくことをお恐れて、せめてその手口を知るためか?」
「それだけではありません。王家の血をここで絶やすのは、始祖ブリミルへの冒涜ではありませんか、せめて……せめて」
ルイズは頭を下げたまま懇願するが、ウェールズは動じない。
人修羅を見ると、そっと目を閉じて黙礼をした。ウェールズはこの主従に最後のはなむけをしてやりたくなった。
「もういい。君は私を説得するために色々と言葉を考えてくれたようだが、私の決心は変わらない」
その言葉を聞いたルイズは顔を上げ、ウェールズを見上げた。
「どうして、どうしてですか!姫様に一目会うことも、叶わないのですか!」
「守るべきものがあるからだ。守るべきものの大きさが、私を突き動かす。死の恐怖に愛情が麻痺しているわけではないし、アンリエッタをないがしろする気もないのだ」
「…殿下が、名誉のため死ぬのは解ります、ですが」
「それは違う」
ウェールズが語気を強めて言った。
「アンリエッタはいつまでも少女のままでは居られないのだ。大使殿よ、一つ伺いたいが…先ほどの言葉はすべて君の考えか?」
「は、はい」
「ならば、尚更私は君の言葉を聞くことはできない。君は非公式とはいえ大使としてウェールズ・テューダーの前にいる。国家から全責任を預けられているのだ、君の言葉はトリステインの言葉なのだよ」
「…………」
「ウェールズは勇敢に戦って死んだと伝えてくれないか。そして、一人の少女としてではなく、王女として理不尽に立ち向かえるようにと、彼女を守ってやってくれないか」
「……はい」
ルイズはもう、何も言うことができなかった。
自分が想像していたよりも、ずっとこの人達は大人だったのだから、少女である自分には何も言うことができなかった。
「今日はもう休みなさい。明朝にはなむけを渡そう。私はまだパーティに参加しなければならないのでね」
ウェールズはそう言ってバルコニーを離れ、パーティーの輪に入っていったが、すれ違いざまに人修羅へ視線を向ける。
「いいのか?」
人修羅がルイズの肩に手を乗せ呟くと、少しの間があって答えが返ってきた。
「うん…」
ぐしっ、と涙を拭き、ルイズは顔を上げて歩き出した。
涙こそ流しているものの、弱々しさは感じられない足取りで歩き出した。
「今日はもう休みましょう、明日は早いから…」
宴の席には混ざらず、今日はこのまま眠るつもりだろう。人修羅は「ああ」と返事をし、燭台を持ってルイズの後を追った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ルイズを部屋に送り届けた人修羅は、眠る気になれず、バルコニーに向かって歩いていた。
明日には敵の総攻撃が始まる…そう言われて『なら明日の朝まで安全ですね』と言えるほど楽観的ではない。
奇襲に対処できるように、いつでも飛び出せるように、明朝まで外を見るつもりだった。
ふと気がつくと、後ろから誰かが近づいてくる気配がした。
殺気は感じられなかったので、無視して歩を進めていると、後ろから肩を叩かれる。
「きみ、明日は早いぞ」
「解っているつもりですが、なかなか眠れなくて」
人修羅に声をかけたのはワルドだった、ワルドは冷たい目つきで人修羅を見る。
「きみに言っておかねばならぬことがある」
冷たい声で言った。
「なんですか?」
「明日、僕とルイズはウェールズ皇太子殿下を媒酌人として、婚姻の誓いをする」
「え?」
人修羅は呆気にとられた。
「あの勇敢なウェールズ皇太子は、快く引き受けてくれた。この決戦の前に、僕たちは式を挙げる」
「ルイズさんは何と?」
「先ほど確認をした。ウェールズ皇太子の華々しい最後の仕事として相応だろうと言うと、良い返事を貰えたよ」
「そうですか…」
結婚を悩んでいたはずのルイズが、ウェールズ皇太子と話をしたことで、ヴァリエール家を守ろうと決断したのだろうか。
だとしても、あまりにも急だ。
「私たちはグリフォンに乗って、ラ・ロシェールまで下りるつもりだ、君は一足先に船でここを出発するといい」
「グリフォンで?」
「なに、二人が乗って滑空するだけなら問題ない」
「…ルイズさんがそう望むのなら、構いませんよ」
「では君とはここでお別れだな、明日は早い。寝ておきなさい」
「ええ」
そう言って別れはしたものの、人修羅に眠る気などなかった。
城下を一望できるバルコニーに出て、ひたすら外を見続けていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝。
ニューカッスルから疎開する人々が、鍾乳洞に作られた港に停泊している『イーグル』号に列をなして乗り込んでいた。
硫黄を詰んでいた輸送船『マリー・ガラント』号にも、脱出する人々が乗り込んでいる。
そこにはロングビルの姿があった、艦に乗り込む順番が回ってきても船には乗ろうとせず、踵を返して外へと歩いて行く。
「おい、あんた」
「…なにさ」
「何処へ行くんだ、もう船は出ちまうんだぞ、これが最後なんだぞ」
「忘れ物しているんだよ」
ふらふらと歩いているロングビルに、誰かが声をかけるが、別の者がそれを止めた。
「よせやい、もう気がおかしくなってるんだ」
「でもよ、あんな別嬪さん」
「別嬪さんだから何かあったんだろ、俺達だって他人に構ってる暇はねえぞ、残りたい奴は放っておけ」
ロングビルは疎開する人々の声を振り払うように鍾乳洞の外へと歩いて行った。
鍾乳洞の外へ出ると、空の眩しさに思わず目を細めてしまう。
そんな彼女の耳に、聞き慣れた少年の声が聞こえてきた。
「ロングビルさん」
「人修羅…? ミスタ、何の用だい。悪いけど私は船には乗らないよ」
「…そう言うと思ってました。杖もない今、身を守るすべも無いでしょう」
人修羅が近づこうとすると、ロングビルはビクッ、と驚いて後ずさった。
「あ、何かしようってんじゃないです。それに、皇太子から何か聞いたわけでもありません」
そう言って、一本の剣と、『メディアラハン』の封じ込められた石を、ロングビルに渡そうとした。
「行くんでしょう。大事な人のもとへ」
ロングビルは警戒しているのか、人修羅から視線を外そうとはしない。
「あいつらが何か喋ったのか、どこまで聞いたんだい…」
「なにも聞いちゃいません。ただ、俺は船室で『ティファニア』って呟いたときから、ロングビルさんがその人に会いに行くだろうと思ってました」
「…あれは気のせいじゃなかったんだね」
「ええ」
剣を手に取ると、ロングビルは人修羅の顔をじっと見つめた。
「なんで…、あんたは私を気にかけるのさ」
人修羅はその時、ほんの少しだけ表情を変えた。胸にちくりとした痛みを感じ、思わず顔をしかめたのだ。
「俺はそれなりに平和なところで生まれたから、家族仲は悪くなかったし、友達もいた。でも戦争になって、友達とは生き別れて…再会は敵同士だった。
ロングビルさんの事情は知らないが、家族が大事ならできるだけ一緒にいるべきだと思ったんだ」
その言葉に感じるものがあったのか、ロングビルもまた、辛そうに顔を背けた。
「それと、これもやっておかなきゃな… 『スクカジャ』」
人修羅が何かを唱えると、ロングビルは体が軽くなるのを感じた。
「なんだい、これ」
「今のは身軽になる魔法。一日は保つはず…。それと『ラクカジャ』」
今度は体が何かに包まれ、力が沸いてくる気がした。
「これは?」
「剣で切られても、これなら傷一つつかないはずだ。効果はおそらく明日の今頃まで。その間に何とか危険な場所を抜けてくれ」
「ふうん…硬化とは違うんだね」
ロングビルは何かを考え、人修羅の方を向いた。
「…礼は言わないよ」
「ああ」
人修羅は、ロングビルを見送ると、鍾乳洞の方を向いた。
もう船は出航したのだろう、洞窟の奥に人間の気配は感じられない。
『なあ相棒、いいのかい』
背中のデルフリンガーが、心配そうに呟く。
「仕方ないさ、見捨てるわけにもいかないだろ」
『この間みたいに、敵の戦艦でもぶんどって帰るかね』
「それもいいが、もっと穏便に済ませたい。出来るなら血を流させたく無いし…」
『不思議だなあ』
「何が?」
『それだけの力があって、嬢ちゃんの事を大事に思ってるなら、これぐらいの戦争ひっくり返すかと思ったのさ』
「ああ…そうだな、ひっくり返しても良かった。ウェールズ皇太子には死んで欲しくない。 …本音を言えば俺がどこまで手を出していいのか、悩んでる」
『相棒はよう、どうしてそんなに悩むんだ、悩むのが悪いって訳じゃねえけどさ』
「そうだなあ、そうだ…。きっと、悩まないと”人間らしくない”から…?」
人修羅はふと空を見上げた、空にはまだ竜騎士の姿は見えない。
もし見つけたら、一匹捕まえてトリステインまで飛んでいこう、とりあえず行けば何とかなるだろう。
やれやれと頭をかきながら、ニューカッスル城に向けて歩き出した…その時。
人修羅の心に、じくじくとした何かが流れ込んできた。
「…なんだ?」
『どうした?』
「いや、ルーンが光って…」
(いや!)
「ルイズ?」
左手のルーンを見ると、寿命を迎えたネオン管のように明滅している、そこから感じる僅かな魔力は、人修羅に何かを伝えようとしていた。
「ルイズの声だ」
耳を澄ませて、気を落ち着けて、弱々しいその魔力に耳を傾けた。
するとそこから何かが聞こえてくる、
(やだっ、やめて! どうして… ワルドさま どうして!)
悲痛な叫びと、脳内に伝わる血の色…血に染まったウェールズの姿…
「!」
瞬間、地面が爆ぜた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
同じ頃、ニューカッスル城を取り囲む、王党派防衛線の一角にある礼拝堂。
ここには一般の者達も使うことはできる礼拝堂があり、ウェールズ皇太子は新郎と新婦の登場を待っていた。
この礼拝堂はアルビオンでも古くから使われている由緒正しい礼拝堂であるため、きらびやかな装飾こそ無いものの、王族の儀式に相応しい荘厳さがある。
アルビオン王族の礼服である、王族の象徴たる明るい紫のマントと、七色の羽がついた帽子を被ったウェールズが、扉の開く音を聞いた。
ルイズとワルドが礼拝堂へ入る、ルイズはその荘厳な雰囲気に気圧されることなくワルドと共に足を進め、ウェールズの前に並んだ。
ルイズの心は、驚くほど平静だった。
ラ・ロシェールでワルドに求婚された時とは違い、結婚を決意したわけではないものの、結婚を否定するほどではなかった。
朝早くワルドに起こされ、結婚式の装束を借りた時は驚いたが、感慨深い訳ではなくただ驚いただけだった。
そんな何処か冷めた気持ちが、今の自分なのだと気がついた。
ワルドの格好は、いつもの魔法衛士隊の制服である。
ワルドはルイズの服装を変えようと、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に乗せようとしたが、ルイズはその手を遮った。
「新婦?」
「ルイズ?」
二人がルイズの顔を覗き込む、するとルイズははっきりと首を振った。
「どうしたんだ、ルイズ。気分でも悪いのかい?」
「違うの」
「日が悪いなら、改めて……」
「そうじゃない、そうじゃないの。ごめんなさい、ワルド、わたし、今の私は何もできない、なんの力もない。それに、結婚を迷ってる私が、こんな気持ちで新婦の衣装を着るなんて、できない…」
ウェールズは首をかしげたが、すぐに笑顔を見せた。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「はい。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、私は学生の身で、メイジとしても未熟なのです。ワルド様に相応しいメイジではないのです。」
ワルドは驚きこそしたものの、戸惑いは見せずにルイズを見つめた。
ウェールズはさてどうしたものかと考え、残念そうにワルドに告げた。
「子爵、この度の婚姻、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」
「仕方がありませぬ」
ワルドはそう呟くと、ポケットから小さな木箱を取り出した。
「……ルイズ、魔法衛士として王宮に仕えてから、君に会いに行かなかった僕の不誠実を許して欲しい。結婚は叶わぬまでも、せめてこの婚約の証として指輪を受け取ってくれないか」
「婚約の、あかし?」
「そうだ」
ルイズは驚きワルドを見た、ちらりとウェールズを見ると、仕方がないなといった感じで笑顔を浮かべている。
「ずうっと君に渡そうと思っていたんだ、トリステインの水精霊より深い、ラピスラズリの指輪を…」
ワルドはそう言うと、指輪をルイズに手渡した。ルイズは戸惑いながらも、その指輪を左手の薬指にはめる。
「ちょうど良いかな、どれ」
貴族の指輪は、一定以上のものであれば魔法による調節が効く、ワルドはルイズの手を取ってルーンを唱えた。
「……」
並の者なら聞き流してしまうであろう、その短い一言に、ウェールズが気づいた。
「子爵、君は!」
ウェールズは咄嗟に杖を構え、呪文を詠唱したが、『閃光』の二つ名を持つワルドはそれ以上に素早く杖を引き抜いて、『エア・ニードル』の詠唱を完成させた。
ウェールズの胸を、青白く光るワルドの杖が貫く。
「がっ、はっ…………貴様っ」
ウェールズの口から、先決が溢れ出る。ワルドは念入りにウェールズの胸をえぐると、杖を引き抜いた。
「僕には三つの目的があった。 一つはルイズ。一つは手紙…もう一つは君の命だ。ウェールズ」
冷たい瞳でウェールズを見下した後、ワルドはルイズに向き直った。
「さあ、ミ・レディ。グリフォンに乗って旅をしよう、手紙はちゃんと持っているかい?僕に貸しておくれ」
「はい」
ルイズは人形のように返事をし、手紙を渡した。
「…ここに、ございます」
「良い子だ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ルイズ!」
人修羅が礼拝堂にたどり着いた時、すべては終わっていた。
開けっ放しのから中に入ると、ウェールズの親衛隊と思しきメイジが、ウェールズを治癒しながら必死に呼びかけている。
「殿下!」
「ウェールズ様!」
「何てことだ、決戦を前にして、こんな…」
人修羅はその場に近づこうとして、兵士に止められる。
「待て!これ以上近づいてはならん!」
「ウェールズは、皇太子はどうしたんだ」
「貴殿の知ったことではない!」
鼻につく血の臭い、そして怨念とも言うべき残留思念が、人修羅の五感を刺激した。
「どいてくれ」
「これ以上近づくなと…ぬおっ!?」
人修羅は兵士達の制止をふりほどき、ウェールズのそばに跪いた。
「間に合うか…『メディアラハン』」
詠唱と共に、ウェールズの体を人修羅の魔力が包み込む、すると胸の傷は一瞬でふさがり、周囲に飛び散っていた血液は光の粒子となってウェールズの体に還元されていった。
「水系統のメイジは誰だ? 殿下の傷は塞がったはずだ、見てくれ」
はたして人修羅の言葉は真実だった、水系統のメイジがウェールズの体を観ると、傷跡すら残らない完璧な治癒を施されており、傷ついたはずの心臓も完全に再生している。
「ばかな!そんな…いったい、今のは何なのだ、完全な治癒なんて、そんな事が」
水系統のメイジが人修羅を見て、そう叫んだ。
「それより、ここに居たはずのワルド子爵と、ルイズさんを…トリステインからの大使を見なかったか?」
人修羅がこの場にいる面々を見渡す、だが、誰も行方を知らないのか、返事は無かった。
諦めて立ち去ろうとしたその時、ウェールズが突然咳き込んだ。
「が、がふっ、は、はあっ、はあっ…」
「殿下!」
水系統のメイジがウェールズを抱き起こそうとする、ウェールズはその手を取って、先ほどまで大量の血を流し、心臓をえぐられていたとは思えぬ動きで立ち上がった。
「……傷が、傷がない」
「そちらの方が、見たこともない治癒をかけて下さいました」
水系統のメイジが言う、”そちらの方”を見て、ウェールズは驚いた。
「君は!脱出したはずではなかったのか」
「ルイズの身に何かが起こった、”嫌だ”とか”助けて”って声が、ルーンを通して聞こえたんだ。だから俺はここにいる」
ウェールズははっとして、辺りを見た。新婦の着るマントは踏まれ、冠は無造作に転げられている。
「しまった…ワルド子爵は裏切り者だったんだ、私の命と、大使殿と、手紙が目的だと言っていた」
「なに…?」
人修羅の目が鋭く、細められた。
「婚約の指輪を渡し、私はそれを見届けた、指輪のルーンは普通のルーンと違っていた、確か、土系統のルーンではなく、水系統のルーンだ。おかしいと思った私が問いただそうとして、ワルドに胸を貫かれた…」
ウェールズは自分の胸をさすり、傷口のあたりを押さえた。
完全に治癒されたとはいえ、先ほど胸を貫かれた感覚を忘れられはしない。
「痛みはない…君は治癒のメイジだったのか?」
「違う。治癒の力を持ったアイテムのおかげだ。…そういうことにしておいてくれ」
「…わかった」
「それよりも、二人が何処へ行ったのか心当たりはないか?」
ウェールズは少しの間考え込むと、はっとして顔を上げた。
「鍾乳洞だ、たしか子爵はグリフォンに乗って帰ると言っていた、トリステインに戻るとは限らないが、外はこれから戦場になる、ニューカッスルからの出口はあの港しかない」
「鍾乳洞か…わかった。 そして、すまない。」
人修羅はウェールズに礼を言うと、左手でデルフリンガーの柄を掴んだ。次の瞬間、ウェールズの顎に右拳がかすめ、ウェールズの脳は揺れて意識を刈り取った。
「何をする!」
一人のメイジが人修羅に杖を向けた。
「この人を死なせたくない。頼む、あんた達で殿下を連れ出してくれ」
その言葉に一同が驚く。
「しかし…」
「やりましょう、やりましょうよ、せっかく拾った命です」
迷っている兵達のうち、年のいった者がそう言って歩み出た。続いて若い親衛隊も口を開く。
「やりましょう、ニューカッスルの出口はもう一カ所あります。『フライ』が使えるメイジ三人も居ればなんとかなるでしょう」
「ミスタ、すぐに二人を追って下さい。私たちは殿下を逃がして見せます」
「…わかった」
人修羅は小さく頷くと、デルフリンガーの柄を掴んでルーンの力を引き出しつつ、礼拝堂の外へと飛び出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
鍾乳洞の中で、ルイズはワルドに手を引かれ、大穴の前で待つグリフォンに乗り込もうとしていた。
「さあルイズ、乗るんだ」
「はい」(いやだ…)
魔法学院を出た時と同じように、ルイズを前に乗せた。
「さて…ルイズ、しばらくはトリステインに帰れなくなるが、心配することはない。君の魔法は特別なものだ。きっとレコン・キスタでも君を重用してくれるだろう」
「はい」(嫌だ、嫌だ、嫌だ、嘘だと言ってよ…助けて)
ルイズが頷くと、ワルドは邪悪な笑みを浮かべた。
ルイズが頷くと、ワルドは邪悪な笑みを浮かべた。
「クァァァァァーッ」
「ん?」
と、突然グリフォンが雄叫びを上げた、ばさばさと翼を動かし、落ち着かない様子を見せる。
「何だ?…まさか」
グリフォンの様子は、明らかにおかしい。今までに見たこともない怯えを見せている。
ふと気がつくと、ワルドにも感じられる剣呑な気配が、鍾乳洞の入り口か港へと近づいてくる。これは戦場の臭いだと判断したワルドは、即座に『フライ』を唱えてグリフォンから飛び退く。
瞬間、閃光の二つ名を持つワルドでも反応できぬ速度で、何かかが飛び込んできた。
ズドンォン!という爆発音と共に、秘密港の入り口が吹き飛び、一瞬遅れて剣閃がグリフォンを掠める。
グリフォンは殺気に当てられ「ギィィ!」と悲鳴を上げた、主人を置いて船のいない穴へと逃げ出す。
「ちぃ…臆病な」
それを見たワルドが舌打ちをした。
ワルドに抱きかかえられたルイズは、うつろな目で人修羅を見、人修羅もまたルイズを見つめた。
(たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて……)
「ルイズが嫌がってる」
人修羅が呟くと、ワルドが鋭く人修羅を睨み付けた。
「何? ルイズはこの通り、僕を選んだんだ、使い魔ふぜいが何を言うか」
「嫌がってる、と言ってるんだ」
ワルドは、ふん、と鼻を鳴らし、笑みを浮かべた。
ウェールズの乗る海賊船に拿捕された時、人修羅は空を飛べないから心配だと、ルイズが漏らしていた。
その言葉は本当のことらしく、大穴の上に浮かぶワルドに対して、人修羅は手が出せずにいた。
それを察したワルドは、位置的な余裕からか、ルイズに向かってこう呟く。
「なあルイズ、君は僕についてくる、だろう?」
「はい」
「使い魔がそれを邪魔してはいけない、そうだろう?」
「はい」
「さあ、使い魔に命令するんだ、邪魔をするなとね」
「はい。 人修羅、ワルド様の、じゃまを、しないで」
ルイズの言葉と同時に、人修羅の心に叫び声が聞こえてきた。体を操られ、心にもない言葉を放つ苦痛が、泣き声となって人修羅の心に伝わる。
「ははは、どうだ使い魔くん、君は「黙れ」
ワルドの言葉を遮り、じわりと、人修羅の体が輝く。
「ち、逆効果か。まあいい、ルイズ、君の魔法で彼を打ち倒すんだ、彼は僕たちを殺すつもりだぞ」
「はい」
「子供の時に見せてくれた練金のように、吹き飛ばしてやるんだ」
「はい」
そうしてルイズは杖を手に取り、人修羅に向けた。
(いやだ、いやだ、いやだ!)
(どうして、どうして、どうして)
(やめて、やめて!私の体はどうなってもいいから、人修羅!ワルドを倒して!)
ルーンから聞こえる声に、焦りを感じながらも、人修羅は隙をうかがっていた。
ルイズの魔法は閃光と衝撃を伴う、そのショックは人修羅が受けるばかりではない、ワルドも閃光に目をやられ音に気を散らされるはずだ。
ルイズを人質に取られている状態では、下手にワルドを混乱させることもできない、隙を突いて、ダンテの使っていた『スティンガー』か、ライドウの『的殺』が使うしかない。
ワルドの体を貫き、ルイズを抱き留めて、そのままの勢いで対岸の壁にデルフリンガーを突き刺せるはず…。
乱暴だがそれぐらいしか手は無かった。
そんな人修羅の覚悟を知ってか知らずか、ルイズは心の中で必死の抵抗を続けていた。
ルイズが練金のルーンを詠唱する、魔法は失敗し、爆発するだろう。
その爆発こそが、ルイズにひらめきを与えた。
(人修羅を傷つけたくない)
(どうか私の魔法、私の”意思”に従って)
(もう二度と魔法が使えなくてもいい、このまま死んでもいい)
(だから『爆発』よ、私を…)
詠唱の完了と同時に、ルイズの体から、系統魔法とは違う『力』が放たれた。
その流れは人修羅の予想に反し、人修羅を害すことなく周囲に散らばり、渦を巻いてある一カ所に集まっていった。
渦の中心には、ルイズが…
「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
人修羅が飛び出すと同時に、ルイズの体がはじけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
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