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わたしの手に、ぼんやりとした光が灯る。
「何だこれは!? くっ! させん!!」
慌てるワルドの声が聞こえると同時に、一際明るい光がわたしを包む。
「チィッ!!」
その光を攻撃するものと判断したのか、ワルドは舌打ちし、大きく後ずさった。
しかし、この光は誰かを攻撃するものじゃない。
「……ソレは何の冗談だルイズ?」
わたしの手の中に現れた物を見て、眉をひそめたワルドが呟く。
ワルドが見ているもの、ソレは小さな人形。
「見てわからないワルド? 人形よ」
「時間稼ぎのつもりかいルイズ? ならば失敗だよ。事態は何も好転していない」
呆れた様子で鼻で笑うワルドへ、わたしは余裕の笑みを見せ言う。
「いいえ、終わりよワルド」
「……っ!!」
わたしの様子を見て何かを感じたのか、ワルドは言葉も無く飛びかかろうとしてきた。
だが、わたしの方が早い。
「来なさい! ダネット!!」
人形を掲げ、声高々にわたしが叫ぶと、わたしとワルドの間に光が踊った。
「なっ!?」
ワルドの声がする中、光は不思議な陣を描き、中心から天高く伸びた後、急速に消滅する。
「全く、呼ぶのが遅いですよ、お前」
そこに一人の使い魔を残して。
「やれるとこまでやったんだけどね。ちょっとキツイみたいなのよ」
彼女の身体中には包帯が巻いてあり、所々血も滲んでいる。
「仕方ありませんね。じゃあ帰ったらクックなんとかをお腹一杯食べさせなさい」
それでも、傷のことなどおくびにも出さずにわたしに笑いかける。
「そうね。じゃあさっさと終わらせて帰るわよダネット!!」
緑色の髪を翻し、髪と同じ色の短剣を構え、わたしを守る。
「任せなさい!!」
ワルドを見ると、流石に驚いたのか固まっていたが、ダネットの姿を見ると戦いの構えを取りつつ言葉を発した。
「生きていたのかガンダールヴ」
ワルドの声を無視して、ダネットが問いかける。
「お前に一つ質問があります」
「質問……?」
ワルドの言葉に頷き、ダネットは息を吸った後に言葉を続けた。
「お前の名前を教えなさい」
「名前だと? ふざけているのかね?」
ワルドの顔を真剣な表情で見ながらダネットが言い返す。
「ふざけてなんかいません。教えなさい」
「…………ワルドだ」
名前を聞いた後、ダネットはしばらくブツブツと呟き、二本の短剣をくるくると回して、一本をワルドに突きつけて言った。
「覚えました。ワルド、お前の首根っこへし折ってやります!!」
言うが早いか、ワルドに向かって飛び掛るダネット。
しかし、傷のせいか以前のような動きよりも遅いのがわたしの目にもわかる。
ワルドもそれに気付いたようで、口の端を上げて笑い、軽くいなそうとした。
だが、その顔は一瞬で凍りつく。
以前、ギーシュとの戦いの時、ダネットは凄い速さでゴーレムを倒したことがある。
その時も凄まじい速さだったが、今のは消えたとも言える速さ。
怪我で動きが鈍ったと思っていたのはフェイント。
それに気付いた時には、既にダネットはワルドの後ろにいた。
「遅いです」
その言葉と同時に、ダネットは何の躊躇いもなくワルドの背中に深々と短剣を突き入れた。
「終わりです。治療が早ければ助かるかもしれません。さっさと失せなさいワルド。」
わたしの知り合いという事で気を使ったのか、わたしが見てる前で誰かを殺したくなかったのか、もしくはその両方か。一瞬、チラリとわたしを見た後に、そんなことを言うダネット。
「甘ぇぞセプー雌! 後ろだ!!」
「へ!? い、今の声ってうわぁっ!!」
『声』の言葉に反応し、慌ててダネットが身をよじる。その身体のすぐ横を風の刃が吹きぬけ、背中を刺されたワルドを深く傷つける。
間違いない。今の魔法はエア・カッターだ。なら、この魔法を使ったのは……。
「……今、吹き飛んだのは風の偏在って訳ねワルド」
「その通りだよルイズ。今ので消えてしまったがね」
わたしの見る先にいたのは、肩をすくめて微笑むワルド。
風の偏在、風のスクウェアスペルの一つで、自分の分身を作り、もう一人の自分として操る魔法。
「しかし……『声』だけの彼の助言が有ったにしても、今のをかわすか。ガンダールヴの力、やはりあなどれない」
「……偽者ですか」
エア・カッターの衝撃で消えてしまった偏在と、今しがた現れたもう一人のワルドを見据え、ダネットが呟く。
「注意してダネット。あれも偏在かもしれないわ」
「へんざい……? 何ですかそれ?」
「偽者ってことよ。ワルドの偏在が何体いるのか、何体出せるのかわからないから、さっきみたいに倒しても安心しないで」
わたしの説明を理解したのかしていないのか、ダネットはしばらく頭をかしげていたが、短剣を持ち直した後にワルドに向き直った。
「ともかく、全員首根っこへし折ってやればいいんですよね?」
「……まあそうだけど。全く、あんたらしいわ」
「褒めても何も出ませんよ?」
わたしの方をちらりと見てダネットは笑うと、再びワルドに向き直り、ぽつりと言葉を漏らした。
「それと、さっきの『声』……いえ、後で聞きましょう。いきます!!」
ダネットの顔は見えなかったけれど、声が少し震えていた。もしかしたらダネットは、この『声』について何かしっているのかもしれない。
そんな事を考えている間に、ワルドとダネットの第二戦が始った。
ダネットが走り、斬りつけ、飛び跳ねてまた斬りつける。しかし、今度はワルドも油断していなかったのか、ダネットの動きに反応し、受け流して反撃し、かわされては再度一撃を繰り出す。
幾度か切り結んだ後、両者とも飛び退き相対する。
「なかなかやりますねワルド。あの組み手の時は手加減していましたね?」
「はは。真剣勝負でも無い時にレディーを傷つけるのはやぶさかじゃないからね」
「そうですか。なら、今回も手加減してもらえると、簡単に首根っこへし折ってやれるんですが」
「残念だが、そういう訳にもいかなくてね。ところでだ、ガンダールヴ。一つ解せない事がある。その傷で、なぜそこまで動けるのかね?」
ワルドの言葉も最もだ。
確かにダネットの傷は傍目でもわかるほどに深く、あんな動きができるとは到底思えない。更に、先ほどのエア・カッターで傷つけたのか、足と手から血が流れている。
普通の人間ならば、いや、例えダネットが人間よりも強靭だと思われるセプー族という亜人だとしても、あれだけの傷で、あんな動きが出来るのだろうか?
「それは私が支配されているからですよ」
「……支配? 先ほどもルイズが言っていたが、何なのだねそれは?」
「お前は悪い奴だから教えてやりません」
言ってダネットは再びワルドに斬りかかる。
ワルドとダネットの戦いを目にしながら、わたしの脳裏にはある言葉が引っかかっていた。その言葉とは『支配』。
わたしは知らないけれど知っている。
『支配』とは、その者の身と魂を縛りつけ、いかなる時でも召喚し、戦わせる術。
戦わせる為に、支配された者は強制的に力を与えられる。
その力とは、身体能力の爆発的な向上。
つまり、『支配』による『召喚』とは、好きな時に呼び出し、十分どころか十二分に力を使わせる為の外道の術。
「待って……だとしたらダネットは……」
そう、身体能力は向上する。だが。
「あのセプー雌、死ぬなありゃ」
先ほど、ダネットの危機を救った『声』が響いた。
『声』の正体も気にはなったが、それよりも『声』の言った事のほうが気にかかる。
「どういうことよ……?」
「どういう事も何も、相棒だってわかってんだろ? 支配は傷を治す術じゃねえ。例え腕が飛ぼうが足が飛ぼうが、『戦わせる為』の術だ」
じゃあ今のダネットは……。
「やせ我慢ってやつだな。ハハッ、セプーにしちゃいい根性してやがんぜあの奴隷。んじゃ俺たちは、あのセプー雌が戦ってる間にさっさと逃げ出すとしようぜ相棒」
逃げる? ダネットを置いて?
馬鹿を言わないで。わたしはさっき逃げないって誓ったじゃないか。
なのに今してることはなに? ボーっと戦ってるのを眺めて、挙句に逃げようなんて言われてる。
「おし、んじゃさっさと逃げ……相棒、そっちは出口じゃねえぞ」
「黙りなさい」
『声』を無視して、わたしはダネットとワルドが戦う場へ足を進める。
「あー……一応聞くが、自殺とかじゃあねえよな?」
「んな訳ないでしょ。あんた、さっき力を貸すとか言ってたわよね」
何となくわかる。この『声』は、わたしの中にある力とやらを引き出すことができる。
「お? もしかして身体くれんのか? んじゃ早速所有権を――」
「やらないわよ。でも協力しなさい。悔しいけれど、わたしだけの力だけじゃ、助けるどころか邪魔になるだけだもの」
わたしのやろうとしている事を理解したのか、『声』が焦るのがわかった。
「はぁ!? ちょっと待てよ相棒! それって俺に得なことが何もねえじゃねえか!! 第一、武器も無しに飛び込んだら死ぬぞ!!」
「もし協力しないってんなら、ダネットが死んでわたしも殺されるだけよ。わたしは逃げない。絶対にね」
ここまで来てようやく理解した。
この『声』はわたしが黒い剣を手にした時、あの黒い世界で出会った奴。
『声』はわたしの身体を欲しがっている。なら、ここでわたしが死んでしまうのは『声』にとっても困るはずだ。
「…………チッ! じゃあ少しだけだ。いいか? ヤバくなったらあのセプー雌を置いて逃げろよ。あと、何でもいいから獲物を調達しろ」
「獲物って、こんなとこに何があるっていうのよ?」
「あー……そこの死体、そいつ何か持ってんじゃねえか?」
『声』の言う死体、それは。
「皇太子殿下……」
「ハッ! ありゃただの死体だ。どれだけお偉いさんだったとしても、死んじまったら肉でしかねえよ。ほれ、さっさと行った行った」
『声』に言われ、皇太子殿下の遺体に近付くと、むっとする血の香りが鼻を突いた。
目の前まできて手を伸ばした所で、わたしは躊躇する。
「あ? 何やってんだ相棒?」
「……ダネットを死なせない為よね」
わたしの言葉に、呆れた様子の『声』が響く。
「ちげえよ。相棒が生き残るためだ。わかったらさっさと獲物を探せ。じゃねえとあのセプー雌も相棒も死んじまうぞ」
『声』の言葉に、わたしの身体がビクリと跳ねる。
まただ。またわたしは逃げようとした。ダネットの為と言いながら、責任を押し付けようとした。
そうだ。わたしは、わたしの意志で皇太子殿下から武器を剥いででも生き残るんだ。ダネットと共に。
「お叱りは、わたしがそちらに参ったときにお受けいたします」
決意の代わりに謝罪の言葉を言い、皇太子殿下の遺体から、武器になりそうなものを物色する。
小さな携帯用の杖を持っていたので、それを手に取る。武器になりそうなものは杖しかなかったが、武器とは別にもう一つのものが目に付いた。
「これは……」
ぼんやりとだけれど覚えている。これは『水のルビー』と対になる『風のルビー』だ。
ぼやけた記憶の中で、一際きれいな虹を思い出す。
「許されるとは思いませんが、せめてもの償いに、形見として姫殿下へお渡しいたします。どうか安らかに……皇太子さま」
『風のルビー』を懐にしまい、杖を構える。
「こんな棒っ切れで殺し合いするとかマジか」
「でも、ゼロじゃないわ。どんなに小さい牙でもゼロじゃない。だったら、これに賭けてみせる。絶対に逃げない!」
結局、わたし自身は何かの、誰かの力を借りている、無力で『ゼロ』でしかない小娘だ。
ならせめて逃げない。貴族として、誇りあるヴァリエール家の三女として、そしてダネットの主人として。
「さあ、準備はできたわ。次はあんたの番よ!」
「あーもうクソッたれが!! こうなったらなるようになりやがれ!!」
『声』が怒鳴った瞬間、わたしの身体の中を熱いものが駆け巡る。
視界が急激に広くなり、気配を肌で感じ、力がみなぎる。
ダネットを見ると、今では偏在を含む三体のワルドと切り結んでいた。
「よく聞け。相棒の体じゃそんなにもたねえ。速攻で勝負を付けろ。いいな?」
「わかったわ! 行くわよ!!」
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