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「ゼロの黒魔道士-15」(2008/12/14 (日) 11:12:19) の最新版変更点
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「いやいやいや!まさかミス・ロングビルがフーケとはのぅ!残念なことじゃわい……」
……オスマン先生が悲しい顔をする
そうだよね……信じていた人が、実は悪い人だなんて、悲しいことだと思う……
「ところで、彼女は学院長が自らお雇いになったのですよね?どういった経緯ですの?」
「いや、それがそのー……酒場で……ケホンケホン」
「酒場?あの、オールド・オスマン?どういうことですか?」
……あ、仲間を見つけるのはやっぱり酒場が一番って聞いた気がするから、そういうことかなぁ……?
「い、いや、その、ちょいと飲んでおったら、目の前にそれはそれは見事な尻があったもんでな?」
……あれ?
「オールド・オスマン、まさか……」
「触っても笑ってくれたんじゃもん!折角だから、もっと触る機会が欲しかったんじゃもん!丁度秘書もおらんかったし!」
……えーとー……つまりこれって……
「ダメな大人の見本」
……タバサおねえちゃん、多分、大正解だよ、それ……
―ゼロの黒魔道士―
~第十五幕~ 黒とゼロのワルツ
……眠ったフーケをそのままロープで縛って、シルフィードで帰ってきたボクたち……
(馬車は後で届けてもらうよう近くの農村の人に頼んだんだ……
速いのはいいんだけど……ボクは空を飛ぶなら馬車でゆっくりでいいんだけどなぁ……)
学院の衛兵さんたちに、フーケを引き渡して(フーケ、なんか悔しそうだった……)、
そのまま学院長室へ報告に行ったんだ……
「ま、まぁアレじゃよ!お、女の色気は怖いもんじゃよっ!な、なぁ、コルベール君!」
「なんでそこで私にふるんですか!?……あ、え、えぇそのいえ否定はしませんが……」
……えーと、これって……
「ダメな大人の見本市」
……タバサおねえちゃん、クリティカル率高いなぁ……
「あーえー、オホン!ともかく、諸君達の活躍は実に天晴れじゃった!君達3人には、王宮へシュバリエの爵位申請を出しておくからの!あぁ、タバサ君は既にもっとったから精霊勲章じゃな!」
……フーケを捕まえるって、そんなにすごいことだったんだ……今さらながら、よく無事だったなぁってホッとする……
「あ、あの、3人って…――ビビに、あの、私の使い魔には?」
……ルイズおねえちゃんが聞く……うーん、ボクは、別にそういうのは……
「すまんのう、彼は使い魔じゃしのぅ……」
「そんな!今回、ビビは――」
「あ、あの、ルイズおねえちゃん?ボク、ルイズおねえちゃんが無事だったから、それでいいんだ……シュバリエ、おめでとう!」
……うん、ホントに、無事でよかった……色々、危なかったけど……
「ふむ、若いながら謙虚で何より、じゃな!さてと、今晩はフリッグの舞踏会じゃ!フーケの件も終わったことじゃし、予定通り行うぞい!」
「そうでしたわ! すっかり忘れておりました!」
……キュルケおねえちゃんがすっごくうれしそう……
そっか、貴族の人って、やっぱり踊るんだ……
「今夜の主役は間違いなく君達じゃ!用意をしてきたまえ、せいぜい着飾るのじゃぞ?」
……ルイズおねえちゃんたちは一礼をしていそいそと学院長室を出ていく……
「ビビ?何ボーっとしてんの?」
「あ、ゴメン、ルイズおねえちゃん……ちょっと、オスマン先生に聞きたいことがあるから……」
……そう、今日は聞きたいことがいっぱいある……
「そう?あまり迷惑かけないようにね!お行儀よくね!」
「う、うん!」
……ルイズおねえちゃん達が出て行って、オスマン先生がゆっくり椅子に座りなおす……
「さてと……聞きたいこと?とは何かね、ビビ君」
「え、えっと、その、ま、まずはコレのことなんですけど……」
……フーケから取り返した『破壊の肉球』……
「ふむ?我が学院の秘宝じゃが、どうかしたかの?」
「あの、こ、コレ、ボクたちの旅したガイアでは『ねこの手ラケット』って呼ばれていた伝説の武器なんですけど……」
なんで、ここにあるのか、それが不思議だったんだ……
「なんと!!君の世界の!?ほぅ!とすると彼らは……いやはや、偶然とはおそろしいもんじゃ……」
「オールド・オスマン?どういうことなんですか?」
「ふむ、ありゃもう30年ほど前にさかのぼるかのぅ……王宮からの頼まれごとでな、ワイバーン討伐に繰り出したんじゃ」
……30年前……オスマン先生、そんな昔から王様に何か頼まれるぐらい偉い人だったんだ……
「それでの?ちょいと霧が出てきよったから休んどったら、まさに狙うべきワイバーンが上空に現れおってな!いやはや、あれほどの恐怖そうそうないわい!」
……それは、怖そうだなぁ……
「で、の?そんときちょーいと……まぁ、冷えとったからの?シモが近くての……」
「まさか、用を足しているときに襲われたというのですか!?」
……うわ……ボクなら絶対パニックになりそうだなぁ……
「いやはや、このときつかんどったのは杖ではなくまさにワシの杖!これがこのときはまだまだ現役まっさかりじゃったから……あの頃は良かったのぅ……」
「えーとー……それで、『ねこの手ラケット』の話はどこで出てくるんですか……?」
……オスマン先生、話が長くなりやすいのかなぁ……?
「お!?おぉ、そうじゃったそうじゃった!でまぁ、ワシのピンチに、その『破壊の肉球』を持った旅人がワシを助けてくれたんじゃ!」
「旅人……ですか?」
……旅人……?
「うむ、これが滅法強くての!ワシがモノをしまう前にあっさりと倒しよった!2人づれでの――名を確かエプサンとコリーヌ、じゃったっけ?」
「……イプセンとコリン……?」
「お!それじゃそれじゃ!イプセンとコリン!はて、知り合いかの?ビビ君」
……その名前は、お芝居で有名だから知っていた……
「イプセンとコリン……イプセンは実在の冒険家で、友人のコリンとの冒険の多くをお芝居の台本にした人です……」
お話の中に登場する『全てが逆様になったお城』には、ボクたち自身も訪れたっけ……
でも、なんでその2人が……?
「き、君の世界の!?なんと、するとこの『破壊の肉球』は異世界の!!これは研究しがいが!!」
……コルベール先生がキラキラと輝きだす……
「……そ、その後2人はどうなったんですか……?」
「うむ、彼らが言うには、じゃ、『霧の中を旅していたところを迷ってしまった。ク族が住むという沼がこの辺だと思ったのですが、御存じでは……?』ちゅうての?」
……と、いうことは……イプセンとコリンはリンドブルムの南の方を旅してて迷ってハルケギニアに来ちゃったのかなぁ…?
「ワシが知らん、というたら、『知らないならば仕方ありません、が、迷うのもまた旅の醍醐味!私たちは旅を続けますが、ここらはモンスターが多いようだから、この武器をお持ちください、御老体』ちゅうてな?」
「え……じゃ、イプセンとコリンはその後丸腰で……」
「なんのなんの、その2人、豪儀にも『我らの旅路に邪魔するものなし!行くぞコリン!』というと『あぁ、俺達の旅はまだ始まったばかりだぜ!』ちゅうて別れてなぁ……懐かしいのぅ……」
……うーん、そんな話があったんだ……でも、イプセンって、かなり熱苦しかったんだなぁ……
……その後は……きっとどうにかしてガイアに戻ったのかなぁ……?そうじゃなきゃお芝居の台本、書けないし……
「いやはや、しかし、どういう仕掛けになっているのやら……」
コルベール先生はしきりに『ねこの手ラケット』を調べている……確かに、どういう仕組みになっているのかなぁ……?
……それに……
「うむ、縁とは不思議なもんじゃて!『破壊の肉球』について知っておるのはそのぐらいじゃが、まだ聞きたいことでも?」
……なんで『ねこ』なのかなぁ?……じゃなくて!
「あ、あのその……デルフを……あ、いえ、この剣をにぎったとき、左手の模様が輝いて……」
……ちなみに、デルフは帰ってくるときに鞘にしまってもらった……キュルケおねえちゃんに……
自分で鞘に出し入れできるようにならないとなぁ……
「!!!ほ、本当ですか、ビビ君っ!!!で、で?で?で!?どうなりましたかっ!?」
……コルベール先生、近くによると、本当に眩しい……
「え、えと……その、体が軽くなって、いつもできないような動きが……」
「な、なんと!?お、オールド・オスマン!!これはやはり……」
「ふむぅ……そうじゃの――ビビ君、それは『ガンダールヴ』のルーンじゃよ」
「が、『ガンダールヴ』?」
何かの……名前なのかなぁ……?
「始祖の使い魔、『神の左手』とも言われておる……あらゆる武器を使いこなし、勇猛果敢にして、主を守る伝説の存在じゃよ」
「そのルーンがビビ君にっ!いやこれはもう……あぁ、研究したい!!」
……な、なんかすっごいことになっちゃったみたいだ……
「あの、でも……確かに、この……えーと、『ガンダールヴ』のルーンですか……?がキラキラしたとき、こう……体が軽くなったり、力が強くなったりはしたんですけど……」
「けど?何かあったのかね?」
「……魔法を使うことを忘れちゃったんです……えーと、魔法そのものを忘れたってワケじゃなくて……こう……頭がカーッとなったって言うか……」
「ほう…――おもしろいのぅ」
オスマン先生が髭をしごきながら考え込む……
コルベール先生はキラキラする頭をポリポリしながら、ちょっと考えて、何かを思いついたみたいに顔をあげた……
「――…仮説、ですが1つ」
「ほう?言うてみぃ、コルベール君」
「『ガンダールヴ』、は伝承によると『あらゆる武器』を使いこなすとありますが、『魔法を使った』という記録は聞かれません、となると…――」
「――…『ガンダールヴ』のルーンは武器を自在に操らせるが、それに集中させてしまう。それにより他の行動が抑制されてしまう、ということかね?仮説の域を出んのう……」
……あれ?そういえばこの効果って……
「……『バーサク』……?」
「何じゃ?ビビ君」
「あ、えぇと、『バーサク』っていうのは……」
『バーサク』……武器攻撃の力が上がる代わりに、たたかう、しかできなくなる状態異常……
……ボクみたいな援護役がなっちゃうと、大変だからって、用心してたっけ……
「ふむ?じゃから『バーサク(狂戦士)』……味のある名付け方じゃのう?しかし、正確に『バーサク』と同じ状態、というワケじゃないんじゃろ?」
「う、うんそうです……こう……『バーサク』のとき以上に力は出るんですけど……意識はもっとはっきりしてるって言うか……ただ、ちょっと頭がカッと……なっちゃって……」
……ルイズおねえちゃんを、守ろうとして……逆に助けられることになっちゃった……
「オールド・オスマン、つまりこれは……」
「ふむふむ、いやぁ、なかなかに奥が深いようじゃの、『ガンダールヴ』のルーンは!ビビ君、また何か分かれば教えてくれんかの?」
「あ、は、はい!」
「さてさて、ボヤボヤしとってもしょうがあるまい!おぬしも主役じゃて、舞踏会に備えんと」
「え?ぼ、ボクも舞踏会に?」
……いいの、かなぁ……?
「いつまでもここにおっちゃ、ミス・ヴァリエールがワシを恨みよるわ!さっさと行っておあげ!」
「は、はい!あ、あのその……」
「ビビ君、何かあったらいつでも教えてくれたまえ!!しかし『バーサク』とは……ブツブツ……」
「はいっ!」
……『ダメな大人の見本市』だけど……いい先生たちで、よかった!
「で?よぉ、相棒……中入んなくていいのか?俺様主役なのに……」
「う~ん……ちょっと、中はキラキラしすぎちゃってるから……」
……舞踏会は、お芝居の中よりももっともっとキラキラしてて、なんか入りにくかった……
だから、ボクはデルフをはなし相手に、こうしてバルコニーでのんびりおしゃべりすることにしたんだ……
「大丈夫だって!ほれ、『フレア剣』!あれやりゃ俺様だって貴族の坊ちゃん嬢ちゃん以上にギラギラしてみせるぜっ!!」
「……あれ?デルフ、嫌がってなかったっけ?……『フレア剣』……」
「いやー、案外あれが慣れると病みつきになりそうでなぁ、あの感覚が……」
……そういうものなのかなぁ……?
「あら、ビビちゃん!そんな隅っこで剣とおしゃべり?」
「あ、キュルケおねえちゃん!……すっごいね……」
……キュルケおねえちゃん、いつもの制服よりも……ずっとずっと、迫力がある……
「ふふ~ん♪お陰さまでね、寄ってくる虫相手が大変よ~♪」
……虫?……出るのかなぁ……蚊とか……
「……あ、そういえば、タバサおねえちゃんは?」
「タバサなら、あそこよ、ホラ、テーブルのところ……」
「……すっごいね……」
キュルケおねえちゃんが指さした先には……お皿の山の陰からちょこんと覗く青い髪……
……タバサおねえちゃんなら、クイナぐらい色々食べちゃいそうだなぁ……
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~り~!」
……一際大きな歓声が、入口の方からさざ波みたいに伝わってくる
「あら、着飾ったわねぇ!色気は私に劣るけど」
「おぅおぅ!馬子にも衣装だな、こりゃ!」
「……すっごいや……」
……ルイズおねえちゃんは、まるで、お姫様みたいだった……
真っ白なドレスに、うっすらとした化粧……何人もの男の子たちが声をかける……『モテモテ』だなぁ……
「あらあら?キョロキョロしちゃって……なるほどね、じゃ、ビビちゃん、また後でね~♪」
「あ、うん、またね……」
キュルケおねえちゃんはちょっと意味ありげな笑顔を浮かべて男の子たちの輪の中に戻っていった……
「あー!こんなとこにいた!!ビビ!探したわよ!!」
「あ、う、うん、ゴメンなさい……」
……ちょっとしてから、バルコニーにルイズおねえちゃんがやってくる……
室内からの灯りで、シルエットがよりくっきりして……うん、きれいだなぁって思うんだ……
「……ルイズおねえちゃんは、踊らないの……?」
「ん?ん~……釣り合う殿方がいなくてね~……」
「ふ~ん……」
ダンスって、やっぱり釣り合うとかあるんだな……うーん、ボクには無理そう……
「そ、それに……そう!つ、使い魔が1人で突っ立ってるのは、主としてどうかと思うわけよ!!」
「え?え?え?」
……ルイズおねえちゃんがビシッとこちらを指さす
「使い魔として……そう!ダンスの1つも踊れないとしめしがつかないでしょ!ヴァリエール家の使い魔としては!!」
「え?ど、どどど、どういうこと?」
……まさか……
「はぁ……分からないわけ?……うーん、しょうがないわねぇ……」
スッと、フワッと、ルイズおねえちゃんがその手をボクに差し出して……
「踊ってくださらない?ジェントルマン」
……ボクと、だ、ダンス!?
「え、え、えぇぇ!?ぼ、ボクと!?いや、で、でもでもでも、ぼ、ボク踊ったことないし……」
「いいのよっ!ホラ!私の手をとって、さっさと中に入る!」
……結局ズルズルと引きずられるボク……
「う、うわぁぁぁぁ~~……」
「相棒~、がんばれや~!カカカカ!青春だねぇ~!!」
「はい、そこで右、左、ターン……うん、はじめてにしてはなかなかじゃない!」
「う、うーん……そ、そうかなぁ……」
……どっちかっていうと、振り回されてるだけな気もする……
「――…あのね、ビビ」
「?どうしたの、ルイズおねえちゃん?」
くるりとターンをしながらルイズおねえちゃんがポツリとしゃべりはじめる
「――…私、もっと強くなるから、あんたに負けないくらい、強くなるから!」
「……うん!応援するよ、ルイズおねえちゃん!」
……それは、きっとルイズおねえちゃんの『できること』だし、『やりたいこと』…
「あんたよりずっと強くなって、あんたの『フレア』や『コメット』ごとぶっとばしちゃうんだから!」
「……それは、どうかと思うなぁ……」
……ちょっと、ボクは苦笑する
……ボクも、もっともっと強くなりたい、ルイズおねえちゃんを、もう危ない目に合わせたくない……
……色んなことがあった日の夜は、2つの月がとっても綺麗で、くるりくるりと過ぎていった……
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#navi(ゼロの黒魔道士)
「いやいやいや!まさかミス・ロングビルがフーケとはのぅ!残念なことじゃわい……」
……オスマン先生が悲しい顔をする
そうだよね……信じていた人が、実は悪い人だなんて、悲しいことだと思う……
「ところで、彼女は学院長が自らお雇いになったのですよね?どういった経緯ですの?」
「いや、それがそのー……酒場で……ケホンケホン」
「酒場?あの、オールド・オスマン?どういうことですか?」
……あ、仲間を見つけるのはやっぱり酒場が一番って聞いた気がするから、そういうことかなぁ……?
「い、いや、その、ちょいと飲んでおったら、目の前にそれはそれは見事な尻があったもんでな?」
……あれ?
「オールド・オスマン、まさか……」
「触っても笑ってくれたんじゃもん!折角だから、もっと触る機会が欲しかったんじゃもん!丁度秘書もおらんかったし!」
……えーとー……つまりこれって……
「ダメな大人の見本」
……タバサおねえちゃん、多分、大正解だよ、それ……
―ゼロの黒魔道士―
~第十五幕~ 黒とゼロのワルツ
……眠ったフーケをそのままロープで縛って、シルフィードで帰ってきたボクたち……
(馬車は後で届けてもらうよう近くの農村の人に頼んだんだ……
速いのはいいんだけど……ボクは空を飛ぶなら馬車でゆっくりでいいんだけどなぁ……)
学院の衛兵さんたちに、フーケを引き渡して(フーケ、なんか悔しそうだった……)、
そのまま学院長室へ報告に行ったんだ……
「ま、まぁアレじゃよ!お、女の色気は怖いもんじゃよっ!な、なぁ、コルベール君!」
「なんでそこで私にふるんですか!?……あ、え、えぇそのいえ否定はしませんが……」
……えーと、これって……
「ダメな大人の見本市」
……タバサおねえちゃん、クリティカル率高いなぁ……
「あーえー、オホン!ともかく、諸君達の活躍は実に天晴れじゃった!君達3人には、王宮へシュバリエの爵位申請を出しておくからの!あぁ、タバサ君は既にもっとったから精霊勲章じゃな!」
……フーケを捕まえるって、そんなにすごいことだったんだ……今さらながら、よく無事だったなぁってホッとする……
「あ、あの、3人って…――ビビに、あの、私の使い魔には?」
……ルイズおねえちゃんが聞く……うーん、ボクは、別にそういうのは……
「すまんのう、彼は使い魔じゃしのぅ……」
「そんな!今回、ビビは――」
「あ、あの、ルイズおねえちゃん?ボク、ルイズおねえちゃんが無事だったから、それでいいんだ……シュバリエ、おめでとう!」
……うん、ホントに、無事でよかった……色々、危なかったけど……
「ふむ、若いながら謙虚で何より、じゃな!さてと、今晩はフリッグの舞踏会じゃ!フーケの件も終わったことじゃし、予定通り行うぞい!」
「そうでしたわ! すっかり忘れておりました!」
……キュルケおねえちゃんがすっごくうれしそう……
そっか、貴族の人って、やっぱり踊るんだ……
「今夜の主役は間違いなく君達じゃ!用意をしてきたまえ、せいぜい着飾るのじゃぞ?」
……ルイズおねえちゃんたちは一礼をしていそいそと学院長室を出ていく……
「ビビ?何ボーっとしてんの?」
「あ、ゴメン、ルイズおねえちゃん……ちょっと、オスマン先生に聞きたいことがあるから……」
……そう、今日は聞きたいことがいっぱいある……
「そう?あまり迷惑かけないようにね!お行儀よくね!」
「う、うん!」
……ルイズおねえちゃん達が出て行って、オスマン先生がゆっくり椅子に座りなおす……
「さてと……聞きたいこと?とは何かね、ビビ君」
「え、えっと、その、ま、まずはコレのことなんですけど……」
……フーケから取り返した『破壊の肉球』……
「ふむ?我が学院の秘宝じゃが、どうかしたかの?」
「あの、こ、コレ、ボクたちの旅したガイアでは『ねこの手ラケット』って呼ばれていた伝説の武器なんですけど……」
なんで、ここにあるのか、それが不思議だったんだ……
「なんと!!君の世界の!?ほぅ!とすると彼らは……いやはや、偶然とはおそろしいもんじゃ……」
「オールド・オスマン?どういうことなんですか?」
「ふむ、ありゃもう30年ほど前にさかのぼるかのぅ……王宮からの頼まれごとでな、ワイバーン討伐に繰り出したんじゃ」
……30年前……オスマン先生、そんな昔から王様に何か頼まれるぐらい偉い人だったんだ……
「それでの?ちょいと霧が出てきよったから休んどったら、まさに狙うべきワイバーンが上空に現れおってな!いやはや、あれほどの恐怖そうそうないわい!」
……それは、怖そうだなぁ……
「で、の?そんときちょーいと……まぁ、冷えとったからの?シモが近くての……」
「まさか、用を足しているときに襲われたというのですか!?」
……うわ……ボクなら絶対パニックになりそうだなぁ……
「いやはや、このときつかんどったのは杖ではなくまさにワシの杖!これがこのときはまだまだ現役まっさかりじゃったから……あの頃は良かったのぅ……」
「えーとー……それで、『ねこの手ラケット』の話はどこで出てくるんですか……?」
……オスマン先生、話が長くなりやすいのかなぁ……?
「お!?おぉ、そうじゃったそうじゃった!でまぁ、ワシのピンチに、その『破壊の肉球』を持った旅人がワシを助けてくれたんじゃ!」
「旅人……ですか?」
……旅人……?
「うむ、これが滅法強くての!ワシがモノをしまう前にあっさりと倒しよった!2人づれでの――名を確かエプサンとコリーヌ、じゃったっけ?」
「……イプセンとコリン……?」
「お!それじゃそれじゃ!イプセンとコリン!はて、知り合いかの?ビビ君」
……その名前は、お芝居で有名だから知っていた……
「イプセンとコリン……イプセンは実在の冒険家で、友人のコリンとの冒険の多くをお芝居の台本にした人です……」
お話の中に登場する『全てが逆様になったお城』には、ボクたち自身も訪れたっけ……
でも、なんでその2人が……?
「き、君の世界の!?なんと、するとこの『破壊の肉球』は異世界の!!これは研究しがいが!!」
……コルベール先生がキラキラと輝きだす……
「……そ、その後2人はどうなったんですか……?」
「うむ、彼らが言うには、じゃ、『霧の中を旅していたところを迷ってしまった。ク族が住むという沼がこの辺だと思ったのですが、御存じでは……?』ちゅうての?」
……と、いうことは……イプセンとコリンはリンドブルムの南の方を旅してて迷ってハルケギニアに来ちゃったのかなぁ…?
「ワシが知らん、というたら、『知らないならば仕方ありません、が、迷うのもまた旅の醍醐味!私たちは旅を続けますが、ここらはモンスターが多いようだから、この武器をお持ちください、御老体』ちゅうてな?」
「え……じゃ、イプセンとコリンはその後丸腰で……」
「なんのなんの、その2人、豪儀にも『我らの旅路に邪魔するものなし!行くぞコリン!』というと『あぁ、俺達の旅はまだ始まったばかりだぜ!』ちゅうて別れてなぁ……懐かしいのぅ……」
……うーん、そんな話があったんだ……でも、イプセンって、かなり熱苦しかったんだなぁ……
……その後は……きっとどうにかしてガイアに戻ったのかなぁ……?そうじゃなきゃお芝居の台本、書けないし……
「いやはや、しかし、どういう仕掛けになっているのやら……」
コルベール先生はしきりに『ねこの手ラケット』を調べている……確かに、どういう仕組みになっているのかなぁ……?
……それに……
「うむ、縁とは不思議なもんじゃて!『破壊の肉球』について知っておるのはそのぐらいじゃが、まだ聞きたいことでも?」
……なんで『ねこ』なのかなぁ?……じゃなくて!
「あ、あのその……デルフを……あ、いえ、この剣をにぎったとき、左手の模様が輝いて……」
……ちなみに、デルフは帰ってくるときに鞘にしまってもらった……キュルケおねえちゃんに……
自分で鞘に出し入れできるようにならないとなぁ……
「!!!ほ、本当ですか、ビビ君っ!!!で、で?で?で!?どうなりましたかっ!?」
……コルベール先生、近くによると、本当に眩しい……
「え、えと……その、体が軽くなって、いつもできないような動きが……」
「な、なんと!?お、オールド・オスマン!!これはやはり……」
「ふむぅ……そうじゃの――ビビ君、それは『ガンダールヴ』のルーンじゃよ」
「が、『ガンダールヴ』?」
何かの……名前なのかなぁ……?
「始祖の使い魔、『神の左手』とも言われておる……あらゆる武器を使いこなし、勇猛果敢にして、主を守る伝説の存在じゃよ」
「そのルーンがビビ君にっ!いやこれはもう……あぁ、研究したい!!」
……な、なんかすっごいことになっちゃったみたいだ……
「あの、でも……確かに、この……えーと、『ガンダールヴ』のルーンですか……?がキラキラしたとき、こう……体が軽くなったり、力が強くなったりはしたんですけど……」
「けど?何かあったのかね?」
「……魔法を使うことを忘れちゃったんです……えーと、魔法そのものを忘れたってワケじゃなくて……こう……頭がカーッとなったって言うか……」
「ほう…――おもしろいのぅ」
オスマン先生が髭をしごきながら考え込む……
コルベール先生はキラキラする頭をポリポリしながら、ちょっと考えて、何かを思いついたみたいに顔をあげた……
「――…仮説、ですが1つ」
「ほう?言うてみぃ、コルベール君」
「『ガンダールヴ』、は伝承によると『あらゆる武器』を使いこなすとありますが、『魔法を使った』という記録は聞かれません、となると…――」
「――…『ガンダールヴ』のルーンは武器を自在に操らせるが、それに集中させてしまう。それにより他の行動が抑制されてしまう、ということかね?仮説の域を出んのう……」
……あれ?そういえばこの効果って……
「……『バーサク』……?」
「何じゃ?ビビ君」
「あ、えぇと、『バーサク』っていうのは……」
『バーサク』……武器攻撃の力が上がる代わりに、たたかう、しかできなくなる状態異常……
……ボクみたいな援護役がなっちゃうと、大変だからって、用心してたっけ……
「ふむ?じゃから『バーサク(狂戦士)』……味のある名付け方じゃのう?しかし、正確に『バーサク』と同じ状態、というワケじゃないんじゃろ?」
「う、うんそうです……こう……『バーサク』のとき以上に力は出るんですけど……意識はもっとはっきりしてるって言うか……ただ、ちょっと頭がカッと……なっちゃって……」
……ルイズおねえちゃんを、守ろうとして……逆に助けられることになっちゃった……
「オールド・オスマン、つまりこれは……」
「ふむふむ、いやぁ、なかなかに奥が深いようじゃの、『ガンダールヴ』のルーンは!ビビ君、また何か分かれば教えてくれんかの?」
「あ、は、はい!」
「さてさて、ボヤボヤしとってもしょうがあるまい!おぬしも主役じゃて、舞踏会に備えんと」
「え?ぼ、ボクも舞踏会に?」
……いいの、かなぁ……?
「いつまでもここにおっちゃ、ミス・ヴァリエールがワシを恨みよるわ!さっさと行っておあげ!」
「は、はい!あ、あのその……」
「ビビ君、何かあったらいつでも教えてくれたまえ!!しかし『バーサク』とは……ブツブツ……」
「はいっ!」
……『ダメな大人の見本市』だけど……いい先生たちで、よかった!
「で?よぉ、相棒……中入んなくていいのか?俺様主役なのに……」
「う~ん……ちょっと、中はキラキラしすぎちゃってるから……」
……舞踏会は、お芝居の中よりももっともっとキラキラしてて、なんか入りにくかった……
だから、ボクはデルフをはなし相手に、こうしてバルコニーでのんびりおしゃべりすることにしたんだ……
「大丈夫だって!ほれ、『フレア剣』!あれやりゃ俺様だって貴族の坊ちゃん嬢ちゃん以上にギラギラしてみせるぜっ!!」
「……あれ?デルフ、嫌がってなかったっけ?……『フレア剣』……」
「いやー、案外あれが慣れると病みつきになりそうでなぁ、あの感覚が……」
……そういうものなのかなぁ……?
「あら、ビビちゃん!そんな隅っこで剣とおしゃべり?」
「あ、キュルケおねえちゃん!……すっごいね……」
……キュルケおねえちゃん、いつもの制服よりも……ずっとずっと、迫力がある……
「ふふ~ん♪お陰さまでね、寄ってくる虫相手が大変よ~♪」
……虫?……出るのかなぁ……蚊とか……
「……あ、そういえば、タバサおねえちゃんは?」
「タバサなら、あそこよ、ホラ、テーブルのところ……」
「……すっごいね……」
キュルケおねえちゃんが指さした先には……お皿の山の陰からちょこんと覗く青い髪……
……タバサおねえちゃんなら、クイナぐらい色々食べちゃいそうだなぁ……
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~り~!」
……一際大きな歓声が、入口の方からさざ波みたいに伝わってくる
「あら、着飾ったわねぇ!色気は私に劣るけど」
「おぅおぅ!馬子にも衣装だな、こりゃ!」
「……すっごいや……」
……ルイズおねえちゃんは、まるで、お姫様みたいだった……
真っ白なドレスに、うっすらとした化粧……何人もの男の子たちが声をかける……『モテモテ』だなぁ……
「あらあら?キョロキョロしちゃって……なるほどね、じゃ、ビビちゃん、また後でね~♪」
「あ、うん、またね……」
キュルケおねえちゃんはちょっと意味ありげな笑顔を浮かべて男の子たちの輪の中に戻っていった……
「あー!こんなとこにいた!!ビビ!探したわよ!!」
「あ、う、うん、ゴメンなさい……」
……ちょっとしてから、バルコニーにルイズおねえちゃんがやってくる……
室内からの灯りで、シルエットがよりくっきりして……うん、きれいだなぁって思うんだ……
「……ルイズおねえちゃんは、踊らないの……?」
「ん?ん~……釣り合う殿方がいなくてね~……」
「ふ~ん……」
ダンスって、やっぱり釣り合うとかあるんだな……うーん、ボクには無理そう……
「そ、それに……そう!つ、使い魔が1人で突っ立ってるのは、主としてどうかと思うわけよ!!」
「え?え?え?」
……ルイズおねえちゃんがビシッとこちらを指さす
「使い魔として……そう!ダンスの1つも踊れないとしめしがつかないでしょ!ヴァリエール家の使い魔としては!!」
「え?ど、どどど、どういうこと?」
……まさか……
「はぁ……分からないわけ?……うーん、しょうがないわねぇ……」
スッと、フワッと、ルイズおねえちゃんがその手をボクに差し出して……
「踊ってくださらない?ジェントルマン」
……ボクと、だ、ダンス!?
「え、え、えぇぇ!?ぼ、ボクと!?いや、で、でもでもでも、ぼ、ボク踊ったことないし……」
「いいのよっ!ホラ!私の手をとって、さっさと中に入る!」
……結局ズルズルと引きずられるボク……
「う、うわぁぁぁぁ~~……」
「相棒~、がんばれや~!カカカカ!青春だねぇ~!!」
「はい、そこで右、左、ターン……うん、はじめてにしてはなかなかじゃない!」
「う、うーん……そ、そうかなぁ……」
……どっちかっていうと、振り回されてるだけな気もする……
「――…あのね、ビビ」
「?どうしたの、ルイズおねえちゃん?」
くるりとターンをしながらルイズおねえちゃんがポツリとしゃべりはじめる
「――…私、もっと強くなるから、あんたに負けないくらい、強くなるから!」
「……うん!応援するよ、ルイズおねえちゃん!」
……それは、きっとルイズおねえちゃんの『できること』だし、『やりたいこと』…
「あんたよりずっと強くなって、あんたの『フレア』や『コメット』ごとぶっとばしちゃうんだから!」
「……それは、どうかと思うなぁ……」
……ちょっと、ボクは苦笑する
……ボクも、もっともっと強くなりたい、ルイズおねえちゃんを、もう危ない目に合わせたくない……
……色んなことがあった日の夜は、2つの月がとっても綺麗で、くるりくるりと過ぎていった……
#navi(ゼロの黒魔道士)
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