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「ラスボスだった使い魔-15a」(2010/01/12 (火) 22:04:03) の最新版変更点
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#navi(ラスボスだった使い魔)
ある時は仮面の男と協力し、またある時は仮面の男と敵対した人物。
彼は『肉体が死に瀕している』というきっかけによって因果の鎖から解き放たれつつあり、それゆえに仮面の男の勧誘を受けていた。
「お前は因果律の呪縛から解き放たれた。もう、あの世界に未練はあるまい」
「………」
「準備は全て整った。私と来い。そして共に千年王国を築くのだ」
「……フ、フフ……断る。貴様の目論みは分かっておるわ」
「何……?」
「貴様の創ったデビルガンダムは……巨大な容器……。そう、光の巨人の力を満たすためのな……」
「………」
「貴様は、地球圏の支配など欲しておらん……。いや、すでに地球のことなぞ、どうでも良くなっておる」
「………」
「貴様の目的は……光の巨人の力を我が物にすることだ……」
病魔に冒された危うい身体で、それでも自らが育てた弟子と戦い抜いた武術の達人。
彼は死の淵にありながらも、満足そうに男の勧誘を跳ねのける。
……ぜひ自分と共に歩んで欲しかったが、無理強いは出来まい。
そのようにして強引に傘下に入れた人間など、役に立つとは思えない。
「貴様……神にでもなるつもりか……?」
「……他人の目には神の姿として映るかも知れん。だが……」
「貴様の業は……我が弟子とその同胞たちが、必ずや打ち砕くだろう……。
フ、フフ……今思えばトレーズ・クシュリナーダめ……これを見越してワシを過去へ送りおったのか……」
「さらばだ……東方不敗マスターアジア……」
―――男は名残惜しさを感じつつ、彼に永久の別れを告げた。
そして、場面は転換する。
「そう。私の研究対象とはウルトラマンなのだ。
……彼らの力を我が物とすれば、私は私という存在を呪縛する因果の鎖から解脱することが出来る。
忌まわしい過去も、呪わしい未来も関係ない」
「………」
「もう、■■■■■■■■■という器に縛られることもない」
(あれ?)
夢を見ていて、今までになかった雑音が混じった。
この男の名前が明らかになる―――と思ったのに、肝心のその部分がボヤかされてしまったのである。
(何で……?)
ルイズの疑問に構わず、夢は進んでいく。
「私は全てを超越する……その先に何があるか不明だが……。
それは『超えて』から確かめればよい」
「たった……それだけのために……お前は、デビルガンダムをこの星に送り込んだのか!?」
「そうだ。この数百年……光の巨人は新西暦155年の地球にしかその姿を現していない。
そして、新西暦155年こそがカラータイマーを手に入れる絶好の機会……」
自分の思惑を大きく外れて動いてしまった、青い髪の複製人間に自分の目的を告げる。
そのために『彼ら』の力を欲した。
そのために時を超えた。
そのために……仮面で素顔を隠した。
元より理解などは、求めていない。
「貴公は私の良い右腕になると思っていたが……どうやら相容れぬ存在だったようだな」
「残念です」
再び場面は変わる。
仮面の男は、対峙している人物に対して最終確認を行っていた。
「……最後に問う。私と来る気はないか?」
「私は戦いという行為の解答を見つけなければなりません。
そして、それはネオバディムが敗者を演じることによって導き出されることでしょう」
「……私もかつては敗者だった。だが、敗北は人に屈辱と狂気しか与えない。この私のようにな……」
「あなたは純粋すぎるのだ……」
男が知る限り、最も高潔な精神を持つ人間。
良きパートナーとして共に歩めると思っていたが、彼は彼自身の道を進み続けると決意していた。
……どうしても欲しい人材に限って男の勧誘を跳ね除け、またそのような者だけが男の内面を読み取ることに、男は苦笑する。
「フッ……。果たして君たち地球人が敗北から勝利を、そして未来を見い出せるのか?」
「後の歴史がその答えを出すでしょう」
「使い古された言葉だが、今はそれが最もふさわしいか…」
(………むぅ)
『夢』の初期には、おそらく仮面の男の若い頃なのだろう同じ声の人物が馬鹿みたいに笑ったりもしたが、何だか自分の使い魔と人格的に食い違いがあったので、違和感を感じるだけだった。
だが、こっちの『年を経た男』の方は、自分の使い魔のイメージに近いのでより現実味がある。
(何よ、もう……)
そしてこの男の声と喋り方のトーンで、薄くだろうが苦笑だろうが、笑い声が出たことにカチンと来た。
だって同じ声の自分の使い魔は、自分に対して一度だって笑ったことなどない。
―――そりゃあ、自分だって使い魔に笑いかけたことはないが。
(……でも……)
それはさておき、夢を見ている自分にとって明らかに理解の出来ない言葉が、登場人物の口から発せられていた。
敗北から、勝利と未来を見い出す。
どういう意味なのだろう。
この仮面の男は、それを知っているのだろうか……?
「アルビオンが見えたぞー!」
「……んぅ?」
船員の大声で、目が覚めた。
(そう言えば、昨日は船の端で寝てたんだっけ……)
ユーゼスたちと合流した後、『船室に余裕がない』ということで毛布を借りて舷側で眠りについたことを思い出す。
周囲を見るとギーシュとキュルケとタバサが寝ていて、空を見ると確かに雲の切れ間から巨大な大陸―――アルビオンが見える。
「ほう、なかなか雄大な眺めだな……」
隣で寝ていたユーゼスも、目を覚ましてその光景を眺めていた。
「……傷は大丈夫なの?」
包帯が巻かれた使い魔の左腕を見ながら、少し心配そうにルイズが問いかける。ユーゼスは相変わらず感情のこもらない声で、その問いに答えた。
「痛みのことを聞いているのなら、それなりに引いてはいる。完治には程遠いがな」
「そう……」
眠りにつく前に、輸送船に積んであった水の秘薬をありったけ持って来させ、その内の半分を直接左腕にかけた(その光景を見て船員やギーシュ、キュルケは後ずさっていた)のだが、やはりそう簡単に治るものでもないらしい。
「じゃあ、包帯を替えましょうか」
「うむ」
ルイズの提案に頷き、ユーゼスは包帯を解き始める。
「白衣も新しいものを購入しなくてはいけないな。左腕の部分が無いのは見苦しい」
「そうね。……アルビオンで売ってるかしら?」
「戦争中の国に、そこまで求めるのはどうかと思うが」
会話をしている間に包帯は完全に解かれ、少々グロテスクな火傷の痕があらわになった。
ルイズは僅かに顔をしかめたが、特に嫌悪を示さずに残った半分の水の秘薬を振りかけていく。
「ぐ……っ」
「やっぱり痛い?」
「……当然だ」
アルビオンに行けば、それこそ戦争中なのだから傷薬もあるだろう。
昼頃には到着の予定だから、着いたらすぐ秘薬屋なり病院なりに駆け込んで、包帯を取り替えれば良い。
「しかし、良いのか? 水の秘薬の代金とて、馬鹿にならない金額だろうに」
「使い魔を見捨てたり切り捨てたりするメイジは、メイジじゃないわ。……いいから、アンタは黙って治療を受けてなさい」
「……了解した、御主人様」
そのままルイズに腕に包帯を巻かれながらアルビオン大陸を眺めるユーゼスだったが、そこで妙なことに気付いた。
「御主人様、質問だ」
「何よ?」
「あの水晶のような物は何だ?」
「水晶?」
疑問符だらけの会話の後、ユーゼスが右手で指差す先を見るルイズ。
その示された先にある浮遊大陸を、よくよく見てみると―――確かに、ところどころに小さく(距離が離れているので、実際はそれなりの大きさなのだろうが)青い水晶のような物がある。
「……何かしら。前にアルビオンに来た時は、あんなのは無かったはずなんだけど」
「最近になって発生した、ということか」
まあそれほど重要視する必要もないだろう、と二人は楽観視する。
そして、ちょうどユーゼスの左腕に包帯を巻き終わった頃、
「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」
鐘つきの見張り台に立っていた船員が、大声を張り上げた。
今度はそちらに視線を移してみると、確かに船が接近している。色は黒、大きさは今自分たちが乗っているものより一回り大きい程度、そしてところどころに大砲が装備されていた。
「軍艦か?」
「もしかしたら、反乱勢……貴族派の船かもしれないわ」
不安そうな顔をするルイズだったが、直後にその不安は的中してしまう。
黒船がいきなり、輸送船の進路に向かって砲弾を撃ったのである。
直後に輸送船は速度を落として停船し、黒船はこちらの船に寄りそい、2つの船がカギつきのロープで繋がれ、あれよあれよという間に、数十人の武装した屈強そうな男たちが船に乗り込んできた。
「空賊だ! 抵抗するな!」
「空賊……ですって?」
黒船から響いてきた大声に、ルイズが眉をひそめる。
いきなり大騒ぎになったので、周囲で眠りこけていたメンバーもさすがに目を覚まし始めた。
「ふあぁ……、なによぉ、もお、うるさいわねぇ~……」
「……もう、アルビオンに着いたのかい? 早いね……って、な、何だね、彼らは!?」
「………」
「フゴ?」
目覚めたらいきなり何者かの襲撃を受けていたので、状況が把握しきれていないらしい。
「空賊よ、空賊」
「何ぃ!? お、応戦だ!! ここで船が止められてしまっては、アルビオンに行くことが……!!」
泡を食った様子のギーシュが、バラの造花を取り出して空賊に攻撃を行おうとする。
だが、その行為はタバサとキュルケに止められた。
「多勢に無勢」
「それに、下手にこの中で暴れてごらんなさい。船がバラバラになってお空に放り出される……なんて嫌よ、あたしは」
「ぐ、ぐぬぅ……」
「フゴ……」
ガックリと気を落とすギーシュの肩を、ヴェルダンデがポンと叩く。それに感じ入ったのか『ああヴェルダンデ、君はなんて主人思いの使い魔なんだ』、とギーシュは自分の使い魔と抱き合い始めた。
「ギーシュは放っとくとして……。どうするの?」
「大砲で狙いを付けられていて、ミス・タバサが言っていたように多勢に無勢の状況、……加えて敵の中にはメイジもいるようだ」
ギャンギャンと叫んでいたワルドのグリフォンの顔に霞のようなものがかかり、直後に意識を失って倒れてしまった―――そんな光景を見て、ユーゼスは水系統の『スリーピング・クラウド』を使われたと当たりをつける。
「そう言えば、ワルドはどうしてるの?」
「あそこで、船長と一緒に空賊と何か話をしてるけど……アレが空賊のボス? なんだかずいぶん若いわね」
ルイズに問われたのでワルドを探してその状況を説明するキュルケだったが、周囲の構成メンバーと比較して、空賊の頭の年齢が妙に若いことに気付いた。
アレで無精ヒゲがなければ、かなり若く……と言うか、下手をすると幼さすら感じてしまいそうに見える。
「って、何でワルド子爵はあんなにホイホイと空賊の話を聞いてるんだ!?」
ハッと我に返ったギーシュが、メンバー中最強の使い手はこんな時に何をしているんだ、と怒り始めた。
それにタバサは平坦な声で答える。
「元々、この船の風石はアルビオンの最短距離ギリギリ分しか積んでいない。それをカバーするために、子爵は風魔法で船を動かしていた。つまり、子爵の魔法は打ち止め」
「―――タバサ。君の冷静さは立派だと思うが、あまりそう淡々と語られると、時たまではあるが微妙にムカつくよ」
「それほどでもない」
「いや、褒めちゃいないんだがね!!?」
そんなやり取りをしていると、そのワルドや船長と話していた空賊の頭がこちらに気付いて顔を向けた。
「おや、貴族の客まで乗せてるのか」
そのまま自分たちの方に近付き、それぞれの顔を見渡して―――
「……ん?」
その視線がタバサに差し掛かったあたりで、停止する。
「はて……」
そのままタバサの顔をジロジロと見る、空賊の頭。どうやら何かを思い出そうとしているらしい。
「?」
見られているタバサの方も、なぜ自分が注目されるのか分からずに首を傾げる。
そうしてそのまま数秒が経過して、空賊の頭はハッと自分の職務を思い出した。
「こ、こりゃあ別嬪ぞろいだ。お前ら、俺の船で皿洗いでもやらねえか?」
その言葉を聞いたルイズは立ち上がり、キッと空賊の頭を睨みつける。
「下がりなさい、下郎」
「驚いた! 下郎ときたもんだ!」
大声で笑う空賊の頭。
それに激昂したギーシュが、またバラの造花を握ってそれを振るおうとするが、ガン、と足元で何かが叩かれた音がしてそちらに視線を移した。
見るとキュルケが杖を振るい、自分のすぐ横の甲板に打ち付けている。
「落ち着きなさい、ギーシュ。早死にしたいの?」
「し、しかし……」
「……あなただけが死ぬのならまだ良いけど、下手に連中を刺激すれば、あたしたちもこの船の船員も皆殺しよ?」
「ぐぬぅぅぅう~~!」
ギリギリと歯ぎしりしながら空賊の頭に視線を注ぐギーシュ。
それを見た空賊の頭は、フンと鼻息を鳴らすと、
「てめえら、コイツらも運びな。身代金がたんまりと貰えるだろうぜ」
ルイズたち6人を連行するように指示したのであった。
杖と剣と鞭を全て取り上げられ、全員揃って船倉に押し込められた。
ギーシュはイライラしながらオロオロしており、
キュルケは取りあえず壁際に座り込んでノンビリし、
タバサは本まで取り上げられたので退屈そうで、
ワルドは興味深そうに船倉の積荷―――酒ダルや食料袋やら火薬ダルやら―――を観察中、
ユーゼスはどうにか脱出が出来ないものか、と右手で壁を叩いて回り、
ルイズはそんなユーゼスにくっついている。
「……アンタ、怪我は大丈夫なの?」
またその質問か、とユーゼスは思った。この主人は、ことあるごとに自分の腕の状態を聞いてくる。
「何もしなくても軽く痛む。身体を動かすと、響いて痛む。右腕を動かそうとすると、酷く痛む」
「じゃあ、動いちゃダメでしょう!」
「駄目と言うなら、今のこの状況こそが駄目だと思うがな」
「……もう、ああ言えばこう言う!」
そんなやり取りを見て、『何やってるんだコイツら』という視線を向ける他のメンバーたち。
緊迫しているのかしていないのか、微妙な空気が流れ始めていたのだが……。
「おい、飯だぞ」
扉が開き、スープの入った皿を持った、太った男と痩せぎすの男が入ってきて、その空気は霧散してしまった。
スープを受け取ろうとキュルケが立ち上がって手を伸ばすが、太った男はそれを右手で制する。
「……何よ、這いつくばって物乞いでもすれば良いっての?」
「そんな趣味はねえよ。こっちの質問に答えてからだ」
ルイズはその言葉を聞いて、ツカツカと空賊たちの近くへと歩き、そしてピシリと言い放つ。
「言ってごらんなさい」
「……捕まってるってのに、随分と居丈高な……。まあいい、お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」
「旅行よ」
「旅行? ……トリステインの貴族が、こんな学生ばっかりで、このご時勢のアルビオンに旅行だって? おいおい、一体何を見物するつもりだい?」
「そんなこと、あなたに―――」
答えることを拒否しようとするルイズだったが、横からユーゼスが口を挟んだ。
「アルビオンで最近、妙な水晶のような物が発見されたと聞いたのでな。研究熱心な御主人様たちは、好奇心を抑えられなくなって直接アルビオンに乗り込もうとしているのだ」
「ちょ、ちょっと、ユーゼス!?」
まさか正直に話すつもりでは……などと思って声を荒げるルイズだったが、使い魔の口から出たのは嘘であった。
……まあ、デタラメも良いところだけど、一応それで話は通るし―――と、ルイズは閉口してしまう。
(平然と嘘をつくなぁ、この男は……)
ラ・ロシェールへの『移動手段』を騙った時といい、よくパッと思いつけるなぁ、などとギーシュは感心していた。
「お前には聞いてねぇよ。しかし、研究ねぇ……」
太った男はいきなり話に割り込んできたユーゼスに睨みを利かせ、その後に何かを考え込む。
その後、女性陣と男性陣に分かれてスープを飲み始める。食器は武器に使われることを警戒してか、金属製ではなく木製のスプーンだった。
その様子を見ていた痩せぎすの男が、楽しそうに言う。
「おめえら、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」
一行は質問には答えず、無言でスープを飲み続けている。……正直、スープだけでは腹に溜まらない。
「おいおい、ダンマリじゃ分からねえよ。でも、そうだったら失礼したな。俺たちはその貴族派に協力しててね」
「……じゃあ、この船はやっぱり反乱軍の軍艦なのね?」
「だから『協力』だって言ってんだろ。あくまで対等な関係だよ。……まあ、おめえらには関係ねえか。
で、どっちだ? 貴族派か? 王党派か? 貴族派だったら、きちんと港まで送ってやるよ」
「……っ、誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか! バカ言っちゃいけないわ! わたしは王党派への使いよ!!」
あちゃあ、とキュルケとギーシュ、ユーゼスですら頭を抱えた。ちなみにタバサはボンヤリとなりゆきを眺めており、ワルドは無表情に自分の婚約者の様子を見ている。
「わたしはトリステインを代表してアルビオンの王室に向かう貴族なんだから、つまりは大使よ! 大使としての扱いを、アンタたちに要求するわ!」
「ルイズ」
「何よ、ツェルプストー!?」
「あなた、馬鹿? いえ、馬鹿なのね。馬鹿正直に自分の目的を、こんな馬鹿みたいな空賊なんかに明かすなんて、極めつけの馬鹿としか言いようがないわ。
……そうだ、今度からあなた、『馬鹿』のルイズと名乗りなさいな」
「誰が馬鹿なのよ!? こんな連中にウソついて頭を下げるくらいなら、死んだ方がマシじゃない!!」
「いや、時と場合を選ぶべきだと思うんだけど……」
ギーシュもおずおずと口を出すが、ルイズに眼光を向けられて黙ってしまう。
「―――お前、正直なのは美徳だが、タダじゃ済まないぞ。……頭に報告してくる、一応見張りを強めておけ」
「おう」
痩せぎすの方の空賊が去り、太った空賊が残って常に見張られるようになってしまった。
「……さすがに今のは無いと思うぞ」
「ああもうユーゼス、アンタまで……。フン、良いわよ、そうやって達観してなさい。最後の最後まで、わたしは諦めないわ。
空に放り出されたとしても、地面に叩きつけられる瞬間まで、ロープが伸びるって信じてるんだから」
「『放り出されてからの努力』よりも、まずは『放り出されないための努力』に力を注ぐべきではないのか?」
「それとこれとは別。嘘なんかつけるもんですか、あんな連中に!」
ユーゼスが苦言を呈するが、ルイズは頑として聞き入れない。どうやら譲れない一線らしい。
溜息を吐くユーゼスだったが、そんなルイズの元にワルドが近付いてきて、その肩を叩く。
「良いぞルイズ、さすがは僕の花嫁だ」
「……………」
微笑みながらそう言うワルドだったが、ルイズの表情は複雑そうである。
(妙なタイミングで声をかけてくるな……)
一方のユーゼスは、そんなワルドの行動と言動に関して、ささいな違和感を覚えたのだった。
「頭がお呼びだ」
痩せぎすの男が戻って来て、6人揃って頭とやらの部屋まで通される。なかなかに立派な部屋だった。
上座に座る頭を取り囲むようにしてガラの悪そうな男たちが陣取っており、こちらを見ながらニヤニヤと笑みを浮かべている。
「頭の前だ。挨拶しろ」
しかし、ルイズは気の強そうな瞳で空賊の頭を睨むばかりである。頭はそんな視線を受けて、ニヤッとこれみよがしに笑った。
「気の強い女は好きだぜ、子供でもな。……さてと、名乗りな」
(……何だ、このわざとらしい口調は?)
いちいち『~~だぜ』だの『~~しな』だの、集団のリーダーにしては、変な違和感を感じる喋り方だ―――とユーゼスは思った。
まあ、アルビオンの訛りであるとか、荒くれ者は総じてこのような口調だとか言われてしまえば、それまでなのだが。
「大使としての扱いを要求するわ。……そうじゃなかったら、一言だってアンタたちなんかに口を聞くもんですか」
「ふむ……。王党派と言ったな? 何しに行くんだ……って、聞いても答えてくれるようにも見えねえか。
なら、貴族派につく気は―――」
「あるワケないでしょう! 死んでも嫌よ!!」
ピシャリと言い放つルイズ。
……よく見ると、その身体は小さく震えていた。
(この年で、よくやるものだ……)
コンバットスーツで武装した百戦錬磨の宇宙刑事とて、犯罪組織の拠点に乗り込むとなれば命がけだと言うのに……と、ユーゼスは召喚されて初めてこの少女に対して感心の念を抱く。
そんなルイズの様子を見ていた空賊の頭は、
「ふ―――はは、あははははははははっ!!」
いきなり大声で笑い始めた。
「「「「「「?」」」」」」
呆気に取られるルイズたち。
「はは……いや、失礼。まったく、トリステインの貴族たちは気ばかり強くって、どうしようもないな。
まあ、どこぞの国の恥知らず共より、何百倍もマシだがね」
そうして、また大声で笑いながら頭は立ち上がる。
続いて黒髪を『取り外して』(髪はカツラであった)地毛の金髪をあらわにし、同じくヒゲも取り外す。更に眼帯も取り外し、精悍な顔立ちの青年が現れた。
「失礼した。貴族に名乗らせるなら、まずはこちらから名乗らなくてはな」
ニヤついた笑いは完全に消え去っている。それは周囲の空賊たちも同様であり、だらけた空気は一変して直立していた。
「私は、アルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官―――艦隊と言っても、もはやこの『イーグル』号しかないが―――まあ、その肩書きよりは、こちらの方が通りが良いだろう」
青年は、その若さに似合わぬ威厳を漂わせながら名乗りを上げる。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
―――こればかりは6人全員、それぞれリアクションは違えど驚くしかなかった。
#navi(ラスボスだった使い魔)
#navi(ラスボスだった使い魔)
ある時は仮面の男と協力し、またある時は仮面の男と敵対した人物。
彼は『肉体が死に瀕している』というきっかけによって因果の鎖から解き放たれつつあり、それゆえに仮面の男の勧誘を受けていた。
「お前は因果律の呪縛から解き放たれた。もう、あの世界に未練はあるまい」
「………」
「準備は全て整った。私と来い。そして共に千年王国を築くのだ」
「……フ、フフ……断る。貴様の目論みは分かっておるわ」
「何……?」
「貴様の創ったデビルガンダムは……巨大な容器……。そう、光の巨人の力を満たすためのな……」
「………」
「貴様は、地球圏の支配など欲しておらん……。いや、すでに地球のことなぞ、どうでも良くなっておる」
「………」
「貴様の目的は……光の巨人の力を我が物にすることだ……」
病魔に冒された危うい身体で、それでも自らが育てた弟子と戦い抜いた武術の達人。
彼は死の淵にありながらも、満足そうに男の勧誘を跳ねのける。
……ぜひ自分と共に歩んで欲しかったが、無理強いは出来まい。
そのようにして強引に傘下に入れた人間など、役に立つとは思えない。
「貴様……神にでもなるつもりか……?」
「……他人の目には神の姿として映るかも知れん。だが……」
「貴様の業は……我が弟子とその同胞たちが、必ずや打ち砕くだろう……。
フ、フフ……今思えばトレーズ・クシュリナーダめ……これを見越してワシを過去へ送りおったのか……」
「さらばだ……東方不敗マスターアジア……」
―――男は名残惜しさを感じつつ、彼に永久の別れを告げた。
そして、場面は転換する。
「そう。私の研究対象とはウルトラマンなのだ。
……彼らの力を我が物とすれば、私は私という存在を呪縛する因果の鎖から解脱することが出来る。
忌まわしい過去も、呪わしい未来も関係ない」
「………」
「もう、■■■■■■■■■という器に縛られることもない」
(あれ?)
夢を見ていて、今までになかった雑音が混じった。
この男の名前が明らかになる―――と思ったのに、肝心のその部分がボヤかされてしまったのである。
(何で……?)
ルイズの疑問に構わず、夢は進んでいく。
「私は全てを超越する……その先に何があるか不明だが……。
それは『超えて』から確かめればよい」
「たった……それだけのために……お前は、デビルガンダムをこの星に送り込んだのか!?」
「そうだ。この数百年……光の巨人は新西暦155年の地球にしかその姿を現していない。
そして、新西暦155年こそがカラータイマーを手に入れる絶好の機会……」
自分の思惑を大きく外れて動いてしまった、青い髪の複製人間に自分の目的を告げる。
そのために『彼ら』の力を欲した。
そのために時を超えた。
そのために……仮面で素顔を隠した。
元より理解などは、求めていない。
「貴公は私の良い右腕になると思っていたが……どうやら相容れぬ存在だったようだな」
「残念です」
再び場面は変わる。
仮面の男は、対峙している人物に対して最終確認を行っていた。
「……最後に問う。私と来る気はないか?」
「私は戦いという行為の解答を見つけなければなりません。
そして、それはネオバディムが敗者を演じることによって導き出されることでしょう」
「……私もかつては敗者だった。だが、敗北は人に屈辱と狂気しか与えない。この私のようにな……」
「あなたは純粋すぎるのだ……」
男が知る限り、最も高潔な精神を持つ人間。
良きパートナーとして共に歩めると思っていたが、彼は彼自身の道を進み続けると決意していた。
……どうしても欲しい人材に限って男の勧誘を跳ね除け、またそのような者だけが男の内面を読み取ることに、男は苦笑する。
「フッ……。果たして君たち地球人が敗北から勝利を、そして未来を見い出せるのか?」
「後の歴史がその答えを出すでしょう」
「使い古された言葉だが、今はそれが最もふさわしいか…」
(………むぅ)
『夢』の初期には、おそらく仮面の男の若い頃なのだろう同じ声の人物が馬鹿みたいに笑ったりもしたが、何だか自分の使い魔と人格的に食い違いがあったので、違和感を感じるだけだった。
だが、こっちの『年を経た男』の方は、自分の使い魔のイメージに近いのでより現実味がある。
(何よ、もう……)
そしてこの男の声と喋り方のトーンで、薄くだろうが苦笑だろうが、笑い声が出たことにカチンと来た。
だって同じ声の自分の使い魔は、自分に対して一度だって笑ったことなどない。
―――そりゃあ、自分だって使い魔に笑いかけたことはないが。
(……でも……)
それはさておき、夢を見ている自分にとって明らかに理解の出来ない言葉が、登場人物の口から発せられていた。
敗北から、勝利と未来を見い出す。
どういう意味なのだろう。
この仮面の男は、それを知っているのだろうか……?
「アルビオンが見えたぞー!」
「……んぅ?」
船員の大声で、目が覚めた。
(そう言えば、昨日は船の端で寝てたんだっけ……)
ユーゼスたちと合流した後、『船室に余裕がない』ということで毛布を借りて舷側で眠りについたことを思い出す。
周囲を見るとギーシュとキュルケとタバサが寝ていて、空を見ると確かに雲の切れ間から巨大な大陸―――アルビオンが見える。
「ほう、なかなか雄大な眺めだな……」
隣で寝ていたユーゼスも、目を覚ましてその光景を眺めていた。
「……傷は大丈夫なの?」
包帯が巻かれた使い魔の左腕を見ながら、少し心配そうにルイズが問いかける。ユーゼスは相変わらず感情のこもらない声で、その問いに答えた。
「痛みのことを聞いているのなら、それなりに引いてはいる。完治には程遠いがな」
「そう……」
眠りにつく前に、輸送船に積んであった水の秘薬をありったけ持って来させ、その内の半分を直接左腕にかけた(その光景を見て船員やギーシュ、キュルケは後ずさっていた)のだが、やはりそう簡単に治るものでもないらしい。
「じゃあ、包帯を替えましょうか」
「うむ」
ルイズの提案に頷き、ユーゼスは包帯を解き始める。
「白衣も新しいものを購入しなくてはいけないな。左腕の部分が無いのは見苦しい」
「そうね。……アルビオンで売ってるかしら?」
「戦争中の国に、そこまで求めるのはどうかと思うが」
会話をしている間に包帯は完全に解かれ、少々グロテスクな火傷の痕があらわになった。
ルイズは僅かに顔をしかめたが、特に嫌悪を示さずに残った半分の水の秘薬を振りかけていく。
「ぐ……っ」
「やっぱり痛い?」
「……当然だ」
アルビオンに行けば、それこそ戦争中なのだから傷薬もあるだろう。
昼頃には到着の予定だから、着いたらすぐ秘薬屋なり病院なりに駆け込んで、包帯を取り替えれば良い。
「しかし、良いのか? 水の秘薬の代金とて、馬鹿にならない金額だろうに」
「使い魔を見捨てたり切り捨てたりするメイジは、メイジじゃないわ。……いいから、アンタは黙って治療を受けてなさい」
「……了解した、御主人様」
そのままルイズに腕に包帯を巻かれながらアルビオン大陸を眺めるユーゼスだったが、そこで妙なことに気付いた。
「御主人様、質問だ」
「何よ?」
「あの水晶のような物は何だ?」
「水晶?」
疑問符だらけの会話の後、ユーゼスが右手で指差す先を見るルイズ。
その示された先にある浮遊大陸を、よくよく見てみると―――確かに、ところどころに小さく(距離が離れているので、実際はそれなりの大きさなのだろうが)青い水晶のような物がある。
「……何かしら。前にアルビオンに来た時は、あんなのは無かったはずなんだけど」
「最近になって発生した、ということか」
まあそれほど重要視する必要もないだろう、と二人は楽観視する。
そして、ちょうどユーゼスの左腕に包帯を巻き終わった頃、
「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」
鐘つきの見張り台に立っていた船員が、大声を張り上げた。
今度はそちらに視線を移してみると、確かに船が接近している。色は黒、大きさは今自分たちが乗っているものより一回り大きい程度、そしてところどころに大砲が装備されていた。
「軍艦か?」
「もしかしたら、反乱勢……貴族派の船かもしれないわ」
不安そうな顔をするルイズだったが、直後にその不安は的中してしまう。
黒船がいきなり、輸送船の進路に向かって砲弾を撃ったのである。
直後に輸送船は速度を落として停船し、黒船はこちらの船に寄りそい、2つの船がカギつきのロープで繋がれ、あれよあれよという間に、数十人の武装した屈強そうな男たちが船に乗り込んできた。
「空賊だ! 抵抗するな!」
「空賊……ですって?」
黒船から響いてきた大声に、ルイズが眉をひそめる。
いきなり大騒ぎになったので、周囲で眠りこけていたメンバーもさすがに目を覚まし始めた。
「ふあぁ……、なによぉ、もお、うるさいわねぇ~……」
「……もう、アルビオンに着いたのかい? 早いね……って、な、何だね、彼らは!?」
「………」
「モグ?」
目覚めたらいきなり何者かの襲撃を受けていたので、状況が把握しきれていないらしい。
「空賊よ、空賊」
「何ぃ!? お、応戦だ!! ここで船が止められてしまっては、アルビオンに行くことが……!!」
泡を食った様子のギーシュが、バラの造花を取り出して空賊に攻撃を行おうとする。
だが、その行為はタバサとキュルケに止められた。
「多勢に無勢」
「それに、下手にこの中で暴れてごらんなさい。船がバラバラになってお空に放り出される……なんて嫌よ、あたしは」
「ぐ、ぐぬぅ……」
「モグ……」
ガックリと気を落とすギーシュの肩を、ヴェルダンデがポンと叩く。それに感じ入ったのか『ああヴェルダンデ、君はなんて主人思いの使い魔なんだ』、とギーシュは自分の使い魔と抱き合い始めた。
「ギーシュは放っとくとして……。どうするの?」
「大砲で狙いを付けられていて、ミス・タバサが言っていたように多勢に無勢の状況、……加えて敵の中にはメイジもいるようだ」
ギャンギャンと叫んでいたワルドのグリフォンの顔に霞のようなものがかかり、直後に意識を失って倒れてしまった―――そんな光景を見て、ユーゼスは水系統の『スリーピング・クラウド』を使われたと当たりをつける。
「そう言えば、ワルドはどうしてるの?」
「あそこで、船長と一緒に空賊と何か話をしてるけど……アレが空賊のボス? なんだかずいぶん若いわね」
ルイズに問われたのでワルドを探してその状況を説明するキュルケだったが、周囲の構成メンバーと比較して、空賊の頭の年齢が妙に若いことに気付いた。
アレで無精ヒゲがなければ、かなり若く……と言うか、下手をすると幼さすら感じてしまいそうに見える。
「って、何でワルド子爵はあんなにホイホイと空賊の話を聞いてるんだ!?」
ハッと我に返ったギーシュが、メンバー中最強の使い手はこんな時に何をしているんだ、と怒り始めた。
それにタバサは平坦な声で答える。
「元々、この船の風石はアルビオンの最短距離ギリギリ分しか積んでいない。それをカバーするために、子爵は風魔法で船を動かしていた。つまり、子爵の魔法は打ち止め」
「―――タバサ。君の冷静さは立派だと思うが、あまりそう淡々と語られると、時たまではあるが微妙にムカつくよ」
「それほどでもない」
「いや、褒めちゃいないんだがね!!?」
そんなやり取りをしていると、そのワルドや船長と話していた空賊の頭がこちらに気付いて顔を向けた。
「おや、貴族の客まで乗せてるのか」
そのまま自分たちの方に近付き、それぞれの顔を見渡して―――
「……ん?」
その視線がタバサに差し掛かったあたりで、停止する。
「はて……」
そのままタバサの顔をジロジロと見る、空賊の頭。どうやら何かを思い出そうとしているらしい。
「?」
見られているタバサの方も、なぜ自分が注目されるのか分からずに首を傾げる。
そうしてそのまま数秒が経過して、空賊の頭はハッと自分の職務を思い出した。
「こ、こりゃあ別嬪ぞろいだ。お前ら、俺の船で皿洗いでもやらねえか?」
その言葉を聞いたルイズは立ち上がり、キッと空賊の頭を睨みつける。
「下がりなさい、下郎」
「驚いた! 下郎ときたもんだ!」
大声で笑う空賊の頭。
それに激昂したギーシュが、またバラの造花を握ってそれを振るおうとするが、ガン、と足元で何かが叩かれた音がしてそちらに視線を移した。
見るとキュルケが杖を振るい、自分のすぐ横の甲板に打ち付けている。
「落ち着きなさい、ギーシュ。早死にしたいの?」
「し、しかし……」
「……あなただけが死ぬのならまだ良いけど、下手に連中を刺激すれば、あたしたちもこの船の船員も皆殺しよ?」
「ぐぬぅぅぅう~~!」
ギリギリと歯ぎしりしながら空賊の頭に視線を注ぐギーシュ。
それを見た空賊の頭は、フンと鼻息を鳴らすと、
「てめえら、コイツらも運びな。身代金がたんまりと貰えるだろうぜ」
ルイズたち6人を連行するように指示したのであった。
杖と剣と鞭を全て取り上げられ、全員揃って船倉に押し込められた。
ギーシュはイライラしながらオロオロしており、
キュルケは取りあえず壁際に座り込んでノンビリし、
タバサは本まで取り上げられたので退屈そうで、
ワルドは興味深そうに船倉の積荷―――酒ダルや食料袋やら火薬ダルやら―――を観察中、
ユーゼスはどうにか脱出が出来ないものか、と右手で壁を叩いて回り、
ルイズはそんなユーゼスにくっついている。
「……アンタ、怪我は大丈夫なの?」
またその質問か、とユーゼスは思った。この主人は、ことあるごとに自分の腕の状態を聞いてくる。
「何もしなくても軽く痛む。身体を動かすと、響いて痛む。右腕を動かそうとすると、酷く痛む」
「じゃあ、動いちゃダメでしょう!」
「駄目と言うなら、今のこの状況こそが駄目だと思うがな」
「……もう、ああ言えばこう言う!」
そんなやり取りを見て、『何やってるんだコイツら』という視線を向ける他のメンバーたち。
緊迫しているのかしていないのか、微妙な空気が流れ始めていたのだが……。
「おい、飯だぞ」
扉が開き、スープの入った皿を持った、太った男と痩せぎすの男が入ってきて、その空気は霧散してしまった。
スープを受け取ろうとキュルケが立ち上がって手を伸ばすが、太った男はそれを右手で制する。
「……何よ、這いつくばって物乞いでもすれば良いっての?」
「そんな趣味はねえよ。こっちの質問に答えてからだ」
ルイズはその言葉を聞いて、ツカツカと空賊たちの近くへと歩き、そしてピシリと言い放つ。
「言ってごらんなさい」
「……捕まってるってのに、随分と居丈高な……。まあいい、お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」
「旅行よ」
「旅行? ……トリステインの貴族が、こんな学生ばっかりで、このご時勢のアルビオンに旅行だって? おいおい、一体何を見物するつもりだい?」
「そんなこと、あなたに―――」
答えることを拒否しようとするルイズだったが、横からユーゼスが口を挟んだ。
「アルビオンで最近、妙な水晶のような物が発見されたと聞いたのでな。研究熱心な御主人様たちは、好奇心を抑えられなくなって直接アルビオンに乗り込もうとしているのだ」
「ちょ、ちょっと、ユーゼス!?」
まさか正直に話すつもりでは……などと思って声を荒げるルイズだったが、使い魔の口から出たのは嘘であった。
……まあ、デタラメも良いところだけど、一応それで話は通るし―――と、ルイズは閉口してしまう。
(平然と嘘をつくなぁ、この男は……)
ラ・ロシェールへの『移動手段』を騙った時といい、よくパッと思いつけるなぁ、などとギーシュは感心していた。
「お前には聞いてねぇよ。しかし、研究ねぇ……」
太った男はいきなり話に割り込んできたユーゼスに睨みを利かせ、その後に何かを考え込む。
その後、女性陣と男性陣に分かれてスープを飲み始める。食器は武器に使われることを警戒してか、金属製ではなく木製のスプーンだった。
その様子を見ていた痩せぎすの男が、楽しそうに言う。
「おめえら、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」
一行は質問には答えず、無言でスープを飲み続けている。……正直、スープだけでは腹に溜まらない。
「おいおい、ダンマリじゃ分からねえよ。でも、そうだったら失礼したな。俺たちはその貴族派に協力しててね」
「……じゃあ、この船はやっぱり反乱軍の軍艦なのね?」
「だから『協力』だって言ってんだろ。あくまで対等な関係だよ。……まあ、おめえらには関係ねえか。
で、どっちだ? 貴族派か? 王党派か? 貴族派だったら、きちんと港まで送ってやるよ」
「……っ、誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか! バカ言っちゃいけないわ! わたしは王党派への使いよ!!」
あちゃあ、とキュルケとギーシュ、ユーゼスですら頭を抱えた。ちなみにタバサはボンヤリとなりゆきを眺めており、ワルドは無表情に自分の婚約者の様子を見ている。
「わたしはトリステインを代表してアルビオンの王室に向かう貴族なんだから、つまりは大使よ! 大使としての扱いを、アンタたちに要求するわ!」
「ルイズ」
「何よ、ツェルプストー!?」
「あなた、馬鹿? いえ、馬鹿なのね。馬鹿正直に自分の目的を、こんな馬鹿みたいな空賊なんかに明かすなんて、極めつけの馬鹿としか言いようがないわ。
……そうだ、今度からあなた、『馬鹿』のルイズと名乗りなさいな」
「誰が馬鹿なのよ!? こんな連中にウソついて頭を下げるくらいなら、死んだ方がマシじゃない!!」
「いや、時と場合を選ぶべきだと思うんだけど……」
ギーシュもおずおずと口を出すが、ルイズに眼光を向けられて黙ってしまう。
「―――お前、正直なのは美徳だが、タダじゃ済まないぞ。……頭に報告してくる、一応見張りを強めておけ」
「おう」
痩せぎすの方の空賊が去り、太った空賊が残って常に見張られるようになってしまった。
「……さすがに今のは無いと思うぞ」
「ああもうユーゼス、アンタまで……。フン、良いわよ、そうやって達観してなさい。最後の最後まで、わたしは諦めないわ。
空に放り出されたとしても、地面に叩きつけられる瞬間まで、ロープが伸びるって信じてるんだから」
「『放り出されてからの努力』よりも、まずは『放り出されないための努力』に力を注ぐべきではないのか?」
「それとこれとは別。嘘なんかつけるもんですか、あんな連中に!」
ユーゼスが苦言を呈するが、ルイズは頑として聞き入れない。どうやら譲れない一線らしい。
溜息を吐くユーゼスだったが、そんなルイズの元にワルドが近付いてきて、その肩を叩く。
「良いぞルイズ、さすがは僕の花嫁だ」
「……………」
微笑みながらそう言うワルドだったが、ルイズの表情は複雑そうである。
(妙なタイミングで声をかけてくるな……)
一方のユーゼスは、そんなワルドの行動と言動に関して、ささいな違和感を覚えたのだった。
「頭がお呼びだ」
痩せぎすの男が戻って来て、6人揃って頭とやらの部屋まで通される。なかなかに立派な部屋だった。
上座に座る頭を取り囲むようにしてガラの悪そうな男たちが陣取っており、こちらを見ながらニヤニヤと笑みを浮かべている。
「頭の前だ。挨拶しろ」
しかし、ルイズは気の強そうな瞳で空賊の頭を睨むばかりである。頭はそんな視線を受けて、ニヤッとこれみよがしに笑った。
「気の強い女は好きだぜ、子供でもな。……さてと、名乗りな」
(……何だ、このわざとらしい口調は?)
いちいち『~~だぜ』だの『~~しな』だの、集団のリーダーにしては、変な違和感を感じる喋り方だ―――とユーゼスは思った。
まあ、アルビオンの訛りであるとか、荒くれ者は総じてこのような口調だとか言われてしまえば、それまでなのだが。
「大使としての扱いを要求するわ。……そうじゃなかったら、一言だってアンタたちなんかに口を聞くもんですか」
「ふむ……。王党派と言ったな? 何しに行くんだ……って、聞いても答えてくれるようにも見えねえか。
なら、貴族派につく気は―――」
「あるワケないでしょう! 死んでも嫌よ!!」
ピシャリと言い放つルイズ。
……よく見ると、その身体は小さく震えていた。
(この年で、よくやるものだ……)
コンバットスーツで武装した百戦錬磨の宇宙刑事とて、犯罪組織の拠点に乗り込むとなれば命がけだと言うのに……と、ユーゼスは召喚されて初めてこの少女に対して感心の念を抱く。
そんなルイズの様子を見ていた空賊の頭は、
「ふ―――はは、あははははははははっ!!」
いきなり大声で笑い始めた。
「「「「「「?」」」」」」
呆気に取られるルイズたち。
「はは……いや、失礼。まったく、トリステインの貴族たちは気ばかり強くって、どうしようもないな。
まあ、どこぞの国の恥知らず共より、何百倍もマシだがね」
そうして、また大声で笑いながら頭は立ち上がる。
続いて黒髪を『取り外して』(髪はカツラであった)地毛の金髪をあらわにし、同じくヒゲも取り外す。更に眼帯も取り外し、精悍な顔立ちの青年が現れた。
「失礼した。貴族に名乗らせるなら、まずはこちらから名乗らなくてはな」
ニヤついた笑いは完全に消え去っている。それは周囲の空賊たちも同様であり、だらけた空気は一変して直立していた。
「私は、アルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官―――艦隊と言っても、もはやこの『イーグル』号しかないが―――まあ、その肩書きよりは、こちらの方が通りが良いだろう」
青年は、その若さに似合わぬ威厳を漂わせながら名乗りを上げる。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
―――こればかりは6人全員、それぞれリアクションは違えど驚くしかなかった。
#navi(ラスボスだった使い魔)
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