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「リファインな使い魔」(2009/01/02 (金) 22:21:38) の最新版変更点
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「宇宙のっ!!」
ドッカーーン!!!
毎度お馴染み、春の使い魔召還の儀。テンプレ通り、ルイズは爆発を起こし続けていた。
「ルイズ、プゲラ。」
周囲の生徒達もまともな台詞で馬鹿にするのも飽きたのかぞんざいな事を言う。
だが、ルイズは決して諦めない。
なぜならファーストキスから始まる二人の恋のヒストリーが来る事を体内に刻まれた虚無の力が教えているからだ。
これが長編や恋愛重視の短編ならいいのだが、如何せんここは滑稽無糖なギャグ短編。
ルイズの期待は最悪な形で裏切られるのである。
ドッカーーン!!!
爆発と共に凄まじい存在感が周囲に発生する。
思わず杖を構えてしまったタバサは首を傾げる。
感じたのは存在感である。威圧感ではなく、殺気でもなく、ただの存在感。
(存在感にしては、大きすぎる気もするけど)
爆煙はいまだに残っており、何が召還されたかわからないがルイズ自身も魔法成功を実感したのか、監督役の教師であるコルベール(コイツも杖を構えていた)と笑顔で頷きあっている。
「あらあら、どうやら成功したみたいね。がっかりだわ。」
そう言ったのは隣にいるキュルケ。発言の内容に対して笑顔である。
「心配だったの?」
「な、何言っているのよタバサ!私がルイズの心配なんてする訳無いじゃない!」
顔を真っ赤にして言うキュルケに対してタバサはいつもの無表情で告げる。
「分かり易いツンデレ、乙。」
「あんたって偶に口を開くとほんと、きついわよね。…と、煙が晴れて来たわね。」
キュルケの言うように煙がはれて来て、ルイズが召還した存在が判明しようとしていた。
ルイズは高鳴る胸を押さえながらどんなものが現れてもいいように身構える。
そして、召還されたそれは、朗らかに、清々しく、右手を上げて、挨拶をした。
「Fix(フィックス)!!」
「いっやーーーーーーっ!!!!!!!!!」
召還されたそれを見て、ルイズはあらん限りに叫び、気絶した。
後にタバサはこうコメントする。
全身全霊の悲鳴と言うものがこれほど響くとは知らなかったと。
リファインな使い魔
ルイズが目を覚ましすのに掛かった時間はさほど長くなかった。
視界内にいたコルベールに安堵しながら言う。
「すみません、ミスタ・コルベール。私ったら、自分の爆発に巻き込まれて気絶しちゃうなんて、すぐにでも試験を再開しますわね。」
朗らかに言うルイズに対して、コルベールは心底同情しながら事実を告げる。
「あー、ミス・ヴァリエール。残念ですが…」
コルベールが視線で指した方向には、“アレ”がいた。
「…夢で無いでやんの。」
心の底から吐き出した台詞にいたたましくなりながらも、コルベールは最後通告を述べた。
「あー、ミス・ヴァリエール。コントラクト・サーヴァントを…」
「嫌です。」
ルイズは速攻で拒否した。0.1秒にも満たないのでは無かろうか。
「いや、気持ちは本当によくわかるが…」
「嫌だと言ったら嫌なんです!!」
そして、ついに直視したくもない“アレ”を指さして叫んだ。
「だって、どう見ても変人…。いいえ、変質者じゃ無いですか!?」
そう、ルイズが召還した存在はどう控えめに表現しても変質者だった。
裸に変な形をした ――よりにもよって股関の部分が大きく箱型で膨らんでいる―― パンツらしきものを履き、頭は角が二本付いていてフルフェイスで表情が伺えない兜を被っている。
全身全霊で“自分は変態です!!”と叫んでいるようにしか見えない。
ちなみに、洗濯物を取り込もうとしていた黒髪のメイドが
「ガ、ガンダムたわ。しかもRX-78-2。伝説のファーストガンダム…。」
とおののきながら呟いたのだが、彼女が平民である事、それ以上に何を言っているかわからない事もあって無視された。
召還された対象を無視して契約する、しないを言い争うルイズとコルベール。
「しかし、ミス・ヴァリエール。既にか……彼?は召還されてしまったのです。また、新たに召還しようとするならば…」
暗に召還対象を殺すしか無いと仄めかす。
如何に貴族にとって平民は家畜と同然に思われているとは言え、目の前で(変態だが)人が殺されかねない事実にルイズは息を呑む。
更に小声でルイズに告げる。
「また失敗を繰り返しますか?しかも……彼?と似た存在を召還する可能性もあるのですよ。」
これって、ある種の脅迫じゃないかしら?とも思いながらルイズは本当に、心底嫌そうな顔をしながら頷く。
「わかりました。理解はしました。納得は出来ませんが。」
そこに今まで周囲…特に召還された動物や幻獣を珍しそうに見ていた“アレ”がコルベールに話し掛ける。
「つかぬ事をお伺いしますが、ここはどこでしょうか?」
思いの他紳士的な態度に少なからず驚きながらコルベールは言う。
「ここはトリステイン魔法学園ですよ、…ミスタ?」
「あ、カトキです。カトキ氏とお呼び下さい。それで…トリステイン?どこの大陸で、どんな国の、なんと言う都市にある学園なんですか?」
その言葉にコルベールは更に感心する。目の前にいる“カトキ”なる存在は確かに変質者だが愚かでは無い、むしろ聡明と言っていいだろう。変質者だが。
「ハルケギニア大陸にある神聖トリステイン王国のトリステイン魔法学園ですよ。」
コルベールの言葉に体を少し前に動かしてカトキ氏は再び尋ねた。
「ハルケギニアのトリステイン?ラクロアでもなく、ナの国でもなく?」
「はい、そうですよ。」
聞いた事も無い国の名前にコルベールは目の前にいる存在(名前で認識するのにはまだ抵抗感がある)はやはり東方の変質者なのだなと思った。
それに対しカトキ氏は頭を抱えながら呟く。
「なんと言う事だ。スダドアカは勿論、バイストンウェルですら無いとは…。」
二人が話している間に自分自身に『納得』と言うマインドセットを終えたルイズがカトキ氏に対し、胸を張って言う。
「あ、あんた感謝しなさいよ。貴族がこんなことをしてあげる事なんて無いんだからね。だから…その気味の悪い仮面外しなさいよ。」
「仮面?私はそんなものは付けていないぞ。あらゆる意味で三倍早い赤い人じゃあるまいし。」
真顔(と言えるのか甚だ疑問だが)で言うカトキ氏に対し、生理的嫌悪感から少し後ずさりして言う。
「な、何言っているのよ。その白い兜よ。早く取りなさいよ。」
「いや、これが私の顔なのだが…。」
困った様子で言うカトキ氏に対しルイズは首を傾げる。
そこに二人の話を聞いていたコルベールが割って入る。
「あの、ミスタ・カトキ…」
「カトキ氏だ。」
確固たる信念を込めた台詞に息が詰まる思いをしてから訂正する。
「失礼、カトキ氏。申し訳無いが、上を向いてもらえませんか?」
「うむ、わかった。」
さっきは大きく否定をしたくせにあっさり頷くカトキ氏。心が大きいのか小さいのかわからない。
そして上を向いて見せるカトキ氏。
「か、仮面と首が一体化している…。」
喉から絞り出されたようなコルベールの声に周囲の視線が集まる。
「じゃ、何?カトキ、あんた人間の変態じゃなくて、亜人の変態だったの!?」
「カトキ氏と呼べと言っただろう!このナ(女)ロー!」
ルイズの叫びに顔を真っ赤にして怒るカトキ氏。
またメイドが「キャスバル専用になったわ…。」とおののいているがやっぱり無視される。
顔の色を本当に変えて怒るカトキ氏に気色悪さを感じ、一歩後退りしてから言う。
「わ、わかったわ。カトキ氏。座って目を閉じてくれないかしら?」
「わかった。これで良いのか?」
確かにルイズの前で座るのだが…
「目、本当に閉じているの?」
そう、カトキ氏は目を閉じているように見えなかった。
「うむ。女性の願いを断る程私は狭量ではないからな。」
「さっき私の事をナロー呼ばわりしたくせに…。」
カトキ氏に聞こえないように小声で呟いてから気を取り直して呪文を唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ。」
言ってカトキ氏の顔を掴み、口らしき部分に口付けをする。
(嗚呼。私、汚れちゃったわ…)
と心の中で涙を流してからカトキ氏を見る。
「いきなりキスとは随分積極的なのだね、お嬢さんは。私が魅力的なのは自他共に認める所だが…。」
「その自信、どこから出るのかしら?」
「彼は亜人。美的感覚が私達と異なっていても不思議じゃない。」
後ろでこそこそ話しているタバサとキュルケに心の中で同意していると…
「ガルスジェイ!」
カトキ氏が左手を抑えながら意味の分からない悲鳴をあげる。
「心配しないで、使い魔のルーンが刻まれているだけよ。」
「だけ、と言われてもねぇ…。」
顔を青くして(BDー2)恨みがましそうに呻く。
すると、カトキ氏の左手が光り、奇妙な文字が現れる。
「ふむ、『サモン・サーヴァント』は何度も失敗したが『コントラクト・サーヴァント』は成功したようだね。」
「今回ほど魔法が失敗して欲しいと思った事はありませんけど…。」
ルイズの心の底から出した言葉を完璧にスルーしてコルベールは生徒達に解散を命じる。
それぞれの生徒が使い魔を伴って部屋に戻って行く。
使い魔を抱いて『浮遊』の魔法で飛ぶ者、使い魔自身に乗る者などそれぞれである。
残っているのはルイズとカトキ氏。
「さすがファンタジー世界。人が平然と空を飛ぶ。」
感心した様子のカトキ氏に全く消えない不信感を持ちながら、言う。
「色々説明しなきゃいけ無い気がするから……(本当は嫌だけど)ついて来て。カトキ…氏。」
「うむ、了解した。」
ハルケギニアの一般常識(ルイズの主観が多分に含まれている)を真摯に感心しながら聞くカトキ氏。
「…と言う事よ。分かった?カトキ氏。」
「うむ、なかなか興味深い世界観だ。アニメ化の際は私がメカニックデザインをしてやらん事も無い。」
「全く意味わかんないし。」
心底うんざりしながら言うルイズ。
だが、問題はハルケギニアの説明などと言う簡単なものでは無かった。
(もしかして、いいえ。もしかしなくても私これからコイツと同じ部屋で就寝を共にしなくちゃならない訳?)
亜人とは言え貞操の問題がある、以前に精神的に嫌すぎる。
それを察したのかどうかは分からないが、カトキ氏が夜食用のパンなどを載せたトレイを持って立ち上がる。
「どうしたの?カトキ氏。」
かなり期待を込めて尋ねるルイズに対し、すませて返す。
「使い魔と言う立場は理解出来るが、出会って間もない年頃の女性と一つ屋根の下と言うのはまずかろう。テントでも構わないから用意してくれないかね?私はそこで就寝をするから。」
「そうね!その通りね!カ、カトキ氏がそこまで言うなら私が準備してあげるわよ!」
喜び勇んでカトキ氏を追い出す…もとい、案内するべくベッドから飛び降りるルイズ。
結局、カトキ氏は打ち捨てられていたボロテントで構わないと言った。
ルイズは最初こそ不思議な顔をしたが、カトキ氏とこれ以上関わりたく無い為、放置しておく事にした。
だからルイズは聞かなかった。ボロテントを前にしたカトキ氏の『さて、リファインするか』と言う呟きを…。
チュンチュン
小鳥たちのさえずりでルイズは目を覚ます。
カーテンの隙間から陽光が漏れている。
今日は良い天気のようだ。まるで昨日の出来事が悪い夢に感じられる。
カッシャー
勢いよくカーテンを開ける。陽光を浴びて体の底から目を覚まそう。
そこには、寝そべったカトキ氏がいた。
「Fix!!」
出会った時と同じく朗らかに挨拶をしてくる。
ルイズは腰を抜かしながら絶叫をあげた。
ズドン!
勢いよくルイズの部屋のドアが開く。中に入って来たのは隣の部屋にいるキュルケだ。
「朝っぱらから何騒いでいるのよ、ヴァリエール!少しは周りの迷惑を考えなさい!」
怒り心頭と言った様子のキュルケが見たのは涙目で床に腰つけながら窓をさすルイズであった。
「キュ、キュルケ~。」
「ど、どうしたのよルイズ。そんな(保護欲そそりそうな可愛い)格好して…。」
言いながらキュルケは気づいた。窓の奥からカトキ氏が見える事に。
「Fix!」
キュルケに対しても礼儀正しく挨拶するカトキ氏に呆然としながら部屋に入って行く。
「お、おはよう、カトキ氏。…窓の外にあなたの使い魔が見えるんだけど…。」
「そ、外を見ればわかるわ…。」
半ベソかきながら言うルイズを可愛いと思いながら窓からカトキ氏がいる外を見てみる…。
「な、何よ。何なのよ。これは…。」
キュルケの視界に入ったのは巨大な白い何かだった。
ここにあのメイドがいれば『デ…、GP‐03デンドロビウム。実際にお目にかかれる日が来るなんて…』とおののくだろうがいないので二人としてはワケのわからないものとしか認識のしようがなかった。
ちなみに中にいるカトキ氏の頭部も普段のRX‐78ガンダムからGP‐03スティメンに変わっているのだが二人に見分けがつくはずもなく、違和感をもちながらもスルーしている。
キュルケは少しびびりながら尋ねる。
「ねぇ、カトキ氏?その建物は…何かしら?」
「GM所だ。」
カトキ氏がきっぱりと言った言葉に首を傾けてからもう一度尋ねる。
「事務所?」
「違う!GM所だっ!」
意味が分からなかった。
ルイズが小声でキュルケに言う。
「気にしにしたら負けよ。気をしっかりもってただ相槌を打つのよ。」
ルイズの言葉の内容に矛盾を感じながらも頷いてからカトキ氏に言う。
「す…素晴らしい事…GM所ですわね。」
「うむ、メガビーム砲にIフィールド付きは絶対に外せん。」
理解出来ない台詞なのは相変わらずだが、とりあえず相槌を打ってから本題を告げる。
「朝の食事の時間まで間もないから行きましょう、二人とも。」
「わ、わかったわ。」
「理解した。」
言って3人は共に食堂に向かう事になるのだが…。
「ルイズ、あなた。本当にとんでもないのを召還したわね。」
「ぜんっぜん嬉しく無いわよ。」
食堂に着いた三人はそれぞれ席に座る。
と言うかキュルケは先に来ていたタバサの右隣、ルイズはキュルケの右隣、カトキ氏はルイズの右隣、カトキ氏の右隣と前には誰も座ろうとしない。
カトキ氏は本来メイジである貴族しか座ってはならない席にどうどうと座っているのだが誰も注意しない。みんなカトキ氏が怖いから。
メイド達が朝食を次々と配っていく。ルイズ達がいるテーブルの一角を担当するのはあのメイド。どうやらメイド達にとってもカトキ氏は恐怖の対象なのだろう。
「はい、ガンダム頭のお方。」
「カトキと言う。カトキ氏と呼びたまえ。しかしガンダムがわかるのかね。今度暇な時にでもお話をしたいのだが、よろしいかな。」
「構いませんよ、カトキ氏。私はシエスタと言います。」
会話が成立してやがる
いや、カトキ氏と会話をするのは難しい……外見さえ気にしなければ(それが最難関)……ものでは無い。
カトキ氏が偶に発する理解不能な専門用語。
これが更にカトキ氏との隔絶感を出すのだ。
キュルケが感心した様子で小声でシエスタに話かける。
「あなた、シエスタって言ったっけ。よくカトキ氏に話が出来るわね。」
「はい。故郷の伝承に外見がカトキ氏の頭そっくりなのがあるんです。だから懐かしくて。」
シエスタの言葉に納得すると同時に意外とカトキ氏の故郷とトリステインは近いのでは無いのかと思うルイズ。
行ってみたいとは1ミクロンも思わないが。
だが、問題はそんな事では無かった。
パンを取るとカトキ氏の顔がまた変わったのだ。
「ク、クロスボーン!こんなマニアックなものまで…。」
シエスタが感激しながら言う言葉にある意味納得する。
確かにカトキ氏の額に骸骨と交差した骨、まさしくクロスボーンが描かれている。
いや、それすらも本質的な問題では無かった。
カトキ氏の、口の部分が、上下に、割れたのだ。
クオオオ
食べ物をフォークで刺し、中に入れていく。
「うええ…。」
誰かが口に手を当てて呻く。
別にテーブルマナーが悪い訳では無い。
むしろかなり礼儀正しく食べている。
しかし、気色が悪い事この上ない。
「どえしたのかい?ルイズ君、朝食をしっかり食べないと1日が保たないぞ。」
本気で心配しているカトキ氏に突っ込む気力もなく、ルイズとキュルケは出されたものの大半を残す羽目になった。
ちなみに、中休みに我慢出来ず食堂に行くと料理長のマルトーが同情しながらサンドイッチをくれた。
その後も授業でルイズが失敗して大爆発を起こしたがカトキ氏が巻き起こす事件に比べれば些細な失敗談でしか無かった。
次の事件は夕食時に起こった。
ギーシュと言うルイズと同学年の少年が同級生と下級生の女生徒二人に対し二股をかけている事が判明してしまったのだ。
その間接的原因がシエスタにあった。
あくまで間接的であって、悪いのは二股をしていたギーシュである。
だがギーシュはシエスタが貴族には逆らえない平民である事をいい事に責任をなすりつけているのだ。
これに義憤を持ったのがカトキ氏。結果、貴族と亜人(?)な使い魔による決闘が行われる事になった。
「ふっ、よく逃げずに来たな!使い魔君!…しかし、何だい?その痛んだ馬車は?」
そう、決闘の場にカトキ氏はおんぼろの馬車(馬抜き)を持って来たのだ。
ちなみに引っ張るのにルイズ達が有無を言わさず手伝わされた。
「直ぐにわかる。」
自信たっぷりに言うカトキ氏にから薄ら寒いものを感じながらもギーシュは続ける。
「僕はメイジだ。魔法で戦わせて貰うよ、構わないね。」
「うむ。私も私の技術を使うつもりなのだから何ら問題ない。」
カトキ氏の台詞は無視する事にしてギーシュは杖である薔薇を振るう。
すると一枚、花びらが落ち、それが大人ほどの大きさがある金属製の人形になった。
自信満々と言った表情でギーシュが言う。
「そう言えば自己紹介がまだたったね。僕は『青銅』のギーシュ。君の相手はこのワルキューレがお相手しよう。」
「ふむ、なかなかのデザインセンス。今度私がリファインしてやらん事もない。」
「意味は分からないが断固として拒否させてもらう。」
一瞬で返したギーシュに少し恨めしそうな顔するカトキ氏だが、気を取り直して言う。
「今度は私の番かね。私はカトキ・ハジメ。カトキ氏と呼びたまえ。」
言って背中を見せるカトキ氏。正確には馬車と向き合っている。
「な、何をするつもりなんだい?敵に背中を見せるなんて、決闘を馬鹿にして…」
「リファイ~~ン!」
カトキ氏は自らの魂と引き換えに機体(?)をリファインするのだ!
馬車が形を変えていく。そして、出来上がったのは…。
「鳥もどき?」
ルイズが言ったように鳥のような形になっていた。
しかし、それにしてはあまりにも翼が短い。
空が飛べるとは全く思えない。
背中に大砲らしきものを二門背負っているが、ハルケギニアの技術力では有り得ない為、何か全く分からなかった。
それはぶっちゃけGファイターだった。
カトキ氏は自信満々に鳥もどきに手を置いてギーシュに対して言う。
「私はこのG家用車でお相手しよう。」
「自家用車?」
ギーシュが思わず聞き返す。
ルイズとキュルケが同時に『余計な事を』と言った顔をする。
「違う!G家用車だ!」
「G家用車ですね!」
感激した様子でシエスタが叫ぶ。
「そう!G家用車だ。シエスタ君、やはり話がわかるねぇ。Fix!」
「Fix!嗚呼、身も心は勿論、母国語さえもガンダムに捧げているなんて…私には、とても真似できないわ。」
されても困る。
周囲の貴族の共通の想いだった。
ちなみに、決闘の結果は考えるまでもなくカトキ氏の勝利だった。
いくら人間サイズにスケールダウンしているとは言え、ビーム砲とミサイルを積んだカトキG家用車に青銅製のワルキューレがかなう筈が無かった。
「ははははははは。」
ギーシュは両膝を地面について放心しながら笑っている。周囲の視線は2つ。
ギーシュに対する同情と異世界の生物(正解)を見るかのようにカトキ氏を見るもの。
そんな中、キュルケがどこか感激した様子で呟く。
「情熱だわ…。」
何事かとルイズとタバサが視線を向ける。
「情熱なのよ!私の中の炎が燃え盛っているわ!素敵よ、カトキ氏!」
二人の目がその台詞にぎょっとした。
「キュルケ、本気?いいえ、正気?」
あんまりと言えばあんまりなルイズの質問にキュルケはしっかり頷く。
「ええ、そうよ!情熱だわ!構わないわよね、ルイズ。」
本来なら宿敵関係にあるヴァリエール家がツェルプストー家に何かを渡す、奪われる事などあってはならない事なのだが…。
(カトキ氏なら見せた瞬間に許可されそうな気がするわ…。)
そう思いながら返す。
「あ、アンタがいいなら別に良いけど…。」
「なら、早速気を引く方法を考えないと!夜が楽しみだわ!」
スキップしながらその場を去っていくキュルケを見ながらタバサが呟く。
「人間は、どうにもならない存在と出会うと思考から除外するか、取り入ろうとするらしい。キュルケの場合は後者だったみたい。」
言葉に納得しながら尋ねる。
「でもいいの?キュルケは、友達なんでしょ?」
「巻き込まれるのは勘弁。」
「…本当に友達なの?アンタ達。」
ルイズのごもっとも極まりない質問にタバサは沈黙で返すのであった。
その日の夜。
ひとっ風呂浴びた(止められなかった&入ろうとしたらその場にいた全員が一目散に逃げ出した)カトキ氏は満足気にG務所へ戻ろうとしたら、見知ったサラマンダーが震えながらすり寄って来た。
「ふむ、君は確かキュルケ君の使い魔であるフレイム。私に何か用かな?」
カトキ氏の言葉に頷いてカトキ氏の足元を引っ張るフレイム。
「付いて来て欲しいのか。ハハハ実にせっかちだなぁ、君は。」
カトキ氏の台詞から来る恐怖に全身を振るわせるもしがない使い魔、主人の命令に逆らえる筈もなくカトキ氏を連れて行くのであった。
部屋にカトキ氏が入ると自然とドアが閉まる。魔法の力なのだろう。
「こちらに来て頂けませんか?カトキ氏」
言ったキュルケはベビードール姿と分かり易い程欲情的な姿をしている。
カトキ氏もその姿に当てられたのか思わず息を飲む。
「アナタは私の事をはしたない女だと思うでしょうね。」
「いいや、君の想いはフレイム君越しからも十分届いたさ。」
カトキ氏の真剣な台詞にキュルケは感激した様子で手を合わせる。
「嬉しい!これほど情熱に焦がれた事はいままでなかったのよ!」
「そうかい。今すぐにでも君を生まれ変わらせてあげよう。」
いってカトキ氏はキュルケの隣に座る。
キュルケは顔をほんのり赤く染め、目を瞑り呟く。
「優しく、してくださいね。」
「安心したまえ、テクニックには人並みならぬ自信がある。」
言ってカトキ氏は両手を上げる。そして…
「リファイ~~~~ン!!!!」
カトキ氏の言葉の後に聞こえて来たキュルケの人間のものとは思えぬ歓喜の叫びにルイズは思わず枕を頭に被り、音を遮断する。
これほどまで自分が魔法を使えない事に嫌悪感を持ったのは久しぶりである。
「キュルケ、ごめんなさい。使い魔を御しきれない私を許して。で、でもあなただって悪いのよ。カトキ氏を気に入ったりするから…。」
ルイズは悪く無いと自分に言い聞かせながらベッドの中で震えるのであった。
翌日。
キュルケは変わっていた。
具体的にどこが?と言われると困るのだが、確実に変化は起こっていた。
あえて言うなら…輪郭、だろうか。
ルイズは感激した面でウンウン頷くカトキ氏に尋ねた。
「ねぇ、キュルケはどうなったの?」
「彼女は生まれ変わった。もう今までのキュルケでは無い!言うならば…」
自分でも何でだろうかと思いながらもルイズは聞き返す。
「言うなれば?」
カトキ氏の目がカッ!と光る。
「キュルケVer.Ka!!!」
自信たっぷりに言うカトキ氏と生まれ変わったキュルケ…カトキ氏の言葉を借りるならキュルケVer.Kaだったか…を見ながらルイズは決心する。
なんとしても使い魔との解約と帰郷の手段を見つけ出す事を。
少なくとも、自分の精神が砕け散る前にっ!!
リファインな使い魔、完
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おまけ
ガリア王ジョセフは自らの使い魔を見て失った筈の感情の震えを感じていた。
全く嬉しくもなんともなかったが。
「私、そんなジョセフ王の外道っぷりに惚れ込んでいるのです。例えホモと呼ばれたって構わない!」
「コイツ、打ち首。」
ジョセフの命令に娘のイザベラが疲れた様子で言う。
「父上、これで三度目ですよ。何事もなかったかのようにまたコイツが召還されますよ。」
ギリィッ!
思い切り歯を噛み締める音が聞こえる。
イザベラはそんな父を哀れに思いながらも、乾いた目で召還されたキクチンなる亜人が見るのであった。
教皇ジュリオは自らが召還した使い魔に頭を抱えていた。
別に能力に不満がある訳ではない。むしろ、使える。しかし…
「さぁ、我が配下の動物達よ、各国の情報を集めるのジャ!」
「有能だから我慢。有能だから我慢。有能だから我慢!」
黒光りする艶やかな肉体を誇る亜人、カワグチ氏を茫然と見ながら副官は思った。
宗教指導者って大変だなぁ、絶対になりたくないけど、と。
ティファニアは上機嫌であった。
孤児院と言って良いこの村に大人の男の人手が出来たのだ。
何しろ保護者である姉は生活費を稼ぐ為に外に出ており、年長者は自分しかいないのだから。しかも自分と同じ亜人だから差別するような事はしない。
笑顔でキノコが満載された大きなカゴを持つ自分の使い魔-タカギ-に話し掛ける。
「でも、本当にすみません。勝手に呼び出したのに生活の手伝いは勿論、使い魔にまでなってもらって…」
「ゲヘゲヘ。構いませんよ、テファちゃん。私に出来る事なら何なりとご命令を。それに…」
タカギさんは心の中で嫌らしい笑みを浮かべながら呟く。
(こんな爆乳美少女エルフの姉ちゃんと疑似新婚関係。大金詰まれたって辞めるものかよ!)
後にあるエルフの青年はこう語る。
「四の四揃う時、世界は滅びる。うん、そうだね。確かに、そうだね。」
と。
ハルケギニア崩壊の日は意外と近いのかも知れない。
リファインな使い魔。おまけ、完
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